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その言葉の、意味
そして迎えた、入浴タイム。
「お風呂は、えっと...どうする?」
ソファーでまたゴロゴロと寝転んでいたら、聞かれた。
つーか、木内よ。
...何故そこで、赤くなる?
でもまぁよくあるご都合主義な『体入れ替わりモノ』とは事なり、幸か不幸か俺らは男同士な訳で。
だからお互いの裸を見たところで、鼻血を垂れ流して風呂場でぶっ倒れるなんていう、ラブコメ的な展開を心配する必要もない。
「木内、先に入ってくれていいよ。
あと、『ルール③』適用で、いんじゃね?
ドラマとか映画みたいに、目隠しして洗いっこするとか...想像するだけでおぞましいわっ!」
自身の体を抱き締めるみたいにして、ちょっとふざけてブルブルと震えてみせた。
すると木内は俯き、いつもより少し低い声で言った。
「...おぞましいって、酷いな。
でも確かに今はこれ、俺の体だしね。
...俺の好きに、させて貰うから。」
木内が身に纏う、雰囲気が変わる。
圧倒的な、威圧感と存在感。
さっきまでの比じゃないくらい駄々漏れな、色気。
見せ付けるみたいに自分で自分の首筋を撫でる仕草も、めっちゃ卑猥で...って、俺の体で遊んでんじゃねぇよっ!
「はぁっ!?
なんで体洗うだけで、そんな無駄にエロ臭い言い方するんだよっ!
とっとと入ってこい、木内っ!」
読んでいた漫画本を、勿論当たらないようにではあるけれどヤツに向かって投げ付けた。
すると木内はこちらを睨み付け、怒鳴った。
「大悟っ!
危ないなぁ、何するんだよっ!」
初めて聞く、怒声。
完全にぶちギレているらしいその表情に驚き、戸惑った。
「ごめん。
...でもちゃんと、当たらないように投げたじゃん。」
小さくなる、声。
すると木内は駆け寄り、俺の事を強く抱き締めて言ったんだ。
「大悟の体に傷がついたら、どうするの?
元に戻った後の俺の体だったら、いくらでも傷付けてくれて構わないから。
...だから俺達の体が入れ替わってる間は二度と、ああいう事しないで。」
意味が、分からなかった。
でもその意味を確認するのは危険だと本能的に感じ取り、俺は抱き締められたまままた、ただごめんとだけ呟いた。
「ん...。いい子だね、大悟。
俺の方こそ、怒鳴ってごめんね。
お風呂、入ってくる。」
にへらと笑うその顔は、いつものチャラくてアホっぽい木内に戻っていて。
それを見て、ちょっと...というか、かなりホッとした。
だから無意識の内に、叱られたばかりの小さなガキみたくヤツの背中に腕を回し、抱き付いた。
すると木内は何故かめっちゃ動揺して、相当慌てた様子で俺の体を引っぺがした。
「おい...随分な態度じゃねぇか。
先に抱き締めて来たの、お前の方だろうがっ!」
途端に恥ずかしくなり、叫んだ。
すると木内はさっき以上に真っ赤になって、しどろもどろになりながら叫び返した。
「仕方ないだろ、ま...まさか大悟がハグを返してくれるとかっ!
...あぁもう、ホント勘弁してよ。
何これ、新手の嫌がらせ?嫌がらせなの?」
口元を軽く手で押さえながら、ぶつくさと不満の言葉を口にする木内。
「嫌がらせじゃねぇわ、アホ木内っ!
とっとと風呂、入ってこいっ!」
俺の罵声を受け、ヤツはなんかフラフラしながら浴室へと向かった。
コイツが風呂から出てきたのは、およそ一時間後。
男の癖に長風呂だな、なんて呑気に思っていたんだけれど。
...これが更なる悪夢の始まりだなんて、この時の俺は微塵も考えていなかった。
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