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第91話 夏休みがにゃい!

烈の夏休みは怪我の治療で過ぎて行った 一週間様子を見た久遠は、自然に陥没が治るのは無理と踏んで側頭部を切開して陥没部分を保護する為にチタンプレートを入れる手術を行った チタンプレートを入れれば、外見は凹みなど全く解らなくなるし、柔らかな骨を保護する役目も担ってくれる だが、金属アレルギーを訴えるなら、プレートは抜かねばならない プレートを入れて更に一週間様子を見ねばならない 入院中は担任の長瀬が何度も烈を尋ねてくれた クラスメートの手紙を携えて来てくれたり、何かと心配してくれていた 兄弟も夏休みは何処にも行かず、烈のお見舞いに来てくれていた だが烈は兄達の夏休みを奪ってしまったみたいで、申し訳なく想っていた 烈は母にラインをした 「かあしゃん、なつやすみ はくばにでも にーにたちつれて いってくりゃしゃい!」 即座に母から返信が来る 『おめぇは良いのかよ?』 「はい、にーにたち どこにもいけにゃいのは いやにゃよ」 『なら白馬にでも連れて逝くわ!』 多分行かないだろう頑固な息子を思い浮かべ苦笑しながら返信する 烈の火傷と額の傷はやっと治った だが側頭部の陥没はプレート入れる手術を受けたばかりだからまだ無理は出来ない状態だった 記者会見を見た安曇や堂嶋、相賀、須賀、神野、戸浪は烈のお見舞いに何度も来てくれた 煌星や海も来てくれた 笙も明日菜も何度も来てくれた そして今日、榮倉が一人で烈の病室を尋ねて来た 榮倉は深々と頭を下げた 「宗右衛門殿、一つだけお聞きしたい事があります!」 烈は聞きたい事が解っていて「何じゃ?」と宗右衛門の声で尋ねた 「あの日……貴方が小さい子を連れてやって来た日 一番後ろにいた子……東矢ですね?」 「それがどうした?榮倉よ あの子は1000年続く果てへと繋がれし子 宗右衛門を継ぐ者じゃ! 飛鳥井の礎に加わり、此れより永きに渡り転生を繰り返す転生者じゃ!」 揺れている榮倉に宗右衛門は情けもなく話す 「宗右衛門………」 「あの子が東矢の転生者じゃったら、どうするのじゃ? その子に告げるのか? 告げずとも、転生者と謂う者は前世の記憶を持っておる! あの子は東矢の記憶も持っておる転生者じゃ!」 烈は慎一に電話を入れると「椋を今直ぐに連れて参れ!」と告げた 慎一は『直ぐに!』と言い電話を切った 暫くすると病室に椋が連れて来られた  慎一はまさか病室に榮倉がいるとは想ってなくて、息を飲んだ 宗右衛門は「椋、お主の想いを伝えるが良い!」と言った 椋はニコッと笑うと東矢の声で 「真奈美さん また逢えて嬉しいです 俺は貴方の幸せだけ祈っていました! この先も貴方の幸せだけ祈っています! だからどうか、お幸せに……… 俺が幸せにしてやりたかったが、出来ないと解ったから貴方と別れた 別れる事でしか貴方を護れなかった… 貴方を泣かせてごめんね でも今 貴方が幸せそうで本当に良かった どうか幸せに!俺の願いはそれだけです!」 と言った 榮倉は泣いていた 嗚咽を漏らして泣いていた 「榮倉!」 涙を拭くと榮倉は「はい!」と答えた 「幸せになるのじゃぞ! それだけが東矢の心残りじゃった!」 「はい!幸せになります! 誰よりも幸せになります!」 「ならばよい! この子は宗右衛門を継ぐ転生者 椋じゃ! 以後お見知り置きを!」 「宗右衛門……ありがとう  最期にあの人の言葉を聞かせてくれて本当にありがとう御座いました!」 「死が解った男は別れてやる事こそ、愛する女の為だと想った 一緒に苦しんでくれ!と申せば良いのに、不器用な男はそれしか想いつかなんだ! 星を詠み己の死を理解した男の精一杯の愛じゃと解ってやってくれ!」 「はい!心に刻んで…生きていきます!」 「酷な事をさせたな榮倉……」  「いいえ…いいえ……宗右衛門、私の方こそ気持ちにキリが付きました! ありがとう御座いました宗右衛門!」 椋は榮倉にハンカチを差し出した  「わらってて……」 と言いハンカチを差し出した 榮倉はそのハンカチを受け取り涙を抜くうと笑った  誰よりも幸せに笑った 大輪の花が今 咲き誇る様に花開いた 榮倉は頭を下げると病室を出て行った 烈は椋を抱き締めていた そして昔話をしてやる 「儂にも愛した人がおった その人は誰よりも優しく美しかった 儂はその人を愛せて幸せじゃった こんなに愛した人はおらぬと愛し貫く事を誓った じゃが愛した人は略奪され……他の人の妻となった 何時も笑っていたあの人の顔からは笑顔がなくなっていた 儂はな、妻を奪った奴等を殺して一族なんて滅んでしまえ!と願っておった また己の手でぶっ潰してやる!と心に誓っていた 儂は復讐を果たした…憎んで憎んで憎んでも足らぬ一族は……終焉を迎えた 憧れて憧れて止まなかった祖父を自分が苦しめてしまっていたのだと、その時気付いた 許されたくても、許されてはならぬ所まで来てしまったのだと想った 後は悔いと贖罪の日々を送ると決めて今に至るのじゃ! そんな儂が謂う事なんぞ聞くに足らぬと思ってくれればよい たがな東矢、次に愛した人を手にしたのならば、絶対に離すでないぞ! その命長くないと解っても、手放さねば想いは残り、その者の中で生きて行けるのじゃ! 悔いを残したくなれば、手は離すでないぞ!」 「宗右衛門……はい!」   東矢は泣いていた 宗右衛門の想いが痛すぎて泣いていた 慎一も言葉がなかった 烈は「ねぇしんいちくん、にーにたち、どこかへつれていってね!」と頼んだ 今は夏休みなのだ 子供達が喜んで止まない夏休みなのだ! 慎一は「君を置いて逝く訳ないでしょ?」と言った 「にゃら、さいしゅうおうぎよ!しんいちくん」 「最終奥義?何をするですか?」 「くどーせんせーつれて、はきゅばにいくのよ! それれ、おぼんはかぞくでしゅごしぇるのよ」 それなら烈も白馬に行ける事となる 慎一は「ならば根回しは任せて下さい! 志津子さんに烈がずっと兄達の夏休みを奪ってしまって悔いてるので、何とかしたいのです! 烈の夏休みを、兄達の夏休みを!そして北斗達の夏休みを、手に入れる為に協力して下さい!と頼んでみます! 久遠先生をお連れして、目指すは白馬へ行きたので協力お願いします!と話して来ます! 久遠先生も志津子さんからの頼みならば断れませんからね!」とかなり悪どい事を企み慎一は動き出した 烈の夏休みの為に! 翔達の夏休みの為に!! 北斗達の夏休みの為に! 慎一は一肌脱ぐと決めたのだ! 慎一に【お盆は白馬へ】と相談された志津子は即座に「頼まれるわよ!」と言って必ずや久遠を落とす!と燃えていた かくして久遠は志津子に泣かれて焦っていた 「烈は確かに傷の治りが悪いが、夏休みなのですよ譲! 貴方の子も夏休みなのですよ! 飛鳥井の子供達も夏休みなのですよ! 子供達の夏休みを取り上げるなんて… ほんのお盆の一時くらい家族で白馬で過ごさせてあげても良いじゃないの……」 うっうっうっ……とハンカチで涙を拭い訴えられると、久遠はどうして良いか解らず困り果てるしかなかった 女性の涙と女性の扱いには弱い久遠だった 相手が患者ならば、どれだけ強気で行けても、母と呼ぶ人の涙は……やはり弱いのだ 義泰は志津子の悪どさに、久遠に同情しつつも愛した女の味方をせねば後が怖いとばかりに加勢する 「そうじゃぞ、譲 お主が烈を入院させておるから流生達は夏休みもないではないか! そして我が孫 拓海と拓人も夏休みなのに父親不在では可哀想過ぎではないのか?」 父 義泰も涙を浮かべ目頭を押さえる 少し芝居掛かっていて、思わず蹴り飛ばしたくなる それでも折れぬなら悟を出すしかない 志津子は「悟にも逢いたいわ、悟も烈に会いたがっていたのに……白馬に逝かねば悟にも逢えない……【家族】で行けないのなら、堪えるしかないのね?貴方…」 と、よよよよっと泣く志津子を義泰は何も言わずに抱き締め久遠を睨み付けトドメを刺す 久遠は折れるしかなかった 「解りました父さん母さん! 烈を連れて白馬に行きましょう! 烈は俺が目を光らせてるから行けなくもないですから!」 それだと烈が楽しめないじゃない 志津子は想った 本当に融通がきかない子ね それでも白馬をもぎ取った志津子は「白馬GETよ!」とラインを送った その夜慎一は家族に「お盆は白馬に行きましょう!」と告げた 榊原は「烈を置いて、ですか?」と尋ねた 慎一は「久遠先生をGETしました! 志津子さんに泣き脅しして貰い、やっとこさGET出来たのです!」と伝えた 飛鳥井の家族は志津子の泣き脅しを思い浮かべた 朴念仁の久遠相手に泣き脅しは苦労した事だろう 清隆が「ならば、飛鳥井建設が研修に行かせる為にだけに購入した観光バスで全員行ったらどうですか?」と言った 慎一は「俺は大型二種免許あるので、俺が運転して行きます!」と告げた 瑛太が「大型二種免許って何人まで乗せられるんですか?」と訪ねた 「観光バスと同じです 30人から50人未満 座席の数は乗れます!」 清隆は「ならば楽勝だね 義泰の一家を乗せても大丈夫そうだね!」とホッと安堵した 「それでは残り少ない夏休み! 烈の為の夏休みであり、家族の夏休みを満喫して来ましょう!」 慎一がやっともぎ取った夏休みだった 病院のベットの上で えいえいおー!と烈ははしゃいでいた カニパンミュージアムでも良いけど、白馬に皆で行けるのはもっと楽しかった! でもカニパンミュージアム やってたなら楽しかったろうな… 記者会見の日はカニパンミュージアムは休園で動いてなかった そんなの烈しか楽しめそうもない事を、烈は思い浮かべていた 「かにぱん… うごいてたにょね」 食べたら美味しいんだろうな 思い浮かべて、よどが出る 一生はカニパンの封を開けて烈の口にカニパンを、突っ込んだ 「かじゅ うごいてたにょよ かにぱん」 一生は康太が爆笑したカニパンを思い浮かべて 「あぁ!動いてたな」と答えた 「あれ、にゃんにちで たべおわりゅかにゃ?」 「止めとけ腹壊すぞ!」 「ほちぃにゃー おおきなかにぱん」 「食事制限に引っかかったら、一日2個のカニパンも食えなくなるぞ!止めとけ」 烈がカニパンを咥えて、うるうるした瞳で一生を見る 一生はヤバっと慌てて、烈の好きなリンゴジュースを天然水で薄めて渡す 「ほら、烈の好きなリンゴジュースだぞ!」 烈は薄いリンゴジュースを飲んで「うしゅいにゃー」と呟いた 出来れば一生だって薄めずに飲ませてやりたい やりたいが、一日の摂取カロリーが決められているのだ それでも好きなカニパンまで取り上げるのは可哀想だと2個まで許しているのだ 文句は言えなかった 一生は烈の頭を撫でてやった カニパンを食べた後は烈は何時間もPCをポチポチやっていた 「かじゅ、すうじかんだけ かあしゃんとでれにゃいか きいてきてほちいにょ!」 「何処かへ行くのかよ?」 「なぐもけんせつよ!」 「南雲建設、それって急いでる案件か?」 「いかにゃいと、けんしゅうはじめられにゃいのよ!」 「解った、康太と相談して出掛けられる準備を入れるわ!」 一生はそう謂うと病室を出て康太に連絡を取った 『おっ、一生どうしたのよ?』 「今忙しいか?」 『防風圏内の時よりはマシになったが、烈が打ち出したプログラムが結構大変で調整取ってるんだよ!』 「その烈が南雲建設におめぇと逝くらしいけど、聞いてるか?」 『おー!聞いてる、そろそろ行くのかよ?』 「烈が行かないと研修始められねぇって言ってた!」 『ならば久遠に話をして数時間出してもらえねぇか話をしてみるわ!』 「行くとなったら烈はスーツか?」 『会社訪問ならスーツしかねぇわな!頼むな一生、用意しておいてくれ!』 「了解!」 一生は電話を切った まだまだ飛鳥井は多忙を極めていた 防風圏内は去ったが、去ったからと言って暇にはならないだろう そればかりか、宗右衛門が齎した研修の手筈で、てんてこ舞いとなってるんだろう 一生は病室に戻ると「スーツ要るからな、隼人が来たら取りに行くわ!」と言い隼人にラインした 暫くすると隼人が病室に来て、一生は病室を出て行った 隼人が病室に入って来ると烈は 「はやと、さいんくらさい!」と小難しい書類みたいな紙を隼人に渡した 「え?何なのだ?これは?」 「じんのにきいて、さいんしてね!」 ニコッと笑って謂われれば即座にサインしてしまいたくなる なるが………相手は烈だ!ついつい身構えてしまうのだ 隼人は書類を畳んでポッケに入ると、一生が烈のスーツを持って戻って来た 入れ替わりとなり隼人は病室を出て事務所へと急いだ! 神野にこの書類を見せねば!と急いで事務所へと向かった 事務所に入るなり隼人は「神野!ピンチなんだけど!!」と訴えた 神野は慌てて隼人の傍に行くと、烈から渡された書類を神野に渡した 神野は小鳥遊と共にその書類に目を通した 小鳥遊はその書類に目を通すと顔色を変えた 「この書類、誰に渡されたのですか?」 「烈、なのだ!」 「え!烈がこの案件に携わっていると謂う事なんですか?」と小鳥遊は唖然となった 「神野、オレ様はこの書類にサインして良いのか?」 神野は何と返事して良いか解らずにいると、小鳥遊が 「願ってもないのでサインして下さい! その前に烈に話を聞かないと駄目ですね」と言い小鳥遊はその書類をファイルに挟んで誰にも触れさせなくした 神野は「その書類は何なんだよ!」と小難し過ぎて半分も理解してなくて問い掛けた 小鳥遊は二人に「神野と隼人は頭脳集団が齎すプロジェクションマッピングを駆使しする【R&R】と謂うパフォーマンス集団を知ってますか? この契約書はその【R&R】とコラボしないか?と謂う誘いの契約書です!」と説明した 神野は最近企業間を騒がせている企業系調査事務所も【R&R】だったなと思い出し 「【R&R】と謂えば最近企業間を騒がせてる企業系調査事務所がその名前だったと想うんだけど?」と呑気に思い出し言ったがスルーされた 仕方なく神野は「で、その頭脳集団の作るプロジェクションマッピングとのコラボって何するのよ?」と言った 小鳥遊は書類を詳しく見る 「【R&R】は一条隼人とコラボして映像を駆使して創り上げる世界で演者となって欲しい!と、あります ギャラは出せないが知名度と話題作りには貢献出来るので、東神奈川の取り壊し中のビルを荒廃した世界と見立てコラボして話題を呼びたい、との事です 【R&R】とのコラボならば、ノーギャラでも、構いません! 隼人、これは烈が持って来たのですね ならば烈はまだ病院ですか?」 「まだ入院中なのだ、でも何処かへ行くみたいだから確かめて行った方が良いのだ!」 烈、小さなお子様だと侮るも手痛いしっぺ返しを食うのは見ていて解っていたが、こんなドデカイ仕事をブチ込んで来るとは……… 小鳥遊はやる気になっていた 隼人は「その前に烈は夏休みを白馬で過ごすのだ!」と現実を突き付けた 「ならば、その前に契約しなければ!」 【R&R】は人気のパフォーマンス集団なのだ、コラボしたい女優や俳優、歌い手など沢山名乗り出ているのだ! だが気難しいリーダーが仕事を選ぶらしくて、簡単には仕事は出来ない集団なのだ 【何者に囚われない    何者にも干渉しない       我等の世界     それが【R&R】で在る】 と打ち出してるパフォーマンス集団だから、契約出来るならばお金を払ってでもお願いしたい程だった コラボ出来るのであれば、早く契約しちゃいたい! 小鳥遊は烈に電話を入れた 『はい、かにぱんたべたいれす!』と烈が電話に出た 「小鳥遊です、あの契約書本気ですか?」 『はい、じょーらんでだしましぇん!』 「ならば今夜、病室にいますか?」 『びょーしつじゃにいにゃいと、くどーせんしぇーこわいにょよ!』 「ならば今夜6時半に病室に伺います!」 『そのときに、あーるのかたわれ よんどきます』 烈はそう言い電話を切った 康太が数時間烈と共に外出したいと謂うと、外科医の南雲誠治を連れて行け!と条件を出して来た 「久遠、南雲建設に行くのに、南雲医師を連れて行けと謂うのかよ?」 最初は冗談かと想った だが久遠は頗る本気で「今手が空いてるのはその医者しかいねぇんだよ!狙ってねぇよ!」も文句を言った 康太は烈と見張りの医者 南雲を連れて南雲建設へと向かった 事前に烈が連絡しておいたから、社長との面会は即座に許可された 社長室に通されると、女優顔負けの美人が座っていた 美人は烈を目にすると「今日もぷりちぃーやんけ!でも怪我したってのは本当なんだな」と痛々しい怪我を見て言った 「うた、いーから、おちつくにょ!」 「烈、私が敵を討ってやりたかったな! 私の可愛い烈を!!!おのれ!!!」 「うた!しんがんよ!」 美人は嫣然と微笑むと康太に 「私は南雲建設の社長をしております南雲莉子と申します! 貴方が飛鳥井家真贋ですね!お初にお目にかかります!末永くお付き合い戴けたらと想っております!」 とスマートにご挨拶した 3人をソファーに座らせると、秘書に紅茶を2つ、珈琲を2つ持って来るように頼んだ 秘書がそれぞれの前にティーカップを置くと、秘書は席を外して出て行った 「あら、誠治、貴方何時から転職したの? 転職したいなら我が社に来ればよいのに!」と南雲社長は悪戯っ子みたいに微笑み言った 「私は転職などしてません! やんちゃな悪戯っ子が、怪我をしないか見張れと院長に言われて見張っているのです!」 「あら残念、それでは本題に入りましょうか? 飛鳥井の答えをお聞かせ下さい!」 南雲社長に問い質され康太は 「社員研修をさせて戴けるのなら、今後は何かと提携して行けたらと想っております! 我が社としても願ってもないお話です!」と誠心誠意、心を込めて言った 「我が社は甘くはありません! それを生業として独立させる気概で育てておりますの! 脇田誠一は我が社の誇り、彼に続く社員を育てる事こそが死命だと想っております!」 「我が社は後一歩と謂う所で足りぬ想いをして参りました! ですが、それも今後は許されぬ現実を宗右衛門に叩きつけられました故腑抜けた事など申せません! なのでビシビシ鍛えて戴けたらと、と想っております!」 「榊原真矢 花柳悦郎の記者会見で会見場を作ったのは飛鳥井の社員だとお聞き致しました 我が社にはそう謂う施工技術が足りませんの! なので切磋琢磨して行けたらと思ってます 此の後、製図室を見学されたら答えを聞かせて下さい!ではご案内致します!」 南雲社長自ら製図室を案内する 社員達は気を引き締め仕事をする それだけ見ても統制が取れてる会社だと解る 康太は見学せて貰った製図室で度肝を抜かれる事となった 製図室は閉鎖空間ではなく、木々が植えられ花々がそれを彩り、まるで公園が広場のような広さで、社員達は伸び伸びと製図を引いていた 康太は「これは………」と言葉をなくした 南雲社長は「これは脇田の作品なのよ、脇田は狭い空間で良い作品なんか作れるかよ!と言い変えなきゃ辞めるとまで言ったのよ」と笑って言った 康太は「確かに……」と納得して 「飛鳥井も此処までとは行かないけど、改良は必要だな」と呟いた 昼に差し掛かり、社員食堂で軽くランチを!と謂われてランチを取り、提携書類にサインをして還って行った 烈を病室に送り届けたら、康太は社長達を呼び寄せて会議を開くつもりだった お出掛けした烈は疲れて眠りそうだった 「かあしゃん」 「何だ?烈」 「よるのろくじはんにきてほしいにょよ!」 「おっ、了解した! なら6時半に来るな!」 「あいがとーかあしゃん」 「お前は少し眠れ!時間が来たら起こしてやるから!」 パジャマに着替えてベッドに入る 烈はそのまま眠りに落ちた 体力は地を這う様に重くなっていた 久遠は体力は取り戻すリハビリをあと少ししたら始めると謂う 烈は時間が来ても眠っていた 竜馬が来ても、康太と榊原が来ても小鳥遊と神野と隼人が来ても眠っていた 仕方ないから康太が烈を起こした 目を醒ました烈は「かにぱん?たくしゃん?たべれりゅの?」とよどを垂らして謂う 榊原は濡らしたタオルで烈の顔を拭いて、薄めたリンゴジュースを飲ませた 頭が冴えて来た烈はやっと状況を把握した 「きょう にこたべちゃったのね…」 もうカニパンは食べられないと知る 仕方ないから烈は宗右衛門に変わった 「隼人 サインしたくなったか?」と問い掛けた 小鳥遊は「説明して下さい!」と問い掛けた 烈は病室に結界を張った 「小鳥遊、儂の名は烈 そして相棒の名は竜馬 二人の頭文字は共にRだからのぉ! 【R&R】なのじゃ! 竜馬はオックスフォード大学の心理学の博士号も持っておる その仲間を集めて人の脳に特化した、人の心地良いと感じる空間を作り活動を始めたのじゃ! 儂と竜馬は互いに出資し合って会社を3つ作ったのじゃ! プロジェクションマッピングはその中の一つじゃ! 儂は東神奈川の現場を捨てて置く気はないのじゃ! 東神奈川の現場は広大な敷地を利用して緑とオフィースを組み合わせたビルとなる筈じゃった じゃからな、あの建物を良い風に壊して荒廃した世界を作り出す そして竜馬達天才の齎す世界空間を作ると決めたのじゃ! 隼人にはノーギャラでの依頼となるが、ノーギャラでも話題が話題を呼ぶから次の仕事に繋がると保証しよう! ノーギャラじゃった分はコンサートを開くならば、その舞台装置を手掛けてやると約束でどうじゃ?」 宗右衛門の言葉に小鳥遊の頭脳計算機が、ポチポチと利益を計算する ノーギャラでも利益はその倍は取れると踏むと小鳥遊は「此方こそ願ってもない話です!」と了解した 小鳥遊は竜馬に「貴方が【R&R】の代表なのですか?」と問い掛けた 竜馬は「気難しいで通ってる代表は此方です!」と烈を示した 小鳥遊は唖然として「烈が代表なんですか?」と問い返した 竜馬は「俺達が縛られずに好きに空間を作れるのは烈のお陰ですから! 後、仲間の統制も取ってちゃんと落とし所を用意してくれるので代表をしてもらってます! 烈は英語もペラペラなので仲間達も文句なし!と代表になってもらいました!」と言った 宗右衛門は呆けた小鳥遊を放って 今度は両親に 「あの現場の取り壊し請求、幾らも回収するのは無理じゃろ? なれば他の違う部分で回収すればよいのじゃ! ステージは1日に2回 一時間ずつで客を総入れ替えする チケットの料金は4000円 それを半月、公演して解体の費用は捻出出来るか様子を見て、追加公演やるかを決める そしたら飛鳥井の精鋭を集めて作り直すのじゃ! もぉ甘い事など言ってはおられぬ! 休み抜きで工程を上げる故、一ヶ月や二ヶ月は休みは返上じゃわい! 納期と謂うモノがあるからな!」と談判した 裁判して損害賠償請求しても支払われるケースは稀だ 金額が上がれば上がる程 破産されれば手も足も出ないのが現状だった ならばまどろっこしい事は取っ払って、金を集めるしかない! それが現実だった 建築の違約金は莫大だ! 康太は宗右衛門に深々と頭を下げた それをやらねばならないのは真贋である自分の責務なのに…… 「謝罪は不要じゃ真贋 腹の膨れぬ謝罪より、もう少し薄めぬリンゴジュースを飲みたいものだわ!」とボヤいた 「それな、オレも薄めずに飲ませてやりてぇけど、ジュース類には糖質が入ってるから駄目って言われればな、飲ませられねぇんだよ、すまねぇ!宗右衛門」 と謝罪した 「まぁ烈が食い意地が張りすぎて成人病まっしぐらになったのが、いけぬのじゃ! 謝らずともよい! 出来るなら…烈しか喜ばぬカニパンミュージアムに動いてる時に連れて行ってやってくれ! あれはな、儂もないわぁ〜と想ったのじゃが、烈は喜んでおったからのぉ!」 と宗右衛門が言うと康太は思い出して爆笑した 榊原もフルフル笑う 小鳥遊は「それで宗右衛門殿、何日から何日までの公演となりますか?」と訪ねた それに答えのは竜馬だった タブレットを持ち出してイメージから日程まで緻密に出したスケジュールを小鳥遊に教えた 公演は9月15日から9月30日までの半月間 夜 6時半〜7時半までを1ステージとして 30分の休憩を取り 8時から9時までの2ステージとなる 準備期間としてお盆の後は舞台設営に入ると伝えた 小鳥遊は竜馬を気に入り「スカウトしたい!」とまで言い出した だな宗右衛門が「それならぬ!竜馬は政治家にならねばならぬ者!」とピシャリと断った その顔だけでも人を惹き付けて止まないだろう だが決して楽な道など逝かせる気は皆無と宗右衛門は言った 「此れより竜馬は血反吐を吐き、苦しみ人の痛みと生活する明日を知るのじゃ! それが乱世を生き抜く政治家を強く支える指針となるのじゃ! 竜馬には他の道などないのじゃ!」 と謂われれば引くしかなかった 緻密にスケジュール調整して、創り出す世界に立つのは一条隼人唯一人だと知らせる 台本は合ってないようなモノだと竜馬は言った 「同じモノを毎日みたいならDVD見てれば良いんです! 我等が創り上げる作品はカタチなんてない! セリフなんて固定してない世界となる!」 一条隼人の感性を引き出す自信はあるから、好きにやれよ!と謂われた様なモノだった だが隼人はワクワクして笑っていた 「今の想い伝えるのだ……ならば条件が1つあるのだ!」 竜馬は「何でも仰って下さい!聞き届けてみせましょう!」と答えた 「最終日は烈、君が出て オレ様と二人、未来繋ぐ想いを紡ぐのだ!」 「わかったにょよ!はやと」 条件が全て揃い盤上に上がった瞬間だった  康太は「ならば協賛は飛鳥井建設がなるわ! 荒廃した世界を出す為に程よくあのビルぶっ壊すわ!」と約束した 榊原は「ならば僕は皆にお昼のお弁当の差し入れを毎日します! 仕出し屋出頼むのではなく人数分、毎日僕が作ります! そして夕飯はボリュームたっぷりの弁当を差し入れさせます!」と大変な約束を口にした 竜馬は「少なくともメンバー7人は常に出突っ張りとなりますよ!」と謂うと榊原は笑い飛ばして 「そんなの苦にもなりません!高々半月弁当を作り続けたとて、仕事にすら影響など出ぬ自信はあります!」 そう言われれば「お願いします!」と謂うしかない 康太は「この話、会社に上げて良いか?」と言った 伝えれば協力を買って出る社員もいるだろう そうすれば人手は助かるだろうと踏んでの告知だった 「それは、かあしゃんにまかしぇます」 「会社に大々的に打ち出せば、協力をしてくれる奴の一人や二人出ると想うぜ! オレはハンマーで壊してやんよ!」 ウキウキ康太が言う あの現場が生まれ変わるのだ! 禊を得た後はビルとして建つのだ! 軌道修正されたビルは立派にそこに建つ事だろう! 竜馬は「会社の方に協力をしてもらってもギャラは払えませんよ! 機材は俺と仲間達と烈との持ち出してですから!」とギリギリの状況を訴えた 康太は「うちの会社の社員がギャラなんて要求するかよ! 烈の為ならばノーギャラで動いてくれるんだよ! 烈は社員達には可愛がって貰ってるからな!」と現実を口にした 榊原は「スタッフ全員にギャラは出せませんが、最終日に盛大な打ち上げが出来る様に、頑張って出します! 小鳥遊も喜んで出してくれますよ! 僕と合わせれば、立派な打ち上げは出来ます!」と笑って言う そう言われれば、小鳥遊も出すしかなかった 「僕も出しますとも! 【R&R】の仕事ならお金を出してもしたい!と謂われてる仕事をさせて貰えるのですから! 打ち上げは、それはそれは盛大にやりますとも! それと特注でリボン付けて大きなカニパン贈呈致しますとも!」とヤケクソで謂うしかなかった 榊原は小鳥遊を捕まえて予算の打ち合わせをする お互い幾らまで出すか?電卓を叩き合って相談する 烈は「おおきにゃかにぱん」と嬉しそう言った この日のリンゴジュースも終わったから、麦茶を康太は飲ませた 「おちゃら…」 「今日の分はなくなったからな! 明日は林檎と夏みかん買って来てやる! だから頑張れるか?」 「ぎゃんばる!」 烈は気合を入れて答えた 翌日 東神奈川の現場を取り壊す前にイベントをやると伝えた 会社の社員全員に知ら示しる為に掲示板や電子メールで伝えた 【この度 東神奈川の現場でイベントを行う事となりました このイベントは烈が軸になって進めている、解体費用を捻出する為に立てた計画です 予算は限られてて、殆どが烈が自腹でやるイベントです 当然 出演者の一条隼人もノーギャラで参加をお願いしました だから手が空いた者は、そのイベントを手伝ってやってくれませんか? 会社の為に立ち上がってくれた烈を皆で支えてくれたらと想い告知致しました そして皆でイベントを成功させましょう!       飛鳥井建設 副社長 榊原伊織 】 社員はその副社長からの通達に俄然燃えていた 城田や愛染、瀬能はどんなイベントなのか? 康太を捕まえて聞いてきた 「真贋、どんなイベントどんなのですか?」 「おめぇら【R&R】ってパフォーマンス集団知ってるか?」 「知ってます! 集団のリーダーが仕気難しくて、仕事を選ぶとかで、大金積まれても好きな仕事しかしない集団ですよね? まさか、その集団が出て来るんですか?」 康太はまさかそんなに有名なのか?と想った まぁそこそこのパフォーマンス集団なのかな?程度にしか想っていなかった そして、その気難しくて仕事を選ぶリーダーが烈だなんて口が裂けても言えねぇわ、と想った 「真贋のお知り合いなのですか?」 「いや、何から何まで烈がやるんだよ! だから費用も烈が出し、人も烈が動かす! 烈が考案して解体費用を捻出した後は、休みなど与えられると想うよな!と、勢いでビルをおっ建てるつもりだ!」 城田は言葉もなかった 「現場は烈が見張る気なんですかね?」 「だろ?それが宗右衛門の務め! これからは目を光らせて社員の統制や規律の為に動かれると想う その為の顔見世だったからな!」 あの顔見世にそんな意味があったとは…… 城田は気を取り直して「準備期間としてお盆の後からとありますが、本格的に始動するのはお盆の後からですか?」と問い掛けた 「烈は今入院中だ、だからな当然兄達も何処へも行けねぇんだよ! でな烈は考えたんだよ! 主治医を白馬に行かせれば、白馬でお盆休みを皆で送れる、っな!」 康太は笑って謂う 城田は「主治医引き連れて白馬に行かれるのですか?」と信じられない想いを口にした 「それしか流生達は何処へも行かねぇからな 烈が動かねぇと家族も動く気ねぇんだよ 烈だけ遺して行けねぇって言われるからな」 だからの主治医なのか……と理解した 後少しでお盆休みだった お盆休みが過ぎたら東神奈川の現場の解体なのだ! 「勝手にぶっ壊したらイメージとかあるから怒られるのかな?」 康太はハンマーで壊す気満々だった 「まぁ何にしても烈が指示を出すか!」と言い城田と別れた 康太と別れた城田は茫然自失状態だった 総てが烈がやる 費用も烈が出す 康太の言葉に、あんな小さい子にお金を出させるのか?と想った 城田は誓った 惜しみない協力と社員からカンパしてもらい烈の負担を減らす事を! ワクワク ドキドキ のお盆休みを当日 烈は久し振りにパジャマを脱ぎ捨て私服に着替えた 頭の包帯はまだ取れてなかった 髪の毛もオペで切られた部分に合わせて短目にカットされていた 病室に美容師を連れて榊原が切らせたのだ 流生が烈の世話を焼く 音弥が烈と一緒に歌を歌っていた 大空は烈のカニパンをバッグから取り出すと 「烈、カニパンだよ! 今日はまだ食べてないよね?」と聞いた 烈は「まだ、たべてにゃいのよ!」と答えた 兄から手渡されたカニパンは美味しかった 太陽が烈の首に水筒を引っ掛ける 「烈、リンゴジュース薄めたのよ!」と謂うと 「あいがとう!に~に!」と礼を言った 目の下にクマを作った久遠が烈を連れてバスへと向かう その手には往診キッドが下げられていた それとは別に消毒液と包帯を慎一に前日に渡していた やっともぎ取った夏休み 烈の夏休み にーに達の夏休み 北斗達の夏休み 拓人と拓海の夏休みだった 今年は凛とレイと椋が増えた夏休みだった 目指すは白馬! 烈の短い夏休みが始まった

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