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第64話 新天地へ

新天地へ向けて逝くと決めてからの行動は素早かった 魔界から金龍を呼び出し協力を仰ぐと 金龍は雅龍や黄龍達戦力を呼び出して引っ越しの手伝いに当たってくれた 力自慢の豪傑達に桜の木を移動させ、新天地の庭へと運び込む 人の世と魔界の境界線に、土御門孔明達が棲む場所は用意してあった 建物は既に立って小さな村も出来ていた 元々は魔界の管理下にある土地として、魔族の者が常駐して管理していた土地だった 平屋建ての学校が建ち、小さいが田畑が作られ、川が流れ、こじんまりとした長閑な土地だった 白馬の地から持って来させた桜の木は庄屋の様な丈夫な建物のある庭へと埋めた そこが土御門孔明の棲む屋敷となるのだ 孔明が棲む屋敷を中心に、平屋の家が何十件もまばらに建っていた 康太は桜の木の下に立つと 「この地が師匠が棲む地となる」と説明した 孔明は「この地‥‥総てが‥‥ですか?」と康太に問い掛けた 「おう!この地総てが師匠達の棲む土地となる! 子供は師匠と共に棲めば良いが、大きい子は一人立ちさせて住まわせると良い! この地から魔界へ逝く事が出来る 魔界からこの地に来る事も可能だ だがこの地から‥‥人の世には出る事は出来ない‥」 康太は閉じ込めてしまう環境に置かねばならない事に‥師匠を見た 孔明は「気にしなくてよいのです陵王、我等は既に人の世を捨てた存在なのですから‥」と気に止めるのを止めた 康太は「金龍、来てくれ!」と金龍を呼んだ すると金龍が康太の傍にやって来た 「この男は龍族の長、金龍だ! この地が不自由なく過ごせる為の相談役として協力してくれるだろう!」 と、康太は金龍を紹介した 金龍は孔明に手を差し出した 孔明は金龍の手を取り握手をした 「龍族の長、金龍と申す! 以後お見知り置きを!」 「土御門孔明と申します 此方こそ宜しくお願いします!」 「この地を護る存在であろうと想う それと同時にこの地で生きていける様にサポートして逝くつもりだ! この地には少ないが田畑がある だがそれだけでは食べて逝くのは少し難しかろう なれば、この地の特産を作り魔界へ売りに逝く そして糧を得て生活を豊かにする そうして子は育ち大人になり家族を持つ! 貴殿達は魔界を知るが良い 魔界は貴方達の敵ではない 繋がり合うのに種族は関係はないからな! 勿論‥‥中には心ない輩もいないとは言いきれはせぬが‥‥ それでも共に暮らして行こうではないか」 孔明は空を見上げて 「それは心強い‥‥総てを整えて‥‥我が弟子は動いたのですね」 と呟いた 「はい。数年前から炎帝は魔界の改革に着手された 魔界も‥‥狂っておった時代があるのじゃ‥‥“死”が射程圏内でない者達は死を忘れてしまう そして死を忘れた者達は己の身分の確立に乗り出した それが貴族制度なる血を尊ぶ者達の行動だった 人の世でも正統な“血”は尊ばれる だがそれは魔界にでもある事だった 天界にだってある事だった‥‥‥ 貴族制度をぶち壊し魔界の在るべき姿を創ったのは炎帝だ 彼は‥‥差別のない世界を作ろうとしている だがそれは総てが平等と謂う事ではない 力のある者はのし上がって逝ける実力主義にも似た制度を立ち上げ、尚且つそれを魔界の実力者に管理させた “血”の正しき使い道をしたのだった そして閻魔大魔王は罪を許さぬ“御仁”として魔界に君臨しておる 彼の目は何処にでも在り、何処にいたとしても閻魔大魔王は罪人を処罰する それによってある程度のルールは出来上がった それが今の魔界です」 金龍の言葉を孔明は黙って聞いていた 『陵王、力を持つ者が正当に扱われない世界は狂っているのです‥ 力を持つ者こそ‥‥陽の光を浴びるべき存在なのに‥‥ 名声を持つ者が力を持つ者を排除する‥‥ あまりにも狂っているこの世界は‥‥』 その言葉は‥‥斯波陵王に説いた弱音だった 孔明は弟子に目をやった 康太は空を見上げて笑っていた 「師匠、この空は人の世と繋がる唯一の存在だ この空だけは魔界のモノじゃねぇ、人の世のモノだ この地は魔界じゃねぇ 空も星も月も雲も‥‥これは人の世と変わりのねぇ唯一だ!」 「ありがとう陵王‥‥ 私はあの地を出られて本当に良かったと想っています この子達の棲みやすい土地、生きやすい土地‥‥こんなにも総てが整った地に‥‥来られるとは想ってはいませんでしたよ」 「師匠、見ててくれ! 人の世で生きられる時は短い‥‥ だがオレは精一杯生きると師匠に誓う」 「陵王、私も生在る限り、精一杯生きると約束しましょう!」 「師匠‥‥」 「そして君の役に立つであろう魔術師を育てて逝きましょう! きっとこの子達は、君の役に立ってくれる事でしょう」 「ありがとう師匠」 「私も精一杯足掻いてもがいて悪足掻きしてみましょうかね」 孔明はそう言い笑った 土御門孔明達の棲む村が軌道に乗るまで、金龍の弟、黄龍が息子 雅龍の妻の夏海や炎帝の使用人の雪が出向いてくれる事となった 閻魔領直轄の土地として魔界には御触れが出された 閻魔大魔王の告知として魔界全土に布告された事となる 布告と共に里の名を「桜の里」と名付け 魔界にモノを売りに逝ける様になる通商手形と通行手形が発行された 桜の里が落ち着きを取り戻すまでに、色んな手続きを済ませ 魔界で謂う役場に出向いて沢山の書類に判を押して来た 夏海が雪と共に村にやって来て、食材の調達の方法や、田畑に植える種を持って指導に当たっていた 桜の里の子等は皆‥‥怯えていた 彼等の容姿は怪異や妖怪に近い者もいたし 色素が全くない真っ白なエルフみたいな子や 成長を止めた子供のままの子など様々な問題を身体に抱えていたからだ 蛇の様に体躯が長く人か蛇か解らぬ子が‥‥ 「ボクの姿‥‥怖くないの?」と泣きながら問い掛けた 夏海は「あら、可愛いじゃない」と頭を撫で 雪は「僕は母親の腹を破って産まれました その姿は赤鬼と変わらぬ容姿でした 生まれた瞬間に呪いの言葉を口にした 人を呪い何故産んだのだと母をこの世を呪った 人の世で生きるのは辛いだろうと炎帝が魔界へ連れて来て下さったのです! なので全く僕達は君達を見ても驚いたりなんかしません! 何故なら、魔界では容姿は関係なく生きられるからです」と笑ったから 村の子は皆、安堵したのだった 厳つい金龍やイケメンなだけの黒龍が来るよりも、雪や夏海が来た方が村の子は安心するだろうと金龍が踏んだからだった 黒龍 が聞いたなら「おい!くそ親父!」と毒づかれそうだが、金龍の選択は合っていたと言っても過言ではなかった 人の世で生きられぬ子だった雪を見れば、この魔界で生きる方が楽なんだと想うだろう 孔明は雪の姿を見て、優しく頭を撫でた ちょこっとだけ出たツノを見付けると 「春になったら花冠を作って、このツノを飾ってあげましょう」と言った 雪は顔を強張らせ‥‥ 「僕に‥‥花は似合わないよ」と言った 「陵王がそう言ったのですか?」 「‥‥あの方は‥‥そんな事はいいません」 「当たり前です 我が弟子は差別や侮蔑をする存在ではない 君は陵王に仕えているのでしょ? ならば君は胸を張り主を誇りなさい だけど私の前にいる時位は子供でいて良いのです 私はその為にいるのですからね」 優しい大人は何人でも知っている だが先生のように優しく厳しい人は初めてかも知れなかった 雪は孔明の教える時に目線を合わせてくれる姿に炎帝を垣間見ていた 雪は孔明を見上げ 「ねぇ、孔明さん、もし‥‥迷惑目でなけれ、せんせーって呼んで良いですか?」と問い掛けた 孔明は笑って 「良いですよ でも私の事を先生と呼ぶならば、私は君に教えねばなりませんね 君が来てくれるなら私は沢山の事を君に教えましょう 君はこの地にいる子達と共に遊び、共に学ぶ時間を持つと良いです」 「学校‥‥行きたかった‥‥ 人の世に僕の半身がいるんです その子は学校に通って学んでるから‥‥少しだけ羨ましかったんです そうか、僕にもせんせーが出来たんだ 嬉しいな」 雪が喜んで呟くと夏海も 「良かったね雪ちゃん」と心底喜んでくれた そしてちゃっかりしている夏海は 「なら私も教えを乞うて宜しいですか? 私は魔界に棲んでますが、何の力も持たぬ人間です‥‥ 人の世は捨てたと申しても‥‥何も出来ない自分が嫌で仕方がなかった 呪符や護符、何でも良いんです 家族を守れる為に教えて下さいませんか?」 夏海は心の丈を総て吐き出す様に言葉にした 常日頃から想っていた 護られて過ごすだけなんて嫌だって‥‥ だが何の力も持たぬ夏海に出来る事はない 家族を護りたくとも‥‥夏海には何の力もないのだ だから足手まといにだけはならない様に必死に生きて来た 孔明はそんな夏海の想いを受け止め 「では貴方には護符が書ける様に写経でも教えましょうかね 写経になれれば護符が書きやすくなります 簡単な式紙位は操れる様に教えましょう そうすれば護られるだけの存在ではない自分になれるかも知れません 修行は一朝一夕に身に付くモノではありません! なろうと進めば身に付くモノなのです 着いて来られますか? 私の教えは厳しいですよ?」 着いて来られますか? と孔明は問い掛けた 「「はい!着いて逝きます!」」 夏海と雪は声を揃えて返事した 孔明は楽しそうに微笑むと 「生徒が増えました 私はこの地で教える為に生きて逝くと決めました 何時でも学びたい時には此処へ来ると良いです!」と優しく諭した 孔明達は新天地へと移り住み生活を始めた それは明日へと続く今日を生きるための日々の始まりだった 生活用品や必需品は週に一度、魔界へと出向いて買いに逝く その時、皆で育てた花を背中に背負って売りに逝く 夏海が炎帝から託された花の種は寺小屋みたいな学校の花壇で育てている花だった その花は妖精の宿る花の種らしくて育つの早く、種も沢山取れかなりのペースで収穫が出来、里の収入源にもなっていた 妖精の宿る花は綺麗な歌声を響かせて咲くのだった その花が欲しくて遠くから買いに来る客もいる程となっていた 結構人気になり人が集まる様になると、金龍は騒ぎになるのを防止する為に『桜の里』と言う店を立ち上げた その店で花や珍しい気になる果実を売る 夏海のたっての願いで、護符も売っていた 魔除けの護符と言うのが置くたびに即完売なる程の売れ筋となっていた 店番に出るのは年上の子達が順番で受け持って出ていた 時々、夏海や雪も手伝ったり協力は惜しむ事なく里の皆を支えていた 里の生活が安定した頃 里は真っ白な世界に染まっていた 雪深い土地に建つ桜の里の気候は、康太達が生きている今の時代と同じモノだった 魔界には季節はない 魔界に夜空や太陽がないように、季節もない 魔界の店に来るたびに、里での四季をその身に感じていた 康太が敢えてそうしたのだった 四季折々の季節を感じられる様に結界を張ったのだった 孔明は雪に染まった世界を見て 「寒すぎます‥‥暖を取れる工夫をせねば死にます!」とボヤいた 真っ白なエルフみたいな子が 「そうですね寒すぎますね先生」と賛同したが‥‥見えてない孔明は 「ぎゃー!おばけぇー!!」と叫んだ 雪と同化したエルフみたいな子は 「先生‥‥それ酷い‥‥」と泣きそうになっていた 冬は色の着いた服を着せねば‥‥と想ったのは謂うまでもない 孔明は笑っていた 子供達と雪合戦もした 鎌倉も作った 寒いながらも工夫して何とか乗り越えようとした頃 金龍が薪ストーブを何個も持って姿を現した 職人並みに器用な者達を何人も連れてストーブの設置にやって来てくれたのだ 金龍は孔明に「夏海や雪が里があまりにも寒いとの訴えを受けました 炎帝に相談をした所、この地はギリギリ人の世だから四季があると申された ならばどうするか対処法を聞いた所、薪ストーブを家の数だけ用意してくれたのでな、設置に来たのだ 夏の間、山から蒔きになる木々を拾って備えておけば冬には困る事はなくなるだろう 今年は魔界から燃料になりそうな木々を用意したから、それを使われよ 木の貯蔵庫もついでに建てて逝くから、そこに薪になりそうな木を入れて乾かすといい」と世話好きな金龍は準備万端で里にやって来てくれていたのだった 孔明は「本当にかたじけない‥‥」と何から何まで世話になり‥‥言葉もなかった 金龍は「貴方は炎帝の師匠だとお聞き致しました! 炎帝は我が息子青龍の妻になる存在 ゆくゆくは義理とはいえ親子になるのです 我が子の頼みを龍族は断る事はない 炎帝は我の息子も同然の子故、ついつい甘くなってしまっているのは否めぬが‥‥ 炎帝の願いだからの‥‥ 頼まれた事は絶対に護る 我等は未来永劫、違える事なく生きて逝く」と答えた 親の言葉だった 親の愛だった 金龍は孔明に「困った事があったら何でも申して下さい! 我等が出来る事でしたら、必ずや協力が出来ると想うから‥‥申してくれ‥‥ こんなに寒いのに我慢されている方が‥‥我等は刹那い‥‥」と訴えた もっと早く、冬が本格的になる前に手が打てたなら寒い想いはさせずとも良かったのに‥‥と金龍は悔いていたのだ 孔明は金龍の手にそっと触れると 「白馬の地にいた頃は‥‥冬になると本当に寒さが厳しくて‥‥皆で工夫して生活していたモノです それに比べれば‥‥此処は天国かと思える程に快適な生活が送れています 本当にありがとうございます金龍」 と心から礼を述べた 金龍は嬉しそうに笑うと 「近年、人の世の夏は厳しいと申す 冬は薪ストーブで何とかなっても夏はそうも逝かぬだろう‥‥ 人の世では暑さで死者も出る程だと聞く それも追々考えて逝かねばならぬ事ではあるな」 「そうですね、考えて逝かねばならぬ事なのが嬉しいです」 明日を迎えられるのが嬉しいからだ 明日を重ねて 季節を重ねて 四季が変わって逝く 生きている実感が刻まれるのが孔明は嬉しくて堪らなかった 金龍は嬉しそうに笑う孔明を見て、安堵していた ここ最近、孔明はよく笑う それが嬉しくて堪らなかった 余韻に浸っていると大切な事を思い出し金龍は背筋を正した 「あの孔明殿、貴殿に頼みがあるのですが? お聞き届け戴けぬであろうか?」 畏まって謂う金龍に孔明も背筋を正して 「ではお聞き致しましょう!」と返した 「魔界には炎帝が作った魔学校が在ります その魔学校の生徒を、この地に遠足として連れて来ても宜しいですか? 彼等は四季を知りません 当然ながら魔界には季節はない‥‥空もなく月も星も太陽もない‥‥ 彼等に人の世を感じる地に触れさせてやりたいと学長が申すので‥‥」 「学長?それは誰なのですか?」 「黒龍、我が息子に御座います 黒龍は学校を立ち上げ学びの舎を作る時、炎帝の想いを汲み上げ、今もそれを忠実に護っているのです 先日息子に雪が降ってて寒いから薪ストーブを用意せねばならぬ!と話していたら、学園の子らに是非とも雪を見せてやってくれぬか?と頼まれたのです 勿論、貴殿等の迷惑にならぬ為に宿泊所を建設した方が良いか、相談もせねばならぬた想っておった所じゃ」 「宿泊所は要りませんよ 学校があるじゃないですか! 学校には用務員さんの泊まる部屋もあります 大勢でなければそれで賄えると想います」 「それはかたじけない‥‥生徒は一学年10名そこそこと少ないのでな、遠足には一学年ずつ来させて貰いたいのじゃ‥‥ 学園に通う子は魔族で親や身寄りのいないみなし児ばかりです 魔界で生きる為に力を学び知識や学識を身に付け巣立ちさせる 魔界にも‥‥生れた瞬間に捨てられたり親から殺されそうになった子は存在するのです 下手したら魔界の方がシビアかも知れません 生れた瞬間、その子がどれだけ力を持って産まれたかで未来は決まってしまうのですからな‥‥ 炎帝はずっと狂っていると言い続けて来た 力が弱い子は山に捨てられ魔獣に食わせてしまう それが定めだったのです 炎帝はそんな捨てられた子を集めて学校を開いた その子達が魔界で生きて逝ける術を身に付けさせる為です」 金龍は魔界の事情を話した 魔界だとて人の世と対して変わりがないのだと話した 嫌、魔界の方が殺人罪と謂う明確な罪状がない分 えげつない事を平気でしているかも知れない 孔明は「是非とも来て下さい!」と快諾した 金龍はこうして孔明のいる桜の里と魔界が繋がって逝けば‥‥と想った 忘れ去られた地になどしない 金龍は孔明達や魔界が、繋がり果てへと逝ける事を願っていた 穏やかな日々が桜の里に訪れた 学校が開設され土御門孔明は教壇の上に上がる事となった 春はまだまだ遠い、白に染まった世界を孔明は学校に逝く為に歩いていた 学校に向かい授業の準備をする その為に朝食を取った後は、即座に学校に向かっていた 何時も使う教室のドアを開け 締め切った教室に新しい空気を入れる それが孔明の日課となっていた その為に教室へと向かいドアを開けた すると教壇の机の上に‥‥ 厳つい男が座って孔明を待ち構えていた 「よぉ、孔明!」 見知った男は昔も今も変わらぬ顔をして座っていた 「毘沙門天‥‥」 孔明が呼んだ名は十二支天が一柱、毘沙門天だった 「この地に移り住んだって聞いたからな、様子を見に来た」 「貴方‥‥御門に仕えているのですないのですか?」 「今から遡って4代前の帝が十二支天を切った! 以来俺等は倭の国の守護神として土着信仰に根を張り護って来た もう名ばかりの帝に仕える気もなかったしな‥‥俺等は守護する矛先を国民に変えたんだよ」 御門の傍に仕えていた土御門孔明と、御門を守護していた毘沙門天とは顔見知りだった 二人は御門の為にだけ存在していると謂う共通点を持っていた 「で、その毘沙門天が私に何用ですか?」 「炎帝が『おめぇさ魔界に行ったならば、ついでに師匠の所へ行って生徒達に勉強を教えて来いよ!』と簡単に言いやがったからだ! 我等十二支天は炎帝に着いたから魔界へ復帰が出来た しかも‥‥俺は炎帝に鼻っ柱をへし折られ、踏みつけられ謂う事を聞かねぇと消し炭にしてやるぞ!と脅されている だから俺には拒否権はない! 下手に断ったら‥‥十二支天の皆から突き上げられ殺される 十二支天の皆は炎帝命な奴等ばかりだからな! だから孔明、断るんじゃねぇぞ! 俺の命の安寧の為だ、俺を遣いやがれ!」 何ともぞんざいな言い方なんだと孔明は笑った 毘沙門天は孔明が笑った顔を一度も目にした事がなく驚いた顔で孔明を見ていた 孔明はその顔に「何なんですか?」と訝った 「いや‥‥お前が笑った顔を‥‥見たことがなかったから驚いただけだ」 何ですか?それは?と言い孔明は笑った とても楽しい笑みだった とても自然に微笑み、笑い 心からそれを楽しんでいる自然体でそれをやっているのを伺えれた 遥か昔の土御門孔明からは想像すら出来ない風体だった 毘沙門天は「我等は倭の国の護り神!倭の国に役立つ呪法を教える師になろう! それと同時に倭の国の歴史を語ろう! 我等十二支天は倭の国の生字引と申しても過言ではない」と申し出た 「我が生徒に教えて下さるのですか?」 「雪‥‥もお前に教えを乞うているんだろ? お前の事をせんせーせんせー!って語るからな、俺もせんせー!って呼ばれてやっても良いと想ってな」 「雪ちゃんとお知り合いでしたか」 「雪は炎帝の屋敷の使用人をしている 魔界に顔を出した時知り合った 自分は炎帝に助けられたから炎帝に恩返しをしなければいけない! そんな想いで生きてる雪が意地らしくてな、もっと甘えても良いんだって言ったんだ それから魔界に逝くたびに雪に逢いに行った 今、雪は学校に通えた事を嬉しく俺に語ってくれている だからな俺も一肌脱がねぇとなって想ったんだ! 炎帝から歴史の教科書を借りた 司命がその歴史を年表を紐解くみたいに教科書を作ってやると謂うからな それを携えて俺は教壇の上に立ちてぇんだよ 倭の国の歴史だけじゃねぇ! 我等の魔界は亜細亜圏内を管理守護する 魔界には6つの地域と国が分かれて各々管理守護している事や 天界の理、人の世の理等、司命が教科書を作ってくれると謂うからな教えて逝きてぇと想っている」 「それは助かります あの子達は狭い世界で生きて逝く事を強いられて閉じ込められて生きてきた子達です なので社会的な状況や情報を知りません 色々な情報を入れてやれば、あの子達の視野は広まり、己の立場と謂うモノが解って来るでしょう」 「知識や学識は視野を広げてくれるけど、己の立場と謂うモノなんて知る必要はねぇさ! 炎帝ならそう言うぜ? 『成りたい自分になれ! 成りたい自分になりたいのなら努力を惜しむな! そうすれば必ず道は開けて来る!』ってな!」 「そうですね‥あの子達の成長が楽しみです」 孔明はそう言い果てを思い浮かべる様に目を顰めた 「桜の里に人の世で生きられぬ子を連れて来る事になった だから今いる子達が巣立ったとしても、孔明 おめぇは学びを教えて、その命が尽きるその瞬間まで‥‥教え続けて逝くしかねぇんだよ」 「それは素敵な未来ですね」 「おうさ、俺等は炎帝が描く未来の一欠片なんだ! 気を抜いたらその一欠片が消えちゃうかも知れねぇからな 護り通さねぇとならねぇんだよ!」 「解っています、貴方も協力して下さるのでしょ?」 『あぁ、我等十二支天は炎帝と共に在る! 炎帝の望む先に我等は逝く! 土御門孔明、お主も炎帝の望む先へ逝くなれば、我等は盟友と謂う事になる 共に逝こうぞ炎帝が望む先へ‥‥」 「ええ、逝きましょう 陵王、貴方の未来の一欠片として生きて逝けるのが誇りです」 孔明は空を見上げてそう呟いた 毘沙門天は何も言わず微笑んでいた 新天地へ移り住んで、魔界の者達の優しさや暖かさに触れた 人の世では忌み嫌われ生きて逝くしかなかったのに‥‥ 魔界は怪異だと謂われた子等を受け入れてくれた そして魔界に『桜の里』と謂う店も出した 人の世で謂う商店街と謂うのは激戦で、容易には店が出せないと謂う事も、商店街の人達から聞いた 優遇されていると想う‥‥ 泣きたくなる程に優しさに触れられ、悪意は取り除かれた世界にいられる 中には炎帝を良く想わぬ者もいて、毒づかれる時もあるが、そんな時は必ず金龍の息の掛かった者達が、里の子等を護りに出てくれていた 護られてばかりでぬるま湯に使ってばかりいてはダメだと生徒達は毅然と振る舞う術を学んでいた 決して屈したりしない強さを学んでいた ネジ曲がって育った種子が陽の光を浴びて真っ直ぐに伸びようとする様に‥‥ この子達も曲がらずに受けた恩を返すべく日々努力を惜しまずに学んでいる それが孔明は嬉しくて仕方がなかった 新天地で生きる 今日を生きて 明日を生きる そして明日と明後日も‥‥ この命が尽きる瞬間まで‥‥ 今を刻む 陵王、それで良いのですね‥‥

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