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第81話 果てへ
記者会見会場に椅子が運び込まれ準備は万端となった
朝一番で今枝が上間美鈴という女優の生い立ちと罪を暴く記事を東都日報ジャーナル創刊号に載せた
前夜の暴漢騒動で色んな憶測が出る中、雑誌が発売され、今夜 花柳悦郎が飛鳥井家真贋を後見人 として、榊原真矢と合同記者会見を開くと謂う
真矢の方の同席者は一度共演した孫 烈だと発表された
見届人として相賀、須賀、神野、戸浪、蔵持が名を上げた
烈は総て出来上がった記者会見場に三木竜馬と共 に姿を現した
その後に飛鳥井康太と榊原伊織
相賀に連れられ花柳悦郎と榊原真矢が入って来た
城田は烈の姿を目にすると、近くに寄って来た
「烈、どうです?出来栄えは?」
烈は瞳を輝かせ「しゅごいよ!しろた!」と感激して言った
そして「かあしゃん しろたはどんなしごともできるのよ!
つねにさきをみすえて、べんきょうをおしまないひとなのよ!」と賛辞を述べた
城田は烈の言葉が嬉しくて堪らなかった
康太も「今度からはイベント関係の施工も請け負うかな?」と城田の腕に仕事の幅を増やしていこうかな?と考えていた
榊原も「それが良いでしょう!城田のこの腕があれば、飛鳥井建設は更なる躍進を遂げられるでしょう!」とプロの仕事を見せ付けられて言葉にした
その言葉を聞き竜馬は瞳を輝かせ
「真贋、なればこのビルが建った暁には、是非とも城田君に腕を奮って貰いたいです!
このビルは30階建てですが、1階から5階まで多目的ホールになります
1階と2階を打ち抜き広い空間を使うホールと、3階から5階は小ホールとなり、5階から20階までオフィス、テナントビル
20階から30階が売りマンションになる予定なんですよ、って知ってますよね真贋は!
果てを見て画図を描いて飛鳥井悠太に製図を引かせた建物なんですから!
でね、多目的ホールはイベントなど出し物を出す期間限定のテナントとして使用するので、そのイベントの構成なんかを任せたいのです!」
と語った
城田は目の前で大きな商談の話がされ……頭が着いて行けなかった
康太は笑って「城田がやりてぇって仕事ならやるだろ?
でも気乗りしねぇならやらせる気はねぇんだよ!
城田はうちの大切な社員だからな!」と自分のモノ宣言をした
「なら気に入った仕事だけして貰います!
相談に乗って貰って、やりたい風ならやってもらう!
気乗りしないならスッパリ諦めます!
俺は烈の大切な人に歯向かう気はないです
親父の大切な人に牙を剥けば、親父に絶縁されます!今はそれが嫌なので無理強いはしません!」
「って言ってるけど、話は聞いてやる気はあるのか?城田」
康太に聞かれ城田は腹を括る
「話を聞いて出来そうならビジネスとして手を貸す、それでどうですか?」
「それで十分です!」
竜馬がニコニコ笑う
康太は「このビルは2年位掛かる、それまでに決めればいい!」と言った
ならば、その日までもっともっと、腕を磨かねば!と城田は心に誓った
烈は真矢を見付けると傍に行き手を握った
「ばぁたん、きょうもうつくしいのよ
れもね、くちべにのいろは、もっとあかるいのがいいのね?」
「この口紅だと駄目かしら?」
気分が沈んでるのか、何時もより暗めのメイクをしていた
「ばぁたんはどのじょゆうよりうつくしいのよ!
ぱっとあでやかなほうがいいのよ!」
「烈……ありがとうね
後で艶やかのに変えるわね」
「ばぁたん だいすにらから!
わっててほしいにょ!
そしてうつくしく、かがやいていてほしにょ!」
真矢は艶やかに笑みを零し頷いた
竜馬は烈の傍に行くと烈に「ねぇ、烈、紹介してくれないのですか?」と催促した
烈は「りゅーまなのよ!」と雑い紹介をした
真矢は意味が分からず竜馬の顔を見た
その顔は真矢が憧れていた女優さんに似ていて
「五代雪乃……そっくりね」と呟いた
竜馬の頬に手を当て懐かしい顔をされる
竜馬はどうして良いか解らなくて、困った顔をしていた
榊原が母の傍に行くと「母さん、竜馬はその女優さんの孫に当たるのですよ」と助け舟を出してやった
「こんな大きなお孫さんがいたのね……」
ずっとずっと憧れていた
何時か押しも押されぬ女優になったら、共演出来るかしら?と夢見て励んだ
だが真矢が名を上げる前には引退して真矢の前から消えた
あれからどれだけの月日が経ったろうか……
竜馬は「三木竜馬です、宜しくお願いします」と真矢に言った
「三木?……三木って繁雄さんの縁の方?」
三木と言ったら三木繁雄しか想像出来なくてついつい聞いてしまう……
「三木繁雄の長男になります!」
真矢の傍で聞いていた清四郎も竜馬の顔に真矢が憧れていた女優の顔を思い浮かべていた
だが、三木夫妻を知る人なれば、竜馬の顔は…似ていないと言うしかなかった
烈は仕方なく真矢と清四郎に
「りゅーまはずっと、じぶんはよーしだとおもっていたのよ!
かぞくのなかでだれにもにてないから、それもしかたないんだけどね…らからかおのはなしはやめてあげてね!」と説明した
竜馬は「親父は飛鳥井の人に顔を知らせ過ぎなんですよ!」とボヤいた
すると背後から「それは悪かったね!」と声がした
三木繁雄が立っていて竜馬は「なんで親父がいるのさ!」と問い掛けた
「私は表には出ませんが、見届人として見届けに来たのです!」と言い、真矢と清四郎に向き直ると
「愚息ですが、以後お見知り置きを!」と息子を頼んだ
清四郎は「良いご子息ですね!」も言葉にした
「息子は祖母に瓜二つの容姿をしています
家族の中で息子だけが、容姿が違うので悩ませてしまった時期もありました!
子育ては難しいです……ですがこの度息子は烈の傍へと行く事が許可されたので、今後は貴方達と逢う機会も増えると想いますので、宜しくお願いします!」
二人は並んでも親子とは想えない、それ程似ていない
だが親子なのは伺えられた
我が子を思う想いは十分に伝わって来たからだ
その時、司会進行の為会場に入った安曇貴之が竜馬の姿に目を止め
「何で竜馬がいるのですか?」と問い掛けた
「烈の後ろに立てろ!と命が出たので!」
「ならば、烈の立場は確立されたと謂う訳なのですね」
「そうです!」
「竜馬の癖に!」
「貴之、うかうかしてたら追い越すぜ!」
「腹立つ!竜馬の癖に!」
貴之は悔しそうに言った
竜馬は余裕で笑っていた
三木が息子の頭をポコンと叩くと
「スーツを新調して来ました
一生に渡して来ましたから、それに着替えなさい!
烈と共に出るならちゃんとしなさい!」と指示を出した
「了解!」
竜馬は烈を抱き上げると
「ジャージは持って来てないよね?」と問い掛けた
「ぱじゃま もってきた」
「会見終わったら寝るつもりですか?」
「ボクこどもらからね!」
「今日はビシッと決めて下さいね!烈」
「まぁ、にゃんとかなるよね」
竜馬は控室へと向かった
そこには支度中の康太と榊原がいた
榊原は一生に「烈のスーツをお願いします、それと繁雄から預かってる竜馬のスーツを渡して下さい!」と頼んだ
一生は竜馬に三木から頼まれたスーツを渡した
「着替えたら靴も変えねぇと駄目でっせ!」
と、ピカピカに光る靴を指さした
そして烈の着替えを手早く始めた
烈にスーツを着せて行く
だがまだ体重が戻らぬ烈のスボンはスカスカだった
スボンを履いても下がる事間違いなくて、サスペンダーを着けて、上着を着せた
そしてゴムで出来てるネクタイを着けると
「もう触るなよ!」と釘を刺した
「わかってるのよ、かじゅ」
竜馬も着替えると聡一郎がネクタイを微調整してやる
「君ももう触ったらだめですよ!」
「了解です!」
そこへ慎一がやって来て「メイクの人連れて来ました!」と言った
烈は「え?おけちょーするにょ?」と驚いて
竜馬は「部屋を間違えてませんか?」と言った
「間違ってないよ!サクサクやるよ!
記者会見に出る人は?」
問い掛けられると一生は康太と烈と竜馬を指さした
メイクの人は「見栄えする顔にするよ!」と言い、康太の顔のメイクを始めた
康太の次は竜馬、そして烈も少しだけメイクされ
「にゃんか、へんなのよ!」とボヤいた
そこへ花柳悦郎が相賀に連れられやって来ると
即座にメイクされた
烈はメイクの人に「ばぁたんはもっとあかるいくちべにがいいのよ!」と伝えた
メイクの人は笑って「了解!」と言い、真矢の控え室に向かってメイクを始めた
烈は椅子に座って携帯を見ていた
兄達からのラインが届いたのだった
烈 ガンバレ!
励ましてくれる兄達の想いが嬉しい
「にーに……」
思わず泣きそうになると一生が「メイクが落ちるから我慢だ烈!」と止められた
「かじゅ……」
「大役あるだろ?
ならば涙なんて見せたら駄目だぜ!」
一生はそう言い烈の携帯を預かった
康太は「腹減ったな」とボヤいた
聡一郎が「記者会見終わるまで我慢ですよ!」と怒った
烈は「かにぱん ほちぃな」とついつい母につられ謂う
榊原は「記者会見終わったらカニパン上げます」とカニパンで釣るような発言をした
康太は「ならオレもカニパンでいいや!」と言い出す始末だった
緊張感のない控室だった
その中で悦郎だけ緊張して座っていた
一生は「大丈夫かよ?悦郎君!」と声をかけた
「何か久しぶりだから……緊張しちゃったの」
「大丈夫だよ!ちゃんと出来るよ!」
その言葉を胸に何とか自分を整えていた
安曇貴之が入って来て「それでは皆さん、記者会見所へお越しください!」と案内をすると、記者会見の出席する者達だけが、移動を始めた
相賀は悦郎に寄り添い歩いていた
烈は悦郎の手を取ると、黙って一緒に歩いていた
悦郎はその時になって、烈も記者会見に出席するのだと解った
「えつろう だいじょうぶよ
おもてぶたいにおどりあがる、せんれいだとおもえばいいのよ!」
悦郎は黙って烈の言葉を聞いていた
悦郎はその子がどこの誰の子か解っていなかった
会見場に付くと烈は悦郎の手を離した
そして真矢が席に着くのを待って、その横に座った
その後ろに竜馬が何も言わずに立った
康太は花柳悦郎の横に座った
貴之が「此れより花柳悦郎、榊原真矢 合同記者会見を執り行ないます!」とマイクを通して始まりを告げた
フラッシュがパシャパシャと一斉に切られる
報道記者達には各会社一部ずつ記者会見に関する資料を入り口で渡した
記者は会見子始まるまでに、それに目を通して、会見を待っていた
フラッシュの嵐が去ると、会見は始まった
最初にマイクを手にしたのは飛鳥井康太だった
「この度は合同記者会見の場にお越し下さいましてありがとうございました!
我等は共に被害者と謂う事なので、共に合同記者会見を開く事に致しました!
オレは花柳悦郎の後見人 飛鳥井康太と申します!」
康太がマイクを置くと、烈はマイクを握り締め話し始めた
「このたびは、さかきばらまやのきしゃかいけんにおこしくださいまして、ありがとうございます
そぼ まやもはなやなぎえつろうし、どうようにひかいしゃとしてごうどうにきしゃかいけんをひらきました!
ぼくはさかきばらまやのまご、あすかいれつです!」
と言いマイクを置いた
康太が悦郎が上間美鈴にされて来た経緯を記者に伝えた
次は烈がマイクを「りゅーま」と言い竜馬に渡した
竜馬は榊原真矢がテレビ局で上間美鈴に突き飛ばされ内出血を起こした経緯を話した
一通り説明が終わると質疑応答へと変わって行った
烈は何も言わずに、じーっと記者達を視ていた
質疑応答は概ね康太の方にされた
だが一人だけそれが面白くなくて
「飛鳥井烈君にお聞きします
君は何故、その席に座っているのですか?
何も出来ない子供が座る席ではない
祖母が気になるならテレビの前で見てればいい!
それだけの事だよね?」と馬鹿にして問い掛けて来た
子供のお遊びに付き合わされるこっちの身にもなって欲しいよ!と馬鹿にして何度も何度も烈に向かって挑発を繰り返した
見ているこっちが不快な感じになる、質疑応答だった
烈はその質疑には答えなかった
すると、その記者は更に意地になって、ここは幼稚園のお遊戯会じゃないんだよ?と馬鹿にした
竜馬は居ても立っても居られすに動こうとした
だが烈は「りゅーま うごくな!」と竜馬を止めた
竜馬は背筋を正し胸を張り、その場で踏ん張って立った
烈は竜馬を押し留めた後に、嗄れた声で
「名もなのらぬ、どの出版社かテレビ局か名乗らぬ者に答えてやる気は皆無だと申そう!
お主こそ、会社を背負って会見場に来たのではないのか?」と答えた
会場が一斉に静まり返った
声は老人だが…見た目は子供
まるでコナンばりの現実に皆 思考を放棄をかのように黙った
「子供だと甘く見たか?
だがこの席に座る以上は此方も覚悟を決めて座っておるのじゃ!
遊びに来た?お遊戯会ではない?
そんなモノは百も承知!
我等は上間美鈴の罪を白日の下に晒す為に、こうして記者会見を開いておるのじゃ!」
嗄れた声が会場に響き渡った
「我等は上間美鈴が起こした暴力で傷つき過ぎておる!
此処に知ら示す為におるのじゃ、だからこうして被害を訴えている
だが、上間の罪を白日の下に晒したとしても、我等は上間に罪は問えはしない!
そして何より、唯、断罪したい訳ではない!
だから上間の生い立ちを発表させた!
総てを公表させ、我等はその上で皆に問うのじゃ!
罪は裁かれねばならぬ!
だがそれだけでは駄目なのじゃ!
何故その様な愚行を働き転落して行ったのか、を!知らしめねばならぬじゃ!
総てを曝さねば、悪だけ断罪され事件の本質や経緯を知る事なく騒がれて終わってしまう
それでは駄目だと申そう!
被害者は我らだけではない!
渡した資料に目を通して来られたと謂うなれば、おのずと解るであろう!
3歳の子が母を亡くし死にかけた現実を忘れないで戴きたい!
その孫と嫁を上間の指示により、痛め付けて苦しめ命を奪ったと、今も後悔の念を抱いている存在がいる事を忘れられては困る!
上間はこれ以上の罪を重ねてはならない!
何故に、花柳悦郎と榊原真矢を傷付けられねばならなかったのじゃ!
その罪を白日の下に晒す為にこの場におるのじゃ!
遊びに来ておる訳では無い!」
とズバッと言い捨てた
会場は咳払い一つせぬ程に静まり返っていた
質疑応答した記者は言葉もなく……その現実を受け止めるしかなかった
その後の質疑応答は、常軌を逸脱する事なく続けられた
烈は胸を張り前を見据えて座っていた
その会見場にいる相賀、須賀、神野は悔しくて堪らなかった
影から見守る安曇、堂嶋、三木も悔しくて堪らなかった
慎一や一生や聡一郎はあの時烈が、竜馬を止めなければ、飛び出すつもりだったのだ
それ程に見ている者が悔しくて堪らない想いをしていたのだった
今枝浩二が手を上げ発言権を得ると
「東都日報の今枝浩二です
烈君、君が開いた記者会見の意味を、そして真実を綴った記事の中で訴え続けた真意を解らぬ者がいて苦渋を飲まれた事でしょう!
ですが我等は真実を伝えねばならぬ報道に関わる者!
己の意見だけで、その場を乱してしまった事を、報道に携わる者として謝罪致します!」
今枝はそう言うと深々と頭を下げた
それを見ていた記者達も立ち上がり深々と頭を下げた
会見場の空気が一変した瞬間だった
今枝は続けた
「俺は烈君に真実を書くように託されました
ですが、あれを全て書いたら上間に同情票が集まらないか?危惧して問い質しましたね?
だが君は裁くと謂う事は善しも悪しきも全て白日のもとに晒して公平にせねばならぬ!とおっしゃいました
だから俺は真実を書きました
その上で貴方は上間に罪をしらしめたかったのですね
もう終わらせてやっくれ
そう言われた貴方の言葉かとても印象深かったです
我等はジャーナリストとして真実を伝える義務がある!
そして上間美鈴の真実を白日の下に晒す義務がある!
その為の記者会見でなくはならない!
そうですよね?烈君」
シーンと静まり返ったホールに今枝の声が静かに響いた
「ばぁたんは じょゆうです!
しぬしゅんかんまで じょゆうです!
どれだけくるしくても、つらくても、さかきばらまやは、たちあがり えんじつづけるじょゆうなのです!
そして、ぼくたちのほこれるそぼです!」
その道は誰にも邪魔度させない!
そんな怒気を孕んだ烈の声が響き渡った
「貴方が全身全霊を掛けて祖母である真矢さんを守ろうとする姿が伺えられて、本当に良かったです」
今枝は深々と頭を下げ質疑応答を終えた
記者会見の最後は本人達の言葉で皆に伝える事となった
花柳悦郎が自分の声で皆に復帰のお知らせをつげる
「僕はとても臆病で、逃げるしかなくて、自分を保てなくて逃げていました………
ですが………再び役者としてスポットライトの中に立ちたいと想います
この度は本当に多くの方に迷惑を掛けました
今後とも宜しくお願います
僕も死ぬ瞬間まで演じ続ける役者でいたいと、烈君の言葉を聞いて想いました!
この先 どれだけ苦しくても辛くても、僕はこの道を選んだ日を絶対に忘れたりしません!
今日、この日が僕のスタートラインだと心に決めました
どうもありがとう御座いました!」
と言い悦郎は深々と頭を下げた
悦郎の言葉が終わると真矢が
「私は本当は記者会見を開く気はありませんでした……
ですが孫の烈が、罪は本人が償わなければいけない!
そして総てを白日の下に晒さないと、誰も終れないんだよ!と謂れ記者会見を開く決心が付きました
私は何もしてないのに急に突き飛ばされ、何が起こったのか全く解りませんでした
その日から少しずつ目眩が始まり、私は日常生活すら送れない程に弱っていました
私は女優です 孫に誇れる女優でいたいのです
ですが……目眩に日常生活すら脅かされました
先日、オペをしました
その間に色んな事がありました
今 私が思う事は、上間がした事は許してはならない、それだけです
間接的とは言え上間は卑劣な手を使い、まだ3歳にしかならならない子供から両親を奪った
そして周りの人間を洗脳して苦しめた……
歪んでしまった上間の道を正しく矯正して欲しいです
そして何時か…胸を張って生きて行って貰いたいです
それが我が孫 烈の願いであり 進むべく果てだと想っています
今日は本当にありがとう御座いました」
真矢はマイクを置くと深々と頭を下げた
そして顔を開けると嫣然と笑った
とても美しい笑みだった
この日の記者会見は終わりを告げた
控室に向かっと烈は一生にスーツを脱がさせて貰いパジャマに着替えさせて貰った
そしてメイクを聡一郎に落として貰っていた
竜馬は烈を心配していた
明日から烈はきっと奇異な瞳で見られる事だろう
それを考えて竜馬は涙が止まらなかった
「りゅーまなくな……」
「だって烈、悔しい…悔しいんだもん仕方ないじゃないか!」
その場にいた皆が悔しくて堪らない想いをしていたのだった
三木や堂嶋や安曇も即座にあの記者を排除したい程に悔しかったのだ
相賀や須賀や神野も然り、悔しくて、神野は泣いていた程だった
烈は嗄れた声で「気にするでない竜馬!定めじゃ!儂は何一つ気になどしておらぬ!」と答えた
「だって……あんな姿見たら…きっと……」
竜馬は泣きながら訴えた
そこへ三木もやって来て、悔しいと泣き始め……
親子で烈の前で泣き始めた
康太は「顔は似てなくても親子やんか!」とボヤいた
榊原は「あれは僕も……悔しかったです……
だって宗右衛門が発言すれば……烈が奇異な目でみられてしまう……そんな想いが過ぎりました」と内心を吐露した
「オレだって宗右衛門は出したくなかった
オレはずっと人々に奇異な目で見られ続けたからな………出来たら避けたかった
まぁ子供が祖母の為と言え記者会見に出たら目立つわな………」
安曇は「報道規制を掛けさせようか?」と心配して控室に来て問い掛けた
堂嶋正義も「何で何時も何時も悪意的な報道記者しか来ないんですかね!本当に腹が立ってしかたありません!」と本当に腹立たしそうに言った
康太は「報道規制は必要ない」と断った
「烈は覚悟の上で記者会見に挑んだ
その結果明日から奇異な目で見られたとしても!
烈は報道を歪めず真実を伝えさせたかったんだ!」
烈の想いが痛い
清四郎は烈の真矢への想いが嬉しくもあり……悲しかった
何故?何故?こんな事になったのだ?
自分の中に疑問ばかり増えて、答えは見つからなかった………
康太は「本当ならあの場の悪意はオレに向くはずだったんだよ!」と言葉にした
安曇達は、え?と康太の顔を見た
「子供なんて記者会見に出席させ何考えてるんだ?
仲良し小好しの記者会見を開く意味は?
なんて考えて来ていた記者が殆だった
それを烈が引っくり返したんだよ!
オレの見てた果てと………違うんだよ」
相賀は「……烈もその果てを詠んでいたと謂う訳なのですか?」と問い質した
「そうだ、オレは荒れる記者会見を予想していた
飛鳥井家真贋が出るんだからな、記者は弱点になる要因を突っ突きたくて仕方がなかったんだよ!
烈が喋る前の時点では、風向きはオレへと流れる筈だった
それを烈がぶった斬り流れを変えたんだよ」
榊原は「烈は母を守ったのですね」と言葉にした
「あぁ、そして烈は竜馬も守ったんだぜ!」と竜馬に声を掛けた
竜馬は泣き顔を康太に向けた
「あそこで竜馬が動いたなら、竜馬の政治家人生に汚点を残す結果となった
顔を売ってる最中に、お前が取り乱したりしたら初戦黒星となる所だった
だから烈はお前を止めだったんだ
政治家たるものどんな時も取り乱してはいけない!
そう斎王に習わなかったか?」
康太に謂われ竜馬は、あっ!と思い出していた
だがそれ以上に悔しくて悔しくて堪らなかったのだ
烈は慎一に手を伸ばすと「ねむいにょ!」と訴えた
慎一は「ならば、帰りましょうか!」と言い烈を抱き上げた
烈は慎一の耳元で何やらゴニョゴニョ話をすると、慎一に竜馬に向き直った
「竜馬、飛鳥井の家族全員に顔見世せねばならないので、今夜は泊まれと言ってるので、車で着いてきて下さい!」と言い竜馬を連れてさっさと記者会見場を後にした
あっという間に烈が去り三木は置いてきぼりを食わされた
康太は「オレ等も家に帰るかよ?」と言った
安曇と堂嶋は国会が大詰めで東京を離れる訳にはいかないと、その日はそこで康太達と別れた
三木も渋々康太に別れを告げて、議員会館へと向かった
清四郎は妻を休ませたいから帰ります、と謂うと笙に迎えに来させて還って行った
康太は相賀、須賀、神野に「飛鳥井へ来るかよ?」と問い掛けた
3人は「ご一緒させて下さい!」とその夜は飛鳥井へ泊まる事となった
烈は慎一の車に乗るなり横になり寝ていた
慎一は烈に「覚悟の上だったのですか?」と問い掛けた
明日から烈を見る目が変わるだろう
飛鳥井烈と謂う存在に皆が興味を持ったと同時に、珍獣の様に見るだろう……
烈は嗄れた声で
「儂は何時の世も珍獣扱いされて来た
記憶も知識も人格もそのまま転生し、人の子に生まれるのだから、人と変わっていて当たり前の事なのじゃ……
それが如何に異質な事なのだと解っていても……
儂は転生者故、仕方がない事だと諦めて過ごした
昔はもっと酷い扱いを受けたものじゃ!
精神病院に放り込まれ、二重人格とまで謂われた事もある
あだなは何時もジキルとハイドだった時もある
今世奇異な目で見られたとしても些細な事なのだ
真贋だとて同じじゃ
人と違えば我等は奇異な目で見られるしかないのじゃ!
総て覚悟の上でやった事じゃ気にするでない」
と静かに話た
何時の世も二人は同じ時に転生し、人々から奇異な目で見られたと謂うのか……
慎一は辛くて堪らなかった
慎一は飛鳥井へ着くと車を停めて、シャッターを開けたままにした
竜馬は慎一の後に駐車場へ入り、来客用スペースに車を停めた
車から降りると慎一に少し待ってて下さい!と謂われた
少し待ってると榊原の車と一生の車が地下駐車場へと入って来た
慎一は皆が入るとシャッターを閉めた
そして烈を車から下ろした
パジャマを着た烈は車から降りた母を見つけると
「かあしゃん おやすみ
とうしゃん おやすみ」と言った
康太は烈の頭を撫でて「ゆっくり眠れ!今度は飛鳥井の方の掃除になるからな!」と更なる仕事を口にした
「やすめにゃいのね……」
「ちまちまやってると学校に通えねぇだろ?」
「そうなのよね……」
ガックシ肩を落とした
「ねるね、ちょっとつかれたにゃ」
「おぉ!寝ろ寝ろ!」
康太が謂うと烈はトボトボと歩いて家へと続くドアを開けて家へと入った
するとそこには兄達がいた
疲れた烈を労るように兄がいてくれた
「にーに……」
5人の兄は烈を抱き締めた
そして「一緒に寝ようね」と言ってくれ客間へと向かった
客間には子供布団6枚が敷いてあった
烈は自分の布団に潜り込むと、眠りに落ちた
兄達は烈の眠りを妨げさせないと、守るように布団に入った
音弥はすっと歌を歌って聞かせていた
流生は烈の頭を撫でてやっていた
太陽も大空も烈を守るように烈の方を向いて寝ていた
翔は母達の元へ行くと「家の方は僕も出ます!」の宣誓した
母は「ならばやってみろ!」と笑った
その言葉を聞いて翔は客間に行き眠りに着いた
竜馬はどうして良いか解らず困っていた
すると慎一が「ご飯食べますか?」と問い掛けた
竜馬は瞳を輝かせ「食べます!」と答えた
慎一は相賀達にと「何か食べるとするか?」と問い掛けると、皆が食べると答えた
皆をキッチンへと招き入れ座らせると、主に
「消化のいいのを作るので食べてから寝てください!」と言い腕を奮った
榊原と康太も席に付き食べ始めた
竜馬は「上手い!上手い!」と言葉にして食べていた
康太は相当 菩提寺のご飯が不味かったのか?と想った
聡一郎は「彼、カサカサな食事しか食べてなかったんだね!」と呟いた
「あんだよ?そのカサカサな食事って?」
「彼言ってたよ
菩提寺の精進料理ばかりで、この年でカサカサです!って」
康太はたらーんとなった
「あれはな、烈が縦社会ってのを体験させる為に菩提寺に入れたんだよ
午前中は寺の僧侶と同じに起きて掃除して修行する
午後からは鷹司緑翠と進藤の塾へ通い勉強をする
そんな生活を送ってたんだよ
でも一応貞操の危機も考えて陣内に鍛えて貰ってから寺に入れたから、己の身は守れた筈だからな、まずまずの出来だった」
聡一郎は言葉をなくした
まだ21にしかならない青年が送っていい日々じゃないから……
一生は「彼は今後は烈と共に動くのかよ?」と問い掛けた
「だと思うぜ!」
康太はそれしか謂わなかった
食事を終えると康太と榊原は寝室に向かった
一生と慎一は相賀と須賀と神野と竜馬を客間に通した
そして布団を敷くと寝間着を持って来て
「今日は疲れたでしょうから寝てください!」と言った
4人は寝間着に着替えて布団に入ると、知らないうちに寝ていた
静かに夜は更け………
大きな狼煙を上げた夜は終わった
翌朝、家族がキッチンへ向かうと、烈は家族に竜馬の紹介した
家族は昨夜の記者会見を見てて…烈に何と言って声を掛けて良いか解らずにいた
烈はそれが解っていたから、敢えて何も言わなかった
余所余所しい態度に気にも止めず、烈は平然としていた
その日烈は家族が皆、学校や会社へ出掛けた後は、応接間のソファーに座りテレビを見ていた
テレビのワイドショーは記者会見の様子をノンストップで流していた
烈の説明は真矢の孫と謂う以上はなく、飛鳥井の家でどんな立場の存在なのか?分からずにいて下手に動けずにいた
報道規制が入るかと想っていた
だが報道規制は入らす、上からの圧力もない為
そのままノンストップで記者会見を流した
そして何度も何度もコメンテーターは記者会見の質疑応答の品位を問うて議論となった
そして烈の
「ばぁたんは じょゆうです!
しぬしゅんかんまで じょゆうです!
どれだけくるしくても、つらくてもさかきばらまやは、たちあがり えんじつづける、じょゆうなのです!
そして、ぼくたちのほこれるそぼです!」と謂うシーンが何度も何度も流されていた
その想いこそが飛鳥井烈の真意なのだと、皆に知らしめた
上間の生い立ち
そして上間がして来た事が白日の下に晒された
人を洗脳して虐げ追い出し……間接的に井芹木葉と謂う人間を死に追いやり、耀と謂う子を死の淵に追いやった
その子を助ける為に飛鳥井烈は熊本へ行き、命を賭けて救助した
それら総てが曝される事になった
テレビでは時系列を追える様にファイルを作り話される
そして上間の現在の夫 飛鳥井琢磨も断罪の時を迎えていた
琢磨の行動も取り上げられ無責任な男が作った全ての罪を暴かれた
記者会見の翌日 烈は学校を休んだ
元々休みの範囲で休んでるから、行かなっかっただけなのだが……
烈は竜馬とテレビを見て「かじゅ、いちぞくそうかいやるにょ!」と伝えた
一生は「康太が多分そう言うと言ってた!
で、どこに集めるのよ?」と動く算談をする
「ぼだじでかまわないのよ!
どのみち、ぼだじにははなしがあるのよ!
ぼんのうまみれのぼーすなんぞきれと、いわないとだめなのよ!」
「煩悩まみれ、それは何なんだよ?」
「りゅーまをおそおうとしたやつらのことよ!」
一生は驚愕の瞳で竜馬を見た
「襲われたの?竜馬……」
竜馬は嫌な顔をして「犯られてはいませんよ!」と答えた
「烈に道場で連日鍛えられました
烈に投げ飛ばされた日には情けなくて、只管精進して力を付けました
なので夜這いに来た奴等は皆 再起不能にしてやりました!」
「まぁ夜這いする煩悩まみれな奴は切られて当たり前だわな!
で、どう動くよ?」
「いま かあしゃんにいって、からすをはなってあるのよ!
そのちょうさがあがったら、とうせいをはかるためにうごくのよ!」
「了解、ならば今日はどうするのよ?」
一生が問い掛けると烈は
「かじゅ、かいしゃのどうこうは、どうらった?」
「取り分け何かあるとは報告は入ってないな」
「そーなのね……
ひかりはどう?めんかいできるにょ?」
「意識は戻ったけど悪夢から覚醒められないで、目が覚めると叫んで泣いているそうだ!」
「いちどあわにゃいと…らめらね」
自分を取り戻させ、本来の目的を明確に示せば、自ずと意識は戻り現実を受け入れるだろう……
烈は何やら携帯をポチポチやって立ち上がると
「きがえてくるにょ!」
と謂うと、竜馬は
「俺も着替えた方が良いですか?」と問い掛けた
竜馬は普段着を着ていた
「そうらね、すーつにきがえるのよ」と言った
車のトランクには着替えが数枚入ったバックを入れてあったのだ
一生は「今日は何処へ行く気なのよ、あのお子様は……」と言った
昨日の今日だから大人しくしておいて欲しいと謂う想いもあるのだ
烈は一人で着たのか?応接間に来た時はスーツを着ていた
竜馬もスーツに着替えて来ると、二人して飛鳥井の家をあとにした
一生と聡一郎と慎一は何も言えず……二人を見送った
車に乗り込むと竜馬は「何処へ行くんです?」と問い掛けた
「かむいの所まで乗せて行って」
竜馬はエンジンをかけると車を走らせた
車に乗り込むと烈は目を瞑り何も言わなかった
竜馬は「昨日親父がマンションに何時でも越して良いと鍵を貰いました!
なので今後は共に行けます!」と嬉しそうに言った
そんな竜馬に烈は「りゅーま すこしのあいだかいしゃではたらくのね!」と言った
「え?今度は飛鳥井で働くのですか?」
「りゅーまはわかってないのよ
ひとは、はたらいてかてをえて、せいかつしてるってことを!
はたらくってことを!
それだとね、しょみんにむいたせいさくはまずうてないのよ!」
痛い所をズボッと刺された気分だった
竜馬は働いたごとがない
バイトすらした事はなかった
三木の家にいる間は親の脛をかじり
竜ヶ崎斎王に教わっていた時は全て用意されていた生活を送っていた
竜ヶ崎斎王の所を出て菩提寺に放り込まれ、集団生活を味合わされた
縦社会と謂う歪なカースト制度を目にして、上に立つ者の資質でこんなにも歪に歪んだ縦社会と謂うモノが曲がり通るんだ、と想った
そんな想いをしてやっと烈と共に動けると思ったのに……
今度は会社で働けと謂うのだ
だが、庶民に向いた政策はまずは打てない!と謂われれば、烈の示すステージに乗らねば果てへと続けないと解るから、竜馬は覚悟を決めていた
「みきあつおにはね、いとこのりょうまってのがいたのよ
てんぶのさいをあたえられたおとこはね、はくめいでこころざしなかばで、このよをさった
だからみきあつおは、まごであるりゅーまにいとこのおもいをたくしたのよ」
「そんな話は聞いた事がありません!」
「りゅーまがきけばはなしてくれるのよ
こんやでもききにいくといいのよ!」
「なら聞きに行きます!
その前に俺の今度はどんなミッションなんですか?」
「あすかいけんせつで、じゅうまんえんずつ、はたらくの
けんせつのぶしょでじゅうまんえんぶん
けいりかでじゅうまんえんぶん
ふくしゃちょうのところで、じゅうまんえんぶん
けい、さんじゅうまんえん かせいでよ
じぶんのちからで、きゅうりょうをえるってこと、けいけんするのよ!」
「了解しました!
何時から始まります?」
「らいしゅうから、はたらくのよ
そのことは、とうしゃんにはなしてあるのよ
おかねのたんかが、しごとによってちがうってわかるのよ
ちからのいるしごとだと、ちんぎんたかいの
でもね、からだはかなりきついのよ」
かなりハードなミッションを熟せと提示された
「来週って事は、この後どうするんです?」
「りゅーまはひっこしのじゅんびするのよ」
「解りました!」
竜馬は烈を烈の弁護士 飛鳥井神威の所へ送って行った
そこで下ろして竜馬は引っ越しの準備へと取り掛かる為に車を走らせた
その日……烈は皆の前から姿を消した
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