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第36話 今 共に在る時間
久世王堂とのコラボ漫画は完成した
掲載と同時に火がつき、物凄い人気が出て続編を望む声が大きくなった
笹波天羽との対談も終えた
これもまた……オタクな野坂を引き出しての対談となり、野坂の意外な一面を見せたとして連載でも良い……と好評を博した
野坂の書いた久しぶりのミステリー小説も背筋が凍って大好評になった
何故、久しぶりにミステリー小説を書いたのですか?
特集を組んだ雑誌で尋ねられた所、野坂は
「……身も凍る話が書きたくなったんだ」
と何でもない様に答えた
これは本当にミステリー小説なんですか?
記者が問い掛けると
「はい!ミステリー小説です」
と、にぱっと笑われ……ホラー小説じゃないのか……とは言えなくなった
そんな頃、探偵小説の続編が映画化した
邂逅もドラマ化し、野坂の仕事は順調だった
瀬尾利輝は【 家族 】と言う小説の連載を始めた
家族の在り方
それは人の数だけ存在する
その中の一つの家族が自分達の家族で……
家族を想う、想いを書き上げていた
当然、野坂への想いも綴っていた
それと同時に瀬尾利輝は初めてコメディータッチの話を書き始めて、それも話題となっていた
瀬尾利輝は今までの自分の概念を総て覆し、意欲のわく話を書きたいと綴った
それがモノを書く小説家になった私の想いでもある
瀬尾利輝は初めてひたむきに話を書いた
それは自分の前に姿を現した存在が教えてくれた‥‥とあとがきに書き記された
野坂は不動と二人きりでバーの個室にいた
不動が珍しく野坂を誘ったのだ
脇坂を通さずに話がしたいと言うと、脇坂は了承してくれた
野坂はまさか……不動に誘われるとは想ってもいなかったから驚いていた
「不動君に誘われるなんて、何か信じられないな…」
野坂は笑っていた
不動は野坂に深々と頭を下げた
心より不動は、野坂に礼を言った
野坂は鞍馬の兄と連絡を取り合っていた
真剣に人を愛すのに性別など些細なモノだと……一年掛けて説得した
鞍馬の兄は、弟が幸せなら……と折れてくれて連絡を取り合う程になっていた
美杉鞍馬の兄は優しくて弟を抱き締めて
「幸せにして貰いなさい
そして君も彼を幸せにしてあげなさい」
そう言って祝福してくれた
美杉鞍馬の兄は不動に深々と頭を下げ弟を頼んだ
本当なら自分達が解って貰う努力をせねばならないのだ
それを野坂がしてくれた
不動は野坂の優しさに……
胸が熱くなった
無償の愛だ……
野坂に何一つしてやれなかったのに……
野坂は……鞍馬の兄の所へ出向いて、話をした
理解して貰う行為を……
解って貰えないから……
と放棄したのは自分達だ
なのに野坂は……
理解を得る努力をしてくれた
絶対に許してくれない……と想ってた鞍馬の兄に連絡を取り説得した
………野坂が動かねば……
迎えられなかった日だった
そして不動は野坂を介して父親 不動雅祥と逢う事になった
野坂が父親の怒りや哀しみは受け止め……くれたらしく
久しぶりに逢った父親は穏やかな顔をしていた
穏やかに笑い野坂と共に立っていた
野坂は不動に
「不動雅祥さん、勿論知ってるよね?不動君」
ニコニコ話し掛けられても不動は何が何だか頭が受け入れられなかった
「不動君、話があるんだけど時間を作って貰えないかな?」
そう言って来たのは野坂からだった
脇坂を通さずに野坂から電話をもらい面食らった
でも何か脇坂に言えない相談かと想い時間を作った
そして待ち合わせの時間に指定された場所に向かうと……
不動 稜の父 不動雅祥が野坂と共に立っていた
雅祥は優しい瞳で息子を見ていた
雅祥は不動に
「野坂友輝は赤蠍商事地代の私の部下でした
私は彼が苛められるのを知っていた
知っていたが‥‥社会人としてそれ位自分で解決出来るだろうと放っておいた
解決出来なくば移動させれば良い‥‥なんて安易に考えていたのです
野坂友輝は赤蠍商事を退職した
以来‥‥私は何もしてやれなかった事を悔やみ‥‥ずっと気になっていた
邂逅の出版をされ、彼の当時の苦しみを目にして‥‥お逢いしたくて東條社長に申し入れしました
その甲斐あって映画の試写会でお逢い出来ました
知輝は私に……
家族の幸せを問い掛けられた
家族のカタチは人の数ほど在る
人は好きな人といるのが1番幸せなんだよ
そう言い……
その言葉が……私の心を打った
私は知輝と何時も話をしました
私は……息子は幸せなのかな…って…呟いた
不動君は愛する人と暮らせて幸せだよ………って答えてくれました
愛する人といられるだけで泣きたくなる程に幸せになれるんだよ
知輝は私に色々話をしてくれた
彼は………苦しみばかりあったのに……
俺は生まれてきて良かった
そう言いました
愛する人といられるから俺は
幸せを感じられるんです
そう教えてくれた
愛の形は色々……
お前は総てを捨てて愛を選んだ……
ならば幸せなんだろうと安心した
こうして……お前の姿を見れば後悔なんてしていないと想う
お前が幸せなら……
それだけで良い……
それを伝えたくて知輝に同席して貰いました」
不動は泣いた
涙で父親の笑顔が揺れた
「……父さん……」
雅祥は不動を優しく抱きしめた
「幸せに……稜……」
「………父さん……」
「私はそれしか願ってません
だが君は……苦しめた人がいるのを忘れてはいけません……
そんな人の上に自分の幸せがある
だから誰にも負けない様に愛を貫かねばなりません……」
不動は奥歯を噛み締めた
「………俺は……親不孝しました…….」
「なら、これから親孝行してくれませんか?」
「……え?………父さん……」
「また逢って下さい」
不動は泣きながら父親を抱き締めた
父親は……痩せた
昔のような……デカい背中じゃなかった
「雅祥さんは海賊船に拿捕されて監禁生活を送っていてね
最近まで入院していたんだ」
初めて聞く事だった
不動は父親の肩を掴んで
「……父さん……大丈夫なのですか?」と問い掛けた
雅祥は不動を抱き締め背中を撫でた
「稜、大丈夫だ
知輝が毎日お見舞いに来てくれました
知輝が来ると看護婦さんも沢山着いて来るので賑やかでした
毎日楽しくて……
あんな時間は初めてでした
入院して楽しかったと言うのも変ですが、本当に楽しかったです
知輝の廻りは優しい……」
「………父さん……」
「護るべき子がいるんだろ?
凄く良い子だと知輝が言ってた
今度合わせて下さい」
「………許される日なんて……
永遠に来ないと想っていました……
俺は……それだけの事をした
総てを捨てた日に…
許される事を諦めた
でも……父さん……貴方を想わない日はなかった……
親不孝な子供で……本当にごめんなさい…」
不動は泣いていた
雅祥は優しく息子を撫でていた
「今度、知輝の新作の映画を見に行くんです
今から楽しみです
君の恋人が出るんですね
試写会を一緒に行くんです
稜、君も一緒に行きますか?
そしたら君の恋人と紹介して貰えますよね?」
野坂はニコニコ二人を見守っていた
父親は優しい眼差しで息子を見ていた
こんな日……
永久に来ないと想っていた
不動は嗚咽を漏らした
雅祥も息子を抱き締めて泣いた
一頻り泣いて……
不動は野坂の前に立った
「今度、奢らせて下さい」
「え?俺?」
「鞍馬の兄さんを説得したのは野坂、お前だ
そればかりか……
永遠に逢えないと想っていた親父と逢わせてくれた……
何と礼を言っていいか……」
「礼なんて要らない
俺は……生まれてきて良かったと……今は想える……
それは生きていたから味わえる事だ
あの日……死ななくて良かった
そう思うんだ
日々……悔いなく生きたい
俺が日々生きる事は脇坂に報いる事だと想ってる
そんな俺が……望んでも手に入らない……
親子関係を修復してみたいと思っただけだ……
やっぱ……親子って良いな……」
野坂はそう言い……一筋の涙を流した
綺麗な涙だった
不動は胸が痛んだ
雅祥は野坂を抱き締めた
「知輝……ありがとう……」
「雅祥さん……もう見失ったらダメだよ?」
「……ええ……もう見失いません」
「なら大丈夫だ」
「知輝……辛い想いさせました…」
「俺は……幾ら望んでも父さんに抱き締められる日は来なかった……
夢見てたのに……
だから……やり直せるなら……
やり直しで欲しかった
俺は今幸せだ
父親に抱き締めて貰えるし
愛する人が傍にいてくれるから……
だから心配しなくて良い」
「知輝……」
「脇坂に電話しなきゃ」
「もうお迎えに来て貰うのかい?」
「後は親子水入らずで過ごして……
俺は愛する人と一緒にいたい……」
「また逢って下さい」
「また誘って……
そしたら仕事が親ったら連絡するから」
「楽しみです」
野坂は
「不動君、雅祥さんの側にいてあげて下さい!」
不動は頷いた
野坂は胸ポケットから携帯を取り出すと電話をした
「脇坂、迎えに来て欲しいんだけど……」
『解りました
もう君のいるホテルにいます
今から迎えに行きます』
「もぉ……帰りたい……」
『少し待って……待てますか?』
「大丈夫、ちゃんと待てる」
野坂は電話を切った
暫くするとドアがノックされた
不動がドアを開けに向かった
ドアを開けると脇坂が立っていた
脇坂は野坂を見付けると両手を開いた
「おいで知輝、帰るよ」
野坂は脇坂の腕めがけて飛び込んだ
脇坂は野坂を抱き締めて不動を見た
「良かったですね不動」
「……ありがとう
総て野坂の御陰だ」
「知輝、還りますよ
雅祥さん、また誘ってやってください」
「脇坂君、また誘います」
「では親子水入らずで過ごして下さい」
そう言い野坂は脇坂と帰って行った
不動は父親と色々と話した
そんな時間は……
永遠に持てないと思ってたから……
不動は野坂に感謝の意を込めて、飲みに誘った
二人だけで逢わせてくれ
と、脇坂に頼んだ
で、二人だけで行き付けのバーに行った
野坂はジュースを飲んでいた
野坂は饒舌に不動と話をしていた
野坂は物書きだけあって、面白く話しをする奴だと、不動は初めて知った
野坂は探偵小説の続編のロケの話を不動に聞かせた
鞍馬の……NGの数々……ドジな経緯を不動に聞かせた
時には写メ付きで話されて不動は時間を忘れた
「……野坂……」
「何?」
「…お前と、こうして話すのは初めてだな」
「そうだね」
「お前は脇坂しか話さないって想ってた…」
「間違っちゃいないよ
俺は脇坂としか話さなかった
脇坂の横にいるのは楽だった
俺は脇坂が好きだったからな
卒業までは脇坂の傍にいたかった……
だから周りを見ちゃいなかった……」
「お前、大学、何処へ行ったんだ?」
「俺は桜林に上がった
脇坂がそのまま上に上がるって聞いたから……上に上がった」
「そっか……俺は早稲田に行ったからな
脇坂は東大だっけ…」
「そう……」
「桜林なら榊原や蒼太も上がってたのに?
話題にも上がらなかったな」
「不動君は久世王堂って知ってる?」
「久世家の異端児?」
「俺は王堂の家で暮らしてた
大学も王堂と一緒にいた
王堂のコネで赤蠍商事に入った
俺は王堂の執事が隠すから……目立たなかったってのもある」
「……それで赤蠍か……納得した」
「俺は王堂の執事に四カ国語か叩き込まれた
幸村が俺を躾けて教育した
大学は幸村の後ろにいたからな目立つ事は一切なかった」
「珍しい取り合わせだな
あの人、人間嫌いだろ?」
「金持ちだと人が諂うのが当たり前になってたからな……
俺は王堂の横柄な態度に腹が立って蹴り飛ばしたんだ
アイツを蹴り飛ばしたのは後にも先にも俺だけだから懐かれた」
「親父とは……会社を辞めても逢ってたのか?」
「逢ってないよ、会社を辞めてからは、俺は息を潜めて生活していたから‥‥誰とも繋がりを持っていなかった」
「俺の親父だと‥‥何処で気付いた?」
「雅祥さんとは邂逅の映画の試写会で東城社長から紹介を受けて‥‥会社を辞めて以来であった
だが次は約束なんてしてなかったから、それっきりだった」
「え‥‥なら何故?」
不動は話が見えて来なくて呟いた
野坂はそれでも話を続けた
「ばぁちゃんが入院してる病院で、また顔を合わせたんだ
雅祥さんの……お母様がそこにいたんだ
それで話す様になった
その時は雅祥さんは俺が不動と知り合いとは想っていなかった
色んな話をしたよ
雅祥さんは悔いていた
だから息子さんの話は何時もしていたよ
海賊船に拿捕されて監禁されて、辛い日々を支えたのは、まだ我が子に逢えてない想いだったと言われた
雅祥さんは息子の写真を何時も持っていてね、見せて貰ったんだ
その写真の雅祥さんの息子は何処から見ても、不動君‥‥君だった」
野坂の話を聞いて不動は、野坂にばかり話をさせるべきではないと、自分の事を話し出した
「俺は‥‥そんなに深く自分の人生と向き合っては来なかった
敷かれたレールの上を淡々と進み、用意された妻と結婚した
その日々は俺を無機質な感情も持たぬ人形にした
鞍馬と出逢い‥‥彼を愛して‥‥俺は自分が生きてる世界を総て捨てても良いと想った
そうしてでも傍に行きたいと願ってしまったんだ
………俺は……妻と……家族を捨てた
俺が家を出て……少し経って母さんが死んだ……
俺は……葬儀にも行かなかった……
……合わす顔なんて……なかったからだ‥‥」
辛い想いを吐露する
不動の想いが痛かった
野坂は静かに語り始めた
「君のお母さん、癌だったそうだよ
発見された時には……既に末期だった
雅祥さん……君と母さんを逢わせてやりたくて探したそうだよ
でも……探せなくて悔いていたって言ってた
君の奥さんだった人、君と別れた後……かなりショックを受けて幾度も自殺未遂をおこして……
去年……再婚したそうだよ
雅祥さん……ずっと支えていた
だから……君が苦しめ泣かせた存在を忘れない様に、君は幸せにならなきゃいけないって言ったんだよ……」
「………幸せになる……
誰よりも幸せになる
そして鞍馬を幸せにする」
不動が言うと野坂はにぱっと笑った
「お母さんのお墓参りしないとね……」
「親父と一緒に行こうと想う」
「最期まで君の幸せだけを願って……母さんは息を引き取ったそうだよ」
「……くっ………」
不動は泣いていた
「雅祥さん……君が帰って来ると想って……
家を処分出来ないでいる
君の側に呼んでやったらどう?」
「……近くに?……」
「そう。喜ぶと想うよ」
「……考えとく」
「雅祥さんを大切にしてあげて」
不動は頷いた
野坂は笑って何も言わなかった
二時間、不動と二人にしてやった脇坂はバーへと顔を出した
「知輝、いい子にしてましたか?」
野坂の背後から腕を回し、脇坂は野坂の頬に口吻た
「篤史」
野坂は脇坂を見て嬉しそうに笑った
「不動、バーに来るまでに拾ってきた人達がいます」
脇坂はそう言い、拾ってきた人達を呼んだ
鞍馬と蒼太と笙が不動を見て笑っていた
笙は「珍しい取り合わせで飲んでますね?」と問い掛けた
野坂は「不動君にお酒を聞いてたんだよ
次の小説でバーを主体に書きたいんだけど、俺は酒が飲めないからな…」と珍しい取り合わせなのを説明した
蒼太は納得した
「不動は酒は詳しいからな
バーテンダーしてたから、適材な人間だわ」
蒼太が言うと野坂は
「俺、酒飲まないから、説明を受けても……解らないんだよな……」
とため息交じりに答えた
脇坂は野坂を抱き締めたまま
「だから無理だって言ったでしょ?」
「………少し特訓するかな……」
「止めときなさい
僕は君が飲めなくても構いません」
惚気られ、笙はケッと毒づいた
「ご馳走さん!
やるなら家に帰ってやれよ」
笙の言葉に脇坂は
「家に帰ってもやります
僕は何処でも愛の囁きは欠かせません」
と惚気た
野坂は鞍馬の手を引っ張ると、横に座らせた
そして抱き締めた
優しく優しく鞍馬の頭を撫でてやった
鞍馬は野坂を見た
野坂の瞳は、何も言わなくて良いよ……と優しく光っていた
鞍馬は野坂の胸に顔を埋めた
笙は「鞍馬が甘えるなんて……信じられないね」と呟いた
気難しくて、慇懃無礼な奴だと近付く奴はいなかった
ある日を境に美杉鞍馬は変わった
優しい顔をして、空気を読む様になった
野坂との出逢いが鞍馬を大きく変えたのは、二人の様子を見ていれば解った
「知輝さん……」
「何?」
「大好き……」
「俺も大好きだよ鞍馬君」
二人の邪魔はしない
脇坂も不動も二人の間を裂けないみたいだった
笙は脇坂に「妬かないの?」と尋ねた
「知輝の弟ですからね……
妬く対象ではないんですよ」
「……珍しい……」
不動は何も言わなかった
野坂の胸ポケットの携帯が震えると、脇坂が取り出して出た
「野坂です」
『篤史君かい?
知輝は?』
電話の相手は瀬尾利輝だった
「利輝さん、知輝は今飲みに出てます」
『混じったらダメかな?』
「構いません
友人もいますが、それでも良いなら……」
脇坂は店の名前と住所を告げた
瀬尾は『ありがとう、行くね』と言い電話を切った
脇坂は電話を切ると野坂の胸ポケットに携帯を戻した
「知輝、利輝さん来るそうです」
「利輝さんだけ?」
「それは解りません…」
「利輝さんに最近合ってないから甘えようかな?」
「抱き着いてあげると喜ばれると想いますよ?」
「なら熱烈歓迎する」
野坂は笑っていた
鞍馬は野坂の胸から顔を上げると、野坂の頬に口吻た
野坂は鞍馬の頬にお返しをした
脇坂は野坂の顎を掴むと、息もつかない接吻を送った
「……んっ……ん……んんっ……」
野坂の喘ぎが漏れる程の濃厚な接吻だった
野坂は真っ赤な顔をした
笙は呆れて
蒼太は野坂が可哀想になり
不動は知らん顔して酒を飲んでいた
コンコン
ドアがノックされ、蒼太はドアを開けに向かった
ドアを開けると瀬尾利輝が息子の光輝と共に立っていた
野坂は瀬尾利輝に飛び付いた
「ねぇ、知輝、兄さんには?
兄さんには飛び付いてくれないの?」
光輝は情けなく野坂に訴えた
野坂は困った顔して脇坂を見た
「大サービスです
光輝さんに、少しだけ飛び付いてあげなさい」
脇坂に言われて野坂は少しだけ光輝に飛び付いた
飛び付いて直ぐに離れて、脇坂の横に座った
「……知輝…兄さんは少なくないですか?」
「まぁ、こんなもんです」
光輝は渋々諦めた
蒼太は瀬尾利輝と光輝をソファーに座らせた
光輝は鞍馬を見つけて
「鞍馬君!」と名を呼んだ
鞍馬は「光輝さん」と嬉しそうに微笑んだ
「利輝さん、何か用ですか?」
野坂が尋ねると瀬尾は笑って
「最近、知輝に逢ってないから逢いに来た」
と答えた
「俺、サスペンス書くのに総ての時間を費やしてたからな……」
野坂は呟いた
瀬尾は「……ホラーでしょ?」と問い掛けた
「嫌だな利輝さんまで……
ホラーじゃなくサスペンスです!」
「………サスペンスにしては身も凍るよ……あれは……」
「死体の解体なんて体験出来ないので苦労しました……」
「………やけにリアルだったよ?
………吐きそうになったもん……」
「………脇坂が……知り合いに頼んでくれて……司法解剖に立ち会わせてくれたんだ……
実際……吐いたし…今も肉を切る音が耳にこびり付いてる…」
野坂がボヤくと脇坂は
「野坂先生、見たがったのは貴方ですよ
だから僕は友人の経堂圭祐に頼んでやったんじゃないですか!」とボヤいた
「……経堂先生……あの人…笑っても瞳が笑ってないし…
解剖する時の……手際の良さ
人って…此処まで冷たく嗤うのか……って知りたくなかったよ…」
野坂は身震いした
瀬尾は野坂の頭を撫でた
そんな思いをして書いた作品だとは……
「………俺……ちびるかと想った……」
「ちびっても構いませんよ?
そしたらグンゼのお子様パンツ買ってあげます」
「………要らない……」
野坂が脹れっ面すると、瀬尾は笑った
瀬尾は「笙、久しぶりだね」と挨拶した
笙は「利輝さん、子供のお披露目以来ですね」と挨拶した
「清四郎さんと真矢さんは元気ですか?」
「ええ。二人とも伊織の子供の子育てに忙しいです」
「今度愛那と共に逢いに行くと伝えておいて下さい」
「解りました」
光輝は鞍馬と話していた
瀬尾は不動に挨拶した
そして意気投合して話し始めた
バーが閉店するとタクシーで脇坂のマンションへと移動した
脇坂のマンションで夜が明けるまで、楽しく話に花を咲かせた
脇坂は始終、野坂を横に座らせていた
そのうち野坂は脇坂の膝を枕にして眠りに落ちた
脇坂の膝の上で何時も野坂は寝ていた
生徒会室の中でも
教室の中でも
食堂の中でも
校庭の芝生の上でも……
脇坂は野坂を膝の上に寝かせて、落ち着いた顔をしていた
笙はそんな二人の光景を見て懐かしくなった
「高等部を想い出すな、そうしてると」
笙が言うと蒼太も
「そうそう、キャパ超えた野坂を何時も脇坂は膝の上で寝かせていたからな……」
懐かしいシーンが蘇る
だから逢いたくなるのか……
あの頃に還りたい訳じゃない
だが変わらない風景に憧れる
笙や蒼太は懐かしそうに二人を見ていた
笙は「あの二人は……あぁしてないとな…」と呟いた
不動も「懐かしい……って言うか変わらない二人を見てると……安心する」と笙の言葉に乗っかった
蒼太も「戻りたいんじゃないんですよね?
でも……変わらない関係ってのに……胸が疼くんです
桜林の頃から……あの二人は……あぁだった
二人の世界ってのが在って……皆がそんな二人を見ていた
今……変わらずにその光景を見られるって事が……奇跡なんだって想えるんですよね
あの頃……今の未来なんて見えてないのにね……
それでも……あの頃も僕は……
変わる事なく脇坂と野坂で在って欲しいと想ってました」
と胸の内を話した
瀬尾は「昔からこうなんですか?」と尋ねた
「この二人は昔からこうです
当時は恋人じゃなかった……
だけど脇坂は野坂だけは特別だった
野坂も脇坂にしか懐かなかった……
僕達はそんな二人を見て来ました
野坂と話をした事はない
野坂は脇坂にしか扱えないから……
桜林の校舎や校庭で……見かけた二人は……何時も静かに寄り添っていた……」
蒼太が言うと笙も
「我等桜林の残像……なんですよ
逝く道も違い……
離れたのに……
彼等はまだ一緒にいる
離れても重なる道に彼等はいる
昔のまま……輝かしき桜林の匂いをさせて残像の様にいる
この光景を我等は見て過ごした
多分……同学年の奴が見たら泣いて喜びます
彼等が……そこに在る……
時間を飛び越えて……懐かしさに胸を震わせ喜ぶでしょう」
と付け加えた
蒼太が言うと笙も
「我等桜林の残像……なんですよ
逝く道も違い……
離れたのに……
彼等はまだ一緒にいる
離れても重なる道に彼等はいる
昔のまま……輝かしき桜林の匂いをさせて残像の様にいる
この光景を我等は見て過ごした
多分……同学年の奴が見たら泣いて喜びます
彼等が……そこに在る……
時間を飛び越えて……懐かしさに胸を震わせ喜ぶでしょう」
と付け加えた
不動は
「俺のブログに二人の写真を載せた
バーで飲んでた時に脇坂が野坂を膝の上に寝かせて飲んでた写真を載せたら……同期の奴等が悔しがって同窓会をやれと言ってきた
生で見たいと言ってくるのが多くてな辟易してた所だ
野坂の人気はOBの間でも熱烈だからな……
生徒会の副収入の写真にしたって、脇坂が野坂を膝の上に寝かせてるのがダントツだったしな……
皆、見たいんだろ?」ネタバレした
野坂は幸せそうな顔して、脇坂の膝の上で寝てた
「野坂は変わらないな……」
笙は野坂の寝顔を見て呟いた
『代表委員会を開きます』
生徒会室で各クラスの代表を集め会議する中
脇坂は窓際のカウチに座って、野坂を膝の上に寝かせて参加していた
議論がエキサイトすると脇坂は何時も怒った
『君達もっと静かにしてくれないかな?
野坂が起きてしまうでしょ?』
そう言われて皆黙った
懐かしい…
思い出の中に脇坂と野坂がいた
光輝は「羨ましいな……」と呟いた
ずっと一緒で……
離れても……出逢える
不動は光輝に
「脇坂は帝王学を叩き込まれて生きて来た
親父さんは跡継ぎに考えていたのに……
野坂が小説家になると信じて編集者になった
これは奇跡でもなんでもない
脇坂は信じて生きて来たから出逢えたんだ
出逢えたから、脇坂は離さない様に野坂を愛した」
二人の結びつきは奇跡じゃないと話した
「こんなに……愛せて羨ましい…」
光輝が呟くと、瀬尾は光輝を抱き締めた
不動は脇坂にカメラを向けた
野坂を膝に寝かせて、寛いだ顔をして笑っているツーショットを撮った
「……押し掛けて同窓会を開かせる材料にはなるな」
不動は笑っていた
笙は「不動、幹事やれよ」と言うと
「蒼太とお前がやるなら、やっても良い
彦ちゃんが野坂に逢いたいと煩いからな」
応えてやった
「お!彦ちゃん、元気だろうな」
「この前、飛鳥井瑛太さんと田代さんと脇田さん達と飲んでるのを見掛けた
三銃士揃ってたな……俺もビビった…」
不動が言うと蒼太が
「兄さん帰ってたのか…」と呟いた
笙も「そっか康太も帰ってるし、帰ってるんだよね」と納得した
「過去最高の同窓会、開かないか?」
不動は悪巧みする顔で笙と蒼太に話しかけた
笙は「お!それ良いな」と乗った
蒼太も「なら脇坂と野坂も乗せとけよ」と提案した
「桜林学園 第68代生徒会執行部でやるか!
生徒会執行部プラス、生徒会室の主 野坂とでぶちまけるか?」
不動の提案に脇坂は嫌な顔をした
「……僕は入れないで下さい」
辞退しようとするのに……飲んだくれの同級生は更に盛り上がって、それに瀬尾と光輝も加わり、鞍馬がすげぇと興奮して……
夜が明けた
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