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第35話 道程

漫画家 久世王堂と原作、総監修 野坂友輝のコラボは始まった 今回は原作のみという形での参加ではなく 王堂の描く絵の指示を野坂が監修していくと言うモノだった 野坂は連日、王堂のマンションに来ていた 朝、王堂のマンションに 脇坂が送って行き 仕事終わりに回収して帰る そんな日々が一ヶ月以上続いていた 「知輝、疲れた顔をしてますね」 「今回指示だから……タイミングとか掴めないし…… イライラすると……喧嘩になる それが嫌なんだ……」 「なら編集部で描きますか? それなら僕も顔を出せます 君の負担にならない様に離してあげる事も出来ます」 「………篤史……一ヶ月以上…… 篤史に甘えてない…」 野坂はそう言い脇坂の胸に顔を埋めた 「やると言ったのは君ですよ?」 「………ごめん……」 野坂は離れようとした それを押し止め脇坂は抱き締めた 「今日は僕は昼から出勤します お昼までイチャイチャしましょう!」 「………嬉しい…」 脇坂は携帯を取り出すと会社と王堂の所に午前中は行けないと連絡を入れた そして野坂の手を引っ張って寝室に向かった ベッドの上に上がると野坂は服を脱ぎ始めた やる気満々だった こう言う所は本当に男前だった 「篤史、サクサク犯るぞ!」 サクサク……犯るの? そんなんで良いの…… 萎えそうな気分に苦笑した ムードも雰囲気もぶち壊しな野坂に少しだけ意地悪する 「サクサク行きたいのなら、僕のを舐めながら自分のアソコを解してくれれば良いです」 「………え?……」 脇坂はスーツを脱ぎ捨てた 脇坂は全裸になると勃起して隆々と聳え立つ肉棒を握り締めた 「さぁ舐めて下さい」 野坂は脇坂の性器を舐め始めた 畜生……墓穴をほった…… と悔やんでみても遅かった 野坂は脇坂の性器を舐めながら…… 自分のお尻の穴を解した 気持ち良すぎる…… 野坂は脇坂のを舐めるのが好きだった 愛する男の感じる様を確かめれる行為が好きだった 感じてくれている…… それだけで自分の体躯は濡れ始めた 「勃ってますね? 気持ちいいんですか?」 野坂は脇坂の性器を舐めつつお尻の穴を解した 穴が緩んで……指がグチュグチュと音を立てていた 「知輝、見せて…… 君のイイ場所を見せて下さい」 脇坂の性器を離すと…… 脇坂を見上げた 唇は……口淫で濡れていた 煽情的なその顔に脇坂の股間はズクンと熱く脈打った 野坂は四つん這いになると…… お尻の穴に指を挿れて開いて見せた 中を掻き回しながら……誘う 真っ赤な腸壁が顔を出して脇坂を誘惑していた 「……篤史……挿れて……頼むから……」 野坂の腰は脇坂を求めて揺れていた 脇坂は野坂の蕾に唇を寄せると舐めた 舌を挿し入れると誘い込む様に内へと咀嚼を始めた 舌を抜き舐める続けると…… 野坂はシーツを握り締めて堪えていた 「篤史……まだ?……」 「僕は時間を掛けて楽しむタイプだと教えませんでしたか? 出して挿れるだけのセックスは御免です」 「……欲しい……もっ……もぉ……欲しい……」 「君はせっかちでいけませんね」 「篤史……中が疼く……」 「欲しいなら乗って食べなさい」 脇坂はベッドの背もたれにもたれ掛かり肉棒を握り締めた 野坂はゴクンッと唾を飲み込むと……起き上がり脇坂を跨いだ 脇坂は肉棒を握り締めると、野坂の秘孔に擦り付けた 「君の欲しいのは……コレですか?」 野坂は仰け反った プクッと尖った乳首を囓った 「……イッちゃう……ダメっ……んっ……」 「ほら、食べて良いですよ」 野坂の秘孔が脇坂の肉棒を誘い込んで咀嚼していく 野坂の腰は揺れていた 脇坂はズンッと野坂の奥を突いた すると野坂は………イッた 「……ゃ……あぁっ……ぁぁぁ……」 蒸気した肌が艶めいて……赤く染まっていた 「僕はまだイッてませんよ?」 「ごめん……気持ち良すぎた…」 「僕も気持ち良いです 君だからですよ? 解ってますか?」 野坂は脇坂の首に腕を回した 「 愛してる篤史…… 俺を幸せにしてくれるのは篤史だけだ……」 「僕を幸せにしてくれるのは知輝だけです 愛してます……君だけを…」 二人は激しく求め合った 体躯が蕩けてしまいそうなほど…… 野坂は感じた 脇坂も野坂を求めて…… 二人してドロドロになった 野坂は気怠げに体躯を投げ出していた 背中はまだ汗で湿っていた 「疲れましたか?」 「ん……疲れた……」 「欲しがったのは君ですよ?」 「………篤史が不足していた 補充しなきゃ……死にそうになる」 脇坂は野坂の背中に口吻を落とした 「お昼は下のカフェで軽食を取りましょう」 野坂は起き上がった 「ん……お腹減った…」 二人は浴室に向かって、体躯を洗った そして風呂から出ると支度をして家を出た マンションの下のカフェに行き、軽食を取って 脇坂は隣のマンションまで野坂を送って行った 幸村が出迎えてくれて 「王堂様が……不機嫌です」 と告げられた 脇坂は笑って「大丈夫?」と尋ねた 野坂が頷くと脇坂は会社へと向かった 野坂は幸村に促されて部屋に入った 艶々の野坂を見れば…… 何をして来たか……一目瞭然だった しかも野坂はご機嫌だった 野坂の首には隠しきれない赤い痕が散らばって…… 色っぽかった 王堂は野坂は知ってる限りではタチだと想っていた 幸村から仕入れた情報によると野坂はネコになっていた イマイチ信じられなかった ………が、今の野坂なら納得だった 「……幸せそうだね知輝……」 王堂は揶揄した 野坂は本当に幸せそうな顔をして笑った 「幸せなんだよ王堂」 幸せそう……じゃなく幸せなんだと野坂は訂正した 「君はタチだと想ってた……」 「うんネコは安藤と脇坂だけだからな……」 幸村から安藤の写真を見せられた 脇坂によく似た男だった 野坂は脇坂と離れても脇坂を求めるか…… と、痛感した でも幸せそうな奴を見ると腹が立つ…… 王堂はやっとこさ子供の認知は出来たが、入籍はまだだった 担当編集者にはなってくれたが……距離は埋まらなかった 友人が幸せなのは嬉しい 嬉しいが…… 複雑だった 「知輝、此処まで描いた 訂正とかあったら言ってくれ」 王堂は野坂に原稿を見せた 野坂は原稿をチェックして次の話に取り掛かった 書く前にプロットを立てて指示する 野坂がいなきゃ成り立たない作業だった 野坂の指示は的確で自分の思ってる先を行く 「お前さ……身が入ってないだろ?」 図星を刺されて王堂は驚愕した瞳を野坂に向けた 「………どこら辺を見て……そう言う?」 「絵がさ……感情入ってない こんなのなら共同制作じゃなく原作で充分だと想わない?」 「………そこまで言うか?」 「俺にも作品の責任はあるんだからな、言う 嫌なら俺は抜ける 手抜きの仕事なんざする気はないからな!」 「………帰ってくれ……」 「解った」 野坂は立ち上がった そして部屋を出て行った 見送りに来た幸村が野坂に謝った 「幸村、王堂を独り立ちさせろよ! 私生活と仕事とを分ける時期が来たと想わないか?」 「……知輝さん……」 「お前に甘えてれば楽だもんな 何でもかんでも幸村任せで、そのうち新妻の夜の相手もしてやるのか?」 「知輝さん!」 幸村は怒って声を荒げた 「極端な話だけど、幸村がしてるのはそれと変わらない…… 王堂を駄目にしたくないなら線引きはしろよ! 何時までも子供じゃないんだからな!」 野坂はそう言いマンションを出て行った 野坂が出て行った部屋は静まり返った 王堂は原稿を見ていた 今回は……野坂の言う通り、原稿に集中して描いた訳じゃない ズバッとその部分を指摘されるとは想わなかった…… 解ってる そんなのは自分が一番解ってる 中途半端だ…… 日々の生活すら幸村の手を借りないと出来ない それが宮本と暮らせない理由の一つなのは解ってる 自立出来ていないガキと変わらないのは解ってる 「………王堂様……」 「幸村……知輝が言うのは当たり前の事なんだ……」 「……知輝さんも脇坂様に依存されてると想いますが……」 「知輝は脇坂がいなくても生活出来ていた…… 今は傍にいてくれるから甘えでいるんだろ? でも時々、掃除しろと言われてブチブチ言ってるのを聞くと脇坂は甘くないと想う 散らかすと片付けなさいと言われて、掃除するから……って早く帰るじゃないか」 「………王堂様……貴方はどうなりたいと想ってるのですか?」 「……麻子が一緒に暮らすのを渋るのは、結局……僕が幸村に依存してるからなんだ……」 「……では離れますか?」 「………それは嫌だ……」 「ならば話し合うしかないと想います 脇坂様も言われてましたね 知輝さんを泣かせたのですからね答えを先送りにしていてはいけないと言う事です」 「………羨ましい…… そう思うのは……いけない事か?」 「………あの方の生い立ちや生き様を…知っておいでなら…… いけない事だと想いますよ?」 「………曲がらないな知輝は……」 「曲がったら顔向け出来ない……その思いだけで来たのでしょうね……」 「………幸せな知輝を見て……ない物ねだりしてるガキだな僕は……」 「そうですね 知輝さんは……やっと生まれて良かったと言える様になられた……」 「話し合うよ 僕の思いをちゃんと伝えるよ その前に……この絵を描き直すよ」 「それが宜しゅうございます」 幸せな野坂が羨ましかった 幸せに笑う野坂が妬ましかった 大切にされ、好かれて笑っている そんな野坂が妬ましくて……憎かった 何も持たない存在だったのに…… 何故……お前だけ愛され世界を手中にいれてる? そんな僻んだ想いが燻っていた 何も想い通りに行かない 親からも…… 兄弟からも浮いた存在 一族の恥 そんな瞳で見られるたびに…… 野坂よりは恵まれてると自尊心を保っていた 僕は恵まれてる…… 何も持たない野坂よりは幸せなんだ…… そう思って生きて来た 野坂の情報は幸村が教えてくれていた 幸せに暮らしてる野坂は信じられなかった 翳りのある顔しか知らない あんな笑顔を向けて笑う野坂なんて知らない あんなに愛された野坂なんて知らない…… 何も持たなかったのに…… お前だけ…… 何でそんなに幸せな訳? 「………不幸な知輝しか知らなかった…… あんな風に笑うんだな……アイツ……」 幸村は何も言わなかった 「麻子様にご連絡取りましょうか?」 「そうしてくれ…… 僕も歩み出さないと……ね」 「知輝さんには……」 「話し合いが終わったら連絡するよ 後悔なんてしない様に生きないとね ない物ねだりする子供は卒業する……」 「そうですね…… 幸村は 王堂様の成長がとても嬉しゅうございます」 幸村は目頭を押さえて……黙った 野坂は王堂のマンションを後にすると脇坂に電話を入れた 『脇坂です 何方ですか?』 厳しい声が受話器から聞こえた 『失礼!グズグズせずに早く原稿取りに行きなさい!』 身も凍る低い声に……野坂は息を飲み込んだ 『誰ですか?』 「……俺…電話駄目だった?」 『構いませんよ どうしました?』 優しい声が響くと野坂は胸を撫で下ろした 「篤史、王堂と喧嘩した…」 『自宅に帰りますか?』 「……ん……帰る…」 『タクシーを拾って会社までおいで 待っててあげます』 「………んなに甘えたら……  一人で立ってられなくなる」 『僕がいます 一人で立っている必要だとありません』 「……篤史……」 『タクシーを拾って会社まで来てください 会社が近くなったら電話して下さい 迎えを出します』 「解った」 野坂は電話を切るとタクシーを拾った 乗り込むと東栄社まで向かって貰った 見慣れた道を走ってタクシーが走る 野坂は落ち込んでいた 午前中休んだのは自分だ なのに……王堂の絵にケチを付けた 自分の求める処まで描かれてないと腹を立てた 反省すべきなのは……自分なのに…… 落ち込むから脇坂に電話を入れた 足を引っ張るつもりはなかった…… 脇坂は忙しそうだった 仕事中の脇坂は情け容赦ない まるで桜林学園 高等部の生徒会長をしていた頃の様に…… 厳しい鬼の様だった 「あと少しで会社」 と野坂から電話が入ると脇坂は手の空いた編集者に 「誰か玄関まで野坂先生を迎えに行って貰えますか?」 と頼んだ 「編集長、私達が行きます」 女性社員が数名名乗りを上げて編集部を出て行った それを見送り脇坂はため息を着いた ………落ち込んでなければ良いけど…… 脇坂は野坂を想う 大切に大切にしている存在だった 本当なら閉じ込めて出したくない…… 野坂は喜んで閉じこめられるだろう…… たが閉じ込めた野坂は色をなくして萎れてしまうだろう 光を失った花は枯れるしかない…… 野坂にそんな想いはさせたくない…… 「編集長、野坂先生をお連れ致しました」 女性社員に連れられ野坂はやって来た その顔は……泣きそうな顔だった 脇坂は野坂の腕を掴むと 「会議室に行ってます 用があるなら会議室に来てください」 そう言い編集部を後にした 会議室のドアを開け、脇坂は野坂を椅子に座らせた 「何があったんですか?」 「………王堂と喧嘩した……」 脇坂に経緯を話した 「君の想いと違うなら描き直すのは当たり前です 君が気にする必要はありません 納得のいかないモノなど掲載した時点で読者から見放されます 読者は厳しい目を持ってます 手を抜いたり真剣にキャラに向き合わない作品など見放してしまいます」 「………でも一方的に怒るのは間違いだった…… やけに突っ掛かって来たんだ… だから俺……イラッとしてた」 「なら辞めれば良い 僕は君が家で作品を書いていてくれる方が安心出来ます」 「………あと少しなんだ……」 「やり残した気がするなら最後まで遣り遂げれば良い 君の好きにして良いと言いませんでしたか?」 「………ごめん脇坂…… 本当に甘えてるな俺…… 自分の事は自分で解決しないと駄目なのに…… 仕事の邪魔した……」 「構いません 僕のいない所で落ち込まれたくないんです 僕の見てない所で泣かれたくない…… 君から目が離せないし、離したくない…… それが僕の愛です」 「………俺……今度からは原作しか書かない事にする 脇坂以外の誰かと過ごすの……無理だと解った…」 「それは嬉しいです 君が僕の見えない所にいるのは嫌です」 脇坂は嬉しそうだった 「会議室にいて下さい 暇なら僕のPC持って来るので、書いてて構いません 少し待ってて下さい」 脇坂はそう言い会議室を後にした 暫くしてPCを持ってやって来て、野坂の前に置いた 「良い子でいて下さいね」 脇坂は野坂の唇に口吻を落とした そして会議室を出て行った 脇坂は会議室を出るとPCを野坂に渡して編集部へと戻って行った 東栄社は書籍が不況な今だからと、小説雑誌を発行した 偶数月発売の小説雑誌は好評だった 野坂の『熱き想い』はその小説雑誌の中で連載していた 野坂はPCを駆使して小説を書いていた 会議室の中は静まり返っていた 眠くなりそうな空間の中 その沈黙を破って、ガチャとドアが開いた ドアの方を見ると見知らぬ男性とラノベ作家の笹波天羽が立っていた 男性は「野坂先生!いらしたのですか!」と慌てた 野坂は一瞥しただけで、PC画面を見た 無視してPCを触っていると、笹波天羽が野坂の前に立った 「野坂先生……」 野坂は無視をした 「この前は……大変申し訳御座いませんでした」 そう言い深々と頭を下げた PC画面から顔を上げた野坂の瞳は…… 冷たく……顔は能面の様に無表情だった こんな顔の野坂は見た事がなかった 「俺は……謝罪を聞く為に会議室にいる訳じゃない…」 天羽は「……謝罪も……受け付けては下さらないのですか?」と問い掛けた 「突然来て、突然謝罪をして 受け付けてくれない…… 何とも自分勝手な言い草だね」 皮肉に嗤う野坂の顔は知らなかった ラノベ編集部の男は…… 野坂の非情な表情に……顔色を変えた 天羽も顔色をなくした 「………この会議室を使うのか? なら俺は出て行く事にする」 野坂はそう言い立ち上がった そして唖然とするラノベ編集部の男と天羽の横をPCを抱えて出て行った 野坂は脇坂の元に行った 「脇坂、PC……此処に置いておく」 「野坂先生……何かありましたか?」 野坂の硬い表情に、脇坂は何かを感じ取っていた 「会議室にラノベ編集部の奴が来た 謝罪されたい気分じゃないから出て来た……」 「……使用中と表示したのに? 入って来たというのですか?」 脇坂は険しい顔をして編集部の人間の処へ行こうとした それを野坂が止めた 「……止めてくれ…… 俺は帰るから良い」 「野坂先生……送って行きます」 「脇坂、俺は一人で生きて来た そんなに大切にされなくても壊れたりはしない…… だから仕事が忙しいなら構わなくて良い」 野坂は脇坂の手を振り払った 脇坂は爆笑した 「反抗期ですか?」 脇坂が言うと野坂は唇を尖らせた 「んなんじゃない…… ……俺、帰るから…」 「後で送るので座ってて下さい」 脇坂は強引に野坂を編集長のデスクの椅子に座らせた 冷たい瞳をして人を寄せ付けない様は、高校時代の野坂だった 誰も傍に寄れなくても脇坂だけは傍にいられた 脇坂は近くにあった椅子を引っ張って来ると、野坂の前に座った 編集部の皆は…… 野坂の人を寄せ付けない様子に……近付けずにいた 脇坂は野坂の横に座って、野坂の顔をのぞき込んだ 「反抗期ですか?知輝」 「………俺……もうオッサン…」 脇坂は爆笑して野坂の頭を撫でた 昔から野坂が拗ねると頭を撫でて、野坂の言い分に爆笑していた 「なら何を拗ねてるんですか? 何かお強請りでもあるんですか?」 「……お強請りは可愛い子なら許されるけど…… 俺の様なオッサンがしたら殴られる」 脇坂は更に爆笑した 「君がお強請りするなら僕は何だって買ってあげます さぁ、その可愛いお口でお強請りしてご覧」 野坂は真っ赤な顔をして脇坂を睨んだ 「……お強請り……なんてした事ない……」 「何時もするでしょ? もっと奥……とか、擦ってとか……そこ突いて……とか」 野坂は真っ赤な顔して、脇坂の口を押さえた そして辺りを見渡す 編集部の皆は聞かないフリをしていた ……ったく編集長も人が悪い んな事を言えば野坂が焦るのを知っててやってるのだ 「………脇坂……それ以上言うなら……帰る……」 「もう言いませんよ なら、僕の仕事が終わるまでいてくれるんですよね?」 「………解った……」 「なら、会議室の奴を追っ払って来ます」 「え?……ええ……脇坂……」 止めようとすると脇坂はさっさと席を立った 何か……… 良いように丸め込められた? 野坂はため息を着いた その顔は……誰も寄せ付けない顔じゃなかった 女性社員は野坂の前にお茶を置いた 「野坂先生、このお茶飲んでみて下さい 桜の花が咲いて見えるんですよ」 野坂はお茶を手に取り見た お湯の中で桜の花がユラユラ揺れていた 「……綺麗だ…… 飲むの勿体ないね」 「グビッと飲んでやって下さい 桜茶もその方が喜びます」 野坂はお茶を少しずつ啜りだした 「美味しい…ありがとう」 野坂は何時もの笑顔を見せて、にぱっと笑った 愛くるしいこの顔は人を惹き付けて止まない だけど拒絶する様な無機質な顔でいると誰も近寄れなかった 何時もの野坂で編集部の皆は胸を撫で下ろした 脇坂は会議室のドアをノックした 中からラノベ編集部の男が顔を出した 「使用中の表示が出てたと想いますが、どう言う事ですか?」 脇坂の冷たい視線に、ラノベ編集部の男は焦った 「申し訳ありません 開いた部屋が何処にもなくて…… まさか野坂先生がいらっしゃるとは想いませんでした 野坂先生が出て行かれたので戻って来られるまで……と想い使わさせて戴きました」 ラノベ編集部の男は平謝りした 「……野坂に謝罪をされたとか……」 「正式に謝罪を申し上げようと想っておりました 本当でしたら直ぐにでも謝罪すべきだと想っておりました」 「急に何の前触れもなく謝罪されても、野坂には恐怖にしか捉えられません……」 「………え?……」 「不器用な方ですから何の前触れもなく謝罪されると言う行為は、恐怖なんです  今後一切お辞めください」 「解りました 我が編集部が野坂先生にご迷惑お掛けしたのは事実なので、正式に謝罪をさせて下さい 後程、編集長の宮本と相談して詳細をお伝え致します」 「そうして下さい 所で、まだ掛かりますか?」 「あ!あと少しで終わります」 「本来、使用中の部屋には入れない筈 割り込んで野坂先生を追い出して、許されるとお思いか?」 ラノベ編集部の男は 「すみません……本当に申し訳御座いませんでした……」 と謝った 天羽は「脇坂さん」と脇坂を呼んだ 「何ですか?」 「心から野坂先生に詫びたい……詫びなくっちゃいけないのです」 「君は野坂のファンでしたね」 脇坂はさらっと言った 天羽は脇坂を驚愕の瞳で見た 「君の本名は柏倉祐馬と言うんでしたね 編集部の方にファンレターが届いてるのを覚えています そして君のペンネームは野坂の作品に出て来る登場人物の組み合わせですね 野坂の作品の中に佐波一正と天羽静香と言うキャラから取ったんですね モノを書こうと思った切っ掛けが野坂だと記憶しています」 「…………何故……」 何故知ってる……と天羽は呟いた 誰にも言った事はない…… なのに……何故脇坂は知ってる? 「野坂も鬼ではありません 自分のファンだと言う人間には噛み付いたりはしません 後日 正式な謝罪をお待ちしております」 脇坂はニコッと笑って天羽に手を差し出した 天羽はその手を取った 「今度対談してみませんか? それが我が編集部からの最大限の歩み寄りです」 脇坂が言うとラノベ編集の男は脇坂に感謝した 「脇坂さん……ご厚意に本当に感謝いたします」 ラノベ編集者の男は深々と頭を下げた 天羽は涙ぐんだ 脇坂は天羽の肩を叩いて会議室のドアを開けた 「野坂を連れて来ます 貴方達は会議室から出て下さい!」 脇坂はそう言うと出て行った 脇坂は編集部に帰ると、野坂の元へと向かった 「野坂先生、会議室が開きました そちらで、お過ごし下さい 少し話もあります さぁ、行きますよ」 脇坂に促されて野坂は立ち上がった 脇坂と共に会議室へ向かうと、脇坂は野坂を座らせた 「佐波天羽先生に謝罪をされたとか……」 「………急だったから驚いた…… 何って言っていいか解らなくて……聞きたくないって逃げて来た」 「笹波天羽先生は野坂先生の大ファンなの、知ってますか?」 「……え?……知らない……」 「何時もファンレターをくれる柏倉祐馬って子知ってますよね?」 「脇坂が何時も届けてくれるファンレターの子?」 「そうです あれは天羽先生の本名です」 「………知らなかった」 「この間ラノベ編集に行った時に彼の原稿を見たんです 彼は今時PCではなく手書きで入稿していたので拝見したのです そしたら、何処かで見た字だったので調べました」 「………そうなんだ……」 「君に謝罪をしたいと申し入れされました で、こちらは天羽先生との対談で手打ちにしようと考えてます」 「………対談?」 「嫌ですか?」 「何話して良いか……解らない…」 「君のファンなんです 君のペースで好きに話せば良いんです」 「………それなら……」 「この世は……君が思う以上に優しさに包まれてる そう思いませんか? 君は、その優しさを知らずに生きて来た 僕は君に色んな世界を見せてやりたい 優しさに触れさせてやりたい それが君の視野を広げると想ってます」 「………ありがとう」 「閉じ込めてしまいたい想いはあります でも……狭い空間に君を閉じ込めて……しまうのは本望ではない…… 萎れてしまう……君を見たい訳じゃない……」 脇坂の言葉に野坂は笑った 「俺は篤史の傍が1番落ち着く……」 「それは口説き文句ですか?」 「口説いちゃいない……」 「そうですか……残念です」 野坂は笑っていた 「仕事を片付けて来ます」 野坂は手をふった 「僕が出たら鍵を掛けなさい」 「そこまでは良いよ」 「何かあったら直ぐに言って下さい」 脇坂はそう言い出て行った 脇坂の心配性は桜林時代から変わらない 冷たく見えて、誰よりも優しい男 構い倒すから長続きしない…… 長続きしない恋人になれなくて良い 脇坂の隣に立っていられるなら…… 恋人じゃなくて良い そう思ってきた 脇坂の隣にいられる日々は夢のようで…… 幸せすぎて…… 不幸が来る日が怖い そう言ったら脇坂は笑った 君は今まで理不尽な扱いを受けて来たのです 幸せにならねば、僕が神を殴り倒してあげます ……と言ってくれた そんな脇坂だから……惹かれて止まない 脇坂…… お前の横に…… ずっと立っていたい 脇坂…… 野坂は机に突っ伏して……眠りに落ちた 脇坂が会議室に入って来ると野坂は寝ていた 脇坂は野坂を起こした 「知輝、知輝……起きなさい」 脇坂の声に、野坂は目を醒ました 「脇坂……生徒会終わったのか?」 寝ぼけた野坂の言葉に脇坂は笑った 生徒会のある日 野坂は何時も脇坂を待って教室にした 待ち合わせた訳じゃない 野坂は寮で、脇坂は自宅から通っていた 生徒会が終わって校門を出るまでの短い時間を何時も一緒にいた 何を話す訳じゃない ただ黙って野坂は脇坂の横にいた 待ってなくても良いです そう言っても野坂は 待ってる訳じゃない と言い言う事を聞かなかった そのうち、それが当たり前になり 傍にいるモノだと想っていた 「野坂……別れた日からやり直す気ですか?」 脇坂は野坂の耳元で囁いた 野坂は目を醒まして脇坂を見た 「桜林の時の夢を見てた……」 「君は何時も僕を待ってましたからね」 「……待ってた訳じゃない…」 「そう言って何時も待ってましたね」 「………寮の部屋に戻りたくなかったんだ…… だから教室にいたってのもある……」 「君、寮では同室者誰でした?」 「………氷室和彦……」 「上手く行ってなかったんですか?」 「………彼は何時も恋人を部屋に連れ込むんだ…… 部屋に鍵も掛けねぇから見ちまうことになるんだよ」 あぁ……それで教室で時間潰してたのか…… 「氷室は俺が嫌いだからな……」 「何でですか?」 「母さんの弟の子供が氷室なんだよ」 「……あぁ……それでか……」 「……もう顔を合わす事もないし……別に良いけどさ……」 脇坂は野坂の頭を撫でた 「帰りますか?」 「仕事終わったのか?」 「はい。もう片付けました」 「腹減ったな…」 「今夜は君の好きなパインたっぷりの酢豚です」 「やったー!早く帰ろうぜ!」 現金な物言いに苦笑して脇坂は野坂を連れてマンションへ戻った 酢豚を食べさせ、お風呂に入り、その夜は静に寝た 裸で抱き合い眠る 激しく求め合う時もある 静に眠る日もある 二人は日々を生きていた 明日を信じられる眠り… 一緒に生きる 野坂の覚悟だった

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