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第66話 糺す
康太達が京都へ向けて走っている頃
飛鳥井家の菩提寺の住職、城ノ内優は白馬の地で、姫巫女や僧侶達と祈祷をあげていた
祈祷のお経が鳴り響く中、逆五芒星を特異点として、結界を解除する為に陰陽師 紫雲龍騎が呪術を斬っていた
結界が切られた後、二階堂の関係者が特異点と定められた地の目印した箇所の穴をユンボで穴を掘っていた
ユンボとスコップを併せて埋まっているであろう骨の摘出へと取り掛かる
桜林大学から剱持教授と、剱持ゼミの生徒が発掘に参戦していた
また、貴重な土地で、滅多とお目にかかる機会はないだろうと、その地の地質に興味がある地質学の生徒も、参戦しゼミの生徒や作業員と共に働いていた
総指揮に当たるは三木繁雄だった
京都に逝かねばならない康太に変わって動ける人材を数名チョイスして、尚且つそれらを指揮できる人間として三木繁雄を指名して当たらせたのだった
かなり大掛かりな作業は幾日も幾日も続けられた
逆五芒星の中心に在った土御門孔明の歹は、早々に掘り出され毘沙門天へと渡された
毘沙門天はそれを紫雲龍騎から渡されて、桜の里まで運び込んだ
運び込んだ後、速やかに里の五芒星の特異点に埋める事になっていた
その役務には十二支天総出であたり、完遂させた
これで桜の里は土御門孔明の絶対の領域となり、土御門孔明はその姿に精気を宿し存在出来る事となるのだった
土御門孔明の歹が埋められた特異点には木々と沢山の花が植えられ、その生命力を歹に与えられ、孔明の体躯に鋭気を養わせる様になっていた
孔明は体躯に漲る力を感じていた
優しい想いに満ち溢れたぬくもりを感じていた
妖精が飛び交い
花々が揺れて香る
寒い冬には雪に覆われてしまうが
春には花が咲き誇り
夏には樹々が繁り
秋にはその葉を落とし季節の終わりを告げる
この里には季節が存在していた
それは孔明は全身で感じていた
毘沙門天は孔明に「総ては炎帝の想いのままに終わった!それが感じられてるか?」と問い掛けた
「感じられてます」
「それは良かった
俺は役務の完遂出来て良かったと想うぜ!」
孔明は嬉しそうに微笑み空を見上げた
春はそこまで来ていた
遠い遠い春が‥‥そこまで来ていた
土御門孔明の歹を掘り出した後
悪鬼と化した怨霊が、作業員達を襲って来た
紫雲龍騎が応戦しているが‥‥
悪鬼と化した怨霊の力はとてつもなく強く‥‥
紫雲龍騎は押され気味だった
祈祷の読経が響く
地響きも唸る
風は響動めき‥‥
暗雲立ち込めて、辺りは真っ暗になり視界は遮られた‥‥
この地に総ての悪霊や怨霊や憎悪や恐怖が押し寄せて来ていると言っても過言でない程に‥‥
その現場にいる者達は‥鳥肌が立ち‥背筋を凍らせていた
「紫雲さん!どうしたら良いですか?」
三木は叫んだ!
このままでは暗闇に飲み込まれてしまう‥‥
皆が敗北を感じていた‥‥
皆が恐怖に身動きすら出来ずにいた‥‥
その時‥‥‥
「紫雲、てめぇ、炎帝が動けねぇのに何ちんたらやってるんだよ?」と発破が掛かった
紫雲の目の前に‥‥弥勒高徳が姿を現した
‥‥‥弥勒高徳と謂うより‥‥転輪聖王、その人としての姿を惜しみもなく晒していた
「転輪聖王で在られるか?」
白く光り輝くオーラを纏う姿は神々し過ぎる
「誰であろうと、俺は俺だ変わらねぇよ!
それより、何やってんだよ?お前は!」
「すまない‥‥妖気が凄すぎて‥‥」
「まぁ俺も完全体でも止められねぇからな‥‥人ならば仕方ねぇか‥‥」
「弥勒‥‥どうしたら良い?
康太は‥‥京都に向かっている‥‥
この悪鬼を京都に逝かせる訳にはいかないのだ!
そんな事をすれば‥.この世は地獄に突入する!」
紫雲は叫んでいた
紫雲は見ていなかったが、弥勒の横には数名の存在も共にいた
その中の一人が紫雲の叫びに高笑いしていた
「地獄とは聞捨てならぬな!
悪鬼如きで地獄呼ばわりとは‥本当の地獄はこんなに生易しくなどないわ!」
紫雲はやっとそこで弥勒の横の存在に目をやった
弥勒の隣にはとても美しい天女が立っていた
その横には鬼の様に豪快な男と、やけにイケメンが立っていた
紫雲は弥勒に「御紹介願えますか?」と問い掛けた
弥勒は仕方なく同行者を紹介した
「このお主が天女みたいだと想ったのが天照坐皇大御神、女神様だ
そして鬼の様に豪快な男は天照大神のご亭主、建御雷神で、その横におわす御方は‥‥お二人の長男で閻魔大魔王様だ
彼等は魔界の炎帝の御家族だ」
紫雲は唖然として紹介を受けていた
天照大神は「呆けるでないわ!」と檄を飛ばし呪文を詠唱し
建御雷神は始祖から始まる槍を取り出すと振り回し始めた
閻魔大魔王は呪文を唱え十字架の形をした蒼い剣を限界させた
閻魔はブラックホールと化した地を任されるに当たって炎帝に2つ
アイテムを貰っていた
その中の一つが蒼い剣で、もう一つが呪文だった
閻魔は剣を手にすると、まずはその剣の重さに顔を歪めた
「この剣は冥府にあるタルタロスの壁の一部から創られた剣!
どんな悪鬼も霊も憎悪も憎しみも飲み込む力を持つ!」
そう言い閻魔は闇を切り裂き呪文を唱え続けた
剣が閻魔の魔力を吸う
だがそこで尽きる訳にはいかなかった
弟と‥‥炎帝と約束したのだ
人の世は兄が護ると約束したのだ
天照大神は息子に力を注いでいた
建御雷神は息子の回りの闇を蹴散らしていた
「我が息子の邪魔はさせん!」
天魔戦争を闘った兵は‥‥今も我が子の為に力を奮う
閻魔は長い長い呪文を詠唱し終えると、剣を地面に突き刺した
そして剣から離れると、グラッと膝を崩して倒れそうになっていた
その体躯を弥勒が支えた
「大丈夫で御座るか?
お主に何かあったら俺は当分炎帝に口も聞いて貰えぬではないか!」
その言い分に閻魔は笑っていた
闇が渦を巻き‥‥蠢き逃げ出そうと拡散する
それを強大な力が吸い込み捕らえて逝く
弥勒は「あれが炎帝が授けた‥‥秘密兵器なのか?」と問い掛けた
「あぁ、崑崙山へ逝って皇帝閻魔から直々に賜った品物だ!」
「タルタロスの壁の一部で創らせたのか?」
「だと、皇帝閻魔は仰有られていた」
「そしてあの長い呪文はタルタロスが闇を吸収する呪文か‥‥」
「そうだ、人にも神にも扱えぬ闇だからな‥」
冥府の地下深く、霧たちこめ、神々ですら忌み嫌う澱んだ空間にタルタロスの壁は聳え建っていた
かってポセイドンが青銅の門を建立し、人々からも神々からも恐れられ、人も魔もはね除け誰も寄せ付けなかった絶対の城壁
今は誰の記憶からも忘れ去られたタルタロスの城壁を冥府に運び込んだのは炎帝だった
誰も寄せ付けぬタルタロスは今も健在で
その壁の一部から創らせた剣なれば、その威力は保証された様なモノだった
剣が意思を持って闇を吸い込み始めると、地場は激しく乱れ始めた
闇は稲妻が光り辺りを不気味に照らしていた
この地に来るまでは晴天だったから、多分この地だけ暗闇に覆われ豪雨と稲妻が鳴り響き、地鳴りを響かせているのだろう
全員、びしょ濡れになりながらも、全身全霊掛けて闘っていた
タルタロスの剣が闇を飲み込もうと力を発揮すればする程に天候は荒々しくなって行った
そして闇も力の限り抵抗し、散らばって逃げようとしていた
闇の目的は一つ
この地から闇を深め、総ての憎しみも悲しみも呑みこみ増大させ、闇を深め広がる事
その闇は目的地となる京へ向かうまで広がり、やがて倭の国を総て飲み込むべきまで広がる
闇は人を支配し、支配された人々は御門を敬う
その為だけに月日を掛けて育てられて来たのだ
闇はそれぞれ意思を持ち蠢き散らばる
動きの早い闇は‥‥タルタロスの剣で飲み込む事が出来ず、取り残しする事となる
それらの闇を総出で捕まえて冥府に送る
その為だけに人々は術を使い力を使った
消耗は激しかった
寒さで体温を奪われ‥‥
それでも力を使うから‥‥皆、限界が近かった
それでも踏ん張って耐えたのは使命と責任と言う枷が、最期の気力に火をつけていたのかも知れない
そんな皆がギリギリで踏ん張っていた時
地面に闇が広まった
皆が‥‥もうダメかと想った瞬間
闇の中から一人の男が姿を現し
「これより、魔使魔の一族も参戦致し、魔を調伏致します」
と言った
弥勒は「魔使魔‥‥」と呟いた
紫雲は魔使魔と聞いて、闇を調伏せし一族の事を思い出した
何年か前に代替えし今は若い当主が魔使魔を継いだ‥‥と。
「我の名は真島央人、横にいるは我が息子、光牙(こうが)と操人(あやと)に御座います
以後、お見知り置きを!」
光牙と言う子は真島を金髪にした様な容姿で立っていた
操人は真島そっくりの顔で闇に紛れる様にして立っていた
光牙と操人はペコッと御辞儀をすると凛として背筋を正した
「此れより闇は総て我等が調伏致しましょう!」
と謂うと自在に闇を操り、逃げようとする闇を取り込み同化させて行った
魔使魔の当主の操る式紙が大きな闇を相手に闘っていた
皆は目の前で繰り広げられる光景を唖然として見てるしかなかった
真島は綺麗な姿勢で立ったまま闇を自在に取り込んでいた
「我等 魔使魔は飛鳥井家真贋と共に在る!」
と何故やって来たのかを説明した
魔使魔の当主は代替えしたのは知っていたが、現当主は表舞台に一切出る事はなかったから、その実態を知る者はいなかった
そんな沈黙を破るかの様に、魔使魔の当主が姿を現した
紫雲はゴクッと息を飲み込んだ
それと時を同じくして国会議員 三木繁雄を訪ねてやって来た黒ずくめの集団がいた
「三木繁雄議員はどちらにおられますか?
響く声が三木を呼ぶ
「私です!」
右手を上げて答えると、黒ずくめの集団が三木の傍へと近付いた
彼等は三木の前まで逝くと
「我等、宮内庁特務機関 code001部隊であります!」と三木に自己紹介した
特殊部隊の存在を、三木は父親がその昔、副総理をしていた頃、存在を教えられた事があった
誰にも教えられぬが、お前は飛鳥井家真贋に仕えし存在だから‥‥と教えてくれた
国家が人智を越えた事件に直面した場合に限り、秘密裏で動く部隊を作った‥‥と。
その部隊は特殊な力を持つ人間達で編成されていて、その道に特化した仕事に当たる
まさに今、その部隊が現れて来たと謂う事なのだ
三木は力強い援護が来たと、緊張を解いて
「援護に来て下さったのですか?」と問い掛けた
「はっ!陛下の命で我等は邪悪な存在を排除致します!」
直面しているのは邪悪な闇ばかりではない
御贄に捧げられた魂が、死を呼び友を呼び
死の連鎖は限りなく続き多くの魂や精神を乗っ取った
哀しみや憎しみを吸った闇からは人々の叫び声が思念を遺した『声』が響き渡った
それらの声を宮内庁特務機関 code001部隊の面々は祓い始めた
タルタロスの剣の回りにはどす黒い闇が渦を巻いていた
タルタロスの剣を持ってでさえも、吸いきれぬ闇が溢れて‥‥辺りを闇で包んでいた
その闇の黒さを例えるならば、ベンタブラック(Vantablack)の物質を想像して貰うしかない
ベンタブラックは、ナノチューブから構成される、可視光の最大99.965%を吸収する既知の最も黒い物質である
人の希望さえも吸い尽くす暗闇‥‥
そんな暗闇が人々の世界を包み込んだら‥‥
人は絶望を覚えるだろう
光すら通さぬ闇
その闇を此処で食い止め、此処で終わらせる為に、その場にいる全員が力を合わせて闘っていた
真島は逃げようとする闇を操り、タルタロスの剣に吸い込ませていた
真島の二人の息子も父親顔負けの腕前で、闇を調伏して操っていた
code001部隊の隊員は、殆どが何かしらの力を持つ戦闘部隊と謂う事もあって、霊を浄霊出来るモノは怨霊と化した霊を祓うに当たっていた
三木は祈った
祈るしか出来ないから一心不乱に祈り続けた
息も出来ない程の雨が三木を打ち付ける
釼持ゼミの生徒達は一旦、休憩所へと引き下がらせ
今は能力ある者達のみで闇や怨霊や憎悪達と闘っていた
閻魔大魔王はタルタロスの剣では裁ききれぬ闇の深さに、固唾を飲んで見ていると、闇の中から‥‥
一頭の犬が姿を現した
良く見ると‥‥その犬の頭は二つあった
一つの胴体に二つの首と頭
口は鋭く裂けて牙が出ていた
一見、犬の様に見えるが‥‥到底犬ではない姿をしていた
閻魔は「Κέρβερος」と名を呼んだ
二つの首を持つ犬は閻魔を見てニャッと嗤った
一の首が【我が名はケルベロス!】と名乗った
もう一つの首が【我等は冥府の番人をする者!】と何故姿を現したか、喋った
閻魔は「皇帝閻魔が?」と問い掛けた
【冗談、我等は皇帝炎帝に仕えし者!】
【本体は冥府に遺して来たから首が二つだが、我等は皇帝炎帝が闇が増大したら仕事しろ!と言い使ったから来た!】
順番に話し、話終えるとケルベロスは両足を踏み締めて闇に唸った
冥府の番人は闇を威嚇してタルタロスの剣の上に飛び乗った
【良くもまぁこんなに闇を集めたもんだな】と一頭が唸ると
もう一頭が【この国を闇で包んで作り替えるつもりなら、この位の闇は必要なんじゃないのか?】と牙を剥き出した
. חזור מהגיהינום, שומר
. האפלה, השומרת
. החשכה חוזרת לחשכה חזור למקום שבו אור היום אינו מתמזג
ברכות האל יושפך. לעולמם של אנשים
ケルベロスは交互に呪文を唱え始めた
! טרטרוס, פתח את הדלת
タルタロスの剣の回りの地面は罅割れ崩れ落ちた
タルタロスの剣は突き刺さったままだが、剣の回りの地面は総て崩れ落ちポカッと空洞になっていた
ケルベロスの一頭が【人こ子らよこの地から離れられよ!】と謂うと
もう一頭が【この地面は冥府のタルタロスの城壁と繋げた!
堕ちたくなければ、離れられよ!】と唸った
その場に居合わせた人間は皆、慌ててその場から走って逃げた
魔使魔親子は闇に溶ける様に姿を消し
弥勒もケルベロスが出るなら‥‥と姿を消した
閻魔大魔王と天照大神と建御雷神は空へと飛んで、遠くから見守る事にした
ケルベロスが出て来たなら、下手に介入などせぬ方が懸命だと踏んだからだ
ならケルベロスが冥府に闇を連れ帰った後、少しでもこの地が昇華しやすいように見届けるつもりだった
ケルベロスの剣の回りに闇は渦巻き、バキュームで吸い込まれる様に、闇が吸い込まれ始めていた
閻魔はケルベロスに
「その者達(闇と堕ちた魂)はどうなるのですか?」と尋ねた
ケルベロスは閻魔の方を向き
【タルタロスの壁は闇を吸い込み、そうでないモノは弾き飛ばす】
【闇が堕ちた魂はタルタロスの壁が魔界へ吹き飛ばす事だろう
女神の泉に飛ばされた魂は釈迦辺りが回収してくれるだろうと皇帝炎帝は申していた】
と答えた
準備万端
総ては時が来たと謂う事なのだろう
“今”を予言して準備して来たのだろう
適材適所 配置して事に当たった
閻魔は弟を想った
お前の背負う荷物は‥‥余りにも重すぎではないか?
炎帝‥‥生きて還って還るのだ‥‥
魔界に来るのはまだ早すぎる‥‥
閻魔は祈った
弟を想って無事だけを祈った
天照大神や建御雷神も同じ想いで息子の無事だけを祈っていた
暗闇は深く
闇に閉ざされた空間に人間達はいた
code001部隊は即座に動き、近隣の住民や人々を避難させる為に動いた
それと同時に警戒警報を発動し、大義名分を掲げて近隣の住民を避難させた
闇が祓われた後、この地を浄化するにしても、人がいない方が懸命だと判断し、天災による避難誘導をした
マスコミの方も報道規制を引かせ、徹底的に天災による避難を通させた
でなくば、人は混乱し暴動へと発展して行ってしまうからだ
人は危機を感じた時、自我が強くなり人を蹴落としても生きようとする
それが暴動の引き金となり人々は混乱の渦に飲み込まれてしまう
そうさせない為に派遣されたのがcode001部隊なのだった
近隣住民を避難させた後に、今回の発掘に参加した人々の避難に当たる
キャンプ地から少し離れた闇が浸透していない場所に廃校になった学校があり
code001部隊が用意した車に乗せて貰い避難する事にした
code001部隊は、参加した人々の安否を名簿で確認して確かめた
何かあったら陛下のお心を苦しめてしまう事になる
それは避けねばならないと判断し、闇が収まるまで近くの廃校となっている学校の体育館を借りて、避難する事にした
避難した人々を不安がらせない様に動いたのは三木だった
「闇が消えたら作業は再開します!
それまでは此処で休憩する事にします!」
何でもない風に言い、三木は用意していた弁当を皆に配り始めた
弁当とお茶を皆に配る
総ては飛鳥井家真贋が予知した領域の行動だった
果てを見て真贋は逃げた後の行動も三木に指示していた
三木は謂われた通り、それを完遂する為に必死だった
総ては貴方の想いのままに‥‥その想いしかなかった
三木は自分の弁当も開いて食べる事にした
疲れていた
クタクタに疲れて、食欲などなかった
疲れすぎると人は睡眠も食欲も希薄になっしまうと体感出来てしまう程に疲れ切っていた
が、食べなきゃ後半戦を乗り切れない
三木は弁当を食べて、後半戦に備えて休む事にした
皆も同じ考えなのか、弁当を食べた後はお呼びがかかるまで体力の温存に備えていた
総てを終わらせる
その想いだけで皆は踏ん張っていた
思いは一つ
哀しい魂を回収して供養する
そして慰霊塔を建てて供養して逝くのが務めだと、己を奮い立たせていた
タルタロスの剣が闇を総て飲み込むのに、かなりの時間を要した
暗闇で覆われて時間感覚はないが、日が沈み、夜が明け太陽が天辺に昇り、再び陽が陰り始まる頃までの時間を要した
憎悪も恐怖も怨霊も呪縛も総てをタルタロスの剣は飲み込む
だが、一気に飲み込んでしまえば、魂の選別が出来ないからだ
闇が抜けた魂は女神の泉に飛ばし
罪深き魂は冥府の奥深くに取り込み、逃げ道を封じる
二度と陽の目を見られぬ奥地に送り込み封印する
タルタロスの壁はその為に冥府に建立されたのだ
総てが終わりを告げる頃、すっかり日が沈んでしまっていた
最期の一欠片まで飲み込むとケルベロスは閻魔を見た
【我等が仕事は終わった!】
【この地の闇は総て冥府へ送られた!】
ケルベロスはそう言い仕事の終わりを告げた
閻魔大魔王は深々と頭を下げ
「協力に感謝致します」と労を労った
【闇は何処にでも在る
人の心に闇が消えぬ様に‥な。】
【そうだ、この闇は人が作り出した化け物だ!
愚かな行為は何時の世も繰り返される】
ケルベロスは警告を口にした
人の心に沸き上がる小さな闇が闇を呼ぶ
それを誰よりも解っているのは神々と呼ばし存在達だった
「哀しい事に時代は繰り返します
人は懲りぬ生き物故‥‥幾度も幾度も繰り返し時代はやり直す様に同じ選択をする
それが人と謂う生き物なのです」
【閻魔大魔王、解っていてもお主は人の為に在るのか?】
【見捨ててしまえば容易いものを‥‥】
ケルベロスは嘆く様に言った
「我等はそれを糺す為に在る!
だから我等は人の象徴として在らねばならないのです!」
【皇帝炎帝の兄者は揺るがぬか‥‥】
【皇帝炎帝の兄者だからな‥‥そうでなくば務まらぬわな】
と二頭は納得しニャッと嗤った
【なれば閻魔大魔王 人の世を護られるがよい!】
【我等は陽の光も差さぬ冥府の地で見守っていよう!】
そう言うとケルベロスは呪文を唱えた
するとケルベロスはタルタロスの剣と共にスーッと地面に吸い込まれて‥‥消えた
それを見届けて閻魔達は、その地が祝福される様にと祝福を与え、後は人の力で何とかなるとその場から消えた
辺りを包んでいた暗闇はすっかり消えて
いつの間にか出たのか、月の光が辺りを照らしていた
三木の所に閻魔から
『もう作業を続けて構わぬ!』
と思念が送られて来た
三木は立ち上がると
「明日から作業を再開します!」と再開を告げた
やっと作業が開始される事を告げられ、皆は安堵の息を漏らした
ならば、明日の為に鋭気を養う必要がある
と皆はよく食べ眠りに堕ちた
翌朝、三木達はcode001部隊ではなく、自衛隊の隊員達に送って貰い作業を続ける事にした
自衛隊の隊員達は、御贄にされた骨を特異点から掘り出した後、規制を解除する必要がある為残っていた
作業に当たっている人々は落ち着いた地に胸を撫で下ろし、作業を再開させた
ユンボは風で飛ばされて何処かへ行ってしまっていたので、自衛隊の方から穴を掘る機具を貸して貰い作業に当たっていた
二階堂の家から神職がやって来たのは、その頃だった
元は二階堂の家が始めた罪
罪を感じた二階堂の分家の者は、子供を神職に着かせる事にした
そうして受け継がれ今も二階堂の分家の者は、神職に身を捧げて生きる者がいた
名を二階堂悠一、三鶴と謂う兄弟だった
二階堂の分家の家の者だった
彼等は神職を天命として受け継がれた者の末裔だった
彼等は三木の元に来て名を告げ、神職を告げた
「此よりこの者達の歹は一旦二階堂家の菩提寺へ移し供養をした後、慰霊塔を建立し慰霊塔へと移し永代供養を致す!」
兄 悠一はそう告げた
「この者達の魂が安らかに冥土へ逝ける様に供養致す所存!」
弟の三鶴も天命を全うする覚悟の瞳でそう告げた
三木は「飛鳥井家真贋から承っております!」と二人をこの地で動きやすくする為に皆には説明をしていた
悠一は「闇は‥‥去ったのですね‥‥」と憎悪渦巻く闇が消えているのを感じていた
三鶴も「この地は‥‥真贋が昇華されるのを待つだけとなりましたね」と回りを見渡してそう言った
三木は「我等も避難せねばならぬ程の‥‥闇でした‥‥
皆には話は通してあります!
ですので故人を‥‥お願い致します」と疲労を滲ませそう言った
二階堂神職の兄弟は三木に一礼して、傍を離れると作業の場へと向かった
掘り出された骨は丁寧にブルーシートの上に並べられていた
ブルーシートの上には掘り出された骨を丁寧にブラシをかけて土や泥を除去していた
そして骨を並べて逝く
地面深くから黄ばんでモロモロになっしまった骨が掘り出され、並べられた骨を悠一と三鶴は持参して来た箱へと詰め始めた
特異点に何体埋められているのかは、解らない
二階堂の文献も紐解けば、災害や災いがある度に、御贄を捧げて来たと書いてあった
幾度も幾度も繰り返し御贄を捧げて来たのだろう‥‥
贄に捧げられた者は無念さに類を呼び魔を寄せ挙げ句、心霊スポットと化した地は、好奇心を持った人間が訪れ犠牲になって行き、力を増大にして逝ってしまったのだろう‥‥
山盛りの骨が各所に並べられていた
二階堂から来た神職が手分けして当たったとしても、何日かかるか解らない程に‥‥
御贄は増えて逝っていた
紫雲は掘り出される歹の数々を目にして‥
やるせない気分でいた
これ程の人々が生け贄に捧げられたて来た現実に‥‥言葉もなかった
人々は藁をも掴む想いで、生け贄を捧げて‥‥それを繰り返して来たのだろう‥‥
少しの犠牲で多くの人の命を救う為
大義名分は何時の世も‥‥
弱者を苦しめて来たのだろう‥‥
想いを込めて‥‥紫雲は供養の祝詞をあげた
救われてくれ‥‥
未練もなく救われてくれ‥‥
紫雲が祈っていると‥‥
小さな少年が紫雲の前に姿を現した
『ねぇ、お母さんは何処にいるの?』
少年は辺りをキョロキョロして問い掛けて来た
紫雲は「お母さん?」と問い掛けた
『いないの』
多分この子は母と引き裂かれて生け贄にされたのだろう‥‥
紫雲は胸が張り裂けそうな想いで少年に手を差し出そうとした
するとその手を何処からか現れたのか弥勒が止めた
「止めろ龍騎‥‥その子は既に人に非ず‥‥」
「解っている‥‥解っているが‥‥あまりにも憐れで‥‥」
「情けは掛けるな!
この地の不浄はまだ祓ってはおらぬ
その子は不浄の中で存在している事こそ‥‥穢れだと想え‥‥」
穢れ‥‥
解っている
この地の不浄はまだ祓われてはいないのだ
そして目の前の母を探す子は‥‥生きてはいないは承知していた
弥勒は「龍騎は既に‥‥魅了されているな‥‥」と呟いた
康太は紫雲龍騎にまで手が回らぬ
だからこそ頼まれいたのに‥‥
弥勒は「龍騎、お前はこの現場から離脱しろ!」と告げた
府に落ちぬ紫雲は「それは出来ぬ!」と断った
「お前はそこにいる霊に魅了されている
心に沸き上がった寂寥に漬け込まれたんだ!何故解らぬ!
この地は康太が昇華するまでは穢れは祓えはせぬ!
気を抜けば闇を増幅させかねない状況だ、解っておるであろうて!」
霊に情けは掛けてはならぬと解っていて‥‥
紫雲は情けを掛けた
情けを掛けたから幼児が紫雲の目の前に姿を現したのだ
助けて貰う為ではなく、引きずり込む為に‥‥
紫雲は弥勒に「悪かった‥‥」と謝った
闇は綻びを突いて増幅させる為に弱った人間を天蚕糸ね引いて待っているのだ‥
弱味を見せれば付け狙われる
それが現実なのだ
この地の闇はタルタロスの剣とケルベロスにより浄化はされた
だが闇が巣くっていた地と言うのは甘美な状況なのに変わりはなかった
土地の回りをさ迷う霊は引き寄せられ尽きぬ程にうようよ彷徨っているのだ
弱音や情けを見せれば、そこに漬け込む様に霊は人間に取り憑こうとウヨウヨと集まって来だしているのだ
浄化した後が一番気をつけねばならぬと解っていて紫雲は魅了されてしまったのだ
紫雲は一旦戦線を離脱をする事にした
弥勒は現場にいる者を見渡し、全員疲労を隠せない表情をしているのを感じとると現場を離れる事を三木に提案した
「三木、皆は疲れきっておる
このまま作業を続けるならば、霊は確実にその者達を付け狙う事となる
一旦、離れられよ」
「弥勒‥‥解りました
何かなにも考える事を放棄したくなる程‥‥疲れてしまっているのは霊の仕業なんでしょうか‥‥」
「そうだ!人間が気付かぬうちに精気を吸いとられているんだよ!
何かあってからは遅い
直ちに移動されよ!」
そんな弱った体躯で歹の発掘を続ければ‥‥紫雲の二の舞になる人間が多数出るのは目に見えていた
三木は弥勒の申し出を受け入れ、二階堂の地を後にする事にした
白馬の地は一旦、弥勒が封印し何人たりとも近付けない様に結界を張った
さ迷う霊も弥勒の結界に近付くのは不可能となる
だがそう長くは持ちはせぬは‥‥
康太がこの地を昇華しに来る時までは、護りきるつもりだった
白馬の地は一旦、弥勒が封印し何人なりとも近付けない様に結界を張って、皆はその地を離れる事となった
解散を告げると再開した時には必ず参加すると約束して白馬の地を去る者と
白馬の地で発掘再開を待つ者とに分かれた
白馬の地を離れる者は駅まで送り
白馬の地に残る者は飛鳥井のホテルの傍に建つ、源右衛門の邸宅へと移動した
事前に康太から発掘が中断したなら、白馬のホテルの近くに在る源右衛門の邸宅へと逝くが良い!と謂われ鍵を託されていたからだ
ホテルから料理は運ばせるから、好きに使えと謂われていたのだ
今こそ、康太の未来の果てにいるのだと三木は想った
発掘が再開される、その日まで三木は白馬を離れる訳にはいかないと白馬に留まった
そんな三木と同じ想いの者達が三木と共に行動を共にしていた
源右衛門の邸宅に到着すると
睡眠を欲してる人には暖かな布団を与え
食事を欲してる人にはホテルから食事を運んで貰い、暖かな食事を与えるた
気負って世話を焼く三木の元に、安曇貴之が顔を出した
「繁雄さん、お疲れ様」
優しく労いの言葉をかけてもらい三木はドッと疲れを感じてソファーに座り込んだ
「貴之、康太の命で来たのか?」
「違うよ、無茶して疾走してるだろう師を労うのは当たり前じゃないか!」
「貴之‥‥‥俺は無力だった‥‥」
ついつい弱音を吐いてしまう‥‥‥
「僕は大分前から来て見てたんだよね
あんなの‥‥相手に出来る訳ないじゃないか‥‥オジさんは疲れてるんだよ
今は何も考えずに美味しいの食べて寝なよ」
貴之は三木の体躯を抱き締めた
「オジさんは本当に疲れちゃったんで、後は貴之お願いね!」
「仕方ないオジさんだな!
でも頑張ってたからね謂うことを聞いてあげるよ!
だから今は何も考えないで休んでなよ」
「貴之が優しいなんて‥‥私は‥‥冥土に足でも突っ込んでしまいましたか?」
ドスンッと足を踏まれて三木は悲鳴にならない言葉を飲み込んだ
「痛い貴之‥‥」
「本当にこの減らず口は!」
三木は笑っていた
こんなにも頼もしい後継者が自分にはいるのだ
父さん‥‥俺は偉大な三木敦夫の子として必死に生きて来ました‥‥
三木の名を廃らせない為に生きて来ました
だけど後継者は貴之に継がせます
三木の名を捨てた訳じゃありません
三木敦夫の名は‥‥偉大だった
だが飛鳥井家真贋は謂った
お前の息子は三木で留まりはしない!‥‥‥と。
逝かせてやれ!
好きな場所で思う存分逝かせてやれ!
その代わりお前には後継者をやんよ!と貴之を連れて来た
三木はそれでは名が‥‥‥途絶えると抵抗した時もある
政治は名前や家でやるんじゃねぇだろ?
そう言われて何だか楽になったのは、誰よりも家や偉大な父に囚われていた三木だった
後継者を安曇貴之に据えて、三木は精力的に動く様になった
自分の持てる総てを貴之に遺す‥‥‥
そんな想いで三木は生きていた
そして何時か父と対峙する存在になろうであろう息子に‥‥
父の軌跡を遺してやろうと想っていた
「貴之、オジさんまだ頑張るから!」
「ええ。頑張って下さいね!」
貴之は大人げないけど真摯に生きている三木が好きだった
自分の持てる総てで三木を護ると決めていた
強いては飛鳥井康太を護ると決めていた
「でも今は眠りなよオジさん」
「貴之‥‥」
「あの方は京の地で闘ってるんだから‥‥
あの方がお見栄になる時までに、体調を整えておかないとね」
貴之は眠そうな三木の頭を撫でていた
どうか‥‥ご無事で‥‥
貴之の想いは京の地で闘ってる康太の身を案じていた
寝息をたて始めた三木の眠りを護り、貴之は三木の仕事を片付け始めた
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