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第33話 繋がり‥①
恋すれど……
この想いは変わらない
君だけを愛して死ねるなら本望だ
愛してる
愛してる
愛してる……
許されるのなら……
地獄の果てまで共に逝こう
離れたくはないのだ……
愛すれど……
君だけを……愛する
この命……君に捧げん……
野坂は脇坂の家に正式に招待され
その日脇坂の家に訪ねて来ていた
脇坂の両親と兄弟
次男 篤人と妻と子供
三男 篤弘が野坂と脇坂を迎えてくれた
ルリ子は野坂に笑顔を向けた
「知輝、良く来てくれましたね」
野坂はペコっと頭を下げ
「今日はご招待ありがとうございます」と恐縮した
ルリ子は野坂をソファーに座らせて家族を紹介した
「主人の篤郎はご存知ですね
長男の篤之は他界しました
ですので……知輝に紹介は出来ません
次男の篤人と妻と子供です
そして四男の篤弘です」
ルリ子が紹介すると篤人が立ち上がった
「知輝、紹介するね
妻の真綾と僕達の子、上から浩一、浩二、浩三、浩四郎です」
何ともまぁ子沢山‥‥
野坂は御行儀良く座っている子供達に目を向けた
何処となく脇坂に似ている
それだけで脇坂はこの家に招かれて良かったと想えた
篤人の妻 真綾は野坂の作品のファンだった
「知輝さん、真綾です
ファンなんです!とても嬉しいです」
と笑顔全開で迎え入れてくれた
篤人の子供達も和やかな雰囲気だった
篤弘も野坂に挨拶した
「四男の篤弘です
兄さんが……恋人を紹介してくれるのは初めてです
………結婚する時でさえ……こんな風に逢わせて貰えませんでした……」
篤弘が言うと脇坂は嫌な顔をした
「……それは済みませんでしたね……
結婚は……僕も式の当日に知ったので……前もって逢わせる事はなかったんですよ」
「………何それ……兄さん……初耳です僕……」
篤弘は嘆いた
「………知輝以外なら……誰でも同じだったんです……
知輝に逢えないなら……誰でも……興味がなかった……
そんは結婚なので……失敗して当たり前なんですがね……」
「………兄さん……」
兄の結婚生活は端から見てて……
痛々しかった
挙げ句……背中を切り付けられ殺され掛けた
ルリ子は篤弘を黙らせた
「篤弘、知輝がいる黙りなさい」
母親に睨み付けられ篤弘は黙った
脇坂は野坂を抱き寄せた
野坂は脇坂を見て笑った
心配しなくても大丈夫だよ……って言う笑顔だった
優しい眼差しで野坂を見る脇坂を見れば……
脇坂の本気は一目瞭然なのだ
篤郎は野坂の血色の良くなった顔を見て安心した
「少しは元気になったかな?」
優しい眼差しが野坂に注がれ、野坂は「はい!」って答えた
ルリ子は立ち上がると
「知輝、篤史の快気祝いよ
今日は泊まって行けば良いわ」
ルリ子が言うと篤郎も
「シェフを呼んで食事の用意をさせたんだ
気に入って貰えると嬉しいよ」
と立ち上がった
脇坂も立ち上がり野坂の手を取った
「おいで」
脇坂に言われて野坂は立ち上がった
手を引かれて連れて行かれたのは……
映画とかで、貴族とかの晩餐とかにしか見た事のない……
大きなテーブルだった
執事が野坂の前に立つと、深々と頭を下げた
「知輝様ですね
私、執事の蒲生と申します
お見知りおきを」
「……宜しくお願いします」
野坂は慌てて頭を下げた
執事は椅子を引いて野坂を座らせた
執事に座らせて貰い野坂が座ると、脇坂の家族も席に着いた
シェフがご挨拶に出て来て、料理が運ばれた
執事がワイングラスにワインを注いだ
脇坂は、そのグラスを自分の前に置いた
「知輝にジュースをお願いします」
脇坂が言うと執事がジュースを用意して野坂に渡した
ルリ子は「飲めないの?」と脇坂に問い掛けた
「知輝は1口で泥酔です」
「あら可愛い」
クスッとルリ子は笑った
美味しい料理を出されて会話が弾む
野坂は….夢心地だった
脇坂は饒舌に家族と話していた
デザートにアイスを出されて野坂はそれを美味しそうに食べていた
執事が野坂にアイスのおかわりをしてやり
野坂はそれを美味しそうに食べていた
………が、どうやら雲行きがおかしい……と気付いた時には……
手遅れだった
「……篤史……眠い……」
トロンっと潤んだ瞳で見られて脇坂はドキッとした
「飲んでないよね?」
「……ん……飲んれない…」
「………済みません……このアイス……お酒入ってますか?」
脇坂は執事に問い掛けた
執事はシェフの元に確かめに行った
そして戻って来ると
「………シェリー酒を少しだけ用いたみたいです……」
「………シェリー酒……」
脇坂は野坂の残ったアイスを1口食べた
するとかすかにアルコールの味がした
「………知輝…眠ったらダメですよ…」
「…ん…わきゃってる……」
……野坂は半分夢心地で答えた
脇坂は額を押さえた
「………この子はお酒は本当に駄目なんです……」
野坂は眠たいのを無理して起きてる子供の様に、ニッコリ笑って幸せそうに眠そうに目を擦っていた
脇坂が謂うとルリ子は
「………みたいね……篤史……
知輝を部屋に連れて行ってあげなさい……
半分寝てるわよ……子供みたいね」
微笑ましい姿に笑っていた
まさか……本当にシェリー酒を少しかけただけのアイスで酔うとは‥‥
誰も……想像は出来なかった
脇坂は立ち上がると野坂の手を取った
「では、先に失礼します」
脇坂はお辞儀をすると野坂を引っ張って行った
野坂は脇坂に手を引かれて着いて行った
きっと犬なら尻尾をブンブン振ってそうな足取りにルリ子は
「………本当に可愛いわね…」と笑った
安心しきった野坂の顔には、脇坂に対する絶対の信頼感があった……
脇坂は野坂を甲斐甲斐しく世話をやいて部屋に連れて逝く様子を見て篤人も
「…あの何事にも無関心な篤史が、生き生きしているを見ると……良かったと想います」と 目頭を押さえて口にした
大人しい脇坂家の三男坊は子供の時から冷静沈着、頭脳明晰を絵で描いた様な子だった
何処か冷めて人を見下した様な皮肉屋で、親の前であんなに素を見せる事など皆無だった
篤弘は野坂に本気な姿を見せられて
「………兄貴って……何やってもパーフェクトで冷徹な雰囲気なのにな……
桜林では何時も兄貴と比べれた……
教師は何時も
『お前には野坂みたいなのがいないからな……』って謂うんだ
兄貴にとって野坂と言う存在は……何だろうって何時も想ってた
嫁に刺されて病院に運ばれて緊急オペになった時も、兄貴は『知輝』と名前を呼んでた
知輝って誰なんだ……とずっと想ってた
野坂さんなんだな……
兄貴と共にいたのは……ずっと野坂さんなんだな……
何か……兄貴が羨ましいかも……
桜林時代から共にいる存在…
………どんなに時間が経っても……何処で生きていようとも……変わらぬ存在……
やっぱ……兄貴は格好良いよ」
篤弘がボヤくと篤人は
「君も今から探せば良いじゃないですか」
とエールを贈った
「………手に入らないから羨ましいんですよ……兄さん」
「………生きる屍になってた篤史の支えは野坂知輝だった
篤史は彼に逢うためだけに編集者になったんです
編集者になっていれば何時か野坂知輝に逢えるから……
会社に入らないかと言うと篤史はそう言った
たった1人_…逢いたい人のために人生を懸けた……
父さんは篤史を後継者に据えたかったみたいですが……ね
篤史は……人生を懸けたい人の側に行きたい……と断った
篤史の総てなんです
君も総てを懸けて共にいたい人を探しなさい」
「………兄貴達の様には生きられません……」
「なら戯れ言は言ってはいけません」
篤人に一蹴されて篤弘は肩を竦めた
「知輝さんって瀬尾利輝の子供なんだね
何だか瀬尾利輝見てるみたいな気分だった」
篤弘が言うとルリ子は
「………口にしてはいけません
簡単に口に出来る程……軽くはないのです
利輝さんも愛那も……光輝さんも……
そして知輝を産んだ……母親も……
認められずに他人の中で暮らした知輝も……
葛藤がなかったと想いますか?」
ルリ子に叱責され篤弘は黙った
「…………済みませんでした……」
篤人は静かに瞳を瞑った
脇坂が刺された日、子供の様に泣きじゃくって脇坂に縋り付いて泣いていた……
可哀想な子供……
胸が痛い程に……
自分の総てを懸けていた
総てを懸けて……愛し合う……恋人同士だった
人を愛する事を何処かへ置き忘れた様な弟の……
最後の砦……
「篤史に……知輝がいてくれて……僕は神に感謝したい程です……」
と篤人は呟いた
ルリ子も「そうね…嫁に…刺されて死にそうな顔してた……
あの子を立ち直らせたのは知輝だからね……
マンションの一番言い部屋を誰かの部屋にした時
夏に連れて来た、あの子の部屋だと想った
自分のプライベートの領域に入れても良い存在
その存在が篤史の前に現れてくれて……本当に良かった……」
ルリ子は目頭を押さえて……微笑んだ
篤郎は妻の肩に手を掛けた
「奥さん、少し飲み過ぎです」
「そうかしら?
貴方は篤史の会社に顔を出して一足早く知輝を見たんですものね……」
「奥さん……そこで責めないで下さい
会社に出向くと篤史と知輝がいました
知輝は痩せて可哀想な程に脅えてました
自分は良いから篤史を……と泣いていました
あれは……本当に胸が痛かったです……」
「………知輝は可愛いわ
大切にしたいと想う」
「ええ。私達は……二人を守って行きましょう」
篤郎は妻を抱き締めた
「真綾、僕達も二人を守って行きましょうね」
篤人も妻を抱き締め、話しかけた
真綾は嬉しそうに笑って
「弟が出来たみたいに嬉しいわ
私、あの二人を守るわ」
真綾は篤人に抱き着いた
「………独り身には堪えます……
僕も……妻が欲しいです」
篤弘はボヤいた
ルリ子は「早く見付けなさい」と笑った
篤人は「プレイボーイな君が本気の恋をしたらどうなるのか……見たいですね」と呟いた
篤郎は「蜜に惑わされてるうちは無理だな」と揶揄した
真綾は「……篤弘は不誠実な顔してるもんね……
篤史の真摯な気持ちを分けて貰いなよ」と呆れ顔だった
笑って夜が更けて……
家族はそれぞれの部屋に引き上げた
早々に自分の部屋に野坂を連れて来た脇坂は、野坂を部屋に招いた
「この部屋見覚えない?」
部屋に入って、辺りを見渡した
懐かしい記憶が蘇ってきた
「ある……高校の時、連れてきて貰った」
「僕の部屋です」
「この部屋で篤史は過ごしたのか…」
野坂は眩しそうに脇坂の部屋を見渡した
懐かしい部屋に記憶が蘇ってきた
「そうです
結婚するまで、この部屋で過ごしました」
「結婚して今のマンションに?」
「違います
結婚してる時は……あのマンションはまだ相続してません
君の家西区にあったでしょ?
だから西区にマンションを買いました
そこで……生活してました」
「そうなんだ……
篤史の部屋が見れて嬉しいな…」
「僕は、君の部屋……見たかったです」
「………俺の部屋……離れでプレハブだったから……寮に入った時に取り壊されてる」
プレハブ……
まさか……そこまでの扱いだったとは……
「………ずっとプレハブ?」
「………同じ家には住まわせて貰えなかった
俺も離れにいれば……家族の顔を見なくて良いから楽だった
食事はキッチンに置いてあるから、家族が食べる前に取りに行かなきゃならないけどな」
「………知輝、君を幸せにします」
「うん……もう幸せにして貰ってる」
「まだまだです」
「篤史、ありがとう」
脇坂は野坂をベッドへとずんずん連れて逝った
「寝室はこっちです
ダブルベッドを入れてくれたそうです
……僕は見てないので……照れます」
寝室のドアを開けると、かなり幅を取るダブルベッドが鎮座していた
机には野坂と映ってる写真立てが並べられていた
「………桜林の時の写真?」
「そうです
欲しいなら持って帰ると良いです」
二人で映った3年間が……そこに在った
脇坂は野坂をベッドに押し倒した
「え?‥‥オレ‥‥眠い」
「僕を満足させてくれないのですか?」
「最中に寝ちゃうかもよ?」
「恋人をスヤスヤ眠らせない努力をしてみますかね?」
クスクス笑いながら脇坂は野坂に接吻した
軽い口吻けは執拗な接吻に深まり‥‥
嚥下しきれない唾液が顎を伝って流れた
服を脱がせ、露になった素肌に吸い付き……舐める
野坂の股間に既に起きて勃起していた……
脇坂はズボンのベルトを外すと……ジッパーを下げて下着ごとずり下ろして脱がした
「こっちの友輝はちゃんと起きてますよ?」
ペロペロ舐められた
チュパチュパと吸い付かれ
野坂の眠気はどこへやら‥‥
陰嚢を揉みながら舐めると……野坂はイッた
「篤史‥‥後ろも‥‥ちゃんとして‥‥」
野坂はお尻の穴を解してと訴えた
「それは友輝の頑張り次第です」
「熱いって‥‥篤史‥‥助けて‥‥」
酔いが回って野坂は熱くて熱くて堪らなくなっていた
脇坂は野坂を離すと、性器の根元を強く握らせた
「僕が服を脱いでる間に逝く事は許しません!
ちゃんと出ない様に押さえてて下った!」
かなり意地悪な発言だけど、野坂は必死に性器の根元を握り締めていた
「篤史‥‥奥が疼く‥‥」
「なら後ろを解して開いて見せて下さい!」
欲しくて堪らない野坂は四つん這いになると、後腔に指を挿れて、脇坂に見せた
グニュグニュと指を出し入れて解すと両手で左右に開いて見せた
真っ赤な腸壁がウニョウニョと畝って蠢いていた
野坂は自分のお尻の穴を解しながら、脇坂の性器を舐めた
「………知輝……扇情的過ぎます……」
「……嫌い?
こんは事する俺は嫌い?」
「愛してます
嫌いになんてなりません」
「篤史に見せる……」
「何をですか?」
「俺がどれだけ篤史を欲しがってるか……」
野坂は脇坂の肉棒を舐めながら、自分の後膣に指を挿し込んでアナニーを始めた
「……ぅん……ぅぅんっ……あぁ……」
喘ぎが漏れる
脇坂も限界が来ていた
「知輝……そのお口で飲むの?
それとも指を挿れてる所に挿れるの?」
脇坂が問い掛けると、野坂は
「指を挿れてる……ココ……挿れて……」
誘った
「知輝……挿れて欲しいなら……
ちゃんと見せてくれなきゃ…」
脇坂は野坂をベッドに押し倒した
「ほら、開いて見せて下さい」
脇坂に言われ野坂は後膣を左右に開いた
「開いたら挿れて下さい」
野坂は脇坂に唆されるまま、脇坂の肉棒を挿れた
熱い塊が野坂の腸壁を掻き分けて進んでいく
開ききったエラが野坂の腸壁を掻き回す
野坂は総て受け挿れると馴染むのを待った
ピクピクと腸壁が痙攣して脇坂を締め付けた
脇坂は体を起こすと野坂の乳首に吸い付いた
「……ぁ……篤史……我慢出来なくなる……んっ……あぁん……」
「我慢しなくて良いです
君の欲しいままに……して良いんですよ?」
野坂は腰を動かした
抜く時に緩め
挿れる時に締め付け
絶妙な快感に脇坂は翻弄された
「……あぁっ……篤史……イイっ……」
野坂は悶えた
乳首を摘ままれこねくり回され……
野坂の性器は限界まではち切れそうになっていた
「知輝……もっと動いて……」
「限界だってば……はぁ……はぁ……んっ…」
「見せてくれるんでしょ?」
脇坂に言われて野坂は腰を動かした
もう何も考えられなかった
熱に魘され……脇坂を求めた
「……あぁっ……篤史……イクぅ……」
野坂は脇坂の性器を締め付け……イッた
脇坂も野坂の中に熱い飛沫を吹き上げた
野坂は脇坂の胸に崩れ落ちた
「………酔いが回った……」
野坂は抜こうとした
それを押さえ付けて脇坂は再び野坂の中を抉った
野坂の脚を方に担ぎ上げ……
肉棒の杭を打つ
激しく出し入れされる熱に……
野坂は脇坂に縋り付いた
熱が引く待て……
何度も繋がり合い……
眠りに落ちた
脇坂は朝陽に照らされた野坂の唇に口吻を落とした
愛しい
こんなに愛しい存在を手に入れられるとは想わなかった
野坂の上に重なり口吻を落とす
「……篤史……もぉ無理だって……」
野坂は弱音を吐いた
脇坂は笑って口吻をした
その時、ドアがノックされた
「空いてます」
脇坂が言うと執事の蒲生が姿を現した
「おはようございます」
蒲生が挨拶すると脇坂は
「蒲生、用は何だ」と単刀直入に問い掛けた
野坂は恥ずかしくて……
脇坂の胸に顔を隠した
「奥様が朝食をご一緒に……との事です
如何致されますか?」
「ご一緒しますと伝えておいて下さい」
脇坂が言うと野坂は
「篤史退け!」
と色気もなく言った
「余韻もなく?」
「散々したじゃねぇかよ!
退けってば!」
「足りませんけど?」
「…….俺は朝食を食いに行く」
「僕は知輝で良いです」
野坂は脇坂を押し退け体躯を起こした
その体躯にはキスマークが散らばっていた
かなり刺激的なその肢体に…蒲生はいたたまれなくなった
「坊ちゃま、お着換えはどうされます?」
「勝手にやります
気にしなくて宜しいですよ?」
「それでは失礼致します」
蒲生は部屋を出て行った
「ではシャワー浴びますか?」
「ん。………見られたよな?」
「彼は執事です
気にしなくても良いです」
「………俺は気にするんだ……」
ブツブツと文句を謂う愛すべき恋人に脇坂は口吻けを落とし
「ほら、起きないと朝食を一緒に取れませんよ?」と促した
脇坂はベッドから起き上がり野坂に手を差し出した
野坂は脇坂の手を取り、ベッドから起き上がった
「………怠い…」
「昨夜の知輝は情熱的でしたからね…」
「………酔ってたんだよ」
「君の愛は良く解りました
僕は幸せです
こんなに君に愛されて」
脇坂は本当嬉しそうに微笑んだ
野坂はそんな脇坂の顔に赤面した
突然……こんなのは……不意打ち過ぎて……ダメだってば…
愛しすぎて……
底なし沼みたいな自分の想いが怖い……
脇坂と共に浴室に向かい体躯を洗って貰った
ジャグジーに2人で入り寛いだ
そして浴室から出て着替えた
脇坂と共に食堂に向かい朝食を一緒に取った
ルリ子はご機嫌だった
今日の野坂はヨレヨレで首には……紅い痕が散らばっていたから昨夜はあれから大変だったのだろうと察した
息子の執着が解る
「知輝、眠れた?」
ルリ子が聞くと野坂は顔を赤らめた
朝まで脇坂にされた事を考えると……眠れてなかったから……
「………篤史……寝かせてやりなさい……」
「仕事に入るとお預けさせられるので、仕事のないうちに徴収しとかなきなって……想うので仕方ありません」
脇坂の言いぐさにルリ子は苦笑した
「……何という言いぐさなの…」
「僕はこう言う奴ですから」
脇坂は笑った
その優しい顔に……脇坂の幸せが滲み出ていた
「まぁ良いわ」
ルリ子は息子の顔を見ながら食事を始めた
野坂は何処か見知った家の雰囲気に
「……あの……この家の隣って……久世ですか?」と切り出した
野坂は脇坂にこの家に連れて来られた時、何処か見知った景色だと想っていた
高校地代に連れて来られたからか?と想っていたが、どうやら違う事に気付いた
この家の全容を隣の家から見た記憶の方が強かった
だから野坂はルリ子に問い掛けた
「あら?久世の家、知ってるの?」
「久世の家に知り合いがいます」
ルリ子は不思議そうな顔をした
野坂が知っていそうな久世の家の子供は一人しか思い浮かばなかったからだ‥‥
まさか世捨て人と謂われる久世家の三男じゃないわよね?
「誰かしら?私の知ってる子かしら?
名前は?解る?」
「……久世王堂(きみたか)
彼と……知り合いとなんです」
「……王堂?……間違いじゃなく?」
「ええ。久世王堂です…」
「.....王堂は誰も見た事のない……久世家の七不思議なのよね……
それを知っているの?知輝…」
「大学時代はあの家で生活してました」
「………嘘……」
ルリ子は信じられない思いだった
久世家には3人の息子がいる
だが久世王堂だけは公の場に姿を現した事はない
ルリ子だって滅多と逢ったことすらないのだから……
脇坂は野坂を見た
「知輝……友達……ですか?」
「大学の同級生
王堂は漫画家なんだ
アイツのデビュー作は、俺の原作なんだ」
脇坂は野坂に
「そう言えば君
大学は何処だったんですか?」
と、今更ながらに問い掛けた
「俺は桜林
そのまま上に上がって久世のツテで赤蠍商事に入社したんだ」
今更ながらの事実に脇坂は衝撃を受けた
「僕もそのまま上に行けば良かった……」
脇坂は呟いた
そしたらこんな遠回りしなかったのに‥‥
脇坂は「話せるなら話してくれませんか?」と問い掛けた
野坂は静かに語り始めた
「………久世王堂は俺の才能を見抜いて、俺に投資してくれていたんだ
奨学金で大学に上がった俺に投資してくれて……
俺は自由に大学生活を終えれたんだ」
「………それは……どう言う意味なのですか?
詳しく教えてくれないと……監禁しますよ?」
「………詳しくも何も……そんな関係じゃないし……
脇坂と……暮らしてるのも知ってるし……」
「………君言ったの?」
「アイツには幸村と言う忍者バリの執事がいるんだよ
王堂の為ならなんでもやる執事がな!
そいつが王堂に教えてるんだよ
俺の事なら今も調べまくってる、と言う事だ」
「………何か関係が見えて来ません……」
「だから関係なんてねぇんだってば……
俺は王堂は趣味じゃねぇし
幸村の様なタイプは……苦手なんだってば…」
「知輝が愛して止まないのは僕ですものね」
こんな臭い台詞……
家族は思い切り引いた
なのに野坂は頬を染めて
「うん」と答えた
「久世王堂と言う男と知り合ったのは大学に上がってから
俺は……奨学金で上がったから成績を維持するのに必死だった
王堂は奨学金を受けて生きてるなんて、学校に飼われても同然
好きに生きれねぇし、お前の意思がない……って言ったんだ
王堂は俺に融資すると言った
融資するから、お前は好き勝手に生きろ…と王堂が申し出でくれた
俺は奨学金を切った
幸村に叩き込まれて大学を卒業した
そして就職先も世話して貰った
王堂は高校時代に漫画家になったからな
何度か原作を書かされた
俺を赤蠍商事に入れたかと言うと、外資系の形態を知りたかったからだ
赤蠍商事に入った俺は王堂の望む情報を渡した
退職した後に事情を話したら……ごめん…って俺を解放してくれた
これからは好きに生きろ……って……
それから何度か原作を書いた
脇坂が担当になってからは単発の仕事は入れてない
でも顔を見れば……無理難題言うのが王堂だからな…」
野坂は総て話した
脇坂は何で野坂が赤蠍商事に入ったのか不思議だった
やっと理解出来た
食事を終えて、野坂は脇坂と共に中庭へ出た
手を繋いで中庭の薔薇を見ていた
「知輝が何処の大学を出て、何故赤蠍商事に入ったのか……不思議でした
聞きたかったのですが…君は沢山抱えていたので聞けませんでした」
「聞けば良かったのに……
言っとくけど、久世王堂は脇坂に似てないからな……
俺は脇坂を求めて王堂の傍にいた訳じゃねぇ…」
「それを聞いて安心しました
君は東大に逝くと言ってませんでしたか?」
東大に逝くと聞いていたから東大を目指したのに‥‥
「東大の奨学金は俺には無理だったから、上に上がるしかなかった」
それで総て納得できた
「で、王堂との出逢いは?
話して下さい」
「大学の入学式の日
慇懃無礼にぶつかっても詫びも入れないアイツにムカついたんだ……
だから蹴飛ばした
……それが久世王堂だった
王堂は……この僕を蹴飛ばす奴は興味があると俺に付きまとったんだ
大学には脇坂はいなかったからな……
ひょっとしたら桜林に……って期待したんだけどな……」
「………君……第一志望…東大って書きませんでした?」
「……あれは脇坂が東大狙ってるって皆言ってたから……
そしたら上に上がるって聞いたし……期待してたのに‥‥
どっち道、俺は東大の奨学金は受けられないし‥‥上に上がるしかなかったんだよ」
「………僕達……本人に聞けば良い事を聞かずに遠回りしてました?」
「………そうみたい
でも今、篤史がいてくれるから……それで良い」
脇坂は野坂を抱き寄せた
花のいい香りが辺りを包み、野坂は幸せを噛みしめていた
その時、聞き知った声が
「知輝さんではありませんか!」と呼んだ
顔を上げると……幸村が隣の家のテラスから身を乗り出していた
「……幸村…」
「お隣に来て、王堂様には逢わずに帰られるって事はありませんよね?」
幸村は不敵に笑った
脇坂は野坂を背中に隠した
「知輝、部屋に帰りますよ」
脇坂はそう言い歩き出した
「脇坂篤史さんですか?」
幸村は脇坂に問い掛けた
「そうですが…」
「王堂様が逢いたがっていました
どうぞ、我が家にお越しください」
「僕は実家に帰っているのです」
「……あぁ、脇坂様の三男様であられましたね
解りました
では王堂様が脇坂様の所へお逢いに行く事にします
少しお待ちください」
「幸村!俺が行くから……
迷惑かけないでくれ…」
「知輝、君の幸せを誰よりも願ってるのは誰か忘れましたか?」
「……………王堂だろ?
解らない程の愚か者じゃねぇ
よ」
「ならば、待ってて下さい
王堂と共にお伺い致します」
幸村はそう言いテラスを後にした
「………来るって……
ごめんな……迷惑になる……」
「……気にしなくて大丈夫です」
野坂は困った瞳を脇坂に向けた
「取り敢えず、応接間に行きますか?」
「………俺が……王堂の家に行く…」
「知輝、君の友達なら僕も逢っておきたい
この家でお迎えすれば良いです」
「………ありがとう篤史」
「なら応接間に行きますよ」
脇坂は応接間に逝くと、両親や家族に来訪者がある事を伝えた
暫くすると、久世王堂は脇坂の家を尋ねた
執事の幸村穂高を引き連れて、脇坂家のベルを鳴らした
応答に出たのは執事の蒲生は
「どちら様でございましょう?」と問い掛けた
その問いに答えたのは幸村だった
『お隣の久世でございます
王堂様が知輝さんに逢いたいとおっしゃっておられます
お通し願いたいのですが?』
幸村が言うと蒲生は脇坂に問い掛けた
「久世様がお逢いしたいそうですか、どうなさいますか篤史様」
「お通しして下さい」
脇坂が言うと野坂は
「すみません
ご迷惑お掛けします」と謝った
執事が王堂を迎えに行き、王堂が執事の幸村と共に応接間にやって来た
脇坂の家族は珍しい客だと、見物を決め込んだ
王堂は野坂の横に座ると、頬にチュッとキスを落とした
「知輝、結婚おめでとう
近いうちに結婚祝いを贈らせる!待っててくれ」
「………俺は結婚はしてねぇぞ?
誰から聞いたの?それ?」
「幸村が仕入れた情報だ」
王堂は笑った
「初恋が実ったじゃんか!知輝」
「………お前に初恋の話なんてしたっけ?」
「お前は何も言わないからな
幸村があっちこっち情報を掴んで来たんじゃないか」
「………何でも知ってるなら、わざわざ来るな」
「少し前……僕は……お前のために……アイツを始末してやろうかと……幸村と話してた所だ……
消す前に片付いちゃったからな……中々お前に逢えなかった」
「………王堂……俺の為に何かしなくて良いから……」
「それ程にお前が大切だと言ってるんだ
僕には友達は知輝しかいない…」
「俺も友達は王堂しかいないよ…」
「お前……東栄社の仕事しかしないから、僕も東栄社に引っ越した」
「………小雑館の仕事もしてるよ?」
「それでもダーリンの所の仕事が多いのは確かだろ?」
「………うるさい…」
野坂はそう言い王堂の足を蹴飛ばした
王堂は「痛い!」と叫び、蹴られた脚をスリスリ撫でた
幸村も王堂の脚を撫でた
「本当にお前は手と足が速い……
出逢った時もそうだよね?
僕がキラキラとうぜぇと蹴り飛ばしたよね?
僕は人に蹴られるのは初めてだった
腹が立った
けど、僕を蹴るのも初めてなら、損得抜きで傍にいてくれる奴も初めてだった
金をちらつかせても……動じないばかりか……
あの時はたこ殴りに……されたよね?
金で動く人間しか見てないから、お前は心が貧しいんだ
とまで言ったよね君
それ以来君に取り憑いてみた
君の傍は楽しかった
君が苦しい恋をしてるのは知っていた
僕は一番にお祝いを言いたかった
なのに……知らせてもくれなかったのは何故?」
「……お前が知れば結婚祝いだとビルでも買いかねない」
「良く解ってるじゃないか」
「俺には不要な長物だ
だから連絡しなかった
お前なら、どんな手も使って連絡して来るだろうし……
それからでも良いかと想っていた」
「相変わらず憎たらしいね、このお口」
王堂は野坂の口を摘まんだ
「痛ぇよ!」
怒る野坂をよそに王堂は脇坂に笑顔を向けた
「脇坂篤史、僕を知ってる?」
「………貴方は有名でしたからね……」
「君も有名だったよ?」
「子供の頃から知ってますが……口を聞こうとは想いませんでした」
「それ、僕も想っていた
でも知輝の亭主が君なら、今後は宜しくして貰わないと……と想ってる」
脇坂は何も言わなかった
キャラが被るのだ
二人は昔から良く比べられていた
しかも王子様キャラが被っていた
互いに近付くのを牽制したのは言うまでもない
「で、知輝に御用ですか?
それとも僕に御用ですか?」
「篤史、君、僕の編集者に収まりなさい」
「無理ですよ
僕は小説の方の編集者です
漫画は畑違いです」
「少女漫画の編集者やってたと幸村が言ってたけど?」
「…………幸村は何と君に教えました?」
「…………ノーコメントで…」
王堂は慌ててそっほ向いた
「僕は小説の編集者ですので……お断りします」
「東城さんは異例と言うカタチで掛け合うと言ってくれたけど?」
「………こんな遠くまで来たくないです」
「僕、君のマンションの横にマンション建てたよ!
そこのペントハウスを仕事部屋にした
知輝が欲しいならビルごとあげるよ?」
王堂が言うと野坂は、王堂の足を蹴飛ばした
「……痛いってば!知輝!」
「友達辞めるぞ!」
「……それは辞めて……お願いだから……」
「何でもかんでも金換算しやがって……お前のそう言う所嫌いだ……
この世は金じゃ買えねぇモノはねぇけどな
人間まで金で買うなよ……
少なくとも……俺はお前に買われたくない……」
「………知輝……」
「お前に連絡しなかったのは……
結婚祝いだとビルでも買いかねない……そんな所が嫌だからだ……
友情を金で換算されたくない…
分相応の結婚祝いなど要らない
俺は……脇坂さえいてくれれば何も要らない……」
さらっと惚気られた
王堂は苦笑した
「………知輝……惚気たろ?」
「惚気てない真実だ」
王堂はため息を着いた
「そう言うと想ってた
だから……連絡取れなかったってのもある……
僕は……強引ですから……
嫌われたくないって想うと臆病になる
幸村が知輝が来てると教えてくれた
知輝がこんな近くにいるなら……逢いたくて仕方がなかった……
お前は逢いたくなかっただろうけど……僕は逢いたかったんだ……」
野坂は王堂の頭を撫でた
「逢いたいに決まってるだろ?
だが……俺も色々あったからな……
自分で立ってられなかった程だったんだ」
王堂は野坂の頬に手をあてた
「………もう大丈夫なのか?」
心配そうな瞳とでくわす
野坂は王堂に抱き着いた
「………大丈夫だ……
俺は……生まれて来て良かったと言えるからな……」
「……知輝……」
生まれて来た事を呪っていた野坂はいなかった
王堂は流れ落ちる涙を拭う事もせず野坂を抱き締めていた
「………お前が……辛くなくて良かった……」
「王堂は?
いい人出来た?
今幸せ?」
「今幸せだよ
こうして知輝といられるんだからね」
「恋人は?」
「…………締め切りを目前にした漫画家の実態を目にしたら……逃げてくのは何故なんだろ?」
キラキラの王子が…
締め切りに追われて……鬚も髪もボサボサで……
目が血走って……ヨレヨレのデロデロになる様は……
壮絶だろう
野坂はその姿を知っていた
野坂は笑って
「俺も締め切り前は……ボサボサでデロデロになる……
篤史が綺麗にしてくれないと……ホームレスと間違えられる
実際……篤史と住むまではホームレスに間違えられて……酷い目にあった事もあるからな…」
「……解る……幸村が世話焼かなきゃ……王子なんて言われない様だからな……」
「………そんな姿を見せたら……
百年の恋も醒めるよな……」
「お前には脇坂篤史がいる
お前が焦がれて思い続けた男だ…
良かったな……
お前が辛い恋に泣かなくて……僕は胸をなで下ろしました」
「………王堂……」
「また逢って……
お前の幸せしか願わないから…」
野坂は王堂を強く抱き締めた
「どうした?何があった?」
野坂はそう言い幸村を見た
幸村は「何も御座いませんよ」と野坂に言った
「幸村、俺が動いて何かあったら……お前、覚悟出来てる?」
野坂を教育したのは幸村だった
徹底的に教育した
「…………知輝さん……後で御本人にお聞き下さい……」
「そっか……今夜俺の家に来い!」
「………知輝……」
「だから、ちゃんと話せ」
「……解った……」
「東城社長にコラボの申し出をしておく
お前と俺で人が書かねぇ物語ををぶっ放そうぜ」
王堂は目頭を押さえた
野坂は幸村に携帯を差し出した
「……これは?」
「俺の連絡先を入れといて
そして王堂の連絡先も入れといて」
「承知しました」
幸村は携帯を受け取り操作して電話帳に入れると携帯を野坂に返した
王堂は脇坂の家族に深々と頭を下げた
「お騒がせ致しました
家族団らんの場に乱入してしまい本当に申し訳ありませんでした」
王堂の詫びにルリ子は笑顔で受け流した
「王堂…何年ぶりかしら?」
「お久しぶりです」
「お前の家とは親しい付き合いがあるのに、お前は…こんなに近くに住んでるのに何年も見た事がない……」
ルリ子は王堂を見ていた
久世翠川(みどり)、王堂の母親が……何時も心配して口にする息子だった
「翠川が言ってた、王堂には特別な唯一無二の存在がいてくれる
それだけが救いだって……それって知輝だったんだ……」
「………僕を蹴り上げたり殴るのは知輝だけだったんだ…」
王堂の言い草にルリ子は爆笑した
「………損得なしに僕の傍にいてくれるのは知輝だけだから…
だから知輝を喜ばそうとしたけど…上手くいかない…」
「どんな事して喜ばそうとしたのさ?」
「知輝は一途に篤史を想って、片想いしてたから……
幸村に言って写真を隠し撮りして来てやったりしたんだ…なのに…殴るんだ
これはプライバシーの侵害じゃ!とか言って……
その癖、その写真は持って帰るんだ
だから、ある日言ったんだ
好きなら監禁しろよ!……
すると飛び蹴りされた……
僕は……蹴られて初めて気絶した……
こんな乱暴な奴……友達辞めても良いんだ……と想うけど……
僕の事を誰よりも見てくれるのは知輝だけだから……
離れらない……」
王堂の言葉にルリ子は腹を抱えて笑った
「王堂、お前の鼻っ柱を折ったのは知輝なのか……
大学に入って変わったって言ってた
そっか…こんな所に繋がりがあったんだ」
ルリ子はしみじみと呟いた
息子の篤史の特別な存在
野坂知輝のもたらす影響は大きい
あの、世の中を拒絶して生きてた……脇坂をこの世に引き止め唯一無二の存在になった
「篤史って呼んで良いか?」
王堂は脇坂に恐る恐る問い掛けた
「構いませんよ
なら僕も王堂と呼びますよ?」
脇坂が言うと王堂は嬉しそうに笑った
脇坂の家族は不思議な顔して、その風景を眺めていた
脇坂は野坂に「帰りますか?」と問い掛けた
「………王堂……連れて行って良い?」
「構いませんよ?
邪魔なら放り出せば良いんですからね」
脇坂は笑った
「篤史ありがとう!」
にぱっと笑う野坂の顔は幸せそうだった
脇坂は立ち上がると
「今日はこの辺で帰ります
楽しい一時をありがとうございました」
そう言い深々と頭を下げた
野坂もその横に立ち頭を下げた
ルリ子は「また遊びにおいで」と笑顔で返した
篤郎や篤人、篤弘はニコッと笑って脇坂と野坂を見守っていた
脇坂は幸村に「ご一緒しますか?」と声をかけた
「篤史様はご自宅にお帰りですか?」
「そうです」
「でしたら、ご自宅の方に訪ねさせて戴きます」
「待ってます」
野坂の手を掴むと脇坂は
「では帰ります」と言い野坂と共に応接間を出て行った
王堂も幸村と共に脇坂の家族に挨拶して応接間を出て行った
外に出ると脇坂が野坂をベンツに乗せる所だった
野坂は助手席に乗り込んで王堂に手をふった
脇坂は車を走らせた
王堂と幸村はそれを見送って自宅に帰って行った
自宅に行くと王堂は自室へと向かった
家族に逢う事はない
ここ数年……誰とも逢わない
適当に付き合うのにも飽きた
女は久世の名前を聞けば猫なで声で近寄って来る
男も…久世の名前に懇意にしようと魂胆が見え見えだった
金や名声抜きでいてくれる存在……
そんなモノは皆無に近かった
そんな時、自分を蹴り上げた野坂に逢いたいと想った
何時逢っても変わらぬ存在
年月など感じさせず……
顔を見れば昨日の続きを送れる様な存在
それが野坂知輝だった
金に靡かず
名声に靡くこともない
『お前が何処の何様か知らないけど、人間なのに変わらない
身分や肩書きと言うのは従いたい奴にとっては魅力的だが、魅力的を感じない奴には何の得もない
俺はお前が何処かの王子だとしても変わらない
諂うのは嫌だし
従う気は皆無だ
それでも良いなら……傍にいろよ』
こんな言葉……
言われた事などない
日々野坂の存在が大きくなって行った
野坂には、ずっと片想いしてる存在がいた
それを知ったのは幸村からだった
脇坂篤史
桜林学園 高等部時代の友だと聞かされた
なる程
野坂が遠くを見ているのは……
脇坂篤史を想ってるのか……
納得した
大学を出て赤蠍商事に入社させた
大学時代傍にいてくれた、そのお返しに……
情報提供と言うカタチで入社してくれと頼んだ
コネをフルに使って野坂を赤蠍商事に入社させた
だが……その会社に脇坂に似た男がいたのは誤算だった
そして虐めが始まり……
野坂が自殺未遂をおこしたと聞いた時……
心底……悔やんだ
赤蠍商事を紹介しなきゃ良かった
負い目になった
その頃から少しずつ……野坂に距離を置いた
脇坂と暮らし始めたと聞いて……
心から良かったと想った
心から……野坂の幸せを願って泣いた
こんな想いをするなんて想ってもいなかった
こんな風に誰かの幸せを願えるなんて……
想わなかった
知輝……幸せに……
それしか願っていない
野坂の幸せが……嬉しかった
だから龍ヶ崎は許せなかった……
手を下す前に……飛鳥井の真贋が片付けたと幸村に聞いた
何も出来なかった不甲斐なさに……泣けた
そしてやはり……想うのは……
野坂と共にいたい
それだけだった
王堂は嬉しそうな顔を幸村に向けた
「王堂様、行きますか?」
「知輝……迷惑じゃないかな?」
「待ってると仰ってました
王堂様、知輝様の連絡先を入れてあります
そんなに心配ならお聞きになれば宜しいでしょう」
「……怖い……」
「怖がらずとも宜しいかと想います
王堂様、行きますよ」
幸村は王堂を促して駐車場へと向かった
そしてベンツに王堂を押し込むと、脇坂宅へ向けて車を走らせた
脇坂と野坂はマンションに帰って来ていた
脇坂は野坂を応接間のソファーに座らせた
「疲れましたか?」
「うん…少し…
ごめんな篤史……こんな事になって……」
「気にする事はないです
でも君が久世王堂と友人だって事は……驚きました」
「隠してた訳じゃない……
そのうち連絡を取って来るだろうから、それからでも良いかと想ってたんだ
後……幸せすぎて忘れてたのもある…」
「押し倒してしまいたい言葉ですね」
「篤史だけだから…」
「解っています」
野坂は脇坂の手を握り締めた
脇坂は優しい瞳で野坂を見ていた
玄関ホールの集合インターフォンが鳴らされた
脇坂はモニターを作動すると幸村の顔が写り出された
「幸村で御座います
これよりお伺いしても宜しいでしょうか?」
「ロックを解除するので、最上階まで上がって来て下さい」
「解りました」
幸村は王堂を促してロックを解除されてマンションの中へ入って行った
エレベーターに乗り込み、最上階へと行く
最上階に到着してエレベーターを下りると、ワンフロアーに一部屋しかないのか、ドアは一つしかなかった
幸村はドアチャイムを鳴らした
すると脇坂がドアを開けた
「どうぞ!」
招き入れられ玄関に入ると、野坂が顔を出した
脇坂は野坂に
「応接間までお連れして下さい」と言いキッチンへと向かった
野坂は王堂と幸村を応接間へと連れて行った
王堂は野坂に
「この家には使用人はいないのか?」 と尋ねた
「俺は生活の中に他人は入れたくないんだ
篤史を見る誰かなんて……想像するだけで…狂う…」
野坂は本音を吐露した
王堂は野坂らしくて笑った
「知輝は焼きもち妬きなんだ」
「………」
野坂は何も言わなかった
脇坂がお茶を煎れて応接間にやって来ると、幸村と王堂の前にお茶と茶菓子を置いた
脇坂の前には珈琲
野坂の前には紅茶とお菓子を置いた
脇坂はソファーに座り
「で、お話をお聞きしましょうか!」と問い掛けた
王堂は悲しそうな顔をして「………知輝……」と名を呼んだ
野坂は「王堂、何があった?」と心配して問い掛けた
「………描けなくなったんだ…」
「何で?」
「………知輝と離れて……恋人とも別れた……
何をやっても……空回りして……ダメダメなんだ
落ち込んで……自分が解らなくなってしまったんだ……」
王堂は憔悴していた
昔の慇懃無礼な姿はなかった
「恋人って誰?
何処かの令嬢かなんか?」
「違う‥‥‥」
「なら誰?教えて王堂」
「…………東栄社の編集者をしてる人だ…」
王堂がそう答えると脇坂は
「何処の出版社の方ですか?」と尋ねた
「東栄社の‥‥編集者だ」
「名前は?」
王堂は「…宮本麻子……」とボソッと答えた
野坂は脇坂に「……知ってる?」と問い掛けた
「………君も知ってるでしょ?
ラノベで揉め事があった時に出て来た編集さんですよ」
「……あの美人かぁ……」
脇坂は王堂の前に立つと
「宮本麻子の元上司の脇坂篤史です!
宮本は今、ラノベ部門新設と共に編集長をしております」
と自己紹介をした
「……篤史……麻子の上司だったんだ……
厳しい上司に扱き使われてる……って篤史の事だったんだ」
「宮本は産休で休んでましたが、今は託児所に預けて働いてます」
「………え……託児所にって……
麻子さん結婚してたの?」
「宮本に聞くしかないと思いますけど?」
「………僕の電話には出てくれない……」
王堂は涙ぐんで答えた
「ではお節介を焼いてあげましょう!」
脇坂はそう言うと携帯を取り出した
「脇坂です!」
今日は休暇中の編集長からの電話に女性社員は驚いて
『脇坂編集長!どうなさいました?』と問い掛けた
「ラノベ部門の宮本と変わって貰いたいのですが?」
『編集長!野坂先生関連ですか?』
「急いでます、変わって下さい!」
電話を取った編集者は宮本せ電話を繋いだ
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