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第15話 犯人

東都日報社長 東城洋人に呼びされたのは、脇坂が退職届を出して一週間後 脇坂は野坂を連れて社長室に来いと言われた それが丁度、今日だった 脇坂は野坂に 「野坂、社長室に行かないといけません」と現実を告げた 野坂は意地の悪い恋人を睨み付けたが‥‥迫力はなかった 社長に呼び出されたと謂うのに脇坂は支度をする所か、野坂の上に乗っかって腰を揺すっていた 維持悪く現実を告げるのに抜いてもくれず‥‥‥翻弄する 野坂は耐えきれず 「……ぁ……なら早く抜きやがれ……ぁん……」と謂った 「知輝が欲しいって言ったんでしょ?」 脇坂は汗だくになり野坂の脚を抱えて 激しく……腰を動かしていた 止まらない 出し切るまで……止まらない 脇坂は野坂に執拗な接吻を贈った 「抜いて欲しくないでしょ?」    脇坂は問い掛けた 何も言わないと……野坂の中から抜こうとした その背を止めて野坂は叫んだ 「……ぁ……待って…抜くな…」 「なら、ちゃんと言わなきゃ」 「……ぬ……抜かないで……」 「欲しいって言って下さい」 野坂は脇坂の背を抱いて 「……欲しい……篤史が欲しい……」 と魘された様に言った 「君は本当に可愛いです」 脇坂はそう言い野坂の首筋に噛み付いた チューチュー吸われて……赤い跡が体中に着いていた 野坂はその跡が嬉しかった 脇坂の愛を感じられ、風呂場で何時も愛しそうに見ていていた 激しい情交でヘロヘロの野坂を風呂場に連れて行ってピカピカに磨きを掛けた そしてゆっくり湯に浸かり、風呂から出ると 脇坂は野坂にスーツを渡した 「……え?スーツ?」 「社長に呼ばれてますからね 一応スーツを着て行った方が良いでしょ?」 「………そうか……」 納得をして野坂はスーツを着た だが野坂は何をやるにも雑くて大雑把だから高校時代から、野坂のネクタイや着崩した制服を直してやっていた 今 まさに変わらぬ風景がそこに在った 脇坂もスーツを着た パリッと隙もなくスーツを着る 脇坂は着替えると、野坂のネクタイを締めてやってた そしてダラーンと着ているシャツを直してシャキッと直してやった 野坂は脇坂を愛しそうに見ていた 高校時代からストイックにスーツを着る脇坂が堪らなく素敵で、目が離せなかった 会社を辞めて…… 脇坂はスーツは着なくなった それをさせたのが野坂だと想うと…… 堪らなく辛かった 野坂と脇坂のスキャンダルが週刊誌で報じられた 悪意に満ちたその記事に…… 新聞関係者やマスコミは同情的だった コメンテーターも個人の嗜好の事をこれ程に攻撃的に言うのはどうか…… と定義する程のスキャンダルだった だが当事者の野坂は…… 脇坂が隠しているから何も知らなかった 脇坂の事も……報道された 親には謝罪に行くと…… 父が「お前が選んだ相手だろ?引け目を感じる事はない!」と言ってくれた 母親も「悪意に満ちた報道ばかりじゃないわ 野坂知輝と言う作家さんは愛されてるのね……」と笑った 瀬尾利輝は全面的に野坂の擁護に出ていた 妻の愛那も野坂の擁護をした 恋すれど の出演者は個人のプライバシーを脅かす方こそが驚異だと野坂を擁護した 野坂は……… 一度も……マスコミの前には現れなかった 野坂と脇坂は東都日報本社ビルの社長室を尋ねた 受付嬢に脇坂が尋ねると受付嬢は 「社長がお待ちです 社長室へと行って下さい」と答えた 脇坂は野坂と共に社長室へと向かった ドアをノックすると「入りなさい!」と声があった 社長室へ入ると……先客が既にいた 脇坂は気にする事なく社長室へと入って行った 脇坂は社長に一礼すると 「社長、お呼びですか?」と尋ねた 東城は脇坂と野坂に目を向け 「今回の野坂先生を攻撃している犯人が判明しましたので、ご報告致します」 と切り出した 社長室には瀬尾利輝と瀬尾愛那……そして息子の瀬尾光輝が座っていた 瀬尾光輝は野坂を見ると馬鹿にした様に鼻で嗤った 「……ゲイと同席は気分が悪いのですけど……」 野坂は顔色をなくした… 瀬尾光輝は臆する事なく更に毒づいた 「脇坂さん会社辞めたんですってね? 出版社もゲイの編集長なんて外見悪いから解雇されたんですってね?」 瀬尾光輝の言葉に野坂は怒りを露わにした 「…俺は何を言われても良い……だけど脇坂を……俺と同等に扱うのは辞めてくれないか!」 野坂が謂うと光輝はフンッと嗤い 「……ゲイが哀れんでるよ……」と馬鹿にした 野坂は握り拳をギュッと握り締めた 東城は瀬尾光輝に 「瀬尾さん、野坂先生に対しての誹謗中傷は名誉毀損に値します 野坂先生の個人情報を他人に流失させたり、人を使って野坂先生を襲わせたり…… 貴方のなさってるのは……犯罪だと気づいてますか?」 と毅然と言い捨てた 東城が言うと瀬尾光輝はムッとした顔をした 「僕が指示した証拠はない!」 「証拠はありますよ 警察は馬鹿ではありません 暴行犯の供述も証拠も握ってるに決まってる 近いうちに貴方に逮捕状が出ると想います」 「…え?………」 瀬尾光輝は顔色を変えた 「………使えないクズばっかりで嫌になる……」 瀬尾利輝は息子を睨み付けていた 妻の愛那も息子を睨み付けていた 瀬尾利輝は「……何故だ!」と怒鳴った その時、社長室のドアがノックされた 東城はドアを開けに行くと…… 思わぬ人物がドアの向こうに立っていた 脇坂は立ち上がり……唖然としていた 東城社長を尋ねたのは…… 株式会社 脇坂工業の社長と副社長だった 脇坂によく似た初老の男が会釈をした 「脇坂篤史の父をしています脇坂篤郎です 横にいるのは次男で副社長をしています篤人です」 「………どの様なご用件なのでしょうか?」 東城は問い掛けた 「我が子、篤史のスキャンダルが悪意に満ちすぎていた よって我が子を護る為に告訴するつもりなので、会社に一報入れておこうと想いました」 脇坂篤郎は毅然として言った 兄の篤人も 「この世にゲイなのは弟だけですか? まるで弟が悪であるかの如く言われるのは……堪えられません! 野坂先生にしても……好きで……愛人の子に生まれた訳じゃない…… 生まれは選べますか? 我々は…エスカレートするスキャンダルに手を打つつもりです」 東城は脇坂の父と兄をソファーに座らせた 脇坂は「……父さん……兄さん……」と呼び掛けた 「篤史、野坂さんもお揃いとは……私達も同席して宜しいですか?」 「はい。どうぞ!」 東城はソファーに座る事を勧めると、秘書にお茶を二つ持って来させた 野坂は顔色をなくしていた 「………知輝?……」 脇坂が呼ぶと……気丈に頷いた 何が起きてるのか…… 野坂には解らなかった…… 野坂は脇坂を見た 「………俺……」 ポロッと涙が零れた 「………野坂……」 野坂は脇坂に 「………脇坂……何も知らされてない 何で……俺は何も知らないんだ?」と訴えた 「………野坂……」 「俺の存在が……お前を脅かすなら…… 俺は……お前の傍にいられない…… 俺は……誰にも迷惑掛けずに生きて来た…… これからも……誰にも関わらずに生きて行けば良い……」 「………野坂!………自分の言ってる意味解ってる?」 「解ってる……俺は……生まれて来たらいけない子供だったんだ…… だから……分不相応な夢なんて見ちゃいけなかったんだ……」 野坂の言葉は胸を痛めた 瀬尾利輝は泣きながら…… 「……生まれて来てはいけない命なんてないと……言ったでしょ?」と野坂に話し掛けた 野坂は瀬尾の方は見ずに 「………この度は……迷惑を掛けました…… 俺の事など忘れて下さい」と言い捨てた 「知輝!自分が何言ってるか解ってますか?」 瀬尾は怒った 「解ってるよ瀬尾さん…… 俺の存在が許せないから……俺を消したいと想ったんだろ?」 野坂は許せない‥‥と瀬尾光輝を睨み付けた 瀬尾光輝は同じ様に野坂を睨み付けていた 「お袋は……父さんにそっくりの弟がいるのよ……と言った 今度逢わせるわ……と言いながら……親父とソイツはテレビに出まくってる 親子の俺でさえ……親父とはテレビには出た事はないのに…… 何で……? 親父と同じ職業をして…… 親父と同じ賞を受賞して…… 世間では……親子だと公言してる そのせいで俺は……弟が出来て良かったわね…… と言われまくった 俺は弟なんて欲しくなった だから排除しただけだ!」 何が悪い!と瀬尾光輝は……両親を睨み付けて……そう言った 光輝は更に続けた 「………皆が俺を否定する…… 妻だった女も……俺から去った 俺にはもう何もない…… なのにソイツが恵まれてるのが許せなかった!」 ここ最近の悲運は総て野坂の所為だとばかりに口にした 瀬尾利輝は息子の光輝を叩いた 「………お前は野坂知輝と言う作家を潰す気だったのか?」 「目の前から消えてくれればスッキリするとは想った……」 息子の台詞を…… 瀬尾利輝は情けない想いで聞いていた 愛那は泣いていた 「…………一連の……発端は…… 僕が引き起こした事ならば責任を取らないといけないね…… 責任を取って……ペンを置くよ……」 瀬尾利輝は立ち上がると深々と頭を下げた 妻の愛那も立ち上がった 「この度は……息子の不祥事をお許し下さい…… 監督不行き届きだったのは否めません 私も……女優活動を停止致します お詫びは……出来ない…… 親に愛されなかった知輝に愛をあげたかった…… それで我が子を疎かにしていたなんて…… 二人して光輝の事は発表致します 光輝は刑事罰を償わせるつもりです 野坂先生の汚名も晴らします 本当にご迷惑おかけ致しました……」 愛那は気丈に言い……光輝の腕を掴んだ 光輝は「嘘でしょ?」と呟いた 瀬尾利輝は「お前の罪は親の私達の責任だ‥‥私はもう表舞台から消えるよ」と息子に謂った 父親の覚悟を目にして光輝は、やっと罪の重さを知った 愛那も「お前を追い詰めたのは私達だ‥‥人様に迷惑を掛けたのならば償わねばならない‥‥解っているな?」と息子を諭した 光輝は母の言葉に 「母さん‥‥」と呟き涙した 瀬尾利輝は立ち上がると 「それではこれで失礼致します!」と言い 妻と息子を連れて帰って行った 瀬尾親子を見送り、社長室の残された……脇坂篤郎は…… 「社長さん……我等は帰った方が良さそうですな……」 と立ち上がった 東城は「本当にご迷惑お掛け致しました」と謝罪した 篤郎は「我が子は幾つになっても可愛いものです その我が子が……窮地に立たされているなら…… 私は……我が身を捨ててでも助ける所存です 息子を宜しくお願い致します」 親の愛だった 東城は深々と頭を下げ 「脇坂君はまだまだ我が社で活躍される人です 頑張って貰わねばなりません! 今後とも宜しくお願いします」 と退職などさせはしない!と約束した 篤郎は我が子の肩を叩いた 「篤史、大丈夫かね?」 「………父さん……本当にご迷惑お掛けしました……」 「私はお前が幸せなら……それで良い…… 今度、野坂君と遊びにおいで」 「はい。今度二人でお礼に行かせて戴きます」 脇坂は父に頭を下げた 篤郎は野坂にニコッと微笑み……野坂を抱き締めた 「篤史を頼みますね」 「はい……」 野坂は泣きながら……そう答えた 篤人も野坂の頭を撫でた 「今度遊びにおいで」 「はい……ご迷惑でないなら……行かせて戴きます」 篤人はそんな野坂の言葉が痛かった 「………迷惑じゃない…… だから自分を卑下するのはお辞め…」 「………はい。……」 野坂の瞳から……涙が零れた 篤人は野坂の頭を撫で、脇坂に 「君が選んだ人なんでしょ?」 と問い掛けた 「はい。」 「なら大切にするんだよ」 と微笑み脇坂の肩を叩いた そして二人で社長室を出て行った 東城は二人を見送り本題を切り出した 「脇坂、近いうちに総てが片付く そしたら編集長に復帰して下さい」 思いがけない言葉に、脇坂は驚きを隠せなかった 「………え?……復帰……ですか?」 「ええ、復帰なさい」 「スキャンダルは広まってます 僕が出たら正常に仕事は出来ないと想います‥‥が?」 「そんな事にはならないと想いますよ? なら試しに野坂先生を連れて編集部に顔出して下さい」 「………え……それはご迷惑かと……」 「行けば解る事もありますよ?」 一歩も引かぬ東城に説得され、脇坂は折れるしかなかった 「解りました……編集部に顔を出します」 脇坂は野坂の涙で濡れた顔を拭くと 「僕がいれば大丈夫ですね?」と問い掛けた 「脇坂‥‥」 「行けますか?」 「‥‥ん、逝く‥」 野坂はソファーから立ち上がった 野坂と脇坂が社長室を出て行こうとすると東城は 「野坂先生、近いうちに脇坂が編集部戻ります そしたら連載初めて下さい あの時代劇を連載に載せて下さい」と謂った 野坂は慌てて 「………え?PC壊れちゃったから……なくなっちゃった……」 だから連載は不可能だと告げた 脇坂は「データーは取ってあります!心配しないで下さい」とそつなく答えた 野坂は信じられない想いで 「………え?データーあるの?」と口にした 「……君がPC持って歩いてるの不安でした…… 何時落としたりするか……と思いましてバックアップは取っておきました」 「……そっか……今のムカついたけど……バックアップあるのか……」 「ムカつかないで下さい」 「何か腹立って来た……」 「はいはい。後で聞くので編集部に行きますよ」 脇坂はペコッとお辞儀をすると社長室を後にした 編集部に顔を出すと、編集長代理が 「良いところに来た!」 と脇坂を捕まえた 脇坂は仕事を片付ける羽目になり…… 脇坂は編集長のデスクに野坂を座らせた 女性社員が野坂にお茶を淹れた 「野坂先生、このお菓子、美味しいんですよ」 美味しそうなお菓子を目にして 「……脇坂……食って良い?」と問い掛けた 「食べて良いですよ」 脇坂は原稿をチェックしていた そしてずさんな手抜きな原稿を目にすると、額に怒りマークを浮かばせ 「これじゃダメだ! あの狸親父……僕がいないと想って手を抜きやがって! 脇坂がこれではダメだと言ってたと原稿取り直しなさい!」 ダメ出しを出していた あれも、これも手抜きな原稿を目にして 編集長自ら作家に文句の電話を入れた 脇坂の怒声が編集部に響いた 野坂はお菓子を食べながら脇坂を待っていた 中々……脇坂の手は空かない 野坂は編集長のデスクの上で……うたた寝を始めた 不安で寝ていなかった その上……社長に逢いに来る少し前まで脇坂に抱かれていた 怠い体躯にスーツを着て、ずっと緊張していた 緊張が解けて……眠気に襲われた 仕事を片付けていると女性社員に声を掛けられた 「編集長、野坂先生が眠っちゃいました ご自宅にお連れになっては如何ですか? 我等、女性社員一同、野坂先生を擁護すると同盟を組みました! 野坂先生を蔑ろにするのは女性社員を敵に回したも同然だとお想い下さい!」 女性社員の言葉に…… 脇坂は笑った 「………この子は何時も味方を作る…… 本人の知らない所で大切にされてる ったく昔から……野坂は人気者で困ります」 脇坂は野坂を起こした 「知輝、知輝!起きなさい」 「……ん……ご飯?」 「………君……此処は編集部です そして君の寝ている机は…… 編集長である僕の机です……」 「………編集部ぅ……」 寝ぼけた野坂は目をコシコシ擦っていた その様が可愛くて、女性社員は微笑んで見守っていた 「………ぁ……ごめん……寝てた…」 野坂は顔を真っ赤にして、事態を把握した 「帰りますか」 「………脇坂……仕事……」 「……僕はまだ休職中です…… 編集長代理、後はお願いします」 脇坂がそう言うと編集長代理の安田孝俊が前に出た 「お前……早く復帰してくれ でないと……俺は離婚の憂き目に合ってる…」 クソ忙しい編集長代理なんかになったせいで…… 妻に逃げられそうだと安田は言った 「社長から復帰して大丈夫と言われないと……帰れません」 「なら我等編集部が社長に談判に行く事にするわ!」 脇坂は笑いながら 「それは素敵です!」と言い野坂の手を取った そして編集部から出て行った そんな二人を編集部の全員が見送った 脇坂は隠そうとはしなかったから、多分……そう言う関係なのだろう と編集部の全員が想っていた 冷静沈着な脇坂が、野坂の事になると落ち着きがない 野坂の携帯に連絡が着かないと……イライラ当たり散らす そして一旦帰る 戻って来た脇坂は無敵で…… 笑顔でスマートに仕事を片づけて行く 帰宅時間が近付くと必ず 「何が食べたいですか?」と電話を入れる あの声の優しい事…… 編集部の全員が野坂に掛けてると知っていた だからスキャンダルが出ても誰一人驚く者はいなかった 驚いたのは…… 脇坂が編集長を、嫌、会社を辞めたと言う事だ 脇坂程に仕事が出来る者はいない 脇坂程に作家との信頼の厚い編集長 はいない 脇坂が編集長を辞めたと聞くと…… 作家は脇坂を戻せ 戻さなきゃ……手を抜いてやる と、言わせていた 脇坂あっての小説部門だった 脇坂のベンツに乗って還る帰り道 野坂は「……仕事してる篤史は格好良い……」とうっとりと呟いた スーツ姿の脇坂は誰よりもストイックで、格好が良い クォーターだけあって顔が良いが、それだけではない 知性と理性を全面に醸し出し、頭脳明晰な容姿が格好よさを際立たせていた 駐車場へと向かう野坂が「やっぱ篤史さスーツ姿の方が良いよ」ボソッと呟いた 「仕事始めると君を構えなくなりますよ?」 「それでも……篤史は編集部にいた方が生き生きしてる」 「……淋しい癖に……」 「……淋しいよ…… でも篤史は編集長してる方が良い…… 俺は淋しくても……待ってたら篤史が帰って来てくれる だから良い…… 俺は待つのは嫌いじゃない」 「こんなに寂しがり屋なのに…」 「………俺……篤史がいるから淋しいと感じるんだ 篤史がいなきゃ……きっと俺は淋しいと言う感情すら解らなかった……」 「愛してますよ知輝」 野坂は真っ赤な顔をした 「僕が編集長に戻ったら、打ち合わせは会社でしますか? 野坂先生、編集部まで起こし下さいね!」 「………え?……」 「気晴らし……するなら会社まで迎えに来て下さい 会社に来たなら、ちゃんと編集部まで来て下さい 待たせても一緒に帰れます」 「………うん……でも迷惑じゃない?」 「そうやって迷惑じゃない?と僕のいない所へ行かれる方が困るんです 君に連絡が着かないと不安で……仕事も手に着きません」 「……嘘……」 「君が出掛けるとメールが来ると……イライラして当たり散らします…… そして出掛けて確かめる…… この前……カフェにいた時……君の前には見知らぬ男が座ってました 僕は……この人の知り合いですか?と尋ねて違うと言うと排除してます 君の前の席に誰かいるだけで嫉妬で……おかしくなりそうです」 「……何か幸せすぎて……ぶっ倒れそうだよ……」 「……餌付けされないで下さいね! 知らない人にお菓子貰っても着いて行かないで下さいね!」 「………俺……子供じゃない…」 「うちの編集部の女性社員から貰うお菓子は大丈夫です あれは君を喜ばせる為に置いてあるのですから……」 「……え?何それ……」 「君を泣かせたら……社内の女性社員が敵に回るそうです」 「……もう泣かない……」 脇坂は爆笑した 野坂は運転する脇坂に少し甘えて 「……篤史の膝の上で寝たい…」と訴えた 脇坂は野坂のシートベルトを外すと、膝の上を叩いた 「ほら、おいで!」 野坂は脇坂の膝の上に頭を置いた 脇坂の指が野坂の頭を撫でる 野坂はトロンっと溶けきった顔をした 「知輝…」 「なに?」 「この先……どんな試練が待ち構えていても… 僕は君といられる道から外れる気はありません 1度は……君とは違う道を歩いた だけどもう……それは嫌です 君と……何処までも歩いて行きたい…… 嵐が来たって…… 僕は君を離す気はありません だから……もう2度と……僕と離れる道を視野に入れるのは辞めてくれませんか?」 野坂は脇坂に迷惑が掛かるなら…… 別れるのが……脇坂の為になると想っていた 脇坂と別れる…… そんな事……出来ないって解っているのに…… 脇坂のいない世界 脇坂の声のしない世界 脇坂の匂いのしない世界 脇坂の抱き締めてくれる腕のない世界 野坂は身震いした そんな世界に生きていられないのは……自分だった 脇坂の為に別れると言いつつ 脇坂のいない世界では生きられない 「………脇坂……俺は……お前のいない世界では生きられない…… お前の為だと……口では言っても…… 本当に別れるとしたら……俺は生きてく事を放棄する… お前のいない世界…… 想像するだけで怖い……」 「なら僕と生きて下さい」 「……はい!」 「もう別れると言うのは辞めるんですよ?」 「……2度と言わない…… だから頼むから……… 俺を手放すなら殺してくれ……」 やはり……その台詞を言うのか…… 「どんな困難な事だって…… 二人なら乗り越えられない坂道はない…… 共に歩いて行きましょう」 野坂は脇坂の膝に顔を埋めて……何度も頷いた ズボンが湿って行く 脇坂は何も言わず野坂を撫でた どんな困難な事だって…… 二人なら乗り越えられない坂道はない…… 二人で共に歩いて行きましょうね……知輝

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