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第22話 傷

野坂は外には出なくなったが、それでも少しは落ち着きを取り戻し作品を書く様にはなって来ていた 野坂は小説を書いていた 静まり返った部屋に、野坂の携帯電話が鳴り響いた 電話を取ると祖母の声がした 『知輝か?元気やった?』 「ばぁちゃん……久しぶり……」 『知輝、ばぁちゃんな老人ホームに入ろう思ってるんや でな、保土ヶ谷の家を売る事に決めたんや 知輝の荷物あるやろ? 近いうちに取りにおいで! でないと……家を処分するからな……なくなってしまうんからね』 祖母は優しく野坂にそう言った 野坂はPCを打つ手を止めて 「ばぁちゃん…今日取りに行くよ」と謂った 『そうか……気をつけて来るんやで』 野坂は電話を切った 支度をして脇坂にメールをした 『少し出掛ける』 メールをすると電話が掛かって来た 『何処へ出掛けるんですか?』 「保土ヶ谷のばぁちゃんち」 『………え?保土ヶ谷のお祖母様の家に行くのですか?』 「………老人ホームに入るらしいから荷物を取りに来いと言われた…… だから荷物を取りに行ってくるわ」 『………迎えに行きます 待ってて下さい』 「………え?脇坂……バスで行く……お前は来なくて良い…」 野坂はそう言い電話を切った するとメールがあった 『迎えに行きます 拗ねないで待ってて下さい』 マンションの下で待ってる、脇坂が車を走らせて来た 脇坂は野坂を見付けると、その横に車を停めた 脇坂の車が路側帯に停まると、野坂は脇坂の車に乗り込んだ 野坂は脇坂の車のナビに、祖母の家の住所を打ち込んだ 「………保土ヶ谷にいる祖母は……母さんの母親なんだ…… 母さんが亭主の子供じゃない赤ん坊を産んだから…… 何時も気にしてくれて……俺を育ててくれたんだ……」 野坂はポッポッと話を始めた ナビ通りに向かった先は、古い洋館の家だった かなり広い敷地に洋館は建っていた 脇坂が駐車場に車を停めると野坂は車から降りた 脇坂も車を下りて野坂の後を追った インターフォンを鳴らすと、祖母が玄関を開けた 「知輝、お帰り」 しゃんと背筋を伸ばし凛と構えた貴婦人が姿を現した 野坂の祖母は脇坂の姿を見ると、微笑んだ 「お上がりください」 野坂と脇坂は招き入れられ家へと入って行った 「………ばぁちゃん……何処の老人ホームに入るの?」 「………少し入院してから老人ホームに行くんや……」 「………え?……ばぁちゃん……何処か悪いの?」 「………年や……気にせんでええ……」 「………ばぁちゃん……」 「病院の方に見舞いに来てな」 「行くよ!老人ホームの方にも面会に行く!」 「知輝……荷物を纏めておいで…… 私はこの方と少し話をしてるからね」 祖母に言われて野坂は荷造りに行った 野坂の 祖母は脇坂に深々と頭を下げた 「脇坂さんですね?」 「はい……なんで僕の名前を?」 「……あの子は……高等部の頃……好きな人がいると教えてくれました…… その教えてくれた容姿と同じにお見受けしたので確かめました」 「………脇坂篤史と言います」 「脇坂さん……あの子には教えないで下さい……お願いします 私は……夏までは生きられません…… ですから……生きてるうちに…… 知輝に遺せるモノを……と想い、この家を処分する事に決めたのです 私が死んだ後……醜い遺産争いが起こるのは目に見えてる ならば……陽の目を見なかった…知輝に……総てを遺そうと思いました この家を処分したお金総てを知輝に譲ります…… それは……私が逝くまで内緒にしておいて下さい……」 「………知輝にとって……貴方は唯一無二の肉親です……」 「…………末期の癌……なんです 宣告されたので……身の回りの処分を……と想いました」 野坂の祖母は気丈に脇坂に頼んだ 「………知輝の事が……不憫で、不安でした 知輝は会社に勤めてる時に……熾烈なイジメにあいました ………堪えきれず……知輝は死のうとしました…… 助かった知輝はベッドの上で泣いていました 生まれた事が間違いないのに……何で俺は生きてるんだろう…… ずっとそう言ってました 会社を辞めさせたのは私です…… 見ていられなかったので……あの子に内緒で辞めさせました あの子には……退院してから言いました そしたらあの子……もう行かなくても良いんだ……って笑いました あの時の顔が……忘れられません…… あの子の………好きだった人……貴方に似てるんですよ 退職願を出しに行った時……顔色をなくした男の人がいました…… その人……知輝が好きだって見せてくれた写真の人と似てました…… ずっと好きなんだ…… 泣きながら知輝は言いました あの会社の人って聞くと、知輝は……… あの会社の人は……脇坂に似てたんだよ…… ……そう言いました 知輝が好きだというのは何時も……脇坂さん……貴方の事ばかり……」 野坂の祖母は脇坂の手を握り締めた 「………知輝をお願いします 貴方を失ったら知輝は生きられないでしょう……」 脇坂は野坂の祖母の手を握り返した 「知輝の事は僕が命に代えても護ります!」 脇坂は野坂の祖母に誓った 野坂の祖母は嬉しそうに笑って……目頭を押さえた ドタバタと階段を下りる音がして、脇坂は野坂の祖母の手を離した 祖母もハンカチで涙を拭った 野坂は段ボールを階段の下に下ろしながら、脇坂に 「篤史、段ボール三箱あるけど乗るかな?」と問い掛けた 「大丈夫ですよ? 乗らなきゃ宅配便で送れば良いです」 「ばぁちゃん! 俺の荷物は……全部持ってく! あれも………俺の一部だから…… 俺は持って行く」 野坂は祖母を見つめて、そう言った 祖母は野坂を眩しそうに見つめた 「強くなった知輝……」 「………ばぁちゃん……まだ俺は……弱虫の意気地なしだ…… 過去が怖くて……身動きとれなくなった……」 「………過去?……何時の?」 「東京で働いてた時の……」 祖母は言葉を失った 「………知輝……」 「………俺は過去に囚われてばっかりだ…… 動き出さなきゃ……駄目なのにな……」 「知輝、脇坂さんは知輝の思い人じゃろ?」 「………ばぁちゃん……」 「お前は何時も何時も脇坂さんの話をしてくれた その彼と一緒に荷物を取りに来た……… 彼は……知輝の傍にいてくれるんでしょ?」 「………うん……脇坂と一緒に暮らしてる 脇坂が生活の総てを…… 仕事の総てを……見てくれているんだ……」 「良かったな知輝……」 「………ばあちゃん………俺…… 生まれてきて良かったと…… 初めて想ったんだ…… 生まれ来たから……脇坂の傍に行けた……」 祖母は野坂の手を取った キランッと光る指輪の手を撫でた 「………神様の贈り物……だね知輝…… 私は……何も持たない知輝が心配だった…… 今……こんなに幸せそうなお前を見れて……本当に良かった…」 祖母は涙を拭った 本当に良かった…… 何も持たない…… 生まれた事に懺悔する子が…… 孤独なままじゃなくて…… 脇坂は段ボールをトランクに詰めた 入りきらない荷物は後部座席に乗せた 「脇坂さん……」 脇坂は祖母に名前を呼ばれ、野坂を助手席に座らせた そして野坂の祖母の前に立った 「貴方の連絡先を知りたいのです」 脇坂は名刺を出すと、その裏に携帯の番号を書いて野坂の祖母に渡した 祖母はそれを受け取り 「知輝を頼みます」 と言い深々と頭を下げた 脇坂は何も言わず一礼すると運転席に乗り込んだ 脇坂が車を出すと野坂は祖母に手をふった 車に乗り込み、野坂は窓の外を見ていた そして脇坂の顔を見ると 「………篤史……聞いて欲しい話があるんだ……」 と切り出した 「会社から帰ってからで良いですか? 会議を抜け出して来てしまったので……戻らねばならないのです」 「………え!……篤史…… 来なくて良いって言ったのに……」 「僕の知らない処へ行かせたくないんです…… 僕の知らない処で……君が泣くのは嫌です……」 「………篤史……」 「早く帰ります ですから帰ったら話してください」 「………ん……篤史には聞いて欲しいんだ」 「部屋まで送って行きます 荷物は……管理人に台車を借りて運び込みましょう」 「篤史、本当にありがとう」 「気にしなくて良いです」 脇坂は野坂の頭を撫でた マンションへと野坂を帰らせ、脇坂は管理人に頼んで荷物を部屋まで運ばせた 荷物を野坂の部屋に運び込むと、野坂は段ボールをガサゴソやっていた 脇坂はそんな野坂に口吻を落とした 「では行ってきますね」 「ん……行ってらっしゃい」 野坂はにぱっと笑って脇坂を送り出した 野坂は脇坂が出て行って、段ボールの中を探っていた この段ボールの中は…… 野坂の捨て去りたい過去だった 持っていると辛いから祖母の家に預けた過去だった その過去の中から…… 野坂は写真を取り出した 脇坂は会社に戻ると、野坂を迎えに行って出来なかった仕事を片付け、会議を終わらせた ある程度片付いたから帰宅の途に着こうとしていると 『脇坂編集長 野坂先生の関係者に逢いたいと、野坂先生のお知り合いだと言う方が受付に来てます どうなさいますか?』 と内線が入った 脇坂の帰宅に合わせた様なタイミングで受付から来訪者を告げた しかも野坂の知り合いだと言う存在を…… 『どうしますか?』 「………野坂の知り合いなの?」 『本人にはそう仰有ってるそうです』 「何処にいるって?」 『一階の受付カウンターにいらっしゃいます!』 「お逢いしますので少し待って貰って下さい」 脇坂は受付の方にそう言い電話を切った 「僕は来客に逢って、そのまま帰宅します 緊急なら電話して下さい」 緊急じゃないなら電話をするな……と言い残して脇坂は編集部を後にした 編集部の皆は脇坂を送り出して、集まった 「………誰かな? 野坂先生のお知り合いだと仰る方……」 「…………気になるね……」 男性社員は言った 「………脇坂編集長……1階のカフェに行くかもね……」 女性社員は呟いた 「………行くしかないわね!」 既に仕事放棄する気満々で脇坂の後を追った 受付カウンターに行くと、脇坂と同じ年位のサラリーマンが立っていた 脇坂は受付嬢に「野坂先生のお知り合いと仰られる方はどちらにおられます?」と尋ねた 受付嬢は笑顔で「こちらの方です」とご案内した 脇坂は来客の男の前に立つと 「野坂先生の担当をさせて戴いています脇坂と申します 野坂先生のお知り合いと仰られる方は貴方で間違いないですか?」と問い掛けた 男は「はい。そうです」と答えた 「どの様な用件かは立ち話も何ですし この階にカフェがあるので、そちらでお話しましょう?」 どことなく脇坂に似てる男の容姿に……… 脇坂は……コイツか………と直感した 脇坂は1階のカフェに連れて行った 編集部の皆は解らない様に‥‥編集長の後ろに隠れて座った 「お話と言うのは?」 「………アイツ……どうしてます?」 「………野坂先生ですか?」 「…………そうです……」 「………失礼ですが、野坂先生とはどう言ったご関係ですか?」 「………失礼……名刺は…要りませんよね? 安藤と言います……安藤司…… 野坂が……赤蠍商事に勤めていた時の同僚です」 意外な個とを謂われて脇坂は驚いていた そんな話は聞いたこともないし プロフィールにも書いてない 「………え?……野坂先生……赤蠍商事に勤めてたんですか?」 脇坂は知らなかった 赤蠍商事(通称レッドスコーピオン) 揃わないモノはないと豪語する日本最大の総合商社として名を馳せていた 海外を拠点として幅広い顧客を持つ総合商社として語学堪能でなければ入社は出来ない そんな事が謂われる会社だった 謂わば赤蠍商事はエリート集団の塊の会社だとと言っても過言ではなかった 「僕は営業三課で仕事をしていました 野坂も営業三課で一緒に仕事してました 僕が東南アジア諸国で野坂が中南米諸国を担当してました」 「……そうですか…… 野坂先生が経歴に残さなかったので詳細は存じません で、どう言ったご用件なのでしょうか?」 「………アイツに………悪かったって伝言お願いします」 「………ご本人に直接でなく、伝言で宜しいのですか?」 「………本人に合わせる顔は持ってません…… ずっと……気にしてました…… …自殺未遂おこして……そのまま会社を辞めた…… 原因は……僕達が熾烈なイジメをしていたから…… 今も野坂が泣いて……ごめん……と言う……あの言葉(声)が耳から離れない…… 僕は最低の事をしました…… 憂さ晴らしに野坂を使ったんです 野坂はボロボロになり……自殺未遂を起こした……と連絡が入った その後すぐに……野坂は退職した…… 僕は野坂がイジメられる様に.…野坂はゲイだと誹謗中傷した ゲイ菌が移るから寄るな.… そう言い陰湿なイジメを繰り返した ………罵って下さって結構です 許されたくても……許されるモノではない……」 安藤は顔を押さえて泣いていた 「今後一切野坂の事は心配無用で構いません 野坂は……生まれてきてごめんなさいと泣いてた子供のままじゃない…… 野坂はうちの部署の社員達に愛されてます もう貴方が苦しむ必要などない…… 忘れてください」 脇坂は安藤に対して厳しい言葉を投げ掛けた 安藤は許される為に来たのではないと解っておるから‥‥‥ 敢えて心配無用だと謂った ‥‥‥‥多少は嫉妬は含まれているかも知れないが‥‥ まぁそれは野坂を愛している者として当然と謂えば当然の事だった 脇坂は編集部の子達が後を追って来ているのは知っていた だから敢えて声を掛けた 「ねぇ、仕事をさぼって来てる君達も、そう思いませんか?」 編集部の社員達はギクッとしたものの、観念して脇坂の側に寄った 「野坂先生は可哀想な子供のままじゃない…… 今の野坂先生は幸せに笑ってます!」 女性社員は野坂が幸せに笑ってると安藤に伝えた 男性社員は「野坂先生は編集部の癒し系です! そんな心配無用です!」と言いきった 脇坂は笑って紅茶に口を付けた 「野坂は一歩ずつ歩み続けてる…… 可哀想なあの時のままの子供じゃない 野坂なりに進もうと足掻いてる 苦しみや悲しみの中には…… もういないんです」 安藤は‥‥‥静かに瞳を閉じ‥‥聞き入っていた そして目を開けると 「………そうですか……… 安心しました…………」 と、脇坂の瞳を射抜いて…… 「………あの時……確かに……君を愛していました……と伝えて下さい……」 安藤は涙を流した それ位の意地悪……許されますよね? 目の前の男こそ…… 野坂が愛して止まない男なのだろう ………安藤は立ち上がった 「………僕は……ブラジルへ転勤になりました…… 当分日本には戻って来る事はありません…… ケジメを付けに来ました」 「…………ご無事で……」 「ありがとうございます」 安藤は振り返ることなく歩いて行った 愛していたんだ野坂を…… 彼なりに愛していた だが彼は……野坂を否定した ゲイだと言うレッテルを貼られるのを拒んだ 想いと裏腹な………愛なのだ…… 安藤が帰り……後を付けた社員全員が脇坂に 「済みませんでした」謝罪した 「野坂が気になったんでしょ?」 社員は「はい!」と答えた 「………まさかね……お祖母様は僕に似てると言ってたけど…… あれ程とはね……」 脇坂は独り言ちた 「…………編集長……双子だったんですか?」 「…………いえ……双子だった事実はありませんけど?」 「………似てますね……」 「……僕も気味悪くなる程に似てたね…… 野坂は離れてても……僕が好きだったんですね……」 あんなに生き写しの様な存在がいようとは想いもしなかった 「…………編集長……野坂先生は怖かったんですね……」 女性社員が脇坂にそう言った 「………言葉は時として人の権利や尊厳も奪う……からね…」 脇坂は野坂の受けた傷に……胸が痛んだ 「編集長……野坂先生の傷は深いかも知れない…… でも……本当に我が編集部は野坂先生を大切に想っています ……って伝えたいと想います 野坂先生に編集部をあげて手紙を書きます 編集長、渡してくれますか?」 女性社員はみんなの声を代弁した 「野坂には必ず渡すよ 野坂、喜ぶだろうな」 脇坂は嬉しそうに笑った 「では僕は帰ります 部署で仕事が残ってる人は編集部に戻って、そうでない人は帰宅して下さい」 編集部のみんなは「はい!」と返事をした 他の部署の人間もカフェにはいた 東栄社きっての団結力を持つ小説部門は和気あいあいと仲良く見えて、他の部署の社員には羨ましい存在だった 脇坂は帰宅の途に着いた 脇坂は信号待ちで野坂に電話を入れた 「知輝、もうじき帰ります 応接間で待ってて下さい」 『解った………ありがとう篤史…』 「愛してます知輝 少し待ってて下さい」 脇坂は電話を切った マンションへと向かう 自宅に野坂がいると想うと、心が弾む 一分一秒でも早く家に帰りたいと思う 昔は家に帰るのは面倒だった 家を見せると目の色を変えて擦り寄って来る奴らも鬱陶しかった 今は違う 野坂の過ごす家に少しでも早く帰りたい 野坂は豪邸に住んでいても変わらない どの部屋も好きに使いなさい と、言っても自分の部屋と応接間にしかいない 脇坂がいなければ脇坂の寝室にも行かない 野坂があの家で寛ぐ姿を見るのが好きだった 野坂の還る家になれば良い そう思っていた 野坂が過ごしやすいと想って欲しい この家に住み着いて欲しい 玄関を開けると最近は野坂が飛んできて、脇坂に抱き着いた 「お帰りなさい」 そう言って抱き締めてくれる腕が……愛しい 「………篤史……話を聞いて欲しいんだ」 「良いですよ 何でも聞いてあげます」 二人して応接間に行った 脇坂は野坂の横に座った 野坂の手を握り、手の甲に口吻を落とした 野坂はテーブルに裏向きに置いておいた写真を手にして 「この写真を見て欲しい……」 と言い会社に勤めてた時の部署の社員たちと撮った集合写真を見せた 「…………この人……」 野坂はある一人を指差した 野坂の指差したのは……… さっき会社で逢ってきた男だった 「………脇坂……お前に似てるんだ……」 「…………この人……好きだったんですか?」 「…………脇坂に似てるから…… 傍に行きたいと想ったんだ…」 「………似てますね……僕に……」 「脇坂に似た同期の安藤って言うんだ 安藤は俺に優しかった 何時も一緒に行動していた 必要以上に安藤を見たから……安藤は……僕が好きなの? と聞いて来た 俺は………答えられなかった 俺は……安藤の中に……脇坂…… お前を見ていたんだ 安藤と俺は……恋人になった ………俺は安藤に抱かれていたんだ…… 安藤に抱かれていると……お前に抱かれてるみたいで…… 俺は夢中になった 会社の同僚は……そんな俺達の微妙な雰囲気を嗅ぎ取った 俺と安藤がデキてるんじゃないか……そう噂を立てられた 安藤は……俺から離れた 『辞めてくれよ!僕が野坂なんとか……冗談は辞めて下さい』そう言い………俺を突き放し……結婚したよ 安藤は……同僚達と俺を虐めた 俺のPCを初期化したり……誹謗中傷を流した 会社中の奴が……俺をゲイだと罵った 触るな……寄るな……エスカレートして行くんだ 俺は会社に行くのが嫌になった…… 風呂場で手首を切って……自殺未遂をおこした 発見したのは……ばぁちゃんだ もう疲れた……って電話したんだ だから……ばぁちゃんは……気になってマンションまで見に来たんだ そこで俺が……浴槽に手首を切って入ってるのを見つけた 俺は………助かったベッドの上で……泣いたよ 生まれて来ていけない子なのに…… 神はまだ俺に生きろと言うのか………って絶望した ばぁちゃんが…… 会社に退職届を出してくれて……会社を辞めた ………それからは……ばぁちゃんが養ってくれて…… 俺は小説を書いて食える様になるまで……保土ヶ谷のばぁちゃんちで暮らしていた……」 野坂は全部……脇坂に話した 脇坂は野坂の涙を拭ってやりキスした 「……君 赤蠍商事に勤めてたんですね」 赤蠍商事とは一言も言ってなかった 野坂は驚いた顔して脇坂を見た 「……安藤司……って言うんですね」 「………何で……知ってる?」 「今日……本人が会社に訪ねて来ました」 「………え?………安藤が?」 「………ごめん……って伝えて下さい……って伝言を預かってます」 「………そうなんだ……」 「……君のことを……愛していました……と言ってました…… 転勤なさるそうです 当分日本には帰って来ないので……ケジメを付ける為に…… 出版社の方へ来たのだと想います」 「………安藤……転勤するんだ……」 「………薬指に……指輪の痕がありました……」 離婚したのか……その指に指輪はなかった…… 「………俺には関係のない人だから……もう良い……」 「……君は……」 野坂は脇坂を見つめた 「何?」 「彼を愛してましたか?」 「…………あの頃の俺には……彼が必要だった…… 嫌われて虐められたけど……憎めなかった 彼を憎めば……安藤の中に……脇坂を見たズルい自分も憎まなきゃならない………」 「………編集部の子達は…双子ですか?と言う程にね……似てました」 「……性格は全然違う…… 安藤は優しすぎるんだ…… それで自分を追い詰めて……馬鹿みたいに…… 優しすぎるんだ」 「………寝てた……と聞いて妬けてますけど?」 「………妬いて貰えたの?」 脇坂は野坂を抱き締めた 「妬きますよ? 君は僕の恋人でしょ? 僕は……自分で知りませんでしたが……結構……嫉妬深いです 本気で……こんなにベッタリな生活したのは君くらいなものです」 「……篤史はモテるから……」 「……そのモテるも怪しいです 僕と半年続いた恋人なんていません……」 「何で?」 「………僕が聞きたいです……」 「……なら今度、笙君にで聞いてみるか?」 「……………嫌です アイツ等は僕の性格にあると言うに決まってます」 「篤史は昔から変わらない 変わらず俺の傍にいてくれる 俺はそれが嬉しい」 脇坂は頬を赤くして照れた 「……知輝……君は昔から変わらず僕の傍にいてくれますね 僕は……ずっと君といたい……と想ってました 離れて暮らした時も野坂はどうしてるかな? 何時も想ってました 恋人と上手くいかないと時も、仕事をしている時も、何時も想いました 野坂なら傍にいてくれるのに…… こんな僕でも頼ってくれるのに…… 何時も……そう思ってました」 離れて暮らしていた時間を脇坂が語る 傍にいきたいと想っていてくれて野坂は嬉しくなった 「……俺も……脇坂が傍にいてくれたらな…… 何時も思ってた…… 俺が……ばぁちゃんに好きだと話したのは……脇坂だけだから……」 「……君は……僕と離れても僕といたかったんですか?」 あんなに似た男を……選ぶ程に…… 「……脇坂といたかった…… 許されるなら……ずっと脇坂の傍で笑っていたかった……」 「………もう……僕がいます オリジナルがいるんです 君は僕となら乗り越えられない坂道はないと言いましたね どんなに苦しく険しい坂道だって、僕となら乗り越えて行けるって言ってくれましたね」 「ん……篤史がいてくれるなら……歩みは遅くとも…… 俺は……乗り越えてみせる」 「……もう君を虐める人間はいません もし君を傷付ける人間がいたとしても…… 君はもう泣いてるだけの子どもじゃない 生まれた事を悲観してる子どもじゃない……そうでしょ?知輝」 「うん!俺は篤史と出逢えて、初めて生まれて来て良かったと思えたんだ もう泣いて総てを悲観してるだけの子どもじゃない」 「僕がいます」 野坂は脇坂の背を掻き抱いた 「………愛してる……」 「僕も愛してます」 野坂は脇坂に口吻た 口吻は深くなり……貪る接吻になり…… 体躯が熱くなって来た 「……篤史……ベッドに行こう……」 応接間のソファーの上でだなんて…… 恥ずかしすぎた 「………移動するまで持ちません……」 脇坂は野坂のズボンを下着ごとずり下ろし脱がせた 「……知輝……1回イキなさい……」 ローションがないから1回イケと言われた 穴が疼いた 脇坂が欲しいとピクピク蠢いていた 脇坂は野坂の脚を折り曲げて腰を突き出させた ペロペロと蕾を舐められると…… 襞が痙攣した様に戦慄いた 指を挿し込まれ……掻き回されると……欲しくて欲しくて……疼いて貯まらなくなった 「……篤史……欲しい……」 野坂は脇坂を挟んだ そして催促する 「早く挿れて……お前のコレを……挿れて……」 「……可愛くお強請りされたら……止まりません」 脇坂は誘われるまま野坂の中へ押し入った 「……あぁっ……篤史……ぁん……ぅぅん……」 「キツい?」 「良い……篤史の掻き回して…… そしたら慣れるから……あぁっ……そこ……イイっ……」 脇坂は野坂の弱い所を責めて掻き回した 野坂は夢中になり脇坂の腰に脚を搦めた 「……イクっ……篤史…イッちゃう……」 「僕もイクので……一緒に……」 脇坂は腰をグラインドさせてピッチを早めた 野坂は下腹部を痙攣しながら……イッた…… 最近の野坂は性器を擦らなくても……イッてしまうトコロテン状態だった 「……篤史……熱い……」 「君が欲しい熱さでしょ?」 「………ん……欲しかった…… 奥に篤史の熱を感じたかった……」 野坂は脇坂の胸に顔を擦り寄せた 「知輝……一度抜いて上に乗って…….」 脇坂は野坂の中から抜くと、ソファーに寝そべった 勃起した肉棒はテラテラと濡れて光っていた 野坂は脇坂の肉棒に目が釘付けになっていた 「おいで、知輝」 野坂は脇坂の上に乗った 脇坂の肉棒を咥えて腰を沈める 騎乗位はより深く脇坂を咥えてしまって…… 奥に脇坂を感じられた 「ほら、腰を揺すって……」 甘く唆されて野坂は腰を揺すった 脇坂は野坂の首筋を舐めながら吸った チクッと痛みが走る程に吸われて…… 野坂はより熱くなった 「ほら知輝、君の好きな乳首を触って……」 野坂に乳首を摘まませた その指の間を脇坂は舐めた 「……篤史……篤史……あぁん……イイっ……」 野坂は仰け反った 脇坂は仰け反った野坂の鎖骨に噛み付いた 「………っ………うぅん……ちゃった……」 野坂はその刺激でイッた 「知輝、早いです……」 「んなこと言っても…気持ちよすぎて……止まらない……」 好きなように 好きなだけ 野坂は脇坂を味わう 尽きない欲望に朦朧となりながらも野坂は脇坂を食べた 「…俺のだ……篤史の全部は俺のだ……」 「全部君のです……離さないで下さいね」 脇坂は野坂の中から抜くと、うつ伏せにして腰を高く突き出させ 後背位から挿入した 野坂の背中を吸いながら……時間をかけて味わう 脇坂にとって野坂の体躯は中毒だった 一度抱けば……スブズブに溺れて……抜け出せない泥沼みたいに……抱きたくて……止まらなくなる 「……はぁ……はぁ……篤史……もぉ許して……」 「まだ僕は満足しません」 脇坂が満足まで野坂は脇坂に蹂躙される 意識が朦朧となり……訳が解らなくなる それでも野坂は脇坂を欲した 愛してると……脇坂を求めるのだ タチの悪い……モノを食べた者は中毒になるしか…… なかった 野坂の体躯は精液でドロドロだった 応接間のソファーも……悲惨な状態だった 皮のソファーにして正解だったな 布か天鵞絨なら……シミになり大変だった…… 意識を手放した野坂が寝そべっていた 流石と……今日はネチっこかったかも…… 「……知輝……大丈夫?」 「……大丈夫……って言いたいけど、立てる自信ないかも……」 「支えて行くのでバスルームに行きますか?」 「……ん……」 野坂は何とか立ち上がった 立ち上がると脇坂のが流れだし…野坂は身を震わせた 「流れて来ましたか?」 「ん……俺は男だから……留めておける場所ないからな……」 「……女だって流れて来るでしょう?」 「………解らない……女とは犯ってないから……」 「……そうか……女でも精液全部受け止めて貯蓄してる訳じゃないですよ」 「そうなのか……でも女なら子供が作れる……」 「知輝、子供が欲しいの?」 「篤史のDNAを受け継いでる子なら欲しい……」 「僕は君が産む以外は要りません」 「何か凄く嬉しい……」 野坂は脇坂に抱き着いた 脇坂に支えられて浴室に向かう 「篤史、洗って」 疲れすぎた野坂は楽な方を口にして甘えた 脇坂は野坂の体躯を洗ってやった そして長い指で、中の精液を掻き出してやると 更に野坂はヘロヘロの状態になっていた 逆上せる前に浴室から出ると、野坂は犬みたいにブルブル水気を撥ね飛ばしていた 脇坂はバスタオルを野坂に渡すと、野坂は怠そうに体躯を拭いてドライヤーをかけた まだ水気があるのに風呂から出ようとする野坂の髪を乾かしてやると野坂は裸のまま風呂から出て逝った 着替えを持って来てないのに脇坂は気付くと苦笑した 脇坂も髪を乾かして裸のままクローゼットへと向かう 服を着ていると、脇坂の携帯が鳴り響いた 脇坂は携帯を取った 「脇坂です!」 『編集長!編集長のお宅に伺ったらいけませんか? そんなに長居はしません! 野坂先生に渡したいモノがあるんです』 電話は編集部の人間からだった 「………直ぐに来ますか?」 『今会社なので、20分位掛かります 遅くなりますが……宜しいですか?』 脇坂は20分位後と聞いてホッとした 直ぐに来たいと言われたら断るしかない応接間の惨状たったから…… 「マンションに着いたら連絡下さい 鍵を解錠します」 『解りました』 脇坂は電話を切ると、応接間に行き掃除を始めた 「知輝、会社の人が来ます ソファーを除菌して拭いて下さい!」 野坂は雑巾を取りに行くとソファーを拭いて除菌した 脇坂はソファーを野坂に任せて、脱ぎ散らかした服を片付け、掃除機を掛けた お部屋の香水をぶっ掛けて、何とか見られる応接間にした 「………知輝……精液の匂い……しませんよね?」 野坂は真っ赤な顔をした 「……やっぱベッドに行けば良かった……」 「………此処で股を開いた君も同罪ですよ ほら片付けて!」 野坂はピカピカにソファーを磨き上げた 脇坂はあっちこっち掃除機を掛けていた 脇坂は奇麗好きだった 神経質な程の奇麗好きだったけど…… 野坂が拗ねて散らかすうちに……少し位散らかっても気にならなくなっていた だが来客が来るなら別だ 玄関もピカピカに磨き上げて、とにかく見られる様にした 掃除を終えた頃、脇坂の携帯が鳴り響いた 脇坂は野坂を見た 野坂はブラウスを着ていた…… だらーんと着るから胸元のキスマークが見えていた 首筋にも……ビッシリ着いていた 「はい脇坂です」 『マンションの下にいるのですが…』 「解錠するので最上階まで上がって来て下さい」 『解りました 上まで上がった呼び鈴を鳴らします』 脇坂は電話を切ると野坂の服を露出の少ないのに変えた 首筋は……少し見えるが、ブラウスよりマシだった 野坂は気怠そうにしていた 「俺……自分の部屋にいる……」 「構いませんよ 皆は君に会いに来ると想います」 暫くすると玄関の呼び鈴が鳴り響いた 脇坂は野坂をソファーに座らせて、玄関へと向かった 玄関を開けると編集部の女性社員と男性社員が6名立っていた 「いらっしゃい どーぞ!上がって下さい」 脇坂が招き入れると編集部の人間は応接間へと入って行った 脇坂は応接間に編集部の人間を招き入れてソファーに座らせた 「座ってて下さい 紅茶しかありませんが淹れて来ます」 脇坂は紅茶を淹れに行った 応接間のソファーには野坂が座っていた 気怠そうに野坂は座って、編集部の人間を見ていた 「野坂先生、お久しぶりです」 「……うん……久しぶり…」 野坂はにぱっと笑った 「元気ですか?」 「ん……元気だよ……」 脇坂が紅茶と茶菓子を用意して応接間にやって来た 編集部の人間の前に紅茶とお茶菓子を置いた 野坂の前に紅茶とケーキを置いた 「これ!」 野坂はキラキラの瞳を脇坂に向けた 「食べたがってたのでしょ?」 「うん!」 野坂はケーキを食べ始めた 「野坂先生……今日は貴方に逢いに来ました」 女性社員は野坂の前にお茶菓子が入った袋を置いた 「野坂先生、俺達は野坂先生が大好きです! ですので来られないのは淋しいです これ、約束の桜餅です!」 と男性社員は桜餅の袋を置いた 「……あの……ありがとう……」 野坂はにぱっと笑った この笑顔……見られなくて淋しかった…… 女性社員は泣き出した 野坂はオロオロになった 「………俺……どうしょう!」 ソファーから立ち上がって脇坂に手を出した 「何ですか?この手は…」 「俺ハンカチ持ってない…… 脇坂ならポケットに入ってそうだから……」 「……人のハンカチで涙を拭こうって魂胆ですか?」 「うん!」 脇坂は野坂にハンカチを渡した 野坂は女性社員にハンカチを渡した 「涙を拭いて……俺……どうしたら良いか解んなくて困る…」 「………野坂先生……そのハンカチ……鬼の編集長のですね! 有り難いですけど……辞退します……」 「……え?ならタオル持って来ようか?」 野坂は首を傾げた 「野坂先生……編集部には…… もう来てくれないのですか?」 「………俺……今何も書いてないんだ…… 打ち合わせも頓挫して……何も書いてない…… だから編集部に行けなくて……引き籠もってた……」 脇坂だけを待って過ごした 傷付いた心は脇坂が癒やしてくれた…… 「書かなくも遊びに来て下さい!」 「………それは嫌…… だって皆……仕事してるのに俺だけ遊びに行けない……」 「……なら書いて下さい 編集長と打ち合わせして下さい そしたらまた皆で楽しくお茶が出来ます 私達、野坂先生と過ごす時間が物凄く大切なんです」 女性社員が言うと男性社員も 「野坂先生!本当に編集部に来て下さい! 原稿取り立てて帰って来た時に野坂先生が編集部にいるだけで、癒やしになってます! 野坂先生がいる編集部の雰囲気が好きです! 桜アイス買って来るんで是非編集部に来て下さい!」 熱望されて野坂は泣いた 「……知輝……その手のハンカチで涙を拭きなさい 結局、君が涙を拭く為に要ったみたいですね」 脇坂は笑った 「俺……書きたい話があるんだ…… 熱き想い の完結はそれを書いた後に書こうと想ってるんだ だから編集部に行って打ち合わせをするよ!」 「野坂先生!待ってます!」 「うん、待ってて」 野坂は楽しそうに言って紅茶を飲んだ 編集部の人間は野坂が編集部に来ると聞き、ご機嫌になった 「では、編集長、お邪魔しました!」 「夕飯食べて行きますか?」 脇坂が言うと編集部の人間は…… 「畏れ多い……帰ります 今度、野坂先生を含めて飲み会したいです! 編集長、考えておいて下さいね!」 「野坂先生次第ですね この人お酒弱いですからね ごみ捨て場で寝てたとか言うし‥‥ 考えおきます! 今日はありがとう!」 脇坂は皆に頭を下げてお礼を言った 野坂も「ありがとう」と礼を要った 「では帰ります お邪魔しました!」 編集部の人間は立ち上がった 野坂も立ち上がろうとして…… 「………っ……」 断念した 摩耗が半端なくて……立つのは無理だった 「……君は座ってなさい……」 「……ごめん……此処で見送りにして良いかな……」 何となく……背筋を冷たい汗が伝っていく 立てない程…… そう言えば野坂の首筋に…… 吸ったばかりのような新しい痕が……着いてるし…… 編集部の人間は……ヤバい時にお邪魔したのか…… と脇坂に申し訳なく思った 「………編集長……済みませんでした……」 女性社員は一頻り謝った 脇坂は、シーッと唇に指を当てた 「野坂は気にするのでスルーでお願いします」 「………あ……そうですね! 野坂先生!待ってますね!」 編集部の人間は次の約束をして帰って行った 編集部の人間を送り出して脇坂は応接間に戻った 野坂はソファーに座っていた 脇坂は野坂に手を差し出した 「お腹減ってますか?」 「ケーキ食べたからな……減ってない」 「なら寝ますか? 明日、朝食は一緒に取りましょうね」 「うん!篤史と一緒に食べれるのは嬉しい」 「書きたいのって……何ですか?」 「………安藤の事を書こうと想う…… 何時か……アイツが俺の本を読んでくれる日がある時の為に…メッセージを遺そうと想う それが……傍にいてくれた男に送るお別れだと想う……」 「……妬けますが、君を渡す気は皆無です なのでお別れ位は言うのは構いません」 「篤史……寝よう……」 野坂は脇坂に抱き着いた 脇坂に手を引かれ、野坂は脇坂の寝室に向かった 服を全部抜き捨ててベッドの中に入った 互いの熱を感じて抱き合って眠った 久しぶりに気持ちの良い眠りだった

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