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第4話

この後は昼食だ。 私立の学校でもない限り高校の大半は学食ではなく弁当の持参になる。この学校もまた同じく持参、もしくは購買で購入することになっていた。 俺とユキオは弁当持参派だ。 ユキオはハルコさんが弁当を作るのを楽しみにしているからだが、俺は純粋に食べる量が多いからだった。 通常運転で3人前は平らげるのでいちいち買っていたのでは間に合わない。 弁当箱もネットで1番大きな物を注文して使っているが、それでも足りずおにぎりを持参したりユキオ宅からパンを購入しているくらいだ。 リュックの中には常に非常食が入っている。 教室で食べるのは落ち着かない。 入学したばかりの頃、ユキオと話したいあまり昼食の度に同級生が代わる代わるやってきて質問責めにしてきたのでそれから教室で食事を取るのは諦めた。 「ほら、行くぞ」 「へいへい」 鞄を持ったユキオがそう言って立ち上がるので、俺も荷物を持つと立ち上がった。 ユキオは基本的に荷物をその場に置いていかない。以前手紙どころか盗聴器紛いのものを入れられたことがあったのだ。 一体高校生がどうやってそれを手に入れたのかは知らないが、勿論気分の良い話ではない。 しかもそれが一度だけではないのだ。 その騒動のお陰で俺は盗聴器の仕掛け方とその場所、そして外し方まで覚えてしまった。 あまり覚えたくないスキルな上に、探偵にでもならない限り使いどころがないかもしれない。 トイレなどの時は大抵俺がいるので持っていかないが、昼休憩は人の出入りが激しいのでこうして離れる際は鞄ごと持っていくようにしている。 学校生活を送るだけだというのになんとまぁ大変なことか。 そんな理由もあり、昼食は一緒に屋上で食べることにしているのだ。 屋上は通常鍵がかかっているが、どういうわけかこの幼馴染みは代々先輩から受け継がれてきたという屋上の合鍵を僅か1ヶ月で入取してきた。 ホント、何処で手に入れてきたんだよ。 屋上を使うようになって随分と経つが、今のところバレたことは一度もない。最上階の教室は空き教室ばかりなので教師達はそこで食べていると思っているのだろう。 今日も今日とて合鍵を使い、屋上へと出る。今日は風もなく爽やかだ。昨日は湿気が酷かったのでだいぶ良い。 屋上から更に固定されているハシゴで上へ上がった先が二人の定位置だ。ここなら万が一誰か入ってきても見つからない。 二人は弁当を広げると早速食べることにした。 ユキオなんて見かけはベジタリアンに見えるというのにがっつりしたものが好きだ。今日も和食を中心とした腹にたまりやすい食事が敷き詰められている。 ハルコさんの弁当はいつも栄養バランスを考えた上で見栄えも良い。 かくいう俺も見かけ通り肉っ気のあるものを好むので弁当の中身は食べ応えのあるものばかり揃っている。 とはいえ、食べる量は明らかに俺の方が多い。 そもそもの体格が違うので仕方ないだろう。 ユキオ曰く、俺は大食いの域を超えているらしい。 どういう意味だよ。 ちらりとこちらの弁当を見やったユキオは呆れたような表情で呟いた。 「……バカ食い」 「腹減ってんだからしょうがねーだろ」 むしろこの体格で少食だったらそれこそびっくりするわ。あぁ、腹減った。 そこからは無心でお互い食事にがっついた。 高校生男児などそんなものだ。 ある程度腹が膨れてきてようやくポツリポツリと会話が始まった。今日話し始めたのは近所に住んでいる兄貴分についてだ。 食事の合間にカチカチとケータイを操作したユキオが顔をしかめる。 「返事来ないんだけど」 「寝てんじゃね?」 眉をひそめるユキオに俺は呑気に返した。 ――灰谷アツシ ユキオ達とは8つも離れている兄貴分の名前だ。彼とは俺達が小学生の頃からの付き合いで、ひょんなことから仲良くなり今に至る。 今ではカフェバーでウェイターを勤めている彼の1日は少しズレている。仕事は夕方6時から始まり寝るのは朝方だ。 そんな生活だからか、はたまた疲れが溜まりやすいのか稀にどうしても起きれないことがある。 それを気にして二人は昼食の時にチャットを飛ばす事にしているのだが、この日は久しぶりに返事がなかったようだ。以前返信がなかったのは数ヶ月前と記憶している。 俺の方からもチャットを飛ばそうと食事の手を止めてケータイを操作していると、弁当箱の中からおかずのベーコン巻きをひょいとつままれた。 「あ!俺のタンパク源!返せ!」 思わずケータイを持ったまま手を伸ばすがベーコン巻きはあっさりとユキオの口の中に消えていった。 「もう食った」 「テメー!」 知らないふりをして食事を続けるユキオに文句を言うがどこ吹く風である。 ユキオは割とこうして食事時にちょっかいをかけて来る。単に食べたいからというのもあるだろうが、年相応の活発な面もあるのだ。 とはいえ、それが発揮されるのは俺の他に件の兄貴分の時くらいだろう。ユキオの警戒心が解かれる人物は限られている。 俺はそれこそ物心つく頃には既に隣にいたのでいるのが当たり前になっていた。 いない方がお互い落ち着かない。 現に休みの日などもアツシの家に集まるなど何かと理由をつけては一緒にいることが大半だった。

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