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第74話 窮途末路③
飛鳥井瑛太は一生にテイクアウトで頼んだサンドイッチを託すと、一生にタクシー代を手渡して会社へと戻った
会社に戻るやいなや瑛太は母 玲香を社長室に呼び出した
玲香が社長室にやって来ると瑛太は
「母さん、此れより烈の着替えを持って熊本へと向かって下さい
慎一が一足先に熊本にいます
何処にいるかは慎一に連絡を取って出向いて下さい」
とサラッと言い捨てた
玲香は「熊本かぇ?熊本へ逝けと申すのか?」と何が起こったのか解らなくて口にした
「ええ、烈の着替えをお願いします
慎一が熊本に久遠先生と共に行っているので、場所は慎一に聞いて下さい
此れより先、女手は必要となるでしょう
頼めますか?母さん
明日の飛鳥井に宗右衛門は欠かせない……何としてでも烈を頼みます!」
瑛太は深々と母に頭を下げた
玲香は「真矢に知らせても……よいか?」と問い掛けた
烈の産みの母は榊原の母親の真矢だった
「吐血したとあるので……輸血が必要なれば真矢さんも同行して貰った方が助かりますが……烈の事……私は伝えられませんでした
なので……伝えて大丈夫なのでしょうか?」
「後から聞かされるならば、その場にいたい筈じゃ!
それでは我は真矢に連絡を取り熊本へ急ごうぞ!」
玲香はそう言い社長室を後にした
瑛太はその姿を見送り……机に戻り仕事を始めた
飛鳥井の家に戻ると玲香は真矢に連絡を入れた
ワンコールで「姉さん、御用ですか?」と真矢の声が受話器から聞こえた
玲香は覚悟を決めて
「真矢、我と共に熊本へ行ってはくれぬか?」と問い掛けた
「熊本ですか?
良いですよ、今は仕事もクランクアップして何も入ってないので何時でも大丈夫です」
「なれば…これから飛行機のチケットを取る故……着替えを用意出来たら飛鳥井へ来てくれぬか?」
「解りました、これから支度をします故少し掛かりますが用意出来次第そちらへ向かいます」
真矢はそう言い電話を切った
玲香も電話を切ると、烈の部屋に行きバックを手にすると着替えをバックに詰め込んだ
着替えを詰め込み終わるとバックを手にして烈の部屋から出た
すると、一生が子供達と共に還って来た所でバッタリ出会した
一生は手にしたバックを見ると
「ひょっとして……義母さん……熊本へ逝かれるのですか?」と問い掛けた
「瑛太が行ってくれと頼んで参った
此れより我は真矢と共に熊本へ向う」
「真矢さん?真矢さんと共にですか?」
「真矢は烈の母だから何かあった時輸血とかお願い出来るからな……頼んだのじゃ」
あぁ………そう云う事か……
何処までも用意周到な瑛太に一生は
「飛行機のチケットは取りましたか?」と問い掛けた
「まだじゃ……」
「なれば俺が取ります!
烈の事……頼みます」
玲香は頷くと烈の荷物を持って自分の部屋へと急いだ
キャリーバッグを出してトランクの中へ自分の着替えを詰め込み、烈の着替えの入ったバックをトランクの上に乗せて縛った
一生は玲香を見送って……心配そうにしてる子供達に声を掛けた
「烈は大丈夫だ!
お前達の元に必ず還って来る!」
一生の言葉に翔以外の子は頷いた
翔には視えるから騙されてはくれないと解っていても、それで通すしかない
翔は兄弟を不安がらせない為に何も謂わない
子供達は一生からサンドイッチを受け取ると、見計らった様に栗栖が来て課題をやる事となった
一生は応接間へと向かい飛行機のチケットを取る為にPCを開いた
直近で取れるチケットはないかと探す
どれも埋まっていて、その日のフライトは不可能に近いと悟ると一生は携帯を取り出した
一生はコネが使えないか三木繁雄へと電話を入れた
ワンコールで出た電話の相手は『おー!一生どうした?』と嬉しそうに電話に出た
「頼みがある」
『聞ける話ならばお聞き致します!』
「熊本までの飛行機のチケットが取れねぇんだ
何とかならねぇかな?」
『熊本?誰が行くんだよ?』
「飛鳥井の義母さんと榊原の義母さんだ」
只事ではないと三木の嗅覚が訴える
『慎一も熊本に逝くってチケットを用意したけど、それに関係ある?』
「あぁ、烈の命が掛かってる……」
慎一は理由は決して謂わなかった
謂わない奴だから聞くだけ徒労だと聞きもしなかった
だけどまさか………烈の命が掛かっているとは……
『二人ならセスナに乗れないか聞いてみる
飛行機はキャンセルがないか堂嶋辺りにも声をかけてみる
少しだけ待っててくれ!』
三木はそう云うと電話を切った
そして堂嶋正義へと慌てて電話を入れた
忙しいのか?大分鳴らしてやっとこさ堂嶋が出た
『繁雄?どうした?』
「正義さん、飛行機のチケット取れないですか?
セスナを飛ばしても良いけど、乗る人が女性だから……長距離無理させられなくて……」
三木は少しパニックになっているのか?早口で訴えていた
『女性?誰のチケットが必要なのか理由を話してもらえるかな?』
「私も詳しく聞いた訳ではないが、烈の命が掛かっている……とだけ一生が言ってました
だから玲香さんも真矢さんを熊本へ行かせる……と」
堂嶋は『烈?……烈がどうかしたのか?』と要点を得ない話に問い返した
「今 一生から電話があった、烈の命が掛かっている……と。
一生がそう話していたから間違ってはいないと想う……」
『え!………あんなお子様なのに、命の危険にさらされているのか?』
「ええ、私も玲香さん達と共に行くつりです!
だから飛行機用意出来ませんか?」
『ならば俺も行くとしよう!
勝也さんの奥方が小型の飛行機を持っていた
それを借りられないか聞いてみる!
また掛け直す!』
堂嶋はそう言い電話を切った
電話を切った堂嶋は慌てて安曇勝也の所へ電話を入れた
安曇は3日前は公用で地方に飛んでいたが、今は還って来ている筈だと踏んで電話したのだった
直通の携帯だったから安曇は直ぐに電話に出た
『正義どうしました?』
「親父、確か奥方が小型の飛行機を持っていると、かなり前に言ってましたね?」
『ええ、妻の亡き父が所有してた飛行機です』
「それ今もありますか?」
『ええ、千葉の方の飛行会社にメンテナンスを頼みつつ管理して貰っています』
「それ、貸して貰えませんか?」
『良いですが、理由を聞かせて貰えませんか?』
「一生から連絡があったと繁雄から連絡があったんです
繁雄の話によると烈が……命に関わる状態だとかで、玲香さんと真矢さんを熊本へ送りたいとの事です」
『烈!………あの子は今熊本にいるのですか?
3日前、公用から還って来たら小学校入学の祝を兼ねて烈と逢う約束をしているのですが、キャンセルされました
あのお子様は忙しい様なので、用事かと思っていました
それが……命に関わっている状態ですって!
私も逝きます!
康太は今外せない役務で倭の国にいない……ならばあの子の父としてフォローせねばなりません!』
謂えば安曇は黙っていないと解っていて……堂嶋は敢えて烈の名を出したのだった
安曇は秘書を動かして千葉に在る飛行機で熊本まで飛べるかチェックして、飛べるならば羽田横の小型飛行機の滑走路まで直ぐに来てくれと言い付けた
秘書は慌てて千葉の管理会社に連絡を取った
管理会社はメンテナンスをして最終チェックをした後、大丈夫ならその飛行機で羽田まで飛ばすと約束してくれた
無理そうなら他の飛行機で羽田横の小型飛行機の滑走路まで向かうとも言ってくれた
秘書は直ぐ様安曇に伝えた
その言葉を聞き安曇は堂嶋に連絡をした
「羽田の横に小型飛行機の滑走路があるので、そこまで玲香さんと真矢さんをお連れしてくれ!
住所と地図は秘書が添付して知らせてくれる」
『了解しました』
堂嶋は安曇との電話を切ると三木へと連絡を入れた
ワンコールで出た三木は『どうでした?』と心配そうに問い掛けた
「了解を取れました
地図は安曇の秘書から添付されたので、それを送るので、そこまで玲香さんと真矢さんをお連れして下さい」
『ありがとう……本当に正義さんありがとう』
三木の声は震えていた
三木は堂嶋との電話を着ると一生に連絡を入れた
「安曇さんの飛行機を借りれる様になった
これからお二人を迎えに行く」
『あぁ、義母さん達を頼むな
俺は……遺って掃除しねぇとならねぇからな逝けねぇんだよ』
「お前はお前のやることを完遂しろ
私は玲香さんと真矢さんをこの命に変えても必ずや烈の元へ送り届けると約束する!
此れよりお二人を迎えに行く
近くまで行ったらラインするので、外に出てくれるように頼む!」
三木はそう言うと電話を切った
一生は着替えを詰め応接間にやって来た玲香に
「三木が迎えに来てくれます
飛行機は三木に頼んであるので、三木が連れて行ってくれるそうです!」と伝えた
玲香は三木まで出て来た現状に
「それは悪い事をしたな……」と申し訳無さそうに呟いた
応接間のソファーに座り真矢が来るのを待つとスーツケースを引っ張った真矢がやって来た
真矢は玲香から連絡があった時、何事か起きているのだと察した
察して何も言わず玲香に同行する為に支度をして飛鳥井に来たのだった
「姉さん、支度が整いました」
何も聞かない真矢に玲香は「呼び寄せて済まなかったな……いざと謂う時にお主に傍にいて協力して欲しかったのじゃ……」と心中を吐露した
三木から連絡が入り『もうすぐ着く』との事、一生は
「お義母さん、車が着きます」と声を掛けた
玲香は立ち上がり玄関へと向かった
真矢もそれに続き玄関へと向かう
玄関の外へと出て車を待つと、ワゴン車が停まり、三木が後部座席のドアを開け
「お待たせしました」と声を掛けた
玲香と真矢はトランクを先に渡すと、三木は空いてる座席に荷物を置いて、二人を車内に招き入れた
玲香と真矢が車に乗ると三木は
「お二人は必ずや烈の所へお連れする!」と一生に声を掛けた
一生は頷いて走り出す車を見送った
車が視界からいなくなると瑛太に
「お二人は三木が必ずや烈の所へお連れして下さるそうです」とラインした
直ぐ様瑛太から『そうですか、ならば君は真贋の意向通りに動いて下さい』と返信が入り、一生は地下駐車場へと向かい自分の車に乗って走り出した
明日の飛鳥井へ繋げる為に………
玲香と真矢は三木の車に乗り込み、羽田近くのプライベート飛行機が停めてある小型飛行機の滑走路へと向かった
堂嶋からナビ付きで添付された所へと向かったのだった
車から下りると堂嶋が駆け寄って
「直ぐに飛べるそうだ!
早く乗ってくれ!」と声を掛けた
三木は堂嶋に玲香の荷物を手渡すと、自分は真矢の荷物を持って足早に飛行機へと向かった
スタッフに荷物を託すと飛行機に乗り込んだ
玲香は飛行機の中に安曇の姿を見つけると、深々と頭を下げ
「私用でお主まで引き出し……申し訳なかった」と謝罪した
安曇は「烈のピンチだそうだから何があっても康太の変わりにサポートするつもり故、来てしまいました」と笑った
堂嶋に促され空いている座席に玲香と真矢を座らせた
堂嶋と三木も座席に着くと、客室乗務員が出て来てシートベルトの確認をした
飛行機の中は贅沢の限りを尽くした内装になっていて、玲香と真矢は驚いていた
そして何より何も聞かされていないのに、何度も何度も烈の名が出て……真矢はやっとの想いで
「烈に何かあったのですか?」と問い掛けた
三木は驚いた瞳を玲香に向けた
玲香は「何も申さず真矢を呼んだのじゃ…」と苦痛に表情を歪めた
玲香は真矢の手を取ると強く握り締め
「烈の命の危機なんだそうじゃ……
我もそれしか聞いてはおらぬ……多分瑛太も一生もそこまでは知らぬのであろう……」と言葉を紡ぎ出した
真矢は「烈が………」と唇を押さえた
「お主を呼んだのは烈が吐血したとの事だったから……輸血が必要になったら……最悪の事態を回避せねばならぬ故……済まぬ真矢…何も知らせず騙し討の様にお主を呼び寄せた
どうか烈を助けてやってくれぬか……」
「姉さん……烈の危機なのですね
………あの子はまだ……幼稚舎の年長さんなのに……」
春になったら初等科に入学する
にーにたちといっしょなんらよ!
そう言い嬉しそうに教えてくれたのは……つい最近だったのに………
あまりの衝撃に真矢は目を瞑り、自分を落ち着かせ、気丈な声で
「大丈夫ですよ姉さん
こんな所で命を落と事になれば、日頃の鍛錬が足らないのだと、蹴り倒してでも目を醒まさせてあげますとも!」と言い嫣然と笑った
真矢も立派に飛鳥井の女だった
不安も悲しみも全て胸の内に収め、己を奮い立たせる様に笑うのだった
玲香は真矢の笑みを受けて、己の不甲斐なさを悔いた
そして嫣然と笑って
「そうだわいな、宗右衛門を継ぐ者が飛鳥井の轍から離脱しようものなら、蹴り上げてでも目を醒まさせねばならぬな!」
と言葉にした
言葉にしたら必ずや完遂せねばと心が強くなる
弱音を吐いたらそこで終わると知っていて……
玲香は不安に挫けてしまいそうになっていた
真矢の方が我が子の危機で心臓が張り裂けそうになっているに違いないのに………
堂嶋と三木は飛鳥井の女の強さを目の当たりにして言葉もなかった
誰よりも我が子を思う想いは強いだろうに……
真矢と玲香は互いの手を強く握り締めて、耐えている様だった
だが誰よりも強く……明日を信じて笑っていた
飛行機は熊本へ向けて飛び立っていた
玲香は飛鳥井の家を出る時、慎一にラインを入れた
「此れより瑛太の指示で熊本へ向かう
真矢も同行する故、お主が何処にいるか教えてたもれ!」……と。
慎一は玲香のラインに驚き、真矢も同行するの文字に瑛太の配慮を読み取った
慎一は今滞在している宿の住所を玲香に送信した
そしてその宿には久遠医師も康太の指示で待機している事を伝えた
玲香は三木に慎一とのやり取りのラインを見せた
「この住所に慎一は滞在しておる
そこへ熊本へ着いたら連れて行って欲しいのじゃ!」
三木は玲香から携帯を受け取り堂嶋と共に見た
久遠医師も滞在している現実に、二人は顔を見合わせ、この状況がかなり切迫した状態なのを察した
堂嶋は直ぐ様慎一が宿泊する宿を調べた
熊本の空港からは半日は走らせなければならない所だった
堂嶋は三木に「セスナかヘリ調達した方が早く着かないかな?」と問い掛けた
「ですね、でも5人乗れるセスナありますかね?」
「日本では一般的にパイロット込みで四人乗りが定番だからな無理かもな………ならヘリコプターか…」
「ヘリコプターは揺れるから……御婦人にはキツいのでは?」
「………だな、なら半日かけて行くしかないか…」
堂嶋と三木が思案する
自衛隊のヘリでも飛ばせられたら楽なんだけど、私用で使えるコネではない
またそんな事などすれば、世論はここぞとばかりに非難の声を上げる
堂嶋は慎一に電話を掛けた
ワンコールで相手が出ると堂嶋は
「慎一、お前、その場所までどうやって行ったんだよ?」と問い質した
『車で行きました』
「半日かけてか?」
『はい、それしか手段は有りませんでした
久遠医師が長時間のフライに耐えれず、浮遊感が気持ち悪いだの、地に足が着いてないのは許せん!鉄の塊が空を飛ぶのはもっと許せん!と怒り出してキレてましたが、我慢して貰いやっとの想いで飛行機から降りたので……それ以上は飛ぶのは無理でした
まぁ車の移動もケツが痛てぇだろうがれとキレまくりでしたが………』
慎一の苦悩が目の浮かぶ
あのスボラで武尊で怖いものなど何もないと豪語する久遠医師を連れて行ったのだから……
「すまんな慎一、御婦人を連れての長丁場だからな、ショートカット出来ないか思案中なんだよ」
『あぁ、俺もセスナかヘリコプター飛ばしたいと想いましたからね……
免許はありますが、飛行機酔いが酷い久遠先生が御一緒だったので断念しました……
これ以上揺れる乗り物に乗せる方が怖かったので……』
至極残念そうに口にする
飛行機が苦手だとは……久遠医師の人間味溢れる一面に苦笑しつつも、堂嶋は驚いた声で
「慎一お前……小型飛行機の免許とヘリコプターのライセンス免許あるのか?」と問い質した
『はい、主と離れている時に幾つかの免許や資格を取りました
その中に幾つかのライセンス免許も習得済みです』
呆気に取られるとはまさに此の事だ
だが慎一は何かあっても動けない旨を伝えた
『烈が貴史と聡一郎を連れて出掛けて半日が過ぎました
何時連絡が来るか待機中ですので、俺も迎えには行けません
連絡があれば即座に救急隊員と連絡をつけているので現地に飛ばねばなりませんから……』
「解っている……此方はツテを探して何とかする
また連絡入れる!」
そういって電話を切った
三木と安曇は友人知人に連絡をしまくっていた
三木も地元に強い議員に当って電話をかけていた
忙しそうに方方に連絡を入れている安曇と三木を見て、堂嶋も心当たりへ電話を掛け始めた
玲香はそんな忙しそうにしている三人を見て覚悟を決めた様に真矢の手をギュッと握り締め
「我等の心配など今は思案せずともよい
ヘリコプターが飛ばせるなら、我等はそれに乗り込む故、手筈を頼む!」と言葉にした
堂嶋と三木は二人を見た
どんな苦境な所だろうが、それが一番の近道なれば、どんな境遇だとて堪えてみせる気迫が二人にはあった
二人の覚悟を汲み取るように堂嶋と三木は必死に動かせるヘリコプターを探した
三木が何処かへ電話を入れ交渉をする
そして話がまとまると
「熊本新聞社の友人がヘリコプターを貸してくれました
この飛行機を下りたら新聞社へ向かってヘリコプターに乗り込みます!」と今後の予定を口にした
堂嶋は「全員乗れるのか?」と問い掛けた
「今日は使う予定のないのが一台あるそうです
そして阿蘇山上空から火山の様子を取材するヘリが一台あるそうなので、それに乗り込めば人数分は飛べるそうです」
「そうか……」
堂嶋が呟くと安曇が
「私の方からも烈からの要請が有り次第駆け付けて貰えるようにお願いをしておきました
安曇勝也個人てしてのお願いだと旧友に頼んておきました」と玲香と真矢を安心させるように言った
飛行機は順調に皆の想いを乗せてに熊本を目指していた
玲香と真矢を見送った一生は飛鳥井琢磨の身辺を探るように動いていた
少し動いただけでも解る程に、かなり派手な生活を送っていた
琢磨の妻は今乗りに乗った女優 上間美鈴
豪華で派手な結婚式はテレビ中継され不景気なこの御時世に、えらい羽振りのいい話だと思った程だった
上間美鈴をネットで検索すると所属事務所が出て来た
須賀直人の所属事務所だと確認すると、一生は携帯を取り出した
『須賀です』
重低音な声が耳あたりよく聞こえる
「御無沙汰しております、緑川一生です
今日は直人さんにお聞きしたい事がありお電話しました」
一生の何時もより真剣な声に須賀は息を呑むと
『お聞きしましょう!
此れよりの仕事は入れませんので、出来れば事務所までお越し下さい』と長丁場になりそうな話だと察してそう言った
一生は「では今から向かいます!」と言い電話を切った
瑛太が一族との話し合いを終えて直ぐに、桜林学園の大学で教鞭をとる剣持陽人に、飛鳥井琢磨と上間美鈴のどんな些細な情報でも調べてくれと頼み、探偵事務所を構える久我山慶一に飛鳥井琢磨と上間美鈴の詳しい身辺調査を依頼した
何処にそこまでの資金があるのか?
かなり派手な生活をしている上に、成城に2億は下らない家を建設中とあるのだ
そんなに儲かっているのか?
女優ってそんなに儲かるのか?
まぁ儲かるのだろう………
だが、榊原の母親である真矢も女優だが派手な暮らし向きは一切せず、質素倹約とまでは行かないが、常識の範囲の金銭感覚を持ち合わせていた
一生は車を走らせ須賀の事務所へと向かった
飛鳥井の家から道路が混んでたから1時間半近くかけて一生は都内にある須賀の芸能事務所へと到着した
車を指定された来賓用のスペースに駐車すると、一生は事務所へと入って行き受付に声をかけた
「緑川一生です
アポは取ってある筈なのですが?」
一生がそう言うと受付嬢はにこやかな笑みを浮かべ
「伺っております
社長がお待ちです、どうぞ!」と迎え入れてくれた
一生は事務所奥の社長室を目指しドアをノックした
すると待ち構えていた須賀がドアを開け一生を部屋の中へと招き入れた
一生のオーダーメイドのスーツを見て須賀は只事ではないと察した
そして一生がソファーに座ると
「それではお話をお聞き致します」と居住まいを正した
「そちらの事務所に上間美鈴と謂う女優がいますね?」
須賀は「上間?……そうです彼女はうちの事務所の女優です」と不思議そうに所属する女優を思い浮かべて問い質した
「それでは単刀直入に聞きます
彼女は人気な美容室を潰せる程に力を持っているのですか?」
「ちなみに人気な美容室とは?
どれだけの規模ですか?」
「都内に20店舗 都下や近隣の県に30店舗営む【 R 】と言う美容室です」
須賀は思い浮かべた様に何やら考え
「何ヶ月も先しか予約も取れないと言う美容室ですか?
…………彼女にそんな力はありませんよ?
彼女は我が事務所でも中堅どころではありますか、春頃炎上させた事件のせいで人気も翳りを見せてましたからね
それが結婚してトレンディ女優に成り上がりはしましたが……まだ何一つ発信はさせてません
すべての言動、行動は事務所が把握してます」
「春頃の炎上?それは聞いても差し支えありませんか?」
「交際していた男性俳優にストーカー紛いの行為をしてたんですよ上間は……
日々の生活において束縛が強く、思い通りにならないと罵声や恐喝めいた言葉で脅し、支配していたそうです
男性俳優はそんな彼女から逃げると、挙げ句ストーカー行為で付き纏い……男性俳優はノイロゼになって入院したんですよ
それなのにブログでは結婚間近と匂わせたりしてて、それにキレた男性俳優がそれを全面否定した
それで彼女の虚言癖が明らかにされ……人気も翳りを見せて来ていたのです
訴えると言う相手を宥めて何とか向こうの事務所と示談と接近禁止の誓約書で手打ちにした経緯があります…」
「なら彼女には美容室を潰せる力なんてないんですか?」
「ないでしょうね
ブログも今は止めている今 逆立ちしても無理でしょう
そもそも彼女にはそんな発言力なんてありません
榊原真矢クラスの女優ならまだしも、スキャンダルを糧にしてるインフルエンサークラスの存在にすらなれていない
春頃の炎上で顔を見るのも嫌な女優に入っているようじゃ……難しいでしょうね」
その話を聞いて一生は上間美鈴が妻子ある男性に結婚を迫り、妻子を捨てさせ結婚をした話をした
須賀はその話を聞いていなかったらしく驚いた顔をしていた
「………美容師は妻子がいたのですか?」
「ええ、イビってイビってイビり倒して捨てた……
まぁこの件に加担してたのは、経営者と妻、即ち上間美鈴の旦那の親もだがな
自分達が守り続けた美容室を護る為にやった事だが……夫妻はかなり悔いていた
奥さんの方は……嫁を追い出した後に癌が発覚して……天罰が当たったんだと治療もせず死を受け入れ苦痛と戦ってるそうだ……」
須賀は言葉を失った
「……上間が追い出した奥さんは……どうされているのですか?」
「亡くなった……そしてその子も今は虫の息だ
烈がその子を助ける為に出向いた……それでその子の親を調べていたんだよ」
須賀は顔を覆った
「私は………上間が言っていた事だけ信じていました
盛大な結婚式をテレビ中継する為に……手を貸した
踏み躙った妻子の事など知る由もなく……上間の人気を上げるのに手助けしてしまっていたのですね………」
「なぁ直人さん……あの盛大な結婚式3000万はしたって聞いたけど?」
「ええ、招待客だけでも1000人はいましたから……テレビ中継で半分は元は取れると想います
後、招待客のご祝儀もありますからね
実費はそれよりも半額より低いでしょう」
「成城に2億の新居も建設中だとか
はっきり聞くけど上間美鈴ってそんなに儲けているのか?」
「さっきも言いましたが、炎上騒動の前ならば清純派女優でかなり稼いでました
今は妹の方が稼いでいるでしょいね」
「妹?」
「立花梨花、は美鈴の妹です」
テレビをつければ必ずやCMとかでお目に掛かる女優、それが立花梨花だった
一生は妹を思い浮かべ、成る程と納得した
「なら、その資金は琢磨が調達してるのか?
………人件費や経費はかなり嵩む一等地のテナントに店を構えていても、そんなに儲かるものかな?」
「それは私には解りませんが……これを!」
須賀は上間美鈴の年収の資料を一生に渡した
一生は資料を受け取り目を通す
そして携帯を取り出すと
「Rの店の収支、どうなってるか?調べてくれ!」と何処かへ電話を入れた
須賀は一生が電話を切るのを待って
「康太は元気ですか?
最近逢えてないので今度時間を作って下さいと伝えておいて下さい!」と頼み事を口にした
「康太は今倭の国にいねぇからな
還って来たら時間を作る様に秘書に通しておくわ!」
「……倭の国にいないのですか?」
「もう3ヶ月は還ってねぇな
伊織の誕生日も康太の誕生日も本人不在で祝えてねぇからな」
「康太は何処にいるのですか?」
「今は解らねぇな
少し前はイギリスにいたらしいけど、今は解らねぇ……
貴史も還って来たからな、そろそろ還ると想ってる」
「そうですか……君は御一緒じゃないんですか?」
「俺は烈が命を張って頑張っている今、真相を究明しねぇとならねぇ!
これは飛鳥井の家の事だからな
康太が還って来て膿を出せる様に徹底的にならねぇとならねぇんだよ!」
「烈は……大丈夫なのですか?」
「あぁ大丈夫だ………と言いたいけど、命を削って吐血したって聞いた
だからこんな非道な事をやった奴らを、俺は許しちゃおけねぇんだ!
勿論ちゃんとツケは支払ってもらうつもりだ!」
「私で力になれる事があるなら、何でも言って下さい!
どんな事だって力を貸します」
「ありがとう直人さん
総てを白日の元に曝す……そしたら直人さんに迷惑かけるかも知れねぇ……」
「構いませんよ
私の命も私の事務所も君達が救って繋げてくれた命だ
君達の役に立てれるなら本望です」
一生は上間美鈴の年収の資料を手にすると
「この書類は貰っても大丈夫ですか?」と問い掛けた
「はい、スキャンダル以降の物しかありませんが……お役に立てられるなら、どうぞ持ち帰って下さい」
一生は書類を鞄にしまうと立ち上がろうとした
が、その時 依頼していた剣持陽人からURLが添付したラインが届いた
一生は座り直すと、ラインのURLを開いた
それを見た一生は固まっていた
須賀は「どうしたのですか?一生?」と心配して声を掛けた
一生は須賀に携帯を渡した
「直人さんは上間美鈴の裏ブログをご存知でしたか?」と問い質した
須賀は一生から携帯を受け取ると、画面を見た
そこには加賀が知らない上間のブログが展開されていた
「え……これは本当に本人が?」
と、須賀は信じられない想いで問い掛けた
「ええ、康太の駒からの情報です!
嘘偽りなどありはしません!」
上間美鈴のブログには着々と建設が進む新居の状況や美容室である旦那に髪をセットして貰って微笑む姿や高そうな店でディナーをしている日々の姿が綴られていた
紛うことなき本人のブログだろう
須賀は「………個人的な発信は許可などしてないのに………」と悔しそうに呟いた
トラブルメーカーと言っても過言ではない一面を持ち合わせた女優だった
一途で融通が利かない性格で恋人を病院送りした
今度スキャンダルを出せば……その女優生命など容易に断たれてしまうだろう………
「このURL……私にも送って戴けますか?」
「はい、今送ります!」
一生は総返事すると、須賀のラインにURLを添付して送信した
一生は気を取り直して立ち上がると
「今日は本当に無理なお願いを聞き届けて戴き、ありがとう御座いました!」と深々と頭を下げ礼を言った
「こちらこそ、本当にありがとう
またゆっくり時間を作って下さい!
食事でも……」
「はい、康太が帰って来たら連絡いれます!」
そう言い一生は須賀の事務所を後にした
一生を見送り、須賀は秘書に「上間美鈴のスケジュールを一旦止めなさい!
そして上層部と上間の関係者を呼びなさい!
集まり次第会議を開きます!」と命令した
事務所のスタッフは指示を受けて素早く動いた
須賀の事務所を後にした一生は瑛太に事の経緯をラインに入れておいた
この羽振りの良さは……あらかた想像がつく……
一生は飛鳥井一眞を引き取って行った飛鳥井義泰へ連絡を入れた
ワンコール出でた義泰は『なんじゃ?要件を言え!』と忙しそうだった
「飛鳥井一眞に話を聞かないと進まない、逢えるかな?」
『病院の横のマンション住居の方へ来ると良い!
そしたら志津子が取り計らってくれる』
「了解、直ぐに行きます!」
一生は電話を切ると車に乗り込んで、車を走らせた
運転をしていると瑛太から電話が入った
路肩に車を停めると一生は電話を取った
「はい!」
『御苦労様でした』
「義兄さんは知っていたのですか?」
『鴉からの報告書に目を通した時に書かれていました
……多分……給料の未払いなど、労基に駆け込まれたらアウトな労働環境だと想いますよ……
その他にも表に出ればかなりヤバい事をやっているらしいです』
「なら2億の豪邸も知っているのですか?」
『ええ、飛鳥井の一族に身を置く者の分際で、他県の建設会社に依頼して建設中だと書いてありました
まぁ疚しい事してるから依頼出来る筈などありませんよね?』
「これから飛鳥井一眞の所へ詳細を聞きに行って来ます」
『あの人は………多分知りませんよ?』
「え?………それは?どう言う事ですか?」
『息子が親を排除してやってる事ですからね……』
「ならば……息子の独断と言う事ですか?」
『そうでしょうね
嫌、薄々は知っていたのかも知れません
そして一眞はそれが真贋の耳に届くのも理解していた……』
一生は言葉を失って何も言えずにいた
『一眞の想いは………破滅のみでしょう………
あの人は飛鳥井の人間ですから……滅ぶ事しか願ってないでしょうね
真贋を無視したんです、自業自得だと想ってますよ
飛鳥井の人間は総てを真贋に委ねて果を約束される………それに背いたのです
覚悟はしているでしょうね』
瑛太の言葉に一生は悔しくて堪らなかった
「ならば………尚更一眞夫妻に逢って話を聞かねばなりませんね……」
『君ならそう言うと想っていました……
何かあったら連絡して下さい
動かせる駒をそちらに向かわせます』
「解りました、では後程!」
一生は瑛太との電話を切ると飛鳥井記念病院へと車を走らせた
暫く車を走らせ飛鳥井記念病院へと到着すると一生は関係者専用のスペースに車を停め、病院とは別の所にあるマンション専用の正面玄関へと向かった
一生はオートロックのドアを解除すべく専用コードを使いドアのロックを解除してマンションへと入った
そして携帯を取り出すと飛鳥井志津子に電話を入れた
ワンコールで電話を取ると志津子は
『マンションまでお越しですか?』と問い掛けて来た
「今エレベーターを待っています」
『今二人は別のフロアの部屋にいます
エレベーターに乗られましたら、7階でお下り下さい
エレベーターの前に私がおります
御案内致します』
一生はエレベーターの扉が開くと乗り込み7階のボタンを押した
「今エレベーターに乗りました
では宜しく!」
と言い電話を切った
エレベーターが7階で停まると志津子が一生を待っていた
志津子は一生がエレベーターから下りると
「一眞夫妻は康太が所有する部屋の一室に御座います!」と言い一生を連れて歩き出した
康太は真壁の土地に病院とマンションを併設して建てる際に自分が所有する部屋を幾つか残して売りに出していた
その部屋は未だに康太が所有して、その部屋の一つに住まわせていると謂うのだ
志津子は一眞夫妻がいる部屋へと連れて行くと、鍵を開けて「入りますよ!」と声を掛けて一生を部屋に招き入れた
部屋の中には痩せ細って明らかに薄明さを感じさせる様にソファーに座っている御婦人と、一族総会の時に逢った飛鳥井一眞が妻に寄り添う様に立っていた
一眞は深々と頭を下げ
「妻の八重子と申します」と妻を紹介した
八重子と呼ばれた妻は一生にソファーに座るように進めた
一生はソファーに座ると志津子も邪魔にならない様に腰掛けた
八重子は一生に深々と頭を下げると
「今更許しを乞うつもりは御座いません………
ですが、今暫く私のお話を聞いて下さいませんか?」
と申し出た
「あぁ、何なりと話されよ
その変わり此方の質問にも答えて下さい!」
「解っております……知っている事なれば総てお話して真贋の処分を待つつもりに御座います」
覚悟を秘めた声だった
それに応える様に一生は
「ではお聞き致しましょう!」と姿勢を正した
「琢磨の妻だった子はとても美しくて聡明で神に仕えし一族だと紹介を受け納得する程の美しい子でした
名を木葉(このは)と申す山の民の末裔と謂う事もあって、その名前になったと教えてくれました
息子が一目惚れして連れ帰り妻にしたのでした
よく働く子で、この子なら店を任せても大丈夫だと想える程に努力家でした
美容師の資格も取り夫を助けようと身を粉にして働き支えている、そんな子でした
私は木葉が大好きした
子が出来て幸せの絶頂にいました
店も安定して孫も働き者の嫁もいて……私達にとっても幸せの絶頂でした
ですが息子の悪い癖が出て来て……結婚して3年も過ぎよう頃には息子は他の女と遊ぶようになり家庭を顧みなくなりました
そんな時に連れて来たのが……上間美鈴でした」
一気に話した八重子は咳き込み、苦しそうに口元を押さえた
夫の一眞が妻の背を撫でる
その手は妻を労り共に苦しみに震えている様だった
八重子は姿勢を正すと夫の手をやんわりと押しのけて
「すみません……」と中断した事を謝罪した
一眞が「此処からは私が話しましょう」と妻の横に座ると話を始めた
「琢磨がある日突然 上間美鈴を連れて家にやって来ました
琢磨はこの人と結婚するから別れてくれ!と木葉に謂いました
私達は木葉を庇って反対しました
ですが………その日から恐怖の日々が始まったのです
上間美鈴は我々の家に入り込むと帰る事なく居座り続けました
そしてその頃から美鈴の支配が始まったのです
妻も私もろくな食事も睡眠も与えられなくなり……言う事を聞かねば食事も睡眠も与えてられなくなり、思考を止められ恐怖と痛みを与えられる日々が始まり……総てが美鈴の謂いなりになるしかなかった……
歯向かえば歯向かう程にそれは酷くなり……私も妻も……疲弊してろくな思考を持っていられなくなり……楽になりたい一心で美鈴の謂う事を聞きました
美鈴の下した命令は……日々……木葉を責めていびる事でした
わざとハサミを落として取らせた手を踏み付け……早く出て行け!と客のいない時にやらされました
そんな事から始まり身体的体罰や斬り付け……
それでも謂う事を聞かない木葉に美鈴は……木葉の子供の耀(ひかり)に食事を与えることを禁止し、子供を使って苛めをさせるように指示を出して来たのです
その頃には妻は体調を崩していました
過酷な日々のせいかと放置していましたが、癌が見つかり治療をする様に謂いました
だが妻は……木葉ちゃんをいびり倒して自分だけ助かる道などないのだと言い……治療を拒み働き続けました
私は………木葉に土下座して頼みました
このままではお前も何時か殺されてしまうだろう……
耀だって無傷ではいられない………だから逃げてくれ!と頼んだのです
木葉は私の思いを汲んでくれ家を出て行くと言ってくれました
そんな木葉に私達はせめて……思いの儘の所へ送り出してやろうと……家を出しました
木の葉が還りたい場所が……熊本の山間部だと知って其処へ送り届ける様にしました
それが木の葉の為だと想ったからです
今想えば……其処へ逝くのも……木の葉の命を削らせてしまったのですね……
それが総ての全貌です……」
八重子は泣いていた
嗚咽を漏らして泣いていた
一眞は涙を堪えていた、自分には泣く資格などないと耐えて唇を噛み締めていた
「一生さん………木葉は………この世を去ったのですか?
耀は………大丈夫なのですか?」
やっとの想いで問い掛ける
己の罪を認識するかのように問い掛ける
「母親は命を落としたと聞いた
だが黄泉に渡らずに我が子の傍に消滅覚悟でいると聞いた」
八重子は何と言う事を………と顔を覆って泣いていた
一眞は「では輝は……」と孫の安否を問い掛けた
こうなる事は何処かで解っていた
弱りに弱った木葉が望んだとしても……何もない山へと本人が望んだからと言っても逝かせた現実は消えはしない!
「子供の方は虫の息らしいが、烈が命を賭けて助けている死なせはしない、絶対に!」
「耀は………飛鳥井に縁のあるお子なのですか?」
「俺も詳しい事は聞かされはいねぇんだよ
兵頭貴史が朝早く慌てて走っている烈を見付けて熊本まで向かった事と、気をその子に送ってて体力が消耗して吐血したと聞いた
それで総代が次代の宗右衛門を欠く訳には行かぬ!と総代の母玲香と烈の実母を熊本まで向かわせたとの事だ」
「燿を………頼みます……
あの子には何一つ罪はない
あの子が背負うべき罪などないのです
総ては我等が招いた罪……何卒……何卒……耀と……木葉の魂を安らかな所へお導き下さい
そし耀の命を……救ってやって下さい……」
「一眞さんは……烈が宗右衛門の転生者なのはご存知か?」
「はい、新年のご挨拶の時、宗右衛門を継ぐ者と御紹介された……源右衛門と宗右衛門、そして竜胆を継ぐ者は転生し生を成すと飛鳥井の者なれば知らぬ者など御座いません!」
「竜胆ではないらしいが、欠かせぬ存在になる御方と謂う事は間違いはない」
でなければ宗右衛門が命を賭けて出向く筈などないのだから………
一生は一眞から聞いた上間美鈴の本性を聞き、須賀が言っていた事を思い出した
上間美鈴によって男性が病院送りにされた事を……
一生は携帯を取り出すと、須賀に病院送りにされた俳優は誰か?教えください!
気になる事があるので、その男性に聞いてみたいのです!とラインを送った
「ひょっとしたら同じ遣り口で疲弊させられて、まともな思考を封じられていたのか?」と独り言ちた
それだとあまりにも恐ろしい女だと一生は想った
マインドコントロールして己の自由に人を操る
逆らえば……相応の痛みを与え人を支配していたのだろう……
一生は身震いをした
「志津子さん……女って恐ろしいですね」
静かに見守っていた志津子に一生はボヤいた
志津子は笑って
「その子は疑心暗鬼の塊なのでしょうね、きっと……どれだけ愛してると囁いたとしても彼女の耳には何も届かない…きっと全てを征服出来ねば欲望を満たされはしないのでしょうね……」と溜め息混じりに返された
「俺の周りにはいないタイプです……」
「そもそも貴方にマインドコントロールしようものなら、真贋に地獄に落とされますからね
誰も邪な気持ちで近付いたりはしませんよ」
志津子はそう言い笑った
一生はそれ笑えませんよ?志津子さん………と想ったが謂うのを諦めた
どうせこの人には敵わないのだ
その時、一生の胸ポケットに入れている携帯が震えた
一生は胸ポケットから携帯を取り出すと須賀からメールが来ていた
一生の問い掛けに須賀は即座に上間美鈴にストーカーされ精神を病んだ俳優の情報をラインで送信してくれた
まるで最初から聞かれる事が解っていたかの様な迅速な対応だった
一生は何も言わず須賀から送られて来た俳優の写真とプロフィールに目を通していた
「花柳悦郎(はなやなぎえつろう)……相賀んとこの俳優かよ?」
あぁ、相賀の所の俳優だったから示談で手打ちにするなんて芸当が打てたのだろう……
一生は納得していた
志津子は一生の携帯を覗き込むと
「あら、その子花柳会(かりゅうかい)の師匠のお孫さんね」
一生は志津子を見て「知っている人ですか?」と問い質した
「康太が師範代の免許を持つ師匠のお孫さんよ
今、そのお孫さんが体調を崩して入院してるとかで師匠は大変気に病んでおいでなのよ」
「この人は………上間美鈴がストーカーして病院送りにした人なんですよ」
「え?………そんな繋がりが………」
志津子は言葉を失った
「どちらにせよ、相賀と相談して逢わせて貰わねぇと話も聞けねぇからな………」
一生が独り言ちると志津子は意を決した様に口を開いた
「悦郎さんは気の病に掛かり精神の方の病院に入っているのよ……
師匠のお名前は花柳隆悦と言ってね
御家族想いの大変立派な御方なのよ
奥様の方も師範代を務める花柳花笠という方でね
このご夫妻は康太を大変可愛がってて今も交流があるわよ
そう言えば師匠が康太に逢いたがっていたのよ
康太にここ数ヶ月連絡が着かなくて残念がっておいでだったわ……」
「康太は今倭の国にいません……
俺も詳細は解りません……でも別行動だが兵藤貴史が還って来たので、そろそろ還って来るんじゃないかと想っています
まぁ康太は何処にいたって我等の動向は解っているでしょう、総て把握していると想いますよ
特に俺はアイツに魂を繋がれていますからね、総て解っていると想います」
一生の言葉に一眞夫妻は静かに瞳を瞑っていた
「所で志津子さん、義泰先生はどんな見立てをしていました?」
「全摘で再発の生存の可能性は3割」
「そうでしたか、ならばオペは何時に?」
「息子が還って来てからじゃないと無理だそうよ
長丁場になるから一人だと苦しい闘いになるそうよ」
「ならば烈を助けて戻って来て貰いましょうか」
「そうね、それが良いわ」
「ではそれまでお二人を頼みます!
今後の展開はお二人は関わらない方が良い……
酷な事でしょうが……人の命を弄んだ輩はそれなりの制裁を受ける!
況してや………木葉という子は山の民の末裔
神の僕を愚弄して貶めた………それなりの制裁を下さねばなるまい」
「お二人は覚悟の上でこの部屋に留まっておいでです………それだけの事を息子はしたと理解されている」
二人で築いたモノ総てを"無"に返す覚悟は出来ていると謂うのか……
一生は今更ながらに飛鳥井の"家"の重さを噛み締めていた
「………それでは俺は俺のすべき事をしに行きます!」
志津子は立ち上がると深々と頭を下げ
「見事完遂なされる事を御祈りしております!」と言葉にした
一生は立ち上がると一礼をして部屋を出て行った
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