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第89話 統制を!嵐が来るかも………
飛鳥井の礎になる為に竜胆はまず手始めに菩提寺の規律と統制を図るべく、菩提寺に通い続け修行僧のモラルと道徳を解く事に重きを置き過ごしていた
烈から今現在の菩提寺の僧侶達の現状を聞き、捨て置いたら色欲ばかりの下烈な僧侶達の巣窟になりそうで危惧したのだった
3歳児が「この戯け者!お前らは煩悩を消し去り生活せねばならぬ存在ではないのか!」と檄を飛ばし叱咤する!
城之内は良い機会だ、とばかりに弛んた僧侶達を目にして、規律と統制を図る事を心に決めた
転生者ってのは烈同様、滅法怖くて厳しくて由緒正しい者なんだな、と今更ながらに想う
そしてやっと幼稚舎に通える年になるのか?と謂う子供が大人の声で僧侶達を打ちのめす姿は、圧巻としか言い様がなく
絶対の存在として推し量れぬ圧倒的経験値と威厳に誰もが言葉を無くしていた
飛鳥井の一族の間では転生者と謂う存在は神の如く貴び重んじられる存在なのだと今更ながらに、城之内は理解した
凛が竜胆として頑張っている時、烈はずっと感じていた事を実行に移すべく動き始めた
まずは前世に種を巻いたブレーンとの連絡を取り、忙しそうに動いていた
両親に最新モデルの携帯を2台作って貰いPCも新調して貰い動き出す為の準備をしていた
だから清四郎と真矢が烈を迎えに来ても、何時だって烈は不在となっていた
まるで気配を詠んで避けている様に不意を狙って飛鳥井に行っても、烈は不在だった
烈娘事匠に聞くと、初等科には休む事なく通っていると匠は言っていた
だが何時だって烈は忙しそうにPCを操作して誰とも話さない……と匠は言った
そんな事を聞けば真矢と清四郎は黙ってはいられなかった
烈が何かやろうとしているのは、解っていた
だが捕まらない現実に強硬策に出るしかない!と心に決めていた
律を桜林の幼稚舎に入園させる為に準備をする
そうすれば凛と椋とレイも通う様になるだろう、と準備は怠らない
烈は椋が来た日から、常にレイと椋を連れて歩く事となった
己の総てを東矢とレイに教える
厳しい修行を共に行い、星詠みから賢者ラルゴに教わった教えまで日々東矢とレイに教えた
この日 烈は学校を終えて竜馬の車で飛鳥井建設へと向かった
竜馬は「一人増えてますね?誰が紹介してくれないのですか?」と烈に問い掛けた
「このこはぼくをつぐもの、りょうなのよ
さんしゃいなのよ!」
と烈が言うと椋はペコッとお辞儀をした
竜馬は「俺は烈と共に逝く竜馬です!宜しくお願いします!」とご挨拶した
椋は「よろしく、りょうれす!」と言った
竜馬は「おっ!3歳なのに発音良いですね!」と笑って言った
烈は竜馬の足を蹴り上げた
「痛いって烈……運転中は危なってば!」
「うるしゃいにょ!りゅーま
そりゃ、ぼく、かつぜつわりゅくて、らめらめらけどさ
にーにたちより、かつじぇつわるいけどさ!」
「烈はそれで良いって!
烈は俺の大切な烈ですから!」
「それって、ぷろぽーじゅみたいよ!」
「!!!………止めて下さいよ!烈!!
俺はノーマルだって!若くてピチピチの娘好きっす!」
こんな小さな烈にプロポープだなんて、ショタコンじゃないか!慌てて否定した
「のーまるじゃにゃいと、せいじかになるにゃらたいへんよ!
れも、ぴちぴちはふるくしゃいよ!
おっさんよ!りゅーま」
「烈!俺をからかってます?」
トホホな気分で謂う
烈は「きあいいれりゅのね!りゅーま」と発破をかけた
「おっす!」
竜馬は気合を入れて答えた
今日は建築施工部に喧嘩を売りに行くのだ!
気合を入れずしてどうする!
この日の朝、母には「けんせつせこーにいきゅのね!」と伝えた
「おっ!行く前には副社長室に顔を出せ!」
「りゅーま いっしょらけどいい?」
「構わねぇよ!レイと椋も連れて歩くんだろ?」
「そーにゃにょよ!」
「うし!ならば好きに動け!」
「はい!」
と約束したのだ!
失敗など出来ないのだ!
竜馬は烈とレイと椋を会社の正面玄関に下ろすと、車を地下駐車場へと停める為に走り出した
受付嬢は烈の姿を見ると深々と頭を下げ
「今日はどうされたのですか?」と問い掛けた
「しんがにようがあるにょよ!」
「そうですか!ならばエレベーターを止めましょうか?」
「だいじょうぶよ!したからくるから!」
「そうですか!お気を付けて!」
と受付嬢が見送る
地下駐車場から上がるエレベーターの到着ランプが1階に点灯すると、烈はレイと椋と共にエレベーターに乗り込んだ
「はつしごとよ!れい、りょう!」
二人は頷いた
「竜馬は最上階で良いんですか?」と尋ねると首から下げた鍵を竜馬に渡した
鍵を差し込まねば上までは直通では行けないからだ!
竜馬は鍵を差し込み、最上階のボタンを押した
エレベーターは最上階へと止まると、竜馬は鍵を抜いて烈に渡した
烈は鍵を受け取り、首に下げた
そして堂々と歩き副社長室へと向かう
副社長室のドアのかなり下の方でノックされると、秘書の榮倉がドアを開けた
烈は「ふくしゃちょうに、あいにきました!」と告げると榮倉は烈達を副社長室に招き入れた
そして烈の一番後ろに立つ子供に目を向けると……
息を飲んだ!
まさか見間違い?………
そんな驚愕の瞳をした榮倉を無視して、烈はスタスタと副社長室に入るとソファーに座った
榮倉は副社長室をそっと後にした
竜馬はレイと椋を座らせると自分もソファーに座った
「とうしゃん!けんかをうりにきました!」
「そうですか!なれば父も一緒に行きます!」
「たるみとゆるみは、たいだなしゃいんをじょちょうさせますから!」
「謂えてます!」
佐伯が副社長室にお茶を運びに来ると、烈は熱々のお茶を啜りながら
宗右衛門の声で
「副社長、竜馬の調べでは弛んだ輩は白金建設の息が掛かってるとの事じゃ!
白金建設をご存知か?」と問い掛けた
「白金建設?それは僕は知りません!
真贋は?知ってますか?」
榊原は気配を消して様子を見てた康太に問い掛けた
「知ってるも何も、上間美鈴と琢磨が3億の豪邸を請け負った建設会社の親玉だったぜ、そこ!」
「ならば、3億の豪邸建設を邪魔した腹いせか?」
宗右衛門は全く見えて来ない現実に……首を傾げた
「まぁ、それだけじゃねぇんだろ?
で、喧嘩を売りに行くんだろ?オレも当然行くぜ!」
やる気な二人を共に行動させれば、事態は大きくなるのは解っている……
解っているが……もう止まらないだろう……
烈が立ち上がると、レイも椋も立ち上がった
康太と榊原も立ち上がると、竜馬も立ち上がった
そして3階 建築 施工部を目指してズンズン歩く
烈は脇目も振らず歩く
榊原は「……勝機読んでますよね烈」とボヤいた
康太は「まぁそれが宗右衛門の仕事だからな!
宗右衛門を継ぐ者に見せてる最中だから、余計力が入るんだろ?」と笑っていた
3階の統括本部長の栗田は烈の登場に慌てて、傍に近寄り「どうしました?烈」と尋ねた
烈ではなく最初から宗右衛門で
「我が社は何時から遊んで給料を渡す様になったのじゃ!」と不正は許しはしない強硬姿勢を取っていた
栗田は「それは誰の事を申しておるのですか?」と問い掛けた
宗右衛門は「栗田、一番大きな会議室を用意するが良い!そしたらお前が望む映像を見せてやる!」と言った
栗田は3階で一番大きい会議室を用意した
そこへ皆を連れて行った
宗右衛門は会議室に入り椅子に腰掛けると「竜馬映像!」と言った
竜馬はタブレットを取り出すと暇ばかりしてる監督や作業員の映像を栗田に見せた
栗田はこんな所は康太にソックリだと想った
逃げ道を総て封鎖して現実を突き付ける証拠を撮ってあるのだ
栗田はそれを目にして驚いていた
竜馬は栗田の前に書類を置いた
栗田は竜馬に「貴方は誰ですか?」と尋ねた
「俺は烈の為にいる存在!
そして烈の果てへと逝く存在!
三木竜馬と申します!以後お見知り置きを!」と言った
烈は携帯を取り出すと「くるにょね!たけと!」と電話をした
何処に来い……とか謂わずに来れるのか?と竜馬は想った
だが、会議室のドアがノックされ一人の男性が会議室にやって来た
栗田は驚いた顔をして
「国崎建人さん……何故?」と呟いた
「お久し振りです栗田さん!
そして宗右衛門、人遣い荒いってば!
僕は国崎建人と申す者です!
宗右衛門の転生前からのブレーンです!
今回は本当に強行軍でビルの耐震基準を測りに行かされました!」と言い書類を栗田に渡した
栗田はその書類に目を通した
榊原は「何方か御紹介して下さい!」と謂うと国崎建人本人が自己紹介を始めた
「僕は宮瀬建設で現場の最高責任者をしております国崎建人と申します!
前世ではそれはそれは宗右衛門に扱き使われました
そして今世も宗右衛門に呼ばれ仕事しましたとも!
あ、何故宮瀬建設にいるのかは?
それは前世の宗右衛門の指示でしたので、今に至るのです!
本当に人遣い荒いって宗右衛門!」
榊原は「何故前世の宗右衛門は彼を宮瀬建設に務めさせたのですか?」と飛鳥井ではなく?素朴な疑問を口にする
宗右衛門は「それは飛鳥井の技術は未熟じゃったからな、その頃トップの宮瀬建設で修行をさせた方が賢明じゃと思ったのじゃ!」と問題発言をした
康太は眉を顰め「飛鳥井の技術は劣っていると言いたいのか?」と言った
「今世は真贋が社員を入れ替えしてやっと粒が揃って参った
じゃが粒は全ては揃ってはおらぬ!
後一歩、足らぬ想いをして参った
今世はそれを挽回したいと思っておるのじゃ!
源右衛門が高齢だった故、目が届かぬ時間が長過ぎたのじゃ!
統制と秩序だけでは足らぬ、技術を磨かねば一歩は未だ届かぬ!」
やはり痛い所を突いて来る
それは康太が常に想っていた事だった
宗右衛門は唇の端を吊り上げて嗤うと
「建人が宮瀬建設とは話を付けてくれた!
未熟な社員を宮瀬で研修をしてくれるそうじゃ!
建人の他にも製図に特化する南雲建設会社にも製図部の社員を研修に出して腕を磨かせるつもりじゃ!
その為に儂は真贋の転生の半分で生を成し種を巻いたのじゃ!
経験者を入社させても、その腕を発揮出来ぬ環境では宝の持ち腐れじゃ!」と言ってのけた
栗田は頭が着いて行けす
「少し待って下さい!」と言った
康太は栗田が落ち着くまで宗右衛門と話をする
「受け入れは何時からだよ?」
「何時でも準備は出来ておるが、覚悟なくば……挫折は目に見えておる
社員の選抜は真贋、頼めるかのぉ?」
「ならば、研修に出す社員の選抜はオレがする!
製図の方は……何時でも大丈夫なのか?」
「南雲莉子は南雲詩の転生者じゃからの
頼みをしたら二つ返事で了解してくれた
その変わり、飛鳥井も南雲に施工の技術を教えねばならぬが、その判断は真贋が下して下され!
南雲建設は今施工の技術が劣っておると嘆いておるから、互いの目的が同じならば、と話をつけて参った……真贋が駄目だと申すならば、全ては御破算となる」
「駄目なんて言うかよ!
んなの、切磋琢磨して逝ければ文句はねぇよ!
でも南雲建設って飛鳥井とは関わりねぇよな?」
「じゃが、脇田誠一は独立する前は南雲に在席しておった!
南雲はビルから一軒家まで肌理細やかな製図を得意としておる!
今度一緒に見に行くと、その実力がよく解ると想う」
「んなら今度見に行くか?宗右衛門」
「じゃな、それでだ栗田
白金建設の割り込む余地はないのじゃ!
そう言う事で、東神奈川の建設現場の社員は全てクビにするがよい!」
栗田は息を飲み「全員クビですか?」と問い質した
宗右衛門は栗田に見せていた書類を榊原と康太に見せ「この社員は必要か?」と問い質した
飛鳥井の仕事の情報まで流してると書いてある項目を目にして榊原は「必要ありませんね!」とキッパリ言った
そして国崎建人が持って来た書類に目を通し、固まった
榊原は「耐震基準……この数値で合ってるのですか?」と問い質した
建人は「合ってます、国土交通省の役人を連れて計測したので間違ってません!
このままだと、そこの建設中のビルは工事以前の問題となり、建て壊し命令出ますよ?」とキッパリ言った
全ての事態を把握した栗田は青褪め
「……俺の監督不行き届きです……責任を取ります!」と言った
宗右衛門は「お主が責任を取っただけで解決する話ではないわ!
真贋、会長と社長を呼ばれよ!」と告げた
康太は直ちに会長と社長を3階の会議室に呼んだ
会議室にやって来た会長と社長はただらぬ空気に気を引き締めて呼び出しに応じた
宗右衛門は会長と社長が席に座ると
「竜馬、全ての書類をお二人にお見せしろ!」と言った
竜馬は栗田の前に置いた書類を会長と社長の前に置いた
二人は書類に目を通しと…やはり建人の持って来た書類に目をやると固まった
瑛太は「嘘……これは故意ですか?それとも誰かの差金ですか?」と問い質した
宗右衛門は「それはその現場に携わった者を呼べばよい!
嘘を言おうものならは、レイが即座に見破る故、呼ぶがよい!」と嗤って言った
稀代の真贋を継ぐ者なのだレイは!
会長は「ならば、呼びなさい!」と言った
社長が「その現場は即座に停止させなさい!」と言った
栗田は現場の社員を会社へ呼び寄せた
直ぐに来ねば解雇にする!と宣言し呼び寄せた
現場から社員が来るまで、康太は宗右衛門が提案した話を会長と社長に話した
会長と社長は会社が発展するならば!と了解した
そして話は東神奈川の現場の件に集中する
康太は「国崎建人、お前の意見が聞きたい!」と問い質した
建人は「基礎も水を多く入れ捏ねくり回したコンクリートなんか耐震基準に達しないのは一目瞭然!
基礎だからと甘く見ればビルを支える基礎が耐えきれなくなり倒壊する可能性は避けられぬ!
やらかした社員に損害賠償請求して取り壊すしか手はない!
現場監督は一級建築士の免許持ってるんですよね?
持ってるとしたら、あまりにも稚拙でお粗末な監督としか言い様がない!」とキッパリ言った
一級建築士になるには最短で11年の実務経験が必要となる
高校卒業後実務経験7年で二級建築士の受験資格が与えられ
二級建築士として4年の実務経験で一級建築士の受験が可能となる
最短で11年
長ければそれ以上の実務経験と試験の合格を重ねはなければならない
飛鳥井でも一級建築士は数人いる
二級建築士ならばもっといる
九頭竜遼一は後一年経験を積めば一級建築士の受験資格が得られる
会長は「資格詐称……ではありませんよね?」と疑問視し始めた
社長も「今一度、国土交通省に免許の正確性を問い合わせする必要な有りますね!」と続けた
飛鳥井建設は今、大きな分岐点に立っていた
会社を発展させるも
危機的状態にするも
紙一重な状況の分岐点に立っていた
飛鳥井家 現真贋は宗右衛門が突き付けた現実に時間の猶予がない事を知る
決して先伸ばしにしていた訳では無い
訳では無いが、手付かずだったのは現実で、手痛い現実を宗右衛門に突き付けられる事となった
飛鳥井建設の軌道修正を何度もし、篩いにかけて、矯正を繰り返し正して逝く
気の長い作業をひたすらしていた
宗右衛門はそれを更に時間を早めろ!とぶっ込んで来たのだ
悠長な事をしてるな!とばかりに、時間を早送りせんとばかりにサクサク片付けようとしていた
康太の心の葛藤を知ってか知らずか、東神奈川から現場の作業員や社員達が到着した
烈は竜馬に手を差し出すと、竜馬は携帯の写真のフォルダー開き烈に渡した
東神奈川の社員達が会議室のテーブルに並ぶ
烈はその社員を竜馬が撮った写メで確認する
その写メを烈は母へと渡した
そして一人足りないと指を指す
康太は携帯を受け取ると写メと社員とを確認し
「だな、一人足りないな!」と言った
東神奈川の現場監督が一人足りなかったのだ
それを聞いた社員達は顔を青褪めさせた
榊原は「今直ぐ呼びなさい!」と怒りオーラを全開にして言った
会長と社長は黙ってその様子を見ていた
助監督が取り急ぎ現場監督に連絡を取ると、呑気な声で『煙草を吸う時間位黙らせておけ!』と言った
榊原は助監督の携帯を奪うと「直ちに来なさい!来ねば警察をそちらに向かわせ連行させます!」と宣言した
警察との言葉に監督は『直ちに向かいます!』と言い電話を切った
会議室に現場監督が現れると、烈は
「会長、社長、副社長、この書類に間違いないか本人に確かめさせてくだされ!」と宗右衛門の声で檄を飛ばした
社長と副社長は立ち上がると、冷徹な笑みを浮かべ
社長は「監督、君はこの現場の責任者ですね、ならばこの書類に間違いがないか良く見なさい!」と言った
副社長は「良く見ている間に現場監督である君は一級建築士免許を見せなさい!」と言った
現場監督は段々顔色を悪くして言葉もなく目を泳がせた
烈はポチポチと何やら打って竜馬に見せた
竜馬はそれを見て、言葉もなく頷いてその場を後にした
現場監督は「俺にはサッパリ訳が解りません!」と答えた
するとレイが首を振った
榊原が「嘘を着いてると謂う事ですか?」と尋ねると、レイは頷いた
榊原は「ほほほぅ!我々に嘘を言って良い度胸です!東神奈川の現場の負債は全て君達現場に関わった者へと請求します!」と宣告すると、末端の者はそれは勘弁とばかりにペラペラと話しだした
レイがじっと喋る者を視る
レイは即座に首を振った
会社に呼ばれて来るまでに社員や作業員は口裏を合わせて来来ているのだ
饒舌に喋れば喋る程にボロは出て嘘が暴かれる事となった
総てを否定された男は、後がなくなると焦ってパニックになった
そして何でこうも自分が追い詰められねばならないのか?と怒りに任せて咄嗟的に道具が入った腰袋から足場ハンマーを手にするとレイへと思いっ切り投げ付けた
コイツがいなきゃ、嘘なんてバレる事はないのだ!
投げ飛ばされた足場ハンマーはレイを狙って飛んで行った
全員がそれを阻止しようと動く
烈は咄嗟に隣りにいるレイを庇い抱き締めて隠した
すると足場ハンマーは烈の側頭部を直撃し、鈍い音を立ててめり込まんばかりに直撃して落ちた
烈は側頭部から血が吹き出し、着ている服を血で染めた
烈は自分が傷つられた事よりもレイを狙った事に怒り、怒りに任せ呪文を唱えた
呪文を唱えられた男は呪縛され体をギリギリ締め付けられ捻られ雑巾の様に左右に絞め上げられ始めた
「うわあ!やめてくれ!死んじまう!!」
男が叫ぶと康太は烈を抱き締めて
「止めとけ!」と言った
「かぁしゃん……れいが……」
「レイよりもおめぇがまた怪我しちまったじゃねぇかよ!
まだ完全に傷が治ってねぇのに……」
康太が言うと榊原は自分のスーツからハンカチを取り出すと、烈の怪我に巻き付けた
足場ハンマーは烈の頭を陥没させて傷付けていた
止まらぬ血に榊原は痛いだろうが強く抑えた
瑛太は烈に足場ハンマーを投げつけた男を取り押さえていた
清隆が警察に連絡を取ろうとした時、竜馬が警官を数人連れて会議室に入って来た
そして怪我をした烈に「烈!!どうしたんだよ!」と泣きながら問い掛けた
警察はその場にいる者に事情聴取をして、烈を傷付けた者を連行すべく応援を呼んだ
そして機密情報を漏洩させたとして、現場監督や作業員達をその場で捕縛
そして即座に現場を保存させ事情聴取を開始すると告げた
犯人は警察署で取り調べ、関係者はその場で取り調べを始めると謂う
実況見分を交えて、続々と警察の関係者が詰め掛けてくる
竜馬は傷付いた烈を病院に連れて逝く為に、烈の傷をタオルで固定した
そして康太や榊原達が警察対応している間に病院へと向かって消えていた
竜馬は泣きながら慎一に電話を入れた
「慎一さん 烈が怪我したんだ
血が止まらないんだ!どうしたら良い?」
『今何処ですか?怪我をしたならば、病院に向かっていますか?』
「今向かっている所です!」
『ならば病院の駐車場で待ってます!』
慎一は飛鳥井の家で夕飯を作っている時だった
即座に久遠に「烈が怪我したようです!治療をお願い出来ませんか?」と電話を入れておいた
『どんな状況だ?』
「それは俺にも解りません
ただ、竜馬から連絡があり烈が怪我したと言っていました
泣いていているので、そんな状態での運転は危ないので、多くは聞きませんでした!」
『了解した!ならば即座に手当出来る準備はしておこう!』
慎一は電話を着ると京香に後の事は任せて、烈の保険証を手にして病院へと駆け付けた
自転車で向かった方が早いから電動自転車で向う
すると駐車場にはまた竜馬の車はなかった
暫く待つと竜馬の車が病院の駐車場にやって来た
竜馬が車を停めると慎一は慌てて助手席のドアを開けた
「烈!」
慎一が烈を見ると、頭を縛ったタオルを真っ赤なって受け止めきれなかった血が滴り落ちていて顔を青褪めさせていた
慎一は烈を抱き上げると病院へと急いた
久遠が待ち構えていて、即座に病院のスタッフに軽い処置をさせ脳波とレントゲンを撮りに行かせた
竜馬は詳しい経緯を久遠と慎一に話した
久遠は「足場ハンマー?何でそんな物騒なの投げつけるんだよ!」と怒った
慎一も「烈に足場ハンマー飛ばしたのは何処の誰ですか?」と許すまじ!と思いの儘に問い掛けた
竜馬は「警察に連行されるのも時間の問題です!後で事情を聞きに警察が来るかも知れません」と自分が目にした全てを話した
久遠は脳波とレントゲンが終わると、処置へ向かった
待合室に崩れ落ちるように座ると竜馬は泣いていた
「怪我……やっと治りそうだったのに……
俺がその場を離れなきゃ…変われたのに……」と悔しそうに謂う
「烈は君に警察を呼びに行かせたのですか?
ならばこうなる事は視えていたんだと想います
レイが傷付く事は烈は耐えられなかったのでしょう」
「慎一君 ごめん……俺に託してくれたのに怪我をさせた」
「君が悪い訳ではありません」
慎一は竜馬の肩を優しく抱き締めた
そこへ久遠がやって来て「おい烈と同じ血液型の奴いねぇか?」と問い掛けた
竜馬は「確か俺、烈と同じ血液型でした」と名乗り出た
久遠は「来い!一応確認してからになるが、助かるわ! でも輸血の最中に気絶は絶対にしねぇでくれよ!」とボヤいた
竜馬は「大丈夫です!俺は元気だけが取り柄ですから!」と言い久遠と共にオペ室へと向かった
慎一は個室を手配して烈が入院しても大丈夫な様にした
輸血を終えて来る竜馬の為に野菜ジュースを大量に買って来て万全に備えた
そして烈の横にレイと椋がいなかった事を知ると、慎一は康太に電話を入れた
「済みません、そちらにレイと椋はいますか?」と尋ねると康太ではなく榊原が電話に出て
『今 警察の事情聴取を受けているので、義母さんに頼んで連れ帰って貰いました
烈はどうです?やはり入院になりますか?』と尋ねた
「今 竜馬の血を輸血されているので、入院しても大丈夫な様に個室を手配した所です
あ!俺とした事が……烈のカニパン用意し忘れました……」
『カニパンは後で僕と康太が買って逝きます!
もう少し烈の事頼みますよ!』
榊原はそう言い電話を切った
暫くすると輸血していた竜馬が病室に連れられて来た
ソファーに寝かせて野菜ジュースを渡す
慎一は三木に電話を入れた
「繁雄さん今 お時間ありますか?」
『おー!慎一どうしたのよ?
今は絶賛渋滞に合って身動取れねぇでいた
やっとこさ動き出して飛鳥井に顔を出して倅の顔を見に行こうとしてる所だ!』
「あの御子息を迎えに飛鳥井の病院の個室に来て貰えませんか?」
『え?倅が倒れたのか?』
「違います、俺もテンパってて説明不足でしたね
烈が怪我をして竜馬が輸血してくれたんです
なのでこんな彼を運転させて自宅に帰られる訳には謂がないのでお願いしたいのです!」
『え?烈が怪我って……まだ前の怪我治ってなかったよな?』
「ええ、今度は足場ハンマー投げ付けられて怪我したのです」
聞いた三木がブチッと切れる音がした
『ソイツ殺す!社会的に絶対に抹消してやる!』
「繁雄さん落ち着いて……落ち着いて病院まで来て下さい
貴方まで事故ったら大変ですから!」
『解った!気を付けて逝くわ!』
そう言い三木は電話を切った
そこへ病室がノックされ、慎一はドアを開けに行くと玲香が立っていた
「烈が怪我したと聞いた
レイと椋は流生達に任せて参った!
まだ烈は戻ってはおらぬのか?」
「義母さん、竜馬が烈に輸血をしてくれました」
慎一が言うと玲香は竜馬を抱き締めて
「ありがとう竜馬……大丈夫なのかぇ?」と問い掛けた
「はい、大丈夫です!」
そう答えると玲香に頭を優しく撫でられた
暫く待つと三木が病室にやって来た
「烈は?どうなりました?
そして竜馬は?」
三木が言うと竜馬は「親父、烈は未だだ!」と言った
「お前は大丈夫なのか?竜馬」
「俺は若いし、血の気が多いから少し位の輸血はなんともない!」
「そうか、だが心配だからマンションまで送って逝く!」
「親父……」
「お前は私の大切な息子だ!心配するさ」
何だか照れくさい
そんな想いをしていると、烈が病室に運び込まれて来た
烈は青い顔をして眠っていた
久遠は「少し入院して貰う!前の傷も治っちゃいねぇのに次から次へと傷を作るからな!
後、頭蓋骨 陥没してたから様子見ねぇと何とも言えねぇからな!」と入院を告げた
慎一は予想してたから「はい!」と答えた
「烈は年より体格は良いが、皮膚とか組織は少し柔いんだよ
だから頭に足場ハンマーなんて食らったら陥没するわな!」
と久遠は皮膚の治りも悪いし、体躯にそぐわぬ軟さを話した
慎一は蚊に刺されても腫れて大変になるのは、皮膚の弱さだけではないのかと想った
玲香は「かなり凹んのかぇ?」と久遠に問い掛けた
「あぁ、通常6歳児ならばこんなには陥没はしねぇだろうが、烈は前の傷さえ完治してはいねぇんだよ!
それは皮膚が異常に柔くて弱いんだよ!
当然皮膚を形成する組織が柔いからな骨も成長の過程に追いついていねぇんだよ!
烈はドッシリ貫禄があって一般の6歳児よりは大きいが、その実、どの6歳児よりも柔いと想って、私生活では怪我しねぇように気を付けてやってくれ!でねぇと取り返しがつかねぇ大怪我なんてしちまうからな!」
玲香は言葉もなかった
今日は烈は初等科に行ってた筈なのな………
呼ばれて行った会議室にはまだ烈の流した血溜まりが残っていた
玲香は誰が怪我したのか聞いたら烈だと謂われた
烈が怪我したからレイと椋を連れ帰ってくれ!と頼まれた
その場には警察と刑事が何人もいて、騒然としていて何も聞けれなかった玲香は二人を連れて飛鳥井の家に帰り、レイと椋を流生達に頼んで病院へと見に来たのだ
玲香は「烈はまた学校を休まねばならぬな……」と口にした
慎一は「頭ですからね、休まねばなりませんね
やっと退院して兄達と仲良く学校に行けると楽しそうでしたのに……まともに学校に通えませんね」と怪我で大半休んだ学園生活を想い口にした
三木と竜馬がその日の面会時間の終わりを迎え病院を後にすると、玲香はこの日は自分が泊まるから慎一には家に帰る様に言った
この日の夜遅く、康太と榊原が病室にやって来た
玲香が付き添っていると、疲れた顔した康太と榊原を目にして
「今宵は我が付き添っておる
疲れた顔をしておる、お主らは早く家へ帰るのじゃ!」と言った
康太は烈の様態を聞いた
玲香は久遠に聞いた烈の皮膚と骨の脆さを口にした
康太は「烈は一度、子宮外妊娠で流れているから、次の妊娠は真矢さんも体力的に辛い妊娠となった
母体がそんなだから、胎児である烈の体に養分が十分行かなかったんだと想う
だから烈は貫禄はあるが、栄養が行き届かなかったせいで皮膚が弱いんだと想う
烈本人もその事は承知している筈だ」と伝えた
玲香は「烈はその事を知っておると申すのか?」と問い質した
「烈は子宮外妊娠で死した時の記憶もある
それが転生者って事だからな!
当然オレも腹の中にいた時の記憶もある
母ちゃんが悩んで泣いていた事も知っている」
と全部知っている事を玲香に告げた
「そうか……なれば烈も総て知っておるのじゃな」
「あぁ………」
「烈は当分は入院じゃろ
レイと椋はどうするのじゃ?
我が面倒を見て託児所に預ける事にするか?」
「頼むな母ちゃん
飛鳥井は烈の齎す防風圏内に突入しちまった
時間を早めて己の持てる限りを使いぶっ込んで来やがった!
会社は揺れてるからな
早く治して貰い宗右衛門に出て貰わねぇとならねぇんだよ!
宗右衛門が齎した防風圏内だかんな、本人じゃねぇと鎮められねぇんだよ!」
玲香は言葉もなかった
榊原は「飛鳥井はこのままだと生きるか?潰されるか?の岐路に立たされてしまう所でした
烈が時間を早めたので、総てが白日の下に晒され、進む道しか遺されていない現実を叩き込んで来やがりました!
本当に……この前から飛鳥井は烈が齎す防風圏内に幾度も突入させられる事となりました
僕達もね、ほとほと疲れました」とボヤいた
玲香は「清隆と瑛太は?」と尋ねた
「今頃ぶっ倒れて寝てる頃でしょうね」
玲香は「ならばお主らも還るがよい!」と言った
康太は「明日は他のヤツに頼むから、頼むな母ちゃん!」と言った
「解っておる!お主等は早く休むがよい!」と言った
榊原は烈の大好きなカニパンを玲香に託して、飛鳥井の家に還って行った
地下駐車場に車を停める家に上がって行くと、一生が応接間で待ってて出迎えてくれた
応接間には聡一郎も隼人もいた
隼人は「烈は大丈夫なのか?」と問い掛けた
榊原が「烈は当分は入院です!着替えを頼みます!」と伝えた
隼人は「了解!明日持って行くのだ!」と告げると
聡一郎は「竜馬の車、烈の血が凄いかったと慎一が言ったので、洗車して中もクリーニングして来ました!」と伝えた
康太が「悪かったな、まさか烈が怪我するなんて想ってなかったからな………
でも烈は良いタイミングを狙って怪我したとオレは想うんだけど?」と榊原に問い掛けた
榊原は「それ、僕も想っていました!
竜馬が途中、席を外しましたよね?
その時に何か伝えてやらせてたんじゃないか?って想いました
その時警察呼びに行かせたのならタイミング的に合いますからね!」と予想を口にする
康太は「だよな!タイミング良すぎだと思ったんだよ!
で、警察が踏み込んだ時 烈が怪我していたら現行犯だし、その後の話が持って行きやすいと想ったんだよな?
まぁレイに足場ハンマー投げ付けた時は反転の呪文を重ねて雑巾絞りみたいな事遣り出して焦ったけどな!」とボヤいた
榊原も「反転の呪文の重ねがけなんて誰に教わったのですかね?
そもそも彼はそんなに呪文に長けていたのですか?」と問い掛けた
それには康太は何も答えなかった
榊原は「寝ますか?康太、僕も君も疲れ過ぎました!」と謂うと康太は頷いて寝室へと向かった
榊原は寝室に入ると「怒ったの?」と問い掛けた
「怒ってねぇよ
でもアイツに関係した話はあまり皆のいる場でして欲しくねぇんだよ!」と言った
「解りました、迂闊な事はもう言いません!」
「すまねぇな、伊織」
「君には君の考えあるんですよね?
ならば僕は何も聞かず君を支えていくだけです」
康太は榊原に強く抱き着くと、榊原は康太を強く抱き締めた
「寝ますか?」
「おー!明日風呂に入れば良いから寝るか?」
二人は服を脱いでベッドに入った
後は泥のように眠りに落ちた
翌朝 起きて重い体を動かして風呂に入り支度をする
寝不足と警察の取り調べで心底疲れた体は鉛を着ているみたいに重かった
只今 防風圏内真っ只中
当分は東神奈川の現場の処理に当たらねばならない
康太は「基礎が駄目だと取り壊しだよな?値段の算出して請求しねぇとな
東青だけだと荷が重いかな?」と思案して更に気が重くなる
榊原は「神威、企業弁護士でしたよね?
医療関係に強くて、企業系もかなりに腕利きって東青言ってましたよね?」と言葉にした
「なら頼むしかねぇよな?
でもよぉ、あの顔……叔父貴見てるみてぇで気は重いわ!」
「まぁ本当に似た者親子ですからね
でも損害賠償請求して貰わねば我が社の負債となりますからね
それだけは避けたい……のが現実です」
遣る事は山積しているが、何一つ片付いてなどいなかった
翌朝の新聞には何故か飛鳥井で警官が大量に突入したとの記事が上がっていた
その記事だと、あたかも飛鳥井に何かがあり、警察が大量にやって来た事と書かれていた
こんな書き方をされたら、憶測が憶測を呼び、大変な事態になってしまう
朝刊を目にして固まる康太を目にして、榊原は頭痛を覚えていた
何一つ片付いてなどいないのに………
本当に勘弁してくれませんか!
榊原はつくづく想った
「何処から漏れたのですかね?」
こんなに早く記事になるなんて、スパイを飼っているようなモノだった
露呈する現実に………榊原は胸騒ぎを覚えていた
「だな、社員教育しねぇとな
口の軽い社員なんか要らねぇからな!」
全くその通りだった
踏ん張り衝戟に備えねば、吹き飛ばされしまう
烈が齎す防風圏内に突入した
吹き荒ぶ嵐は膿を出して全て白日の元に曝すまで、吹き荒ぶ止まりはしない!
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