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第11話 邂逅

日常生活も落ち着きを取り戻した頃 桜林学園の同窓会が行われた 野坂は出るのを嫌がったが、脇坂が野坂を引っ張って参加した 同窓会の参加者は野坂の参加に……唖然とした 「……だから出るの嫌だったのに……」 「気にするな」 脇坂は受け付けずに笑っていた 「…参加料の元は取ってやる!」 野坂はそう言い料理のやけ食いしていた 脇坂はその横で笑っていた 飛鳥井蒼太が脇坂の横に来て 「やっと坂道コンビはワンセットでの参加ですね」と笑った 学生時代、何時も脇坂の影に野坂がいたから…… そして今、脇坂の横で静かにやけ食いする野坂がいた 榊原笙も近付いて来て 「脇坂、久しぶり!」と声をかける 「君の顔は何時も見てるので……久しぶりな気がしません……」 ドラマ版 恋すれど の俳優は榊原笙だった 笙は脇坂の横にいる野坂に 「こんにちは野坂!」と声を掛けた 「………こんにちは……榊原君」 笙は大爆笑した 「脇坂!変わってない!」 蒼太も野坂に挨拶した 「野坂、久しぶり!」 「こんにちは!蒼太君」 蒼太も大爆笑だった 何時も脇坂の後ろにいる野坂に声を掛けると、今のように返答していたのだった 「……脇坂、俺……変な挨拶したか?」 野坂はボヤいた 「変とかじゃなく変わらないからですよ……」 「………高校時代と?」 「そうです。」 「……変えなきゃダメなのか?」 不安そうな顔をした野坂に、脇坂は「変えなくても大丈夫ですよ」と言ってやった 蒼太は「野坂、直木賞 受賞おめでとう」と祝の言葉を述べた 笙も「直木賞 受賞おめでとう」と祝の言葉を述べた 「ありがとう まさか……二人から……言って貰えるなんて想ってもいなかったから嬉しい」 野坂はニコッと昔と変わらぬ笑みを浮かべた 同窓会と二次会と終えて、脇坂のマンションで飲もうと、蒼太と笙が言い出し 脇坂はマンションまで二人を連れて帰った 野坂は眠そうな顔で車に乗っていた 「寝るなよ知輝!」 「……寝たい……」 「お前、締め切りあるだろ?」 「締め切りは破る為にある……」 「てめぇ!それを編集者である僕の前で言うのかよ!」 脇坂は怒って野坂を引っ張りながら、エレベーターに乗り込み、部屋へと連れて行く 蒼太と笙は二人の掛け合いに笑いながら着いて来ていた 野坂は部屋に入ると応接間に行き、ソファーの上で丸くなった 「野坂!締め切り!」 「やぶりゅ……」 野坂は眠りに落ちた……  「んとに!この子は!」 怒りながらもブランケットを掛ける辺りは…優しかった 脇坂はお酒の準備をした つまみとお酒と出して、飲み始めた 「何か脇坂の私生活初めて見た」 笙は辺りを見渡して、そう言った 脇坂の自宅は東京の白金にあった 大企業の社長宅とあって贅沢の限りを尽くした家だった 今住んでるマンションは機能的な生活空間があった そして適度に散らかっていて生活感もあった 「………散らかっているのは…… そこで寝てる奴が締め切り破って駄々こねてたからだ…」 脇坂は言い訳した 蒼太は「脇坂の部屋ってモデルルームばりの生活感がない所だと想ってました」と感想を述べた 「知輝が来るまではモデルルームみたいな空間でした  でも知輝が来た頃からモデルルームは消えました この子は、此処で過ごすから…散らかってます」 脇坂がそう言うと蒼太が 「玄関に近いのは応接間だからだろ?」 と笑った 脇坂が帰って来て一番に飛び付きたいから…… 部屋じゃなく応接間にいるんたと言っていた まさか蒼太に言い当てられるとは…… 「詳しいな」 脇坂が苦笑して言うと 「恋人が……何時も……それやってるからな……」 蒼太は照れくさそうに、そう言った 脇坂は惚気に苦笑して、もう一人の幸せ者に声をかけた 「そう言えば、笙んとこは二人目が生まれるって?」 「そう。二人目が産まれそうです」 「お前はまともに結婚 したか…」 「……僕の所は弟が、男と出来てしまいましたからね……」 「飛鳥井家 真贋……とだっけ?」 「詳しいですね脇坂?」 「……野坂と暮らす事が今後弊害にならない様に会社にも報告したんだよ そしたら社長が……真贋と親しくしてるらしくて…… 顔は見た事ないが……助け船出された 蒼太、彼に逢ったら礼を言っておいてくれ!」 脇坂らしくない言葉に…笙は不思議な顔をした 保身に走りそうな男が…… ゲイだと会社に告げたと言うのか… 「………お前……会社に告げたのか?」 「あぁ、同棲だと申し入れした 今後、スキャンダルになった時…護れないから…… 会社には事前に言っておいた」 その言葉で脇坂の本気を知る 笙は脇坂に写真を見せた 「この子が飛鳥井家真贋、飛鳥井康太 そして、その横にいるのが、僕の弟、榊原伊織」 脇坂は写真を見た 「笙、お前に似てないな」 「僕は母親、弟は父親」 言われてみれば成る程 榊 清四郎に似ている 「蒼太にも似てないな…」 「僕は母親に似てます 康太は父に似てると想います」 「………父親似って瑛太さんだと想ってた……」 「瑛兄は父さんにソックリです」 「………だとしたら父親似じゃないよ!」 脇坂が言うと蒼太が笑って 「…俺は…拾われて来た子だ! って昔、康太が泣いてました なので、そこは突っ込まない様に……ね!」 「……可愛いな…… お似合いのカップルだな」 脇坂はありがとうと言い写真を返した 蒼太は「君達もお似合いですよ」と脇坂に言った 笙が「野坂の顔見て思い出した……野坂って瀨尾利輝に似てない?」と確信ズバッと突いて来た 「………オフレコでお願いします 彼は……瀨尾利輝の実子です」 脇坂が言うと蒼太と笙は 「「……え!!!」」 と小さく叫んだ 「瀨尾利輝の子供なんだよ野坂は……」 笙は「……瀨尾さん知ってるの?」と問い掛けた 「受賞パーティーの時に逢った」 「……そうか……瀨尾利輝の子供より似てる 瀨尾光輝……彼は母親似だからね……愛那さん複雑だろうね」 「愛那さんにも逢ったよ 愛那さんも同じ事言ってた 瀨尾の名を継ぐ光輝が母親似で…… 愛人の子の知輝が瀨尾にソックリ……なんだからね 皮肉以外の何物でもない…ってね」 「仕方ないよ…… 好きで生まれた訳じゃないんだからね」 笙は……胸を押さえてそう言った 「もう運命に翻弄されるのは辞めると約束した 裏舞台に隠れる野坂を表舞台に引きずり出した もう隠れさせる気は皆無だ 今後は表舞台にしか行かせない それが僕の愛です」 臆面もなく言うと脇坂に蒼太は苦笑した 「……脇坂、君、何時も何時もズブズブに甘やかして……恋人をダメにしますよね? 野坂にもやってるんですか?」 蒼太は問い掛けた 「野坂はズブズブに甘やかしても野坂だ…… なんでしょうね……この人は溺れない 溺れてるのは僕の方です 野坂にズブズブに溺れさせられて……我慢の日々です 原稿が上がらない時には……風呂場で抜いてます……」 脇坂が言うと蒼太と笙は 「「信じられない!!」」 自慰する脇坂なんて想像出来ない その昔…… 「自慰より楽なのでセックスします」 と言った男が……… 脇坂は苦笑した 笙は脇坂に 「……で、お前どっちよ?」 と問い掛けた 「僕……野坂のテクではイケません……」 「………野坂がネコか……信じられません……」 蒼太はまさかの発言に…… 想像するのを辞めた その時、野坂が飛び起きた 「締め切り!! わぁ!締め切り!!」 泣きながらわめいていた 蒼太と笙は何がおこったのか……と驚いていた 脇坂はため息を着いて 「野坂!落ち着け!」 どうどうどう!と落ち着けていた 「………猛獣使い……脇坂…」 蒼太は想わず呟いた 「脇坂……締め切りがぁ…….」 「解ってます。 もう少し寝ても大丈夫です その前にお客様にご挨拶は?」 野坂は冷静になり……辺りを見渡した すると榊原 笙と飛鳥井蒼太がソファーに座っていた 野坂はソファーに正座すると 「こんにちは!」 ペコッとご挨拶する様子は…… 学生時代の廻りを寄せ付けない野坂ではなかった 「篤史…締め切り……」 「君は本当に…… ノートPC持って来るので、此処でやりなさい」 「解った……」 「こんなに散らかしたんですから、原稿終わったら掃除するんですよ?」 「……解った……」 ガミガミ怒られ、野坂はクシュンとしていた 飼い主に怒られた犬みたく…… 可哀想だった 蒼太は「そう怒るな……」と宥めた 笙も「怒ってばっかだと嫌われるぞ」と釘を刺した 脇坂はノートPCを持って来て野坂に渡した 「君はジュースで良いですね」 「うん……ごめん…お酒飲んじゃった……」 「やっぱり飲んだんですか……」 「喉渇いたからお前のコップの飲んじゃった……」 「仕方ないですね さぁ、原稿仕上げて下さいね」 野坂は「うん。」と返事してPCを打ち始めた 脇坂は気にする事なく飲んでいた 「気にしなくて大丈夫ですよ 知輝はテレビ見ながら仕事してる人だから 多少煩くても原稿を仕上げます」 「………お前……性格悪いよな…… 野坂には隠さないの?」 蒼太が思わず呟いた 「素です!」 素、過ぎるだろ……と蒼太は思った 笙も「少しは優しくしなよ!」と文句を言った 「僕程に優しい男はいないと知輝は言ってます」 自画自賛してると野坂が 「言ってないよ」と言った 「君は黙って原稿あげなさい!」 「だって黙ってたら脇坂付け上がるもん」 「………」 笙と蒼太は大爆笑だった 蒼太は「野坂、こうやって話すのは初めてですね」と問い掛けた 「俺は知っていた 有名だったから……」 笙も「君も有名だったんですよ?知ってます?」と問い掛けた 野坂はキーボードを打つ手を止めた 「……え?俺?俺は目立たない様に日々過ごしていたんだけどな?」 野坂はだから有名になんてならない?と思案した 「君はかなり有名でしたよ でも脇坂以外は傍には近付けなかった…… 傍に行きたい輩は多かったと想うよ?」 「初耳だな、それは‥‥ そうだ、榊原君、ドラマの主演やってくれるんだね…」 「………あの作品は君と脇坂ですね?」 「篤史はあの作品を公開ラブレターと言ってくれた……」 頬を染めて話す野坂は新鮮だった 「……野坂……役を引き受けたけど……どんな気持ちで君がいたのか……色々と考えました ……そして君に逢うのを楽しみにしていたのです」 「……俺……逢ってみてガッカリ?」 「いいえ!逢えて良かったです 君は脇坂の愛に溺れませんね 脇坂はズブズブに甘えさせるから……何度も同じ過ちを繰り返していた」 野坂には脇坂がズブズブに恋人に尽くす‥‥‥甘えさす‥‥と謂うのが理解出来ずにいた 「……俺……掃除しろと怒られる お菓子食べるとポロポロ溢すって怒るし…… 甘やかされてない! 絶対に脇坂は昔から俺には厳しい!」 蒼太と笙は顔を見合わせた そして二人して脇坂の肩に手を当てた 「「脇坂……」」 「でしょ?僕の方が溺れてるでしょ?」 「みたいだな……」 脇坂の言葉に蒼太も笙も爆笑した 高校時代の話に更に磨きがかかり、思い出に溢れた時間を送る 朝まで話しながら飲み明かした 夜明け前に客室のベッドを蒼太と笙に提供した 朝になり脇坂は支度を始めた 締め切りを守らない作家様の調整をつけに出社する為だった 部屋は静まり返り、蒼太と笙は眠っているのだろう 脇坂は慌ただしく仕事に出掛けた 起きている野坂に 「掃除しておくんですよ!」と掃除を促す事を忘れずに、だ! 野坂は脇坂に言われてたから、原稿を仕上げると掃除機を掛けた 「……も少し優しくしてくれても良いのにさ…」 文句を言いながら掃除をして、ベランダに出た 花の手入れをしてベランダに寝そべってPCを叩いていた 暇があると時代劇の小説を書いていた 長編で2年書いてても終わらない どの出版社にも言ってない作品だった メモリに保存してページを増やしている 自分の作品だった 脇坂はそれを書いてるのは知っていた 書き上げるまでは知らん顔しておこうと想っていた この小説は締切に追われて書かせたくないから…… ベランダに寝そべってPCを叩いていると蒼太と笙が起きて来た 「おはよう野坂、脇坂は?」 蒼太は問い掛けた 「仕事に行った でも昼には帰って来るって言ってた 待っててやって! 勝手に帰られたら……怒られる」 野坂が言うと笙は 「では、脇坂が帰るまで待ちます 邪魔じゃないですか?」 「邪魔じゃない! 頼むかいらいて下さい! 朝食は脇坂作って出たからあると思う」 野坂が謂うと蒼太は外の空気に触れて、肺一杯に新鮮な空気を吸った 「お天気良いから、此処で食べて良いですか?」 と蒼太は野坂に尋ねた 「うん!そこのテーブルに置いて食べると良いよ」 野坂がそう言うから蒼太と笙はキッチンから朝食を運び込んで、ベランダで食べた ベランダにはバラの花が綺麗に咲き乱れていた 「この花、君が育ててるんですか?」 「うん!脇坂が買って帰るんだ」 「脇坂は花を育てるタイプではないですからね……」 恋人の為に買って帰るのだ 少しでも気が休まる空間を作ってやりたいと想う脇坂の愛だった それが解るから笙も 「見事ですね……君が日々手入れしたからこそ咲き誇る花達です」 と絶賛した 「俺、あんまし外に出ないから‥‥ 篤史が芝生張ってくれて花を買って来てくれるんだ 一日1回は外の空気を吸いなさいって言われてるからベランダに出て花の世話をしてる」 恋人を気遣う脇坂にほっこりと笑みが溢れる 笙は「脇坂と上手くやって行けそうですか?」と問い掛けた 「篤史は口うるさい ズブズブに甘やかすとか言いながら……甘やかしてくれない 締め切り破ると……鬼だし……」 意外な言葉に脇坂の素を知る 蒼太は「脇坂なりに大切にしてのは解りますか?」と問い掛けた 「ん。篤史は俺に変わってスケジュール管理してくれている 自分の仕事も大変なのに……甘えてると想うし、大切にされてると想うよ」 「それだけ解ってれば大丈夫ですよ」 蒼太は笑った 「恋すれど‥‥は、俺の生い立ちを書いた話なんだ‥‥ 演じる榊原君には解るだろうけど‥‥」 謂われて笙は懐かしい高校時代の空気を感じていた 野坂は「……俺……母さんがよそで作って来た子供なんだ」と話した 「……………」 蒼太と笙は言葉に困った 恋すれどを読んでいれば‥‥そうなんじゃないかなって?って解る だがいざ、本人から謂われてみると言葉がなかった 野坂は演じる笙の為に言葉にして話を始めた 笙はそれが良く解るから野坂から目を離さずに話を聞いていた 「俺の存在は……邪魔だった…… 家でも外でも……俺は邪魔にだけはなるまいと生きて来た ひっそりと隠れて……自分の存在を隠して生きて来た そうしなきゃダメだと想っていたから…… 篤史はそんな俺を……表舞台に立たせた 逃げるなと蹴っ飛ばして表舞台に繋ぎ止めてる 俺は恥じる事なく生きて行こうと決めたんだ それが脇坂に応える答えだと想ってる」 「君は強いね」 笙はそう言った 「俺は強くない 強いと感じたとしたら、それは脇坂の愛だと想う」 「……ご馳走様……野坂に惚気られた」 蒼太は呟いた 「え?俺、惚気てないよ?」 笙と蒼太は顔を見合わせた 「「天然……」」 そう思った時、脇坂がベランダに顔を出した 「此処にいたんですか?」 脇坂は笑って野坂に近寄った 野坂の横に座るとPCを覗いた 「それ、書き終えたら、うちの出版社で出します」 「……まだ終わらない……」 「解ってます」 野坂のつむじにキスを落とすと立ち上がって、蒼太と笙の横に座った 「朝から仕事かよ?」 「締め切りを守らない作家様がいますからね」 脇坂が呟くと、野坂は 「原稿をあげたよ! 脇坂のPCに送っといた」と慌てて言った 脇坂は笑って「届きましたよ」と言った 脇坂はキッチンに向かい紅茶を淹れてベランダに戻った 暖かい紅茶をコップに淹れて野坂に渡した 「凄い花だね…」 蒼太の問い掛けに脇坂は 「知輝が育ててるんです 僕は一日で枯らします」と答えた 蒼太は「だろうね…」と納得した 「最初は殺風景なベランダに寝てたんです 可哀想になって芝生を敷きました 寂しそうなので、花を買って帰るようになりました」 笙は「中々味わえない贅沢な時間過ごせたよ」と脇坂に言った 「たまに来てやってくれ! そしたら一緒に飲もう」 「またお邪魔しに来るよ」   蒼太は次の約束をした 「ドラマの制作発表の時に食事に誘うよ」 と笙も次の約束をした 「誘ってやってくれ 知輝、誘われたら行って良いぞ!この二人なら、だぞ!」 野坂はコクっと頷いた そんな二人のやり取りを見て 「脇坂…キャラ変わりましたね君…」 と蒼太は嬉しそうにそう言った 「そうかな?」 「今の君の方が良い ねぇ、笙、そう思いませんか?」 「そう思うね、脇坂は………伊織のキャラと似てるかも……」 笙が呟くと蒼太が 「そうか!伊織だ! あの独占欲の塊の伊織だ…… 誰かに似てると想っていたら伊織だ!」 蒼太は引っ掛かっていた欠片が取れたと嬉しそうに謂った 笙は脇坂に「逢わせてあげましょうか?弟に?」と問い掛けた 「……遠慮しておきます どの道……逢うと想います 知輝の時代劇の小説、全部完成したら榊原伊織が脚本を手掛ける……そうなので……」 意外な事を謂われて笙は 「……え?それ僕……知らなーず…」とボヤいた 「知輝の時代劇の小説を榊原伊織が脚本を手掛け、榊 清四郎が主演を演じる 飛鳥井家真贋は……そうなる前に野坂と言う作家を潰されたくなかった だから東城社長を使って野坂知輝と言う作家を全面的に擁護しろ!と謂われた 榊 清四郎の代表作と言われる作品……それは知輝が2年書いてても終わらない小説が原作です」 種明かしする様に脇坂は、答えた 笙は感慨無量だった 一年前白馬で……… 康太が言ってた事なのだと……実感した 「……なら伊織には逢わせるまでもないですね」 笙は脇坂見てそう言った 「ええ。飛鳥井家真贋にもそのうち逢えると想います」 「………そうか……そんな繋がりがあったんだ……」 笙は呟いた 野坂は 「人の縁とは奇なり 何処で結び付くか解らないから……曲げずに行かないとダメなんだよな」 と答えた 笙は本当にそうだと思った 「……俺……自分の中に物書きの血が流れてるんだって思った それが嬉しくて… それが……悲しかった……」 野坂の呟きに脇坂は笑って 「書くしか出来ない奴は足掻いても抗っても書くしか出来ないんだよ!」と謂った 野坂は「書くけどさ‥‥」と拗ねた 蹴り上げ引き摺り出し、表舞台に立たせる脇坂は高校時代から変わらぬ笑顔で笑っていた 高校時代の延長線上にいる二人の姿が憧憬として映っていた 憧れて止まない高校時代の残像が、そこに在った 「また飲みましょう! 今度は4人でね!脇坂」 蒼太はそう言い脇坂の肩を叩いた 「……野坂は出したくないけど……仕方ありませんね」 脇坂はボヤいた 「適度に外に出せよ」 笙は、伊織より酷いのがいたとは……とボヤいた 野坂はニコニコ笑っていた もう道は間違わない 自分の道は知っているから…… 恋すれど……思いは募る 愛じゃない 終わりのない恋だから…… 果てない想いを刻もう 恋すれど、君を想う心は変わらぬ 我 想いの総てを君に捧げん 二人は高校時代、野坂が書いた卒業文集の中の言葉を思い浮かべていた 花びらが風に吹かれて舞い散る 笙も蒼太も懐かしい空間に身を置いて笑っていた 野坂も脇坂も笑っていた 恋すれど 映画公開初日 映画館に入りきらない長蛇の列が出来た 映画を見た客は、またチケットを買って見に行く リピーターも続出した ロングラン公演を早々に打ち立て…… かなり長い間……上映されていた そんな頃、瀬尾利輝の書いた小説が発表され話題を呼んだ 君に捧ぐラブレター 瀬尾は野坂に謂った通り想いを綴った その話は直木賞を取った話の続編の様な話だった 瀬尾は2人の女性に そして自分によく似た青年に ラブレターを書いた 私は全く別人を愛した筈だった だが蓋を開けたら…… 全く同じ人を……好きになっていた まぼろしを見たのだろうか? 嫌……違う 私は…… 同じ人を 別々の場所で…… 別々の人を愛したのだ だが……それは一つの存在だった それを教えてくれたのは…… 私と酷似した容姿の存在 あの時…… 私の血を引く存在がいた事を…… 私は知らない なんとも身勝手な男は…… 逢いたいと想った 逢ってみたいと想った 逢ったら…… あの頃の自分が……そこにいた 眩しい程に…… 君は綺麗な心をしていた 僕はそれが凄く嬉しかったんです 君の………人生を影から…… 応援しています そしてライバルとして 僕は負けたくないと思いました ですから… 君に捧ぐのはラブレターではなく 挑戦状です 僕はまだまだ負けません! 何処からでも掛かってらっしゃい!     瀬尾利輝

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