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第67話 昇華

京へ向けて車の中にいる康太は瞳を閉じていた 白馬の地が闇に飲まれてしまう事は、解っていた事だった あの特異点を暴走せぬ様に護っていたのは土御門孔明の歹だったと謂っても過言ではなかった その歹を桜の里へと移動させれば、悪鬼と化した魂は大きな力を解き放ち白馬の地を飲み込み 京へと向かって総てを飲み込み発動される事となっていた その闇を白馬の地で留めて京へは逝かせない様にする為にケルベロスを遣わせたりも準備万端配置した 皆、康太の視た果てと寸分違わず動いてくれるだろう 闇は京へは逝かせないし、京へ届く事はないだろう‥‥ 神日本磐余彦天皇はその事を知っていた 人の魂を飲み込み闇を増幅させて、国家の転覆を夢見る御門を許しはしない!気概で向かっていた 陛下の遣わせてくれた車は京へ向かって着実に進んでいた 神日本磐余彦天皇は「何故‥‥この様な馬鹿げた計画が発動する事となったのだ?」と疑問を口にした 「総ての発端は白馬の地だった」 「白馬の地を‥‥お主は何故手を出したのだ? 放っておけば‥‥今発動する事はなかったのであろう?」 「此処数年闇を増幅させてしまう事件があった‥‥ 闇に生きる者のバランスを崩してしまっていた そんな事件が発端であの地の闇を増幅させてしまった あの地の闇はブラックホール並みの渦を巻いて暴走するのも時間の問題だった 今、手をつけなくても、近い将来必ず闇は暴走を始め‥‥街を飲み込み人を狂わせて逝っただろう オレはあの地を捨て置く気はなかった オレ達の子に不良債権を遺して逝く気はなかったって事だ!」 「ダンピールとか謂う輩が闇のバランスを崩してしまったのであろう?」 「詳しいな‥‥それを何処で知ったんだよ?」 「私は視ておったからな‥‥視るしか出来ぬ作業を何年も何万年も‥‥して来た 私は視るしか出来なかった‥‥ 私は願っていたのに‥‥私の願いは何時の世も和平なのに‥‥」 神日本磐余彦天皇は悔しそうに言葉にした 「人は弱い生き物だ‥‥闇に操られて簡単に道を踏み外してしまう生き物だ だが彼等にだって五分の魂は在る! 抗い己らしく生きて行こうと最大限の抵抗をする! 和平は人の心に根付いているよ だからこんなにも人は平和ボケしちまう程に平和じゃねぇかよ?」 「炎帝‥‥」 「だからこそ、オレらは人の世を狂わす存在を許しちゃいけねぇんだよ!」 「そうであったな‥‥」 車は京の御所へと向かって走っていた ビシビシと圧を感じる‥‥ 康太がこんなに感じるならば、この地に生きている総ての者はかなり影響を受けているだろう‥‥ 「やべぇな‥‥集中力を途切れさせイライラレベルの‥‥圧を感じるな」 「これでは人にも影響が出てしまうではないか‥‥‥」 それが目的ならば‥‥何かを仕掛けて来るだろう‥‥ 神日本磐余彦天皇は不思議に想っていた事を口にした 「京の御所は‥‥ずっと‥‥在ったのか?」 「国宝ばりの建物に御門を住まわせられねぇからな建てたんだと思う オレが何百年前にいた頃は御所はなかった気がするからな‥‥」 わざわざ御門の為に建立したと謂うのか‥‥ 持て囃されて、唆されて‥‥虚構の中で今も過去の栄光に縋り付き生きているのか‥‥ 車は京の御所の中へ入って行き‥‥車止めで止まった 車から下りると‥‥‥目の前には御所の職員が手に槍を持ち構えて並んでいた 康太はそれを見て嗤った 「めちゃくそ歓迎されてるやんか!」 奥の方から御門の側近がやって来ると 「此方へ」と案内された 神日本磐余彦天皇は静かに現状を見ていた 康太は抵抗する事なく側近に着いて、御所の奥へと着いて逝った 榊原は康太を護る様に歩いていた その頭上を鳥の影がスーッと飛んで逝った 御所を取り囲んで東西南北、結界が張って在った 朱雀が頭上からその結界を探り当て鳴くと 東西南北散った四神が、その結界ごと破壊した 結界を護る人間ごと破壊して、二度と結界を結べなくした 御門の側近は「小賢しい事をやりますね!」と憤って吐き出した 「文身咒を体躯に入れて結界を破らせるお前ら程に小賢しくはねぇよ!」 康太は嗤ってそう言った 「此奴‥‥‥皆の者!」 側近が使者を飛ばそうと動くより早く康太は焔を放った 焔に近付いた者がギャーッと悲鳴を上げて絶命した 御門と側近との距離を取らせる為に焔は、御門を取り囲み走った 「動くな!お前等が神を愚弄するならば、その神に滅ぼされ散るがよい!」 康太は片手を手に向けて指を指した 「東西南北、門を護る四神」 康太が謂い放つと東西南北の結界を壊した場所に四神が天空に浮かんで神々しい光を放っていた 「倭を守護する十二支天」 十二支天は康太が出した焔に添って立っていた 側近は御門を護る為にその命を懸けて立ちはだかっていた 康太は御門に近寄った 一歩、一歩、ゆったりと歩いて近付いて逝った 御門は表情一つ変える事なく康太を見ていた 「倭の国に御門など要らぬ!」 康太は吐き捨てた 御門は「下賎の者はやる事も雑い‥‥」と嫌味を謂った 「お前がどれ程の血筋で、どれ程高貴なんだよ? 我等神よりも高貴だと抜かす理由を述べろ!」 「我は神日本磐余彦天皇で在る! 始祖の神とも謂われる身分で在る! お前達より高貴で貴い我に勝てる筈などないのだ!」 神日本磐余彦天皇は驚愕の瞳を御門に向けた‥‥ 「‥‥‥‥ほほう‥神日本磐余彦天皇‥って謂うのか、めちゃくそすげぇやんか!」 康太は爆笑した 神日本磐余彦天皇は「狂っておる‥‥」と吐き捨てた 「神日本磐余彦天皇が倭の国を見届ける為に魂を遺しているって事は、人の世には伝わっていねぇからな‥‥‥本人はとうの昔に物故ならば何とでもなると想って歹でも遣ったんだろ?」 神日本磐余彦天皇は絶望の瞳を‥‥‥瞑って 「‥‥‥我は死しても倭の国の駒にされねばならぬのか?」と心中を吐露した 神日本磐余彦天皇は御門に向き直ると 「お前は何の為にそこにいるのだ?」と問い掛けた 「倭の国の為」 「倭の国に‥‥御門はもう要らぬ‥‥」 「我は倭の国を護る為に現界したのじゃ!」 自分こそが倭の国の為に在るとほざいた 神日本磐余彦天皇は聞くに耐えられないと‥‥眉を顰めた 己がそこに在った 当時と謙遜なくそこに在った‥‥ それこそが亡霊だと誰も気付く事なく崇めたつ祭り神だと申した 己が愚弄されて逝くのを見るに耐えきれず‥‥ 神日本磐余彦天皇は康太に手を差し出した 康太はその手に‥‥始祖の御劔を渡した 「我は神日本磐余彦天皇で在る! 倭の国と契約し、死した後倭の国を護っておった!」 御門は驚いた顔で神日本磐余彦天皇を見ていた 側近は「そやつの事など嘘に決まっておる!」と御門に発破をかけた 神日本磐余彦天皇は始祖の御劔の鞘を抜いた 剥き出しの剣は‥‥赤い焔を立ち上がらせていた 「曲がった方へ逝くのを‥‥黙って見て入られぬ‥‥‥」 神日本磐余彦天皇は御門を己の手で切り裂いた 「ぎゃぁぁぁぁぁ!」 と謂う悲鳴が‥‥‥辺りを包んだ 「倭の国に亡霊など必要ではない!」 神日本磐余彦天皇は泣いていた 己の手で己を斬った‥‥‥ 後はもう‥‥‥飛び掛かって来る側近や従者と闘い‥‥‥ 制圧するのにそんなに時間は掛からなかった 御門を倒し、仕える者を倒し 御所に火を着けた 総て灰になるまで四神は見届け‥‥‥姿を消した 十二支天も総て見届け姿を消した 消防車の音がすると閣下に仕える者が残り 「後の事は私共が何とか致します!」と申し出 康太達は崑崙山へと移動した 康太は悔いていた 神日本磐余彦天皇に己を斬らせるのでなかったと‥‥悔いていた 八仙の屋敷に着くと康太は神日本磐余彦天皇に 「すまなかった」と謝った 「構わぬ‥‥己の手でカタを着けねば‥‥誰かに斬られる訳にはいかなかった」 「反魂だと想っていたが‥‥まさか貴方の歹を遣っているとは‥‥」 「終わった事だ‥‥‥もうよい」 神日本磐余彦天皇はそう言った 天照大御神と閻魔が八仙の所に姿を現した 天照大御神は神日本磐余彦天皇に 「どうであった? 総てカタを着けて参ったか?」と尋ねた 「はい。総てカタを着けて参った」 「此より‥‥どうするのじゃ? まだ倭の国を見守り続けるか?」 「私は転生しとう御座います 人の世を糺す礎になり動きとう御座います もう見ているだけは‥‥‥辛ろう御座います」 「なればお主は転生させようぞ! 我が息子の傍へ堕ち、倭の国を支える礎になるがよい!」 天照大御神は艶然と微笑むと呪文を唱えた すると神日本磐余彦天皇の体躯が‥‥みるみる間に球体になった それを閻魔へと差し出した 「閻魔、少しずっこして炎帝の傍へ落とすがよい!」 「‥‥‥解りました、ずっこして最速で落としますとも!」 閻魔はそう言い呪文を唱えると、球体を天高く放った そして「司録、この魂を最速で輪廻の輪に入れなさい!」と伝えた 『主の傍へ、ですか?』 「そうです」 『了解!主、貴方の傍へ直ぐに落としますからね!』 主バカは喜んで仕事を優先にした 閻魔は「これで、神日本磐余彦天皇は君の傍に転生するでしょう、後は君と出逢い配置すれば回って逝くでしょう!」と康太に伝えた 「ありがとう兄者」 「此れで終わってはくれませんよね? 韜晦された件は何一つ片付いていませんよね?」 「あぁ、オレは白馬の異質な空気をずっと感じていた だから敢えて二階堂の土地を欲しがり、昇華すると決めた あの地が総ての要因で災厄を齎すのは前から解っていたからな でもまだ大丈夫だったんだよ こんなに早く手を着けねぇといけなくなったのはやはり、闇のバランスが崩れたからだ」 「あの地を昇華するのですか?」 「兄者達が見守ってくれたのは知っていた 後は白馬の地に降り立ち昇華するだけだしな」 「御門は‥‥あれで終わりですか?」 「‥‥‥兄者鋭い‥‥あの御門は反魂だ! 蘆谷道満や安倍晴明を反魂で生き返らせた輩の仕業だ‥‥ だから何一つ終わっちゃいねぇって事になる 人の命を弄びやがって‥‥‥」 「chaosはどうなりました?」 「chaosは異空間に飛ばした その空間で妻と引き合わせてやったからな 正気を取り戻して闇を管理すると約束してくれたからな 混沌は少しは眠っててくれる事になった だから混沌は大丈夫だが、大元が尻尾すら掴ませねぇからな‥‥」 「今回の白馬の闇と‥‥倭の国の御門は‥‥やはりそのもの達の仕業と考えた方が無難ですか?」 「だな‥‥次は反魂を正当化しやがる教団を潰すしかねぇと想っている 一つずつ潰して、大元へ辿り着ければと想っている‥‥」 「また‥‥大変な目に遭わねば良いのですが‥‥」 「仕方ねぇよ兄者 動き出した歯車はもう止められねぇんだから‥‥」 閻魔は辛そうに瞳を閉じると‥‥覚悟を決めた瞳を弟に向けた 「何があろうとも‥魔界は私が護り通そう‥‥」 「兄者‥‥」 「だからお主は‥‥心配せぬともよい 蓮華が雷帝を生んだ‥‥我は後継者を授かったも同然であるからな 閻魔が途絶える事はない‥‥そうであろう炎帝よ!」 「兄者は長生きしてくれねぇと次代の閻魔は役不足だろうが!」 「まだ逝かぬ‥‥お主が冥府に逝くならば、我も寿命で冥府に逝こうと想っておるがな」 なんと謂う言い種‥‥‥ 此れでは冥府行き希望者が多発してしまう‥‥ 康太は嗤っていた 「んじゃ、繁雄も限界だし白馬の地に降り立ち昇華するとするか!」 そう言い立ち上がると閻魔も立ち上がり、深々と頭を下げた 「お主が曲がらぬ様に兄はお前を照らし続けよう‥‥」 「兄者‥‥」 「逝くがよい! お主が白馬の地に降り立てば、あの地は昇華され本来の役割を果たすであろう!」 康太は兄に抱き着くと、強く兄を抱き締めた そして離れると姿勢を正して深々と頭を下げた 次に頭をあげた時、康太は優しく微笑んでいた 「んじゃ、逝ってくるわ!」 康太はそう言うと榊原に手を差し出した 榊原は康太の手を取ると康太に並んで立った そして二人して八仙の館を出ると、白馬の地に向けて姿を消した 白馬の地に降り立った康太は榊原と共に闇が静まった辺りを見た 朱雀が人の姿に変えて、康太の横に立った 康太は兵藤を見て「お疲れ!」と労いの言葉をかけた 「んとによぉ、疲れたわ もっと手こずるかと想ったけど、片付いて‥‥んとに良かったわ」 「神日本磐余彦天皇には辛い現実を突き付けて‥‥申し訳なかったな」 「まさか‥‥本人が反魂でいるなんて誰も想像が着かなかったさ‥‥」 兵藤は仕方なかったと康太の肩を叩いた 「許せねぇな‥‥」 康太の呟きが‥‥悲しげに響いた 兵藤は「許さなくて良いんだよ!人の命を弄ぶような奴は粛正が必要だろうか!」と怒った 榊原は龍に姿を変えると 「それでは奥さん、東西南北の門は我等四神が護る! 君は好きなだけ昇華の舞を踊れば良い!」 と謂いチュッと龍の口が口吻け、天高く昇って逝った 白馬の地の東西南北を四神が護り 特異点を十二支天が護っていた 康太は師匠 土御門孔明が弟子に贈った陰陽師の衣装を身に付け、手には神楽鈴を握り締めていた 康太が白馬の地に足を踏み出すと、地はそよぎ 風は嬉しげに靡いた シャンシャンと神楽鈴が鳴ると大地が歓喜し 康太の舞いに大地は昇華されて逝った 白馬の源右衛門の屋敷に身を置いていた三木繁雄は大地が歓喜する様を耳にして 「康太が白馬の地に下り立った!」 と貴之に告げた 「なら逝きますか?オジさん」 「あぁ、逝こう康太が呼んでる」 三木と安曇貴之は屋敷を出ると車に乗り込んだ 貴之が運転して二階堂の地へ向かう 二階堂悠一と三鶴も大地の声を聞いて康太の傍へと駆け寄った シャンシャン シャンシャン 神楽鈴の音が鳴り響き大地に生命を宿し潤う 大地は息吹 木々は漲り 土地は昇華されて逝く 三木と貴之は康太の姿を目にすると、邪魔にならぬ様に立ち止まり見守るように見ていた 東西南北、門を守護する四龍が力を康太に向けて放った 十二支天が結界の印を結び土地を半分に分けた 桜の菩提樹を中心に二階堂の土地と、飛鳥井が貰い受けた土地と線引きする 二階堂悠一と三鶴は桜の木の下に慰霊塔を建立するつもりだった そして菩提寺を建てて、この地を護って逝こうと心に誓った 康太は土地の昇華が総て終わるまで躍り続けた その地が浄められると、康太は躍りを止めた 四神が白馬の地、全体に結界を張り 十二支天が二階堂の地に祝福を与えた 康太が引き受けた土地には栄華を与えた そして姿を消した 四神は役目を終えると地に下り人の姿になった 玄武と白虎は次に飲む約束を交わして魔界へ還って逝った 総てが終わるのを待って三木は「康太!」と声をかけた 康太は三木の肩を叩いて 「お疲れ様、この地の昇華は終わった もう何者にも邪魔される事はねぇからな、仕事は捗ると想う」と謂った 三木は「オジさんは死ぬかと何度も想ったよ」と弱音を吐いた 「オレがまだお前を逝かせるかよ!」 康太に謂われて三木はトホホと笑った 貴之は「康太さん、後は僕が管理して動かします!」と頼もしい言葉を贈った 「おっ!頼むな貴之」 康太は静観していた二階堂悠一と三鶴兄弟へと近寄った 「ご苦労だったな悠一、三鶴」 声をかけると悠一と三鶴は深々と頭を下げた 「真贋、総て滞りなく終わりました事を此処に感謝致します この地は‥‥二階堂が鎮める筈でした‥‥ だが闇が歪に育ち始め‥‥手出しは出来ませなんだ お約束通り、この地の半分は貴殿に差し上げましょう! 残り半分は我等二階堂が悠久に渡り管理して逝く所存です!」 「悠一、三鶴、この者達の魂を鎮めてやってくれ! そして再び‥‥この世に住めぬ者を目にしたならば、そのもの達は人の世にはいられぬ存在として送るから連絡してくれ!」 「解っております! 閣下からも御連絡は来ております その時は‥‥即座に御連絡致します」 二階堂悠一は土地の権利書を康太に渡した 康太は「二階堂の地とオレが貰い受けた境界線に桜を500本植えようと想う この地は桜の名所として人々の心に残れば良いと想う」と提案した 悠一と三鶴は驚いた顔をした後、笑顔で顔を緩め 「それは嬉しい限りに御座います」 「オレが半分貰い受けた地は保育園とアマリーグのトレーニングセンターになる その横に誰もが利用出来るセンターも併設して観光客も望める様にする だからお前の神社もあやかって参拝客を増やせる様にしねぇとな! 人に愛される地になり、人の笑顔が満ちる地になる それこそが‥‥‥我が師、土御門孔明の願いでも在る!」 「解り申した 我等は真贋の目指す先に逝ける様に努力致す所存!」 悠一が謂うと三鶴も 「我等は世間ではイケメン宮司と有名な兄弟であるからな!」と茶目っ気たっぷりに呟いた 東西南北守護の光に満ち 十二支天の土地の豊穣を約束された 白馬の地は先へと一歩踏み出す事が出来た 保育園とトレーニングセンターの建築着工日 飛鳥井康太は白馬の地に立ち 「やっとこさ建築に漕ぎ着けたか‥‥」そう呟いた 時を同じくして二階堂の地でも大量の遺骨を納めた慰霊塔の建立となった 手厚く葬られ供養されて逝く事となる 康太は慰霊塔建立を土御門孔明に伝えた 「師匠、あの地がやっとこさ甦る‥‥ 師匠が大好きだった桜の木はそのままで、桜の木の下に慰霊塔を建立した 敷地内に神社も建立した 観光地に遊びに来た人間が神社に足を伸ばせる為に茶屋も建てて人々に愛される地を目指してみた 師匠も何時か‥‥‥桜を見に‥‥あの地に逝くと良い」 「陵王‥‥私はこの地から出られぬのではないですか?」 孔明は信じられない想いを口にした 「出られるよ師匠、オレは貴方を閉じ込めたりはしない‥‥‥ ただ‥‥出るならば毘沙門天とかオレとかの介助は必要となるだろうけど‥‥師匠は好きな所に出掛けて色んな世界を見に逝っても大丈夫なんだよ! 金龍や黒龍はそんな貴方の願いなら、どんな事だって叶えてくれるだろうから、アイツ等にサポートを受けても良いし、師匠の好きにして良いんだよ」 「なれば‥‥桜が咲き乱れる頃‥あの地の桜を見に行きたいですね 陵王、私を連れて逝って下さい、約束ですよ」 孔明は晴れやかな笑みを浮かべていた 「師匠、この里の近くに妖怪の里を移動しようと想っているんだけど、師匠って妖怪‥‥大丈夫ですか?」 「妖怪ですか? 私は大丈夫です 妖怪は古来より倭の国にいた 我等は後から来て妖怪の棲みかを奪った様なモノですからね」 「‥‥‥師匠、その時‥‥‥安倍晴明と蘆谷道満を紹介致します」 「‥‥‥陵王、幾ら私でも二人に逢って何百年も経っているのは解りますよ?」 今‥‥‥逢わせるからば、お化けか妖怪でしかないではないか!と孔明は少し怒っていた 「師匠、反魂はご存知ですか?」 康太が謂うと孔明は顔色を変えた 「‥‥‥反魂は逆五芒星よりも大罪だと教えませんでしたか?」 「オレは師匠の教えを破ってなどいませんよ! ですが‥‥今世‥‥人の命を愚弄する輩が反魂を遣って甦らせたりしたんですよ 神日本磐余彦天皇も‥‥倭の国を見守り続けていたのに‥‥国に弄ばれ‥‥己で斬らせてしまいました‥‥」 「人の命を何だと想っているのですか!」 「だからオレはケリをつけに逝こうと想ってるのです その前に‥‥妖怪の世界を安寧の地へ導かねばなりません!」 「ならば陵王、安倍晴明と蘆谷道満と逢わせて下さい! 私で役に立てるならば、二人を支えて妖怪の安住の地を導こうではありませんか!」 「師匠、ありがとうございます!」 「まだ私に出来る事があるのが嬉しいのです」 「師匠、やらねばならぬ事は山積してます ですから少し、協力して下さい そしたら師匠にあの時視た桜並木をお見せしますから!」 京の地へと続く果てしない道に在った桜並木は今も孔明の脳裏に鮮やかに色付いていた 「桜を500本植えます 師匠が視た桜並木にしては少ないですが‥‥あの日の師匠の想いを描けられたと想っています」 京に想いを残してこの地に骨を埋めた‥‥ 陵王‥‥あの日の想いを‥‥癒してくれると謂うのか? 「陵王‥‥私は幸せです だからもう良いのです‥」 「師匠、貴方がこの地に生きていてくれるなら‥‥オレは必ず貴方に逢いに還って来ます!」 「必ず護るのですよ 私はこの地で陵王、お前を待っています」 師匠‥‥‥ あの日と変わらぬ凛として美しい‥‥ 貴方の弟子で良かった 康太は想いを胸に刻んだ 白馬の地は昇華して果てへと繋がった 後は妖怪達を移動して‥‥ 人の命を愚弄する教団と対峙せねばならぬ‥‥ それを切っ掛けに‥‥ずる賢い相手を掴まえ‥‥ トドメを刺せれれば良いのだが‥‥ まだ闘いは幕を開けたばかりだった いつ終わるとも解らぬ闘いは‥‥‥ 始まったばかりだった

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