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第76話 窮途末路⑤

一生は飛鳥井の菩提寺の本殿儀式の間にいた 弥勒と紫雲が四方に結界を張った中に花柳悦郎が布団の上に寝かされていた 相賀が買って来た食べ物を弥勒はガツガツ食べて腹を満たして英気に満ちて不敵に嗤っていた 「龍騎逝くぜ!」 「あぁ、何時でも良いぞ!」 「なら赤いの、そこに立て 此奴の精神と同調して、良いぞと言ったら飛び込め!」 弥勒が言うと一生は悦郎の頭上に立ち、その時を待っていた 一生の横には菩提寺住職の倅 竜之助が立っていた 悦郎の精神の中へ入った一生の体を支え、悦郎の横に敷いてある布団に寝させる為に待機していた 弥勒と紫雲は呪文を唱えていた 結界を絶対なモノにし悦郎の精神世界と繋ぐ 一生が悦郎と同調し、張り詰めた糸がピーンと張り時が来ると 「今だ!飛び込め!」 と弥勒が合図した すると一生は同調した悦郎の精神の中へ飛び込んだ ズルっと体の力が抜けた一生の体を竜之介が支えて、布団の上に寝させた 一生は悦郎の精神世界と飛び込んでいた そこは真っ暗だった ブラックホール並みの暗さに、一生はどうするかな?と思案していた 手で掻き分けても闇は微動だとしなかった そればかりか、うようよと蠢く闇は分裂を繰り返し増えて行ってる様だった 「何でこうも闇が深いのよ……」 手足に纏わりつく闇に、ついつい愚痴が出る 悦郎が何処にいるか? この暗闇の中じゃ解らない だがそんなに時間は掛けられない 悦郎の精神を壊してしまうからだ 一生は手がないから一度出るしかないか?と思案していると 『一生!これを使え!』と声が響いて蒼く光る槍が投げ入れられた 声は聞き知った康太の声だった こんな時、一生は何時も背中を押され力を奮い立たせる事が出来る強い援軍を想った 一生は正義の槍を握り締めると頭上に掲げて回し始めた ピキッピキッと周りを凍て付かせ闇を黙らせた 槍に触れた闇は瞬時に凍らされパラパラ崩れて堕ちて行った 闇が晴れると周りに闇を纏わらせた悦郎が蹲っていた 槍は紅蓮の焔を拭き上げ悦郎に纏わり着いていた闇を斬った 一生は「便利な体になったな青龍……」と想わず呟いた その槍が弟の槍だと知っていたからだ 榊原が聞いたなら嫌な顔し、康太が聞いたなら爆笑していた事だろう 一生は悦郎の傍に駆け寄ると悦郎の体を揺さぶった 「おい!大丈夫か?」 悦郎が気が付くまで根気よく話しかける 悦郎は目の前に何故一生がいるのか?解らなかった あぁお見舞いに来てくれたんだ……と漠然と思いを巡らせた 「一生君……お見舞いに来てくれたんだね」 「此処は悦郎さんの深層世界の中です」 「え?………深層世界?僕の中の?」 「貴方の怯え方が尋常でなかったので、飛鳥井の菩提寺の陰陽師に頼み、貴方の中へと入らさせて貰いました 長居は出来ません……戻らねばならないのです でも戻るならば……覚悟がいる だから貴方と話を背をせねばなりません!」 「話?………なんの?」 「これからの事です」 一生が謂うと悦郎は不安な瞳を一生に向けた 「僕は………」 絶望した言葉を遮る様に一生は 「大丈夫です 貴方には僕らがいる康太がいる 貴方の事を心配してる相賀がいる! そして涙に暮れるご両親や花柳会の方々がいる 貴方は一人じゃない 解りませんか? 貴方の深層世界の闇は消えました もう二度と再び、貴方は闇には囚われたりしない!」 「一生君……」 「歩き出しましょう!」 一生は立ち上がり悦郎に手を伸ばした 悦郎は周りを見渡すとそこには光り輝いた世界があった 闇に囚われ暗闇の中に閉じ込められていた世界じゃない 悦郎は一生の手を取った すると一生は正義の槍を握り締め悦郎を抱き締め 「引き上げてくれ!」と叫んだ すると一生の意識はスーッと遠のき真っ白な無の世界になった 「おい!起きろ!」と頬を叩かれ一生は目を醒ました 目を開けると城之内がペシペシ一生の頬を叩いていた 「もっと優しく起こしてくれない?」 一生がボヤくと城之内は 「おなごじゃあるまいし!」と笑い飛ばした 横を見ると悦郎も目を醒ましていた 悦郎が目を醒ますと心配そうな顔の相賀が飛び込んで来た 「悦郎……」 泣きながら名を呼ぶ相賀にどれだけの心配をかけたかを思い知る 「相賀、この体には封印を施す! それにより何人たりとも悦郎に危害を加える事は出来ぬであろう!」 と相賀に約束してやった 相賀が悦郎を離すと、弥勒は悦郎の額に印字を切って、護符を「飲め!」と言い差し出した 悦郎はタラーっなり「飲むのですか?」と問い掛けた 弥勒は早くしろ!と言わんばかりに迫力があり、悦郎は護符を貰い受け飲んだ 竜之介がお水を差し出すと、流し込みゴクンっと飲み込んだ 弥勒は周囲の結界を斬ると「これで大丈夫だ!腹減った、続きを食うぞ! 悦郎、おめぇも食え! その体は栄養を必要としてる! 役者に戻りたければ食え!」 視界は晴れやかで、清々しさまで感じる そして久しぶりに空腹を感じていた それが嬉しくて悦郎は泣いた そして泣きながら笑って 「ええ、お腹が減りました 僕は役者でいたいので食べます!」と答えた 弥勒は相賀の肩をポンっと叩くと 「ほれ、相賀、おめぇも食え! 窶れたり老いぼれたりしてたら康太から蹴り飛ばされるぜ!」と発破をかけた 相賀も泣きながら笑って「そうですね!」と言い控室へと向かった 一生は城之内に「布団を貸してくれ……朝から飛び回り疲れたわ」とやっと一段落して疲れが出て来てボヤいた 城之内は「離れに布団を用意してやる! 全員で寝やがれ!」と言い笑った 控室へ逝くと「離れに移動して腹を満たしたら寝てください!今は夜中なんだし寝やがれ!」とボヤいた 全員で離れに移動して相賀が買って来た大量の食事を食い尽くし、布団に入って眠りについた 悦郎は久し振りに安らかに眠った 何者にも邪魔されず、久し振りに両親の夢を見た 朝までの一時  全員は安らかな眠りに着いた 烈は兵藤の背中で眠っていた 寝息を確認し兵藤は安心していた 聡一郎は「烈、眠ってますか?」と問い掛けた 「あぁ、眠ってる 本当ならベッドの上で寝させてやりてぇけどな」 「ですね、あと一息頑張りましょう!」 何時間経ったのか 時間の感覚はもはやない ガソリンもなくなりバイクを押して歩いていたが、山の主がバイクは捨てておけばいい!山の麓に戻しておいてやる!と言ってくれたから乗り捨てて只管歩いた 足は棒になり ヘトヘトだったが気力だけでやり過ごしていた 気も漫ろになり歩いていると………突然目の前に眩い光に包まれた 目が眩んで思わず手で目を覆う 隣を見ると聡一郎も手で目を覆っていた 聡一郎は「眩しすぎです」と呟いた 目が少し慣れると眩しいが、何とか耐えれていた すると主は『此処は汎ゆる事が許される空間、助けを呼ぶが良い!この空間を抜けたらあの子のいる場所へと着くであろう! 山の上は電波のない世界、連絡など入れは出来まいて!』と告げた 兵藤はそれを聞いて慎一へと電話を入れた 慎一は何時電話が掛かって出られるよに、携帯の画面から目は離さずにいた 時計は朝の5時を表示していた 夜が明けてしまっていた………焦れったい想いを噛み締めていると 突然静けさを打ち切る様な着信を知らせる通知音が鳴り響いた 慎一は即座に通話ボタンを押した ワンコールで電話に出た慎一に 「助けに来てくれ! 山の上だ、烈の持ってた黄色いハンカチをエンジン音が聞いたら振り回す! それを合図にしてくれ!」と告げた 慎一はやっとの想いで『了解しました!此れより救助要請を出して山の上まで助けに行きます!待ってて下さい!』と言い電話を切った 久遠に「貴史から連絡が来ました!」と告げた すると安曇が「救助要請は私が入れましょう!久遠医師を拾って貰って飛んでもらえる様に要請します!」と一刻も油断ならぬ想いを抱き携帯を取り出した 夕刻頼んでおいた件お願いしする旨を伝えると、相手は救助要請を引き受けて即座に救難ヘリを飛ばす事を約束してくれた 途中 久遠を拾って飛ぶ事を約束してもらい、慎一は久遠と共に登山道入口近くの駐車場へと向かった 安曇と堂嶋と三木は即座に着替えに向かい 玲香と真矢は呼び出されても大丈夫な服装に着替えに行った 隼人はタクシーを呼び、セスナを停めた小型飛行発着場へと向かった セスナの操縦士に連絡をして、此処らで一番大きい救命救急センターへと向かう様に頼んだ 久遠が呼ばれて出て行ったら、飛鳥井のセスナを救命救急センターのヘリポートへ移動する約束をしていたからだ 山の主の大亀はノシノシ歩いて止まった 『さぁ理の外に出るが良い! そすれば救助のモノが来るであろう! 命は繋がれる! 繋がれた命は明日へ歩みだすであろう! 儂がしてやれる事は此処までじゃ!』 頭に響き渡る声に兵藤と聡一郎は深々と頭を下げた そして姿勢を正すと歩き出した 一歩踏み出せば………理の外なのだろう 眩き光の外に出ると、そこは白々と夜が明ける前の世界となった 兵藤は聡一郎に「今何時よ?朝方山に入ってそんなに時間が経ってないなんて事ないよな?」と問い掛けた 夕闇とも夜明けとも区別の付かない世界に、何時間経ったのか検討すら付かなかった 聡一郎は携帯を見て信じられない様な顔をした 「貴史………一日経ってます 今は午前5時です」 「何か2、3日歩いた気分だが……翌日の朝って事か んじゃ、烈の目的の子探すぜ!」 兵藤と聡一郎は手分けして烈が助けに行った子を探した 探していると陽が上がり夜明けを告げ、辺りを照らし始めた すると大きく平たい石の上に子供が寝かされていた その横に母親らしき人が子供を護るように横たわっていた その体は………眠っている様に朽ちてなく生きているようだった 聡一郎は「何時頃……山に入ったのか?……眠っているようだね……」と口にした 兵藤も「山の神を奉る末裔だから護られていたのかもな……」と口にした 子供は……明らかに顔色が悪く死にそうなのが伺えられたが、か弱くとも息をしていた 烈が護った命だった その母が護った命だった 兵藤は遥か彼方からエンジン音がすると聡一郎に 「烈を背中から外してくれねぇか?」と頼んだ 聡一郎は烈を兵藤の背中から外した そして腕に抱きしめた 烈の息もその子の様にか弱く……明らかに衰弱を見せていた 兵藤は近づくエンジン音に烈のポケットから黄色いハンカチを手にすると、大きく円を書き振り回した 聡一郎は弱っている子の横に烈を寝かせると、携帯のライトをオンにさせ空に向かって照らしていた 緊急で救助要請を受けたヘリコプターは山の頂へ向けて飛んでいた 麓で久遠を拾い、再び飛び立ったヘリは確実に兵藤らの元へと飛んで来ていた 隊員の一人が双眼鏡で確かめるように見ていると山の頂近くで黄色いモノを振る合図とライトが飛び込んで来た 隊員は操縦士に救助対象者の発見を伝えた 操縦士は救助対象者の真上にヘリコプターを着けると 「只今から救助致します 救助対象の優先順位は子供二人を最優先に 残りの人らは後から来るヘリに乗って病院まで送ります!」 そうマイクから声が掛かると救助隊員が、ロープを装着すると子供サイズの救助洞道具を持ってドアを開けてヘリから下りた 救助隊員は「救助要請がありました、子供さんが弱っているとか?」と声を掛けて来た 兵藤は烈と横の子を指差し「この子達です!」と告げた 救助隊員はその弱り具合に助けに来た子を乗せて、ヘリに引き上げさせた  その次に烈を乗せてロープを引き上げさせた 救助隊員は両手で○の合図をすると、ヘリコプターは飛び上がり、その場を離れた 残った救助隊員は 「貴方がたは次に来るヘリに乗って貰います 女性は?救助が必要なのですか?」  と訪ねて来た ぱっと見眠っているように見える母親の事を兵藤は説明した 「彼女は既に息絶えています 我等は先方運ばれて行ったガタイの良い子供の指示でこの山まで来ました 母親の方は既に息絶えて、息子の方は烈が気を送り何とか命を繋いだ 詳しい話は飛鳥井の家の方に聞かねぇと解らない 我等は烈を望む果へと出向き、子の命を救おうとした、それだけだ!」 「詳しい詳細は聞くなと申し付けられております 彼女は………遺体として収容致しましょう 願わくば………荼毘に付されてその体に安らかな眠りが訪れる事を願ってやみません」 救助隊員は母親の遺体を寝袋みたいな袋に入れてヘリが来るのを待っていた 暫くしてヘリがやって来ると、兵藤と聡一郎はヘリに乗せられた 母親も遺体として収容された 兵藤はヘリに乗る前に「主よ!ありがとう御座いました!」と礼を言い乗り込んだ 聡一郎も深々と頭を下げてからヘリに救助された 一人残った隊員もヘリに乗り込み、ヘリコプターは高く飛び上がり、その場を離れた 救助隊員は「貴方達も診察を受けて下さい!疲れた顔をしています」と言った ヘリコプターは県内で一番大きい救命救急センターへと向かって飛んで行った  兵藤は旅館に滞在する慎一の名前を告げて行き先を教えて下さいと救助隊員に告げた 救助隊員は無線を手にして地上にいる隊員に運ばれる先を旅館にいる緑川慎一に伝えるように!と連絡を入れた 相手は直ぐに連絡を入れます!と約束してくれた 兵藤は緊張の糸が切れて、そこで意識を飛ばした 聡一郎もやり遂げた安心感で、眠るように意識をなくしていた 県内で一番大きい救命救急センターのヘリポートに着陸すると直ぐに病院のスタッフに兵藤と聡一郎の治療を頼んだ 救助隊員は総てを完遂すると知事をしている叔父に電話を入れた 「総て依頼通りに完遂しました!」 『お疲れ様でしたね 今回は本当に無理を言いました』 「我等は国民を助ける義務があります! また何がありましたら連絡下さい!」 そう言い電話を切った 緊急で運ばれた烈と助けられた子は救命救急センターのスタッフによって治療を施される事となった 久遠は烈との約束通り助けられた子の治療に当たった 虫の息の子に最善の治療を施して命を繋いで逝く 低体温療法で体の組織を眠らせ、その間に弱った体の治療に当たり機能を回復させ、徐々に体温を上げて意識レベルを上げて行く治療打ち立て、体に必要な栄養分の点滴をし命繋げる為に賢明に久遠は動いた 今回久遠が動けるように、緊急という事で安曇が病院側に頼み込み了承されたからだった 救命救急センターの関係者は久遠の場数を踏んだ適切な対応に皆固唾を飲んで学んでいた テキパキ動く久遠の動きには淀みがない 己を信じて先を見据えて動くその力量に感心せずにはいられなかった 助けた子をICUに入れると久遠は処置を受けた烈へと向かった 烈の意識はなかった 吐血していたと知っていたから検査をした 検査の結果、大量に血液を失ったからショックで体の機能障害が起こっているのだろうと見解すると、オペ室を出た そして慎一を見付けると「真矢さんいるよな?」と問い掛けた 「はい、この場にはいられないので待合室にいます」   「連れて来てくれ! 全ての処置をした後に輸血をお願いしたい」 「解りました!」 慎一はそう言い久遠から離れて待合室に向かった 待合室のドアを開けると慎一は真矢に 「烈に輸血をお願いします」と深々と頭を下げた 真矢は慎一の傍に逝くと頭を上げさせた 「私はその為に来たのです! 烈が一日でも早く元気になる助けをする為でしたら、何でもすると決めているのです!」 そう言い玲香に「では姉さん行ってきます!」と言い、慎一と共にオペ室へと向かった 慎一は真矢を連れてオペ室の前に逝くと、オペ室のドアをノックした すると久遠がドアを開けた 「真矢さん、烈と血液型は同じですか?」 「勿論 清四郎も私も同じ血液型です 勿論 私が産んだ烈も同じ血液型です!」 「では此方へ!」 久遠はそう言い真矢を連れてオペ室に入って行った 慎一は一生に「烈が探していた子、救命救急センターに運ばれた 救助隊員の話では、母親の方は息絶えていたが……その姿は眠っているように綺麗だったそうだ それと聡一郎と貴史、入院になった 保健証頼めるか? 勿論烈の分も」とラインを入れた 『その子の母親は山の民の末裔らしいから、山の神の温情だったのかも知れねぇな 保険証な、裏の貴史の所へ行って誰か持って行かせるわ! と言っても誰かいるかな? 美緒さんと話して誰かに持って行かせるわ』 「頼むな一生 それと……助けに行った子の保険証どうしたらいいかな?」 『あー!それな、朝になったらその子の祖父母に聞いて来るわ!』 「どこの子か、解ったのか?」 『その子は離婚する前は飛鳥井耀、母親の名は飛鳥井木葉という 離婚して以降の苗字は解らねぇ……それも含めて飛鳥井一眞夫妻に聞いてくるわ』 「お前も動いてるのに悪いな それと烈、やはり輸血が必要みたいで今真矢さんがオペ室に入って行った もしもの為に真矢さんの保険証も頼むな」 『了解!直ぐに動くわ!』 慎一はその言葉を目にしてラインを終了した 慎一から連絡が来て一生は働かない頭を総動員していた 一眞夫妻に聞くしかねぇが……朝の6時じゃ早過ぎるよな? と思いつつ一生は志津子に連絡を入れた ワンコールで電話に出た志津子は 『どうしました?』と問い掛けた 「烈が探していた子が救助されたそうです 母親の方はやはり駄目でした ですが眠ってあるように遺体が綺麗だったそうです で、救助された子の耀ですが、保険証はどうなっていますか? それと名字は?」 『一生、マンションまで来れますか? 直接 聞いて木葉の葬儀にしてもどうするか聞かねばなりません!』 「了解!」 『朝は用意しておくので一眞夫妻の部屋の方へ来て下さい!』 そう言い志津子は電話を切った 一生は起きると「用が出来たわ」と隣で寝てる城之内に告げた 「忙しいな、んとに」 城之内は伸びをしながら起き 「悦郎はどうするのよ?」と問い掛けた 一生は相賀の方を見ると起きていたから 「悦郎さん頼めますか?」と問い掛けた 「あぁ、私が病院まで連れて行こう」 「その前に悦郎さんのご両親に連絡して合わせてやって下さい! 両親の苦悩や安堵を知れば、彼は前を向いて歩ける筈です!」 「解ったよ、なら連絡を取って連れて行くよ」 「和成さんには足がないので神野に頼んでおきます! 神野が来たら連れて行って貰って下さい 合流出来そうなら、合流するのでそれまでお願いします」 一生はそう言うと菩提寺を出て駐車場へと向かった 一度飛鳥井の家に帰り着替えてから出向くつもりで、飛鳥井の家へと車を走らせた 飛鳥井の家の駐車場に車を停めると、出勤前の瑛太と出会した 一生は瑛太に 「烈と烈が探していた子、救命救急センターに運ばれました 烈と行動を共にしていた兵藤と聡一郎も入院したらしいので保険証を取りに寄りました まぁ着替えもしたいので、こっちを優先しました 保険証を手にしたら裏に行き貴史の保険証も借りて、一眞夫妻の所へ行きます 助けられた子の保険証はどうなってるのか?聞かないと 後、離婚した後の苗字も聞かないと入院してるなら困りますからね 後 真矢さん……烈に輸血するそうなので強行軍で行ったツケが出たら怖いので保険証を取りに行こうと思っています」 と説明した 「保険証は直ぐに届けられませんからコピーを病院の方にFAXで送れば良いです 君は一眞夫妻の所へ行って、烈が助けた子の保険証と名前を聞いて来てから会社へいらっしゃい そしたら秘書に手続きさせましょう!」 「助かります」 「で、烈は当分動かせませんか?」 「まだ詳しい連絡は来てません 多分まだ処置されてるんだと想います だから詳しい情報が慎一から上がって来ないんだと想います 慎一ならば必ず何時頃烈を動かせるか聞いてくれる筈です またラインしておきます」 「頼みますね」 瑛太は一生の肩をポンっと叩くと車に乗り込み会社へと向かった 家とへ続くドアを開けると清隆が出勤する所に出会した 清隆は「烈は?玲香と真矢は?聡一郎と貴史、慎一と隼人は?」と心配そうに問い掛けた 一生は烈は探していた子と共に救命救急センターへ運ばれたと話した 烈は吐血が凄くて真矢に輸血を頼んだ事と、これこらの事全部話した 清隆は「………一眞は道を踏み外しましたか……」と一族の者を想い口にした 後は何も言わず『頼みます一生」と言うと瑛太同様一生に頼み会社へと向かった 一生は取り敢えず部屋に向かいシャワーを浴びて着替えた 変えのスーツに着替えてドアを開けると、出勤する力哉に出会した 疲れた顔をした一生の頬に手を当てると 「大変そうだね」と口にした 「めちゃくそ大変だけど仕方ねぇからな」 「君はすぐに無茶するから気を付けるんだよ!」 一生は力哉の手を取ると口吻け「了解!」と言った 「これからどうするの?」 「聡一郎と貴史が入院したらしいからな 取り敢えずこれから聡一郎の部屋に行き保険証を取って来て、貴史んちに行き保険証を借りて来る 烈の保険証は飛鳥井の家族の保管庫にあるから大丈夫だけど、清四郎さんに連絡して真矢さんの保険証を貰わねぇとな 志津子さんの所へ行くまでに、確保しときてぇ保険証の確保は出来る」 「なら僕は聡一郎の部屋と貴史んちの保険証を取りに行くから、君は真矢さんの保険証を借りておいでよ!」 「頼めるか?」 「君本当に疲れた顔してるよ? 手助け出来るならするよ」 一生は力哉の唇に軽くキスすると「ありがとう!」と言った 力哉は照れ隠しに「ほらほら!早く!」と一生に発破をかけた 力哉は悠太の部屋をノックした すると部屋から悠太が顔を出した 「力哉君どうしたの?」 「聡一郎の保険証って何処にある?」 「保険証は本人がお財布に入れて持ってるよ どうしたの?聡一郎に何かあったの?」 悠太が心配そうな顔で問い掛ける 「僕も詳しくは知らないけど、聡一郎に何かあって一生が平気な顔して保険証を取りに来ないだろうから疲労とかじゃないかな? 何かあれば慎一が一番に君を呼ぶよ」 「そうだよね……ごめんね力哉君取り乱した」 「大丈夫だよ、烈の件で無理してるだろうから 僕も後で慎一に連絡をしてみるよ」 「ありがとう力哉君」 「じゃ僕は貴史んちに行くね」 悠太は頷いた 力哉は飛鳥井の家を出ると裏に向かった 兵藤んちのインターフォンを鳴らすと美緒が出た 「おぉー!力哉ではないか! 今開ける故待つのじゃ!」 暫く待つと美緒がドアを開けた 力哉は「貴史の保険証はありますか?」と問い掛けた 美緒は笑って「保険証ならば、貴史のカード入れに入れてあるからな! 本人が持っておるわ!」と答えた 「なら大丈夫ですね」 「貴史はどうしたのじゃ?」 「僕も詳しく解らないけど、烈と同じ病院に運ばれたらしいんです ずっと行動を共にしていたから疲労とかじゃないかな?」 「誠情けない……その命賭しても烈を護れと申したのに……」 「美緒さん……」 「何かあったらラインを頼めるか?力哉」 「はい!慎一に聞いて連絡します!」 力哉はそう言うと兵藤の家を後にした 一生は清四郎に電話を入れた 電話に出るなり清四郎は『何がありました?』と問い掛けた 「真矢さんの保険証はどうなってます?  烈に輸血をすると聞いたので、長丁場の移動の後でしたから体調を崩したら入院も有り得るのでお聞きしたいのですが?」  『保険証は真矢が持ってます 最近目眩があるとかで、通院してるのでずっと持ってます』 「目眩?聞いてないんですけど……多分輸血をお願いした義母さんも知らないと想いますけど……」 そんな状態なら真矢を連れ出す事はなかっただろう…… 『心配させたくなかったんだよ……真矢は大丈夫なのかい?』 「慎一からのラインではオペ室に入り烈に輸血するそうです」 『何かあったら連絡してくれるかい?』 「はい!解ってます」 一生は電話を切ると、慎一に電話を入れた 多分移動してるのか?直ぐとは繋がらない電話を待っていた 暫くし鳴らしてやっと出た慎一に一生は 『真矢さん目眩が酷くて通院してたって清四郎さんに聞いたんだけど、大丈夫だったのかよ?」と問い掛けた 慎一は驚くた声で『え?目眩?そんな素振り一切感じられなかった……その事久遠医師に伝えとくわ』と言った 「保険証を確かめてる最中だから切るな 烈と真矢さんを頼むな!」 『あぁ、解ってる 何かあったらラインしてくれ!』 一生は電話を切った すると力哉が帰って来て 「保険証は聡一郎も貴史も本人が持ってるよ」と伝えた 「なら烈だな!」 力哉は飛鳥井の家族の保険証の保管庫を開けて、烈の保険証を取り出して一生に渡した 一生は「時間が取れなくてゴメンな」と力哉に謝った 「大丈夫だよ 今君は康太の名代で動いているんだからね 絶対に失敗は許されないからね!」 「ありがとう力哉」 「さぁ僕は行くからね!」 「俺も行くとするわ!」 一緒に地下駐車場へと向かい、それぞれの車に乗り込み一生は志津子のいるマンションへと向かった マンションの駐車場に車を停めると、車から下りる前に神野に電話を入れて飛鳥井の菩提寺にいる相賀を乗せて行ってくれないか?と頼んだ! 神野は快く快諾してくれた これで相賀の足も確保出来、車から下りた マンションの中へ入りオートロックを解除して、エレベーターに乗り込み7階を押す そして志津子に電話を入れた 「今マンションのエレベーターに乗りました」 『鍵は開けてあります そのまま部屋へ入ってきて下さい!』 「了解しました!」 そう言い電話を切った一生は7階に到着すると、この前来た部屋まで進みドアを開けた 部屋の中へ入ると鍵を締めてチェーンまで掛けた 「志津子さん 何がありました?」 一生はそう言い、部屋の中へと入って行った 「一生さん…目を離した隙に切りました 義泰が若手の医者を回してくれたので縫いました」 久遠がいない今、義泰はかなり多忙を極めていた だから自分は動けないから若手の外科医を遣わしてくれたのだ 一眞は「真贋に顔向けできる筈などない……」と泣いていた その手にはかなり深く切ったのか包帯が厚く巻かれていた 一生は一眞夫妻の前に座ると 「自殺したらその魂は彷徨うしかないと一族総会の時言わなかったか?」と問い掛けた 「この世の海蘊になろうとも……私と妻は生きていては行けないんです……」 「悪霊になれしかねぇだぞ!」 一生は叫んだ 何を言っても許されてはならないと謂う想いが強すぎるのだ 一生は死にたいと謂う人間は視野が極端に狭くなると謂う事を目の当たりにして言葉さえなかった 『我が兄弟………誰でも良い出て来てくれねぇか? 俺はどうも説得とか無理そうだ………』 ついつい弱音が溢れる みすみす死なせるしかないのなら……誰でも良い出てきてくれよ! そんな思いで願っていた すると正義の鎧を着た青龍が一生の前に姿を現した 「私を呼んだのは兄さんですか?」 青龍はそう言い小脇に妻を抱えて姿を現した 一生は信じられない瞳で我が弟青龍を見た 「呼んだけど……まさか青龍が来てくれるなんて想わなかった……」 「兄の為ならば駆け付けるに決まってるじゃないですか!」 青龍は笑った その鎧を着ている時………青龍は能面のように 表情はなかったから、笑った顔に何だか涙が出た それを誤魔化す様に一生は 「あんで妻を小脇に抱えいるんだよ!」と問い掛けた 「君が呼ぶから私は妻を小脇に抱えて飛ぶしかなかったんですよ」 青龍はそう言い妻を抱き締め言った 康太はじっと一眞夫妻を視ていた その瞳に一眞夫妻の苦悩も苦しみも総て映し出されていた 康太は青龍の腕から下りると、一眞夫妻の前に立った 青龍は榊原伊織へと姿を変えていた 「視ましたか?」 榊原が康太に問い掛ける 康太は「バッチリ視えた」と答えた 康太は飛鳥井一眞の顎を持ち上げると 「オレに合わせる顔はねぇってか?」と問い掛けた 一眞は覚悟を決めた瞳を康太に向けた 「はい……許されてはなりません… 我等は……木葉の命を奪った 死にたいと想う程いびり倒して……人のやる事ではない事をしました……」 「お前達が死んだとしても木葉は浮かばれねぇだろうが! 木葉の葬式は誰があげてやるんだ? 木葉の供養は誰がして行くんだ? 木葉の一族は滅んだ 天涯孤独の木葉の死を悼む人間はいねぇ……お前らが一番良く解ってるんじゃねぇのか?」 康太の言葉に一眞は、あっ……と声を上げて泣き出した 「お前等が木葉を追い遣ったと謂うならば、木葉の供養をしてやれよ! それはお前達にしか出来ねぇ事じゃねぇのかよ?」 八重子は「木葉は我等になど供養して欲しくはないと想います………あの優しい子を傷付けいびり倒して追い出した…… あんな良い子を苦しめた私達になど……手向けの花さえ要らないと謂うでしょう……」 と泣きながら答えた 「木葉はお前達の事恨んてなんかいなかった 逆にもっと早く家を出れば義父さんや義母さんを苦しめずに済んだのに……と悔いていた」 八重子は泣きながら口を押さえた 一眞も顔を覆って泣いていた 「罪は本人に科す! お前等の罪は八重子が体を治してから伝える事とする! これから嵐が来るぜ!  お前等の作った罪だからな、目を逸らさずにちゃんと見ろ!」 「解りました!」 「二度と死のうとするな! 死なんて楽な逃げ道、逝けると想うな!」 一眞と八重子は力なく項垂れ、頷いていた 康太は志津子の方を向くと 「悪かったな志津子 死を選択する輩など二度と目にしたくなかったろうに……」と労いの言葉を掛けた 「いいえ……真贋……この二人は罪に囚われ過ぎなんです……救ってやりたい思いも総て……耳に入らない世界にいる 救ってやりたかったですか……やはり私には役不足な様でした……」 「志津子、おめぇは何時だって真摯に向き合うとしている だが裁かれる事しか願っちゃいねぇ輩には、どんな声も届かねぇんだよ……」 康太はそう言い志津子を抱き締めた 「一眞!」 真贋に名を呼ばれ一眞は「はい!」と答えた 「志津子には悟と謂う息子がいた その息子は一度に妻と子を亡くし自暴自棄になり幾度も幾度も自殺未遂をした 死ぬ事しか考えず………絶望の中にいた 志津子は息子と共に逝く事しか考えいなかった時もあった そんな志津子の前で良くも死のうてしてくれたな!」 一眞は志津子がそんな思いをしていた事を知らなかった 何時だって豪胆で朗らかで明るい姿しか目にする事はなかった 「許して下さい真贋……」 「志津子の前で二度と切るなよ!」 「はい!約束します」 「今後の審判は飛鳥井家真贋が下す! それで良いな!」 「はい!」 「んじゃ、一生が来た要件を聞くとするか! 木葉の苗字は今どうなっている?  それと保険証はどうなってる?」 康太は一生に目配して間違いないか?と問い掛ける様な瞳を向けて来た 一生は頷いた 一眞はそう言えば……婚姻前の戸籍……どうなっているのか?解らなかった  保険証はもっと解らない 「すみません……息子がある日突然嫁にする!と連れて来た子ですので、詳しい詳細は息子しか解りません」 「仕方ねぇな鴉に調べさせるしかねぇか! 志津子、pcあるか?」 「はい!御座います! 今持って参りますからお待ちを!」 と言い志津子は部屋を出て行った 康太は「お前の息子の琢磨、死ぬ想いさせる!命の代価は命で持って償わねばならない! 況してや山の民の末裔の命……軽くはねぇんだよ」と告げた 一眞は深々と頭を下げ 「真贋の想いの儘に……我等はそれしか考えてはおりません!」 「しかし琢磨はえげつねぇ嫁に捕まったんだな 承認欲求の塊のうちはまだ良かったが、人としての領域を超えちまった……… あれはもう人に非ず………心を悪魔に売ったみたいに人の所業じゃねぇな まぁ悪魔にお前等の仕業か?と聞くなれば、冗談も休み休みに言ってくれ!と申すだろうけどな!」 と康太は笑い飛ばした 志津子がPCを持ってやって来ると、康太はそれを受け取り物凄い速度でキーボードを打ち始めた 志津子は榊原に「九鬼医師が来て下さりカウンセリングを受けました この二人は罪の意識に囚われ過ぎている 互いの望みは死しかない………即座に入院をお勧めしたいのですが……今後の話を見据えて結論を出して下さい!と謂われました」と伝えた 「そうですか……彼等は上間にマインドコントロールされていたのですからね 追い詰めて死に追いやった人間がいる現実に彼等は許されてはいけないと想っているのでしょう」 「どうしたら良いですか?」 「真贋が今 死ぬ事は許さないと申された 彼等は飛鳥井の人間、真贋が許さぬ事はしないでしょう! そうですよね?一眞、八重子!」 榊原の鋭い視線を受けて一眞と八重子は力なく頷いた 「まぁ死したとしても、あの世から引きずり出してやれば良いだけの事! 死は何も解決などしてくれない! それを身を持って解らせてやれば良い!それだけよ事です!」 とサラッと榊原は口にした 一生はそれはそれで大概な事言ってますがな……と想ったが口にはしなかった 我が弟の存在に救われた 一生だけではこれ程まで一眞夫妻を説得など出来なかったからだ……… だが冷静になると、何故に青龍の服を着ていたのか?疑問に想い 「何故に青龍の服を着ていたんだよ?」と問い掛けた 「冥土にいたんですがね、閻魔が冥土にいるなら溜まりに溜まった仕事しろ!と謂いましてね 無限牢獄に閉じ込めておいた囚人の裁きをしやがれ!と無理難題言ったので仕方なく判決を出していたのです まぁ私は面倒だったので全員殲滅でも構わなかったですがね……閻魔が張り付いていたので、それも叶わず裁判をして来たのです! で、一休みしてる時に兄さんが呼んだので、めちゃくそ疲れていんですよ!私も炎帝も!」 青龍の口調で淡々と語られる 「貴史はもう帰ってるけど、お前等ももう還っても良いのかよ?」と問い掛けた 「ええ、パスポートで倭の国には還って来てます ですが用があって冥土に行っている所を確保され魔界に行っていたのです! 烈が大変な事になってるので、僕も康太も少しでも早く熊本に行きたいのです! と謂う事で一生、飛行機のチケットを2枚頼みます そして烈が横浜に還って来るまでに、総ての下拵えをお願いします」 「了解!でも飯くらい…瑛兄さん達と取る時間はねぇのかよ?」 「では、皆とご飯を食べて過ごしたら熊本へ行くので最終便か始発便をお願いします」 「解った、何とか探してみる だけどコネが今熊本だからな難しいかもな」 「後、母さんの精密検査を久遠先生にお願いしますと伝えておいて下さい」 「了解!」 一生は携帯を取り出すと慎一に電話を掛けた ワンコールで電話に出た慎一に 「真矢さんの精密検査を久遠先生にお願いしたいんだけど?」 と頼んだ 『真矢さんは輸血中に意識を失って今精密検査中だ! 玲香さんが悔やんで自分を責めている』 慎一がそう言うと康太はキーボードを叩く手を止めて、一生の携帯を奪い 「慎一か?母ちゃんに変わってくれねぇか?」と言った 康太の声か突然して慎一は『貴方……何時帰って……』と涙でくぐもった声で問い掛けた 「本の数分前だ、それより母ちゃんに変わってくれ!」 康太が言うと慎一は玲香に電話を変わった 『……何じゃ?』 玲香の声は後悔を秘めて沈んでいた 「母ちゃん!真矢さんは大丈夫だから! これから嵐が来るのに、母ちゃんがそんなんじゃ………飛鳥井の家は終わっちまうぜ!』 康太の声を聞いて玲香は己を奮起させた 『それはならぬ!それはならぬじゃ康太!』 「ならさ悔いてる暇なんかねぇ! 熊本にそんなに人員はさけねぇからな…… 後、そこの政治家にも持ち場に還って貰わねぇとな! と謂う事で勝也に電話を変わってくれよ!母ちゃん!」 玲香は携帯を安曇に渡した 『もしもし、お電話変わりました』 「勝也か?今回は本当に烈の事で動いてくれてありがとう! 本当に感謝する!」 康太の声だった 榊原の誕生日も康太の誕生日も本人不在で祝えなかった 顔を合わせても話し掛ける事すら許されない現状だった だからこうして電話で話せているのが信じられなくて安曇は泣いた 『康太……』 安曇の声に安曇が誰と話しているのか解って堂嶋も三木も息を飲んだ 「勝也、烈はもう大丈夫だ 動かせる状態になれば横浜へ移そうと想っている だからお前等は還れよ! そんな所にいちゃあいけねぇ! 本当は俺が横浜にいれば動けたんだけど、動き回って息の根止める方に心血注いでいたからな お前達を動かしてしまって本当に申し訳ねぇ!」 『康太、私は烈を救いたかったのです……』 「それは感謝する 勝也がいてくれたからこそ、烈は助けられ命を繋げられた 本当に感謝する勝也、ありがとう」 『康太……』 「だが政治家が3人も本拠地である東京を離れちゃいかん現状は解ってるよな?」 『………還らなきゃ駄目ですかね? せめて烈が目を醒ますまで……駄目ですかね?』 「それをやるなら正義を戻せ! 正義が素直に戻るなら……だけどな」 『あの子は素直じゃありません!』 「なら無理だわ勝也」 安曇は堂嶋に携帯を渡すと 「君は東京に還りなさい! 私はせめて烈が目を醒ますまでいます!」 と宣言した 堂嶋は安曇から携帯を受け取ると 『坊主か?俺に還れって謂うのか?』と怖色で問い掛けて来た 「今回は本当に烈の事で世話になった 本当にありがとう感謝する だけどよぉ正義、国会を放っておけるのかよ? 今の情勢踏まえてその場に留まれねぇってのは正義、おめぇが一番に痛感してるんだろ?」 痛い所を突いて来る チクチク チクチク突いて来る 『ならば還るなら諸共だ! だが俺は九州の知事と友好都市を結ぶパイプ役を担ってるんだ ついでに動けば後一日は残ると踏んで、その大役を大阪府知事から担ってるんだ!  三木も横浜の知事から担ってるからな 俺等二人は後一日は、この場に居座るぜ!』 「なら勝也に還れって伝えてくれ!」 『叔父貴が還ると想うか?』 「だが長期は無理だろ? 烈は少しの間は移動は無理だろうし……俺は熊本に出向き烈の傍にいる事にする 明日病院で逢おう!話はその時にな 三木に変わってくれ!」 康太に言われ堂嶋は三木に電話を渡した 三木は電話を受け取り 『康太!還って来たのか?』と心配そうな声がした 「あぁ数分前にな 繁雄、母ちゃんを病院の近場のホテルを取って寝かせてくれ!頼めるか?」 『正義と話してて、憔悴してる玲香さんを移動させるつもりだった』 「母ちゃんは真矢さんの体調が悪かった事を知らなかった 真矢さんは女優だからな、母ちゃんに勘付かせないで烈を救ってくれたんだ! 父ちゃんから電話を入れさせるから、ホテルに移ったら連絡してくれ!」 『了解した!直ぐに動くわ!』 三木は約束して慎一に携帯を渡した 「慎一か?母ちゃんの事頼むな 後 烈と助けに行った子の事も……頼むな」 『解ってます!』 「明日にはそっちに向けて飛ぶから!」 『……っ!康太!待ってます!』 そう言い慎一は通話を切った 電話を切ると康太は立ち上がり 「この二人は九鬼の病院に入れる事にする 発作的に自殺を図っても24時間監視して貰えるからな 悪かったな志津子……思い出させたくない事を思い出させて……」 と言った 志津子は「いいえ真贋、あの子は今精一杯生きてます……一眞夫妻もあの子の様に……そんな想いだったのです だから私は大丈夫に御座います」と気丈に答えた 「また飯でも食いに行こうぜ志津子」 「はい!美味しいお店探しておきます!」 「なら逝くとするか!一生、オレと伊織を飛鳥井の家まで連れて行けよ!」 「はいはい!何処までもお連れしますよ!」 「伊織の車で移動するから、その間に飛行機の予約頼むな! 多分最終的には何人になるか……考えても怖いけど……」 「了解した!」 一生は一眞を連れて、榊原は八重子を連れて部屋を後にした 駐車場へと向かい一生の小さな車に乗り込む 一生の助手席に榊原が座り、康太は後部座席に一眞夫妻と乗り込んだ 康太は八重子の手を取り 「オレが魔界にいたのは木葉の魂を冥土へと導く為だ! 木葉の魂は死後一ヶ月経っていたのに、美しいままだった 山の主が護ってくれていたからこそ、体も魂も美しいままでいられたのだ 木葉はオレに二人に逢う事があったら謝っておいてくれと頼んで来た 『あの時 私も意地になっていたんです 日々は苦しくて耐えきれない想いばかりでしたが……耐えればまたあの楽しかった日々が戻ってくるんじゃないかって………決心が付かなかったのです 今思うとあんなに貴方達を苦しめて追い詰めた………許して欲しいと願っているのは私の方です』と涙ながらに言っていた お前達は優しい……だから漬け込まれ追い詰められたんだ 木葉も悔いていた だから供養してやれ、それはお前らがすべき事なんじゃねぇのか?」 と静かに話していた 康太の話を黙って二人は聞いていた 飛鳥井の家に着き、地下駐車場まで下りて、榊原の車に乗り込む 榊原は3ヶ月も放置した車のエンジンが掛かるのか不安だった 一生が「慎一が何時もエンジン掛けてたから大丈夫だと想うぜ!」と告げると榊原はエンジンを掛けた 一発でエンジンが掛かり榊原は一生に「前に乗りなさい!」と告げ一生は助手席に乗り込んだ 康太は後部座席に一眞夫妻と共に乗り込んだ 康太は携帯を取り出すと電話を掛け始めた 「よぉ親也!今時間あるか?」 ワンコールで電話に出た九鬼が 『康太、どうしました?』と問い掛けた 「お前がカウンセリングしてくれた一眞夫妻 今朝方切ったらしいんだよ で、お前の所で少しの間見て欲しいんだけど?」 『それは構いませんよ! 発作的に死を選択するなれば……私の管理下の方が対処も早いですし で、傷の方は?」 「縫ったらしいわ」 『………躊躇もなく切ったと謂う事なのですね それなら私の所の方が安全ですね!』 「これから連れて行くわ!」 『解りました、待っています』 康太は電話を切るとまた電話を掛けた 「オレだけど?」 良くもまぁこれで相手が解るな……と想わずにはいられなかった 相手は『康太!!』と名を呼び息を飲んだ 「父ちゃん、母ちゃんに電話してくれねぇか? 真矢さんが倒れて自分の責任だと思って憔悴してるらしいんだよ」 『解りました! 電話を切った後に掛けます それより康太、逢えませんか? もう3ヶ月逢ってないんですよ?』 「一眞夫妻を九鬼の所に預けたら会社に行くよ オレは夜遅くか朝早くに烈の所に行くつもりだ」 『烈、大丈夫なのですか?』 「当分は熊本で暮らさねばならねぇと想っている 横浜に転院させられるか解らないからな 久遠は一旦還すつもりだ! 八重子のオペをしてもらわねぇとならねぇからな!」 『ならば私も熊本に玲香を迎えに行きましょう! 気張って向かった妻を労い労るのは夫の務めですからね!』 「父ちゃん……会社大変になるじゃねぇかよ! 瑛兄も逝くと言い出すじゃねぇかよ!」 『特別な会議がないので在宅ワークを2日取ったって文句など謂わせませんよ!』 「オレは取り敢えず九鬼の所へ行って、悦郎と合流して会社に顔を出すわ!」 『それでは待ってます!』 電話を切ると「めちゃくそ頑固やんか!」とボヤいた 一生は笑って「今更ですがな!」と答えた 一生は「所でカタ着いたのかよ?」と問い掛けた 姿を現したと謂う事ならば、それは総てのカタを付けて来たと謂う事なのだろう 「まだだがな、オレは満身創痍で足を痛めてるんだよ だから伊織が常に横にいてサポートしてくれてるんだよ 肺とか潰れそうになって痛いし、服脱げば伊織もオレも傷だらけだ! あらかたはカタついたが、魔女は生き残ったからな 傷を治さねぇとカタ着けられねぇんだよ」 康太は悔しそうに答えた 壮絶な闘いが伺えられる よく見れば榊原もあっちこっち生々しい傷跡があった 榊原は九鬼の病院を知っているのか?道案内する事なく車を走らせていた 九鬼の病院の専用駐車場に車を停めると、榊原は車から下りて後部座席のドアを開けた 一眞と八重子を車から下ろすと一生に託して、榊原は康太を支えに行った 病院の受付に院長にアポを取ってある飛鳥井です!と伝えると、院長室へどうぞ!と案内された 榊原は院長室のドオをノックすると、九鬼はドアを開けた 院長室の中へ一眞夫妻と一生を先に通すと、榊原は康太と共に院長室へ入った 九鬼は一眞と八重子の腕に巻かれた分厚い包帯に目をやると 「神経は切りましたか?」と一生に訪ねた 「縫ったと言ってたので、神経は大丈夫かと想います」 「昨日会った時に貴方達の瞳は死しかない瞳をしていた 危惧していたのですがね、やはり切りましたか 貴方達は即座に入院して貰います! 一生君、この人達のパジャマや身の回りのモノをお願いします」 「解りました、何やら見繕って差し入れします」 「頼みますね では、お二人は入院して戴きます!」 そう言うと九鬼は看護師への直通番号を押して 「入院患者さんをお願いします ご夫婦の方2名、同じ部屋に入院頼みます!」 『今、お迎えに行きます!』 院長室に即座にお迎えのスタッフがやって来ると、一眞夫妻はスタッフに連れられて病棟へと連れて行かれた 康太は「近いうちに久遠を還す、そしたら八重子のオペをしてもらうつもりだ」と伝えた 九鬼は黙って聞いて「それが良いでしょう」と答えた そして一生を見て「悦郎君はどうしてます?」と問い掛けた 「病院に戻る前にご両親に逢いに行かせました 相賀が連れて歩いてます 俺は烈が探している子が見付かったので保険証とか用意する為に飛び回ってました 悦郎君は多分もう大丈夫だと想います」 「君がそう言うならもう大丈夫なんだね でも今日は病院に戻してくれると助かるよ」 「後で相賀に連絡して病院に連れて行きます!」 一生が言うと康太は「九鬼頼むな!」と言い立ち上がった その姿は辛そうで満身創痍なのが伺えられた 康太は榊原に支えられ病院の外に行くと、榊原は助手席のドアを開け康太を座らせた 康太の胸ポケットがブーブーと着信を伝える 康太は通話ボタンを押すと 『どうして父に電話するのに兄には電話がないのですか!』と瑛太の声が響いた 「瑛兄、母ちゃんが倒れそうになってたから、父ちゃんの方を優先しただけだ!他意はねぇよ!」 『母さん?母さんがどうしたのですか?』 「真矢さんが輸血してる最中に意識を失ったんだよ……それで久遠は緊急で真矢さんの精密検査をやる事となった 母ちゃんは真矢さんに無理をさせたと悔いていた 倒れる前に手を打ちたかったんだよ」 『康太、兄には逢って貰えないのですか?』 「瑛兄、片付けねぇとならねぇ事があったんだよ この後少し片付けモノをしたら会社に向かうつもりだった 明日は烈の所へ行きてぇからな」 『烈……どんな状況なのですか?』 「気を限界まで分け与えて何度も吐血してたから輸血せねばならぬ状況だったのと、かなり衰弱してたからな……ちょっとの間は動かせねぇと覚悟しねぇとな」 『生きていてくれれば……後は何とでもなります』 「後で行くから、用事を先に済ませてくるわ!」 『待ってます』 康太は電話を切ると、再び電話をかけた 相手はやはりワンコールで電話に出た 「オレだけど?相賀どこにいるのよ?」 『康太!!君こそこの数ヶ月どこにいたのですか?』 「相賀、オレは烈の所へ行かねぇとならねぇんだ! その前に悦郎がどうなったのか?確かめねぇとな! 師範の心痛を軽減させてやらねぇとならねぇんだよ!」 『悦郎は花柳家の皆さんと逢いました 外に出られる悦郎に花柳さん達は感激していました 一生君には本当に感謝しても足らないと申してました これから病院へと戻る所です!』 「めちゃくそ良いタイミングやねぇかよ? オレは九鬼の病院の駐車場にいるんだよ!」 『では直ぐに向かいます!』 相賀と電話を切ると康太は胸ポケットに携帯をしまった 「伊織、烈の所に行くやんか そしたらこの状態見たら久遠怒るかな?」 「………少しは治ったんですが……まだ生々しい傷がありますからね……怒るでしょうね」 「あのクソ魔女!!次は殺す!絶対に殺す!」 康太はかなり怒り心頭って感じだった 暫くして神野の車が駐車場に入って来ると、榊原の車の横に神野は車を停めてドアを開けて飛び出した 「「康太!!」」 助手席のドアを開けて神野と相賀が康太目掛けて飛び付いてくる 康太は想わず「うっ!!」と痛みに眉を顰めた 慌てて神野と相賀は康太を離した 神野は「怪我してるのか?」と問い掛けた 「満身創痍なんだよ! それより悦郎の顔を見せろ!」 相賀は後部座席のドアを開けると、悦郎を車から下ろして康太の前に連れて行った 康太は悦郎を視た その魂に何の翳りもなく、康太は安堵の息を吐いた 「もぉ大丈夫だな悦郎!」 「うん!康太君……父さんや母さんに泣かれたよ 僕はこんなに親不孝してたんだって……後悔した でもまだ怖いよ……でも歩き出すって一生君と約束したから、僕は……歩き出すよ」 康太は悦郎の頭を撫でて 「うしうし!おめぇは光輝く舞台の上にいろ! 今後、お前に手を出させねぇ為に烈が治って横浜に還って来れたなら記者会見を開いてやるからな!」 と言った 相賀は「烈、大丈夫なのですか?」と問い掛けた 「烈は今入院してるんだよ だからオレは少しでも早く烈の傍に行きてぇんだよ!」 「烈……お見舞いとか無理ですが?」 「意識が戻らねぇとどの道、面会は出来やしねぇからな! 面会は遠慮してくれ!」 「ならば面会出来る様になったら、お見舞いに行きます!」 「今はそっと見守っててくれねぇか?」 「君の支えになりたいんです!」 「相賀……」 「ご家族も逢いたいでしょうから、悦郎の事はもう大丈夫です!」 「なら後は頼むな!晟雅もまたな!」 康太はドアを閉めると、榊原は車を走らせ 相賀は悦郎を連れて神野と共に病院の中へと入って行った   

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