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第70話 女王の番犬 ①
翌朝、朝早くから康太と榊原は出掛ける支度をしていた
上質なスーツに袖を通すと、榊原が着崩しはないかチェックをする
榊原は康太のネクタイを直して
「良いです、もうネクタイに触るのは駄目ですよ!」と謂うと、康太は嫌そうに頷いた
榊原も上質なスーツを着て身支度を整えていた
伴侶の時計を腕に嵌めると、バックの中を確かめて、康太と共に寝室を後にした
一階まで下り応接間に顔を出すと、兵藤が待ち構えていた
康太は兵藤の姿を見ると「おはよう貴史」と声をかけた
「おはよう康太、伊織」
「そろそろ車が来るか?」
何時に迎えに来ると謂ってないのに、康太は兵藤を視てその行動を詠んでいた
「あぁ、そろそろだと想う」
「なら外に出ようぜ!
子供と顔を合わせると置いて逝くのが本当に辛くなるからな‥‥‥」
「だな‥‥これが終わったら少しは‥‥時間作ってやれよ」
「そう言うお前もたまには子供達と遊んでやってくれ!
何をやってるんだ?最近?」
「‥‥‥‥それを謂われると俺も辛い‥‥‥
何をやってるかなんて視れば解るだろ?」
「予想は着くがな、お前はプロテクトかけられているからな‥‥詠み切れねぇってのがあるんだよ!」
「え?‥‥‥そんなのかけられた覚えないんだけど?」
「覚えてねぇだけで、あるんだよ!
まぁ閣下の所の術師の形跡だから捨てておいたけど、お前の気配にプロテクトが掛かってるから詠むのは不可能なんだよ」
「なにそれ?んとに止めて欲しいんですけど?」
「それ程に要の仕事をしていたって事なんだろ?」
「重要かは知らんが、謂われた仕事はこなしている‥‥」
「まぁそれも‥‥お前の身を案じての事だ
お前の深層に触れれば、守護の部隊がお前の所に飛ぶ様になっている筈だ」
「‥‥‥俺‥‥‥長生き出来ねぇだろうな‥‥」
「丈一郎位は生きれるから心配するな!」
「その頃お前がいないなら‥‥俺は早死にで構わねぇよ!」
兵藤が謂うと康太は爆笑した
応接間を出て外に出ると、リムジンがその横にピタッと停車された
運転手は運転席から下りると
「お迎えにあがりました」と告げ、後部座席のドアを開けた
康太はさっさとリムジンに乗り込むと、榊原が後に続いた
兵藤もリムジンに乗り込むと、運転手はドアを閉めた
そして運転席に乗り込むと、車を走らせた
車に乗り込むと康太は、榊原の肩に凭れて目を閉じていた
榊原も康太に肩を貸したまま、黙って座っていた
兵藤は鞄からPCを取り出すと、ポチポチとやっていた
康太は目を閉じたまま「伊織‥‥」と名を呼んだ
「何ですか?」
「厄介な所が出て来た‥‥」
「‥‥‥ですね、僕達が飛鳥井に転生する前に‥‥‥いた所がまだ在ったのも驚きです」
「‥‥‥んとにな‥‥知り合いだったら‥‥どうするよ?」
「‥‥‥その可能性‥‥あるから嫌なんですよ」
榊原は嫌な顔をした
康太は笑って‥‥会話を終わらせた
車は都心を突き抜けて‥‥目的地へと向かって走って逝った
幾つもの検問を潜り抜けて、目的地へと辿り着くと、正面玄関には閣下自ら出迎えてくれていた
後部座席のドアが開かれると康太はリムジンから下りた
閣下はリムジンから下りた康太を見つけると
「申し訳なかったですね
貴方が出て来ねば‥‥お客人は引いてはくれぬだろうから‥‥‥」と謝罪した
「あの面倒臭い機関の使者なれば、オレを御指名するのも納得だかんな仕方がねぇよ閣下」
「ですが‥‥大役の為に留守にされていたのも承知しております‥‥‥
なればお子との時間を‥‥と想い刹那くなりました‥‥」
「閣下、解ってるから己を責めるのは止めてくれ‥‥」
「康太‥‥」
「さぁ、厄介な来客の御相手をしに逝くぜ!」
康太の歩みは怯む事なく、目的を持って踏み出されていた
榊原と兵藤は康太の後に続いた
まずは控え室に通された
控え室には現総理大臣の安曇勝也と懐刀の堂嶋正義がいた
安曇は康太の姿を見て、やはり避けられぬ事なのかと‥‥胸を痛めた
安曇や堂嶋には招集の内容は伝えられてはいなかった
国の代表者として顔を出さねばならぬ‥‥とだけ伝えて呼び出していたのだった
堂嶋は康太を見た
だが声をかけられない雰囲気に‥‥‥躊躇していた
何時もと違う雰囲気を醸し出して‥‥拒絶している風に伺えられたから‥‥
堂嶋は動けずにいた
ソファーに足を組んで座る康太は、何も謂わず果てを視て不敵に笑っていた
閣下の直属の使者が控え室に姿を現すと、康太は立ち上がった
榊原と兵藤も立ち上がった
「準備は整いましたので、此方へお願い致します」
使者が謂うと安曇と堂嶋も立ち上がった
使者は控え室を出ると長い長い廊下をひたすら歩いて逝った
裏皇居とされる屋敷に安曇は何度も来た
だが‥‥その廊下は一度も通される事がなかった場所だった
シーンと静まり返った廊下には靴音だけが響いていた
かなり歩いて逝くと、貴賓室とプレートが入った部屋に着いた
閣下の使者はドアをノックすると中から「どうぞ!」と閣下の声が掛かった
使者はドアを開けると、康太達を貴賓室の中へ招き入れた
貴賓室のソファーには閣下と‥‥‥
まるでフランス人形ばりの美人な女性が座っていた
その後ろにはかなり腕が立つ護衛が控えていた
フランス人形ばりの美人な女性は康太の姿を見ると不敵に嗤い
「あら、アレクセイ、ド・セント・オールバンズ公爵ではありませんか?
お久しぶりですこと!」
と艶然と嗤って声をかけて来た
康太は「レディ、それは人違いです」と答え、ソファーにドカッと座った
康太の後ろに榊原と兵藤が控えて立っていた
安曇と堂嶋は閣下の使者に促され、ソファーに座った
偉く美人な女性は「ならば今の名は飛鳥井康太で間違いはなくて?」と問い掛けた
「ええ、それで間違いはないです
Missマリア・フランチェスカ・フィッツロイ公爵令嬢」
「あら、それは人違いですわよ!
私はジョセフィーヌ・アデレーゼ・フィッツロイですから」
「それは失礼!当時と変わらないお姿でしたので、間違えました」
「あら、そう言う貴方は小さくなられたわね」
ほほほ!と笑うジョセフィーヌに康太はブッとキレて
「そう言う貴方は何時もデカブツじゃないですか!
大きければ良いと謂う訳ではないでしょ?」
康太の言葉にジョセフィーヌはブッとキレて
「このクソアレクセイが!」と謂い康太を睨んだ
「この電柱マリアが!」
「まぁ!何ですって!」
二人は今にも取っ組み合いになりそうな勢いで睨み合っていた
閣下が「まぁまぁ、お二人とも落ち着いて!」と取りなして、やっと二人してフンッ!とそっぽを向いた
閣下は「御二人は顔見知りですか?」と問い掛けた
それに答えのはジョセフィーヌだった
「アレクセイ・セント・オールバンズ公爵は女王の親衛隊の中でも精鋭を集めた魔術特殊部隊の問題児でした
女王の親衛隊には派閥があり、三大貴族が三家が表だった派閥に名を連ねています
それは今も代わりなく‥‥‥存在しています
彼は‥‥‥セント・オールバンズ公爵家の異端児
彼の立ち上げた功績は今も誰も破れぬ‥‥
恐ろしい程の魔術功績をあげています」
閣下は黙ってジョセフィーヌの話を聞いていた
それを打ち消す様に康太は
「んなカビが生えた様な話は良いから、倭の国に来た用件を謂えよ!」と切り出した
ジョセフィーヌは姿勢を正すと
「女王陛下からの命を受けて、私、ジョセフィーヌ・アデレーゼ・フィッツロイはこの場にいます!それを頭に入れて‥‥この後の話をお聞き下さい」と前置きを置いた
そして本題を切り出す
「本国の魔術師が倭の国に逝けとの予言を女王に神託されました
今、この時を機に話をして協力を願わねば‥‥‥この世は終焉の序章を迎える事となる‥‥‥と。
創世記の神々が地球(ほし)の為に原始の書を用いて地球(ほし)を甦らせた
此よりこの地球(ほし)は創世記の力を甦らせた原始の力が強くなるだろう、と予言者は謂った
ならば我等はこの機を逃す事なく、同盟を結び‥‥‥あの教団を排除する為に動くしかないと‥‥謂われたので、女王の命を受けて私は今、この席にいるのです」
「女王の命‥‥ね‥‥‥お前の国も一枚看板ではなかった筈
‥‥‥時計塔(魔術協会)も賛同したと見て良いのか?」
「賛同するしかないのです‥‥
時計塔の魔術協会は‥‥‥今も変わらず存在してますが‥‥
あの魔術協会だとて、貴方がいた頃から様変わりした‥‥
幾つかの派閥が出来‥‥殺し合い潰し合いを繰り返し‥‥分裂を繰り返した
今は‥‥女王でさえ、その全貌は把握は出来ておりません
唯、謂えるのは‥‥今も‥‥時計塔は健在でロンドンから世界を牛耳っているのは確かです
そして魔術協会の一つの分派が、貴方もご存知の白の教団‥‥なのです」
おおよその見当は着いていた‥‥
もしかしたら?と思い当たる節はあった
「あの教団をブッ潰す!
それは女王の命なのか?」
「はい、そうです
予言の乙女は貴方の名前を上げて、協力を乞うのが得策と謂った!
だから貴方の協力を求めて倭の国までやって来たのです」
「謂われなくても協力するぜ!
オレもあの教団は許せねぇ‥‥ブッ潰すと決めてるかんな!」
「ならば‥‥‥これより国際会議に参列をお願い致します」
「会議?何の会議だよ?
裏の会議と謂えば有名なのはビルダーバーグ会議だよな?」
康太は思案した
ビルダーバーグ会議は、毎年1回、世界的影響力を持つ人物や企業、機関の代表が130-150人ほど集まり、世界の重要問題や今後の主に政治経済や社会等を主なテーマに完全非公開で討議する秘密会議
裏の世界を握る者の会議として有名な会議だった
「ビルダーバーグ会議ではない‥‥
だがそれに近い会議を世界中の裏方とも謂える者達と話し合う
今年の議題は既に世界各国で被害が出ている、あの教団一択で話し合いがなされる」
「話し合いをした所で、どの国も尻尾も掴めねぇのが実情じゃねぇか!」
「申すなアレクセイ‥‥‥我等だとて遊んでいた訳ではない‥‥」
「ロンドンは国家元首じゃなく裏の番犬の登場か‥‥‥お前が出て来る時点で‥‥笑えねぇ現状なのは理解している」
「お前がいた頃ならば‥‥お前は裏の部隊を引き連れて‥‥分派になる前に消しただろう‥‥
魔術協会は今も‥アレクセイ、ド・セント・オールバンズ公爵を恐れこそすれ‥‥それ以上の術者は出してはおらぬ‥‥
それだけが‥‥何時の世も女王が嘆かれている」
「総てが後手後手じゃ嘆きたくもなるわな
だがそれは人の世だけには非ずだマリア
総てが後手後手となった今‥‥原始の書を用いねば地球(ほし)は滅びの一途を辿るしかなかった‥‥って事だ」
「‥‥‥それはどういう意味だ?」
「天界も魔界も冥府も混沌の夜明けを迎えて‥‥大打撃を受けている
お前の国の神から聞いてねぇのかよ?」
「北欧地域はオーディンの管轄
彼は余分な事は謂わない神なので‥‥聞いてはおりません」
「でも予言者から大体の概要は聞いているんだろ?
まぁ良い改めてオレの口から謂おう!
あの教団を裏で操っているのは‥‥混沌すら手駒にして動かす神祖の神だ‥‥
アイツは裏でダンピール協会を操りヴァンパイアや闇に生きる種族を無差別で殺戮した
闇の生態系を狂わし、闇を増幅させたのテスカトリポカと言う神だ
そして白の教団なる者のトップに立っている女は‥‥‥ジャンヌダルク、その者だ!
反魂で人の命を弄ぶだけに飽きたらず、この世のバランスさえ崩壊させたんだ!」
ジョセフィーヌは大体の事は聞かされていたが‥‥
実際に謂われれば‥‥‥立ち向かおうとしている敵の強大さを感じずにはいられなかった
「アレクセイ‥‥我等は引き返す道などないのだ」
例え死線へと向かうしかないとしても‥‥‥
引き返す道などないのだ
「誰も引き返せなんて謂ってねぇよ!
既に片道切符しか用意されていねぇんだ!
返す道なんてとうにねぇんだよ!」
「ならば‥‥会議に出席をお願いする」
「これからか?」
「あぁ、倭の国はお主達が出席すれば各国揃う事になっておる!」
「んじゃ、サクサク終わらせるとするか!」
康太は立ち上がるとジョセフィーヌも立ち上がった
ジョセフィーヌを護る様に護衛の者が、護って立った
閣下はゆっくりと立ち上がると
「それでは参りますか」と謂った
安曇と堂嶋は何が何だか解らずにいた
康太は「車に乗ったら全部話してやんよ!」と謂った
安曇と堂嶋は頷いて、歩き出した
長い廊下を歩き正面玄関に出るとリムジンが2台停まっていた
一台にジョセフィーヌ達が乗り込むと、もう一台に閣下と共に乗り込んだ
車に乗ると康太は、安曇と堂嶋に事の経緯を解りやすく説明した
世界が同じ方向を向いて、標的を潰す段取りをする
それが白の教団のして来た事に対しての世界の総意であり、世界の制裁となる
康太の説明は‥‥良く解った
安曇と堂嶋が一番聴きたかったのは、何故‥‥‥康太があのロンドンからの特使とクィーンズ・イングリッシュで話していたかと言う現実‥‥‥だが、聞き出す事は出来なかった
康太は「オレと伊織は飛鳥井に転生する前はイギリスに転生していた‥‥
まぁイギリスの他にも各国で転生を繰り返したからな‥‥特別な事ではねぇって話だ」と何でもない風に謂った
堂嶋はロシアで到底お知り合いになれない上院議員に紹介された経緯を思い出していた
その他にもアメリカへ留学に逝った時には、到底庶子が入れる筈もない議員を養成する教室に入学が出来ていた現実もある
飛鳥井康太として産まれて来る前は、各国に転生していた‥‥と言う話が‥‥やけに重く受け止められて仕方がなかった
「オレと伊織は時代の分岐には必ず各国の中心に転生を繰り返していた
そして各国の主要な家柄は始祖の血を絶やさぬ様に受け継がれ、前世の記憶を持つ子が家を継ぐ‥‥マリアもその一人だと謂う事だ」
安曇と堂嶋は言葉もなく聞いていた
兵藤は「なぁ、俺はその会議に出席しても良いのかよ?」と問い掛けた
康太は「それは閣下がお決めになるだろ?」と笑って答えた
兵藤は閣下の方を向いて
「俺は留守番ですか?」と問い掛けた
「いえ、君も出て貰います
君はこの倭の国を背負うべき存在
今から色んな事を知るべきでしょう」
閣下はそう言った
それだけ兵藤貴史と謂う男の将来性を買っている事となる
閣下は窓の外を見ながら
「今年は我が国がホスト国として色々な案件を議題にする権利を要する年です
ホスト国の権限として君が参列したとしても誰も文句は申しはせぬであろう」と口にした
ホスト国ならではの待遇を利用して兵藤を参列者の席に座らせる
それだけの糧は得てくれるだろうと閣下は想っていた
車は東京ドームの横辺りを走っていた
青空を突き抜けビルが聳え立つ、その横には青々と繁る街路樹緑が無機質な街並みに色を添えていた
車はそんな街並みを車道を走り抜けて逝く
東京ドームを抜けて首都高入口に入り、関係者以外進入禁止のゲートを上げて侵入する
許可した車だけを関知してゲートを上げるシステムとなっていた
許可した車でなくば続けて走って行ったとしてもゲートは下ろされて侵入は出来ない
そして即座に警察車両が駆け付けて、違法に侵入を試みた車を取り調べる
絶対の鉄壁
絶対の不可侵領域
それが地図にも乗らぬ場所に在る倭の裏の管轄だった
車は地下を走っていた
康太は「ドームの下に広大な敷地を利用して、裏の倭を支える施設があるんだよ」と謂った
堂嶋は前に連れて逝かれた場所を想像して
「前の所か?」と問い掛けた
「違う、この国にはこんな施設が山程あるんだよ!
旧帝国軍時代の遺産でもある場所だ!」
「ドームの下にあるのか?」
「そうだ!あの場所は何かと‥‥‥要な場所だかんな押さえずしてどうするよ?」
リムジンは多くの黒塗りの車が停まる駐車場を通り抜けて玄関の前で停まった
「各国の要人が集まって来てるな」
康太が謂うと閣下は「我等が到着次第開会する予定です」と告げた
リムジンから下りた康太達は、出迎えたSPと共に会場へと入って逝った
会場には世界中の国を裏から支える要人が待ち構えていた
康太達は前の席に座るとヘッドホンを装着した
閣下は「それでは国際会議を開始致します!」と会議の始まりを告げた
議題は一択 白の教団と呼ばれる団体の殲滅だった
白熱した情報の交換を終えると、どうやってその白の教団を壊滅させるかになった
ジョセフィーヌ・アデレーゼ・フィッツロイは挙手をすると、発言権を認められ口を開いた
「あの教団には“神”がいるそうです
そしてその神は総ての情報を把握している
こうして我等が会議を開いている事だって把握しておろう!
我等は幾度も追い詰めた‥‥‥だがもう一歩と謂う所で煮え湯を飲まされておる!
そんな相手ではどんな手を使っても‥‥‥無駄な事にしかならぬと想う‥‥」
ジョセフィーヌが謂うと各国の元首は沈黙し‥‥考え込んだ
各国も後一歩まで追い詰めた事は在る
だが後一歩と謂う所で‥‥肝心の存在はいなくなり‥‥雑魚しか捕まえられなかった
康太も挙手をして発言権を得ると口を開いた
「我が国も闇のバランスを大いに崩された
尻尾を掴む為にダンピール協会に押し入ったが、既に目的の人物は逃げていなかった
後一歩と謂う事態を覆すのが得意とする相手に正攻法では無理だと謂う事だ!
しかも白の教団の“神”と名乗る存在はジャンヌダルク本人だ‥‥火計の刑で死した聖女の復活だけでも厄介なのに‥‥
相手はテスカトリポカだからな、厄介な事この上無い
アイツは変身する
神性は、夜の空、夜の風、北の方角、大地、黒耀石、敵意、不和、支配、予言、誘惑、魔術、美、戦争や争いといった幅広い概念と関連付けられている!
この神の持つ多くの別名は神性の異なる側面を示している
神と呼ばれ悪魔と呼ばれる!
それがテスカトリポカと謂う神だ!」
康太が謂うと会場の皆はざわめいた
テスカトリポカ
アステカ神話の主要な神の1柱
神々の中で最も大きな力を持つとされ、キリスト教の宣教師たちによって悪魔とされた
それほどに増大な力を持つ神と呼ばれた悪魔の名を此処で聞こうとは‥‥
驚きを隠せない人間を視て康太は
「え?知らなかったのかよ?」と想わず呟いた
閣下は「皆御存知ですよ‥‥ですがその名を口にする事は‥‥
相手に我等の総てを知らせてしまわないかと‥‥警戒しているのですよ
相手は悪魔と名高い神ならば‥‥迂闊な事など言えないのです
口に出せば相手は‥‥此方も干渉するだろうから‥‥避けて通りたかった
そんな想いも在ったのかも知れませんね
だがこの場で名が出た以上は‥‥‥そうも謂ってはいられないのも確かです」
会場にいる者達は覚悟を決めるしかなかった
名を出された以上は‥‥‥更なる反撃をしてくるに違いないからだ‥‥
康太は更に焚き付ける様に言葉を放った
「この会場にお越しの神々ならば、原始の力を感じていられる事と想います
創造神は邪悪なる者達からこの地球(ほし)を護る為に原始の力を発動させ甦らせたと聞く
ならば相手は今までの力は使えない事を約束致そう!」
康太の言葉に各国の神は
「原始の力を甦らせたならば、相手も同じ様に強大な力を手に入れたも同然なのではないですか?」と反論を述べた
「原始の頃に在った神々ならば、与えられた時の力が甦った筈だ
創世記以降の神々だとて、誕生した頃の力は甦っている筈だ
だがこの原始の力は、テスカトリポカの力を弱らせる意味も込めて放たれたそうだ
邪悪なる存在は許しはせぬ、返魂で生を成した存在もそうだ
あの焔を浴びて魂ごと消し去られ絶命した者が沢山いと想う
だが、あの教団の魔女は死に絶えはしなかった
力を少しだけ奪われ前のような力はなくなったが‥‥‥絶命はさせられなかった
それだけが残念だが、我等が相手する教団と謂うのはそれだけ大きな闇を飲み込み存在すると想われた方が良いだろう!
それでも!
怯む訳にはいかない!
進むしかねぇんだよ!
力を合わせて絶滅させる為に闘うしか道はない!」
会場は盛り上がり白の教団の廃滅を誓い、協力し合って追い詰めると約束を交わし、その日の会議は終わりを告げた
翌日、各国の意見を出しあって詳細を決める
その為に会議は2日間の予定で入っていた
康太達は還ろうと思っていると、閣下に呼び止められた
「会議は明日もあります
なので、私達と共にホテルへ行き明日も同席してくれませんか?」
「それは構わねぇけど、オレは腹が減ってるんだ
何か食わせてくれるのか?」
「はい!勿論です!」
「なら、構わねぇぞ!
だが勝也と正義は帰してやってくれ!」
「心得ております!
お二人はお送り致します!」
康太は安曇と堂嶋に手を振ると、閣下と共に何処かへ行った
榊原と兵藤もそれに同行しても、閣下は何も謂わなかった
堂嶋は声をかけられず、見送る事しか出来なかった
安曇も‥‥見送る事しか出来なかった
堂嶋は「飛鳥井に行って彼等を待ちますか?」と安曇に声をかけた
安曇は嬉しそうな顔をして「良いのですか?」と呟いた
「このまま国会に出向いても、家に還っても気になるからな、ならば納得をして還るしかあるまいて!」
堂嶋が謂うと安曇は笑った
そこへ安曇貴之がやって来て二人に声をかけた
「真贋からお二人を飛鳥井の家に連れて逝く様に謂われておりますので、僕と共に来て下さい」
安曇は「貴之‥‥」と久しぶりに見た我が子に声をかけた
「父さん、三木が待ってるので来て下さい」
貴之がそう言うと安曇と堂嶋は貴之に着いて、会場を後にした
閣下の配下は国と提携を結んだホテルに宿泊の宿を取っていた
何かと融通が通るホテルでないと護衛にも差し支える為、閣下の配下の者はホテルの最上階のワンフロアとその下のフロアを貸し切り出来る様に手筈を整えていた
ホテルは都心から少し離れた場所に在った
各国の貴賓達はそれぞれに散らばり、宿を取る事になっていた
一つ場所に各国の要人を宿泊させれば、狙われたら全滅となるからだ
閣下と共にそこのホテルに泊まるのは、ジョセフィーヌ達の国と他の国の要人達だった
閣下は康太に「宿泊名簿に貴方達の名前を載せても構いませんか?」と問い掛けた
ジョセフィーヌ達、要人は正式な名を出して宿泊するのは無理に等しく、偽名を使う必要があったからだった
「あぁ、オレ等は偽る必要はねぇかんな!」
康太が謂うと閣下の配下の者が、康太にカードキーを渡した
「部屋の鍵です、どうぞ!」
それを受け取り康太は榊原と兵藤に鍵を渡した
ホテルに到着して車を下りると、ジョセフィーヌが待ち構えていて
「少しお話出来ませんか?」と問い掛けて来た
「おー!構わねぇぜ!」
康太が答えると閣下の配下の者は
「それでは貸し切ったフロアの中で一番大きな部屋にご案内致します」と申し出てくれた
康太達は閣下と共にその部屋へと向かった
部屋に入ると康太はソファーに座り足を組んだ
「で、何が聞きたいのよ?」
「貴方はテスカトリポカを御存知なのですか?」
「世に出てる情報しか知らねぇよ
知っていたら尻尾を掴んで今頃殲滅してるだろうが!」
「‥‥‥予言の乙女は謂いました
禍の神にトドメを刺せるのは赤い髪をした始祖の神にしか成せれないと‥‥
ならば貴方はその赤い髪の神を御存知なのですか?」
「‥‥‥赤い髪の神‥‥それは知らねぇな」
「そうですか‥‥何にせよ‥‥あの教団は捨ててはおけません‥‥
個人的にも……あの教団は許せません……
あの教団は‥‥幼くして亡くなった弟を‥‥傀儡にしました‥‥
弟は‥‥生前の面影もなく‥‥殺人を繰り返しました‥‥フィッツロイ家は‥‥殺人鬼を世に出した家として地に落ちました‥‥」
康太はその言葉にギョッとしてジョセフィーヌを見た
「弟を甦らせたのは‥‥誰なんだ?」
「母です‥‥家族にも一族の者にも内緒で‥‥生き返らせたのです
だが生き返った弟は生前の面影もなく‥‥粗雑になっていました
まるで別の魂を入られた様に変貌を遂げてしまっていたのです‥‥」
康太はジョセフィーヌを視ていた
その瞳には‥‥ジョセフィーヌが過ごして来た日々が映し出されていた
「その弟の魂は別人なんだよ」
「え?‥‥嘘‥‥」
「お前の母は前世の記憶を持つお前を、一族の者に奪われ、その手に抱く事すら許されず、近付く事さえ禁じられた
我が子なのに近付く事すらままならない状況に泣き暮らしていた
そんな時、授かった我が子をお前を愛せなかった分も愛した
なのに落馬事故で命を落とした‥‥
母親は藁にも縋る想いで息子を生き返られようとした
そんなお前の母親の前に現れたのが、あの教団だった
その時既にお前の弟の魂は黄泉を渡った後だからな、他の魂を入れたんだよ
そりゃぁ別人になるわな
そいつは第2の切り裂きジャックか、と謂われたヤツの魂だからな
殺す事しか考えちゃいないんだから、殺し続けるに決まってるじゃねぇかよ!」
「‥‥‥それは本当の話しか?」
「オレがお前に一度でも嘘を謂った事があるか?」
「ない‥‥ないが‥‥」
「お前の弟も先の原始の焔で焼かれて命耐えた筈だ
帰国したならば、母の壊れた心を癒してやるが良い‥‥」
「‥‥‥母様は‥‥私の顔など見たくはないと申した‥‥」
「それは本心じゃねぇよ!
お前の幸せを誰よりも願い祈っているのは、一族の者の誰かじゃねぇ!
おめぇの母親だけだ!
娘の幸せだけを願い、お前の母親は何とか命を繋いでいるんだ
否定はしてやるな!
娘のお前が母を見なくば、母はあの家から消えていなくなるぞ!」
「それは嫌だ!
それだけは嫌だ‥‥‥」
ジョセフィーヌは顔を覆って肩を震わせていた
康太が何か謂おうとした瞬間
ドカンっと物凄い爆発音が響いて、地響きと共にホテルが揺れた
そして次の瞬間には、白と黒の煙が視界を遮り、メリメリとホテルの壁にヒビが入って行った
そして暫くするともう一度爆発音が響き渡った
榊原はとっさに康太を抱き締めた
一発目の爆発音の後、窓ガラスが飛び散り、康太も榊原もガラスが刺さったり切ったりして血で濡れていた
「康太‥‥大丈夫ですか?」
「おう!大丈夫だ
あっちこっちはガラスが刺さったり切ってるみてぇだが‥‥取り敢えず命に別状はねぇよ」
兵藤は閣下に「大丈夫ですか?」と声をかけた
閣下は「私は‥‥大丈夫ですが、楯となった者が傷付きました」と現状を伝えた
ジョセフィーヌ・アデレーゼ・フィッロイは声を張り上げて
「無事ならば動きなさい!
このビルは倒壊が始まってます!」と叫んだ
康太は「やってくれたな‥‥」と低く吐き捨てた
会議をしていたその日に、出席した者が宿泊するであろうホテルを予測して爆破させたと謂うのか?
康太は「貿易センタービルを破壊した様にセスナでも突っ込ませたのかよ?」と毒づいた
閣下は「今は何一つ状況が解りません‥‥そしてビルが倒壊したら、私達は巻き添えになる事だけは確かな様です
何処かで火が出たのか‥‥息もしずらくなりました
皆さん、ハンカチで口を覆って吸わない様にして下さい!」と叫んだ
階下では悲鳴と鳴叫び声が響いていた
人々は混乱して逃げ惑っていた
都心から少し離れているとは謂え、ホテルの周辺にはビルも建ち並ぶ都心に在った
ホテルの瓦礫や窓ガラスは周辺に飛び散っていただろう
被害は容易くはなかった
なのに仕掛けてきたのだ
グラグラとビルが傾き始める
黒煙と埃と土煙が立ち上がる中、明らかにホテルの真ん中を射抜かれて空洞にさせられたのだろう‥‥グラグラとバランス悪く傾き始めているのが解った
此処は30階建てのホテルの最上階だった
どうやってもこの場から抜け出る訳にはいかなかった
各国の要人は神々の守護を得て無事だった
ガラスの破片が飛んで皆怪我はしていたが、ガラスが突き刺さり命を落とす事態だけは避けられていた
だがこのまま逝けば確実に皆御陀仏なのは目に見えていた
ジョセフィーヌは指揮を執り
「皆さん、此方へ来て下さい、転送の魔方陣を出します!」と叫んでいた
康太は「オレも手伝うわ!」と謂い、ジョセフィーヌが唱える呪文を追って唱えた
榊原は毘沙門天を呼び出し「毘沙門天、閣下を護りなさい!」と命じた
姿を現した毘沙門天は
「何でこんな状況になってるのよ?」と問い掛けた
「知りません!
話をしている間に、この状況に突撃していました!」
毘沙門天は閣下を護り魔方陣の中に入った
榊原だとて無傷ではなかった
血に濡れた傷は今も血を流していた
閣下は「このままでは‥‥相手の思惑通りになってしまう‥‥」と悔しげに呟いた
ジョセフィーヌは渾身の力を込めて、魔方陣を転送させた
その魔方陣はみるみる間に移動を始めた
「まだ無事な階下に飛びます!
その後は救助を待って手当てをして貰って下さい
人でない者(神々)は消えられよ!
公に姿をさらせぬ者は、どさくさに乗じてこの場を去るが良い!
我は女王の番犬、ジョセフィーヌ・アデレーゼ・フィッツロである!」
ジョセフィーヌは誇り高き名を口にした
ジョセフィーヌにとって最期の誇り‥‥だったからだ
魔方陣でまだ無事な階下へと転移するが、そこも無事ではなかった
人々がパニックになり出口へと詰めかけ、弱い者は弾かれ、その場に崩れ落ちていた
人々の叫び声と崩壊するビルの轟音
パチパチと火の気の立ち上がる音と煙に、人々は冷静さを忘れ去っていた
毘沙門天は閣下を護る様に立つと
「我等は表には出られぬ存在故に去る事にするわ!」と言い姿を消した
要人達も護衛の者達に護られて姿を消した
ジョセフィーヌ・アデレーゼ・フィッツロも
「私はこの地にいない事になっているので、これ以上はこの場にはいられぬ身故に消えます!」
と康太に謂った
「おー!誇り高き女王の番犬だったぜ!
恥じるなマリア!
お前は今も昔も誇り高き女王の番犬だ!」
「アレクセイ‥‥」
ジョセフィーヌは胸を掻き毟る様に拳を握り締めた後、姿勢を正し
「近いうちにアポを取ります、宜しいですね?」
「おー!何時でも来いってんだ!」
「貴方は早く手当てを受けなさい!」
「そうする!」
康太は手を振り榊原に抱き着いた
ジョセフィーヌは護衛の者と共に姿を消した
兵藤は「どうするのよ?この後?」と問い掛けた
兵藤もガラスの破片で怪我をしていた
「久遠の所へ行くかな?」
兵藤は久遠の所へ行くにしても、混乱の中外に出ないと始まらないと想っていた
廊下の階の表示を見ると20階だった
ジョセフィーヌと康太は最上階から20階へと皆を転送させたのだった
兵藤は「お前さ、もう少し下の階まで転送しろ!」とボヤいた
避難するにしても電気系統が使えない20階からでは避難も大変なのである
「マリアにもう少し力があったらな、もう少し下に飛ばせたんだがな‥‥
あんだってあんなに弱ってるかなぁ‥‥
オレ一人じゃ無理だからまぁ良いかって降りたんだよ」
何ともな言い種である
「オレは疲れたんだ
もぉ動きたくないよぉ伊織」
康太は榊原に甘えて駄々を言っていた
榊原は笑って愛する妻を抱き締めていた
兵藤は「お前、甘やかしすぎなんだよ!」とボヤいた
榊原は「救助が来るまで休んでましょう」と呑気に謂った
逃げ惑う人を余所目に、榊原は慌てる事なく言っていた
「嫌々、何階まで吹き飛んだか知らねぇけど、此処も安全じゃねぇだろうが!」
「なら避難しますか?」
「‥‥‥避難しようぜ!」
「仕方ないですね‥‥なら逝きますか」
榊原は立ち上がると康太を立たせた
「伊織、痛てぇんだけど?」
「何処がですか?」
「ここ」
康太は痛む脇腹場所を指差した
するとそこにはガラスの破片が突き刺さっていた
「何時からですか?」
「爆発の瞬間、飛んで来た」
「何で早く謂わないんですか!」
榊原は怒っていた
そう言う榊原だって肩にガラスの破片が突き刺さっていた
「伊織だって刺さってるやんか!」
「僕のは後で抜けば良いんです!」
兵藤はそう言う問題か?と想って呆れた
榊原は兵藤を見て
「貴史だって刺さってます!」
と腕と胸に突き刺さっていた破片を指差した
皆、無傷ではなかった
四方八方からガラスの破片が飛んで来たのだ
無傷と謂う方が無理があった
兵藤は「俺等皆、突き刺さっているんだよ!
で、救助が必要だよな?」と力説した
康太と榊原は頷いた
「「うん!うん!」」
「と言う事で康太、久遠に電話しろ!」
「えー!!怒られるじゃんか!」
康太が文句を謂うと兵藤は
「痛てぇ、めちゃくそ痛てぇ!死ぬかも!」と呻いた
康太は仕方なく携帯を取り出した
だが携帯は圏外を表示していた
「おい!携帯使えそうもねぇぞ!」
「え!まぢかよ!」
「お前さ国会議員になったらさ、非常事態には回線が切り替わる様な電話回線を法案で通せよ!」
康太はニカッと笑ってそう言った
兵藤は今謂ってもせんがない事を‥‥と思いつつ議員になったら絶対に通してやる!と心に誓った
埒があかないと知ると榊原は赤龍を呼んだ
龍は共鳴する生き物だから、血の濃い相手へは共鳴で呼び出せた
暫くすると一生が姿を現した
一生は凄惨な事態を目にして
「まさか今テレビでやってる事件の最中にいたのかよ?」と叫んだ
飛鳥井の家に安曇達がやって来て接待していた所だった
安曇貴之が胸騒ぎがするとテレビを着けた瞬間、ホテル爆破のニュースが画面に現れた
安曇も正義も「まさか(彼等は)いませんよね?」と不安を口にしていた
そこへ呼び出されて赤龍として姿を現した一生は凄惨な事態を目撃する事となった
一生は榊原に「俺を呼び出した用件を謂えよ!」と問い質した
「電話も繋がりません
僕達は皆、ガラスの破片が突き刺さってます
非常に不味い状況なので、赤龍を呼びました
君には貴史を背負って階下までお願いします」
「このまま久遠の所へ行った方が良くね?」
「いいえ、僕達はこのホテルに遊びに来ていて被害に遭ったのです
このまま外に逝くしかないのです!」
閣下は何かあった時の為に、一人一人の部屋を取っておいてくれてる筈だ
ホテルの台帳が残ってるなら名前が在る以上はこのまま出るしかなかった
閣下や裏の要人達は名を遺しはしない
だが今回は表に出る存在の為に、康太と榊原と兵藤の名を遺してホテルを取っている筈だと踏んでいたから、康太達はホテルに残っていたのだ
一生は「解った、なら俺は貴史を背負って下に降りる事にするわ!
だけどお前と康太、大丈夫なのか?」
「ガラスは刺さってますが大丈夫です」
榊原は康太を支えるようにして歩き出した
康太は悔しそうに「やってくれたじゃねぇかよ?」と呟いた
「骨も遺さずに木っ端微塵にしてやんよ!」と嗤う顔は‥‥‥かなり怒り心頭なのを伺えられた
毘沙門天に連れられ避難した閣下が、特殊部隊を動かした
窓の外から救助に現れたのは、そらから直ぐの事だった
階段や非常口には人人人でごった返し、到底出られる状況ではなかった
救助に向かった側も、到底康太達に辿り着けるのは至難の技だった
だから消防車の梯子を限界まで伸ばしてそこから救助に向かう事にした
黒煙と土埃が混じる中、特殊部隊が康太達を発見した
直ちに部隊の隊員が「飛鳥井康太様ですか?」と名を確認した
「おー!そうだ!」
「ならば榊原伊織様と兵藤貴史様ですね?」
隊員は名を確認して渡された書類を確認する
だが一人多い事に気付き
「この方は何処からお見栄になったのですか?」と問い掛けた
康太は榊原を見た
榊原は仕方ないかと笑顔で
「僕は四神の青龍ですので、一族の兄に助けを求める為に呼びました」と答えた
情報は行ってるのか隊員の中で一番偉い隊長らしき男性が
「では赤龍、緑川一生様ですか?」と問い掛けた
「ええ、そうです
だから彼は無傷でしょ?」
隊長らしき男性は「緑川一生さんは我等と共に来て下さい
飛鳥井康太さん他2名はこの後、救助隊員に引き渡されるので別でお願いします」
隊長らしき男性の言葉に一生は
「救助される様をテレビで流すのか?」と問い掛けた
「そうです、それが閣下からの指示に御座います」
一生はその言葉を聞き、黙った
康太と榊原と兵藤は、突き刺さったガラスは抜かない方が良いと、ガラスを刺したまま救助された
一階まで特殊部隊の者達に連れられ逝くと、救急隊員に引き渡された
救急隊員は康太達を引き取ると、担架に乗せて救助に当たった
一生は特殊部隊の者達と共に姿を消していた
救助される様はリアルタイムで撮影されて放送されていた
救急隊員はホテルの宿泊名簿の中から生存者マークを康太達につけた
救急隊員は事前に特殊部隊からの指示で久遠に連絡を取っていた
康太と榊原は離さない様に指示されて同じ救急車に乗せた
兵藤も本当なら違反だが同じ救急車に乗せて飛鳥井記念病院まで連れて逝く手筈になっていた
テレビではリアルタイムで救助される康太と榊原と兵藤や他の救助者の姿を緊急速報で流していた
生存者として救助され救急搬送される康太達の姿が映し出され、飛鳥井の家族や安曇と堂嶋も、驚いて即座に駆けつけんばかりの勢いだった
安曇貴之は慎一と共に出入り口に立ち、それを阻止していた
安曇貴之の所に閣下から連絡が入ると、貴之は慌てまくる飛鳥井の家族と安曇と堂嶋に
「康太達は久遠先生の病院に運ばれて来ます!
なので落ち着いて下さい!」と宥めた
瑛太は康太と榊原の保健証を手にすると
「では行きます!」と言い出す始末だった
貴之は「来たら連絡が貰えるので待って下さい!」と怒りを露にして謂った
瑛太はソファーに座った
そして慎一に「美緒さんに連絡を御願いします」と告げた
慎一はその場から立って、兵藤美緒の所へ連絡を入れに向かった
暫くして飛鳥井記念病院に康太達が運ばれて来たとの連絡を受けて、皆は病院へと急いだ
「康太!伊織!貴史!大丈夫なのですか?」
息を切らした声が聞こえると、一足先に病室に来た一生が病室のドアを開けた
焦って走って来たであろう瑛太や家族の姿、そして安曇と堂嶋の姿が見えた
「皆、無事で良かった‥‥
伊織も‥‥怪我はどうですか?
貴史も‥‥君に何かあれば美緒さんに顔向けが出来ません‥‥
あれ?康太は?」
榊原は「今電話をしています
僕達はあっちこっちガラスで切ったり刺さったりしてます」と答えた
兵藤は「俺は俺の意思で来てるから気にするな!瑛兄さん!」と笑って答えた
康太は榊原が謂った通り何処かへ電話を掛けてる最中だった
瑛太は「康太は?」と榊原に尋ねた
「康太は怒り心頭です
他の事でも怒り心頭で、今、抗議の電話をイギリスにしている所です」
「イギリス?」
何故にイギリス?とは想ったが、瑛太は康太が電話を切るのを待った
久遠が瑛太に「入院な!」と告げた
瑛太は「酷いのですか?」と尋ねた
「まずは榊原伊織、ガラスの破片がまだ入ってるから総て摘出するまでに、もう少し時間を要する
兵藤貴史も同じだ、ガラスの破片と共に腕と肺にガラスをブッ刺していたからな、治るのに時間を要する
そして飛鳥井康太、アイツは脇腹にガラスをブッ刺していた
その他にも多数刺さっていた
ガラスの破片もあるからな、入院な!」
慎一が一生から連絡を受けて入院の準備をしたバックを3つ手にして病室に姿を現した
慎一は病室に入ると
「美緒さんから渡されたので持って来ました!」
と言い入院用のバックと保険証を兵藤に渡した
瑛太は「この病室で3人で入院なんですか?」と尋ねた
何処でも始める康太と榊原と共にいるのは常に危険が伴うからだ‥‥
榊原は「僕達は秘密裏に動いているので、一緒にいた方が話を通しやすいので、構いません!
康太の意思でもありますから‥‥」と説明した
康太は電話を切ると不機嫌そうな顔をして
「瑛兄、兎に角オレ達は当分入院する事となる
その間にやらねぇとならねぇ事もあるしな
と謂う事で帰ってくれねぇか」
と素っ気なく謂った
瑛太は康太の頭を撫でると
「明日、来ます」と言い病室を出て行った
安曇と堂嶋は着いて来たがどうしたものか?‥‥と困り果ていた
康太は安曇に「事は一刻と争う事態だ!」と告げた
全面対決の火蓋が切って落とされた
闘いは捨てに始まっていた
康太は闘志を燃やし全面戦争に勝利してやる!と闘志を燃やしていた
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