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第25話 坂道上れば
野坂の体調が戻る頃
季節は夏に突入しかけていた
野坂は連日祖母の所に寝泊まりしていた
容態が芳しくない
もって3日……
と言われて……野坂は一分一秒でも祖母といる為、病院側に頼み込んで、付き添いをやらさせて貰っていた
祖母は昏睡状態だった
もうちゃんと話せなかった
このまま逝くかもと宣告されていた
「ばぁちゃん……」
野坂は意識のない祖母に声をかけた
時々、意識が戻って、野坂にニコッと笑ってくれる
野坂は祖母の手をずっと握り締めていた
胃潰瘍で落ちた体重は元に戻っていた
あの後、脇坂は野坂が不安想っている事総て話してくれた
「僕は昔、家の犬を抱き上げてお風呂に入れようとして暴れられて……風呂場で転んで脳振盪をおこし病院に運ばれました……
うちの犬は……倒れた時に足を骨折しました
その所為で‥‥うちの犬は二度と歩けなくなりました
以来……誰かを抱き上げて……と言う行為はしないようにしてるんです
大切な人なら‥‥余計ね、僕が転んで怪我など負わせたくありませんからね!」
まさか……犬を抱き上げて……
転んで病院送りになったとは……
想わなかった
「………ごめん……言わせた……」
「良いんですよ……
僕の後頭部は今もその時の傷が残ってます
坊主頭にしたら……そこだけ毛が生えてません……
なので、僕が坊主になる日は来ません」
至極真面目な顔で言われたら……
笑えない
「……篤史……別に俺抱き上げて欲しいなんて想ってねぇから!
抱き上げて欲しいなら篤史、お前を抱き上げてベッドに運んでやるよ!」
何ともまぁ‥‥やはり野坂はズレていた
脇坂は「…………それは遠慮したいです……」と辞退した
「そうか?残念」
「僕が君に抱き上げられたら……勢いで犯られそうです…」
野坂は爆笑した
「しねぇよ!」
「君、触るの好きですよね?」
「ん!篤史の体躯に触るの好き
抱かれてる時でも、抱かれてない時でも、篤史に触っていたい」
無意識 天然のタラシ……
魔性の男だ……
こんな危ないの野放しにしてたら……危険だ
「僕の箍を簡単に外すのは……君だけです」
優しく口吻され愛され熱い楔を打ち込まれ……
世界が揺れた
脇坂に愛されていたい
考えて……野坂は堪らない気分になった
立ち上がりトイレに行こうと病室を出た
ヤバい……病院に泊まり込みしてるから……
脇坂とは犯ってなかった
体躯が熱くなっていく
トイレに行こうとしてると腕を掴まれた
振り向くと脇坂だった
タイミングが悪い
「知輝、何処へ行くのですか?」
「………トイレ……」
野坂は顔を赤らめて……そっぽを向いた
脇坂は野坂を引き寄せて耳元で
「トイレに何をしに行くんですか?」
と揶揄した
「………篤史……離せ…」
「離しても良いですが……そんな顔してトイレに行くのなら……目的を暴露してるも同然ですよ?」
脇坂は野坂を引っ張ってトイレまで行った
そして一緒に仲良く個室に入った
「……篤史……何でお前も?」
「……君、あんな欲情した顔で……トイレに行きますなんて言われたら……行くまでに君のフェロモンにやられた輩が着いて来ちゃいますよ?」
脇坂は洋式の便座の上に座って野坂を抱き寄せた
「……ちょっ……篤史……こんな場所は厭だ……」
「僕もね……こんな場所で犯るとは想ってもみませんでした」
脇坂は野坂を引き寄せると執拗な接吻で黙らせた
「ぁっ……声が出るってば……」
脇坂は野坂の服を捲りあげた
「この服を噛んでて……そしたら声が漏れません」
野坂は自分の服の裾を噛み締めた
「こんな場所なのでゴム使って良いですか?」
「……お前……何でゴムなんて持ってるんだよ!」
野坂は拗ねる様に謂った
「ほらほら、咥えてないと濡れちゃいますよ?
この前……病院で犯った時、ゴムなくて困ったので……身嗜みの為に持参して来ました
安心して下さい
僕は君以外と犯る気は皆無です」
野坂のズボンを脱がしてフックに掛けた
野坂は声が漏れない様にシャツの裾を咥えていた
「……んっ……んんっ……」
口を閉じていても喘ぎが洩れる
乳首を執拗に吸われ、お尻の穴を解された
そうなれば引くに引けない体躯になる
脇坂はズボンの前を寛げると……聳え勃った性器にゴムをはめた
そして野坂の性器にもゴムを被せた
「挿れます……」
野坂の中に挿入して中を掻き回すと……野坂は脇坂を締め付けた
口を押さえて……野坂は感じていた
ゴムの感触が嫌いだった
脇坂の熱を直に感じたくて……
ゴムを嫌った
でもこんな所で中出しされてら……精液が漏れて……匂いが気になって死にたくなる
野坂は擦られる事なく……ゴムの中に……白濁を飛ばした
脇坂も野坂の腸壁に締め付けられ……ゴムの中に射精した
「……篤史……」
クタッとして脇坂の抱き着く野坂のゴムを外して、ハンカチで拭いた
「何ですか?」
野坂の処理をしてズボンをはかせた
脇坂も大量の白濁が溜まったゴムを外した
縛って便器の中に放り込んだ
濡れた性器を拭いて、下着の中にしまった
「………熱い……ここ……」
「………そうですね……
こんな狭い場所に2人はキツいですね」
誰かがトイレに入ってくる音がして……脇坂は野坂の口をキスで塞いだ
「………ぁ……ぁぁぁ……」
と、声が漏れて……
「うわぁー!出たぁ!」
と男は逃げ出した
「知輝、今のうちに出ましょう!」
脇坂は野坂を促して、個室から出た
手を洗ってトイレから出ると息を着いた
「ジュース買ってあげます
ですから拗ねないで下さい」
トイレから出て野坂は少し拗ねていた
「拗ねてねぇよ…」
「唇が尖ってますよ?」
祖母の病院に野坂を連れて行くと、椅子に座らせた
脇坂はジュースを買いに行った
暫くして戻ってくると野坂の好きなジュースを手渡してくれた
「お祖母さまは?」
脇坂が聞くと野坂は首をふった
「ばぁちゃんの生前の遺言通り……息を引き取るまで親族には知らせない
ばぁちゃんが……この世を旅立ったら……弁護士に知らせる
そして葬儀告別式を執り行う喪主は……俺がする……」
「………知輝……君の母さんに……逢わねばなりませんね……」
野坂は脇坂に抱き着いた
「………篤史……傍にいてくれ……」
「当たり前です
君が喪主になるなら影で君を支えます」
「………ありがとう……
俺……どんな困難な坂道でも……お前がいてくれたら……乗り越えられるから……」
脇坂は野坂を抱き締めた
野坂の唯一無二の存在がこの世から去る……
その時……
野坂は母親に逢う事となる……
憎んで……
自分の生い立ちさえ……呪った
その母と……
逢わねばならなかった……
脇坂は病院から会社に通い、会社が終わると病院に逢いに来てくれ、野坂を支えてくれていた
野坂の傍に、脇坂はずっと着いていてくれた
一分一秒……カウントダウンが切られるような時間を送っていた
野坂は息を混濁させる祖母の姿をに泣いていた
日々……衰弱してゆく祖母には……
昔の凛とした気品はなかった
野坂は祖母から目をそらさなかった
明け方……
祖母の様態は急変した
血圧が一気に低下して意識が混濁した
野坂は泣きながら「ばぁちゃん!」と叫んだ
脇坂はそんな野坂を背後から抱き締めていた
医者が祖母の酸素を外した
野坂は祖母の手を取った
「と……もき……しわ……せに……」
「ばぁちゃん 逝かないで!」
祖母はニコッと笑っていた
「ばぁちゃん目を開けて!」
もう目はみえていないのだろう……
祖母は握られた手を力なく握り締め……
「……わ……き…さか……ん」
と脇坂の名前を呼んだ
脇坂は祖母の耳元で
「何ですか?」と問い掛けた
「……とも……き……を……」
祖母の眦を涙がこぼれ落ち流れて行った
「解ってます
知輝は任せて下さい!」
脇坂はそう言った
祖母は安らかな顔をして……
この世を去った
野坂は………ピーと鳴り響く心肺停止の音に……
祖母に縋り付いて泣いた
ばぁちゃん……
迷惑ばかり掛けて心配させて来た……
ごめん
ごめん……ばぁちゃん……
泣き崩れる野坂を脇坂は黙って抱き締めていた
脇坂は、野坂の祖母が息を引き取った事を弁護士に知らせた
弁護士は祖母の遺言通り、総てを執り行う手助けを致します……と脇坂に言った
『脇坂さんですか?』
「そうです」
『智恵子さんに伺ってます
知輝さんは?』
「………ショックで……放心状態です……」
野坂は……脇坂に支えられなければ……立っていられない程憔悴していた
『葬儀告別式は大丈夫ですか?』
「野坂を支えて執り行うつもりです」
『ではお願いします
ご親族には私の方から連絡を入れます
知輝さんがご親族にお逢いするのは葬儀の時だけです
葬儀の後に智恵子さんの遺書を公開します
遺産相続が終わってる事を伝えます』
「お手数掛けます」
『脇坂さん……智恵子さんが心配する程に……
野坂の人間と、生田の人間は……知輝さんに冷たく当たると想います
知輝さんを頼みます』
「解ってます」
脇坂は気を引き締めた
脇坂は弁護士との話し合いが終わると、東都日報社長の東城に電話を入れた
「脇坂です
今少し話せますか?」
『構いません!要件を伺いましょう』
「野坂知輝の母親の祖母が……
お亡くなりになられました」
『…………野坂先生は……どうなさってますか?』
「喪主をやらねばないので……気丈にしてますが、ショックは隠せません……」
『………私の所へ連絡して来たと言う事は報道規制して欲しいと言う事ですか?』
「そうです……野坂先生のご親族は野坂先生が喪主をなさる事に不満を抱くと弁護士先生が仰ってました
後……熾烈な遺産争いになるのが目に見えてます……」
『………そうですか……
時として人は……莫大な財産を前にすると正常な心を手放してしまいますからね……
解りました
野坂先生のお祖母さまを送る手助けをしてあげて下さい…
最期の時を……支えて差し上げて下さい……』
「………社長……ありがとうございます……」
『これ位しか私には出来ません……』
「……社長………本当に……ご迷惑をお掛け致します……」
『………野坂先生に……
お祖母さまのご冥福をお祈りしております……とお伝えください
少し落ち着かれた頃……お悔やみを申そうと想います』
「………ありがとうございます……
編集部の方には……少し休むと連絡をお願いします」
『解りました』
脇坂は電話を切った
弁護士に依頼された葬儀屋が、病院から祖母の遺体を運び出し、葬儀の準備に取り掛かった
弁護士は親族に生田智恵子の死去の連絡を入れた
葬儀告別式 密葬まで総て執り行う事にした
伸ばせば……厄介事ばかり増えるのは目に見えていたから……
弁護士が親族にはそう連絡を入れた
野坂は放心状態だった
泣くことも出来ず……
唖然としていた
信じたくない…
心が……総てを拒否っていた
通夜は野坂と脇坂の2人で見送った
静に……祖母の死を悼み……
送る事にした
そして葬儀告別式の席に親族が集まってきた
親族は棺に収まった祖母を見る事なく弁護士を探し始めた
親族の一人が
「何でお前がいるんだよ?」
と馬鹿にした様に野坂に声を掛けた
こうなる事は想定内だった
野坂は……親族縁者からは……邪魔者として育ったのだから……
弁護士が文句を言って来た親族に
「生前の生田智恵子さんの遺言で、喪主は野坂知輝さんに決まってます
それは故人のたっての願いなので、変更はありません」
「まぁ、良い
ばぁさんが死んだんだ
遺産はどうなってるか俺らは知りたいだけだ」
死者を前にして……
遺産相続……
野坂は耳を覆いたくなった
「保土ヶ谷の家は面識が広いからな売ればかなりになるよな?
預貯金も入れたらかなりになるからな」
野坂は聞きたくなくて……
祖母の棺に抱き着いた
弁護士はあからさまな親族に
「葬儀が終わったら公開しようかと想っていましたが……
あなた方見ていると何時公開しても同じだと思いました
遺産相続は既に処理されております!
保土ヶ谷の家は既に処分され遺ってはおりません」
毅然とした声で伝えた
怒声が部屋に響き渡った
「その金はどうした!」
「終末期医療の施設に入る時に、総て処分され、お金は総てご自分の為に使われました
この事を公表すれば……あなた方は葬儀場から出て行くだろうと申されてました
ですから……智恵子さんはお孫さんの知輝さんに喪主になってくれ……と頼まれたのです」
「こんな何処の馬の骨とも解らねぇ奴に頼むしかなかったのか!
そういゃコイツ、何か賞取ったみてぇじゃねぇか!
葬儀代払っても惜しくなんかねぇんだろ?
俺らにも寄越せよ!」
野坂にたかろうとする奴が野坂に迫る
「母さんの葬儀の場だと解らない人はお帰りなさい!」
声が響き渡った
喪服を着た美人が葬儀場の中へ入ってきた
「………母さん……」
野坂は呟いた
智恵美が姿を現すと……
煙たがってる親族は、帰って行った
「知輝さん お久しぶり」
智恵美は凛と前を向いて野坂に言った
野坂は深々と頭を下げた
智恵美は母の棺の前に立った
「……母さん……優しい顔してるのね……」
「最期は……苦しむ事なく逝けました……」
「そう……」
「………一人ですか?」
「………母さんは生前から……喪主は知輝さんに頼む……と言ってました
ですから……あの人たちは遠慮して貰いました
貴方の顔を見たら……お金の無心をしそうですからね……」
「………え?お金の無心?……
どう言う事ですか?」
「あの人の会社……不渡り出したの……
野坂の家は……かなり厳しい
時間の問題です……
そうなると……あの人たちは言うのです
知輝……小説家としてかなり収入あるんじゃないか?
ちょっとこっちに援助して貰えないかな?……とね」
野坂は困った顔を脇坂に向けた
「………母さんの遺産も期待されてました
母さんは生前から遺産は遺さない……と言っていたと言っても……もう聞く耳すら持っていません」
「………野坂の会社……そんなに経営が厳しいの?」
「破産も時間の問題です
その前に資産を処分すれば……と言っても聞く耳は持ってはいない……
今日も遺産は幾ら位入るんだ?
と故人を冒涜する事ばかり……」
智恵美は……哀しそうに呟いた
葬儀告別式は智恵子の友人数人残って、野坂と脇坂、そして野坂の母の智恵美だけで送る事にした
僧侶が来て読経が響く中
野坂は祖母と永遠の別れをする事になった
しめやかに……葬儀告別式は執り行われ
火葬場へと向かった
祖母の遺体が荼毘に付される
野坂は……脇坂に抱き着いて泣いた
ばあちゃん……
ばあちゃん……
もう俺の心配は良いから……
安らかに眠ってくれ……
野坂は……
上り行く祖母の白い煙を……
何時までも見ていた
葬儀告別式を終え
火葬場を後にする時
智恵美は野坂を呼び止めた
「この後、お食事でも……どう?」
信じられない言葉だった
野坂は「少しなら……」と答えた
「少しで十分です
話しておきたい事もあります」
智恵美が言うと、脇坂は
「智恵美さんはお車でお見えですか?」と尋ねた
「いいえ、タクシーで参りました」
「そうですか
では帰りはお送り致します
僕の車で宜しいですか?」
「構いません」
脇坂は智恵美を連れて駐車場まで向かった
智恵美を後部座席に乗せ
野坂を助手席に座らせた
脇坂は接待でよく使う料亭に連れて行く事にした
料亭の駐車場に車を止めて、車から下りた
智恵美と野坂を車から下ろし、料亭へと向かった
料亭の女将には静かな席を用意して貰った
そして人払いした
料理が運ばれると、女将が
「御用の時はお電話を
それ以外は誰も近づいたりは致しません
ごゆりとお寛ぎ下さい」
と挨拶して出て行った
智恵美は野坂に
「元気だった?」
と尋ねた
「はい……」
「………貴方は……私の事を恨んでる?
貴方が家にいる時は……私は貴方を見なかった
野坂の家の人間は……貴方を家族として扱わなかった……」
「…………俺には……ばあちゃんがいてくれた
どんなに辛くて苦しい時だって……ばあちゃんは俺を気に掛けてくれて
だから……生きて来られた……
今は……脇坂がいてくれるから……貴方を恨んだりはしてません……」
「………母さんから……何時も聞いてました……
母さんは何時も……貴方の事を教えてくれた
脇坂さんが……知輝さんにとって……命よりも大切な事も……
母さんは教えてくれました
私は……貴方の母ではありませんでしたね……
貴方をみてると………瀬尾先生を想い出させる……
だから……目をそらしてしまった……
瀬尾先生を愛していました
だから愛する人の子を……生んだ
許されない事だと解っていた
離婚されても当然だと想っていた
愛を貫きたかったのです
確かに……あの時……瀬尾利輝と言う愛する男と愛し合った証を……遺して……
私の総てだったと……愛を貫きたかったのです……
でも……日に日に……瀬尾先生の面影が垣間見えて……
愛していた愛が……貴方に詰まっているのに……
私は貴方を見れなかった
後悔なんてしていない……
だけど……瀬尾利輝は……私のモノではない……
そんな想いに……追い詰められて……
貴方を見れませんでした……
家庭教師の男は……何処か……瀬尾先生に似ていた
あの男………
私に……知輝を抱いてると言ったのです…
流石親子、感じる所も同じだね……
アイツは自慢して言ってました
アイツに手を出されてる……
そう想ったら……
私の愛を穢されてるみたいで許せなかった……
貴方をあんな奴から解放するには……
あれしか手段はありませんでした……」
智恵美は我が子に詫びる想いで口にした
野坂はそんな母の想いを受け止め
「………母さん……もう良いよ……
俺は今……産んでくれた事に感謝をしてる
俺は………辛い事も多かったけど……生まれて来て良かったと想ってる
産まれて来たから俺は脇坂と出逢えた
だからもう……俺の事で……悔やまなくて下さい……」
智恵美は眩しそうに野坂を見た
「恋すれど……本でも映画でも見ました……」
「………ありがとうございます」
「私は貴方を産んで良かったと想ってます
愛してやれませんでしたが……
貴方は……私の愛です
その言葉を……貴方に伝えたかった……
知輝さん………本当にありがとう……」
「…………母さん……」
「野坂の家の者が……野坂先生に連絡を取ってきてると想います」
智恵美は脇坂を見据えて……そう言った
「はい……編集部の方に連日、連絡先を教えろと電話が来てます」
「それらは一切無視で構いません
野坂は終わります……
それで良いと……私は想ってます
遺産を手に入れ助かったとしても、経営者としては長男も主人も無能です
親の財産を食い潰すしか出来ない……
知輝さんに迷惑を掛ける気は御座いません……」
「………母さん……」
野坂は覚悟を決めた母の瞳に……言葉が出て来なかった
「知輝さん……お逢いできて本当に良かった……
幸せにね……
母さんも私も……それしか望んでおりません!」
智恵美は立ち上がると深々と頭を下げた
「帰ります」
「送ります」
脇坂はそう言った
智恵美は首をふった
「此処で……お別れにしましょう……
脇坂さん…知輝の事を宜しくお願いします」
智恵美は脇坂に野坂の事を頼んだ
そして背を向けると……料亭を去って行った
野坂は……それを見送り……
「…………野坂の家……終わるのかな?」
と呟いた
「良い思い出なんか家だった
父親や兄弟に疎まれ……
居場所のない家だった……」
それでも………
その家に……
母さん……貴方は還るのですね……
野坂は胸を押さえて……泣いた
「………何だろ?……
大嫌いだったのに……」
脇坂は野坂の手を握り締めた
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