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第8話 歩み出す

野坂は脇坂のマンションで暮らし始めた 野坂のマネージメントは総て脇坂が受け持った 他社の編集者も野坂の事は、まずは脇坂に話しを持って行く様になっていた 野坂はあまり外出するタイプではなかった マンションのベランダに芝生をはってテーブルと椅子を置いた 脇坂のマンションのベランダはかなり広かった 天気の良い日は、野坂はそこで寝そべったりして過ごしていた 会社の帰りに花を買って帰る様になった ベランダに花を置くと、野坂はそれを育てて綺麗に咲かせていた 野坂の気が晴れればと想い、時々、鉢植えの花を買って帰っていた 食べたいモノはないか メールで聞く すると時々嬉しい返信が来るようになった 「今日、原稿あがったんだ お祝いして!飲みたい」 とメールが返って来る時は、脇坂はレストランを予約した 電話を掛けると、仕事していない時は直ぐに出てくれる 「脇坂?」 『マンションの下に下りておいで』 「解った今行く」 電話を切ると…… 顔を真っ赤にして走って来る野坂の姿がルームミラーに映る 脇坂はこの瞬間が好きだった 「待った?」 息を切らして脇坂に問い掛ける 「走って来なくても大丈夫なのに……」 脇坂は野坂の頬に手を当てた 「逢いたかったんだ 本当ならキスしたいの我慢してる」 野坂がそう言うと脇坂は優しく笑ってくれる 「家に帰ったら沢山してあげます」 「……脇坂……最近帰り遅いよな?」 「ええ。君の作品、 ドラマ化に映画化……の話が上がって来てます」 その対応で忙しいと脇坂は言った 「……そう言うの…脇坂に全部任せる……」 「そう言うと思って吟味しているんですよ」 「………でも……もう少し……一緒にいられる時間が欲しい」 恋人としての甘えた台詞だった 脇坂は少しだけ現実を口にした 「……君……直木賞取ったら…… もっと忙しくなると言う事は……眼中にはいんですか?」 「直木賞……取ったら生活変わるのか?」 「………君はどうしたいんですか?」 「作家だから直木賞は取りたいと想うよ でも直木賞取って……脇坂と別れなきゃいけないなら直木賞要らない…」 「……君……ベッドから出したくなくなる台詞言うのは危険です…」 「俺、今凄く幸せなんだ 俺、賢くないから…細かい事は脇坂がやってくれて管理してくれてるから助かってる でも……直木賞取った事によって……脇坂と離れなきゃいけない事態になるのは嫌なんだ」 野坂は、幾ら脇坂が甘やかしても溺れない 自分の信念を持って作品を書いている 甘えたい時はズブズブに甘やかしてやる でもそれに溺れる事がなく野坂は自分を持っていた 野坂と別れたら…… こんな風に愛せる恋人は見付からないだろう 「僕も君と離れなきゃならないのは嫌です」 「脇坂……もっと言って……」 「愛してます知輝」 「嬉しい……」 ニコッと笑う顔に心まで骨抜きにされた もうこれ以上の恋人なんて見付からない 夕飯を一緒に食べて、家に帰ったら一緒のベッドに潜り込んだ 「篤史……キスして…」 服を全部脱いだ野坂がキスを強請った 滅多と名前で呼ばないのに… 名前で呼ぶのは珍しかった 脇坂は野坂にキスした 「脇坂……直木賞取ったら…… 俺……此処に住めなくなるの?」 「……え?何で?」 逆に脇坂 が問い掛けた 「最近……お前がいない時インターフォンが頻繁に鳴る……」 「……この家に上げてませんよね?」 「そもそも俺は出ない……」 「………家に手伝いの者とか来て貰いますか?」 「………それは嫌…… 篤史が……俺の目の前で……誰かと話すの嫌……」 独占欲を見せられ脇坂は嬉しく思う 「直木賞取ったら更に忙しくなりませよ?」 「………取れないかも知れない」 「取れますよ……」 「俺は書ける場所と脇坂がいてくれれば何も要らない……」 遠くに行ってしまいそうな不安を払拭してくれる 「………映画化の制作発表……君は会見に立ち会えませんね…」 「………俺……生まれちゃいけない子供だからさ……」 脇坂は野坂をギロッと睨み付けた 「君が生まれたから……出逢えたんですよ?」 「………顔……見せてクレーム来ないなら見せる 全部……篤史が決めてくれて構わない」 「本当に君は可愛いですね」 「そんなの篤史しか言わない」 「そうですか?」 「………俺……モテた記憶ない……」 ……それは話し掛けるなオーラを出してるからだと気付かないのか? 脇坂は困った 「君は今僕の恋人なんだからモテなくて大丈夫です」 「………俺……木偶の坊じゃない?」 「………誰か言ったの?」 「………木偶の坊ってよく呼ばれたから……」 「もうお喋りは止めです」 脇坂は野坂に接吻をした それを合図に……セックスは再開された 野坂は俯せになりお尻を突き出した 「……ねぇ……指……挿れてくれよ……」 脇坂は野坂の背中に口吻を落とし、ローションを蕾目がけて垂らした 濡れた秘孔に脇坂は指を挿し込んだ 「……ぁ……あぁっ……気持ちいい……」 「すっかりネコになっちゃったね……」 「………篤史……もぅ良いから……来いよ……」 「バックから貫かれたい?」 「……ん……そのまま来て…」 脇坂は野坂の秘孔に肉棒を突き立てた そしてガシガシ腰を揺すった 野坂はシーツに顔を埋め…喘いでいた 「……奥……もっと奥に欲しい……」 「欲張りなお口だ……」 脇坂は野坂の腰を持つと、膝の上に座らせた 繋がったままそれをやられると……奥まで突き刺さって…… 野坂は……知らないうちに射精していた 「…本当に締まりのないお口ですね……」 脇坂はベッドの横のテーブルの引き出しからキラキラ光るリングを取り出した 「知輝、君の為に誂えたリングです」 「………や……指輪にしては大きい……」 「これは君のアソコに付けるんてす 君の締まりのないお口を少しは慎み深くする為のリングです」 脇坂はそう言い勃起した性器にリングをはめた 野坂のサイズで作られたリングは膨張した性器に……ピッタリで隙間はなかった 射精を迎えて膨張すると……尿道を圧迫される感じになるモノだった イケずに延々と弄られるのは……苦痛だった 感覚はイッて絶頂を迎えるが……射精は出来なかった それが続けば感覚は更に敏感になり痛みすら快感に変換される 「…篤史……篤史……リング外してぇ……」 「イッても良いですよ?」 「リングが食い込んでイケない……辛いよぉ……篤史……」 「仕方ないですね 僕は本当に君には甘いんですからね 知輝、一緒に……イキます……」 野坂の性器のリングを外すと……野坂は射精した 夥しい量の精液が溢れて…… 野坂の下腹部を濡らした 脇坂は野坂の最奥に熱い精液を放出した 「……ぁ……ぁぁ………んっ……」 イッた後、痙攣した様に野坂は体躯を震わせた 「辛い?」 脇坂が問いかけると、野坂は首をふった 「……もっと……欲しい…」 「少し休みましょう 知輝、凄く良かったです 君とする時間が本当に愛しいです」 「脇坂……俺も……お前との時間が愛しい……」 「………恋すれど……」 「……え?……」 「恋すれど……想いは募る…」 「脇坂……」 「愛じゃない 終わりのない恋だから…… 果てない想いを刻もう 恋すれど、君を想う心は変わらぬ 我 想いの総てを君に捧げん」 「………覚えていたのか?」 「………卒業アルバムにお前が刻んだ言葉だ…… 僕が忘れる筈ないでしょ? 今なら……君の思いに応えられます 僕の総てを君に……捧げます」 「………脇坂……」 「何度も僕に恋して下さい」 「……また惚れた……」 「その想いが尽きなきゃ良い 僕も君に何度でも恋します」 脇坂は野坂にキスをした 「何度でも君に恋します 恋すれど君を想う心は変わらぬ… あの頃の君ごと愛してます」 野坂の瞳から涙が零れて落ちた 脇坂はその涙に口吻た 「………好きだ脇坂…… 俺の命よりも大切だ…… お前に捨てられたら…俺は死のうと想う…… 俺を殺したくなかったから…… ずっと一緒にいてくれ……」 「……君……それ脅し?」 「脅迫……してもお前と一緒にいたい……」 脇坂は野坂を強く抱き締めた 「僕の愛に溺れない君は…… やはり恋……なんですね」 「……恋も愛も超越した想いだ!」 「もぉ……この子は……」 こんなに愛させてどうするんですか…… 二人は強く抱き合った 恋も愛も超越してしまった恋人の姿が……そこに在った 直木賞 受賞当日 野坂はホテルの一室にいた 部屋には報道関係者がいた 受賞の瞬間をリアルタイムで報道する為に候補者の家に報道関係者が待ち受けているのが慣例だった 野坂は、脇坂と暮らす家に報道関係者を入れたくないと言った あの部屋には誰も入れたくない……と言った だから脇坂はホテルを借りて、その瞬間を待っていた 本当なら……顔は出したくなかった だけど、脇坂が 『君が生まれて来た事は君の罪ではありません! 君が生きているのは君の罪ではありません! ですから息を潜めて暮らすのは止めましょう 君は君にしかなれない なら野坂知輝を見せれば良いんです』 そう言ってくれたから…… 顔を出す事に決めた 本当は……怖くて堪らない でも一歩ずつ進まなきゃ…… 脇坂に置いて行かれそうで…… 野坂は自分を卑しめるのを辞めた 生まれて来た事は君の罪ではありません…… 脇坂…… 俺……生まれて良かったって始めて想ったんだ 「緊張していますか?」 脇坂は野坂に声を掛けた 「……少し……でも穏やかな気持ちでいられるな ありがとう脇坂 君がいてくれたから迎えられた日だと俺は想う」 「野坂、君のペンネーム……次の出版の書籍から本名に変えます」 「………解った」 野坂は顔を赤くした 和坂篤美……脇坂に掛けたのは…見え見えだもんな 「………本名だと……あの人達が迷惑すると想ったんだ……」 「君は胸を張って野坂知輝でいれば良いのです! 他の事は総て僕がやってあげますから」 野坂は笑った 直木賞発表の電話が鳴り響くと、野坂が電話を取った 『和坂篤美先生で間違いないですか?』 「はい。」 『直木賞受賞おめでとうございます』 野坂は唖然として固まった 脇坂は残念の電話だと想い、何と声をかけようかと想っていた 「野坂先生、どうでした?」 問い掛けても魂が抜けた様な野坂に痺れを切らし脇坂は電話を奪った 「もしもし、お電話変わりました 結果はどうだったのですか?」 脇坂は問い掛けた 『今先生にお伝えしたのですが、返答がないのでどうしたものかと想っていました おめでとうございます、直木賞受賞致しました』 脇坂は「ありがとうございました」と言い電話を切った そして控えている記者に「受賞しました!」と告げた フラッシュがたかれ記者が野坂の写真を撮り始めた 「今の感想は?」 問い掛けられても野坂はボーッとして‥‥‥ 気絶する様に‥‥倒れた 脇坂は想像が着いたのか倒れる瞬間、野坂を支えた そしてソファーに寝させた 脇坂は詰め掛けた記者に 「すみません‥‥野坂先生は許容を越えて気絶しました」とお詫びした 記者達は皆、笑っていた 直木賞発表を受けて気絶した作家は初めてだった 脇坂は「後日、記者会見を開こうと想います」と言い、その日は帰って貰った 直木賞の受賞者が発表されワイドショーでは、その話が持ち切りとなった その中で発表を聞いて気絶した野坂先生の話は、皆をホッコリさせてくれた

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