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第29話 共に‥

脇坂の病室に編集部の皆が、やっと許されたお見舞いに駆け付けて来た 会社帰りに編集長のお見舞いに行くと……… 時々、野坂がベッドでスヤスヤ寝ていた 脇坂が起きてPCを操作してる横で、野坂は幸せそうな顔をして寝ていた 脇坂はそんな野坂を優しい瞳で見つめ笑った 「編集長……寝てなくて大丈夫ですか?」 これじゃ……どっちが病人だか解らない…… 女性社員が思わず聞く程で、脇坂は笑っていた 「もう退院したいんですがね…」 また無茶を言ってるよ…… と編集部の皆は顔を見合わせた 「………編集長……何で野坂先生は爆睡なんですか?」 「それは疲れたからですかね?」 脇坂はしれっと言った 「………編集長……貴方が言うと卑猥に聞こえます……」 「失礼ですね! こんな紳士的な男はいませんよ?」 脇坂がボヤくと皆が一斉に、笑った 「編集長……本当に……お元気な姿に……安心しました」 女性社員は泣いていた 「心配させてしまいましたね」 「編集長が元気なら……野坂先生も元気でいてくれる…… なので……安心しました」 「せっかく来てくれたんですからね……顔みたいですよね?」 脇坂はそう言うと野坂を起こした 野坂の耳元で「野坂、起きなさい」と優しい声で起こした 寝ぼけまなこの野坂が脇坂を見ていた 「……篤史……朝?」 「君は何回朝を迎える気ですか? 編集部の皆さんにご挨拶しなさい」 「編集部……」 野坂は慌ててベッドから下りた 「……俺……寝ちゃってた……」 編集部の皆は……ベッドから下りる野坂が服着てて良かった……と胸をなで下ろした 「野坂先生、はいスィーツ」 ベッドから下りた野坂に編集部の皆はスィーツを渡した スィーツを受け取り野坂は食べ始めた 野坂は少し痩せた 今までも細かった印象があるのに……更に細くなっていた 「美味しい…」 野坂は呟いた 嬉しそうに笑う野坂の首には……隠しきれない紅い痕が散らばっていて…… 編集部の皆は…… うわぁ……鬼畜だわ編集長…… 本当に疲れてる事をなさってらしたのね…… とは、言えず…… でも野坂がにぱっとわらっていたから由とした 「編集長……もうじき退院ですか?」 「………安静を取って10日…… に、4日プラスされたので二週間は入院してます……」 「……傷……開いた……とか?」 男性社員が鋭い突っ込みを入れると…… 脇坂の視線が鋭く光った 「傷が開く様なマヌケはしませんが……脇腹って案外不便ですね……」 ………それはどう言う意味ですか?編集長ぉ~ 「腰に力が入らなくて……疲れました…… トイレにも1人でいけなくて……野坂が尿瓶を持って立ってた時は……死にたくなりました…… 看護婦さんと俺……どっちに取られたい? 聞かれてみなさい……」 脇坂は本当に困った顔した 編集部の皆は笑って良いのか……困っていた 「………編集長……それ究極の選択過ぎます……」 「………でしょ?……」 「………で、どうしたんですか?」 「………自分でやる事は死守しました……」 脇坂は情けなく答えた こんなに人間臭い姿を見せられて…… 編集部の皆は……無機質なコンピュータと呼ばれていた当初を想い出す 脇坂篤史 帝王学を学び育てられたサラブレッドが畑違いの編集部に来た時の姿は… 後々語り継がれていた 官僚になっても惜しくない経歴の断トツな新入社員は奇異な目で見られていた 尖った脇坂篤史を此処まで温和に変えたのは…… 野坂なのは皆……解っていた 「編集長、でしたら後入院も半分を切りましたね」 脇坂の面会は1週間は許可されなかった 「ええ。後5日位ですかね?」 「退院されたら何日かは休まれるんですか?」 「無理です タヌキ親父達が原稿の手抜きを始めているので……復帰します 野坂先生の作品も打ち合わせしたいので、退院した翌日には復帰します」 「……少し位……静養されては?」 「無理ですね……既に副編集長……泣きを入れて来てます」 「……副編……離婚しちまえばサクサク仕事できるのに…」 「こらこら……それは言っては駄目ですよ」 病室が笑いに包まれた 野坂も笑っていた 目尻を下げて、にぱっと笑う顔は……本当に優しげで幸せそうだった 男性社員は「野坂先生、何か食べたいのありますか?」と問い掛けた 「ないよ!今は……何も要らない……」 脇坂さえいてくれたら…… 何も要らない そう聞こえた 「野坂先生、また編集部にお越しください」 「ん……打ち合わせに行くよ」 編集部の皆は面会時間の終わりまでいて帰って行った 脇坂の病室に珍しい人がやって来たのは退院を間近に控えた頃だった 脇坂の病室にやって来たのは 大御所俳優 榊 清四郎と榊原真矢、そして瀬尾愛那だった 脇坂の母、ルリ子に連れられてやって来た ルリ子と真矢と瀬尾藍那は、宝塚時代の同期なのだという 「脇坂君、久しぶりだね」 清四郎は脇坂に声を掛けた 「清四郎さん お久しぶりです」 「もう大丈夫なのかい?」 「はい!退院したら仕事にも復帰します 清四郎さん、今度エッセイの仕事して戴けませんか?」 「脇坂君……仕事の依頼も良いけど、横にいる子 紹介してくれないかな?」 「……勿体ないです……」 脇坂が言うとルリ子は篤史!と怒った 「野坂知輝です」 脇坂が紹介すると野坂は立ち上がってペコッと頭を下げた 「【熱き想い】書いてる作家さんですね」 清四郎は野坂を優しい眼差しで見つめた 「はい!熱き想いは俺が書いてます」 野坂が言うと清四郎は、野坂の手を取った 「ずっとお逢いしたかったです」 清四郎に言われて野坂はにぱっと笑った 「………笑った顔が……瀬尾君にそっくりだ……」 清四郎が言うと愛那が嬉しそうに 「でしょ!こればっかりは誰にも入り込めない血なんだよね……」 と呟いた 野坂は清四郎を射抜いて 「熱き想いはラストへ向けて書いてゆきます すべて書き終えた時、俺は何を思うのだろう……と想ってました 今はすべて書き終えても、俺は変わらぬ愛を貫く強さを書きたくて仕方がない 映画やドラマになっても俺の想いがちゃんと伝わる様に、書き終えたい そう思ってます」 「………君は……強いね」 「俺が強いと感じるなら… それは脇坂篤史が俺を支えてくれているからです 俺を表舞台に蹴り上げて、立たせるのは脇坂篤史 彼だけだから……」 「………私は……君の作品を読んで……無性にこの作品の主人公になりたくなった 彼を奮い立たせるのは……何なのか……私は知りたかった」 野坂は深々と頭を下げた 言葉にならない想いを……伝えるために…… 野坂は顔を上げると前を向いて話を始めた 「俺は書く事でしか存在を示せれない… そう思って生きて来ました 息を潜めて……このまま陽の目を見れない所にいなければならない…… そう思って来ました それが………産まれてはいけない子の使命だと…… でも……そうじゃない……と蹴り上げられ表舞台に立たされた それを俺は受け止め生きて行くつもりです 恥じない生き様 それが熱き想いの主人公なのだから……」 「野坂君」 「はい!」 「君の眼に……僕は……君の主人公になりうる存在として映ってますか?」 「………榊 清四郎の代表作と言われる【武士侍】より、相応しいと想います 熱き想いを書こうと想ったのは…… 貴方が……病気の子を亡くす映画に出てらした時です あの映画から感銘を受けました 俺のイメージは榊 清四郎さん貴方です 何もかも無くしても…… 始めようと立ち上がった姿に感銘して書き始めたのです 藩のためだけに生きた男が……浪人に成り下がり……それでも明日を信じて日々の鍛錬を怠らない でも不器用な男だから…… 何もかも無くしてしまう…… それでも諦めなければ…… 明日は築ける…… そう信じて俺は書き続けました 榊 清四郎が俺に書かせた作品です 貴方しかやれないのは当たり前です」 清四郎は泣いていた 康太には見えたのか? こんな野坂の孤独と葛藤が……見えたというのか…… それでも信じて…… 血反吐を吐きながらも立ち上がる 傷付く前より強く…… 前を見据えて生きていく 惹かれて止まない役だった 「俺は熱き想いを二年掛けて書いていました どの出版社にも言わず、自分の趣味で書いてました あの話は……作品にするつもりは無かった 俺は……表舞台に一切立つつもりは無かったから…… 作品の映画化やドラマ化は許可しなかった それ程に……あの作品は俺の中で特別なモノなのです 連載を始めたのは…… 俺を支える脇坂篤史に報いる為にだ! 飛鳥井康太は俺に言った 『お前の作品はお前の手を離れても、お前の思いは伝わる筈だ!』……と。 想いが伝わるなら……活字をリアルの世界に刻むのも良いかと想った リアルの世界に刻む作品は、やはり望む配役にやられたいものです 熱き想いが榊 清四郎さんがやられるなら…… それは意味がある事だと俺は想います」 野坂は胸を張り凜として答えた 脇坂は誇らしげに野坂を見ていた 真矢は「……お似合いの夫婦ね……篤ちゃんは伊織とキャラが被るけどね」と笑った 「……真矢さん……あの方と比べられては……困ります」 「似たようなもんでしょ?」 真矢はケロッとして言った 「………僕の何処が……」 脇坂がボヤくとルリ子は笑った 「その執着だろ?」 あっさり切り捨てた 脇坂はもう何も言うまいと決めた 「篤ちゃん、うちの笙の嫁が二人目を出産したのよ でね、お祝いやるの 篤ちゃんも知輝連れておいで! しかし……知輝も桜林で 同級生だなんて詐欺よね うちのはこんな可愛さないわ…」 野坂を撫でながら真矢はボヤいた 愛那も「うちの光輝も可愛くないわ……」とボヤいた ルリ子は「うちなんて皆……ウザいレベルよ? 篤人、篤弘はあの人に似てるからな……暑苦しいわ… 篤史は私に似てるから……可愛げがないわ…… でも……生きててくれれば……それだけで良い…… 長男の篤之を亡くして……そう思う様になってきたわ……」 長男を亡くした時のルリ子の憔悴ぶりは見ている方を辛くさせた ルリ子は息子の頬に手を当てた 「退院したら食事の場を用意して……約束よ」 「はい!解りました」 「………気難しい貴方が……選んだ子なら…… 家族は受け入れるわ…… 生きていてくれれば良いんだから…… お前が幸せでいてくれれば良いんだから……」 「……母さん……」 「お前の護るべき存在を…… 私達にも護らせて…… 一人では頼りなくても……守りたいと言う人が集まれば強靱な力になるわ…」 脇坂は瞳を閉じて……頭を下げた 「知輝、貴方……うちに来た事あるのよ? 覚えてない? 篤史が一度だけ夏に貴方を連れて来たでしょう?」 ルリ子の言葉に…… 野坂は記憶を巡らせた 桜林の高等部の寮が工事で閉鎖された時 野坂は帰れなくて…… 公園でホームレスみたいな生活を送っていた その時、強姦それそうになって……抵抗したら殴られる暴行を受けた 警察が通り掛かって強姦はされずに済んだが…… 家に帰れなくて……脇坂に助けを求めた 病院に迎えに来てくれた脇坂は野坂を何も言わず受け入れてくれた あの時……脇坂は豪邸に連れて行ってくれた 此処は何処なの?とも聞けず…… 寮が受け入れ可能になるまで、泊めて貰った 野坂は驚いた瞳を脇坂に向けた 「………あの家って……」 脇坂の実家だったの? 混乱していた野坂を気遣って、脇坂は誰とも逢わせようとはしなかった 「………僕の家です……」 「そうなんだ……悪い事したな…」 「気にしなくて良いです」 脇坂は野坂を引き寄せた 脇坂に縋り付く野坂の手が震えていた 「篤史、時々、遊びに来るんですよ 貴方の部屋は変わらずあります 篤人が貴方の部屋のベッドをダブルに変えた位で、変わらないのですからね」 「………ダブルベッド……ですか?」 「良いじゃない 傷が開きそうになる程なんだし……」 脇坂は嫌な顔をした 「………開いてません……」 「細かい男よね 嫌われるわよ?」 「…………素の僕は見せてあります」 「お前が素でいるのは昔から……知輝の前だけ……でしょ?」 脇坂は両手を上げた 「……母さん……虐めないで下さい……」 「まぁ、良いわ こんなお前の顔……永遠に見られないかと想ってたのにね 見せてくれたから許してあげるわ でも二度と……私を悲しませないで…… 篤之の所に逝かないと約束しなさい!」 「母さん、僕は死にません こんなに手のかかる子がいるんです 僕はまだこの子に色んな話を書かせさせたい 知って欲しい、見て欲しい事が沢山あるんです なので死ねません やっと手に入れたんですからね、新婚も味わっていたいのです」 「…………あんたは……そう言う子よね……」 ルリ子は呆れた顔をした 脇坂を餌に、母親達はたわいもない話をして、次の約束を取り付けて帰って行った 脇坂は彼女達を見送って疲れ果てて眠りに着いた 野坂はずっと、ずーっと脇坂の顔を傍で見ていた 脇坂の退院当日 不動稜が顔を出した 「脇坂、退院おめでとう 野坂からお詫びとして入院費は精算しておいた 後で示談の提示を出すから目を通しておいてくれ!」 不動の登場に、脇坂は不愉快な顔をした 「………不動……退院の日に君の顔は見たくありません」 「俺も見たくねぇよ! …………野坂……痩せた?」 不動は野坂の顎を上げた 細い印象は昔からだが、顎が此処まで尖って……明らかに痩せていた 「………不動……僕の知輝に触らないで下さい」 脇坂は不動の手をさっさと押し退けた 「………どれだけ……痩せたんだよ……」 余計な事は言うなと脇坂は不動を睨んだ 「退院の検査をして貰った時に知輝も診察して貰いました 身体的に……ではなく精神的に不安定な時は知輝は痩せます 退院して日常に戻れば……不安などない日々になる そしたら……体調も戻るので気にしなくても大丈夫です」 精神的…… まさに愛する者を亡くすかも……と言う恐怖と闘っていたのだろう…… 愛する者が……いてくれるなら……大丈夫 立って逝けるから…… 野坂の瞳は力強く光っていた 不動はそれを確かめて……微笑んだ 「野坂の会社は軌道に乗せた 後は舵取りを誤らせなければ逝くだけだ」 「ありがとう……君には辛い仕事をさせてしまいましたね…」 「野坂、鞍馬が逢いたがっていた また逢ってやってくれ!」 不動が言うと野坂は頷いた 「マンションへ行くのか?」 不動が尋ねると、脇坂は 「会社に顔を出します」 と、何事もなかった様に告げた 「………会社に……もう復帰するのかよ……」 「僕は編集長と言う職務があります 顔を出して安心させるのも編集長の務めなのです 荷物は昨日、父に頼んでマンションの方に運んで貰いました なので、会社まで送って行ってください」 「解ったよ 夜には家にいる?」 「ええ。帰ってます」 「なら訪ねて良い?」 「構いませんよ 知輝、帰りますよ」 脇坂はスーツを着ていた 野坂は少しだけ良い服を着ていた この服は脇坂の父親からの差し入れだった 上質なコットンの白のブラウスが野坂に似合っていた 野坂は脇坂と共に、不動の車で病院を後にした 会社の前で不動は、脇坂と野坂を下ろした 「不動、ありがとう」 「なら夜に電話する」 脇坂は頷いた 不動の車が走り去るのを見届けて、脇坂は野坂を連れて編集部へと顔を出した 廊下を歩くと声を掛けられた 「野坂先生、脇坂さん退院して良かったですね」 そう声を掛けられた 野坂はその声に嬉しそうに笑顔を向けた 編集部に入って行くと、編集部の皆が泣いて脇坂を取り囲んだ 「編集長!お帰りなさい!」 口々にお帰りなさいと言われて喜ばれた 「野坂先生、良かったですね」 皆は痩せた野坂に胸を痛めた こんなに細かったかしら……この人 脇坂を失えば…… この人は生きてはいまい…… 思い知らされる 儚げな笑みが痛かった 尖った顎が……シャープさを引き立たせて…… 野坂の苦悩を知らせていた 泣いて…… 泣いて…… 俺も死ぬ…… と脇坂の手を握ってた…… あの姿が忘れられない こんなに細くなって…… 女性社員達は……堪えきれず……泣き出した 刺したのは……野坂の戸籍上の父親なのだから…… 野坂にしたら複雑だろう 男性社員も堪えきれず……涙を流した こんなに……窶れる程に…… 苦しんで…… 野坂は何も悪い事なんてしてないのに…… 何故……この人の幸せを奪う…… 理不尽な想いに…… やり切れなさが募る 編集部に顔を出すと脇坂は副編集長と打ち合わせに行った 野坂は脇坂のデスクに座り、脇坂を待っていた 野坂の前にお茶菓子を出して、紅茶を置いた 「野坂先生、お久しぶりです」 「ん。久しぶり」 「………痩せました?」 「そうかな? 大丈夫だよ これから太る予定だからさ」 野坂はにぱっと笑った 「野坂先生、井筒屋の沢庵、要りませんか?」 男性社員が野坂に井筒屋の沢庵を差し出した 「井筒屋、欲しい あそこの沢庵は美味しいんだよね 他のは食べれない程に美味しいからね欲しいよ」 「飛鳥井の真贋も井筒屋の沢庵を愛用されてるそうです! 野坂先生もお好きなんですね」 野坂は井筒屋の沢庵を貰ってご機嫌だった 「野坂先生、井筒屋の羊羹です」 ご機嫌な野坂に男性社員は更にサプライズした 「井筒屋の羊羹! 嘘……一日限定3本しか作らない羊羹だよね?これ……」 「朝の五時に並びました!」 男性社員は野坂に井筒屋の羊羹も渡した 紙袋に入れて貰い、野坂は本当に嬉しそうだった まったりとした空気が編集部を包み込む 久しぶりの雰囲気に、編集部にいる人間は、優しい瞳で見守っていた 時折、鬼の声が……響き渡るが…… 野坂にとっては、それさえも愛しいBGMだった 「野坂先生、お待たせしました!」 「脇坂……帰る?」 バームクーヘンを食べながら野坂は脇坂を見た 「………食べてからで構いませんよ」 「帰り、なんで帰るの?」 「僕の車は会社に置いてあります」 会社で刺されて救急搬送されたのだから、車は会社に置いたままだった 女性社員は残りのお菓子を袋に詰め込み野坂に渡した お菓子を貰って野坂は立ち上がった 「ありがとう、美味しかった」 「また来てくださいね!」 「ん!今度は打ち合わせに来るよ」 「待ってますね!」 次の約束をして野坂は脇坂と共に帰る事にした 編集部を後にして駐車場までゆく 途中、社長の東城と出くわした 「やけに社内が活気ついてると想いましたら、野坂先生がお見えでしたか 脇坂、退院おめでとう」 脇坂は深々と頭を下げた 「ご迷惑お掛けしました……」 刺された場所が会社とあって……会社には迷惑を掛けた 「君が気にする事はありません! 野坂先生、今度、お食事の予定に入れておいて下さい 邂逅 の出版記念にお食事でも……と想ってます」 「はい……俺は何時でも大丈夫です」 東城は痩せた野坂を見た 「少し……太られた頃に……誘います こんなに痩せられて……大丈夫なんですか?」 野坂は微笑み「大丈夫です」と答えた 東城はその顔を見て、安心した 儚げな風貌に見えるが、瞳には先を見越す強さがあった 「野坂先生、邂逅は映画化とか考えておられませんよね?」 「………あれば……映像になるべきじゃない……」 「いいえ、励みになる作品だと絶賛されてます…… 乗り越えられない坂道はない……それが君の支えなら…… そんな君の強さを励みにしてる人も沢山いる事を忘れないで下さい……」 野坂の瞳から一筋の涙が零れた とても美しい涙を東城は拭った 「熱き想い 君はどんなラストを書かれるのか、今から楽しみさせて戴いてます」 野坂は何も言わず笑った 東城と別れ、脇坂と共に駐車場へ向かい車に乗った 脇坂と共に…… やっと自宅に帰った 地下駐車場に車を停め、エレベーターに乗り込み最上階を目指す 野坂は笑っていた 嬉しそうに笑っていた 最上階に到着して自宅の鍵を開け家の中に入った 靴を脱いで野坂はベランダに出た 手入れしてない花がどうなってるか気になった 一ヶ月近く家を空けた事になる ベランダに続くドアを開けると……… 噎せ返る程の花の匂いがした 「…………え?………嘘……」 「父さんが留守の間の家の管理をしてくれていたんです まさか……こんなサプライズがあるとは……想いませんでした」 ベランダには木が植わっていた ベランダで過ごす野坂の癒やしに少しでもなる様に…… 木陰が出来る様な立派な木が植わっていた 花に彩られ、見事な庭が出来ていた 野坂は信じられない気持ちで一杯になった 「………何か……幸せすぎて怖いな……」 野坂は呟いた 「何も怖がる事はないですよ?」 「……………掴んでもすり抜ける………砂のように…… 俺の幸せは何時も……すり抜けて行った……」 「そんな日は来ません」 野坂は泣きそうな顔で笑った 脇坂は野坂の手を引っ張って寝室に連れて行った 「……篤史……」 「そんな不安など不要だと解らせてあげます」 脇坂はそう言い野坂をベッドに押し倒した 服の中に手を忍ばせ乳首を掴んだ 根元をコリコリ摘まんで、乳首の頭を撫でると……体躯の力は抜けた 「本当に君は乳首が弱いですね?」 コリコリ乳首を弄って先っぽを噛むと…… 野坂は体躯を震わせて…… 「……ゃ……篤史……ぃく……イッちゃう……」 と鳴いた 「あんまり早いと根元を縛りますよ?」 「なら……乳首……離して……」 「君の好きな場所でしょ?」 尖って堅くなる乳首を弄ばれ……敏感になる その乳首を舐められ……噛まれると…… 全身に痺れが走り……快感が突き抜けていく 「……ゃ……ねぇ……イッちまう……」 「イッても構いませんよ?」 服はまだ脱がせて貰っていなかった ズボンの中で……性器が窮屈そうに存在感をアピールしていた 脇坂は爪で膨らみを引っ掻いた 「……あっ……あぁっ……っ……んっ……」 はぁ…はぁ……と肩で息をして野坂は達した 「……君……イッちゃいましたか?」 「意地悪……やだって言ったのに……」 野坂は泣きそうな瞳で、脇坂を見た 「ほら、腰を上げて……」 脇坂は野坂のズボンを下着ごと脱がせた 野坂の性器は濡れていた 「こんなに零したんですか?」 「……や……見るな……」 「上着脱いじゃって下さい」 脇坂は野坂の性器を口に咥えると吸い上げた 舐めて吸い上げ……陰嚢を揉みしだくと…… 野坂は刹那い声を上げた 先走りが流れ続け、野坂の下肢はベタベタだった 「ローションなくても大丈夫ですかね?」 脇坂はそう呟き濡れた秘孔に指を挿し込んだ 「……あっ……あぁっっ……嫌……」 指を飲み込み締め付ける…… 足らないと咀嚼する穴は貪欲に蠢いていた お尻の穴を解していると……野坂の性器はまた絶頂を迎えようとしていた 脇坂は性器の根元を握り締めた 「今イクと辛いだけですよ?」 「……篤史……辛い……」 「イッたのに? 乳首だけでイッたのに……もうイキたいんですか?」 「イカせて……ねぇ……ねがっ……」 脇坂は野坂の上に乗り上げて、服を脱いでいた 上着を脱いで、ズボンの前を寛げた 「……篤史のする……」 野坂は脇坂の性器を下着の中から取り出すと、舐め始めた 睾丸を優しく揉みながら肉棒に舌を這わせた カリを甘噛みしながら血管の浮き出た肉棒を舐めた 亀頭の先っぽは止め処なく液を出し続けていた 「知輝……挿れて欲しいなら……離して……」 脇坂はイキそうになり、野坂を離した 脇坂は野坂を俯せにして腰を高く突き出させると、挿入した 「………お……ぉきいってば……あぁっ……」 野坂は苦しそうに喘いだ 「大きいの……好きでしょ?」 脇坂は野坂の腰を掴み抽挿を早めた 中を掻き回されて野坂は鳴いた ピクピクと脇坂を締め付け絶頂へと導く 「君の中……僕のカタチを覚えて……搦み着いてます……」 男を虜にして離さない体躯…… 何度抱いても飢えて足らなくなる 脇坂は野坂の中に熱い飛沫を飛ばした イク時、野坂の首筋に噛み付くと、野坂も射精した 脇坂は野坂の中から抜くと…… ベッドの背もたれに、もたれ掛かった 「君のココ……足らないって催促しています」 脇坂は野坂の体躯を起こして、跨がらせた そして秘孔の中を掻き回した 「………篤史……少し休ませろ……」 「休ませると寝ちゃうでしょ?」 「………寝れるかよ……疼いて眠れねぇよ……」 色気のない会話なのに…… 野坂に煽られる 「ほら、腰を下ろして、僕を食べて下さい 君のお口……早く食べさせろと……およどが凄いです」 「………篤史のが出てるんだよ!」 野坂はボヤいて、脇坂の肉棒を飲み込んだ 「ほら、動いて…」 「……疲れた……」 「セックスは共同作業だと何度言えば解るんです 一人だけ楽しようとしないの」 脇坂は野坂を突き上げながら、野坂に腰を動かさせた 「……ぁ……鬼っ……あぁん……ぁん……気持ちいい……」 「こんな優しい男を鬼だなんて言わないの 気持ちいいなら、こっちも吸ってあげます」 脇坂は乳首を掴んで乳頭の根元をぐにゃぐにゃこねた 尖った乳首が更に尖って敏感になると、脇坂を咥えた腸壁が締め上げる様に蠢いた ………天性の男殺しだ…… 脇坂はもってイカれそうな快感に耐えた 焦らして 追い詰めて 食らい尽くす 「……ぁっ……イクぅ…イッていい?」 「擦らずにイキなさい」 野坂の尖った乳首を囓ると…… 野坂はドロッとした精液を吹き上げてイッた 脇坂は野坂の中に射精した ヒクヒクと腸壁が痙攣する 野坂が体躯を震わせる 「………ゃ……篤史……大きい……」 萎えない肉棒が自己主張する 脇坂は野坂の赤く尖った乳首を吸った ペロペロ舐め舐めながら、ゆっくりと焦らす様に動いた 野坂の乳首は真っ赤に腫れ上がり……ピクピク震えていた 脇坂はそれを美味しそうに啜ると……野坂はイッた 「何回イケば良いんですか? しかも……乳首だけで…」 「ゃ……篤史……吸わないでぇ……頼むから……」 「それは聞けません……こんなに美味しそうに食べて……」 脇坂は結合部分を指でなぞった 「……ゃ……篤史……それ嫌……ゃ……」 「君も触りたいですか? 君と僕が一つになってるんです」 野坂の手を取り、結合部分を触らせる ギチギチに脇坂の肉棒を食い込んだお尻の穴が、歓喜して震えていた 「………一つに……繋がってる……」 「君は本当に好きですね 今度録画してみますか?」 「……え?……何を?」 「僕を食べてる君のお口を、撮影してあげます」 「……ゃ……やらないでぇ……やだ……やらないでぇ…」 野坂は感じていた 言葉でも指でも行為でも容易く感じさせられる 脇坂と暮らす様になって仕込まれた事だった 「知輝……もっと緩めて……僕を食いちぎる気ですか?」 「篤史なら……全部欲しい…… 篤史しか要らない……あぁっ……イカせてぇ……」 野坂を押し倒して更に奥へ突っ込んだ そして逝くために……高見へと上がっていった もう出ない程抱き合った 眠りそうな野坂を起こすと、脇坂は野坂と共にお風呂に逝った 脇坂の長い指が野坂の秘孔から、精液を掻き出しす 全部出してやると野坂は体躯を洗い始めた ゴシゴシ雑に体躯を洗う 「そんな適当に洗うもんじゃないと謂いませんでしたか?」 「疲れたから湯だけで良い」 「‥‥‥汚いと僕のベッドに寝かせませんよ?」 野坂は必死にゴシゴシ洗い始めた 脇坂は仕方なく洗ってやった 「……疲れた……」 「頑張ってくれましたからね」 「気絶しなかったんだから……褒美欲しい……」 「何が欲しいんですか?」 「篤史の未来全部……」 「それなら総て君のモノです」 「………ならさ……勝手に刺されるなよ…… 俺のもんなんだろ? 俺の許可なく刺されるな!」 野坂はそう言い脇坂に抱き着いた 「君も……僕のいない所で泣いたりしないで下さいね! 君の髪の毛1本たりとも誰にも触らせないと約束しなさい!」 「約束する!だからお前も約束しやがれ!」 野坂は噛みつくような接吻を送った 脇坂は野坂の指輪の指を手に取り、舐めた 「もっと太って下さいね! 君の腰の骨が当たって痛いので……もっと美味しくなって下さい」 「任せとけ!」 野坂はそう言いにぱっと笑った 二人でイチャイチャして浴室から出て着替えると、電話が鳴り響いているのに気付き 電話に出た 「何か用ですか?」 『………何回も電話したんだけど?』 「そうですか……で、ご用件は?」 『おい!流すんじゃねぇ!』 電話の相手は不動 稜だった 「………馬に蹴られますよ?」 良い所を邪魔するな……と暗に言われた 『夜に電話するって言ったよな?』 「………ええ……って今何時ですか?」 朝、退院して、編集部に顔出して、昼には……野坂を押し倒した 『……充分夜と言える時間なんだけど?』 「そうですか……いつ来ても構いません」 『……犯るだけ犯っとけば、構わねぇってか? そう言う奴だよなお前は…… なら、直ぐに行く!首洗って待っとけ!』 不動は電話を切った 脇坂は野坂をソファーに座らせた 野坂は怠そうに座っていた 暫くするとインターフォンが鳴った 脇坂は解錠して受話器を取った 「空いてます」 と言うと玄関のドアが開いた 玄関の向こうに立っていたのは……不動と榊原笙、飛鳥井蒼太と不動の恋人の鞍馬だった 脇坂は人数分スリッパを並べると笑顔で迎えた 笙は「不動んちで待たされるとは想わなかったです」とボヤいた 「すみませんね…… 時間を忘れてしまいました」 脇坂はしれっと言った 「野坂は?」 蒼太が問い掛けると脇坂は 「………座ってます」と答えた 不動は「んとに……お前がこんなんだとは想わなかったぜ」とボヤいた 鞍馬はペコッ挨拶して野坂に逢いに行った 野坂の顔を見ると鞍馬は飛び付いた 「知輝さん!」 「鞍馬君、元気だった?」 鞍馬は野坂を見た 野坂は……更に細くなっていた 蒼太も笙も野坂の細さに、ギヨッとなった 「………野坂……大丈夫?」 青い顔して座ってる野坂に蒼太は問い掛けた 「大丈夫だよ」 「お酒の準備をします 退院したばかりなので……何も用意してません 何か取りますか?」 脇坂が言うと不動が 「もうじきデリバリーがドサッと運ばれるから任せとけ!」 とウィンクした 「なら僕は秘蔵のお酒でも出しますかね 魔王 村尾 森伊蔵 幻と言われた焼酎を空けます ワインもロマネコンティを出しますとも! 実家から持ってきた戦利品ですけどね!」 「おお!それは良いな!」 飲んべえの不動が大喜びした 笙と蒼太はソファーに座り、不動に 「紹介してよ!」と言った 不動は鞍馬の腰を引き寄せると「俺の恋人の美杉鞍馬だ!俳優をしている!」 と紹介した 鞍馬は「宜しくお願いします」と頭を下げた そして野坂の前に膝を着くと 「知輝さん大丈夫なの?」 と心配した 「大丈夫だよ」 「…………痩せたね……」 「………大丈夫だよ……」 「………俺が心配するの……迷惑?」 「鞍馬君、そんなんじゃない……」 鞍馬は野坂の膝の上に顔を埋めた 野坂は鞍馬の頭を撫でた 笙は「野坂と鞍馬君、知り合いなんだ」と問い掛けた 「うん。鞍馬君とは仲良くさせて貰ってるよ」 野坂は鞍馬のつむじにキスを落とした 不動は気にする事なく、お酒を飲み始めた デリバリーが届き、鞍馬は不動の横に座った 脇坂は野坂が食べられそうなのを小分けして前に置いてやった 脇坂は野坂にジュースを渡した 不動は「笙、二人目産まれたんだって?」と問い掛けた 「ええ。今度も男の子が産まれました」 「奥さんって何してる人?」 「………飛鳥井建設の社長秘書……」 笙が答えると、不動はヒュ~と口笛を吹いた 脇坂は蒼太に 「君の恋人は?」と問い掛けた 「矢野宙夢と言ってアクセサリーのデザイナーしてる」 「写真ある?」 脇坂に言われて蒼太は携帯の写メを見せた 「………可愛い……意外だな……美人系が好きなんだと想ってたら……可愛い系ですか」 「………この人……僕より年上です……」 野坂が「嘘ぉ……可愛い……蒼太君幸せだね」としみじみ言った 鞍馬は「………あの……皆さんは……どう言ったご関係なんですか?」と問い掛けた 笙は不動に「説明してないんですか?」と問い掛けた 「………言ってない……」 不動は困った顔をして答えた 「俺は‥‥鞍馬を選んだ時に総てを捨てた だから家族とも友人とも疎遠だった 俺らは互いだけいれば良い それ以上を望んだらダメだと戒めて来たからな‥‥何も話してないんだよ」 不動の苦悩を想い知る 笙は「桜林学園の同級生だよ!」と教えた 「………桜林……あの金持ちしか通えない学園……すげぇ…… 知輝さんは違うよね?」 「いいや、僕、榊原笙と飛鳥井蒼太、不動稜、脇坂篤史、野坂知輝は同級生なんです!」 「…………え……俺以外……同い年な訳……」 鞍馬はショックみたいだった 野坂は笑っていた 不動は「最も……野坂は脇坂にしか扱えない存在だったからな……俺らには面識はなかったけどな……」と思い出して語った 不動が言うと笙も 「僕達は野坂には近寄れませんでしたからね……」と言い 蒼太も「そうそう!脇坂の横にしか行かないからね……」と笑った 脇坂の横で野坂は笑っていた 昔から変わらぬ笑顔で横にいた 鞍馬は羨ましそうに 「知輝さんと脇坂さん、高校時代からの仲なんですね……」 と呟いた 「違うよ……高校時代は俺が脇坂に懐いていただけ……」 野坂は鞍馬にそう言った 「脇坂はモテモテだったからな……常に恋人がいた」 野坂は哀しそうに……言うから鞍馬は慌てた 脇坂は野坂を引き寄せた そして優しく髪を撫でると、野坂は脇坂を見上げた 「昔話は……辞めましょう…… うちの知輝はヤキモチ妬きさんなんですよ」 鞍馬は「……そうですね、皆さんモテモテの時代……かなりありそうですからね……」と締めくくった 酒を飲みながら、昔話に花を咲かせる 野坂は脇坂の横で丸くなって寝ていた その姿は痛々しい程痩せて息を凝らして生きてきた過去が垣間見させた 不動は「………かなり痩せた?」と脇坂に問い掛けた 「………抱けば腰骨が刺さる程には……」 「………今度逢う時は元気に笑っててくれ!」 「美味しそうに太らせるつもりです」 脇坂はそう言い幸せそうに笑った 野坂の指は脇坂のズボンを握り締めていていた たわいもない話をして、ザルな大人は酒を酌み交わし 子供な鞍馬は不動の横で寝ていた 脇坂は「可愛くて仕方がない……って感じですか?」と不動に問い掛けた 「………一回り……違うからな……」 「妬かない様にね」 鞍馬にとって野坂知輝と言う人間は特別な意味を持っていた 「妬くか……と言いたいけど、妬ける……」 「知輝は恋愛感情はないです」 「知ってる……昔から野坂の瞳が動く時は……お前が動いてる時だけだ……」 「………不動が妬くなんてね、笙…」 脇坂はボヤいた 「本当にね、お姉ちゃん大好きな不動……がね……」 と笙もボヤいた 蒼太は笑って 「不動はお姉ちゃんばかりじゃなかったですよ? 僕の恋人と良くブッキングしてくれましたね……」 と種明かしをした その時、野坂の携帯が着信を告げた 脇坂は携帯を取り出し着信相手を見た 「知輝、不動雅祥さんから電話です」 不動はその名に顔色を変えた 野坂は起き上がり携帯を渡して貰うと応接間を出て逝った 不動は「………その名前……どうして?」と脇坂に問い掛けた 「野坂の知り合いです」 「………それ……親父だ…… 何で野坂……知ってる?」 「………僕も知りません 野坂と交友があるみたいで、何度か誘われて食事に行ってます 彼は紳士なので……許可してますが詳しい事は解りません 気になるなら野坂に聞いてみればどうです?」 「いや……良い。 俺……勘当されてるから……合わせる顔なんて持っていない……」 不動が言うと脇坂は…… 「……あ……そうでしたね……」 と、謝った 「…………鞍馬を選んだ時に…… 俺は……妻も……親も……捨てたからな……勘当されて当たり前だ……」 「そっか……君も結婚してたんですね……」 脇坂の結婚式の少し後に不動の結婚式があったのを今更ながらに思い出した 「………お前も……結婚してたんだったな…」 脇坂は何も言わなかった 笙と蒼太は脇坂の結婚生活は知っていた 壮絶な日々を垣間見ていた 「………悪い……余計なことを言った……」 不動は脇坂に謝罪した 「………気にしなくて大丈夫です…… 僕の結婚生活は……知輝にも話してあります…… 君も……知っているでしょ?」 「………あぁ……それ程にセンセーショナルだったからな……」 「何もかもなくしても……野坂がいてくれば良い…… 総て失った男は切に願いました 何もかも総てなくした時…… 僕の心は野坂を求めました なので、僕は今、野坂といられて幸せですから由としてます」 言葉をなくす…… と言うのは……まさに、それだった 不動は……脇坂に言う言葉をなくしていた 「………総てなくしても……… 一番欲しいモノが手の中にあれば、僕は生きていけます」 「………強いな……お前……」 不動は呟いた 「全身全霊懸けて愛してますからね」 脇坂は微笑んだ なくさないのなら……生きていけます 脇坂の言葉を胸に刻んだ 野坂が電話を終えて応接間に戻って来ると 「脇坂、明日 雅祥さんに逢いに逝く」と予定を告げた 「解りました。」 「送り迎えして貰うから」 「では楽しんでらっしゃい」 脇坂はそれ以上何も謂わなかった 野坂は脇坂の横に座り、眠りの続きを始めた 不動は‥‥‥はぁ‥‥っと息を吐き出した 笙は「なぁ、脇坂、野坂の書いた【 邂逅 】 馬鹿売れらしいですね……」 と話題を変えた 「あの話は知輝の過去です 知輝……大学は相当良い所へ行ったんですかね…… 赤蠍商事に勤めていました その頃の話です……」 赤蠍(レッドスコーピオン)……と聞いて全員言葉をなくした エリート集団と言われる赤蠍に…… 「………野坂……底が見えませんね……」 蒼太は思わず呟いた 「脇坂、お前、野坂の経歴知らないの?」 「………知りません…… 聞ける過去と……聞けない過去がありますからね……」 「そっか……でも大学位、聞いとけば?」 「………そうでしたね」 脇坂は野坂を撫でながら笑った 此処に野坂がいてくれるなら、過去も経歴もあまり必要だとは想わなかった…… 朝方までたわいもない話をして、飲み明かし、少し眠った 朝になると脇坂は野坂を起こし、脇坂の寝室のベッドに逝く様に言った 寝惚けてふらふらする野坂を、脇坂の寝室に逝く様に誘導して、寝かせた そして会社に行く支度をした 不動や笙達は起きていた 「おはようございます 僕は会社に行きます」 笙は「僕は今日はロケです」と言い 蒼太は「僕は会社です」と答えた 不動も「俺は別のクライアントが入ってる」と予定を告げて 鞍馬も「俺はCM撮影……眠い……稜さん……何時まで飲んでたんですか?」とボヤいた 「朝まで飲んでた 野坂は大丈夫か?」 「昼近くに買い物をして一旦帰るので大丈夫です」 脇坂は慌ただしく準備をしていた 一緒に部屋を出て、笙達と地下駐車場まで向かう 脇坂は笑顔で皆に別れを告げ、ベンツに乗り込んだ そして会社へと向かった 不動達もそれぞれ、自分の仕事先へと散らばった 野坂が目を醒ますと、誰もいないのか、静まり返っていた ベッドから下りて、ベッドを整えた そして、応接間へ行きドアを開けた そこは、まだ、夜のままだった 野坂はグラスを片付け、お皿を引き上げた そしてテーブルを拭き、掃除機を掛けた 今日は予定はない 脇坂が入院してる間は……何も書けなかった 自分が……こんなにも脇坂に依存していたのかと、今更ながらに感じていた 強くなりたい と思った 脇坂を護れる位…… 強くなりたい そんな自分の中の変化が、野坂は嬉しかった 人と馴れ合わずに生きて来た 自分には一生……陽の当たる場所へは逝けないと想っていた 自分の意味 自分の存在 自分の未来 ………それは総て脇坂が教えてくれた 彼に報いたい それが野坂の想いだった ベッドのシーツを剥がして、掛け替えた 脇坂の部屋と野坂の部屋のベッドのシーツを替えた そして掃除した 洗濯が終わるまで、ベランダに出て寝そべった 此処は下界の喧噪を余所に、野坂の好きな時間が流れていた 掃除と洗濯を終えて、一息着くと、脇坂が昼食を持って来てくれた 「掃除していたのですか?」 綺麗になった応接間に、脇坂は問い掛けた 「ん、洗濯もした」 「どうしたんですか?」 「………俺だって掃除や洗濯は出来る……」 野坂はブスッとして言った 「君はしなくて良いんですよ 掃除や洗濯させる為にいる訳じゃないので……」 「………落ち着かなかったんだよ……」 「何で?」 「………この空間に……他の誰かの痕跡は要らない…」 「……あぁ、そう言う事ですか」 脇坂は野坂を引き寄せてキスした 「さぁ、食べなさい」 「篤史は?」 「僕も食べます」 二人して軽食を食べて紅茶を飲んだ 「野坂先生、来週から少し忙しくなりますけど、大丈夫ですか?」 「何の予定が入ってるの?」 「サイン会なるものをやりましょう! 君は一度もやってませんよね? なので、サイン会やって貰います そして、雑誌の対談入りました それと、次作の打ち合わせをしましょう!」 「………1度にツケを取り立てなくても良くない?」 野坂の言い分に脇坂は笑った 「君が出来ない仕事は入れてないつもりですよ?」 今の野坂なら出来るであろう……と踏まえて脇坂が踏み出したのだ 「なら、受けて立つしかないじゃないか……」 「後、少し太りましょうね 抱いた時に……君のあばらや腰骨が刺さるので…… もう少し肉をつけましょうね」 「………解った…… 篤史を籠絡出来る位は頑張る」 籠絡…… もう充分されてます…… 君の体躯に狂わされて…… 籠絡されてます なのにまだ頑張ると言う……… 脇坂は苦笑も漏らした 「僕を骨抜きにして下さい もう……充分君に骨抜きなのに……もっと籠絡すると言うんですからね……」 野坂は笑っていた 清々しい顔した笑いだった

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