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第77話 昏睡 

相賀と神野と別れて榊原は「何処へ行きますか?」と尋ねた 康太は「清四郎さんって何処にいるのよ?」と呟いた 一生は携帯を取り出すと清四郎に電話を入れた ワンコールで電話に出ると清四郎は心配した声で 『真矢に何かありましたか?』と問い掛けた 「清四郎さん、今どこにいます?」 『自宅です、烈の事と真矢の事が気掛かりで仕事どころではないので休みにしてます』 「なら30分位経つと想いますが自宅の方へ逝くのて、家にいてください」 『解りました』 清四郎はそう言い電話を切った 一生は「清四郎さんもかなり来てるから、清四郎が先で良いよな?」と問い掛けた 康太は「だな!」と言い榊原に凭れ掛かった 「辛いなら寝てなさい」 「………ん……」 榊原の手が康太の髪を撫でる 「康太、怪我酷いのか?」 「相手が形振り構わず来ましたからね 僕も康太も弥勒も貴史も満身創痍です」 「え?弥勒元気そうやったやんか……」 「服を脱げば怪我はまだなくなってない筈ですよ」 「貴史は怪我した状態で烈を背におぶさってバイクを走らせたのかよ?」 「みたいですね その中で康太が一番酷い怪我をしました 常に前に立ちはだかり闘う康太は誰よりも怪我が酷いです」 「入院しなくて良いのかよ?」 「どの道烈に逢いに行かねばなりません! 久遠に逢ったら治して貰えば良いのです!」 最近想うのだが……我が弟はこんなに雑い思考の持ち主だったのかしら?と想う 車は鎌倉街道を抜けて、見慣れた景色に変わって逝く 榊原は清四郎の家の前に車を停めると、一生に「呼んで来て下さい!」と頼んだ 一生は車から降りると、インターフォンを鳴らした 『一生ですか、入って下さい』 清四郎が謂う 一生は家の中へ入ると、窶れた清四郎がソファーに座っていた 「清四郎さん、大丈夫ですか?」 想わず心配になり声をかける 「一生大丈夫です」  「最近食べてますか?」 「……真矢が烈の所へ行ってから心配で……」 「さぁ来て下さい! そんな姿見たら真矢さんに怒られますよ!」 「それは怖いから一生黙っててね!」 清四郎はそう言うと笑った 「とにかく一緒に来て下さい!」 「解ったよ、着替えてくれるから待っててくれないか!」 「解りました!」 清四郎は部屋の奥へと逝くと着替えてやって来た 一生は着替えた清四郎を連れて家の外へと向かった 外に出ると清四郎は我が子の車に目を見開き 「伊織……」と名を呼んだ 一生は清四郎を後部座席に乗せ、自分も乗り込んだ 榊原は「父さん熊本へ一緒に行きますか?」と問い掛けた 清四郎は「伊織……何時帰ったのですか?」トやっとの想いで問い掛けた 「ほんの数時間前です」 榊原の膝の上に寝ている康太の姿に 「寝てるの?康太は?」と問い掛けた 「怪我が中々治らないので……」 そう言う榊原の顔にも傷が幾つかあり、生々しい怪我の跡に「大丈夫なのかい?」と心配した声で聞いた 「僕はまだマシです」 何処へ行って何をしているかさえ聞くことは叶わなかった 飛鳥井の家族でさえ知らないとなると誰にも問い掛ける事さえ出来なかった 榊原は一生に「一生、携帯を切りなさい!相賀辺りから伝わった人が君に電話を掛けるでしょう! 今夜は静かに過ごしたいので、部外者は遠慮願って下さい!」と伝えた 一生は「了解!」と言い携帯の電源を切った そして誰にも知らせてない携帯を取り出すと慎一に 「皆が知る携帯の電源を切れ!」とラインした 『了解!なら連絡は極秘の携帯で!』と返信が来た 一生は「清四郎さん携帯は?」と問い掛けた 清四郎は携帯を取り出すと………ブンブンなっていた 一生は携帯を取ると電源を落とした 榊原は飛鳥井建設へと車を走らせた 飛鳥井建設の地下駐車場へと向かうと、役員スペースに車を停めエンジンを切った 車から下りると助手席の康太を抱き上げた 一生は清四郎を連れてエレベーターへと向かう エレベーターに乗り込むと、榊原は役員階の直通ボタン押して鍵を差し込んだ 直通で役員階まで出向きエレベーターを下りる すると榊原は社長室のドアをノックした 瑛太がドアを開けると榊原が康太を抱き締めて立っていた 「伊織……良く帰ってくれました!」と瑛太は榊原ごと抱き締めた そして社長室の中へと招き入れた 榊原は康太を抱き締めたままソファーに座ると、その横に清四郎を座らせた 瑛太は「明日、熊本へ家族で出向きます!会社の方は週末合わせて5日、休日にする事を伝えました! 慎一に頼んで家族の分の部屋を取って貰いました 子供達だって烈に逢いたいんです! 逢えなくたって近くで無事を確かめたいんです!」と伝えた 「ったく瑛兄は筋金入りの頑固だな!」 榊原の胸に顔を埋めていた康太がそう言い笑っていた 瑛太は「康太、怪我したのですか?」と心配そうな声で聞いた 「ったく屈辱的な闘いだった……んとによぉ! このクソ魔女が!クソクソクソ!クソ魔女が! 次は絶対に殺す!跡形もなく消し去ってやる!」 康太は怒って叫んだ 榊原は「あまり傷には触れないで下さい……傷の事を聞かれれば悔しい想いに怒りが再燃します」と事情を話した 瑛太はタラーンとなった 瑛太は気を取り直して 「今夜は空港近くのホテルでディナーをして泊まりましょう 明日、熊本へと家族で行きましょう!」と楽しそうに言った 「ディナーか、オレは毎日毎日毎日!マナーを気にしねぇと駄目な飯ばかりだった! 還ってまでマナーを気にして飯なんか食いたくねぇよ!」と康太はボヤいた 「ならば、お前が食べたいモノを買ってホテルで食べましょう!それでいいかい?」 「飯が食いてぇ!ガツガツ食えねぇのはストレスなんだよ!」 一生は弥勒が言ってた言葉を想い出した 瑛太もマナーを気にして食べるなら、それはコース料理ではないか……と想ったが謂わなかった 「父ちゃんは?」 「今呼びます!」 瑛太は内線で清隆に繋いだ 『瑛太どうしました?』 「社長室に来て下さい!」   『明日の休みの件ですか?』 「違います!来ればわかります!」 『では行きます!』 清隆は電話を切ると会長室を出て社長室へと向かった ノックしてドアを開けると………康太の姿に 「康太!」と傍に寄り優しく抱き締めた 消毒薬と薬品の匂いが康太からして、清隆は康太を離した そっと頬に触れて「大丈夫なのですか?」と問い掛けた 「父ちゃん、母ちゃんに電話入れてくれた?」 「はい、先程入れました 気丈にしてますが、悔いている気持ちが玲香を落ち込ませているのは確かです」 「父ちゃん、真矢さんは目眩が酷くて通院中だったらしいんだよ」 「え?……それは玲香は知っていたのですか?」 「知らなかったからな自分を責めているんだよ!」 康太が言うと清四郎は 「真矢は女優ですから死にそうに辛くたって絶対に勘付かせたりはしないでしょう! 真矢は玲香が望むなら、どんな状態だとしても勘付かせずに着いて行ったでしょう」と伝えた 清隆は窶れた清四郎の頬に触れて 「痩せましたか?兄さん……」と気遣った 「私も熊本に連れて行ってはくれないか? 真矢の元へ……頑張った烈がの元へ 烈を支えた貴史や聡一郎の所へ連れてくれないか?」 「兄さん、共に行きましょう! 飛鳥井建設は明日から3日間の臨時休業とします 広報宣伝部の方には伝えてあります 社内放送も掛けました なので家族で熊本へ行こうではありませんか!」 「清隆……」 何とか話がついた時、一生の極秘の方の携帯が震えた 一生は携帯を見ると慎一からのラインだった 『真矢さんは頭を打ったらしくて、前頭葉付近に血腫が見つかった それが目眩の原因なんじゃないかって 取り敢えず処置して様子見して、オペに踏み切るかは横浜に還ってから決めると言われた』 一生は慎一からのラインを清四郎に見せて  「真矢さん頭打ったのですか?」と問い掛けた 清四郎は「え?……それは知りません」と妻の状態を案じて呟いた 「事件性なければ良いけど……」   一生は真矢が何故そんな状態になったのか?口にした 康太は「オレも全部が視えてた訳じゃねぇからな 何故真矢さんが目眩が起こったのか? 離れてちゃ視えて来ねぇんだよ しかも今は痛みで気も散っちまうし……」とボヤいた 清四郎は康太の傷を目にして、過酷な時間を送って来たのだと想った 榊原は康太を抱き締め 「今夜は何が食べたいですか? 兄さんや父さんが奢ってくれますよ」と話を反らした 清四郎は「何が食べたいんた?」と問い掛けた 康太は「井筒屋の沢庵!んでもって米!米が食えねぇ……井筒屋の沢庵もねぇ……んとに辛かった」と切々と訴えた 清隆は「ならば後で一生と買い物に出て買って来ましょう」と楽しそうに言葉にした 家族がいるってこんなにも嬉しいのだと清隆は想った 瑛太は榊原に「飛行機のチケットは取りましたか?」と尋ねた 「まだです!」 「ならば秘書に頼んで取って貰いましょう」 瑛太が言うと康太が 「秘書に取らせるなら、他言無用は徹底にしねぇと駄目だぜ瑛兄! 秘書の口からオレ等が何処にいるか知れたら本末転倒だ! オレ等は今、邪魔されたくねぇから携帯を切っているんだ! ポロッと行き場所を漏らされたら押しかけて来るじゃねぇかよ! あ!三木にも口止めしとかねぇとな!」と言い見たことのない携帯を取り出すと電話を入れた 「三木、オレ等が何処にいるか聞かれても絶対に答えるな! それは安曇にも正義にも伝えてくれ!」 『了解しました! 今現在、電話が止まないので電源を落としました 私達はホテルへ移動して、そこに滞在しています 久遠先生が病院に迷惑をかけるな!と申されているので、移動したのです! 安曇さんも正義さんも携帯の電源は落としてます 不用意な事は絶対に口外などしないつもりです!』と約束した 「なら後少し頼んだな」 『了解しました!』 そう言い三木は電話を切った 康太は「飛鳥井の家の醜聞になる………周りは好き勝手に書きまくるだろうから、その前に手を打たねぇとならねぇ! 琢磨は飛鳥井の一族とは関係なき者にならねばならぬ! その前にオレ等の居場所をどうこう知られたくねぇんだよ! 東都新聞の今枝辺りは勘がいいからオレと連絡が付かなかった今、何かと探りそうだけど、オレは絶対に探らせるつもりはねぇ! アレは使える時を見誤ると命取りになるんだよ! だから少しの綻びさえ許されねぇだよ!」 と飛鳥井の家の現状を伝えた 瑛太は「ならば秘書には箝口令を引きます! それで情報が漏れた場合責任は取らねばならない旨を記してサインさせれば良い! それでは西村を呼びます!」と言い内線で西村を呼び出した 西村は社長室に康太の姿を見付け息を飲んだ だが何も謂わず瑛太の話を聞いていた 一通り聞いて西村は「秘書たるもの守秘義務は当たり前!口が軽いならば秘書など止めれば良いだけだ!」とガハハハっと笑った 「では誓約書を作成し署名捺印をした上で、飛行機のチケットを大人6人子供5人で取って下さい! 行き先は阿蘇くまもと空港です!」 「了解しました!これより秘書を集めて話をします!」 西村は社長室を出た後、秘書達に話をするだろう 佐伯は過去に康太の寿命の事を聞いて榊原の家の人に話した過去を持つだけに……箝口令も仕方がない事だと想っただろう…… やはり佐伯は箝口令に顔色を変えた 西村はそんな佐伯に 「飛鳥井は常に標的にされている! だからの用心なのだろう! そして康太が帰って来たならば、逢いたいと連絡をする輩が多すぎるから、今は距離を起きたいのですよ! もし今関係なきモノが乱入したら? それは康太の果とは違って来てしまう事となる だから距離を取るのであろう! ならば、我等は殺されたとしても口は割ってはいけないと言う事だ!解りますよね?」と説明した 佐伯は「解っています、この命取られようとも絶対に余計な事は喋りはしない!」と言い署名にサインした 秘書課の全員にサイン入りの書類を手にして、社長室へ向かうと、飛行機のチケットに着手する事を告げた 秘書課の全員は手分けしてチケットを入手する為に動いた 康太は「飛鳥井の名前でホテルを取ろうモノなら、数時間後にはお仕掛けて来る奴かいる オレは本当に静かに過ごしてぇんだよ! 皆に押しかけられたら烈だって落ち落ち休んでいられねぇからな!」とボヤいた 「ならば秘書の名で部屋を取りましょう それなら大丈夫ですか?」 「空港近くのホテルで二部屋で良い 一生にヴェルファイアを持って来て貰えば子供と大人3人は乗れる オレと伊織は清四郎さんを連れてこの後タクシーでホテルまで逝くとする!」 康太が謂うと一生は 「ならヴェルファイア持って来るわ! ついでに子供達も乗せて来るとするわ! 志津子さんに一眞夫妻の着替えとか頼んどかねぇと駄目だし」と言った 瑛太は空港近くのホテルの部屋を二部屋、秘書の名前で取るように内線を入れた 秘書は先にホテルへと出向き、キーを受け取ったらフロントで待つと瑛太に連絡を入れた 秘書達はなんとか苦労して座席を取ると 「早朝の便で大人3人、子供2人 午後からの便で大人3人、子供3人のチケットが取れました!」と伝えた 早朝の便で取った名義は康太と榊原と清四郎、そして翔と流生だった 昼からの便で清隆と瑛太と一生、そして音弥と太陽と大空となっていると伝えた 総てが整うまで社長室で過ごし、全てが整うと部屋番のメモを貰い社長室を後にした タクシーを地下駐車場まで来てもらい、タクシーに乗り込む 榊原は行き先を告げると、顔を隠して寝たフリをした 清四郎も疲れて憔悴しきった顔を隠す様に、寝たフリを決め込んだ ホテルまでタクシーで行くと秘書が駆け寄りキーを榊原に渡した 榊原はキーを貰い受け即座にその場を離れ部屋へと向かった 秘書が取ったのはツインの部屋だった 榊原は部屋の中に入ると清四郎を寝室へも連れて行った 「皆が来るまで父さんは寝てて下さい!」と言いベッドに清四郎を押し込んだ! 榊原はベッドに腰掛けると、康太の服を脱がし始めた 清四郎は「私のいる横で始めないで下さいよ!」と思わず口にした 榊原は「大丈夫ですよ父さん、康太の傷を確認するだけです 血が出ていたら包帯を変えたいので……」と説明した 服を脱がされた康太の体には包帯が巻き付けられていた その横に赤いキスマークが散らばっていて………清四郎は満身創痍の康太を抱いたのか?と目眩を覚えた 包帯には少し血が滲んでいた 榊原は極秘の携帯を取り出すと一生の極秘の携帯の方へ「包帯を大量に買って来て下さい!」とメールした 即座に『了解!』と返信があり榊原は康太を抱き締めていた 暫くするとドアがノックされ、榊原は康太をベッドに寝かせるとドアを開けに向かった ドアを開けると一生が立っていた その横に子供が心配そうに父を見上げていた 榊原は一生と子供達を部屋へ入れた 「義父さんと義兄さんは?」 その場にいない存在を榊原は問い掛けた 「お二人は先に部屋に荷物を置きに行っている 俺は包帯と子供達にお前等を合わせたいから早く来た!」 榊原は包帯を受け取ると「少し待ってて下さい!」と言い康太の包帯を変えに行った 一生もその後を負うと榊原は康太の血の着いた包帯を外していた その背には生々しい傷が真一文字に着いていた 「背中の怪我……ひでぇな……」 榊原は何も言わず素早く手当をすると、康太の服を着せた 「康太、我が子が来てますよ!」 榊原が言うと康太は嬉しそうな顔をして我が子を見た 康太は我が子に「待たせたな!」と口にした 子供達は母の側に寄ると、そーっと抱き着いた 流生が「母さんお帰り」と言うと 翔が「母さん烈の所へ行きたいです」と弟を心配した言葉を告げた 音弥と太陽と大空は泣いていた ドアがノックされると一生がドアを開けに向かった 清隆と瑛太が立っていて、二人を部屋に入れた 瑛太達をソファーに座らせると、榊原は子供達もソファーへと座らせた そして康太を抱き上げると、その横に座らせた 一生は大量に買った食料をテーブルの上に並べた そして康太の大好きな井筒屋の沢庵を用意すると、康太は目を輝かせた 「オレの沢庵!」 康太は叫んだ 榊原は康太が食べやすくお皿に取り分け沢庵を2枚皿の上に置くと、牛丼と共に康太の前に置いた 康太は「食っていいか?」と問い掛けた 「ゆっくり食べるのですよ?」と注意すると、康太は牛丼をガツガツ食べ始めた 「やっぱしオレは米がねぇと生きて行けねぇわ!」 「君は超一流の作るシェフの料理を食べたって、井筒屋の沢庵には負けますもんね……」 「だな!」 何時もの光景に瑛太も清隆も安堵する 子供達も美味しそうにご飯を食べていた 「烈の入学前の面接しねぇとな!」 ずっと保留にしてあった 「烈が元気にならねば……出来ませんからね ランドセル買いませんよ!と脅して目を醒まさせますかね?」 「だな!ても頑張った子にはめちゃくそ優しく拳骨だな!」 「ですね、その後優しく抱き締めてあげましょう」 「でもなぁ………運命の糸が烈を中心に回り始めていんだよ」 康太の言葉に榊原は驚いた顔をして康太を見た 「手繰り寄せてるのは……烈ですか?」 「だと想う………めちゃくそどでかい台風が来るかんな! オレ等も相当の覚悟をしねぇと………烈を永遠に手放さねぇとならねぇ事態になりそうだな……」 「あの子は……頑固者ですものね あの総てを諦めていたあの頃とは考え物にならない位に頑固者ですものね」 「だな………寄りにもよって……オレが思案してる件まで引き摺り出して来てるからな……」 康太がボヤいた 榊原は何も言わずに我が子の世話をしていた 飛鳥井家真贋もそうだけど、飛鳥井宗右衛門が動く時 それは覚悟しておかなければ吹き飛ばされてしまうハリーケーン級の嵐が来るのだ 覚悟なければ……ならないと謂う事だった 康太はモグモグ食べながら 「一生 オレの武器持って来てくれた?」と問い掛けた 「あぁ、お前がリビングに出して行ってくれたから、寝室に入らないでも良かったから助かった! オレは寝室の鍵は持ってねぇからな」 一生はそう言いバッグの中からPCを取り出すと康太に渡した 康太はPCを立ち上げると後は画面を目で追い黙ったままご飯を食べていた PCの画面には鴉からの報告が入っていた 鴉は天宮を動かし極秘で琢磨の個人情報を閲覧し情報を引き出した 飛鳥井の一族はいざと謂う時の為に真贋に委任状が渡してあった その委任状は全てにおいて飛鳥井家真贋に委ねると謂う委任状だった だから天宮は琢磨を使わなくても、琢磨の個人情報は引き出す事は可能だった 戸籍を追うと上間美鈴の前の妻は井芹木葉、保険証は保健局で問い合わせして探し出しました 子の名前は井芹耀、保険証は母親の子として入ってました と言い保険証のコピーを添付してあった 康太は「母親が死んだ場合……その保険証は使えるのかよ?」と呟いた 榊原は「それは天宮に動いて貰うしかないですね」と答えた 康太はPCを一生に渡した 一生はPCを受け取り覗き込むと、瑛太と清隆も画面を覗き込んでいた 清隆は「母親はやはり?」と問い掛けた 一生は「ええ、息を引き取って何ヶ月経つのか解らねぇけど、眠ったように死んでいたとの事でした」と答えた 「子は……どうなるのですか?」 「それは俺にも解りません」 と一生は答えた 清隆は康太を見た 康太は「今後の事は総て烈が決める!」と答えた 瑛太は想いもせぬ言葉に「え?烈がですか?」と問い質した 「烈はもう動かせる人間を動かして防風圏内に突入してるからな あぁなったらオレでもどうにも出来ねぇよ! 烈は宗右衛門の転生者だ! その前の人脈もあるしな、動けばかなり手強い相手になるしかねぇんだよ!」 瑛太も清隆も言葉がなかった 一生は………お前、嵐を呼ぶ男だったんだな……と烈を想った その夜は清四郎と康太をベッドに寝かせ 清隆達の部屋のベッドに子供達を寝させ、清隆を寝かせた 瑛太は康太達の部屋で榊原と一生と珈琲を飲んでいた 瑛太は珈琲を飲みつつPCを開いていた 秘書からのメールを開くと 『会社の方へ、戸浪、相賀、神野、須賀、蔵持様達から電話がひきりなしに掛かって参りました 我等は秘書ゆえ知らぬ存ぜぬを決め込みました ですが会社の社長の携帯に掛けても会長の携帯に掛けても繋がらないのは会社の一大事ではないのか?との事で手を焼いてます 明日は会社は休日と謂う事で回線はすべて遮断致しました 我等秘書が出来る総てでお護り致します! ですが、止まりませんから釘を刺される事をお勧め致します!』 との事だった 瑛太は携帯の電源をオンにすると、即座に電話が掛かって来た 「もしもし御要件をお伺い致します!」 『康太に3ヶ月も連絡が付かなかった その康太が現れ、烈の所へ行くと謂う 我等も共に傍に行きたいと想うのです』 「迷惑千万!飛鳥井の家の事は飛鳥井でする! 今 康太が連絡を取らないと謂う事は、そっとしておいて欲しいのだと何故解らないのですか? 押し掛けて来て烈を見舞う事が迷惑な事だと何故解りませんか? 康太は連絡出来る時になれば、連絡する筈! 今はそっとしておいて欲しいから連絡を拒絶しているのです!」 『我らの力は……要らぬと申すのか?』 「違います! ならば貴方に問おう 具合が悪く寝ているのに見舞客が次から次へとやって来て、だが見舞客は自分の事そっちのけで康太と話そうとする! 貴方はそれが自分ならばどう思います?」 『………あっ……』 「連絡は取らない訳では無い だが今は親として我が子を心配して駆け付けたい そんな想いを踏み躙る事だけは……しないで戴きたい!」 『なれば……連絡して大丈夫になれば、連絡して下さる様にお伝え下さい 我等は何時でも待っているとお伝え下さい!』 「承知しました!我等の後を追って来るのは絶対にお止め下さい!では!」 と言い電話を切った 瑛太は榊原に「烈の意識が戻ったら、康太に連絡入れる様に言って下さいね」と伝えた 「解りました……だが今は、我が子の事しか考えたくないのでしょう 離れている間もずっと我が子の事を話していました 烈の入学式の事ばかり話していました ランドセル買わないといけないのに、買えてませんからね」 「ランドセルならもう買いましたよ? 入学に必要なモノも母さんと真矢さんとで買いに行ってました ランドセルは私も父さんも一緒に行き選んだのですよ」 と瑛太は顔を綻ばせ携帯を取り出すと、その中の一枚の写真を榊原に見せた その写真はランドセルを背負って笑顔を振りまく烈の姿だった 榊原は携帯を受け取り「烈……」と名を呼び画面に釘付けとなった 榊原は烈の姿を目にして、瑛太にこれまでの事を話した 「康太は我が子が大人になった時、障害となりうる脅威と闘っていました 人を反魂の術で生み出す教団と闘って来てのです 調べてみれば我が社にも反魂で生き返った社員がいました その社員はその教団からの指示を受けて動いていた様です 去年の夏、GW辺りに心霊スポットとされたホテル あそこのホテルで撮影出来る様に、手引した社員がいましたよね?」 「ええ、何処の誰か解りませんでした」 「僕らが消える少し前にバタバタ倒れて息を引き取った社員がいた筈です 彼等こそ反魂で生を成した者達なのでした 康太は怒ってました 大切な家族のこんな直ぐ側に脅威が近付いていた事に……怒り狂っていました だから跡形もなく消し去る事にしたのです それは飛鳥井だけではなく、この国も他国も脅威に想っていたのです だから協力しあって各国、国を上げての作戦行動となったのです だから極秘で秘密裏に動いていたのです ラスボスには敢え無く逃しましたが、魔女だとてもうそんな力は遺っていないでしょう 我等は怪我を治したら息の根を止めに行きます それは総て我が子に託す明日の飛鳥井の為でもあるのです!」 反魂……スケールが違う話に瑛太は言葉もなかった 確かに死因不明の社員が何人か出ていた 突然動きを止めて、シューッと魂が抜けた様に動きを止めた……と社員から聞いた 警察に連絡を入れると、特殊な部署の人間が出て来て処理をして行った あれが反魂だと謂うならば……納得は出来た 榊原は携帯を瑛太に返して 「今は烈の事しか考えてはいません!」と答えた 榊原は康太のベッドの横に腰掛けて、康太の眠りを護るように側にいた 瑛太と一生はソファーに横たわり眠りに着く事にした 朝早く康太と榊原は起きて支度をしていた 昨日、一生に買い物を行くなら康太と榊原の服を適当に買って来て下さい!と頼んでカードを渡した 一生は食べ物を買いに行くついでに康太と榊原の服と下着を数点買ってカードを返し服を渡してくれたのだ 買って来て貰ったら着替えに着替えて、着替えを紙袋に入れる 熊本へ行ったらコインランドリー位在るだろうから、洗濯するつもりでいた 着替えが整うと榊原は康太と清四郎を起こした 洗面所に行き歯を磨き顔を洗うと、清四郎は 「私の着替えはどうしましょうか?」と榊原に問い掛けた 「向こうで買いましょう! 今はもう取りに行く時間がありません! 少し我慢して下さい、向こうに付けば慎一が買いに行ってくれます!」 「解りました! では行きましょう!」 「少し待って下さい父さん 一生、義父さん達に朝を食べましょうと連絡して下さい!」 「了解!」 一生は隣の部屋まで行きドアをノックした すると清隆がドアを開けた 「子供達は寝てますか?」 「起きてます!それぞれ歯を磨き着替えて支度し終えた所です!」 と、清隆も支度を整えて子供達を連れて部屋から出た 康太の借りてる部屋へと戻ると、ルームサービスを頼み部屋に運び入れて貰う手筈を整えた 暫くすると部屋にモーニングセットが運ばれた ソファーの横のテーブルに所狭しと置かれたモーニングを皆で食べる 朝食を取ると榊原は瑛太から空港チケットを渡してもらい、康太と清四郎、翔と流生を連れて部屋を出て行った 榊原は空港に行くと然程待つ事なく搭乗手続きをして飛行機に乗り込んだ 長丁場の旅路、康太は早々に寝て、翔と流生は黙って目を閉じて座っていた 康太も子供達も飛行機が大の苦手だから乗り込んだら寝るぞ!と約束していたのだ 只管寝倒してそれでも飽きた頃、やっと目的地の空港に着いた 空港から外に出ると康太はタクシーに乗り込んだ 助手席に康太が乗り込み、後部座席に榊原と流生と翔が乗り込んだ 「救命救急センターまで!」と行き先を伝えて慎一に 「熊本に着いた、これからタクシーで病院に向かう!」とラインした 即座に慎一から『正面玄関で待ってます!』と返信があった 空港から救命救急センターはそんなに離れてはいなかった 10分程で救命救急センターへ到着すると、玄関前には慎一が待っていてくれた 「康太、久遠先生が直ぐに逢いたいと言ってます!」 「なら直ぐに行くわ! 翔達は駄目だろうから……どうするかな?」 「俺が見てます なので行って来て構いません 後、この地でホテル住まいなのも味気ないので病院の近くの一軒家を一ヶ月だけ借りました 三木達は長居は出来ないのでホテルですが、我等はそうは行きませんからね 不動産屋を当たっていたら賃貸に出す前の住宅なら一ヶ月なら貸しても良い!と謂われました なので定期借家契約して来た所です! 家具はレンタルで最低限の洗濯機と乾燥機と布団を借りました」 「助かるわ 何日で目を醒ますか解らねぇからな」 「3階のICUに久遠はいます 病棟の受付をして上がって行って下さい オレは子供達と共にいます」 「頼むな、ならちゃっと行ってくるわ!」 康太は榊原と清四郎と共に病棟の方の棟へと向かった 病棟の方の受け付けで久遠に逢いに来たと話すと、待ち構えていた久遠が顔を出した 久遠は「カンファレンス室を使う!」と言い3人を連れてその場を去った カンファレンス室に入ると久遠は 「烈が助けた子の素性は解ったのかよ?」と問い掛けた 榊原はPCからコピーした保険証を久遠に渡した 「母親は死んでいるので、その保険証が生きているかは解りません」 「でもなねぇよりマシだな 烈が助けた子は当分は入院だ! 烈は意識が戻れば動かせる 後 真矢さんは相当頭を強く打ったのか? 内出血が見られた、それが目眩の原因だ 真矢さんは直ぐとどうこうはする気はない 横浜に帰って病院で様子を見てからになる」 「烈は?どんな状態だ?」 「一時は危なかった 体力落ちてるのに気を送ってたと謂うんだ! 弱らない筈がないわな! 吐血もしてたから血が足らなくて輸血した 輸血の最中に真矢さんの意識がなくなるから、俺はめちゃくそ焦ったじゃねぇか! 後で慎一が真矢さんは目眩で通院してたそうです……なんて聞かされたこっちの身にもなりやがれ!」 「済まなかった……オレも動けなかったからな…」 康太が言うと久遠は立ち上がり康太の顎を持ち上げた 「おめぇ顔色が悪いじゃねぇかよ!  伴侶殿もよく見ればあっちこっち怪我してる きっとその服の中はかなりの怪我をしているんでしょうね? 貴史はただの疲労かと想っていたら火傷だの裂傷だの出て来て良くもあんなんで烈を背負い山道を歩いたもんだと、関心しちまったぜ!」 久遠はかなり怒っていた そして「ほれ、見せやがれ!」と怒った 康太は観念して服を脱いだ 榊原も観念して服を脱ぐと、二人はかなりの怪我をしていた 「おめぇらは本当に無茶ばっかしするな! おめぇの子も無茶ばっかしやる!」 久遠はカンファレンス室を出て逝くと、処置用のカートをゴロゴロ引いてやって来た 久遠は康太と榊原の手当をしながら 「俺は今夜、横浜に立つ 八重子のオペがあるからな! お前らは烈が目を醒ますまで休んでろ! 薬は処方しておいてやる! どの道低体温療法中だ、目は醒めねぇよ! 運ばれて今日が2日目だ、烈は明後日から少しずつ体温を上げて行く 烈が助けに行った子は更にそれより3日遅くなる だから目が醒めない今のうちに俺は横浜に立つ どの道消耗が激し過ぎて、体温を戻したとしても目が醒めるか解らねぇけどな!」 「久遠 すまなかった」 「まぁいい俺は医者だからな! 助けがいる奴がいるなら何処へでも逝くと決めている!」 「烈に逢えるか?」 「無理だな、寝させてあるから 外から眺めるなら出来なくはねぇ、それで我慢してくれ!」 「久遠、横浜へは慎一を連れて行ってくれよ!」 「元よりそうする! ならお前等を連れて行ったら、俺も休んでる事にするわ!」 手当が終わると久遠は烈と耀が眠るICUへと連れて行った 烈は体に管を一杯通され寝ていた その横に耀も同じ様に体に管を沢山通され寝かされていた 「こんな状態だからな、お前らは真矢さんの病室に行け!」 そう言い久遠はICUを離れて病室の方へ康太達を連れて行った 真矢の病室の前に止まると久遠はノックした 真矢の「どうぞ!」と謂う声が聞こえ久遠はドアを開けた 「真矢さん、御主人とご子息達がお見舞いに来られた」 「え?……」 信じられない想いでドアの方を見ると、そこには清四郎と榊原と康太が立っていた 「康太……伊織……あなた……」 真矢は涙ぐんで手を伸ばした その手を清四郎は握り締め泣いていた 康太は少し離れた所で動かずに真矢を視ていた 真矢は何故康太が傍に来てくれないのか?不安な瞳を清四郎に向けた だが清四郎は困った顔をして妻を抱き締めた 久遠は「ならな!俺は処置を頼んで出ねぇとならねぇからな! 後、真矢さんは烈達と共に転院させて、向こうで経過観察する事にする! その後にオペかどうかを決める! それまでは仕事は休むように!」と言い、康太の頭をクシャット撫でた 康太は「なら慎一に頼んでおくわ!」と説明すると 久遠は「飛行機のチケット取っておいて欲しいから、夜までに準備が出来たら呼びに来てくれ!」と言い病室を後にした 康太はそれを見送りまだ距離を取って立っていた 「康太……」と呼ぶ真矢に唇を手に当てシーッと黙る様に言った 康太の瞳が赤い光を帯びると、榊原は「どうでした?」と問い掛けた 「視えた」 康太が言うと榊原は康太を椅子に座らせた 「ねぇ義母さん、上間美鈴に突き飛ばされた事ありませんか?」 「え?……その子は知らないけど、撮影現場に入ろうとした時、邪魔よ!と突き飛ばされた事はあります………あっ……そう言えばその後から目眩が始まったんです」 「義母さんは連日の撮影に弱っていたから、かなりのスピードで壁に頭を打ち付けましたよね?」 「ええ……頭を打って少しの間立てなくて、マネージャーが支えてくれて控え室で休んでました 少ししたら治ったから大丈夫かと想ったんですが……目眩が始まって病院に行ってました」 「医者はなんだって?」 「貧血と謂われました……今想うならば久遠先生に視てもらえば良かったと後悔してます」 「義母さんの怪我は久遠が治してくれるかんな! 何も心配する事はねぇよ!」 康太はそう言い真矢を励ました そして腕時計を見ると「そろそろ瑛兄が来るかんな! 取り敢えずオレは勝也かいるホテルへと向かうわ!」と移動を告げた 「義母さんまた来ます 母ちゃんが気にして落ち込んてるから、父ちゃん達が来るんだよ! 後 政治屋も本拠地に追い出さねぇとならねぇし少し出ます! 義父さんはどうしますか?」 「伊織が戻ったら服を変えたいから買いに出たい」 「解りました! なら少し待ってて下さい!」 康太はそう言い榊原と共に病室の外に出た 病室の外に出ると康太は慎一の元へと向かった 康太は慎一に「久遠が今夜横浜に還るからチケットを一生に取らせて、おめぇは久遠に着いて行ってくれねぇか?」と告げた 慎一はめちゃくそ嫌な顔をした 「あの人……鉄の塊が飛ぶんじゃねぇ!って怒りまくって大変でした…… またそれに付き合わされるのですか……」 「そんなに酷いのかよ? アイツ国境のない医師団で海外に行ってたのに? オレはアイツとは飛行機に乗ってねぇからな…… でも龍の頭には平気で乗ってたよな?」 康太には違いが解らなかった 龍の頭より飛行機の方が断然乗り心地が良いだろうに…… 「なら繁雄に頼むか……」 康太が呟くと、慎一は「俺が行きますよ!三木では荷が重すぎる! それよりホテルの方へ行ってて下さい 一生から連絡がありましたから、迎えに行ってきます! 瑛兄さん達はホテルにそのままお連れして構わないのですよね?」 「おう!構わねぇ! 一生が来たら旅館の精算に行かせねぇとな 後 バイクの返還もしてもらわねぇとならねぇならな!」 「ならば俺は瑛兄さん達をお連れして、全員揃ったら借りた家の方へ案内します! 空港に行くのでついでに空き便を確かめて予約を入れてきます!」 「頼むな!」 「はい!」 慎一はそう言うと病院脇に止まってるタクシーに飛び乗った 康太も榊原と子供達と共にタクシーに乗りホテルへと向かった ホテルの前でタクシーから下りると三木に電話を入れた 「今ホテルの下だ!迎えに来い!」 電話を入れると即座に三木が迎えに来た 「母ちゃんの部屋に先に頼むわ!」 康太は子供を連れていた、だから先に玲香の部屋なのだと想った 三木は玲香の部屋へと康太達を連れて行った ドアをノックすると玲香が出た 「何じゃ?」 元気のない声で謂う玲香に「母ちゃん!」と康太は声をかけた 「「ばぁちゃま」」と子供達が玲香を呼ぶと、玲香は顔を綻ばせた 「翔 流生!!康太、伊織……」 玲香は信じられない想いで名を呼んだ 康太は玲香を部屋に押しやり 「後で父ちゃんと瑛兄と残りの子が来るかんな! そしたらホテルじゃ狭いから、慎一が部屋を借りてくれたから、そこで過ごそうぜ!」と言った 「全員来るのかぇ?」 「京香とその子供と慎一の子と悠太は家に残ってるが、父ちゃんと瑛兄とオレの子は全員来てる!」 「そうか……」 玲香はもう気張らなくても良いのだと安堵した 「母ちゃん、少しの間子供を見ててくれよ! 俺は隣の部屋にいる政治屋を追い返さねぇとならねぇかんな!」 「康太、御世話になったのだから失礼はなりませんよ!」 「解ってんよ!」 康太はそう言い子供達を玲香に託して部屋を出た 足を引き摺る康太を榊原が支える 三木は「怪我してるんですか?」と問い掛けた それには答えず康太は隣の部屋のドアを開けた ノックもなしに部屋が開き皆が振り返った そして空いたドアに康太が立っていて皆は驚いていた 康太は榊原に支えられ辛そうに部屋に入りソファーに座った 榊原もその横に座る よく見れば二人はあっちこっち傷があった 康太は「この度は烈が世話になった!」と深々と頭を下げた 榊原も同じ様に頭を下げていた 安曇は「怪我をなされているのですか?」と問い掛けた 榊原は慌てて止めようとしたが…… 「クソクソクソクソクソクソクソ!クソ魔女が! 次は絶対に殺す!殲滅してやる!消し炭にしてや!灰にしてやる!」 と康太は悔しくて叫び散らした 榊原は「怪我には触れないで下さい……」と注意した ギリギリ奥歯を噛み締める康太を止めて 「康太、そんな事より、そこの政治屋を配置する為に来たのでしょ? 勝也さんも傷には触れないで下さい! 康太は傷を聞かれたくなかったからモナコでは知らん顔していたのですから……」 と冷たかった内情をサラッと暴露した 正義は「我等だとて坊主の子は心配なんだ……」と打開策を口にした 「心配してくれてありがとう 今回は正義にも本当に世話になった! ありがとう!」 康太が頭を下げると堂嶋は慌てて止めた 「止めてくれ!頭を下げないでくれ!」 「オレは当分はこっちで過ごす 最低でも一ヶ月は動けねぇだろうから、慎一が一軒家を一ヶ月借りてくれたんだ! ホテルを引き払ったら、そっちに移動するつもりだ! だからお前達も移動したらどうよ?」 「え?………」 「そんなに居座れねぇのはお前達が一番知ってるだろ? ならば、東京に経つまでゆっくり過ごせよ まぁオレの子もいるから静かとは言えねぇけどな」 「構わないのか?」 「あぁ、帰るまでに父ちゃん達と酒でも飲んでくれたら助かる! 父ちゃん達は今週末までいてくれるつりだ!」 「なら一晩世話になろうかな?」 「なら父ちゃん達が来たならば、チェックアウトするつもりだ! お前等も支度が終わったらチェックアウトして下で待っててくれよ!」 と言い、部屋を出て行った 堂嶋は康太達が出て行った後に…… 「叔父貴は……康太の傷は知っていたのか?」 「閣下から……怪我をして運ばれたと聞きました 相手も負傷したみたいですが……逃げ遂せてしまったので、康太は悔しくて堪らないんでしょうね」 「魔女って……康太は魔女を相手にしていたのですか?」 「かの教団のトップはジャンヌ・ダルク本人なんですよ ………火刑の刑に処されても……悪魔に魂を売って生き残ったとされる魔女です」 堂嶋も三木も言葉もなかった そんな一大事聞かされてはいなかったからだ…… 「闘いは終わってねぇのか?」 「ラスボスはまだ弱回ったと言っても逃げ遂せてしまいましたからね…… 今回は本当に多くの命を落し、多くの負傷者をだしてしまったと閣下は責任を感じておられた」 「まぁ康太なら次は確実にトドメを刺すだろうな! めちゃくそ悔しがっていたし、やってくれるだろうと、閣下に申しておこう!」 後は言葉もなく黙々と片付け部屋を出てチェックアウトをしてホテルのロビーまで移動した 玲香の部屋に戻ると瑛太達が来ていた 康太は慎一に「チケット取れたか?」と問い掛けた 「はい、取れました 今夜 久遠と立ちます!」 「貴之に空港まで迎えに行かせるから、それで病院まで連れて行ってくれ!」 「解りました!」 「なら慎一が部屋を借りてくれたらしいから、そこへ移動するとするか、タクシーで移動するか?」 「このホテルは病院の近くなので、借りた家もそんなに離れてはいません! なので歩きで構わないと想います」 「んなら移動するか! 母ちゃん歩けるか?」 康太は気落ちして少し窶れた玲香に声を掛けた だが玲香は「我か?我は怪我してる康太よりは歩けるぞぇ?」と返した 「母ちゃん……オレの怪我知っていたのかよ?」 「直ぐに解ったわい!」 ガハハハっと玲香は笑い飛ばした 榊原は一生に「家に行ったらレンタカーを借りて来て、父さんに服を買いに出て貰えませんか?」と問い掛けた 清隆は「我等も着る服がありません!なので皆で出れば良いのです!」とさっさと出かけるつもりでいた事を話した ホテルの下まで移動すると、三木達も待ち構えていた 「歩きで移動する!」と伝えるとゾロゾロと大移動を始めた 10分位歩いた所に慎一が借りた一軒家はあった その家は縁側があり、何処か源右衛門の家に似ていた 慎一は不動産屋から貰った書類から鍵を出すと、ドアを開けた ガラガラと開けると懐かしい家屋の匂いがした 「掃除はしておきました なので直ぐに生活始められます!」 ゾロゾロ家の中へと入ると、庭に面した方の窓を開けた 気持ちの良い風が入って来て、久し振りに風の匂いを感じていた 瑛太は滞在中の異動の為にレンタカーを借りに行く算段を付けていた マップを駆使してレンタカー屋を探す 案外近くにレンタカー屋があるのを発見すると 「レンタカーを借りて来ます 一生、一緒に来てくれませんか?」と頼んだ 「了解!義父さんも着替えを買いに行くので、行きますよ! 途中、清四郎さんも拾って買いに行かねぇとな!」 一生が立ち上がると「一生、食べ物も買って来て、下さい!」と頼んでカードを渡した 瑛太がそのカードを榊原に返して 「兄がいるうちは甘えておきなさい!」と言った 瑛太と清隆と一生が家を出て逝くと、皆ドサッと畳の上に座った 大きな漆喰のテーブルがドテーンと置いてあり、康太は「このテーブルも借りたのかよ?」と問い掛けた 「いいえ、そのテーブルとテレビは大家さんが貸し出して下さったのです 病院に入院してる子が退院するまでと言ったら、テーブルとテレビを運び込んで下さったのです 後 座布団も!」 「めちゃくそ親切な大家さんだな」 「お子さんが入院していたそうです 長きに渡る入院に近場に住んでいたご夫婦 でした………なので子供が入院してると申しましたら、ご自分達と重なったのか、リフォームして貸し出すまでの一ヶ月、貸しても良いと申し出で下さったのです」 「めちゃくそ助かるな 母ちゃん達、好きな部屋取って良いかんな!」 「康太は?」 「オレも伊織と空いてる部屋に入るつもりだ! あ、貴之に頼んどかねぇとな!」 そう言い康太は電話を掛け始めた 榊原は「貴史達が泊まってた部屋、どうしました?」と慎一に訪ねた 「康太達が来るまでに精算しておきましま バイクも登山道入口にあったので引き渡しておきました」 「大変だったでしょ?」 「烈達は入院中だったので、その間に動ける事はしておこうと想いました この家の電気もガスも開いて貰ったので、今日から生活出来ます やかんとかフライパン等買っておきました! 湯呑や食器は百均で揃えて置きました!」 「なら少し此処での生活も楽になりますね」 慎一はキッチンへと向かいお茶を沸かした そしてお茶を人数分出した 康太は電話を終えてお茶を啜ると 「貴史の見舞いに行かねぇとな」と呟いた 「貴史、結構傷が酷かったんですね 烈を背負って行った姿に、そんな気配全く感じられなかったので驚きました」 「オレ等は結構怪我しまくりだったからな…… 命を落とした奴もいたし、未だに意識の戻らねぇヤツもいる 殲滅された神もいた………さながら地獄だったぜ、あの闘いは………」 慎一は言葉もなかった 静まり返った部屋に「戻ったぞー!」と謂う一生の声が響いた 慎一は玄関に出向くと大量の荷物が運び込まれた 家の横に駐車スペースがあり、車はそこに停まっていた 榊原も出向き荷物を受け取る 病院から清四郎を拾ったのか?清四郎も荷物を持っていた 部屋に入ると瑛太は「今晩は飲みますか?熊本と言えば芋焼酎ですからね!買ってきましたよ!」と楽しそうに言った 子供達は大人しく座布団の上に座っていた 一生が「家の中探検したかよ?」と子供達に訪ねた 子供達は首を振った 「なら家の中の探検だ!」と言い子供達を連れて家の中を探検しに行った 康太は「父ちゃん良い服あったのかよ?」と尋ねると 清隆は「無難な服を買って来ました、5日と言えど着替えがないと困りますからね」と答えた 清四郎は沢山の紙袋を持っていた 「これは伊織、君のです そしてこれは康太、君のです 子供達はリュックに着替えを入れてありますからね 5日だけなので、何とかなりませんかね?」 康太は笑って着替えを受け取ると 「ありがとう御座います 伊織は洗濯しまくりますから、なんとかなります」 「では今宵は飲みましょうか?」 「ええ、そこの政治屋達もそんなに長居は出来ないので、せめて帰るまでに寛いで貰いたいですからね!」 慎一と榊原は料理を作りにキッチンに向かった 康太は「母ちゃん寝てなくて大丈夫か?」と問い掛けた 玲香は「大丈夫じゃ!少し気弱になったが、もう大丈夫じゃ!飲んで笑って明日の鋭気を着ければ、我は立っていられるのじゃ!」と答えた 「なら母ちゃん楽しく飲むと良いかんな!」 家族と話してると安曇が康太に 「君は何時まで此処にいますか?」と尋ねた 「オレは烈が横浜へ還れねぇと動けねぇかんな また、助けに行った子はもっと掛かるから、それらを見届けねば還れねぇんだよ 瑛兄や父ちゃん、母ちゃんに子供達は今週末には横浜へ帰る! 隼人も仕事があるからな戻さねぇとな」 「我等は明日には帰ります ですがまた来ます 今度は休日にちゃんと訪ねてきます」 「烈の意識が戻っても、助けに行った子の意識がいつ戻るか解らねぇからな…… 死んでいて当たり前な環境に長く居すぎたからな……」 康太が言うと堂嶋が 「なら横浜に移すのは無理そうだな……」と現実を見据えて言葉にした 「あぁ、もう親はいねぇからな……放っておくわけにも行かねぇかんな」 「その子はどうなるんだ?  孤児なれば俺が引き取っても構わない」 「烈がこの件は関わってるんだよ だから全ての件は烈が適材適所配置する だからオレは手が出せねぇんだよ……」 「烈……がかよ? やっと初等科の坊主には荷が重すぎやしねぇか?」 「でもは……もう運命の輪は烈を中心に回り始めているんだよ 手繰り寄せてるのは烈だ! 此れより特大級の嵐が吹き荒れる 烈が動けば嵐は来る もう飛鳥井は既に防風圏内に突入してるんだ! もっと時間を掛けて発覚する筈な事が烈が動いた事によって、時間を巻かれて一気に噴出しちまっている…… オレも手を打たねぇとならねぇ事があるからな 相賀達と少し距離を取っているんだよ」 「若旦那や善之助さん、相賀に須賀に神野……ついでに東都日報の東城社長と今枝が康太と連絡付く様に伝えてくれ!と連日事務所の方に電話が入ってるそうだ!」 「瑛兄にガツンッと拒絶されたからな…… でも今回はオレは家の方のカタだけ着けねぇとならねぇからな その前に人に逢う気は皆無なんだよ! 東城とか今枝とか冗談じゃねぇ! アイツらは時期を見誤ると命取りになるんだよ!」 「まぁ俺等は知らぬ存ぜぬを決め通す! 一応伝えておくだけだ!」 「了解!」 会話が終わる頃、食卓には料理が盛大に並べられた この夜、久し振りに楽しい時間を送る事となった 酔い潰れ倒れた奴に毛布を掛けて寝させる 慎一は立ち上がると 「それでは久遠先生と共に横浜へ向かいます!」 と告げた 康太は「貴之に飛行機に乗ったらラインしてくれ!そしたら空港まで迎えに来てくれるから!」と伝えた 「了解しました!」と言い慎一は家を出た 後は久しぶりの楽しい宴会となり遅くまで笑いが声が響いた 子供達は両親の存在を感じて眠りについた

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