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第71話 女王の番犬 ②

康太の入院中、ジョセフィーヌ・アデレーゼ・フィッツロイが見舞いにやって来た 一度本国に還り正式に入国審査を受けて倭の国にやって来たのだった 彼女は本国に還ったと言うよりは、強制的に帰還させられたのだった 本国に入国するなりジョセフィーヌは女王に呼び出された 職務を完遂出来ないばかりか同行した者達に怪我まで負わせたから、責を問われると思った だが女王はジョセフィーヌの顔を見るなり 「貴殿の家の名誉を回復させます!」 と伝えて来た ジョセフィーヌには何の事やらサッパリ解らなかった 「話は総て聞きました」 「誰からですか?」 「アレクセイ・セント・オールバンズ公爵からです!」 女王は当然の様にその名を口にした ジョセフィーヌは唖然として女王を見た 「あら嫌だ、前世の記憶を持つのは貴方だけではなくてよ わたくしもまた、女王として前世の記憶を持って生まれて来るのです その中で常に記憶に輝いてるのはアクレセイ公唯一人 何故彼が倭の国に転生したのか……わたくしは悔しくて堪りません まぁ、せんのない事を言っても始まりませんから……貴方の家名の名誉の回復を致します! 彼から久しぶりに直通電話を戴いて事情は把握致しました! 貴方もあの教会の被害者……と言う事で皆にしらしめました!」 ジョセフィーヌは女王の前に跪き礼を述べた 「有難き御言葉痛み入ります……女王陛下!」 「貴方はこれからも変わらる事なく、わたくしに仕えて生きなさい!」 「はい!承知しております」 「では今度は正式に倭の国に飛び、彼の力添えをなさい!」 「御意!」 ジョセフィーヌは女王に忠誠を誓った その足で女王に言われるがまま倭の国へとやって来たのだった 康太の病室にやって来たジョセフィーヌは、金色の髪に生える薄いブルーのワンピースを着ていた 「久しぶりです、アレクセイ」 「ゲガの調子はどうよ? お嫁に行けねぇ傷は残っちゃいねぇかよ?」 「まぁ傷の一つや二つでグダグダ抜かす奴の所など嫁ぎはせぬから大丈夫じゃ! それよりも…御主……女王に電話をしたのか?」 「あの教団を追い詰めたいのであれば、自分の番犬の汚名位は返上してやれよ!と小言を言ったんだよ あの教団の犠牲にあってる謂わば被害者みてぇなフィッツロイ家を非難するのは筋道が違う! まぁ……オメェの母親は今後も幽閉されるが、お前が本国に戻ったら引き取って一緒に暮せばいい! 勝手に外には出せねぇだろうけどな、娘の側にいられれば、あの人は満足するだろうからな」 ジョセフィーヌは深々と頭を下げた 「世話になった……」 「誰も世話なんてしてねぇよ! お前はあの教団の被害者だった だったら濡れ衣は晴らすもんだぜ! 耐え忍ぶのは英国の貴婦人のやる事じゃねぇだろ?」 「我は…目の前に絶望しかなかった……」 「昔のお前なら、目の前の絶望なんて毛散らかすのに、日和ったなお前……」 「日和ってなどおらぬ!」 ジョセフィーヌは叫んだ そこへ病室のドアがノックされ慎一がドアを開けに逝くと、目に眩しいブロンドヘアの男性が立っていた 「アレクセイ・セント・オールバンズ公爵はおらるか?」 と男性は慎一に見事なクィーンイングリッシュで問い掛けた 慎一も見事な英国語で「その様な方は存じ上げません!」と返した 「嫌、絶対におられる筈だ! 女王は嬉々として奴の名を口しておおいでだった! では貴方の主にエドワルド・レォパドール侯爵がやって来たとお伝え下さい!」 「解りました、主に聞いてまいりますから、そちらのソファーに掛けてお待ち下さい」 慎一はそう言い康太の所まで行き 「康太、アレクセイ・セント・オールバンズ公爵と謂う方を尋ねて、エドワルド・ノーツ・レォパドール侯爵と仰有られる方がお見えです」と伝えた 康太は首を捻って「知らねぇ名だな……」と言った 康太は榊原を見た レォパドール侯爵家と言えば榊原がまだ英国に転生した当時の母方の親族の名前がそんなだったな……と康太は思った 康太は「マリア知り合いか?」と尋ねた 「元許嫁じゃ!」とジョセフィーヌは返した 康太は「元許嫁!!」と叫んだ 榊原は慎一に病室にお通しして!と言った 暫くすると目が痛くなる程のキラキラした男が現れた エドワルドと言う男は榊原を見るなり白い手袋を投げ飛ばした 「アレクセイ・セント・オールバンズ公爵、ジョセフィーヌを掛けて貴殿に闘いを挑む!」と宣誓した 榊原は流暢な英語で「アレクセイは僕ではありません」と言い康太を指さした 「え!!こちらがアレクセイ殿ですか?」 問い掛けられ、康太怒った様に 「何時の時代の話をしてるんだよ!」と吐き捨てた 「え?……」キラキラしたイケメン、エドワルドは戸惑っていた 「あれから幾度オレ等は他の国に転生したと思ってるんだよ! カビが生えたような話はもういいから本題に入れよ!」 毒気を抜かれたエドワルドは 「ジョセフィーヌを掛けて闘って戴きたい!」と改めて言った 「嫌だね、オレには愛する愛する伴侶がいるんだ! あんでマリアを掛けて闘わねぇとならねぇんだよ!」 「貴方が私の恋敵だからです!」 キッパリ謂うエドワルドに呆れた目を向ける 「マリア、オレの事好きだったのか?」 康太はマリアに問い掛けた 「何を申す、我はお主を永遠のライバルだとは思っておるが、恋愛感情など抱いた事など一度もないぞ?」 マリアは不思議そうに、そう呟いた キラキライケメンことエドワルドは 「貴方は何時だってアレクセイがいれば……と口にするではないか!」 と叫んでいた 「あぁ、あやつ程に破天荒で的確に動ける奴など見たことは無いからな」 「お好きなんでしょ?」 「いやいや、あの当時からアレクセイには恋人がおった、今彼の横にいるのがその恋人じゃ! 人のツバのついた奴なんて好きになるだけムダであろうが!」 「………え?ならば何故……幾度も幾度も求婚したのに断るのですか?」 「我は女王陛下の番犬である! 我はこの先も女王陛下の番犬として生きる! そんな私と結婚すれば……家族は悲劇であろう 何時……空の棺が来るやも知れぬ だから求婚を断らせて貰ったのじゃ!」 ジョセフィーヌがそう言うと、エドワルドは力が抜けた様に床に崩れ落ちた 一生は、めそめそとイケメンが声を上げて泣くな……と想ったが言葉にしなかった 「私は貴方と添い遂げる日を待ち侘びていたのに……」 エドワルドの言葉に康太は 「お前さ、マリアの家が名誉回復したから来たのか?」と問い質した エドワルドは「え?回復したのですか?私は公務があり本国とは離れた所にいました そうですか、名誉の回復をなさったのなら、ジョセフィーヌ殿と添い遂げたいと思う輩は沢山出て来るでありう…… 私は卑劣かと想いましたが、今ならば貴方にプロポーズしても聞いて貰えるかも知れぬと想い……此方に足を運ばさせて貰いました 病院に……プロポーズなど不躾かと想いましたが今しかないと想ったのです……」と涙ながらに訴えた 康太は「マリアの家が殺人鬼を出した家でも構わねぇと言うのかよ?」と核心を突く音場を投げ掛けた 「はい!」 「反対されっぞ!」 「覚悟の上です!」 「親と絶縁になるって事は親の葬式にも出られねぇって事だって解ってる?」 「解ってます! 何を犠牲にしようとも……僕は彼女を愛しているのです それ以上に大切な事なんてありません!」 「現実はそんな夢物語みてぇに甘くは行かねぇぞ! 家族から弾かれ、互いしかない状態で生きて行くんだぜ? 心が挫けたら最期だ…己の選択を悔いるしかねぇ…」 「僕は悔いません……決めたのです! 誰から何を言われようと彼女を手にしたならば、悔いはしない 己の選択を悔いる日など来ないと! もう僕は……家族から勘当された身なので…… 今の彼女には……僕の方が釣り合わないのですけど……」 「親を見切って愛に生きるか?」 「………覚悟なら嫌と言う程にしました」 康太はジョセフィーヌに向き直ると 「お前、コイツと結婚しろよ! 家よりもお前を向いてるコイツと結婚しろよ 絶対に幸せにして貰えるぞ!」と言った ジョセフィーヌは「私は母を引き取り暮らすつもりだからな‥‥母を蔑ろにせぬなら考えてもよい!」と言った 康太は「ジョセフィーヌの母ちゃんは娘を一族に取られたショックで次に出来た子を溺愛した だが不慮の事故で息子を亡くし、悲観に暮れた母親は……息子を生き返らせてしまったんだ その息子の中には……殺人鬼の魂しか入ってなくてな 殺し続ける息子のせいで…家名は地に落ちた その家名も回復したが、母は生涯監視がつくだろう その母を引き取り一緒に暮らすと謂う計画を立ててるんだが、お前も自分の親同然にマリアの母を愛しても良いと言うならば、結婚も可能だぞ?」と問い掛けた エドワルドは「愛する方の母なれば、我が親も同然!大切に致します 況してや、不運が母上の気を病ませたのなのなら、その病が晴れるように共に暮せば良いだけの事……」と言いジョセフィーヌに向き合い手を取りプロポーズをして 「ジョセフィーヌ、僕と結婚して下さい!」 「アレクセイが良いと謂えば結婚する それには結婚するなら条件がある! それを飲んでくれるなら結婚しても良い」 「何故に……アレクセイ殿の了承が必要なのだ」 「あやつの謂う事は的確で間違いがないからじゃ!」 「ではアレクセイ殿にお聞き致しましょう! 私はジョセフィーヌに相応しいですか?」 真剣な瞳が康太を貫く 康太はそれに応えて 「何もかも捨て去る勇気は本物だ 結婚しても大丈夫な男だぜ!」と答えてやった ジョセフィーヌは「ならば条件を飲むならば、結婚を致そう!」と答えた エドワルドはドキドキとして 「その条件とは?」と問い質した 「一つ、我は女王陛下の番犬也! 結婚した後もそれは変わらぬ! 空の棺が届くやも知れぬ……それでも引かぬか?」 「引かないよ、覚悟なら等の昔からある!」 「ならば二つ目、我は母と同居する 母は大罪を犯した身…共にいるならば……お前も卑下して見られる事となる!」 「母殿は寂しかったのであろう…… その寂しさは他の誰も解りはせぬであろう! ならば家族となり御母上を支える事を約束致そう!」 「三つ、私の結婚式にはアレクセイを参列させて下され…… 私は……前世は誰とも伴侶を得なんだ アレクセイが生前…お前がもし結婚出来たらの話だが、結婚式には絶対に呼べよ!と申しておった 今世も呼べぬと思っておったが、何とかなりそうだな!」 ジョセフィーヌはそう言い嬉しそうに笑った とても美しい笑みだった エドワルドが見惚れる程の笑みだった エドワルドは康太に向き直ると 「招待状を出す故、必ずや挙式に出て下さい!」と申し出た 康太は手を差し出して 「必ずや出させてもらう!」と約束した エドワルドは康太の手を固く握り締めた 「ありがとう御座います 何故……この結婚に賛成されたのですか? 僕は……貴方のお眼鏡に適う輩ではないかも知れませんよ?」 「オレの瞳は関わりある者の未来を描く お前はオレの目の前に現れた時点で分岐点に来ていたんだよ 結婚が上手く行かなかったら、このまま軍の上層部に遺るのは辞めて起業する 結婚が上手く行ったら意地でも軍に遺って、彼女の有能さを皆に知らしめる為に上を目指す! 己の人生を賭けて、お前はオレの目の前に立った お前の未来はマリアが側にいる未来へ繋がった マリアが母と亭主の傍で笑っている未来が視えたから賛成したんだよ そしてマリアはオレの眼を知っているから、聞いただけだ!」 エドワルドは康太に深々と頭を下げた だがジョセフィーヌは「エド、結婚は了承したが、直ちに本国に還ってくれぬか?」と切り出した 結婚を了承したら、その先の話を詰めたいモノじゃないのか?と一生は想ったが口にしなかった エドワルドは「ジョセフィーヌ……何故に?」と哀しい瞳で許嫁を見た 「我は今、女王陛下の命でこの地におるのだ! 任務を完遂せねば、女王に合わせる顔などありはせぬ!」 倭の国にいる事こそが女王の死命だと告げた エドワルドは「では私も仕事を果たすと致しますか!」と謂うと深々と頭を下げた そして顔をあげると、全くの別人の様な冷徹な顔をして 「私も死命を賭して、この場に立たさせて戴いているのです!」 と謂い鞄から分厚い書類を取り出すと康太へと差し出した 榊原がその書類を受け取り「これは?」と尋ねた 「かの教団の世界に散らばる被害と拠点となるべく住所、そして構成員の顔写真付きの名簿となります! 真贋は写真を見るだけで、その人の本質を見抜くとか……なので総て揃えさせて戴きました 写真を添付するのに少しばかり時間を要しました…… そしてかなりの犠牲も出しました……が、やっと貴方に手渡せます!」 榊原は康太に書類を渡した 康太はその書類を受け取り 「やっぱエドワルド、おめぇはオレの所へ来る宿命だったんだな……」 と呟き顔写真付きの名簿を見始めた 書類に目を通すや否や、物凄い集中力で名簿を視る その間、誰も音一つ立てずに、静かに見守っていた 康太はある程度顔写真付きの名簿を見ると 「貴史!」 と兵藤を呼んだ エドワルドとジョセフィーヌは病室にいる兵藤の姿を見て驚いていた 兵藤がいるとは想わなかったからだ 兵藤は気配を消して自分のベッドの上で座っていた 兵藤はベッドから下りると「何だ?」と康太の近くへと寄った 「7割……反魂……と見たけどな、朱雀の眼から視てどうよ?」 謂れ兵藤は書類を受け取り、物凄い集中力で書類に目を通した 一枚一枚確実にその人を視て確かめた かなりの時間を要して兵藤は顔を上げた 「あぁ、お前の見立て通りだな、全く巫山戯た事してくれてるじゃねぇか! 生命を司るのは神の仕事……それをこうもヒョイヒョイと生き返らされたんじゃ怒りしかねぇわな!神を愚弄し過ぎだわ!」 怒る兵藤を尻目に康太はジョセフィーヌに 「マリア、朱雀と謂う神をご存知か?」と尋ねた 「fenix?」 「鳳凰の従兄弟になられる魂の転生を司る神である 鳳凰は魂の再生、森羅万象、総ての命を管理している 亜細亜圏では魂の転生を司るのは朱雀が役務とされている だからこの男はその人を視ただけで魂の混じりっけを見抜く事が出来るんだよ!」 ジョセフィーヌは兵藤に深々と頭を下げると 「失礼しました! 神であられましたか……気付かずにいて申し訳ありませんでした」 と謝罪を口にした 兵藤は「謝らないで下さい、あなた方か来られたので様子見の為に気配を消していただけなのですから……謝られると困ります……」と困った顔をして言った 康太は「マリア、他の国にも要請を出して足並みを揃える為にこの資料を各国にも流せ! お前達は、すぐに行ける地の人間から取り掛かるとする この名簿からピックアップした人間の元へ出向き、朱雀に魂の浄化をさせろ! その間、お前は命に変えても朱雀を守れ!良いな?」と司令を口にした 「解りました、朱雀殿と共に行き、彼を護ります!」 「エドワルドも共に逝け! お前等が先行で調べて朱雀を導け!」 エドワルドは「承知致しました!」と了承した 康太は一生にマーカーを持って越させてピックアップした人物をコピーさせて兵藤に渡した 兵藤は「んじゃ、行って来るわ!」と謂いジョセフィーヌやエドワルドと共に病室を後にした 康太は榊原に「んじゃオレ達も動くとするか!」と手を差し出した 榊原はその手を取り、強く握り締めると 「では退院の手続きをして参ります!」と謂い病室の外へ出て行った 退院の手続きを終えて榊原が戻って来ると、一生は荷物を纏めて病室から運び出した 榊原は康太の着替をさせ、自分も着替えると紙袋に着替えを入れて病室を後にした そろそろ退院しても良いぞ!と久遠には謂われていたのだった だが退院しなかったのは、来客を見越しての事だった 康太は榊原の車に乗り込み 「目が痛い程のイケメンだったな」とボヤいた 「ええ、でも慣れだと小鳥遊の弟が言っていました」 「あぁ、頼斗もキラキラして目が痛えよな…… あれに慣れる前にオレの目が壊れるって謂うの!」 榊原は康太を抱き締めて 「君は僕だけ見ていれば良いのです!」 他など見なくても良い 他など見て欲しくない 僕だけを見ていてくれれば良いのだ かなり危険な奴の考えだが、康太は嬉しそうに笑って 「おめぇしか見ねぇよ!」と言った その顔にやられて押し倒してしまいたくなったが… 「俺の存在忘れてねぇ?」と一生は文句を言った 「忘れてませんよ」 「ならサクサク動きやがれ!」 一生が文句を言うと榊原は 「何処へ向かえばら良いのですか?康太」と尋ねた 「閣下の元へ…」 「解りました。では一生、その様に連絡入れておいて下さいね! ついでに飛鳥井の家族にも退院したとの一報をお願いします」 「了解!」 閣下とはあの飛行機がホテルに激突し事件以来、逢ってはいなかった お付きの者が見舞いに来てくれ、入院費の支払いは総てお付きの者に済ませてくれた お付きの者は帰還する時 「閣下が一日も早く良くなられる事をお祈りしております、との事です」とだけ伝えられた 思慮深い閣下ならではの言付けだった 「退院したら逢いに行くとだけ、お伝え下さい」と康太は伝えた だから退院したから閣下に逢いに行くのだった 一生は閣下の部下に直通で電話を入れ、これから伺う旨を伝えた 電話を切った後、瑛太と清隆と玲香には退院した旨をラインで伝えた 間髪入れず瑛太から電話があったが、「これより少し野暮用があるので、それを済ませたら会社に向かいます」と謂うと 『待ってます!』と心配そうな声が返って来た 瑛太や家族は毎日毎日、康太や榊原、そして兵藤の見舞いにやって来た 悠太もアメリカから帰って来て、康太のベッドの上で号泣して兄の無事を喜んた そんな入院生活を長引かせて病院にいたのは傷の回復の為だけじゃなかった まずは反魂で今も生きている者達の殲滅 原始の焔でも死ななかった反魂者は危険だと見做しての行動だった 原始の焔で包まれた蒼い地球(ほし)は原始に生まれた神々の力を蘇らせ、それ以降に生まれた神々の力を弱める意図もあった なのに……原始の焔で焼かれても尚、生きながらえている魂にどんな細工をしているのか? それが気持ち悪くて仕方がなかった 幾つものセキュリティーを通過して、閣下の邸宅に向かうと正面玄関に閣下の配下の者が待ち構えていた 配下の者は名を轟 正五郎と謂う 名の通り豪快な男だった 「閣下がお待ちです!」 轟は康太の姿を見ると近寄り、そう声を掛けた 「閣下は?」 「貴方に怪我を負わせてしまい自責の念で、今にも倒れそうでした なので貴方が退院して下さって本当に助かりました!」 「あれは予言の巫女でも予知するのが無理だった 未来だと視られるから過去から飛ばしやがったモノだ! 回避は不可能な状況だった、閣下がお心を痛めることなど何もないと申したのに……」 「本当にそんな過去から飛行機を飛ばす事は可能なのですか?」 飛行機は数日前に借りられていた形跡が遺っていた だが何処で燃料を入れたのか? 形跡が全く辿れなかったのだ 積んである燃料では、その日、その場に突っ込むのは不可能で、関係者は皆、首を傾げていた事件だった しかも……飛行機に乗っていた飛行機を借りた人間は数年前にこの世を他界していて…… ミステリーな事件として話題となっていた 「不可能ではねぇけど、かなりの力を持ってねぇと無理な話だな まぁ……あっちも神がいるならば不可能な話じゃねぇよな?毘沙門天?」 康太は姿を消して待っていた毘沙門天に声を掛けた 轟は「また姿を消してで悪戯ですか?毘沙門天殿!」と怒っていた 毘沙門天は「違うって……炎帝が来るって謂うから待ってたんだよ!」と弁明した 「話は部屋に入ったら聞いてやるから、先ずは部屋に入ろうぜ!」 康太はドアをノックすると「入室を許可します!」と声が掛かり、貴賓室のドアを開けて部屋に入って行った 康太が貴賓室に入って来ると閣下は立ち上がり康太に飛び付いた 「良かった……本当に良かった……」 閣下の康太を抱く手が震えていた…… 康太は閣下の背中をポンポンと叩くと、閣下は何時も通りの表情に戻り 「御無事で良かった……ずっとお待ちしておりました!」と軽く頭を下げた ソファーに勧められ座ると、閣下もソファーに座った 「彼の国から正式に親衛隊の方を配置されたと連絡が来ました 貴方の所へ行かれましたか?」 「はい、既に朱雀と共に動いています」 「そうですか、これからどう動かれますか?」 「相手が掴めねぇと動けねぇからな 取り敢えず目の前の蝿を追い払うしかねぇわな!」 「蝿……あの教団ですか?」 「しかねぇじゃねぇか! しかも時を越えて飛行機を飛ばしやがったそうじゃねぇかよ? んな、巫山戯た事をするのは、それなりの応酬は必要だからな 取り敢えず数を減らして貰うしかねぇ! 今後は返魂の力は弱まるだろうし、各国の神々の目も光ってるから、混じり者は即座に鏖殺される事となるだろう」 「我が国は……どの様に動けば……」 「他の国と足並みを揃えれば大丈夫だろ? 単独でやれる事じゃねぇからな! 女王の番犬には既に格好に情報を流し足並みを揃える様に伝えた」 「解りました、ならば我等も直ぐに動くとしましょう! お還りなさい康太…本当に良かったです」 「閣下、心配させて申し訳ねぇ だがもう大丈夫だ、主治医のお墨付きだからサクサク片付けてやんよ!」 「それは心強い……血塗れの貴方達を置いて逝かねばならなかった己を……少しだけ恨みました…… でもご無事な姿を拝見出来て良かったです」 閣下は康太の手を強く握り締めた 「閣下、家族も待ってるので今日はこれで失礼します」 「はい、早くお子に元気な姿を見してあげて下さい」 「はい、ではまた 毘沙門天、閣下を頼むな」 康太は毘沙門天に声を掛けた 「おー!任せておけ!」 康太は榊原と共に、貴賓室を後にした 閣下の部下に見送られ車に乗り込む 厳重なセキュリティを通り抜け、帰りも同じ様に帰る 一般公道に出ると康太は瑛太に電話を入れた 瑛太はワンコールで電話に出た 『康太!大丈夫なのですか? 一生から退院したとの一報を受けました』 「瑛兄?用事を済ませたかんな これから会社に顔を見せに行くわ!」 『父さんや母さんにも連絡を入れました 今宵は快気祝いをしようと申してるので料亭を予約しました』 「……んな大袈裟にしなくても大丈夫だぜ? そもそも、もっと早く退院しようとすれば出来たんだけど、しなかっただけだし…」 『君の好きな料亭に予約を入れました 榊原の家族の方にも連絡を入れたら、ご一緒にとの事でしたので、今宵は皆に元気な顔を見せて下さい』 「解った、取り敢えず会社に顔を出すとするわ!」 康太が言うと瑛太は『待ってます!』と謂い電話を切った 榊原は会社へと向けて車を走らせた 車内では康太は何も喋る事なく天を仰いでいた 勝機を呼び込んでいるのかと想ったが、どうやら違う様子に榊原はスピードを落とし 「どうかしましたか?」と問い掛けた 「伊織、路肩に車を停めてくれよ!」 と康太に謂われたから、榊原は路肩に車を停めた 「ここ数日、ある星が赤い光りを放っているんだよ」 赤い光り? 星が赤く輝く時、星の持ち主は生命の危機にあると謂う事を指していた 「え?………」 康太の言葉に榊原は不安な瞳を康太に向けた…… 赤い光……それは康太の果が狂ってしまう事態もある事を指していた 康太は榊原の手を取ると瞳を閉じて念を送った 榊原は康太からの思念を受け取り息を潜めた 「……!!!天宮を動かしましょう!」 「もう動かしてるんだけど、見つからねぇ…… 早くしねぇと果てが狂うかんな…… そもそも今世は果が狂いっぱなしだかんな…何が起きても仕方ねぇんだけどな」 「見付からない現状なれば、緯度を詠めばよいではないですか……」 「緯度は詠んで人を動かしているのに……現状は変わらない…… まぁ、弥勒も紫雲も動かして探る事にするとして、今宵は家族お共に過ごすんだ! 辛気臭せぇ顔はNGだかんな!」 「そうですね……」 榊原は会社へ向けて車を走らせた 飛鳥井建設の地下駐車場に車を停めると、一生は後部座席から下りた 辺りを見渡し安全を確認すると、榊原に合図を送った 榊原と康太は車から下りエレベーターへと向かう エレベーターはすぐに下りて来て、一生が先に乗って安全を確かめ「大丈夫だ!」と謂うと康太と榊原はエレベーターに乗った あんな事があった後だからついつい慎重になる 榊原はエレベーターを最上階まで直通で動かす為に鍵を差し込みボタンを押した そうすると他の階ではエレベーターは止まらなくなっていた 直通で最上階までエレベーターで上がると、康太は社長室まで向かいドアをノックした ドアは直ぐに開き瑛太が康太を抱き締めた ドアの入口でやるから秘書が瑛太の体を無理矢理動かし榊原と一生を招き入れドアを閉めた 瑛太は康太をソファーに座らせると秘書にお茶を淹れて来る様に頼んだ 榊原も一生もソファーに座ると 「体は?大丈夫なのですか?」と問い掛けた 康太は「もう大丈夫だ、元々少し前には退院出来る予定だったが来客があるから病院にいた方が面倒ないから入院していただけだ」と答えた 今回の怪我はテレビで大々的にニュースで流れただけあって見舞客も半端なく、病院で制限を掛けてもらっただけあって、飛鳥井の家には連日見舞客が押し掛けていた 入院中慎一が「応接間に置けないから源右衛門の部屋に入れておきました」と見舞いの量の多さに収集が付かないと報告してきた程だった 瑛太は「今宵は快気祝いをやるつもりです」と伝えた 「おー!皆と逢うのも久々だかんな なら時間まで仕事して来るとするわ!」と謂い康太は立ち上がり社長室を後にした 康太は副社長室のドアを開けて入ると一生に 「子供達を迎えに行ってくれねぇか?」と頼んだ 一生は「隼人と聡一郎が飛鳥井にいるから直に料亭の方へ向かうと想うぜ!」と答えた 榊原は重厚感のある机の前に座ると 「なら僕も仕事しますかね?」と謂い書類の山を片付け始めた 康太は真贋の部屋に移動して次のレースに出る馬のチェックを初めた 入院中も暇を見つけて片付けてはいたが、目を通さねばならぬ書類は山積していた 至急を要する書類を片付けているとドアがノックされた ノックと共に榊原が顔を出した 「康太、子供達は榊原の両親達と先に料亭に向かっているそうです」 「そっか、ならそろそろ仕事を止めるとするか」 「明日からは当分忙しい日々になりそうですね」 「だな、オレも真贋の仕事を再開させねぇとな」 「あっちの件は?どうするのですか?」 「貴史が還って来たら動くつもりだ」 「世界中の神々が……殲滅作戦に踏み切るのでしょうね」 「オレ等は亜細亜圏しか手が回らねぇからな 自分の国の事は自分の国でやってもらわねぇとな 朱雀がエドワルドを使って各国に情報提供したかんな、どの国も面子に掛けて動くしかねぇだろ?」 康太も率先して出なくばならなくなる時は近いだろう 康太はキリの良い所まで仕事を終わらせると、立ち上がった 「なら行くとするか!」 榊原は頷くと康太と共に真贋の部屋を後にした その夜、料亭を借り切って榊原と康太の快気祝いは行われた 久しぶりに見る元気な顔に家族は安堵の息を付き、飲み明かした 子供達も元気そうな両親の顔に嬉しそうに笑っていた 多くは語らず皆無事を喜んでいた 帰って来てくれるだけでいい………と家族はそんな思いを飲み込み夜が更けるまで宴は続いた 兵藤は半年近く姿を消していた 両親には定期的に連絡は入れているが、連絡を取ろうとした友人達は連絡が付かないと心配していた 何処へ行ったんだろ? 消息を知ってそうなのは飛鳥井康太だけだろうから……誰も何も聞く事は出来ずにいた 兵藤はパッと見美人のジョセフィーヌ・アデレーゼ・フィッツロイとエドワルド・ノーツ・レォパドール侯爵と共にかの教団の反魂の術で生まれた人間の殲滅に当たっていた 美人だけどスカートを捲りあげパンツ丸見えにしても恥じらいもなく役目を完遂する美人と 目が痛くなる程のイケメンだか、暇があれば愛の言葉を吐き散らすイケメンに辟易していた 仕事は完璧なんだが、いかんせん……二人共変なのだ 兵藤は「もぉ還りてぇ……」とほとほと困り果てていた 康太とは毎日定時連絡をして、次のミッションまで時間が空いたら還ってはいるが…… 毎日 毎日ハードな生活にクタクタになっていた それも後少し……頑張れ俺…… 女王の番犬は今日も吠えまくりパンツ見せまくりで奮闘していた 戦闘やるならスボン履いてくれ……頼むから…… 今日も兵藤の心の声が虚しく響くのだった

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