16 / 37

第16話 作家だから‥

瀬尾光輝が作家 野坂知輝を陥れ、数々の罪を受け警察に逮捕されたとニュースで一斉に報道された 光輝は事務所を辞めていた 逮捕を知って迷惑が掛かるからと事務所を辞めて身辺整理をしていた 離婚した妻は今後一切子供に関わらないで下さい!と弁護士を通じて謂って来た 光輝は総て飲んで、己の身辺を整理した そして迎える逮捕だった 息子の逮捕を受けて 瀬尾利輝は作家生命を掛けていた 妻の愛那も女優生命を掛けていた 逮捕された息子の贖罪に夫妻は記者会見を開いて‥‥進退を口にした 野坂知輝に対して醜聞を作ったのは…… 我が子、瀬尾光輝だとマスコミで謝罪した 瀬尾光輝は野坂知輝の暴行教唆、その他諸々の余罪で逮捕された だが野坂が訴えなかったから…… 実刑にはならなかったが…… ケジメだった 瀬尾利輝はフラッシュたかれる会見場に姿を現すと深々と頭を下げ 「今回の野坂先生を脅かした一連の犯人は話が息子、瀬尾光輝が仕出かした事です‥‥ 我々は息子の罪を重く受け止め‥‥‥ 私は執筆活動を‥‥終わらせたいと想います 野坂先生には心よりお詫びを申し上げたいと想います」 と苦悩を滲ませ会見した 妻の愛那も深々と頭を下げ 「息子を此処まで追い詰めたのは‥‥私達だ‥‥野坂先生には本当に御迷惑をお掛け致しました‥‥心よりお詫び致します 私は‥‥女優を辞め‥‥我が子を立ち直らせたいと想います」と少し窶れ苦悩した女優ではない顔をしてそう言った 会見に駆け付けた記者達は憔悴しきった二人に何も言えず‥‥しんみりと記者会見は終わった 釈放されたその日に、瀬尾光輝はカメラの前に姿を現して謝罪した 「今回は本当に野坂先生には御迷惑をお掛け致しました また編集者の脇坂さんにも謂われもない誹謗中傷を致した事を御詫び致します これは言い訳にもなりませんが‥‥ 仕事も……家庭も上手く行ってませんでした そんな時……両親が……野坂先生を溺愛してるのを見て…… 実子がいるのに……と言う嫉妬がわいたのです それからは野坂先生の電話番号を流失させたり 野坂先生を暴行させたり…… 作品が書けなくなれと……PCを破壊させたり 仕事が出来なくなれとメールを大量送信させたり、精神的に追い詰め、更に醜聞を出して追い詰めてやろうと想いました ゲイと言うのは嘘です ゲイと言う事にして信用が失えば良い そう思っただけです 編集部の脇坂さんは野坂先生の仕事の管理をしている だから二人は出来ていると、ある事ない事……作って流しました 脇坂さんやそのご家族には大変ご迷惑をお掛け致しました 脇坂さんの信用を失墜させてしまいました事を、此処でお詫び致します 野坂先生、貴方の信用を失墜させてしまいました事も、此処で謝罪させて戴きます 今回の事は成人した瀬尾光輝が単独で致しました事ですので、俺の両親は……許して下さい…… 虫の良い話ですが‥‥‥どうか‥‥両親を許してください 作家 瀬尾利輝 女優 瀬尾愛那 この二人は無関係です どうか…許して下さい……」 瀬尾光輝はテレビで謝罪した 野坂はそれをテレビで見ていた あれから……瀬尾利輝から電話はない 愛那からもない このまま……距離を取るのが一番だと想う…… だけど‥‥心の何処かで二人に逢いたいと想うのだ‥‥ 脇坂はそんな野坂の想いを知っていたから、そろそろ動こうと算段していた 遊ばせておく作家なんて勿体無い 作家は書かせてこそ意味があるのだ 脇坂の編集部に瀬尾光輝が尋ねて来たのは、記者会見から暫くしてからだった 瀬尾光輝は脇坂を見ると土下座した 目の前で始まった土下座劇場に脇坂は眉を顰めた 「……瀬尾さん辞めて下さい…」 脇坂が本当に辞めてくれ!と言葉にした 光輝は気が収まらないのか 「本当にご迷惑をお掛け致しました」と謝り続けた 折れるのは何時も‥‥冷静な判断の出来る人間だった 編集部の人間が脇坂を心配して見ていた 何かあれば動こうと男子社員は脇坂の回りを固めた これ以上長引けば‥‥社員も黙ってはいないだろう‥‥ 「………もう良いです 僕は野坂に危害を加えられなければ、それで良いのです」 「………やはり二人は……」 「恋人同士ですが?」 何か問題ですか?とばかりの普通に問い掛けた 「……貴方は強いですね……」 「強くはないです でも無くしたくないから‥‥手放したくないから立ち向かうだけです」 光輝は脇坂に尋ねた本題を切り出した 「………野坂さんに逢いたい……」 「マンションに行けば良いでしょ?」 「貴方を通さないと…逢えないと聞きました……」 「なら、僕が……君を野坂に逢わせると想ってるのですか?」 「……逢わせてはくれないと想ってます…… だけど逢わなければ……なりません 俺は……自分が哀れだとしか想っていなかった もっと早く……恋すれどを読めば良かった…… あんな事件を起こし後に……読み始めました 彼の孤独な想い……生まれて来てごめんなさい……と言う彼の想い 解ってれば……違った道があったかも知れないのに…… 俺は……本当に愚かで馬鹿で腹が立ちます……」 光輝の苦悩を‥‥脇坂は仕事の手を止めずに聞いていた そして慌ただしく電話を取ると 「あと少し待ってくれますか?」と迫力で謂った 少し黙ってろ!と謂われた様なモノで光輝は 「……はい……」と返事をして黙った 「原稿を上げない作家に取り立てしなければなりません!」 脇坂が言うと、編集部の人間が 「編集長!電話繋がりました!」 「こっちに回して下さい」 電話が切り替わると脇坂は通話ボタンを押した 「東栄社の脇坂です 先生、原稿をお忘れでないですか?」 『………僕はもう書かないと決めたから……』 「先生、書かないなんて寝言、この僕に通用するとお想いですか?」 『……脇坂君……とにかく僕は……』 「瀬尾先生、そう言う事は直接僕に言ってくれませんか? テレビの前で謂えば伝わっているとお想いなのですか?」 利輝は言葉もなかった 脇坂に書かないと宣言した訳じゃないからだ‥‥ だがあの記者会見を見てれば解らないか? 「君‥‥あの記者会見を見てないんですか?」 「見ましたよ? ですが、僕は本人から聞かねば納得は出来かねるので、こうして電話をしてます 後10分だけ編集部にいます ですから直接僕に言って下さい! 10分経ったら僕は帰ります! 恋人が待ってるので帰ります」 『ちょっと脇坂君……』 「待ってますから! 遅れたら僕の恋人を寂しがらせる事になります! 編集部の女性社員を敵に回す事になりますが、良いですか?」 半ば脅し文句に利輝は降参するしかなかった 『…行くよ!15分下さい!』 「仕方ないですね! 15分しか待ちません!」 脇坂は電話を切った 「編集長、これ知輝さんに!」 女性社員が脇坂にお菓子の箱を渡した 「あ!これ、知輝が食べたがってたのだ! ありがとう、今度知輝を連れて来るよ」 「本当ですか! 今から楽しみです」 瀬尾光輝は野坂が女性社員に絶大な人気があるのを知った 脇坂は時間一杯仕事を片付け、15分キッカリに立ち上がった 「今日は上がります 緊急なら連絡下さい」 緊急なら… 緊急じゃなくば連絡するな と言い脇坂は帰り支度をした 「瀬尾光輝さん行きますよ」 「…あ、はい!」 瀬尾光輝は脇坂に着いて行った 地下駐車場に行き、待ってると瀬尾利輝が車を飛ばしてやって来た 脇坂は車から下りると瀬尾に近寄った 「瀬尾先生、車は置いて僕の車に乗って下さい 帰りは此処まで送って来ます」 脇坂は瀬尾を後部座席に乗せた 瀬尾は言葉を失った 後部座席には……息子が座っていたから…… 「脇坂君……」 「どうせお二人の要件は同じなんでしょうから、御一緒に話をした方が早いと想いました」 脇坂は運転席に乗り込むと車を出した 信号の合間に脇坂は野坂に電話を入れた 「僕です」 『篤史、俺は家にいるぜ!』 「何か食べたいモノはありますか?」 『スィーツ…食いてぇ』 「それでしたら女性社員に貰いました 今度お礼を言いに編集部に来るんですよ?」 『……解った……もう帰るのか?』 「あと少しで自宅です」 『………待ってる……」 「待ってて下さい」 脇坂は電話を切った ご機嫌に車を走らせてマンションの地下駐車場まで向かった 所定の位置に車を停めると、野坂が地下駐車場まで下りていた 脇坂は車を停めると運転席から下りた 「知輝、どうしました?」 「帰るって言ったから……」 脇坂は野坂を抱き締めた 「知輝……押し倒してしまいたいんですが……お客様がいます」 「……え?客……」 電話で言わなかったじゃないか……と野坂は恨みがましい瞳を脇坂に向けた 脇坂は野坂の唇に口吻を落とすと、後部座席のドアを開けた 車から瀬尾利輝と光輝親子が下りて来た 野坂はビクッと体躯を強張らせた 野坂が怖がる事は解っていた 解っていたが、野坂は利輝に逢いたがっているのも知っていた これは避けては通れない道だと、二人を引き合わせる事にしたのだった 「瀬尾先生、僕の部屋まで来て下さい」 脇坂がそう言い歩き出す 利輝と光輝は脇坂の後に着いて行った 脇坂はエレベーターに乗り込むと 「知輝、女性社員からのお土産です」 と野坂にスィーツを渡した 野坂は俯いてスィーツを受け取った 脇坂に抱き締められ、最上階まで静かに待つ 「やはり犬でも飼いますか?」 「………要らない… そう言うのは違うって言った」 野坂はそっぽを向いた 最上階まで上がりエレベーターを下りる エレベーターを下りると広いエントランスが目に入った その階はワンフロアーしかなく、エントランスの先には防犯カメラが備えてあり訪問者をどの角度からも捉える警戒さを伺い知れた 脇坂は重厚なドアにカードキーを差し込みロックを解錠した ドアを開けて野坂を先に部屋に入れ、瀬尾親子を招き入れた 脇坂は自分の部屋に逃げ帰ろうとする野坂に 「知輝、応接間にお連れして」と役目を与えた 「……え?俺……」 「自分の部屋に逃げようとしない!」 「………鬼……」 野坂は呟いて……唇を尖らせた 拗ねてるのが解る 野坂は瀬尾親子を応接間に通した 応接間は………散らかっていた 「………知輝……」 「掃除するってば! お前が帰って来ないのがいけない!」 野坂は応接間を片づけた 脇坂は瀬尾親子をソファーに座らせた 「すみません散らかってますが、おかけになって下さい」 野坂はせっせと散らかった応接間を片づけた 「ほら知輝も座りなさい」 「少し散らかっただけなのに……」 野坂はブツブツと良いながら座った 「何時も綺麗にしておく様に言いましたよね?」 「………お前が帰って来ないのが悪い……」 野坂はふて腐れていた 脇坂は「失礼!」と言いソファーに座った 脇坂は瀬尾光輝に 「瀬尾先生、お仕事片付けて下さい 他の話が書きたいなら相談に乗りますけど?」と編集者として声をかけた 利輝は困った顔をして 「……脇坂君……もう僕は書かない…」と脇坂に訴えた 「瀬尾先生、寝言は寝て言って下さい 貴方は書くしか出来ない 貴方の妻は演じるしか出来ない ならば、天職に戻りなさい」 脇坂はキッパリと謂った 「………脇坂君……」 「貴方も野坂先生も書く事でしか消化出来ない人間なんです 瀬尾先生、書かない自分を想像できますか?」 それは想像が出来なかった 作家として生きていない今、自分は何をして良いか解らない生活を送っていた 自分は今までどうやって生きて来たんだろう‥‥ そう思える毎日に利輝は生きる希望を失ってしまっていた 脇坂は利輝が奮起する言葉を目の前に並べる 「野坂知輝は書きますよ? この先も、書かないなんて文句は聞いてやりません! 野坂は想いや夢を託して書き続けます!」 羨ましい言葉に、利輝は俯いた 「瀬尾先生、これを」 脇坂はゲラ刷りの用紙を利輝に渡した 「これは?」 「野坂知輝が瀬尾利輝に向けて渡す、挑戦状です!」 脇坂は笑っていた 「これ、ゲラ刷りです 野坂の新刊の最期に入れる挑戦状です!」 脇坂は野坂のあとがきのゲラ刷りを瀬尾に見せた 『書くしか出来ない人間が何を血迷ってるのか? 書かないなら、何時までも腐ってれば良い! これは俺からの挑戦状だ! 受けて立つか腐ってるかは貴方が決めれば良い! 芥川賞は俺の手にあるのを忘れるな!   野坂知輝』 瀬尾はそれを見て笑った 「野坂先生から挑戦状を貰いました……」 そう言い……ゲラ刷りの紙を大切に胸に抱いた 「………芥川賞は……渡しません まだ君には早いです!」 瀬尾は泣きながら……笑った 瀬尾光輝はそんな父を黙って見ていた 「………親父……書いてくれ…… 母さんも……女優に復帰してくれ……頼むから……」 瀬尾光輝はそう言うと、野坂の前に土下座した そして野坂に 「許されるなんて想っちゃいない…… だが俺は最低の事をした…… 俺はお前を追い詰めて傷付けた それだけは……謝らせてくれ……」 床に額を擦り付けて……瀬尾光輝は謝罪した 野坂は光輝の体躯を起こし 「土下座なんてするな!」 と叫んだ 「………男の矜恃を捨てるな…」 「矜恃は捨てちゃいない! 俺は自分のした事に謝罪をせねばならない…… それに対しての対価だ…… 本当に済まなかった……」 光輝が謝ると野坂は目を据えて 「だったら殴らせろ! お前のせいで……脇坂は受けなくても良い中傷を受けた! 脇坂の家族は……そんな中傷を受けたんだ!」 と迫った 「殴ってくれ……」 光輝は覚悟を決めて目を閉じた 脇坂は「辞めときなさい」と止めた 光輝は「なぜ止める!」と怒った 「………野坂が学園生活で一度だけ……人を殴った事があるのです 僕を陥れ様とした輩を……殴った 野坂の外見に騙されると、貴方は確実に病院送りとなりますよ? そして顎を砕かれ整形を余儀なくされる覚悟があるなら止めませんが‥‥‥ 役者を続けるならお薦めはしません 野坂は確実に貴方を病院送りします…… 昔、野坂が殴った者は病院送りとなりました 野坂は人畜無害な奴ですが…… 僕が絡むと昔から手加減をしません…」 光輝は真っ青になった まさか……病院送りにした経緯があるとは…… 「手加減なんてしてやるか!」 野坂は怒っていた 想いっきり殴ってやる!と息巻いていた 脇坂は「なら殴ったら駄目です……」と止めた 「……だって腹立つやんか!」 「………後の処理が大変なんですよ? 君が半殺しにした奴覚えてますか?」 「知らない!」 「顎が砕けました…… 整形させたり……僕は……君のせいで預金を使い果たしました」 野坂はたらーんとなった そんな経緯聞いてないよぉ~ 野坂は悔しそうに「………なら辞める……」と謂った 「辞めときなさい…… 半殺しは駄目です」 「………ムカつく」 野坂は拗ねた 瀬尾はそんな野坂を見て爆笑した 半殺しの目に合わせたのが、脇坂を陥れた奴だというから…… 自分の事より脇坂が傷付くのは許せない そうして野坂は生きて来たのだ 脇坂は妥協案を野坂に提示する 「怒りが収まらないなら、その想いを書けば良いんです!書きなさい! 瀬尾光輝主演で何か書けば良いんですよ 仕事ならキツくても大丈夫なんだし! スタントなしでキツい撮影をやった方がよりリアルに撮れるってモノです!」 脇坂が言うと野坂の瞳がキランと光った 「解った! 瀬尾光輝が主演できそうなの1本書く! 覚えてろ! 俺は脇坂をいじめる奴は絶対に許さねぇんだからな!」 「………主演映画……光栄です… どんな役でも命をかけてやらさせて戴きます」 光輝は深々と頭を下げた 「脇坂、俺、一ヶ月かけて1本書く!」 「解りました、でしたら調整します で、瀬尾先生はどうなさいます?」 「書くよ!自分の罪を全部吐き出して…… 光輝にも知輝にも許しを請う……どちらも愛する僕の子供だ……」 「では瀬尾先生の担当は僕がなります! リミットは一ヶ月 宜しいですね!」 「「はい!」」 瀬尾と野坂は同時に返事をした 「瀬尾光輝、君、事務所辞めたんですよね? ならば仕事を再開する上で不便になりませんか?」 脇坂は突拍子もない事を告げた 「事務所……ですか?」 「そう。僕の友人の榊原 笙が事務所を変わったのです 笙の事務所に変わりませんか?」 「………榊原……笙……ですか?」 「初等科からの悪友です 君が事務所を変わるなら笙に話を通しておきます」 「………俺が事務所を解雇されたの……知ってるんですか?」 「君の場合、解雇と言うより自分からケジメを付けただけでしょ?」 「………そうですが……」 「演じるしかなれないなら…… その道を逝くしか出来ないんですよ?」 「………脇坂さん……本当にご迷惑お掛け致しました」 光輝は脇坂に謝罪した 野坂はやはり此処は少し位、謝罪を受けとこう!と想い話し掛けた 「ねぇ光輝さん」 野坂は光輝の名前を呼んだ 「………何ですか?野坂さん?」 「俺、PC一つ持って脇坂んちに転がり込んだんだ そのPC、見事に壊されたんだ だから俺に弁償してくれませんか?」 「……PCを?」 「そう。PCを! 俺の唯一の家財をぶっ壊しやがって!」 野坂は吐き出した 「………この家は?」 誰の家なんですか?とばかりに光輝が問い掛けた 「このマンションは脇坂の持ち物だ! 俺は転がり込んだだけ……」 「………転がり込んだだけなのに……散らかってますよね?」 光輝が言うと野坂はそっぽを向いた 脇坂が代わりに説明した 「この人は今怒ってるから…… そんな時は散らかるんですよ」 光輝は、驚いた顔をした 「怒ってるの?」 「ええ。最近構ってやらないので拗ねてます そんな時は自分の生活圏内を散らかして僕の気を引こうとするとです」 脇坂の説明に‥‥光輝はデジャブを覚えた 「………それって……うちの親父と同じだ…… 母さんが忙しいと拗ねて部屋を散らかす…… 俺が親父が散らかしてたと言うと何時も嬉しそうに母さんは言うんだ 父さんは拗ねてるのよ……って」 光輝が言うと瀬尾もそっぽを向いた 脇坂は……同じ顔してそっぽを向いている野坂と瀬尾を見て笑っていた 光輝は……野坂の中に流れる瀬尾の分身を目にして涙を流した 「親父に……こんなにも似てるなんてな……」 光輝は母 愛那に似ていた 無意識のうちに似てるなんて…… 細胞レベルで親子なのだと公言してる様なものだった 叶うはずなどない…… 「………拗ねた顔が一緒だ……」 光輝は呟いた 野坂は「一緒じゃない!」とボヤいた 脇坂は笑ってスィーツを野坂の前に置いた 「ご機嫌直しなさい…」 「………直ってる…」 野坂はスィーツを美味しそうに食べ始めた 野坂の食べるスィーツを瀬尾は見ていた 「………それって何処のスィーツ?」 「これは女性社員が野坂にと買って来たものです 野坂の好きなChansonと言う洋菓子店のスィーツです」 「Chanson……良く行くのにな見なかったなこれ……」 脇坂は瀬尾にもスィーツを小皿に置いて渡した 「瀬尾先生、どうぞ!」 「………知輝に恨まれない?」 「家にも知輝のスィーツは買ってあります お気になさらずにどうぞ」 瀬尾は幸せそうにスィーツを食べ始めた 脇坂は光輝に「………スィーツ食べます?」と問い掛けた 「………俺は……良いです……」 「そうですか……では紅茶でも淹れて来ます 我が家は珈琲はありません 紅茶で構いませんか?」 「ええ。紅茶で良いです 瀬尾の家も珈琲はありません 親父が紅茶しか飲まないので……お袋は珈琲を置かなくなりました」 「我が家もそうです 野坂は珈琲は飲みません」 脇坂は席を立ち紅茶を淹れに行った 光輝は野坂を見ていた そして勇気を出して話し掛けた 「知輝君……君の欲しいPCを買った方が良いよね? 今度買いに行こうか?」 PCは本人が見て買うのが一番だから、そう切り出した なのに野坂は 「…………アカデミー賞取ったらたかる事にする」とバツの悪そうな顔をした 「………それまでPC……どうするんですか?」 「脇坂が買ってくれた……」 「………俺が買う必要……ありますか?」 「壊したんだから買ってくれても良いやん……」 何という屁理屈…… 「解りました! アカデミー賞取ったらどんなPCでも買ってあげます」 「外に持ってく用にする」 野坂は嬉しそうに、そう答えた 「野坂、そう言えば君、他の雑誌の仕事してましたよね?」 野坂は知らん顔した 「締め切り、何時なんですか?」 そーっと席を立とうとして……脇坂に捕まった 「締め切りは?」 「………明日……」 「なら寝れませんね」 「………一緒にいたかったのに……」 野坂はボソッと呟いた そして自分の部屋に行った 「瀬尾先生、編集部に顔を出すのでご一緒しましょう!」 「……知輝は……」 「締め切りを控えてますからね…… 帰ったら応接間が凄い事になってるかも知れませんが……」 脇坂は苦笑した 「では行きますか」 脇坂は瀬尾と光輝を連れて部屋を出て行った バタンッとドアが閉まる音を聞いて…… 野坂は……淋しくなった 最近‥‥想ったように書けなかった 脇坂の傍にいたいと想ってしまうから‥‥ 注意力は散漫になり‥‥ 想うように書けずにいた 距離を取ったら書けるようになるのかな? 脇坂ばかり待って‥‥女々しいのは解っている ずっといたい 離れたくない だけど脇坂は編集長と謂う立場もあり‥‥ 最近は忙しく動き回っていた すると悲しくて寂しくて‥‥我が儘を言いそうになるのを我慢した その我慢も何時まで耐えられるのか解らない自分が怖い‥‥ 野坂は雑誌の仕事を片づけた そして応接間の掃除をして、あっちこっち掃除をした 部屋を綺麗に片づけると、野坂はスーツケースに着替えを詰めた PCでホテルを予約した 滞在期間は一ヶ月 脇坂が帰って来ないのに…… 待って何も手に着かないのは……嫌なのだ だからホテルを予約した 野坂はスーツケースを持つと、タクシーを呼んだ タクシーが到着すると野坂は部屋を出た ロックが掛かる音がする…… 野坂は後ろ髪引かれる想いで家を出た 予約したホテルに移ると野坂はPCを出した そして夢中になり書き始めた 一息着くと……携帯がピカピカ光ってるのに気付いた 脇坂からの着信が…… 何十件と入っていた 野坂は脇坂に電話を入れた 「脇坂?」 問いかけるなり脇坂は「今何処ですか?」と問い掛けた 野坂は驚いて 「……え?家に帰ってるの?」と呟いた 「何度も電話したけど出ないので、家に戻りました 君は帰ってくる気配もないので電話をしました」 野坂は「今、ホテル……」と答えた 脇坂は「誰とですか?」と少し怒りを滲ませて問い掛けた 「………一人だよ?」 「何故何も言わずにホテルにいるのですか?」 脇坂に謂われ野坂は本心を晒す ずっとずっと‥‥脇坂がいないと何も出来なかった事実を伝えた 「………脇坂……帰らないじゃないか…… 忙しいのは解る…… だけど……顔みたいとか……想っちゃうんだ…… 構って欲しい 声が聞きたい 抱き締めて欲しい どんどん欲張りになって‥‥俺は脇坂を仕事に行かせるのも嫌だと叫んでしまいそうだった 俺は作家だから‥‥書きたいのもあるし 依頼された仕事はあげなきゃいけない 解ってても‥‥仕事に手がつかないんだ だからホテルに来た 脇坂はさ、俺がお前が帰るまで何も手に着かない……そんな事想像した事がある?」 「知輝、淋しかったのですか? なら何故言ってくれなかったのですか?」 「‥‥‥仕事も手につかない程に淋しいなんて謂えなかった‥‥」 「知輝‥‥……何処のホテルに泊まってますか?」 野坂はホテルの名前と部屋番を脇坂に伝えた 脇坂は電話を切った 脇坂……怒ってた…… どうしょう…… 野坂は不安になった…… 何をしてても脇坂の事を考える…… 家に帰って来たらすくに抱き着きたいから……応接間にいる 応接間で仕事をして…… 応接間で過ごす時間が長かった…… 野坂が応接間から飛び出すと……野坂を抱き締めてくれるけど…… 寂しい想いをさせてると……気に病む 寂しいけど…… 脇坂の負担になりたくなんかなかった…… 「……脇坂……怒ってたからな……ホテルに来てくれないかもな……」 野坂は泣きそうになった 何か俺‥‥最近女々しい‥‥ 本当に嫌になる 落ち込んでもいられないから野坂は小説を書いた 書かなきゃいけない小説は一行も進まず‥‥ 想いの丈ばかり募る‥‥ 何もかも忘れる為に…… 野坂は必死で書いた 脇坂のマンションを出て…… 1週間……過ぎていた 脇坂はホテルには来てくれなかった 電話もなくなった…… 野坂は不安になり……こそっと会社まで覗きに行った 本人はコッソリ編集部を覗いているつもりだった だが編集部の皆には丸見えだった 隠れてるからと編集部の皆は声をかけるのを控えた でも微笑みがましい野坂の姿に、皆がホッコリしていた 脇坂は……編集部にはいなかった あれ?脇坂……いない…… 辺りをキョロキョロする 諦めて帰ろうとすると…… 脇坂が女性と編集部に戻って来た 脇坂は楽しそうに女性と話をしていた 野坂はとっさに隠れた ………非常階段の扉を開けて… 中に入った 「……何やってるんだ俺は……」 馬鹿みたいだった 脇坂を待って仕事にならなくて…… ホテルを借りて仕事を片づけ様として……手に着かなくて…… ホテルに泊まれば仕事が捗るかと想えば‥‥ そうでなくて‥‥何やってるんだ俺‥‥ 自己嫌悪にかられて野坂はトボトボ帰って行った マンション……探さなきゃダメかな…… 脇坂…… 離れたくないのに…… 野坂は会社から出るとタクシーを停めた タクシーに乗り込んでホテルに戻った 部屋に戻ると服を脱いだ 「………馬鹿だ俺は……」 涙な溢れて来て、野坂はバスルームに入って行った シャワーに打たれて野坂は泣いた ………女々しすぎる 脇坂! 何で声が掛けられなかった? 飛び出て「脇坂!」って呼べば良かったのに…… 「………脇坂………逢いたい……」 呟くと涙が溢れた…… 「今日は泣こう…… 明日……目がパンパンでも誰にも逢わないし……」 泣いて…… 水分が体内から出て逝く感じがした 止まらない涙に‥‥クラクラとなる あれ?‥‥‥‥グニャッと視界が歪んで‥‥ 意識が朦朧として……野坂は浴室で倒れた

ともだちにシェアしよう!