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第75話 窮途末路④

兵藤貴史は道なき道を時速5キロ位の速度で大亀の後を追い走っていた 聡一郎も遅れを取る事なく後を着いて走っていた 大亀の歩く空間は時間の概念が取っ払われた様な空間で、走っても走っても何も見えない空間だった どれだけ時間が経ったのか? どれだけ進んだのか? 全く解らない……… 焦りが全身を包む そんな心の葛藤を知ってか?知らずか?大亀はノシノシと前に進んでいた 兵藤は焦れて山の主である大亀に「まだ着かないのですか?」と問い掛けた 『この山は神の聖域、我等が受け継がれし理であり 、我等の身の一部となっておる だが理通り迎えに逝けば間に合わぬ故、子は我等の聖域の中で過ごしておる そこへ行くのは身体への不可が相当掛かる故、ゆっくりと進まねばならぬ まぁ間に合わせてやる故大人しく着いてくるとするがいい! そすれば助けを呼べは、その命は先へと繋がれる事となる!」 そう言われればもう何も言えなかった 大亀はゆっくり振り返ると 「主の背中の子も我等の聖域にいるうちは息絶える事もないであろう…… もう虫の息ではないか……助けが来て手当されれば元気になる………絶対に我等が死なせたりなどせぬ! お主の背中の子も救いに向かう子も………」 覚悟に似た瞳を受けて兵藤は頷いた それからは黙々とバイクを走らせた 絶対に助けると心に誓って……… 飛鳥井玲香と榊原真矢が乗った飛行機は熊本の小型飛行機の停泊場に到着した タラップを下りて早足で空港の外に出てタクシーを2台呼ぶ 到着したタクシーに乗り込み熊本新聞社へと向かう 空港から新聞社までタクシーを飛ばして1時間近くは掛かる 運転手に急いでもらって近道を通って何とか新聞社の前まで到着する タクシーの料金は玲香が支払った もう一台のタクシーの料金は堂嶋が支払って、タクシーから降りた 三木はタクシーから下りると電話を掛けた すると直ぐ様三木の知り合いが走って会社の正面玄関から出て来た 「三木!準備は出来てる! 私と共に屋上へ!」 そう言い三木の友人はその場にいる者達を連れて屋上へ出られるエレベーターへと向かった エレベーターが来て乗り込むと三木の友人は 「私は桜林OBで熊本新聞社の社会部報道デスクに務める紺野と申します 失礼ですが、康太と伊織君の母上にあられますよね?」と自己紹介をして、その場にいる御婦人を確かめる為に問い掛けてみたのだ 玲香は「飛鳥井玲香に御座います!」と居住まいを正し挨拶をした 真矢も「榊原真矢に御座います!」と挨拶をした 紺野と名乗った人物は「光栄です!3日前に康太と伊織君から連絡があり、三木が助けを求めに来たら頼むとお願いされたのです! こんな形でお役に立てられて、康太に報いる事が出来て本当に良かったです」と嬉しそうに言った 三木は「康太から連絡があったのですか?」と悔しそうに問い掛けた 「ええ、Zoomでの会話でしたが、その時隣に東都新聞社の東条社長とモナコの女王がいてチビりそうになりましたけどね」 Zoomとはまた……意外な展開だった それじゃ何処にいるの解らないじゃないか! 紺野は脳天気な声で 「あ、その場に安曇総理も同席されていましたよ」 と言った 堂嶋と三木は安曇をじとーっと見た 「公用で出掛けていたのですよね?」 「康太と逢っていたのですね? 私なんかここ数ヶ月逢えてないのに……」 安曇は困った顔をして 「公用でモナコ王国にいました その場には映ってはいなかったが我が国の政財界の要人や、各国要人も同席していたのです 当然康太にプラベートで話し掛ける事は皆無で始終今後の話を世界各国の要人と話し合いってました 出席出来なかった国の要人達含めてZoomで会議していたのです 帰り際 康太が何かあったら頼むとだけ言ったので、この事なんだと想いました アジア圏内と欧州諸国の方は貴史がカタを着けてくれたので、後少しで康太も還って来られると想います」 内情を話した 政財界の要人らと共に仕事で行ったならばプラベートな話は皆無だと理解出来た 玲香と真矢は黙ってそんな会話を聞いていた 屋上に到着すると、紺野が搭乗するヘリコプターを指さした 「あのヘリに乗って戴きます 安曇総理と御婦人二人で此方のヘリにお願いします 堂嶋さんと三木は阿蘇山に仕事へ向かうヘリに同乗して戴きます 皆 同じ旅館の近くの山道脇の駐車場までお送り致します 到着は深夜を過ぎた頃になります ヘリは貴方方を送り届けましたら帰還する予定です」 紺野はヘリを指さした 安曇は示された方のヘリに玲香と真矢で向かい、乗り込んだ 堂嶋と三木もヘリに乗り込むと紺野は 「では、目的地まで良き飛行の旅を!」と言い手を振った ヘリは乗客を乗せるとエンジンを掛けて少しずつ上空へと昇って行った そしてかなり昇って気流を捉えると目的地へと優雅に飛んで行った 玲香と真矢は逸る気持ちを押さえつつ、やっと烈の近くへ逝けると………想うのだった 一生は飛鳥井記念病院の入ったマンションを後にすると、取り敢えず飛鳥井の家に還り、相賀の個人携帯へ電話を入れた ワンコールで相賀が電話に出た 「和成さん……話がしたいのですか……」 『須賀から大体の話は聞いています 花柳悦郎に関係した話だとか?』 「はい、可能でしたら本人にお逢いして話が聞きたいのです」 『………それは無理です……私も合わせてやりたいのですが、話は上間の件の事なのでしょ? やっと今 精神的に落ち着きを取り戻した今、主治医からも上間関係の話は遠慮して下さいとの事です』 「そうでしたか……そこまで………」 一生は言葉を失った 『悦郎の主治医でしたら………合わせられるので、まずは主治医に話を聞いて下さいませんか?』 「悦郎さんは無理ですか?」 『それら総ては主治医の判断に委ねてます 主治医が君と悦郎とを合わせても良いか判断してくれたら合わせてくれるでしょう』 「解りました……ならば主治医に逢って話を聞きます………  一度悦郎さんに合わせて貰いたいのですが、主治医に判断を委ねるなら、俺も従います ですが折角病院に行くのです、会えなくてもお花やお菓子を差し入れられる様に買って行きましょう! 偶然にも彼の祖父が康太の師匠に当たる方らしいので差し入れを、と考えたのですが……無理なら良いです」 『悦郎の祖父と謂うと花柳会の創設者ですか?』 「康太は踊りとお花とお茶の師範代の資格を持っているから、その師匠と謂う事だと想う」 『そうでしたか、それは彼も喜ぶでしょう』 「………何時……主治医に合わせて貰えますか?」 『此の後お時間があるのでしたら……… 鎌倉の海の見える場所にある病院は御存知ですか?』 「隼人の妻が入っていた病院かな? それしか海の見えるの病院はねぇからな……」 『一応……病院の住所を送ります 今は何処ですか?』 「飛鳥井の家にいます」 『なら飛鳥井へ向かいます 私は今 神野の事務所にいるので……』 「ではお待ちしております」 一生はそう言い電話を切った 暫くすると飛鳥井の家のインターフォンが鳴り響いた インターフォンを作動すると相賀が立っていた 一生はドアをロックを外すと玄関まで迎えに行き応接間に通した 応接間に相賀を通すと一生は 「今は家に誰もいないのでもてなしが出来なくてすみません!」と謝罪をした 相賀は「いえ、構いませんよ! 所で話をする前に……君は何処まで知っているのか?お聞きしても宜しいですか?」と問い掛けた 「俺は飛鳥井の家の事で動いていたのです 飛鳥井の家は特殊な一族で当主になる者の婚姻は真贋が果てを詠み結びつける掟があります なのに真贋に無断で婚姻をした一族の者がいました 飛鳥井琢磨と謂う男です 琢磨は真贋に無断で妻を娶り子を成した…… それだけでも許されない事なのに……… 琢磨は妻がいるにもか関わらず、女性と浮き名を流しその果に厄介な女に捕まった 再婚に邪魔になった妻をイビり倒して……無理矢理離縁させて家から追い出した…… それに関わったのが上間美鈴でした 上間美鈴は家に上がり込み家族を精神的に追い込み支配した その結果上間は琢磨の妻を追い出し妻の座をゲットし今に至る訳で、もしかしたら花柳悦郎さんも同じ手口で追い詰められたのか?と想っただけです………」 「あぁ………そうでしたね……上間は飛鳥井の者と結婚したのでしたね ですが、盛大な結婚式に康太の姿がないから……何故なのか?聞いた事があるのですが………物凄い剣幕で怒鳴り散らされ追い出されました…… 後で須賀が謝罪してくれましたが……その無礼な態度に腹を立てた程です  本当に何度思い返しても、示談で手打ちにしてやった事を後悔しました……」 相賀は心底疲れ果てた声で、そう言った 一生は事の経緯の全容を話した 事の発端は烈だと謂う事 その烈が今 命を削って助けようとしてるのが、追い出された嫁の子供だと謂う事 そして飛鳥井家真贋には一切の報告もなく、総ては上間の独壇場になっている事を話した 相賀は烈が関わっている事に驚いていた 「須賀からチラッと烈が関わっている事を聞きましたが、そこまで詳しくは聞いてはおりませんでした………そうですか、そんな関わりがありましたか………総ては主治医が話してくれます 悦郎がどうやって追い詰められて行ったか……全容をお聞きください………」 「解りました 所で和成さんはどうして神野の事務所にいたのですか?」 「須賀から連絡をもらったので、会社の者に送って貰いました 連絡が来たなら直ぐと行ける様に、近場で待機していたのです 此処まては小鳥遊君が送ってくれました」 相賀は免許を返上した だから移動は事務所の関係者が送迎していた だが一生と動くならば、と事務所の関係者は返して一生と共に動く相賀の配慮を感じた 「和成さん食事はしましたか?」 「いえ、まだです」 「ならば鎌倉に入ったら先に食事をしましょう 花屋が併設されたレストランがあるんです そこで美味しいお菓子と綺麗なお花を見舞いに用意してから向かいましょう」 一生の言葉に相賀は顔を綻ばせ 「それは良いですね」と言い立ち上がった 二人して地下駐車場まで出向き一生の車に相賀を乗せると、飛鳥井の家を後にした 相賀が示した地図をナビに入れ一生はナビ通りに走った 途中、花屋が併設されたレストランで相賀と軽食を取りお土産に店で焼いてるお菓子と花を買った そして再びナビの通りに運転を始めた 隼人の妻が入院していた病院の更に奥に、花柳悦郎が入院してると謂う病院が木々に囲まれ建っていた 「こんな場所に病院があったんですね」 一生は知らなくて相賀に問い掛ける様に言った 「隼人の妻が入院していたのは十年近く前でしょ? この病院はその後位に建ったらしいので、知らなくて当然です 車は関係者用のスペースに停めて下さい」 謂れ一生は関係者用のスペースに車を停めた 車から下りると相賀は一生を連れ立って病院の中へ入って行った そして受付は通さず奥の院長室へと進む 相賀がドアをノックすると「どうぞ!」とまだ若そうな声が響いた 相賀はドアを開けると一礼をして、一生と共に院長室へと入って行った 院長は一生を見ると柔らかく笑って 「院長をしております九鬼親也(くき ちかなり)と申します」と自己紹介した 一生は「九鬼?……きゅうのおにの九鬼ですか?」と訪ねた 院長は「流石康太の側近、そうです、きゅうのおにと書いて九鬼です」と砕けた感じで返した 九鬼家は斯波の家と並んで名家とされ共に切磋琢磨して共存して来た家だった まだ人の世に転生していなかった時、女神の泉で視ていた時に良く聞いた名前だった そうか……九鬼の家は今も共に在るのか…と漠然と想った 院長は姿勢を正すと 「それでは御要件をお聞きします」と顔つきも医者らしい顔になり眼光鋭く一生を見た 一生も居住まいを正すと 「花柳悦郎氏の病状をお聞きしたい それと……今後お二人の患者の依頼もお願いしたいのです」 意外な言葉に院長は「患者の依頼ですか?ちなみ何方なんでしょう?」と問い質した 「飛鳥井一眞とその妻 八重子に御座います お二人は……上間の支配により琢磨の嫁をイビってイビってイビりぬいた…… 精神的に追い詰められ自我を喪失していた時の行為に精神的にもかなり疲弊していて、治療とケアが必要となるでしょう」 「………お聞きしても宜しいですか? その支配とは………」 院長は悦郎のカルテを出して照らし合わせる気でいるのか問い掛けて来た 一生は一眞と八重子から聞いた話を一部始終話した 院長はそれを聞いてカルテを見て確かめるように目で追っていた そして全てを聞いて……院長はあまりの凄惨さに顔を覆っていた そして口を開いた 「そのお二人も治療が必要ですね 過酷な環境にいると神経は麻痺しますが、マインドコントロールから解けた後己の罪悪感に死を選ぶ方もいますから……早急に診察をした方が良いですね」 今現在の一眞夫妻の置かれた立場を鑑みて言葉にする 院長は一呼吸してから 「悦郎さんはそれ程は酷くはないが、四六時中付き纏われ、何もかも上間の思い通りに指示されて、逆らうと死んでやる!から始まり、殺してやると刃物を持ち出して追いかけ回す始末 結婚式は盛大にやりましょう!と拒否してるのも聞かず話を進める 周りの人間は二人が結婚するものだと想い祝の言葉を口にする ファンも皆……祝福し……自分だけが取り残され何が何だか解らなくなり……ある日突然悦郎君の心が壊れた 仕事中だと謂うのに叫び続け……泣き続け仕事にならず社長が事の詳細を把握した頃には既に遅く…… 悦郎君は癈人同然の抜け殻となり、この病院に運び込まれました その後も上間は何度も何度も悦郎君に会わせろ!と病院にまで乗り込んで来ましたが、会わせる事なく事態を公表して上間の虚言が明らかになったのです そうですか………上間は逃さない為に周りを取り込み………更にグレードアップしていたのですね」 院長は辛そうに言葉にしていた 一眞夫妻の心の傷を考えれば………やるせない想いで一杯だった 院長は「飛鳥井の家は遥か昔から真贋の言葉は絶対な筈なのに………時代なんですかね? それともこんなモンスターを妻にするだけあって……人の心を悪魔にでも売り渡しましたかね?」と胸糞悪さについつい愚痴を漏らした 一生は院長の言葉に……本物の悪魔ならば……我等はその様な事はせぬ!と怒るだろうな……と思いつつ 「悪魔に魂を売ったのかも知れませんね…… でなくば嫁と子をイビリ倒して追い出して死なせたりしませんからね………」と内心を吐露した 「妻と子供……生存確率を想像すれば解りそうな事ですが………頭がそれを考えるのを拒否してたんでしょうね そうですか………妻子は……既に?」 「母親の方はもう息絶えたそうです ですが子の方は……康太の一番下の子供が命を賭けて助けに向かっています」 「…………お子だけでも……助かるように祈ってます………」 「ありがとう御座います 烈はきっと完遂して帰還してくれると想っています」 その言葉に院長は頷き 「上間が悦郎君にして来た事は理解戴けましたか? それにしても悦郎君の事で懲りたかと想ったら悪化してましたか……… まるで昔あった事件の………一家を洗脳して殺し合いをさせて支配した事件の首謀者の様に……上間は常軌を逸脱しすぎた病的な行為が見受けられますね…… 悦郎君もそうですが、今一番心配すべきは夫妻でしょう…… 罪悪感に命を断ち兼ねませんね…… 一刻も早い診察を勧めます」 「奥さんの方は癌になっていたのですが……治療を拒み……贖罪の日々を送ってかなり進行しているそうです なので……直ぐにすべきはオペなのです それをするには烈が還らねば無理な状況にあります………」 「なれば私が出向きケアしましょう」 院長の言葉に一生は「え?……」と不思議そうな声を漏らした 「私は飛鳥井の家とは今も懇意にしている一族の者故……真贋が判断を下すにしてもケアは必要な筈です! オペが無理と謂う事は久遠先生がいないと謂う事なんですね? 義泰先生は御高齢ですから、癌のオペは長丁場になりますからね……」 「良くご存知で……」 「九鬼の家の者なれば、知っていて当たり前です 昔も今も九鬼家は斯波の家と共に在る!」 「ゴタゴタが片付くまで、お二人は隠れております!」 「ならばこの件にかかわっているのは神威殿ですか?」 「え?その方は存じません……飛鳥井の一族の方ですか?」 「そうです、烈さんが出ているとの事なので、そう思っただけです……ならば志津子さんですか?」 「そうです」 「ならばに訪ね近いうちに志津子さんに連絡を取り、訪問させて戴きます」 一生は深々と頭を下げ 「ありがとうございます」と礼を述べた 一生は知らぬ名前を出されてモヤモヤが残ったが、今はそれどころではないから深掘りするのは避けた 「緑川一生君、君は余計な話はしない人間だと判断するに相応しい人間でしょう 私がもし悦郎君と合わせても良いと言ったとしたら?君はどうします?」 「彼の為にお花とお菓子を買って来ました それを渡して、彼の心を落ち着かせるように雑談をして帰る そんな感じですかね、それを何度も何度も続ければ少しは心を開いてくれないかな? とは想っています」 「幾度も逢いに来る覚悟は決めておられるのですか?」 「はい、彼の心が少しでも前を向くのであれば手助けはしたいです それが関わった自分に出来る最大限の使命だと想っています」 「彼は今も朝も夜も関係なく魘され怯えて震えている……そんな彼を目にするのは……見ている側はとても辛いでしょう……それでも?」  「はい!」  一生の言葉を聞き院長は押し黙った様に目を瞑った そして何事か決めた様に、目を開き顔をあげると、院長は 「悦郎君に会われますか?」と問い掛けた 「え……良いのですか?」 「解ってると想いますが上間の事は一切話さないで下さい」 「解ってます、彼を苦しめる事はしません」 苦しんでいる人間の傷口を開いて塩を塗りたくる様な行為はしないと口にする 「これは賭けです………君と謂う外部と接触する事で引き起こす化学反応に期待していたりします」 心を閉ざして、何も興味を示さない悦郎に一生という刺激を与えて、引き起こす化学反応に期待していると院長は言った 「彼の苦しみを他人の俺が知るのは烏滸がましい話ですが……… 朝も夜もなく魘され、気を病んでいるなら菩提寺の陰陽師に相談して悪夢だけでも見ないように手を打ってみましょうか? 上間の事ですから、生霊でも飛ばしてそうですし………」 院長は「生霊……え?……まさか……」と呟いた 時々 物凄く怯えてパニックになり暴れるのは……まさか……… 「あの執拗さ執念深さを想えば………別れた今も生霊位飛ばして不幸になれと呪ってそうだなって……」 「笑い飛ばせられら良いんですけどね……有り得るから怖い…… 院長はそう想いブルッと身震いした 「うちの病院は最先端のセキュリティシステムを導入してるんですがね……」 まさかと想い口にする 「この病院はぐるっと見た目所、結界と謂う結界がないので、セキュリティで人は除外出来ても、そうでないのは軽々と入れるので、結界を張る事をお勧めします」 「ならば近々……結界を張るとしますか……誰に頼んだら貼ってくれます?」 「飛鳥井の菩提寺の陰陽師に頼んでおきます」 「頼みますね……それでは悦郎君の病室に行きましょうか!」 「はい!お願いします」 院長は引き出しから鍵の束を取り出すと立ち上がって院長室のドアを開けた 一生と相賀も立ち上がると院長の後ろに立った 「セキュリティの関係でドアを開けていられる時間が決まっているので、離れずに着いて来て下さい」 「了解しました!」 院長は一生と相賀が部屋を出るとドアを締めた そして歩き出す 長い廊下を歩いて行くとドアに突き当たった 院長はドアの暗証番号を押すと、カードを翳してロックを解除した このドアは鍵だけでは開かないシステムになっていた 万が一 患者が職員を襲って鍵を奪ったとしてもドアは開かない 職員全員違う暗証番号を保持して、職員全員違うカードを所持していた それらによってやっと開けられるドアの先に監視カメラは作動していた 院長は一生と相賀が入ると施錠してロックをした そして再び長い廊下を歩いて進んでいく この作業を延々と繰り返し迷路の様な廊下を歩きドアを解除して通る 廊下の両サイドには病室があるのか? 窓から部屋の中の患者が見られた 院長はやっとこさ足を止めると、部屋の鍵を開けてロックを解除した ドアは二重で気軽に出られる雰囲気はなかった   院長は「入るよ悦郎君、今日は君に逢いにお客様がいるんだよ!」とベッドの背もたれに身を任せて起きている痩せ細って顔色の悪い男が虚ろな瞳で客人と謂われる方を見ていた 悦郎は相賀の横に立つ見知らぬ姿に 「誰?」と怯えた瞳をして問い掛けた 一生は悦郎の前に出ると 「俺は緑川一生と申します 相賀さんと久々に逢ったので話をしていたら君の話を聞きました 今 康太は不在なので俺が変わりに見舞いに来ました!」 と言いお土産のお菓子と花束を悦郎のベッドの横にあるテーブルに乗せた 「君は……康太君の友達なの?」 「ええ、4悪童が一人 緑川一生です 悦郎さんも桜林のご出身なれば、俺の話はお聞きになった事はありませんか?」 「4悪童……緑川一生………あっ!知ってる……… 聞いた事があるよ………」 子供のような話し方に一生は優しく微笑み、悦郎の手を優しく握った 「悦郎さん貴方に花を買って来ました」 そう言い一生は悦郎に花を差し出した 「綺麗だね」 手渡された花の匂いを嗅ぐ 「良い匂いだね」と嬉しそうに答えた 「またお見舞いに来て良いですか?」 「え?………僕と話しても面白くないよ……」 「俺は貴方の初舞台を見た事があるんてすよ そのお花のように貴方は光り輝いていた」 「僕はもぉ………光ってないよ……」 「そんな事ないですよ」 「僕は……もぉ……外には出られないんだから……」 一生はその言葉に違和感を感じていた  なんだろ?この脅え方は? 外に出られないんだから? それは精神科に入院しているから? 嫌おかしい、精神科に入院していたとしても、退院して日常を取り戻した人は沢山いるだろう 「君にお菓子を買って来たんですよ」 一生はそう言いお菓子の箱を開けて見せた 「ありがとう……」 震える声で答える 今も尚 心の傷は癒える事なく、恐怖はなくならいのか…… 悦郎は常に震え、ビクビクと周りを見ていた この脅え方は病気以上の何かが働いているやも知れない そう想い一生は悦郎の額にそっと触れた そして悦郎に気付かれる事なく、指が素早く印字を斬った 「なっ……なに?」 「花びらが着いてました」 そう言い悦郎の前髪から花弁を取って見せた 悦郎の手から花束を取ると 「これは後で花瓶に生けて貰いますね でも君が生けるより劣るから後で直すと良いでしょう!」 と言いテーブルに花束を置いた 「そんな酷い事……しないよ……」 一生は笑って「疲れたでしょう、少し休むといい」と言い悦郎をベッドにそっと寝かせた 「楽しかったよ……一生君と呼んで良い?」 「良いですよ また来ます」 今は眠りなさい………そう耳元で囁くと悦郎は眠りに落ちた 相賀は心配そうにその光景を見ていた 一生は相賀を見て「大丈夫です、眠らせただけです………彼は………まるで子供の様ですね……」とまさか此処まで精神を病んでるでは……と驚いていた 「悦郎の心は砕け落ちてしまった……その日から怯えた子供の様になってしまった……」 相賀は悔しそうにそう言うと顔を覆って泣いていた 一生は相賀を席に座らせると、院長に向き直った 「この病室来た時から違和感があります……」 一生の言葉に院長は驚愕の瞳を一生に向けた 心の傷が癒えないからなのか?とも想ったが支配の糸は切れてはいないのだと感じずにはいられなかった 一生は天を仰ぐと 「龍騎さん……頼めますか?」 と声を掛けた   『それは思念を斬れも申しておるのか?  邪念を払えと申しておるのか? 呪いの蜘蛛の糸を祓えと申しておるのか?』 「総てです!」 『陰陽師遣いが荒いな……流石は康太と共に逝く者者よのぉ!』 「ついでに悪夢からも開放出来ませんか?」 『そこに結界を張った所で総ては祓えは出来ぬ…… 弥勒にも手伝って貰って総結界の中で解かねばならぬ……そして悪夢から解き放つには夢の中へ誰かが降りて解かねば解かれまい……… だが残念な事に弥勒が消えて三月になる故……不可能だと申しておこう!』 「総結界を張れば出来ない事もないって謂うなら、俺は兄弟を呼び寄せるしかねぇな! 兄者と弟を呼べば3體で結界張れねぇか? まぁ最悪……総血界……我等の血で結界を張ってやんよ!」 『深層心理に潜るのは誰がやる?』 「………俺がやる!」 『………無茶謂うよぉ……この子は………』 紫雲がボヤくと 『ならば!我がやろうぞ!』と弥勒の声が響き渡った 紫雲は『弥勒?行方不明だったではないか!』とボヤいた 『外せねぇ用があったんだよ でも粗方片付いたから出て来たんだよ』 紫雲は条件は揃ったと判断し 『なれば……菩提寺までその者を連れて来るがよい! さすれば……今よりは少しは快方に向かうであろうて!』 と謂った すると弥勒は本体で姿を現した そして院長の前に立つと 「九鬼殿だな、康太からよしなに頼むと書を預かっておる」 と言い胸ポケットから書を取り出すと院長に渡した 院長は弥勒から書を受け取ると素早く目を通した そして顔をあげると 「悦郎君は一生君に預けましょう! ならば私は志津子さんに連絡を取り、件のご夫妻に逢って来ましょう!」と今後の事を口にした 一生は弥勒を見ると 「この後、俺は悦郎君を菩提寺まで連れて行くけど、弥勒はどうするよ?」と問い掛けた 弥勒は首をコキコキ回しながら 「取り敢えず俺に何か食わしてくれ!   この三月ロクな飯 食ってねぇだよ」 とボヤきながら言った すると相賀が「何が食べたいですか?」と問いかけた 「おっ、相賀気が利くじゃねぇか  そうだな、なら米を食わせろ! 毎日毎日マナーを気にして食った気がしねぇ飯ばっかで飽き飽きだったんだよ」 「………マナーを気にするならそれは一流なコース料理でっしゃろが!」 それはそれで凄い気がするが……… 弥勒はうんざりするように 「ガツガツ食えねぇのはストレスで康太もこんなのは飯じゃねぇ!とボヤいてたぜ!」と近況報告も兼ねて言った 康太らしくて笑える 相賀は「では菩提寺に行く前に私が牛丼や唐揚げや餃子等を持ち帰りで買って来ます!! 悦郎がいるので、皆でファミレスとかは……無理なので……」と現実を口にした 弥勒は「牛丼!楽しみだな!ならそれ頼むな!」と言い悦郎を肩に担ぎ上げると  「ならば此奴は俺が連れて行こう! 車でちまちま連れて行くには、思念に纏われすぎているからな! 先に準備してるわ!」と言い呪文を唱えると消えた 院長は忽然と消えた弥勒を見て 「全くセキュリティーに引っ掛からず……信じられない結果です…直ちに結界の相談したいと想います!」とボヤいた 一生は「弥勒にはセキュリティーなんて関係ねぇからな………相手が悪すぎるんだよ!」とホヤいた 院長は「近いうちに結界の話をさせて下さい! 所で………貴方が目にした違和感とは?お聞きしても大丈夫ですか?」と全く何も気付かなった現実を口にした 「さっき声だけした菩提寺の陰陽師の台詞覚えてますか? 『それは思念を斬れも申しておるのか?  邪念を払えと申しておるのか? 呪いの蜘蛛の糸を祓えと申しておるのか?』 ど謂う詞を!」 「ええ、覚えてます」 「病室に何かを感じた……とかじゃないです 悦郎君の周りを取り囲む様にドス黒い影が纏わり付いてました 感受性の強い悦郎君にはその存在が何であるか解っていた 囚われたままだったんですよ…… 詳しい事は悦郎君の深層心理に下りないと全容は解らないけど、支配はまだ続いていて彼を取り込もうと蠢いていた 憶測ですが……別れても尚……自分を捨てた悦郎君を呪っているのです……」 「………恐ろし過ぎる……今は他の男と結婚しているのに? それでも悦郎君を呪っていると謂うのですか?」 院長は身震いしてそう問い返した 「自分のモノじゃないから余計に腹が立つのでしょう………そう云う人間の類でしょ?上間は…… 薬で精神を抑えていても完全な支配からは抜け出せない………だからあんなに怯えて未来を捨てたのでしょう」 「こんな状況を目にする度に私は医者として、無力さを感じるよ………」 「………悦郎君のケースは医療の範疇を超えますから……気になさる必要は有りませんよ! 我等は常にその領域外の可能性を考えて闘って来ました だから病なのか?そうでないのか?見極めねばならない 悦郎君の病室に来るまで患者さんがいましたね? 他の患者さん達は何かに囚われた者はいなかった 貴方も悦郎君に何かを感じたから俺に合わせたんじゃないんですか?」 「鋭いなぁ……流石は康太と共にしてる者だな 私は一石を投じる事による化学変化を期待していたんだよ 殻に閉じ込もるのが幸せならば、我等は陽だまりの中を満喫させて多幸の中にいさせてやるのも治療の一環として患者見守る時もある ですが悦郎君はそう云う類の話ではない気がして、何かの取っ掛かりが欲しかったのもあります 彼の将来をこんな所でへし折ってしまいたくない………そんな想いもあるのです 日々脅えの中に身を置くのは……彼の寿命を削っているのと同じですからね……… 何時か彼は恐怖も何もない【無】の世界に落ちて自分を閉じ込めてしまうか 命を断つか………2択しかなかった……… 放っておいても治療など届かない所に……彼はいた」 「悦郎君は我等が前を信じて歩かせます だから貴方には……一眞夫妻をお願いします」 「解りました、所で………癌のステージは今何処までと? 義泰先生の見立ては?」 「ステージⅢ……全摘で3割あれば良い方だと」 「全摘で3割……厳しい状況ですね」 「………多目に見積もって3割です 放置し過ぎたのです……進んで当たり前なんてすがね」 「そうですね 末期で進行が進んでいるのなら、1%3ヶ月の余命宣告……辺りが妥当ですからね でも一番怖いのは奥方を亡くせば……旦那さんの方は後を追いかねません……」 「多分後を追うでしょう……その前に全てにケリを付けて……互いを殺し合いかねないので、志津子さんに頼んで見ていて貰ってます」 「私で出来る限りのケアを致しましょう」 「お願いします また連絡します」 一生はそう云うと相賀と共に病院を後にした 相賀は菩提寺に行くまでに一生に無理言って何度も車を停めさせ、牛丼屋と唐揚げと大手餃子のチェーン店や弁当屋など至る所で美味しそうな食べ物を買って大量の荷物を後部座席に乗せた 菩提寺の駐車場に車を停めると、菩提寺の住職 城之内が待ち構えていた 一生が車から下りると城之内は「準備は整ってるぜ!弥勒は控室で待ってる!さぁ逝くと良い!」と言った 一生は車から降りると後部座席のドアを開け、相賀が弥勒の為に買った大量の食べ物の袋を手にして城之内にも持たせた そして相賀を車から下ろすと 「なら逝くとするか!」と気合を入れた 城之内は荷物を持たされ仕方なく一生と相賀を連れて本殿へ儀式の間の控室へと向かった 一生が本殿へと向かう頃 玲香と真矢は安曇と共にヘリコプターに乗り込み慎一のいる旅館近くへと向かって飛んでいた 昼過ぎに飛鳥井で荷造りして、一生が安曇に頼んでくれた飛行機に飛び乗り無我夢中で熊本に来た そしてヘリに飛び乗り目的地に向かう 辺りはすっかり暗くになっていた 半日掛かる時間を短縮して逝けるが、揺れとエンジン音で慣れない人間にはかなりキツい状態となるのに、玲香と真矢は瞳を瞑り静かに座っていた 風に煽られるとかなり揺れるから、安曇は心配そうに二人を見守っていた 半日掛かる道のりをヘリコプターは一時間半で到着する事が出来た 旅館の側の空き地にヘリコプターは着陸すると、慎一が出迎えに来てくれていた ヘリに乗る時、慎一に今からヘリに乗る!とラインを送っていたから、到着時間を読んで迎えに来ていたのだった 玲香は着陸しドアが開けられるなり飛び降りて慎一の傍へと走った 「烈は?どうなった?」 玲香は慎一に訪ねた 「未だ連絡はありません」 「………烈……」 玲香は元気一杯の孫を想った 慎一は「旅館へ行って休んで下さい 山の天候は変わりやすいので、こんな深夜にヘリは飛べないでしょう 焦れったいですが………仕方ありません 連絡があれば久遠先生が動いてくれます! さぁ宿の方へ行きましょう! 今なら部屋が開いているそうなので安曇さん達の部屋と義母さん達の二部屋ですが何とか確保出来たので荷物はその部屋に入れて下さい」 そう言い慎一は車のドアを開けた 玲香達を送り届けてくれたヘリが闇夜を照らし飛び上がり還って行く それを視界の端に捉えて、車の中へ玲香と真矢、安曇と堂嶋と三木を乗せた 旅館の直ぐ側と言っても歩きだと山道はキツいから車を出したのだった 慎一は取り敢えず旅館へと向かった 旅館に着くと慎一はフロントへと向かい頼んでおいたキーを二部屋分貰いに行った 「宿帳には皆さんの名前を書かさせてもらいました………宜しかったでしょうか?」 慎一が言うと安曇は「構わないよ」と答えた 三木も堂嶋も「「構わない」」と答えた 玲香と真矢に部屋のキーを渡す、そして安曇に部屋のキーを渡すと 堂嶋は「取り敢えず部屋に荷物を置いて風呂でも入りましょうか!強行軍で来たので少し疲れました」と言った 御婦人達に気を遣わせない為の台詞だった 玲香も「ならば部屋に逝くとしょうそ!真矢」と言い部屋の方へと向かって行った 部屋に荷物を置いて大浴場へと出向き安曇達はお風呂に入った 旅の疲れが取れる、そんな感じのお風呂にのんびり浸かり風呂から出て浴衣を着ると慎一の部屋に出向いた 「慎一、失礼するよ!」 そう言い部屋に入ると布団で爆睡してる久遠がいた その横には一条隼人が同じ様に爆睡していた 慎一は携帯を肌身離さず持って目は携帯の画面に釘付けになっていた 貴史と聡一郎が烈を連れて出向いて一日…… 烈の体は旅館にいる時も見た目で解る程にかなり衰弱していた 玲香と真矢も慎一の部屋へと出向き兵藤から連絡が入るのを待った 玲香と真矢は連絡があったら直ぐに動けるようにTシャツとズボンという軽装だった 玲香は「話して下され慎一!瑛太はそこまで詳しく話す事なく熊本へ行けと申した故、話してはくれぬか?」と問い掛けた 慎一は昨日の朝早く烈は飛鳥井の家から飛び出して出て行ってしまった事から話した 烈は気配を消して即座に動いてくれそうな存在を求めて飛び出して行った 其処へ兵藤貴史が烈を拾って、貴史が烈が念写した写真の情報を求め聡一郎を動かし、熊本まで3人でやって来た事 朝早く久遠医師に烈を連れて行く予定だったが烈が来なかった事に、たまたま病院にいた瑛太が何かを感じて久遠を動かして烈の元へ行ってくれと頼み込み同行してくれる事になった事 飛行機のチケットが取れず三木に動いて貰い久遠と共に熊本まで向かった事 烈は何処かへ気を送っていて久遠医師が驚く程に弱っていた事 ロードバイクを借りて山の中へ烈を連れて貴史と聡一郎が入って行って一日経つ事……慎一は全てを話した 聞いていた玲香が「烈が助けに行った子は誰なのじゃ?」と訪ねた 「それは俺には解りかねます 多分…全て把握してるのは康太だけです 全体の解明は一生がしていると想いますが、一生だとて総て知っている訳ではないので、俺には解りかねます 一生に聞けば俺よりも詳しい話は聞けます、どうします?」 「一生か………あれは康太の許可なくば話はせんであろうて」 「アイツは頑固ですからね……俺でさえ手を焼く頑固者です」 「いやいやお主も同等の頑固者であろうが」 玲香はそう言い笑った そして真矢の方を見て「大丈夫か?真矢」と問い掛けた 「姉さん大丈夫です」 玲香は真矢の頬に手を当てて「顔色が悪いぞよ?」と心配した瞳を向けてきた 「姉さん……ヘリコプターの揺れが腹綿を掻き回される位に辛かったのです……」 玲香は真矢を優しく抱き締め、その背を撫でてやった 「姉さんは……大丈夫なのですか?」 「我か?我は事業用操縦士の免許を持っておるからな、揺れと爆音は慣れておるのじゃ!」 真矢は驚愕の瞳を玲香に向けた 「姉さん、ヘリコプターの免許を持ってるのですか?」 「あぁ、医者になるならば無医村とかの医者を希望しておった 患者の為ならばヘリを駆使して何処までも助けに行ける医師を目指しておったからな 医者になれぬなら、航空自衛隊にでも入隊してトップガンの世界の様な航空士を夢見ておった まぁ清隆に惚れて押しかけ女房してしまったからな……使い道はないが、それでもいざと謂う時の為に更新や講習は欠かさず受けておる」 安曇や堂嶋、三木は言葉もなかった 飛鳥井玲香………底知れぬ女だと想った 人の声に久遠が目を醒し辺りを見渡した 「慎一、まだ連絡ないのか?」 「……まだありません…どの道今夜はもう飛べません……救助を要請しても二次災害の危険がありますからね」 「口惜しいな……こんな近くにいるのによぉ……」 久遠の呟きに、慎一は居ても立っても居られず携帯を強く握り締めた 久遠は限界を超えた慎一の顔を見て 「慎一 無理はするなよ! 後少しで限界超えたら点滴打つからな そしたら無理やり寝させるぞ!」と釘を刺した 観念して慎一は頷いた 久遠の怒鳴り声に目を醒ました隼人が起き上がると、玲香と真矢の姿を目にして 「義母さん達なのだ!」と抱き着いた 玲香は隼人の頭を撫で「御苦労であったな隼人!」と労いの声を掛けた 隼人は辺りを見渡し玲香達以外の存在を目にして 「お腹減ってないか?義母さん達 正義も茂雄も安曇さん達も、お腹減ってないか?」と声を掛けた! 正義は「………この旅館は街からかなり離れてるからな?デリバリ頼める距離じゃないし夜中に旅館の人に頼めないから朝になるのを待つしかないだろうが……」と現状把握をして答えた 安曇も三木もうんうん!と頷いた 隼人は立ち上がると 「一生から連絡があったのだ! 義母さん達がそっちに向かうとの事だから旅館の人に頼んで買っておいたのだ!」 と言い大量の紙袋をテーブルの上に置いた 紙袋の中から食べ物を取り出し並べた そして別にしてあったテープの貼ってある紙袋の中の食べ物を久遠に手渡した 「これは久遠のなのだ! 久遠はいざと謂う時動いて貰うから、腹は減らしたら駄目だと慎一に謂われているのだ!」 ニコッと笑ってそう謂う隼人に、久遠は困った顔をしつつも、深夜用のヘルシーな弁当の蓋を開けて食べ始めた 隼人は熱々のお茶を全員に淹れて、自分の分も淹れると湯呑に口を着けた 玲香と真矢はテーブルに乗せられた食べ物の蓋をあけると、全員で腹を満たすべく食べ始めた 誰も話す事なく黙々と腹を満たすべく食事をする 想いは烈の無事を祈り…… 朝を待った

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