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第84話 記者会見 そして日常へ
烈が飛鳥井の家に還ったその夜
榊󠄀 清四郎と榊原真矢、そして一条隼人が記者会見を開いた
その記者会見を取り仕切ったのは緑川慎一だった
一生もサポートに当たり二人が司会進行をやる事となった
控室には烈もいた
兄弟達もいて、康太と榊原も聡一郎もいた
真矢はメイクの人に誰よりも綺麗にメイクしてもらい、清四郎と隼人も会見用のメイクをして貰っていた
時間になると一生が呼びに来た
ビシッとスーツを着た一生が3人を会見場へと案内する
そして席に着くと慎一が
「これより榊󠄀 清四郎 榊原真矢 一条隼人の連名記者会見を開きます!」
と始まりを告げるとフラッシュがバシャバシャと光り目が開けていられない程だった
清四郎がマイクを取ると
「今日は連名記者会見にお越し戴きありがとう御座います!
我等は孫である飛鳥井烈の為に記者会見を開きました!
何故 烈は怪我を負わねばならなかったのですか?
何故、迫害されその身を傷つけられねばならなかったのですか?
我等は二度と再びこの様な事が起きない様に、皆様へ宣言する為に記者会見を開きました!」
と先制攻撃するかのようにキツい瞳で記者達を睨み付け謂う姿は迫力があった
清四郎がマイクを置くと真矢がマイクに握り
「烈は私が産んだ子です!
真贋が子を望むならば、と私が産みました3番目の子供です!
私が産んだ子が化け物なれば、その親である私も化け物ですか?
私は真贋に託した子達の祖母であろうと生きてます!
どの子も私の大切な宝物です!
ですから宝物を傷付けられ腹が立つのは当たり前ではないのですか?」
そう言い、真矢はマイクを置いた
隼人がマイクを取ると
「飛鳥井烈は俺の大切な弟です
俺は飛鳥井康太に鍛えられ育てられ、康太の長男として生きています
たから康太の子は弟も同然!
その弟を傷付けられた……
烈は兄弟や家族に迷惑が掛かるからと、一ヶ月以上身を隠し消えた
何故だ?何故なのだ?
烈が何か悪い事をしたと謂うのか?
飛鳥井烈は飛鳥井宗右衛門の転生者として、過去の記憶も力も総て引き継いで生まれた存在!
烈であって、その体は烈ではない
それの何がいけないのだ?
家の為に子供なのに五通夜の儀式を傷だらけになり完遂した
まだ子供なんだよ?烈は……
烈の背負う荷物はあまりにも重い…
なのに貴方達は烈を化け物だと謂うのか?
俺は悔しくて堪らない!
その為だけに俺はこの席に座っている!」
と言い涙を拭いながらマイクを置いた
清四郎は再びマイクを持つと
「帝都新聞報道部 菅野栄一郎!
君は私が敢えてご招待した
あの日名乗らず、何処の者が告げす無礼な発言を繰り返したのは何故ですか?」
と無礼な質問をした記者を名指しで問い質した
菅野栄一郎と呼ばれた記者は只管「すみませんでした!」と謝罪するばかりて何故かは答えなかった
「貴方があの日、執拗に烈に質問などしなかったら………何度悔やんだか解らない!
そんなに子供の烈が出席していたのは許せなかったのですか?」
清四郎が言うと真矢も
「烈は化け物!と罵られキャリーバッグを投げ付けられたのです
その傷は未だに癒えてはいない!
我等は烈を傷付けた者を許しません!
そしてその発端となった貴方も……許しません」
と涙ながらに真矢は言った
真矢のファンならば、康太の子供の3人は真矢が産んだと周知の事実として受け止められていた
その子供を化け物呼ばわりされて傷つけられたのだ
真矢の心痛は考えるだけで察せる事が出来た
隼人がマイクを取ると静かに
「断罪したい訳では無い
だが現実はどうだ?
嗄れた声で話すだけで化け物呼ばわりされて、怪我させられた
烈は前世の記憶も在る、そして宗右衛門として生きてきた時がある、それらが烈と共存している、それだけだ
そりゃ最初はオッサンの声で話したから驚いたが、それも引っ括めて烈なのだ
そして烈は飛鳥井家転生者として過酷な鍛錬と修行を重ねて生きて行かねばならぬ存在
それを解って欲しかった
分からなくても、危害は加えないで欲しいのだ!
もう二度と………烈を傷つけないで欲しいのだ」
と訴えた
マイクを置いた3人は胸を張り前を見て、毅然と座っていた
慎一は「質疑応答に移りたいと想います、何か御質問は有りますか?
有る方は挙手して所属先と名を述べて下さい!」と言った
記者らは静かに今までの話をメモして記録した
カメラマンは3人の写真を取っているだけで、誰も何も発しなかった
そんな中一人の記者が立ち上がると、全員が立ち上がり深々と頭を下げ謝罪した
質疑応答は一つもない記者会見だった
「それではこれで記者会見は終了させて戴きます!
本日は御足労かけまして起こし戴きたありがとう御座いました!
皆様 気を付けてお帰り下さい」
慎一が終了のご挨拶をすると、記者達は帰って行った
こうして記者会見は幕を閉じた
この日の記者会見はこの後時間差で相賀、須賀、神野、と謂う芸能事務所の社長達が連名で記者会見を開く事となっていた
この会場に近い会見場に席を設けたから、記者や報道に携わる人間は移動が楽だったろう
控室に戻った祖父母を烈は迎えた
「じぃたん、ばぁたん ありがとう
はやと、ありがとう」
3人は烈を抱き締めた
康太は時計を見ると「今頃は相賀達が記者会見してる頃か?」と呟いた
記者達は一日に二箇所で開かれる記者会見を取材せねばならぬのだから大変だろう
その日は皆 飛鳥井の家へ帰り慰労会と称して宴会に突入した
家族が揃う久々の楽しい時間を過ごし夜は更けて行った
翌朝から烈は桜林学園の初等科へ再び通う事となった
耀は祖父母に引き取られ過ごす事となり、レイは飛鳥井の家で過ごす事となった
レイの部屋は2階の使ってない部屋をリフォームして用意する事にした
総代夫妻が一階に移った今 各々の子供部屋を作ったとしても、まだ部屋は2つ残されていた
その為の部屋なのか?と勘繰りたくなる想いだった
まだ小さいレイだから皆で育てようと話し合った
烈一人で背負うには荷が重いし、やはり飛鳥井の礎になる子なれば、と家族全員が話し合ってスケジュールを立て面倒を見る日を決めようとした
だが京香が「飛鳥井の子供はどの子も可愛い、託児所の送り迎えは前の様に我と義母さんとでやるのが一番よいと想うのじゃ!」と言ってくれ
玲香も納得して託児所に連れて行くのは二人になった
面倒はその時出来る者がやるとして、皆で育てようと決めた
康太と榊原は烈が学園に通うのは心配だった
だが学園側が二度と烈が傷付く事態に発展せぬように見守ると約束してくれたから通わせる事にした
朝 栗栖の車で桜林学園へ向かう
そこは前の様に人だかりは出来てはいなかった
教師が正門に立ち出入りする生徒を見張っているから、集まりたくても集まれない、と謂うのが現状なのだろう
兄達は烈を心配しながらも己の教室に向かう
烈は1年A組の教室に入ると、シーンと皆が黙った
そんな中、烈の姿を見つけ煌星と海が傍へとやって来た
するとクラスの皆も烈の傍にやって来て、あっという間に人集りは出来ていた
人気者の烈の周りには何時も人が沢山いた
匠は烈が怖かった
ずっと幼い頃から怖かった
父に似てる太陽も怖いが、それとは別次元に怖かったのだ
嫌ってる訳では無い
だが、その瞳が怖いのだ
仲良くしたい想いならばある
だが出遅れて………溝が深まるのを唯………見ているしか出来なかった
休憩時間になると兄達が烈の教室に顔を見せる
瑛智や未知留まで烈を心配してくるのだ
匠はやるせなさを抱いていた
一年生はまだ午前中の授業だった
授業を終えて下駄箱で靴を履き替え、駐車場へ向かうと栗栖が迎えに来ていた
匠を迎えに来た笙が烈を見付けると、近付こうとしたが、それを烈は止めた
そして栗栖の車に乗り込むと学園を去って行った
その様子を戸浪も見ていた
烈の額にはまだ絆創膏が貼ってあった
近寄ろうとしたけど、烈は笙を止め戸浪も止めたのだ
そして車に乗って去って行ってしまったのだ
栗栖は何も言わずに烈を飛鳥井まで送って行った
飛鳥井の家に着くと、烈はその日は慎一がいるからと託児所に預けてなかったレイを栗栖に紹介した
「くりしゅ、れいらよ!
れいにもべんきょおしえてやってね
もっぱらにほんごを、らね!」
栗栖はレイと呼ばれた子をじっと見た
そして「この子は日本語は駄目ですか?」と尋ねた
「どうにゃんだろ?
れいはね、かむいにしらべにいかせたときには、いくじほうきされてたのよ
それで、あっちのくにのべんごしつかって、ひきとってくれたこなのよ
らから……わからにゃいのよ」
「育児放棄……ですか?
ならば知能指数を計測した方が、この子に沿った勉強を教えられますね!
レイ、栗栖です宜しくお願いします
君に勉強を教える者となります!」
と言いレイの目の高さまでしゃがみ込み頭を下げた
レイはペコッと頭を下げた
慎一は「この子は喋れるのですか?」と一緒に過ごしていても声を聞いた事がなくて問い掛けた
謂われた事は理解はしているみたいだが、一言も話してはぐれていないのだ
「しゃべれるよね?れい」
烈が聞いてもレイはコクッと頷くだけだった
栗栖は英語で話を掛けた
その言葉には反応して、言っている意味は解るが、日本語が喋れない事を打ち明けた
「この子は日本語は話せないみたいです」
烈は何となく気付いてた
だから日本語を教えてくれ、との事だった
栗栖は「解りました、ならレイは兄達に混ざって日本語の読み書きをしましょう!」と言った
栗栖は「この子の年は?」と問い掛けた
「にしゃいはん、らったかな?」
「なら来年は幼稚舎ですね、それは視野に入れてますか?」
「いれてりゅのよ!らからおねぎゃいね」
「解りました、この子に合った勉強を教えます!」
栗栖が燃えていると、飛鳥井の家に戸浪と笙がやって来た
慎一は二人を家に上げると、お茶の用意に向かった
戸浪は応接間に入ると「烈、久しぶりだね、怪我は大丈夫なのかい?」と問い掛けた
烈は笑って「らいじょうぶよ!」と答えた
「学園で見掛けて心配で来てしまったよ」
「あいがとうございます
れもね、もうだいじょうぶなのよ」
烈が齎した暴風は芸能界を震撼させる、全て白日の元に曝された
連日その話で盛り上がっていた
上間美鈴は悦郎と間接的とは言え井芹木葉を追い詰めた件と妹の洗脳と横領とで起訴され、今は裁判中だとやっていた
飛鳥井琢磨も一族追放を各方面に知ら示めた上で私財を没収した
今は横領や残業代等の不正で労基も入り、店を潰し私財を没収された上で莫大な借金を背負う事となった
報道には出なかったが飛鳥井一眞と妻八重子は、八重子のオペも成功し数年命を伸ばした
飛鳥井系列の会社で仕事を与えられ日々慎ましく過ごしていた
その二人に耀は託され、大切に命尽きる瞬間まで育てて行くと決意を固めた引き取った
総てが配置された果ての今となった
笙も烈が心配で来たのと、匠と何がありましたか?と聞く為だった
笙は「匠が何かしました?」と問い掛けた
「なにもしてにゃいよ」
「ならば、何故距離を取るのですか?」
「それはね、たっくんがぼくをこわがってるからよ!」
「え?……貴方を怖がる?匠がですか?」
「きづいてにゃいの?
たっくんはずっとこわがってたよ
でもねおやに、なかよくするのよ!というから、そばにいたのよ」
「まさか……匠が……」
仕方なく烈は嗄れた声で話し始めた
「匠にだって意思や感情はある!
仲良くしなさい!と謂われても仕方なく傍にいるのは苦痛であろうて!
匠はお主に似た太陽は苦手であった、知っておるか?」
「知りませんでした……」
「お主は怒らぬが太陽は結構厳しい性格をしておるからな
曲がった事はビシッと謂う!
それは母であろうが、従兄弟の匠であろうが、関係なくいう
お主と同じ顔してるのに怒られるのだからな、それは怖さ倍増であろう!
そして儂の瞳が怖いのじゃ匠は……
だから烈は距離を取っていただけじゃ!」
と説明した
「全く知りませんでした!」
笙は肩を落として項垂れた
戸浪は烈の隣りにいる子を目にして
「烈、紹介して下さらないのですか?」と問い掛けた
「あすかい れいよ!
ぼくの子供なの!」
そう言われ戸浪は何と返して良いか解らなくなって黙った
お茶持って入って来た慎一が
「烈が育て成人した暁には正式に後見人となる子なので、烈の子と言っても過言ではないのです!」と補足してやった
戸浪は「一族の為の子なのですね?」と謂うと
「はてのせんねんにつなげしこなのよ!」と返した
だから許されて飛鳥井に入れられたと謂うのか?
「れい、よろしくは?」
レイはペコッと頭を下げた
慎一が「この子はまだ日本語が解らないみたいで話せないのです!」とフォローした
その為に栗栖はPCを駆使して問題を幾つか英語で作っていた
笙は「私はどうしたら良いのですか?」と問い掛けた
「たっくんのすきにさせてあげて
たっくんにはたっくんのじかんがあるのよ」
「解りました……息子と一度話し合って来ます!」
そう言い、笙は我が家へ帰って行った
戸浪も烈の無事を確かめて、帰って行った
その後に東都日報の今枝浩二が飛鳥井の家に尋ねて来た
慎一は今日は来客が多いな…と想いつつ今枝を出迎え、笙達の茶器を取り下げて、今枝のお茶を淹れに行った
今枝は烈を見て深々と頭を下げた、そしてソファーに座ると烈に向き直った
「烈君 私の取材を受けてくれませんか?」
今枝が謂う烈は唇の端を吊り上げて不敵に嗤っていた
「それはえいぞう?
もじならば、そうえもんのこえはつたえにくいからね!」と鋭い読みを言った
「そうです、貴方は飛鳥井家転生者 宗右衛門と宣言された!
貴方の背負う荷物は子供の背負うべく荷物ではない!その荷物を少しでも俺に持たせて下さい!
俺は発信するしか出来ないけれど、貴方の生きてる意味を知らしめたいのです!」
「いいよ、いまえだがとりたいにゃら、とればいいのよ!」
「良いのですか?
あのご両親に相談とせずに決められて大丈夫なんですか?」
「いまえだは、あすかいれつのはなしをききたちにょ?
それとも、あすかいけ てんせいしゃのはなしをききたいにょ?
どっちなの?
それによって、たいおうはかわるのよ!」
「対応が変わるとは?」
「あすかいけ てんせいしゃのそーえもんには、だれのきょかもいらにゃいのよ!
でも、れつはちがう、ぼくのことはりょうしんにきかないとね!
だからたいおうがちがうにょよ!」
今枝は納得した
飛鳥井家 転生者の飛鳥井宗右衛門には何人たりとも逆らえは出来ない、それは例え両親だとしてもそうだと謂うのだ
飛鳥井の一族が飛鳥井家真贋が絶対な様に、宗右衛門も絶対な存在だと謂うのだ
役割は違えども家の為に存在するのだ!
今枝は姿勢を正すと
「飛鳥井家 転生者 宗右衛門にお話を聞かせて貰えませんか?」
「ならよていをくむのよ!」
「その怪我、酷いのですか?」
「ひふがねよわいから、なおらにゃいのよ」
魔界に行ってて悪化したなんて言えないから…
今枝はその痛々しい姿を目にしてら許せない思いを抱いた
「ならば、日程を決めて正式に越させて戴きます!」
と今枝は深々と頭を下げ帰って行った
レイはニコッと笑って頭を撫でた
二人はずっとそうしていた様に仲良く、違和感を抱かせないでいた
烈は栗栖に出された課題を片付ける前に着替えに向かった
そして私服に戻ってから課題を片付け始めた
栗栖はレイに知能判断テストを始めた
レイは知能指数がやたらと高く、言葉の壁さえ取り除けばかなり優秀な子になる事間違いなしだと想った
只管勉強をしている、裏の兵藤さんちの貴史が飛鳥井の家を訪ねて来た
課題と宿題を片付けている烈のいる応接間に、慎一は兵藤を通した
「おっ!烈、勉強中か?」と言い入って来て………足を止めた
烈の横で真剣に勉強してる存在に目を止める
するとレイは兵藤を目に止めて、プイッと視線を外して勉強を始めた
兵藤は目を疑った
そして想った……あの日の烈の……ごめんね……を!
『これからのことで…あやまっちぇるの』と言った烈の真意を………
烈は振り返るとニコッと笑って
「ぼくのこのれいです!
よろしくしてね、ひょうどうくん!」と言った
兵藤は何も言わず
「烈、少し話をしようぜ!
お前に報告する事もあるし」
と言うと「ならば、かむいのところにいこ!」と言い立ち上がった
「しんいちくん、れいをおねぎゃいね!」と頼むと立ち上がり兵藤と共に飛鳥井の家を後にした
兵藤は車を走らせる間、何も喋らなかった
そして思い当たる「神威の事務所って何処よ!」と問い掛けた
自分がテンパってるのが解る
烈は名刺を出すと、何も言わなかった
兵藤は名刺の住所をナビに打ち込むと、その場へと向かった
事務所の駐車場に車を停めると、烈はさっさと車を降りて事務所の中へ入って行った
神威は突然烈が入って来て驚いていた
「どうしたのじゃ?烈」
「しずかなところではなしがしたいのよ」
というと、神威は後に事は職員に任せて、そのビルの上にある部屋へと移った
部屋に入り、ソファーに座ると兵藤は話してくれねぇか?と切り出した
烈は宗右衛門の声で
「お主が瓦解させた魂の管理委員会の悪意がレイに向いたのじゃ!
あの子は飛鳥井の一族の中で生まれる筈じゃった
だが、手を加えられ飛鳥井の腹の外で誕生するしかなかった!
明日菜の子供が両方女になった様に、レイもまた歪まった果てへと生み出されてしまった
お主はレイの顔を見て、誰の子か理解したのであろう?」
「………あぁ………理解した
だが、俺は何も言うつもりはねぇよ
済まなかった……取乱した」
神威はレイに関する書類を兵藤に渡した
【レイモンド·グランチェスタ 近況調査報告書
リズ·グランチェスタが未婚で産んだ長男
リズは愛した父親の解らぬ子を妊娠すると、家族から縁を切られ、シングルマザーとして行政の手を借りて出産
子の名前はレイモンドと名付けられた
父親の名は不在なまま出生届けが出された
彼女は子を産んだ後 脆くなり 壊れたように精神を病み
子供に暴力をふるい、育児放棄をして何度も行政に忠告され、地方裁判者が強制執行して、子供は施設に送られた
幸せだった日がある日突然なくなったと、泣いていた
愛した男は子供が出来た事も知らず、国に帰り
リズは生活に困窮し、日に日に精神を病んだ
レイを国際弁護士に頼み施設から引取り、飛鳥井綺羅と養子縁組を組みし、飛鳥井へ引き取られる
リズは烈の頼みで更生施設へ入れられ、再出発をするべく自立した生活を始めた】
と記した書類を写真付きで渡されて読めば、総ての事が解る
美緒は昔言っていた
何時の時も真贋が尻拭いしていた……と。
あれは子も含めて……そう考えて兵藤はその考えを止めた
兵藤は烈に「悪かった……」と謝罪した
「お主は解らねばならぬ……人の痛みや苦しみを……軽視する所を真贋は何時も危惧していたのじゃ!
人はお主の道具ではない!
ある日突然別れて消えられれば、壊れて当然じゃ!
そんな家に生を成した耀もレイも本当に酷い仕打ちを家族からされた……
ニヴルヘイムはそんな苦しみを味わう為に、炎帝の傍に来られたと謂うのではないのに……」
「あの子がニヴルヘイムの転生者だと謂うのか?
なれば烈が死物狂いで探しに行った子は?誰なんだよ?」
「耀は神日本磐余彦天皇の転生者じゃ!
あれも、悪意に満ちた果てに誕生させられて、儂は焦ったのじゃ!
本当に、今世はジジィ使いが荒いのじゃ!」
と宗右衛門はボヤいた
兵藤は「それら総てが魂の管理委員会の仕業だと?謂うのか?」と問い掛けた
「ラスボスに踊らさせれた傀儡じゃったならな
目的は嫌がらせの為だけに在ったのじゃろう!
だかその嫌がらせのせいで、竜胆は未だ分からず!
そして東矢は消滅され掛かって転生が遅れた…
嫌がらせにしては度が過ぎておるのじゃ!」
と宗右衛門は怒っていた
宗右衛門は天を指さした
「お主にも視えるであろう?
儂の指先に在る赤く光る星が!
あれは竜胆の星……危険なのには違いがないと謂う事じゃ!」
「何とか出来ねぇのかよ?」
「それが出来るなら炎帝がとっくの昔に手を打っておるわ!
炎帝は耀が見えておらんだ!
そしてレイは隠して育てるつもりでいた
それを真贋よりも早く動いて、儂の傍に置いたのじゃ!
親の愛も知らないレイを隠して育てれば、寂しさで消えてしまいたがっていたニヴルヘイムに対して失礼であろうが!
レイは愛を知らせ、人を知らせ、世間を知らせ
そして常識を教える
烈の兄達は弟同然レイも可愛がるであろう!
家族も然り、だから儂はレイを家に入れた
お主がショックを受けるのは解っおったがな……
一生達もそれを心配してレイを排除しようと思っておった
だが誰にも排除などさせぬ!
飛鳥井宗右衛門が決めた事を、一族の者でもない者が口を出せぬのは決り!だからのぉ!」
兵藤は烈に深々と頭を下げた
「人を軽視した訳ではない……だが、俺はアイツ以外はどうでも良く感じてしまっているのは確かだ
済まなかった烈、俺は何も謂わねぇよ!
そして誰にも何も言わさねぇ!
お前がニヴルヘイムの魂を護りたいなら、俺も護ると決めている!
顔は俺に似てるようだが……仕方ねぇよな?」
「そんな瑣末な事誰も気にせぬわ!
儂もこの年で子持ちになった故、子育てが大変になるのじゃ! お主も協力してくれると助かる」
「協力する!だけど此処からが本題なんだよ!
大歳神に手伝って貰って魂の管理委員会を作る事となった
で、詳細を詰めるのに聖神の力を借りたい!
あの書類すげぇな、閻魔の補佐官でもあれだけ緻密には出来ないから手を貸してもらえとの事だ
頼めるか?」
宗右衛門は気配を消すと、烈が困った顔をした
「がっこう、いっかげつもやすんだのよ
でね、まかいにいくと、まだやすみになるのよ!
まぁ、たてまえだけどね!いきたくないのよ」
「え?烈手を貸してくれねぇって事か?」
「ちがうのよ!すさのおどののいえ、おふろにゃいのよ!
かわよ……あんなにさむいのに……かわよ
ぼく……かわでからだあらえにゃい!」
烈に謂われて兵藤がタラーンとなってると神威が
「確かに親父殿の家には風呂はなかったな!
宇迦之御魂神は元々の家があるからそこで風呂に入ってる見てぇだが、儂も魔界にいた時は川で洗っておったな!」とガハハハっと笑った
兵藤は「何で風呂ないのよ?」と問い掛けた
神威は「それは儂は知らん!」と答えた
烈も「ぼくもしらん!」と答えた
そして切々の烈は語るのだ
「いくら、いえのまえにかわがあってもね、はいらにゃいのよ!
あんなさむいまかいで、つめたいかわにはいったらしぬのよ!
それをまいにちするからさ、ぼくはいっかげつふろにはいってなかったのよ!
わかる?ひょーろーきゅん!いっかげつよ?
かゆいのとおりこして、ひふがいちまいふえたかんかくよ?」
兵藤は言葉もなかった
「なら魔界じゃなく、崑崙山で……」
「あそこもね、おふろにゃいのよ!」
「え?仙人達は痒くならねぇのかよ?」
「もぉね、ちょーえつしてるから、かゆさにゃいのよ!」
八仙が聞いたら怒髪天突いて怒りそうな台詞を烈はしれっと吐いた
兵藤は笑ったら駄目だと思いつつも笑えて困った
でも今笑えば八仙の耳に入った時が怖いんだが……
「なら譲歩して書類を持って来るから、それを見て緻密な情報を考えてくれねぇか?」
「それらといいにょよ!
もうこりたのよ……いっかけつおふろはいれにゃいのは」
相当 川で体を洗ってた素戔嗚尊が凄すぎたのか?
「閻魔に言って風呂つけてもらうか?」
と兵藤が思案する
烈はお風呂もそうだけど怪我の治りが悪い理由を伝えねばと想い口を開いたに
「ひょーろーきゅん、ぼくね、ほんたいすてたっていったでしょ?
だからね、まかいにいたらけががなおらなかったのよ
あっかしてね、くどーせんーせにおこられたのよ
めちゃくちゃいたいくすりで、ふきふきされたのよ……らから、いまいくのはやめたいのよ」
兵藤はそれを聞いて「風呂と怪我のダブルパンチなら、行きたくねぇわな!
ならアドバイスだけくれ!それで良いか?」
「だちじょうぶよ!」
「しかし、レイや耀、竜胆や東矢の事を考えると腹が立って仕方ねぇな!
もっと早く手を打ててたら、あんな過酷な境遇に置く事もなかったのにな……」
「りんどう、はやくしないとだめなのね
らから、わかりしだいうごくのよ!」
「なら俺に電話しろ!
動けるならば協力する!」
烈は頷いた
兵藤は神威に礼を言い、事務所上の部屋を後にした
車に烈を乗せて飛鳥井の家へと還ると兵藤は烈を下ろして自宅へ帰った
家に帰り課題と宿題を兄達と勉強をしていると、両親や祖父母が還って来た
キッチンへ逝くとレイの席もちゃんと用意してあって、そこへレイは座った
皆で食事を食べていると、笙が両親と祖父母を連れて飛鳥井の家に来た
康太は急な来訪に烈を視て、総てを理解した
夕食を食べ終わり応接間へ逝くと、笙は両親と明日菜と未知留と匠を連れてソファーに座っていた
笙は烈を見ると「匠と話をしました!」と告げた
烈は溜息をついて「で、にゃんといったの?」と問い掛けた
「匠は烈を嫌ってなどいないと言ってました」
「むりじいしてきいたら、そういうよ!」
笙は傷付いた瞳を烈に向けた
康太は「笙、子供には子供の想いがある」と執り成した
「たっくんはね、ぼくのひとみがこわいんらよ
ぼくのひとみは、ひとのしんずいをみぬくから……ひととはちがうのよ!
それはこわがってあたりまえにゃんだよ!しょう」
「我が子と仲良くして欲しい……そんな想いは抱いてはいけませんか?
僕は本当に飛鳥井の子供達と我が子が仲良くしている姿を見ると嬉しくて……堪らなかったのです
だけど、それを強制したりなどしていないつもりもりでした…」
笙は顔を覆って泣いていた
烈は困った顔をした
榊原は匠に「正直に答えて下さい、君は烈が嫌いですか?」と問い掛けた
「きらいじゃないよ……」
匠は静かに答え話し始めた
「れつはね、いつもいつもひとのちゅうしんにいるの
そんなとき、おもっちゃうの
れつはほかとはちがうんだなって……
いつもぼくよりすぐれてて……すごいっておもうのそんなとき、れつのひとみでみられるとね、すべてみすかされてたようでこわかったの」
匠の言葉に笙は驚いた瞳で匠を見た
烈は嗄れた声で「何を思い悩んでおると想ったら、烈が他とは違う?凄いって?
そりゃぁ、他とは違うじゃろうて!
こんなオッサンと共存しておるのだからな!
だが卑下する事はないぞ!匠
お主も内にオッサンと共存しておるではないか!
何処が違うのじゃ?
壁を作っておったのはお主じゃ!
距離を取っておったのもお主じゃ!
しかもお主のことを見透かしてなどおらぬ!
此奴はカニパン食べたいなぁ、とか今日の給食なんだろ?とボーっとしておっただけじゃ!」
「え?じーっとみてたんじゃないの?」
「ボーっとしてただけじゃわぃ!」
宗右衛門は腹を立てて怒って言った
そして宗右衛門の気配を消すと
「かにぱん たべたいにゃ」と呟いた
榊原は「烈はまだまだ食事制限の真っ只中だから、何時も腹減りなんですよ!」と言い、満腹に食べられない事を伝えた
唯一おかわりが許されるのは給食だけから、楽しみだったのでしょう……と言われると
匠は何を悩んでいたのか解らなくなった
「ぼく………何でなやんでたのかな?
ごめんね、れつ
またなかよくしてくれる?」
「たっくんがいやじゃにゃかったら!」
「いやじゃないよ、でもれつ……ともだちおおいから、ときどきぼくじゃまなんじゃないかっておもうのよ!」
「ともだち?それはおーせいとうみだけだよ
あとはね、あすかいってなまえになかよくなれといわれてるだけのこたちよ!」
「え!……そんな……」
「たっくんはなまえだけでちかづくやつ、しらにゃいだろうけど、いるのよ
くらすのほとんどが、そんなのばっかりよ!」
クラスの殆どがそうだと謂うのか?……匠はショックを覚えた
「らからね、たっくんいてくれるなら、うれしいにょ!」
烈は嬉しそうに笑った
笙はホッとして息を吐き出した
何か気が抜ける
明日菜がそんな夫の背を撫で慰めていた
真矢はレイを抱き上げると「本当に大人しい子ね」と言って頭を撫でた
慎一が「この子はアメリカで育ったそうなので、まだ日本語が解らないそうなんです……大人しいと謂うより、異国に放り出されて解かれと謂う方が無理なんですよ」と説明した
「なら英語なら解るのかしら?」
「それも少しだけだそうです
親に育児放棄されていたので、誰かと話したのは施設に入ってからだと栗栖が聞き出したそうです!」
真矢は「まぁ……」とレイの生まれた過酷さに言葉を失っていた
笙は「この子は誰の子ですか?」と問い掛けた
烈が「ぼくのこよ!」と答えて笙は気絶したい気分になった
康太は烈の頭をポコンッと叩くと事情を説明した
成人になったら烈が正式に後見人となり飛鳥井に組み込まれた子だと!
安心し脱力した笙は「明日もロケ先で仕事なので帰って寝ます!」と言い、妻と子を連れて榊原の家に帰って行った
飛鳥井の家から笙達が帰って行った瞬間
その時は突然やって来た
烈は母を見た
康太は榊原を見て
翔は思いきり踏ん張った
「かぁしゃん!」
「おぉぉ!烈!」
嵐の予感がした
この前 烈が巻き起こした吹き荒ぶ嵐なんて可愛い程に…………
ハリケーン到来に……身を引き締めた
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