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第6話 醜聞 (スキャンダル)

一ヶ月 ひたすら心血注ぎ込み 小説を書いた 「終わった」 野坂は心底安堵する様に呟いた 恋すれど 青臭い青春を投影した 主人公は女になってるが野坂の片思いを書いた作品だった 脇坂は嬉しそうな顔を覗かせて 「書き上げましたか?」 と問い掛けた 「脇坂ありがとう」 「僕は編集者ですので礼は要りません」 「これが書けたのは脇坂のお陰だ」 「この原稿を編集長へと渡します 送って行きます お疲れ様でした 一ヶ月ふりに自宅へ送ります」 あ……… 居心地よくて忘れていた 此処は脇坂の自宅で…… 約束は作品を書き終えるまで だった 現実が突き付けられる 作品を書き終えたら…… 何か変わるかも…… と想っていた 脇坂は野坂の荷物を持つと、野坂と共に部屋を出た 先に野坂の家へと送り、脇坂は会社に帰って行った ………脇坂…… この作品は俺からのラブレターだ 受け取ってくれるか? 脇坂…… お前の傍にいないだけで…… 俺はこんなにも頼りない奴になっちまった…… お前の傍にいられる夢を見た あんまり日々が幸せすぎて‥‥‥ 終わる日が来るなんて想わなかった 作品を書き終えれば‥‥ 現実に戻る 解っていたけど‥‥夢を見てしまったのだ 和坂篤美の『恋すれど』は発売と同時に爆発的に売れた 刹那い想いが綴られた世界観に読んだ者は涙した 野坂は抱えた仕事を片づけるのに忙しくしていた 最近、脇坂が来ない それがイライラして…… 胸騒ぎが止まらなかった ひょっとして脇坂は担当者を下りるのか? 不安で仕方がなかった 胸騒ぎは命中する 脇坂はいつの間にか……… 担当を………変わっていた 予感はあった ひょっとして?と想ってはいた 想ってはいたが‥‥野坂はその現実に泣いた 解っていたのだ 脇坂と結ばれる日なんて来ない‥‥と‥‥ だけど傍にいてくれた日々が野坂を苛んで放さなかった 「面倒見てくれるって言ったんじゃねぇのかよ!嘘つき!」 野坂は脇坂の携帯に電話を入れた ………脇坂の携帯は…… 知らないうちに変わっていた 「………捨てられたのか……俺…」 いや、付き合ってもいなかったのだ 捨てられたなんて事にはならない 脇坂‥‥お前、何で俺を抱いたんだよ! お前なしじゃいられなくして‥‥ 何も言わず…… 一方的に……俺の前から消えやって! 腹が立つ! どこを見てもお前を思い出す 何をしててもお前を思い出す もう手に入らないのに‥‥ 傍にいてくれはしないのに‥‥ 野坂は携帯を取り出すと、引っ越し屋に電話を入れた 「くそ!」 荷物を纏めて………野坂はマンションを後にした 脇坂はイライラしていた 『この電話は現在使われておりません』 野坂へ電話を入れると流れるアナウンスだった 野坂はPCだけ持って行方をくらました 仕事はPCを通して片付けていた 「脇坂さん……野坂さん……消えました」 引き継いだ担当者にそう言われたのは…… 引き継いで一ヶ月もしない時だった 「……え?消えたって?」 「マンションも引き払ったみたいです…」 「マンション……引き払ったんですか?」 「携帯も解約しました……」 「携帯も………困りましたね」 「PCは持って行ってるみたいで、仕事はしてもらってますが……担当者は脇坂以外は書かない………言って、僕の話を聞いてはくれません」 「………困った人だ……」 「……脇坂さん……僕は……どうしたら良いのですか?」 「………野坂の担当者は僕が戻ります……」 「すみません……力不足でした」 野坂…… 君から逃げたかったのに…… 次の恋人が出来たら…… おめでとう……なんて祝福出来るかな…… 君の家の鍵を手に入れたら…… 押し掛けて行ってしまうから……自宅に連れて行った 野坂のいなくなった部屋は辛すぎて……辟易してた所だった 野坂の行方を捜していると、桜林時代の友、飛鳥井蒼太から電話があった 『君、野坂を探してましたよね?』 「ええ。探してました」 『野坂、次の直木賞濃厚なんでしょ?』 「………みたいですね」 『その直木賞濃厚作家様 狙われてますよ』 「……え?……」 『彼、ゲイでしょ? 昔の彼というのが、野坂が人気出たから近付くつもりです 直木賞ダメにする気らしいです 醜聞を捏造されて潰されたくなかったら、管理しろなさい!』 「それ確かな情報?」 『ええ、僕の弟からの忠告です』 飛鳥井蒼太の弟が何なのかは知らない‥‥ 何故弟が忠告してるのかも予想も付かない だが藁にも掴むと謂う想いは強く  「………野坂……今何処にいるか知ってますか?」と問い掛けた 蒼太は呆れた様な溜め息をつき 『……それ君の方が詳しくないですか?』とボヤいた 「………逃げられたんですよ……」 『……では今度は逃がさない様にしなさい! ホテルニューグランドにいるそうですよ?』 「ありがとう」 脇坂は電話を切ると編集長の所へと向かった 「編集長」 「なんだ?」 「野坂に直木賞、絶対に取らせるつもりです ですので、醜聞が上がったら握り潰して下さい!」 「………握り潰しせと?俺に?」 「2年前の貸しを返して下さい」 「………解った……」 脇坂は約束を取り付けると廊下を全速力で走り出した 駐車場へと向かい、車に乗り込んだ 野坂…… 君から逃げたのに…… 毎日毎日…… 君の事ばかり…… 忘れられなくて…… 君の作品を何度も何度も…… 読み返した これは君からの公開ラブレターなのでは? と想っていた でも……君の傍にいるのは辛かった だが……離れた方が辛くて…… 途方にくれてた…… 野坂‥‥君が新しい恋人を作るなら離れてあげると謂ったけど‥‥‥ 次など作らせない程に愛して離さなければ良かった‥‥‥ 後悔ばかりが募る あの日‥‥‥君の告白を見送ってしまったあの時から‥‥‥ ずっとずーっと後悔ばかりしてます そろそろ‥‥その後悔に決着を着けたかったのに‥‥‥ 脇坂は離せない想いを噛み締めた 野坂は祖母の所へと転がり込んでいた 毎日毎日…… 想うのは脇坂の事ばかり…… 捨てられたと確認するのが怖くて…… 担当者が変わったと聞いた時に…… 家も携帯も解約した 馬鹿げてる 解ってる…… 解ってるけど…… 二度も捨てられたくないのだ 1度は諦めた 忘れようと努力した 今度は…… 忘れられるか…… 自信がない 野坂は塞ぎ混んでいる自分を見て、祖母が心配してるのを痛感していた 野坂に遺された、唯一の身内であり家族だった そんな祖母を心配させたくなくて、野坂は外へと出掛けた 脇坂にフラれてから、誰かを‥‥求めてゲイの集まるバーに通ったりもした 一人で生きていくには寂しすぎて‥‥恋人を求めていた時があった 別れた恋人とも、そこで出会った 祖母の家から出て来た野坂は、気晴らしに行き付けのゲイが集まるバーへと行った バーの顔見知りが野坂に声をかける 恋人にはなれなくても飲み仲間にはなれると、結構バーでは顔見知りは多かった そんな野坂の前の……別れた筈の恋人が姿を現した 「久しぶり知輝」 野坂は驚いた顔で‥‥元恋人を見た 「ねぇ知輝……よりを戻さない?」 と突然、復縁を求められ、野坂は答えに窮していた 調子が良い と、想ったが……相手にせずにいると もうよりが戻った気で……誘って来た ホテルに行こうと誘われた ラブホでなくホテルニューグランドを予約したと言われた 待ってる と言われて…… 断りに行った 断り行った筈なのに…… ベッドに押し倒され……縛られた そこでやっと……迂闊な自分に気付いた 野坂は悲しげな顔で 「………何で…」と問い掛けた 元恋人は 「醜聞を作るんだよ 高く買い取ってくれるって彼が言ってた それで彼の借金を返す予定なんだ! 貴方、僕の為に何もしてくれなかったから……これ位してくれるよね?」と訴えた 言葉がなかった 元恋人がフェラしてくれるけど… 勃起しない 元恋人は焦れた様に性器を扱いだ 最近…… 性器よりもケツの穴を弄って貰わないとイケなくなっていた…… 体躯が…… 脇坂によって作り替えられた 「何で勃起しないんだよ!」 元恋人はインポ呼ばわりして悪態を着いた ケツの穴を弄って掻き回されないと勃起しないなんて… 笑えなかった 一人でオナニーした時…… 性器を扱いでもイケなかった ケツの穴に指を挿れたら勃起した その時……脇坂の指を思い出した 脇坂…… 脇坂……好きだから…挿れてぇ… イキたくなったら吐く台詞だった この事実に直面して野坂は‥‥タチでさえいられない事を痛感した 「ねぇインポになったの? エッチは壊滅的に下手だったけど……勃ったよね?」 エッチは壊滅的に下手……だったんだ…… 言われてみれば…… 脇坂のようなきめ細かい愛撫はしなかった 壊滅的に下手なのに……勃起しなくなったら…… タチは無理だな ネコも…… こんな中肉中背の普通の、何の取り柄もない自分を抱こうとする奴なんていない 「……ホモって醜聞よりインポの方が良いか……」 元恋人はそう言った その時、ドアがノックされた 「ルームサービスをお持ちいたしました」 「……ルームサービスなんて頼んでないな…… 追い返して来てやる!」 元恋人はドアを開けて断ろうとした すると強引にドアが開けられ…… あっという間に元恋人はホテルの警備員に捕獲されていた 取り押さえられた元恋人を蔑視した表情で脇坂が姿を現した 「野坂知輝さんを監禁したと警察に通報してやろうか? お前の恋人は東城社長の手によって拘束されている 野坂に今後関わらないと誓約書が取り交わされたら返してやる!」 脇坂の説明に元恋人は、チッと舌打ちをして 「……やっぱりツメが甘いんだアイツ…… 僕は無関係だよ! 元恋人とよりを戻さないか話してただけ! インポじゃ……相手にならないから帰るんだよ!離せ!」 と好き勝手謂って捕獲している警備員を押し退けた 元恋人は凄い剣幕で帰って行った 脇坂はベッドに縛られた野坂のロープを外し 「大丈夫ですか?」と問い掛けた 「何とか……」 「ホイホイ呼び出されるなよ!」 「……俺の担当者を辞めて……消えたお前に言う資格はない」 野坂は言い捨てた 脇坂は元恋人は吐き捨てた台詞を問い掛けた 「……お前……インポなの?」 「………だったら?」 「責任とるよ」 「………途中で投げ出して捨てるつもりだろ?」 「……え?……」 「もう良い……俺、もう書くの辞めるわ!」 「おい!何言ってるんですか!」 脇坂は物凄い剣幕で怒った 「………お前は面倒見てやるって言った なのに……お前は俺を途中で放り出した……」 「……野坂…」 「俺なんて……抱く気もなくなったんだろ? 元々モテるタイプじゃないわ 可愛くもないわ 華奢でもない そんな俺を好んで付き合おうって奴なんていないの知ってる…… 解ってるんだからさ…… 何の断りもなく……担当者変わらなくても良い 責任取れなんて言わねぇよ 好かれてねぇのは知ってるよ」 野坂は泣きながら訴えた 脇坂は胸が痛んだ 違うのに…… 「……少し話しをしませんか? この部屋は盗聴されてるかも知れません 帰りますよ」 脇坂は野坂に服を着せて立たせると、ホテルの従業員を呼んだ 「盗聴器、ある筈です探して下さい」 ホテルの従業員は「解りました!」と挨拶して、その道のプロを部屋に入れた 「部屋の支払いはどうなってます?」 「…………支払われていません」 「解りました 帰るときに精算して帰ります」 「宜しくお願いします」 「野坂、帰りますよ 歩けますか?」 野坂を気遣い声を掛けた 野坂は立ち上がり歩き始めた ショックじゃない訳じゃない 元恋人にハメられるなんて……考えてもいなかったし…… 壊滅的に下手だったなんて言われたら…… もう……誰も愛せないと想った 脇坂は野坂の腕を掴むと、逃げない様に力を込めた 今逃がしたら…… 永遠に……野坂は近寄って来ないだろう…… 「野坂、清算をして帰りますよ」 野坂は頷いた みっともない所を見られた ガキの様に姿を消し…駄々をこねた 呆れてるだろう…… 野坂は脇坂と共に歩くだけで精一杯だった 脇坂はフロントで清算してる時も、野坂を掴んで離さなかった 清算を終えると、脇坂は駐車場へと向かった 野坂を助手席に乗せると、脇坂は運転席に乗り込んだ 「君……今、何処に住んでるの?」 新しい恋人が出来たから……マンションを引き払ったのかと想った 「……保土ヶ谷のばぁちゃんち……」 「……え?……」 意外な言葉に……脇坂は驚いた 「マンション引き払って……」 「ばぁちゃんちに行った」 「……恋人は?」 「いねぇよ! ………お前さ……俺の体躯を作り替えて…… タチでさえいられなくして…… もう……恋人なんて無理だろ? 俺みたいな奴……無理だ 元恋人も壊滅的に下手って言ったしな…… 生きてるのが……こんなに辛いなんて想わなかった……」 「…野坂……」 「………俺……母親が不倫して出来た子供なんだ…」 「………え……」 脇坂は野坂を見た 野坂は前を見て話しをしていた 「物心つく頃からさ……兄達と俺との差が……激しくてな 母親や家族は……俺を見ねぇんだ 父親は俺の存在が許せねぇ……みてぇで……出てけ……そればっかし その頃…家庭教師から手を出されてた その家庭教師……母さんとも犯ってた 最低の奴でさ……母さん……俺と家庭教師と犯ってるの見て逆上した 俺……母親に刺されたんだ 父親は厄介払いに出来たとばかりに俺を学校の寮に入れた…… 俺は……誰も信用しちゃいなかった 学校でも誰とも関わるつもりはなかった なのに…… お前が話し掛けて来たから…… お前の横が居心地良すぎて…… 夢を見た 今回もそうだ 俺には……分不相応な夢を見た それだけだ……」 野坂は自嘲した笑いを漏らした 野坂の瞳は何も映してはいなかった 諦めて…… 何も映さない瞳をしていた 脇坂は自分のマンションの駐車場に車を停めると、運転席から下りた 助手席のドアを開けて、野坂を車から下ろした 野坂の手は震えていた 脇坂はそんな野坂の手を掴みマンションの中へ入って行った 「……脇坂……痛い……」 「逃げませんか?」 「………逃げねぇよ お前は追わないだろ?」 逃げたら終わる 脇坂は逃げる人間を絶対に追わないから…… 「………う~ん……君に関しては……追い掛けるかも知れません 君の担当者、僕ですから」 野坂は驚いた顔を脇坂に向けた 「………担当者……変わったよな?」 「任せた編集者の元から消えたら……編集は自信をなくしますよね? 今にも自殺しそうな顔してたので、僕が戻りました」 「……お前……俺を捨てる気だったろ? 俺……小説書くの辞めるわ……」 「……君……本気で言ってます?」 「あぁ……そしたら脇坂とは接点がなくなる……」 「それで良いんですか?」 冷めた瞳で野坂を見ると…… 野坂は怒りの瞳を脇坂に向けた 「俺といるのが厭なら言えよ! ある日突然…何も告げずに担当者を変えて? 俺が何も想わないと想ったのか!」 野坂は泣いていた 親にすら愛されない子が……… 見果てぬ夢を見た それだけだ 分不相応な夢を見た その夢が醒めるのが怖かった 脇坂へ……… 想いの丈を綴ったラブレターを書いた その後に担当者が変われば…… 野坂の心が打ちのめされたのは当たり前だった 脇坂は野坂をそっと抱き締めた 「離せ!」 野坂は抗った その抗いを腕の中で封じ込め、強く抱き締めた 「………僕は君に次の恋人が出来るまで………と言いましたね 言った癖に……君に次の恋人が出来るのを……見るのが嫌でした ならば……最後に君と過ごした時間だけ作ろうと想いました 君の全部が欲しかった 君の全部を自分のモノにしてしまいたかった 僕は……恋人を甘やかし過ぎるのです ですから……皆……怖がって逃げて行きます 僕がいなくなったら生活出来ない…… それ程に……恋人をダメにしてしまうそうです 僕の腕の中にいる君は……可愛かったです ですが……僕といると狂います ですから離れた方が身のためです 僕が君を壊す…… そんなのは自分で許せません!」 「……脇坂……もういい‥‥」 怯えた瞳を…… 脇坂は野坂に向けた 傷付いた子供みたいな瞳だった 「僕の話は何も聞く気はないのですか?」 何を聞けと謂うのだ?今更‥‥ 「僕の総てを話します 君も話してくれたので、僕も話さねば、不公平ですからね」 「脇坂‥‥」 脇坂は野坂の瞳を射抜いた その瞳は決して嘘偽りなく、真実を物語っていた 「僕の結婚生活は短く‥‥直ぐに破綻が来ました 僕はどうやら一緒に過ごしている者を狂わせてしまうみたいです」 幸せな結婚生活を送っていたんじゃないのか? 野坂は信じられない瞳を脇坂に送った 「‥‥僕の妻だった人は常に僕の浮気を疑りました 疑るだけならまだマシでした そのうち妻は夫のストーカーと化して、猜疑心を膨らませて行ったのです その頃、僕は少女漫画の担当者をしてました 担当した漫画家は僕を作中の王子か何かだと信じて、僕に付きまといました 僕は‥‥‥担当した漫画家からも妻からもストーカーされていたのです」 言葉もなかった 脇坂の苦悩が解るから胸が痛かった 「追い詰められた妻は僕と無理心中するもりで、帰宅した僕に刃物を突き付けて追いかけ回しました 逃げる僕の背中を切りつけて‥‥‥ 妻は、自分の手首を切り自殺を図りました 僕は遠退く意識の中で‥‥両親に助けを求めました 救急車に助けを求めました 両親は駆け付けてくれ僕を助けてくれました ……僕の背中には…… 切り付けられた傷がある…… 僕と寝てる君なら知ってますよね?」 脇坂は最初は服は脱がなかった だが、何時の頃からか…… 全部服を脱いで…… 互いの熱を感じ合いセックスする様になった その時……脇坂の背中の傷は何度も見た 「この背中の傷は……妻だった女に……付けられた傷です」 「………え?……」 妻だった女に…… 脇坂が結婚したのは知っていた 「………結婚している間は僕は貞淑な夫だった 妻だけを愛して……日々を過ごしていた だけど僕の愛は……人を狂わすのです 付き合った恋人は皆、僕から最終的には逃げました 僕も妻も助かりました そして妻が出した結論は離婚でした…… 僕が出した結論は……移動でした 今の編集長が小説部門に行く事になって……引き上げて貰いました 編集長は何時も負い目を感じていました その貸しも今回の事でご破算になりました」 脇坂は何もかも吹っ切れて…… 清々しい顔をしていた 壮絶な結婚生活だったんだと伺えた 脇坂は幸せに生活してるんだとばかり想っていた 違ったんだ なのに脇坂は優しさを忘れていなかった 高校時代の日々と変わらぬ優しい脇坂だった 「………脇坂……」 「そんな辛い日々…… 僕は何時も君を想い出しました 野坂は何やってるのかな? 小説家になれたのかな…… 野坂が小説家になるとしたら、編集者の方が出会う確率は大きい… そう考えて編集者になりました そして何時か君の担当になって…… 何時か……君を……この部屋に招き入れて…… 作品を書いて貰おう そんな事を考えて……離婚した時に……この部屋を作りました この部屋は……君の為だけに作った部屋なんです その部屋に君を招き入れた 日々……僕と生きてくれる君と過ごす時間は…… 夢のようで……醒めるのが怖かったです」 脇坂は野坂の頬に手を当てた 「君を甘やかして…… 僕だけしか見えなくさせたら……どうなるのか知りたくなりました 君は幾ら甘やかしても……君のままで…… 僕は……嬉しくなりました」 「勝手な事ばかり言ってんじゃねぇよ!」 野坂は怒っていた 「………本当に勝手な事ばかり…ごめんね……」 「……俺………不能と言われた」 脇坂は驚いた瞳を野坂に向けた 「……インポ……? 嘘ですよね? 君……少し早いですが…勃ってましたよね?」 「腹立つな! 俺の体躯を作り替えておきながら……」 「………野坂……」 「何だよ!」 「ひょっとして………君……」 「ひょっとしなくても、そうだよ! てめぇのせいだろ!」 脇坂は野坂を抱き締めた 「…嬉しい……」 「しかもな、自分の指でもダメなんだ お前の指じゃなきゃ……射精しねぇ……」 「嘘……」 「なら今見せてやろうか?」 「うん、見せて……」 「ならキスしやがれ!」 「キスしなかったら?」 「…………勃起もしねぇ……」 野坂はサクサク服を脱いだ 全裸になった野坂の股間は…… 大人しく慎ましく寝ていた 「……大人しいね」 脇坂は野坂の性器に触れた ビクンッと刺激に身を震わせるが……性器は大人しいままだった 「扱いて見せて……」 麻薬みたいな甘い囁き この声に脳髄まで犯され浸食された 野坂はソファーに座ると…… 自分の性器を扱き始めた 刺激を受けて性器は勃起していた …………が、射精はしなかった 「…脇坂……」 「何です?」 「手が疲れたし、擦りすぎて痛い……」 「……イケないんですか?」 「………そう言う体躯にしたのはてめぇだろ?」 「……ならこの一ヶ月…どうしてました?」 「もぉ、俺……このままで良いわ 性的な欲望なくても生きて行けるし…… もう俺は夢は見ねぇと決めたんだ 最後に少し恨み言言いたかっただけだ! 明日から編集者として接してくれよ」 「嫌です!」 キッパリ言われて…… 野坂の瞳から……涙が零れた 脇坂は野坂を抱き締めた 「この家で暮らして下さい もう離したくないのです」 「………え?……」 ポロポロ野坂は泣いていた 「物凄く遠回りしてしまいましたね 君からの公開ラブレターを受け取りました あれは……君と僕ですね」 脇坂が問い掛けると野坂は頷いた 「あんなに一途に思われていたのか…嬉しかったです だけど……次の恋人が出来るまでと言った手前… 君が次の恋人を作ったら終わりの関係でした 下手したら……この部屋に閉じこめてしまいそうで……… 僕は……君から離れるしかないと想っていました」 「責任とれよ」 「責任取ります 僕と結婚して下さい」 「……男同士で結婚は……無理だろ?」 「海外へ行って挙式を挙げましょう!」 「俺で良いなら……何でもする」 可愛い事をさらっと言ってのける野坂に…… 脇坂は立ち上がり、寝室へと引っ張って行った その部屋は初めて入る部屋だった 「………この部屋は?」 「僕の部屋です 君と……一線を画する為に入れませんでした でなきゃ……僕はこの部屋では生活出来なくなります…… それでなくても……君のいない部屋に戻りたくなくて…… 何日も留守にしてました」 嘘みたいな告白に……野坂の思考はショート寸前だった 「1ヶ月……禁欲生活だったので……止まりません」 脇坂は野坂をベッドに押し倒すと執拗な接吻をした 野坂の性器は勃起していた それを手で握ると……プルプル震えて……亀頭の先のお口を開いた 止め処なく出て来る先走りでテカテカ濡れていた 「……あっ……ぁん……あぁっ…」 野坂は喘いでいた 「この一ヶ月……ココ……触りましたか?」 野坂は寝室の電気を落とさなかった 燦々と明るい部屋の中で… 脇坂に脚を掴まれ……左右に開かれ ケツの穴を丸見えに見せて…… ココ……と指を指されていた 「……使ってねぇよ! 指挿れれば解るじゃねぇかよ!」 「僕だけですか?」 「脇坂だけだよ!そこに触るのは!」 野坂はヤケクソで怒鳴っていた 脇坂は色気もない告白に笑っていた 「じゃぁ、これからも僕にしか許してはいけませんよ?」 「………お前が逃げなきゃな!」 「………僕が逃げたら……誰かに触らせる気なの?」 「………玩具でも使う……」 「そう言う趣味なら、今度買ってあげます!」 「……ち……んんんっ………ぁ……」 違うと文句を付けようとした唇を接吻で封じた 執拗な接吻で蕩けさせ愛撫を施す 脇坂の愛撫に慣れた体躯が赤く艶めき……開いていく 乳首を執拗に吸うと、野坂は抗った 「……吸わないでくれ……」 「何でですか?」 「………ワイシャツに擦れると……勃起して困る……」 何ともまぁ……意外な言葉に…… 脇坂は大爆笑した 「……お腹が痛ぃ……野坂……セックスしてる最中だって自覚有ります?」 「あるよ!」 色気はない どんなに甘やかして…… 脇坂がいなきゃ生きて行けなくさせても…… 野坂は変わらない それが脇坂には嬉しかった 脇坂の愛撫に慣れた体躯が…… 脇坂に触られて歓喜する 現金なものだ 股間はビンビンに勃ちあがり……先走りで濡れていた 「…野坂、挿れる前に……味わいなさい この僕に禁欲生活を送らせたんですからね」 「………え?……」 野坂は訳が解らずにボーッとしていると目の前に…… 脇坂の肉棒が突き出された 「 舐めて味わって飲んで下さい」 太くて……長い…… 性器をペロペロ舐める 「……俺……下手くそ?」 「ちゃんと…気持ちいいですよ?」 フェラの練習しねぇとな 聞いて答えられるって余裕って事だよな…… 少し本気出してみるか…… 野坂はペニスを喉奥まで挿れて舐めた 吸ってエラを甘噛みして攻め始めた 余裕を見せてた脇坂も……余裕がなくなりつつあった 下手くそ? 何処がだよ 気を抜いたらイク…… 脇坂は野坂を押し倒すと俯せにして腰を突き出させた ゆっくり挿入すると…… 野坂は……射精した 「……ぁっ……あぁっ…ぁっ…ぁん……」 身を震わせてる野坂が可愛かった 野坂は不器用な奴だから……一つに集中すると脇目を振らない だから自分を知らないだけだ 中肉中背の見映えの良い容姿も体躯も持っていない……普通の野暮ったい男と言うコンプレックスを持っているが ガテン系の筋肉隆々のお兄さんの様なマッチョではない 太っている訳でもない 背も低くなく 顔も悪くはない 有名な作家に何処か似てるなと…最近想える程には整っていた 大人しくて 控えめで 脇坂の隣で何時も笑っていた野坂知輝、その人だった あの頃となにも変わる事なく存在している事こそ 奇跡のような存在だと、脇坂は野坂を強く抱き締めた

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