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第98話 堅偲果決

兵藤は爆風で吹き飛ばされる烈を護る為に抱き締めて庇っていた 地面に激突した時に物凄い勢いで吹き飛ばされ地面に激突し肋を折り、破片でそこら中怪我をしていた 治療を受けて3日意識不明だった だが意識が戻ると「烈は?烈はどうなった!」と心配して辺りを見て問い掛けた 自分の容態よりも烈を心配して問い掛ける兵藤に、一生は言葉もなかった 康太が「烈なら他の病院に運ばせた!」とだけ伝えた 兵藤は眉を顰めて「それはどう謂う事よ?確かに俺は烈を巻き込んだけど、引き離されねぇとならねぇ事はしてねぇぞ!」と怒りに満ちて言った 康太は「おめぇは烈に巻き込まれたんだ!巻き込んで本当に悪かった!」と謝罪した 「あの日烈は竜馬を呼ぶと言っていた 自分が狙われてるのを知っていて、俺を護ろうとしてくれた だけど俺が烈を護ってやると約束して共に行っただけだ! 謝罪なんてされる謂れはねぇよ!」と言い捨てた 一生はその話を泣きそうな顔で聞いていた 自分が狙われていたならば、烈ならばそう謂うだろう…… 康太は「まぁ何だ、色々と合ってな烈は動かしたんだよ」と誤魔化した 「色々とって何だよ!」と兵藤は引かない 一生は兵藤に総てを話した 自分の所為で烈は他の病院へ行ってしまった…と言った するとやはり兵藤も 「お前、烈 嫌ってるからな!」と言った 「俺は烈を嫌ってなんかいない!」と一生は反論した が、兵藤は笑い飛ばして 「無自覚かよ!ここ最近は特に酷くて、話しかけて来ても無視するお前を何度も目にしたぜ! だから烈はお前が話し掛けて来なければ話さない!を徹底してるんだろうが!」と辛辣な事を言った 「俺は……烈を嫌いな訳じゃない 皆に指摘されて、無自覚で烈を、無視していた……自分でもそれに気付いてなかった」 そして兵藤も康太達と同じ事を謂うのだ 「ならばおめぇはもう烈に関わるな! 烈は転生したってだけあって、どの子よりも人を視ている 人を視るのがアイツの定めなんだろ? だから下手したら康太よりも視ているんだよ! そんな烈がお前を避けるならば、お前はもう烈に近寄るな! 烈は定めを持って生まれた転生者だ! 異論を唱えれば親でも兄弟でも斬らねばならぬ定めを持つ者! それが飛鳥井宗右衛門としての飛鳥井での立場なんだよ! 敬われ人々の規律の上に立つ存在が軽視され、蔑ろにされ、ぞんざいに扱われるのは一族が許しはしねぇんだよ! だから春先、烈がレイを礎に加えた時、康太は傅き従ったんじゃねぇのか? それを誰よりも傍で見ていて、あの扱いはねぇと俺でさえ想っているんだ 康太が感じてない訳はねぇよな?」  康太は静かに目を閉じて苦悩の表情を浮かべていた 「烈は一番下の子供だが、その定めは翔よりも重い 翔は真贋だが位置付けは宗右衛門の方が上だ! だから翔より過酷な儀式を受けて修行している そして一族の絶対的な存在としてオレがいなくなった後を担うべき存在 そんな烈を軽視されて飛鳥井の真贋であるオレが許せると想うのか? レイを飛鳥井に連れて来た日、おめぇは烈を睨み付けていたよな? まるで親の敵みてぇに睨み付けていたよな? それこそ許されねぇんだよ! 一族ならば即座に斬る、そんなに宗右衛門の存在は軽くねぇんだよ! まぁ好き嫌いはあるからな、無理して傍にいる必要はねぇ! だから烈をお前達の手を煩わせなくても大丈夫な様に、他へと移した 久遠は怒りまくっていたから久遠の知り合いの病院に移し、今後も久遠が診て行く事となった だからもう烈の心配はない 飛鳥井からレイも椋も凛も出したからな 明日の礎となるべき存在まで軽視されたら堪らねぇからな!」と吐き捨てた 後はもう話す事はないと黙った 兵藤は康太に「俺を烈のいる病院に移してくれ! 烈は俺に無償の愛を教えてくれた 俺を責める事なく許してくれた烈を一人にさせてたまるか!」と言った 「それは久遠と話せ!」 「ならそうする!だからお前達は帰れ!」と言った 兵藤は一生の態度が悪いのもあったが、それを良い事に烈を隠した事に気が付いていた 一生はきっと自責の念で気付かないだろうが、それだけ逼迫した状況なのは伺えた そうしなければならない程、差し迫った現実が烈の身に降り掛かり、何としてでも烈を守らねばならなかったのだろう 一生は竜馬と連絡を取ろうとしたが、竜馬は電源ごと切ってて電話は繋がらなかった 飛鳥井の病院から兵藤が消えた 飛鳥井の家からレイ、凛、椋も消えた 飛鳥井の家族は何も言わなかった 何時もと変わらず日々を送り、一生に対しての態度も変わらなかった それが一生には耐え難き日々となっていた 唯、一度瑛太が「飛鳥井宗右衛門の存在は稀代の真贋と同レベルな扱いなので次代の真贋や総代など下の扱いなんですよ!」とだけ一生に言った 宗右衛門と接するならば、それだけの重きを持って接しなければならない! 「まぁそれも一族の間の事ですから君には該当はしませんがね…」 と慰められたのか、除外されたのか解らぬ言葉を貰った 康太は仲間達に「講習会を成功させねぇとならねぇからな、気が散るから少しの間、会社に顔を出すな!」と伝えた ひょっとして烈がいるから言うのか?と想い覗きに行ったが竜馬しかいなかった 烈の怪我はどうなっただろう? 兵藤があれだけの怪我したのだ 無傷な訳はなかった 一生が烈を心配している時、烈は飛鳥井記念病院の上のマンションの一室に移り兵藤と共に生活していた 少し傷が治ると兵藤は烈と共に移動して、飛鳥井の会社で寝泊まりしていた その部屋は一般社員達からは目につかない場所にあり、お風呂や洗濯機など烈の為に入手し生活できる様にした 講習会が終わるまではそうして乗り切るつもりだった 兵藤は竜馬と共に烈と行動を共にしていた 講習会にも参加していた だが康太から一生が行くから消えろ!と指示が出ると引っ込んで知らん顔して過ごした 兵藤は寝る前に烈と話した 烈は暇さえあればPCを操作して仕事をしていた 「なぁ、烈、お前…一生の事許せねぇか?」と問い掛けた 「かじゅ?べつに、にゃんともおもってにゃいのよ!」と答えた 「え?無視されてたんだ、良い気はしてねぇだろ?」 と問い掛けた 「あれはね、かじゅはね、ぼくのめがこわかったのよ かじゅはね、かあしゃんのめはすきにゃのよ れもね、ぼくのめはこわがっていたのよ そりゃそうよね、にぶるへいむのめだもん ほかとはちがう、とくべつせいらからね こわくてあたりまえにゃのよ!」 兵藤は「俺はお前の瞳怖くねぇぞ!」と言う 「ひとみじゃにゃいのよ、め にゃのよ!」 「眼?お前の眼は綺麗だよ ニブルヘイムから貰ったと知れば、その蒼く輝く光はそうだったんだと想えるけど、怖くなんかねぇぞ!」 「それはね、ひょーろーきゅんはつよいからよ ひとはね、そこまでつよくにゃいのよ らから、ぼくの……みすかすひとみがこわいとおもうひともいる! そんなひとには、ぼくはきゃりをとるの これはね、りくつではわからにゃいからね」 「でもおめぇ……あからさまに一生に無視された事あるじゃねぇかよ 兄弟達と一緒に話せば確実にお前はスルーされる あれは怒ってないのかよ?」 「おこって、なにかがかわる? なにもかわらにゃいのよ なにもかわにゃい、ぼくは……それにぜつぼうしてふくしゅうしようと……したときもあるけどね それしかぼくは…じぶんをころせなかったから……… ぼくはよわいよ、ひりきで…あいするひとひとりまもれにゃい、いくじなしにゃのよ なにかをきたいきて、うらぎられるなら…… おこるどりょくをしたくにゃいのよ おこるだけむだだから…… おこってもなにもかわらにゃいのしってるから……」 「そんな哀しい事を謂うなよ! 嫌だと想えば言えよ!」 兵藤が言うと烈は首を振った 「ひとにすきになってもらうのは、むずかしいのよ すかれたきおくにゃいからね……わからにゃいのよ」 そう言った その言葉が哀しくて哀しくて、兵藤は泣いた 「一生も慎一もきっと今頃悔やんでるんだろうな」 「なにもかわらにゃいのよ これからも、ほくは、ぼくのみちをいくだけ かじゅはにーに、いや、りゅーせーだけみてるから、それでいいにょよ! にーにたちも、それはしってるのよ」 子ども達は案外よく見ててシビアなのだ それでも謂うしかなかった 「許してやれ!」と。 「べつに、きにもとめてにゃいのよ」 どうでも良いと謂われた様なモノだった 烈にとって他人とは自分を傷付ける行為しかしない存在なのだろう 「烈、俺が傍にいて迷惑か?」 「ひょーろーきゅん、うごいて! ひとで たらにゃいのよ!」 もう何時もの烈の笑顔で話しかける こうして苦しみも悲しみも全部押し込め生きて来たのだろう…… だから烈の想いが誰かに伝わる事はあまりないのかも知れない だから兵藤も話題を変えてやるのだ 「人手不足って講習会か?」 「ちがうにょよ! いべんとのほうにゃの! ひょーろーきゅんにはばぁたんとじぃたんまもって、ほちぃにょ!」 「おっ!イベントやるんだってな! 良いぞ、兵藤君に任せとけ!」 竜馬も交えて話をして煮詰めていく イベントには竜馬も烈の代わりに出ると謂うのだ 当然、祖父母との思い出作りをしたい烈もでるのだが…… 如何せん、爆風で飛ばされた時、兵藤に護られていた分、体の傷はあまりないが、顔の怪我は酷いのだ 皮膚の弱い烈はまた頭に包帯を巻いて、顔には至る所にバンドエイドを貼っていた 相賀、須賀、神野を交えて本番さながらにやるリハーサルに清四郎と真矢と隼人が参加して思い思いの案を出して、それに合わせて映像も手が加えられていく 今回はスケートリンクでのイベントだと言う事もあって、滑る練習もせねばならなかった 全員がふつからぬ様にして滑るってのは結構大変で、何度も何度も全員を入れてのリサーサルがされた それに伴い、服の色の指定かされて逝く 当日に剝けて着々とカタチが出来つつあった 真矢はリハーサルの場に烈がいないから「烈は?」と問い掛けると竜馬が「講習会は絶対に失敗出来ませんから、講習会に行って見張ってます!」と言った 真矢は「飛鳥井の講習会大金はたくんですものね、失敗出来ないものね」と納得した 1000万円掛けてやる講習会だと聞いた以上は完遂させねばならないのだろう、と清四郎も想った だがほんの数日前に一生が榊原の家を訪れて来たのだ 真矢と清四郎は一生から烈を蔑ろにして軽く扱ってしまったと一生に謝罪されたばかりだった それには真矢も気付いていて「一生には言ってないけど、康太には直して!と文句を言った事があるのよ!」と話してくれた 一生は唖然として真矢を見た 真矢は「烈は康太に託したと謂えど我が子なのです 蔑ろにしされるならば返してと言った事があります 康太は近いうちに総ての膿が出る事となるだろうから、そしてたら無自覚なアイツも現実を知る事となるだろ! だからそれまでは待ってくれ!と言ったのよ だから私達は溜飲を飲み込んだのです!」と吐き捨てた 清四郎も「君に言うのは気が引けるが、敢えて謂わせて貰う 君は私達の見てる前で兄達の話は聞くのに、烈が何か言った時スルーしてまるでそんなの聞いてない、とばかりの態度をしたね 兄弟達は気付いていて、そんな時は君を無視して烈を連れて何処かへ行く そんな光景を何度も見て来てたよ 烈が嫌いならばもう飛鳥井には置けない 宗右衛門だからとか関係なんだよ! 烈は私達の可愛い烈なんだ、蔑ろにされる場になど置きたくないんだよ!」も敢えて言った 一生は二人に深々と頭を下げた 「そんなつもりはなかった だけど現実は…俺は烈を蔑ろにしてしまっていた 俺は烈の眼が怖かったから、知らず知らずに距離を取ってしまっていた…… 烈は俺から話しかけなきゃ、絶対に話はしない そんなのは知っていました それを作ってしまったのは俺です」 と言い深々と頭を下げた 真矢は「烈の眼、匠も怖いと言ってましたね 康太は何時も烈の眼は特別製だからじゃないのか?と言ってましたが、私達は何が特別製なのかも解りません、だって私達には普通にしか見せないからです」と言った 清四郎も「そうだったね、匠も烈の眼が怖いって言っていたね…だけどそれがどうしたんだい?」と言った どこまで話しても答えは出ない不毛な話をしていた その時、真矢の携帯が鳴り響いた 電話に出ると竜馬で『平静を装って話をしてくれませんか?』と謂われた 真矢はそれを聞き届け 「あら?どうしたの?久しぶりじゃない!」と話し掛けた すると電話の向こうで烈の声で『ばぁたん』と呼ばれた 真矢は名を呼びそうになるけど、冷静に自分を律し 「何か用かしら?」と問い掛けた 『ばぁたん かじゅをせめちゃだめよ』と謂われた 「あら、どうして?」 『むいしきにゃのは、ちかたにゃいのよ』と言った 数日前に真矢は烈の滑舌の悪さが気になり康太に問い掛けた そしたら康太は全て話してくれた 舌が短い事や肌が赤ん坊並みに弱い事、治りが老人ばりに悪い事、総て妊娠中に栄養が行き渡らなかった事だと教えてくれた 真矢は何処かで解っていた 解っていたが問い掛ける勇気はなかった 「でもね、私は……」 『ばぁたん だいすきよ じぃたんも だいすきよ らから、ぼくのことでおこらないでほしいの ふたりには、じゅとわらっててほしにょのよ!』と言い電話は切られた 真矢は女優魂を貫き、一生に嫣然と笑って 「もう話はこれでお仕舞いです! 今後はこの話は致しません!」と告げた 清四郎も妻の言葉に何か感じて 「そうだね、もう話は終わりにしよう! 今後この話を君とする事はない!」と言った そして一生に「君が今回何かを感じて悔いているのならば、向き合いなさい! 君は康太に甘えて見過ごして来た事が多い、ならば今後はそんな作業をしてみるのも良いのかも知れない だけど絶対に自分を責めるんじゃないよ それでは何も始まらないのだから! だから自分を見つめ直す時間を作って考えると良い だが残念な事に飛鳥井は絶賛人手不足なのだから、考えてる暇なんて多分ないよ! 飛鳥井の家を上げてイベントに協力してくれるそうだからね、忙しくなるよ!」と言った 真矢も「一生、前を見てイベントを成功させましょうね!」と言った 話は終わりだと謂われたも同然で、一生は榊原の家を後にした 真矢は息子に電話を入れ 「一生が来てました!」と伝えた 『一生は今自責の念に駆り立てられ、自分を追い詰めてるんです』 「私達もね追い詰めようとしてしまったの だけど、烈から責めるなと電話があったのよ だからねもう今後一切一生を責める事は止めるわ それが烈の望みなんですもの!」 『母さん、辛い事をさせてしまいましたね』 「大丈夫よ、それよりもイベントよ!伊織 絶対に成功させるわよ!」 『当たり前じゃないですか!ではまた後で! 』 榊原はそう言い電話を切った 後になって考えてみれば、一生の想いも解るのだ だけどそれでも腹立たしいのだ 許せない想いならば沢山ある きっと烈は遥か昔から………こんな想いならば沢山して来たんだと想った だからこそ、言えるのだ………ずっと笑ってて欲しい…っと言えるのだ 真矢は烈を想い泣いていた 清四郎もそんな烈の想いが哀しくて…涙していた 兵藤は竜馬と共に講習会に顔を出していた 社員達は鬼が一人増えてますがな……と想った 兵藤は講師に伝え方が悪かったりすると英語でもっと解りやすく説明しろ!と抗議を入れた すると講師は早口な英語になり文句を言う それに対抗して兵藤も早口な英語で文句を言う 竜馬は中断した分をタイムウォッチで図り、ロスした分はキッチリ時間分講習をさせた! そして兵藤にもロスした分を「解りやすく説明して下さい!」と守銭奴バリの取り立てをしていた 兵藤は仕方なく皆に解りやすく解説するのだった 案外竜馬はセコくて容赦がない性格なんだと兵藤は想った まぁ気弱な奴じゃ政治家になんてなれないか 【R&R】のメンバーは皆、兵藤を気に入っていた 流石リーダーが大好きな『ひょーろーきゅん』だと想った 一生も精力的にイベントを手伝っていた だが烈は姿を現さなかった そんな中、一生はぶっ倒れて康太に少し休め!と謂われて、休む事にした 烈は慎一に電話を入れた 慎一は着信が烈だと解り慌てて電話に出た 『ちんいちくん、たのみがありゅにょよ』 第一声がそれだった 「何ですか?イベントの事ですか?」 『ちがうにょよ! かじゅ、よりそってあげて でにゃいとこわれちゃうのよ』と言った 「貴方は……一生が無視した時悔しくなかったのですか?」 『…ちんいちくん ぼくね、きたいしてにゃいのよ なにひとつも、きたいしてにゃいのよ らからね、べつにどうでもいいのよ! かじゅはぼくのめがこわかったのよ じぶんのすべてをみられそうで…こわかったのよ ぼくのめは、かあしゃんとはすこしちがう ぼくはやみをみぬき、ひとをみぬく そんなめだから! だからこわかったのかもとおもうにょよ!』 「烈……俺も貴方を軽視してしまった 怒ってませんか?」 『おこってにゃいよ おこりゅのはね、しんいちくん……あいてにきたいするからおこるんだよ ぼくはね、なにもきたいしてにゃいから、はらもたたにゃいし、きにもならにゃい おこるどりょくするほうが………しんどいからね」 慎一は言葉もなかった 相手に期待してないから腹も立たないし、気にならない……… 烈はきっとそうした苦しみの果てに生きてきたのだろう…… まるで昔の自分の様に……何一つ期待する事なく、絶望の果てに何も感じずにいようとした………自分を見ている様で……辛くて堪らなかった 烈はあの頃の自分だ 何一つ親に期待せず、何一つ望まず、それでも僅かに期待する自分の心に裏切られ……期待する事を放棄した…あの頃の自分だと想った そして絶望は深く自分の心を殺し……何も感じない自分になりたいと想った そして辿り着く想いは、怒る事さえしんどくて、施設へ行くのを勝手に決めて離れた自分だと想った 遣る瀬なくて刹那くて堪らない 『烈、傷はどうなりました? もう飛鳥井の家には帰らない気なんですか?」 『ぼく、ねらわれてるから、まだかえれにゃい それよりも、しんいちくん かじゅのことたのむね あのままだと、こわれちゃうのよ』 「解りました、君に変わって一生の事支えます!」 『しんいちくん、ぼくね、しんいちくんがうすめてくれるじゅーす すきよ! らから……くるしまにゃいで、ぼくはだいじょうぶらから! ごめんね……しんいちくん』 そう言い電話は切れた 烈はまだ6歳の子供だ その子供が怒る努力する方がしんどいなんて言わないで欲しい そしてそれを……言われせた自分が情けなかった 慎一は一生に「今何処にいる?」と連絡を入れた すると一生は体調を崩して部屋にいると言った 「少し話せませんか?」 『あぁ、構わない、何処で話す?』 「なら俺の部屋に来てくれ!」 『解った……』 電話を切ってそんなに時間を掛ける事なく慎一の部屋のドアがノックされた 慎一は一生を部屋に招き入れるとドアに鍵を掛けた 一生は「用があるんだろ?なんだよ?」とぶっきら棒に話した 「烈が一生に壊れてしまうから、寄り添ってやってくれと、電話をして来たんだよ」 「え?烈が?本人がか?」 「あぁ、これだ、着歴は」と言い着歴を見せた 「………烈、元気だったか?」 「どうなんでだろ?電話じゃ健康状態は解らないからな」 「烈…怒ってたか?」 慎一は一生に烈との会話を全部話した 『おこってにゃいよ おこりゅのはね、しんいちくん……あいてにきたいするからおこるんだよ ぼくはね、なにもきたいしてにゃいから、はらもたたにゃいし、きにもならにゃい おこるどりょくするほうが………しんどいからね」 と言っていたと伝えた 何一つ期待しない、絶望の果てに期待する事を諦めた……あの頃の自分の様に…… 烈は気にしてない、と言ったと伝えた 一生はその話を嗚咽を漏らして聞きていた 一族にイビられ蔑まれ妻と子まで奪略され絶望の果てに復讐の鬼と化し一族の破滅を願った聖神 暗い瞳は何もかも絶望して諦めていた そんな聖神を見て来たのに……… 自分は一体何をして来たんだろう…… 烈は聖神の転生者だと知ったのに……何処かで別のモノだと想おうとしていた 誰よりも傷つき蔑まれ、何一つ望みなど叶わず踏み躙られ生きて来た、聖神ならば……何一つも期待などしないと言うだろう 怒る努力する方がしんどい……と言うだろう 「慎一、俺は……烈が神だった頃を知ってるのに……何してたんだろうな………」 「俺達は今一度考えねばならないと想う 俺も烈は手の掛からない子だと放っておいた節があった だけど春先、知らないうちに家から出て貴史と共に熊本へ行ったと聞かされ、何故?って思いが強かった 何故勝手に出るんだ? 何故一言も言わずに熊本なんかへ行くんだ! そう想い腹さえ立てたんだ だが今なら解る……きっと熊本へ連れて行ってくれと言われたとしても、俺は後じゃいけないんですか?と言ってたと想う 俺は手がかからないから烈を何時も後回しにしてたって飛行機に乗ってる時に気付いたよ 俺は康太の執事でありたい そう思って家の事、家族の事、子供の事、康太に変わり滞りなくやってる気でいた だが蓋を開けてみれば、どうだ? 俺は烈を蔑ろにして何一つ言わせず家を出させてしまっていた 俺に言っても仕方ない 烈は俺に期待する方が無駄だと、期待する事を諦めたんだ そんな想いをさせたのは俺達なんだよ一生」 一生は静かに慎一の言う事を聞いていた 一生は「お前は……烈の眼、怖いと想った事はねぇのか?」と問い掛けた 「あの眼は怖いな……考えてる事全て見透かされているみたいで怖いと想った事はある 康太の眼とは違う、些細な機微さえ見透かされそうで怖かった だけど俺達はそれで烈を蔑ろにして良い訳じゃなかったんだと後悔している 飛鳥井宗右衛門を継ぐ者、その存在を飛鳥井の家にいる俺達が軽視していたんだからな 飛鳥井の一族である家族達はきっと腹を立てていたと思う 口には出さないが、感じていたんだろう」 「瑛太さんに宗右衛門は稀代の真贋と同レベルの扱いをせねばならぬ存在だと謂われたよ  総代や次代の真贋よりも上だと謂われた だが、それは飛鳥井の一族間の事だから俺には該当はしないと、言われたよ」 「俺等二人はもう烈の信頼は得られはしないだろう だが俺達は飛鳥井から出て生きられるのか? 康太の傍から離れて生きられるのか? ならば向き合うしかないんだよ!一生」 「向き合おうにも……烈が今何処にいるさえ解らねぇ 康太は何も言わない、だが烈の事を聞こうとすると、凄い冷たい眼で俺を見るんだ……」 「烈は今はまだ還れない、と言った ならば還ってくるんだよ烈は! その時俺等はどうするか考えねばならないと想う」 「烈はもう俺を見ねぇだろ 少し前からそうだった」 「ならば向いてもらえるように態度で示せば良い 向き直ろう、還って来た烈と正面切って向き直ろう 烈は全てに絶望して怒ることさえ、しんどいと想ってた昔の俺だよ 俺は自分の過去を見せつけられているのか?と想った程だった 何も感じない、感じたくない そんな想いが烈から感情すら奪い諦めさせた 諦めて何も感じない……… 烈は何とも思ってないと言った 怒ってもしんどいだけだと言った」 悲しすぎた 自分達が幼かった時に味わった想いだ きっと康太がいなきゃ、自分はそのまま生きて来たのだと想う 烈の様に全て諦めて、何一つ期待せず………感情を殺し 己を殺し……総てを心に押し込めて生きていただろう 烈は康太を得られなかった俺達なのだと想った 一生は悔いる想いを飲み込んで 「イベント成功させような! 烈が祖父母と作る想い出を護ろうな!」と言った 「そうだな、レイと凛と椋は何処にいるんだろ? 烈は何処で過ごしているんだろう…… コートとか置いてあるんだよ、寒くないのかな?」 「イベントで逢ったら着せてやろうぜ! だから車に積んどこうぜ!」 ぞ分を奮い立たせて踏ん張る それしか烈に報いる明日を築けないから…… レイと凛の椋は菩提寺にいた 総結界張った中で過ごしていた その間に竜胆に技と力と剣術を叩き込まれて、三通夜の儀式も成功させた そしてレイは毎日、烈に創世記の泉から汲み上げた水を運ばせて飲ませていた レイは転生する時に創造神により、聖神に渡した眼よりも性能の良い眼を授けて貰っていた 創世記の神であるニヴルヘイムが軸となるのを見据えて、完全な光の力と闇の調和の力をより高性能に扱え浄化出来る様に変えて転生させていた それて生まれたのがレイだった 免疫の低い烈の為にレイは毎日毎日、その力を使い創世記の泉の水を飲ませる 烈の弱くて脆い皮膚が少しでも浄化され強くなる様に願い汲み上げた水を、康太に頼み差し入れさせた 烈は毎日その水を飲み、免疫を高めて、少しだけ………ほんの少しだけ元気になった 烈が飛鳥井の家から消えて少し経って、流生からメールが来た 『烈、こんな事頼めないけど、一生を許してあげてくれないかな? 他の兄弟はずっと怒って一生と口も聞かないの このままじゃ壊れちゃうのよお願い』 兄の頼みだから烈は一生の事を慎一に連絡をして支えくれる様頼んだのだった 兄弟達も一生の態度には想う事が有ったのだろう… 大切な弟が蔑ろにされる扱いをされたのだ、怒らぬ訳にはいかない だが流生は一生が自分を責めて追い詰められて逝く姿に黙ってはいられなかっのだ 本当なら烈にこんな事を頼んじゃ駄目だって解っていた 目の前で完璧に烈をスルーする一生に怒りも覚えた 何故?って想いが強くて、どうしだら良いか解らなくて、動けなかった そうしてる間にまた烈は傷付き家から離れた 烈……烈を想えばこんな事は頼んじゃいけないって解っている だけど……目の前の一生が毎日萎れて覇気をなくして行くのは堪えられなかったのだ 烈からメールの返信はなかった なかったが……一生が自分を立て直し前を向いている姿を見れば、烈が何とかしてくれたんだって流生は想った 一生はイベントに心血注いでいた 慎一も真矢と清四郎をサポートして頑張っていた 飛鳥井の講習会 最終日 頭に包帯を巻いて顔中絆創膏を貼った烈が宗右衛門の着物を着て姿を現した この日烈の講習会だと一生も慎一も聞いて、烈を待っていた 烈の横には満身創痍の兵藤と竜馬が共にいた 飛鳥井の一番大きい会議室に畳を運び込ませ、そこへ文机を運び込ませ一時間は写経をやる この日は講師も全員勢揃いして写経をしていた 烈は文机に正座して墨を摺り筆を持ち写経を達筆な字で書いていた 康太と榊原もこの日は参加していた そして何と会長も社長も参加していた 流石 飛鳥井の一族!達筆な筆さばきで会長と社長が写経をする 皆は雑念を払拭して写経をした そして文机を仕舞うと次は座禅 警策(きょうさく、修行者の肩ないし背中を打つ棒)を手にしたのは会長の清隆だった 烈は笑って「じぃちゃ カッコいいにょ!」と喜んだ 社員達は『写経に座禅、これ必要なんてすかぁ~』と心の中で叫んていた だが坐禅を組んで目を瞑る 静かな空間で己の心は【無】になる すると総ての音が消えた、そして神経が研ぎ澄まされ、自然体になれていると想った 気を落ち着け、心を落ち着かせる為の講義だと社員達は想っていた ………が、かなり時間が経った頃、バシッと肩を叩く音が響いた後 「いたいにゃぁ〜」と烈の声がした 清隆は「精神統一出来てませんよ!」と言った 「かにぱん たべたくて……よどでたのよ」 烈が言うと皆が笑い、康太は清隆から警策を奪うと社員の肩をパシパシた叩いた 社員達は「真贋……セコいです!」と言った 康太は「皆 笑っていたやんか!」と言いバシバシ叩いていた もう皆が笑って和やかな雰囲気に突入してしまい座禅は終了となった これでで講習会の全日程が終了となった 康太は皆に「これで宗右衛門が開いた講習会の全日程が終了した! 皆 意識改革され変わったとオレは想う そんはお前達の中から宮瀬建設に研修に出る者と、南雲建設り建設に研修に行く者を選抜して選んだ 新年早々、選ばれた奴は研修先で3ヶ月間頑張って戦力となり鍛え上げられてくれ! そして今回、城田、おめぇは南雲建設で研修に出すが、それは南雲建設たっての要望で出す事となった 南雲建設にお前が持つ総ての知識を教えてやってくれ! あの記者会見を施工した者を、とのたっての希望だからな、頼むな城田!」と来年早々研修に3ヶ月間行く者を伝えた 宗右衛門は「遺る者は研修に行った者に遅れを取る事なく働いてくれ! お前達はそれが出来ると儂は真贋と話して決めたのじゃからな! そして今回研修に行かなかったとしても、この先自分の番は必ずやって来る! その時、飛鳥井の社員である事を恥じぬ仕事をするのじゃ! それが飛鳥井建設だと、狼煙を上げるのじや!」と社員に発破を掛ける 社員達はもう自信のない者達ではない! 講習会で叩き込まれ、一人の落語者もなく研修を終えた社員なのだ! 康太や榊原と烈は落語者を出すのは仕方ないと想っていた だが誰一人遅れを取る事なく講習会を終えれたのだ! 宗右衛門は声高らかに 「飛鳥井が誇る精鋭達よ! 我等はこの先の1000年続く果てへと逝かねばならぬ! 儂らはそれが出来ると信じておる!」と告げた 社員達はその言葉を胸に刻み! 講習会は幕を閉じた 講習会を終えた烈は腹減りで食堂へと向かっていた 清隆や瑛太も烈と共に食堂へと向う 社員達も食堂へと向かい、烈にカニパンの差し入れをした 烈はテーブルに山のようになった差し入れのカニパンに瞳を輝かせて 「ありがとうにゃのよ!」と礼を言った 城田は「その傷酷いっすね!」と問い掛けた 烈は笑って「ひょーろーきゅんがまもってくれたから、それでもかるいにょよ!」と言った そして横にいる兵藤を見て あぁ〜!烈よりも酷い人、此処にいたわ!と想った 兵藤は腕にも頭にも包帯巻き放題だった 一斉に集まる社員の瞳に兵藤は「うるせぇよ!烈!」と怒った 烈は笑っていた 竜馬も清隆も瑛太も社員達も笑っていた 一生は烈に近付き、深々と頭を下げた 烈は「かじゅ、うすめたりんごじゅーすよ!」と言った 一生は食堂のおばちゃんに「リンゴジュースありますか?」と問い掛けた おばちゃんは烈の為にコップに半分のリンゴジュースを一生に渡した 慎一がミネラルウォーターで薄めて烈に渡した   烈は笑ってそれを受け取って 「かじゅもしんいちくんもたべるのよ!」と言った まるで何もなかった様に接する 兵藤は一生を見た 一生は窶れてどれだけ悔いたのよ?って感じだった 一生と慎一はおばちゃんに定食を頼み食べ始めた 烈は「いちにち、にこでしょ?しょうみきげん、らいじょうぶかな?」とカニパンの心配をしていた 榊原が裏の賞味期限を確かめて 「大丈夫です、烈 カニパンは賞味期限が長いですからね!」と言った 「やったぁ、とうしゃん うれしいのよ」 烈が言うと榊原は立ち上がり 「皆 烈の好きなカニパンをありがとう! 当分は買わなくても大丈夫なので助かります」と笑って言った 烈は「しんいちくん ふくろにいれてね」と伝えた 兵藤は烈の想いを汲み取り、何もなかった事にしてやるにした 烈は定食を食べるとうとうとし始めた 竜馬が起こして食べさせるが、眠気に勝てなくて、テーブルに突っ伏して寝始めた 竜馬はバッグにカニパンを総て入れると、烈を背負い 「今回は一人の落語者も出さず講習を終えられて、良かったです! 本当に飛鳥井の社員達は喰らいついて来る気迫が凄くて、教えられて本当に良かったです 宗右衛門がこれから一年分の報酬 1000万を掛けて開いた甲斐がありました! また機会がありましたら、よりクオリティーの高い講習が開けるんじゃないかって想っています! 皆様 お疲れ様でした! 烈はお子様で今は怪我をしているので、此処で帰らさせて戴きます!」 とお辞儀をして竜馬は兵藤と共に還って行った 一生は烈を見送り「烈はまだ飛鳥井の家に還れねぇのかよ?」と問い掛けた 康太は「命を狙われているからな……」と言った 社員達はギョッとした顔をして、真贋を見た 康太は仕方なく烈が狙われていると話した 狙われているから家には還れないし、学校にも通えてないと言った 社員達は言葉を失っていた 康太は「だが心配するな!我等は負けたりしねぇ! ぜってぇにな、烈を死なせたりなんかしねぇ! 宗右衛門は絶対的な存在だかんな! 宗右衛門を欠いて飛鳥井は成りて立たねぇ! あ、皆 24日のBBSでやる【R&R】のイベントがテレビでやるらしいから見てやってくれ!」と言った 社員達は是非見ます!と言ってくれ、食事を終えると還って行った 康太は兵藤同様 烈がなかった事にするのなら、なかった事にしてやった 清隆も瑛太も同じ気持ちだった

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