31 / 37
第31話 対談
瀬尾利輝 瀬尾光輝 野坂知輝の対談は、東栄社の特設会場で行われる事になった
ホテルを借りて……と、考案も出たが緊張せずに自然な感じでの対談風景を撮りたい、との事で慣れ親しんだ出版社の特設会場でとなった
撮影は今枝浩二が撮影する事にした
記事は編集部の人間が記録する
野坂はこの日のために脇坂にスーツを新調して貰った
白いスーツを着て野坂は座っていた
顔色は戻っていた
指輪は外す事を拒否った
外すなら対談はしない!
そう言うから、そのままで対談する事になった
テーマは決めずに自然体でカメラに収めたい
と、今枝浩二からの要求で、始まった
今枝浩二は「自然体で話してて下さい」と言った
利輝は「なら始めて良いのかな?」と問い掛けた
利輝も、ちゃんとスーツを着ていた
光輝は少しラフにジャケット姿だった
利輝は野坂に
「体調はどう?」と声を掛けた
「良いですよ!光輝さんは?」と光輝にフッた
光輝は「僕は撮影が大変でクタクタです」とボヤいた
野坂は「今 探偵モノでした?」と問い掛けた
「大詰めです……
本当にね……大変な撮影でした
生傷が絶えなくてね……」
光輝は傷を見せた
「あれは光輝さんが悪いから……仕方ない」
と野坂はキツい一撃を食らわせた
「……解ってます
ですから敢えて言いません……」
「光輝さん」
「何ですか?」
「俺さ、探偵モノの続編書いてるんですよ!」
光輝はえ!……と驚いた
「今度はねハードボイルドに仕上げるつもりだよ
崖から落ちるし、逆さ吊りとか、スキューバダイビングもして貰わないとダメだし、大変かもね」
野坂はそう言いニコッと笑った
「………まだ許してくれませんか?」
「俺さ……自分の事は……堪えれるんだ
でもさ……友達の事になると……許せないんだよ
迷惑掛けたからな……もう少し……堪えてね光輝さん」
「………許して貰えるまで堪えますとも!
知輝の出す宿題なら僕は堪えてみせます!」
光輝はそう言い野坂の頭を撫でた
野坂は撫でられ嬉しそうに笑った
「知輝、今度ご飯食べに行こうね」
「光輝さん……」
「欲しいモノは何でも買ってあげるよ!」
甘い兄馬鹿ブリを全開にして光輝は笑う
利輝はそんな息子に
「光輝」と名を呼んだ
「何ですか?父さん」
「僕もね君に主演をやらせたいと想ってるんだ」
「……え……そんな話……聞いてませんよ?」
「宙吊りにしたり階段から落ちたり…ハードな話をね
書こうかなと想ってるんだ 当然、映画かドラマになるなら、主演は瀬尾光輝……をと、想ってるんだ」
「………父さん……僕…貴方に何かしましたか?」
「知輝に変わってお仕置きよ!」
利輝はにぱっと笑った
「……知輝と同じ顔して笑わないで下さい……」
「良いじゃないか
僕だけの特権なんだもん」
「………僕は母さん似ですからね……あ~腹立つ」
「光輝、父さんにも何か欲しいのはないんですか?って聞いてよ」
「貴方はご自分の稼ぎで買えば良いじゃないですか!」
「そんなケチな子に育てたかな?」
「……すみません……
何か欲しいのはありますか?」
「買ってくれるの?」
「はい!買いますとも!
買わせて戴きます」
光輝が言うと野坂はにぱっと笑った
「………んな……同じ顔して……」
光輝はボヤいた
野坂は利輝と光輝に
「利輝さん、対談ですからね
お仕事の話をしましょう!」と持ち掛けた
利輝は「なら言い出しっぺの知輝からどうぞ!」問い掛けた
「俺は今年、2年書き続けて来た時代劇のラストを書こうと想ってます
妥協はせず……貫かせようと想ってます」
「僕は新境地を開拓しようと想ってます
愛する女を……書いてきた
だけど……そう言うのじゃなく……その先を書こうと想うんだ
知輝の存在を知って
僕は……歩こうと決めたんだ
光輝の主演うんぬんは、冗談だけどね
それでも今まで書かなかった様な所に目を向けて書きたいと想ってるんだ
ケジメが出来たからね……
僕にとって知輝
君は……かけがえのない存在です」
利輝は野坂を見つめて言葉にした
「光輝さんは?」
野坂は光輝に話をふった
「僕はさ、役者として正統派の役をやって来たなって……
探偵の映画を撮ってて想ったんだ
でね、色んな役をやりたいって想ったし、出来るって想った
僕の体躯の中には母さんの役者の血が流れてる
知輝の体躯の中には物書きの血が流れてる様にね
僕は役者として生きたいって想ったんだ」
「光輝さんなら色んな役に挑戦出来ますよ」
「ありがとう知輝
僕は君と出逢わねば……
無知な馬鹿な奴のままだった
色んな事を知らずに……過ごしてしまったと想うんだ
君の存在が……僕の誇りであり支えです
僕は……野坂知輝に恥じない役者になります
君の兄として……誇れる人間でいたい」
「………光輝さん……」
「燻って……悲観して……何も見なかった
僕は……何もかも無くして……
足掻いていた……
抗って……出口を探しても‥‥暗闇しか見えなくなってた
悲観した眼では何も見えなかった
そんな自分には戻りたくはない……」
光輝は心中を吐露した
利輝は息子を眩しそうに見ていた
「可能性は無限大だ
自分で限界という壁を作らない限り先に進めると想うよ」
利輝は息子に言葉を捧げた
光輝は嬉しそうにその言葉を受け止めた
野坂は少しずつ話を始めた
「俺の祖母が死んだ……
家に居場所がなかった俺は、ばぁちゃんだけが逃げ場所だったんだ
そんな逃げ場所を俺は失った
ばぁちゃんがいてくれたから……俺は……空気みたいな扱いにも堪えれたし……
死にたい様な境遇にも堪えられた
実際……死のうと想って手首を切った時もある……
ばぁちゃんがその時も助けてくれた
会社に辞表を出してくれて……
もう行かなくても良いよ……って言ってくれた時には……
あぁもうあの苦しみから解放されたのか……って安堵した
そんな俺を護ってくれた祖母が……死んだ
最期まで……ばぁちゃんは俺を心配してくれた
そんな身内を亡くして……俺は……血の繋がりを考える様になった……
俺は……自分を否定されて育った
諦めるしかない生活をして来た
何かを望んじゃ駄目だって……想って生きてきた
そんな俺が生きて来られたのは……ばぁちゃんがいてくれたから……
高校時代……俺の横にいてくれた脇坂がいてくれたから……
俺は……支えられて生きて来たんだって想えたら……
俺の存在理由が解って……俺は泣いたんだ
俺……生きて来て良かった
俺……あの時……脇坂の横にいられて良かった
あの時が何時も俺を支えてくれた
ばぁちゃんと脇坂が俺を支えてくれた……
そんな人達に報いる為に俺は書こうと想った
書く事でしか自分を証明出来ないと想っていた
でも今は違う
俺は書く事で明日へ向かって生きてると言える
そう思えた人と出逢えて俺は本当に良かったと想う
脇坂の存在は不幸だと嘆いてた……自分の希望だと想う
もう泣かないで良いんだよって……言って貰える証だと想ってる……」
野坂は脇坂を見詰めながら、胸を張って言った
脇坂は涙ぐみそうになった
それでも微笑み野坂を見ていた
「知輝」利輝が名を呼んだ
「何ですか?」
「僕は君が救いだよ」
野坂は驚愕の瞳を利輝に向けた
「……え?……」
「僕は……生きるのに疲れていた
愛は枯れて……日々……枯渇して行くんだ
それが嫌で抗って誰かを愛そうとした
その愛が……愛する女を苦しめると解っていても……
僕は……それでも人を愛せる自分に……泣きたくなった
そんな部分が残っていた事に……ね
そんな僕は……日々……生きてくのに疲れていたんだ
でもね知輝……
僕は君を知って……君の誇れる存在でいたいと想ったんだ
君の前に胸を張って経てる存在でいたいと想ったんだ
僕はそんな想いを、やはり書く事で証明した
これからもね、知輝
君は僕の最大のライバルだよ
同じ土俵に立つライバルだと想ってるよ
君が越せない背中を君や光輝に見せたいんだ」
利輝はそう言い、にぱっと笑った
そして光輝へと想いを語る
「光輝、僕は君にとって……
あまり良い父親ではなかった
君を見ていなかった
だが今は違う
僕は君を愛してる
君は誇りです」
利輝が言うと光輝は泣き出した
野坂はそんな親子を見ていた
利輝は立ち上がり野坂と光輝を抱き締めた
「愛してます……僕の子供達」
そう言い利輝は2人の頬にキスを落とした
「愛してます」
利輝の言葉は……優しく父の愛に溢れていた
野坂は利輝を見て笑っていた
光輝は野坂を抱き締めた
「僕も愛してるよ知輝
君は僕の自慢の弟です」
光輝が言うと利輝も野坂を抱き締めた
「知輝、今度二人してリレー小説書かない?
二人して光輝を虐める小説書こうよ!」
野坂は利輝と光輝を抱き締めて……
「良いですね
俺頑張って虐めます」
野坂の瞳から涙が溢れて流れた……
とても綺麗な涙だった
今枝はその顔を撮った
対談は四時間かけて終わった
好き勝手話して終わった感が抜けなかった
野坂は脇坂に
「……対談らしい事……話してない……」
と情けない顔で訴えた
脇坂は笑って野坂の髪を撫でた
「今枝は大満足な対談だったと想います」
脇坂が言うと野坂は今枝を見た
野坂は今枝に話しかけた
「今枝さん」
「何ですか?」
「俺……貴方が写真を撮った時……飛び込もうと思ってました……」
今枝は野坂を見た
「………貴方を……この世に引き留めたのは……何だったのですか?
私はそれを……聞きたかった」
「俺が死ねずにこの世に引き留めたのは……脇坂篤史と言う友の横にいたかったから……
今枝さん……その頃の俺は逃げ込んだ学校でさえ、人として扱われていない境遇にいたんです
俺の回りには‥‥暴力と支配‥‥そして弱者は強者に無理強いさせられる‥‥現実しかなかった
情けない気持ちと……そんな日々を捨ててしまいたい想いと……俺は揺れてました
でも……死んだら……脇坂と永遠に逢えない
それだけが……俺をこの世に引き留めました
何時死んでも俺は未練はありませんでした
死にたかった
楽になりたかった
家に俺の居場所はなかった
学校にも俺の居場所なんかなかった
だけど……誰も寄せ付けなかった俺の横に……
初めて座ってくれた人間がいた
それが脇坂だった
学園生活も……辛かった
でも俺は…脇坂の横にいたかった
その想いだけで生きて来ました
俺は脇坂と知り合っていなければ……この世にはいませんでした」
野坂は今枝の瞳を射抜いて話した
「君にとって……脇坂は絶対なんですね……
解って良かった……
本当に私の我が儘な対談を受けて下さってありがとう御座いました」
「俺も……ありがとう
あの頃の……俺を知っててくれて……ありがとう」
「野坂先生の今後のご活躍を心より期待しております」
「ありがとう」
野坂はにぱっと笑った
最高に良い笑顔だった
今枝はカメラにその笑顔を収めた
そして深々と頭を下げると、会場を後にした
野坂は利輝と光輝とでレストランに行くと脇坂に告げた
「楽しんでらっしゃい」
脇坂に見送られて 、野坂は利輝と光輝と帰って行った
野坂は満たされた想いを胸に抱き
今なら書ける熱き想いのラストへ想いを馳せた
最初、熱き想いを書き始めた時は、周防玄武は犬死にさせるつもりだった
理不尽に踏みにじられ
仕える者にも裏切られ
総てをなくし
絶望して死ぬ
それこそが相応しいと想っていた
だが書けば書くほどに、周防玄武は生きる力を深めて逝った
野坂の目の前で生き抜く周防玄武がいた
戦い続ける周防玄武がいた
野坂は何時しか周防玄武が一人歩きして逝くのを感じていた
ならば相応しい最期を飾らねばならない
2年間書いて来た作品に対して有終の美を飾らねば
書き続けて来た意味がない
野坂の中の想いが脇坂の愛で彩られ満たされる程
周防玄武の中の想いは揺らがず貫かれて逝った
ともだちにシェアしよう!