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第5話
時折クラスメイトから息が詰まったりしないのかと聞かれることがある。
俺からしてみれば一緒にいない方が息がつまりそうだ。
別段いないとお互い何も出来ないようなタイプではない。むしろ男兄弟がいないからか、一緒にいても何かを一緒にやるというよりはそれぞれ好きなように過ごしている。
俺が筋トレをしている横でユキオが雑誌を読んでいることなど割としょっちゅうだった。
しかし一緒にいるのが当たり前になり過ぎているらしく、離れているとどうもしっくりこない。
何よりまた何か巻き込まれているんじゃないかと無駄に気をもむ事になるのでなるべく一緒にいるようにしているくらいだった。
そんな具合なので別に息がつまるような事はない。
むしろこのくらいの方が喜ばしいことだ。
俺もぐもぐとご飯を咀嚼するユキオを見やる。
昔のユキオはそれこそ人形のように大人しい子だった。
ユキオの両親はあまり仲が良くなかったらしく、俺が知る限り彼の父親を見た記憶はない。
ユキオの母親はユキオを身ごもってすぐ、実家であるベーカリーフジサキへと戻ってきたそうだ。ユキオの母親もまた元々が仕事が好きな人だったのでユキオを産んですぐに仕事へと復帰してしまった。それも海外に、だ。
残されたユキオは彼の祖父母と年の離れた姉のハルコさんが面倒見ていた。
そんな状況だったからか、ユキオは決して我儘を言わない子供だった。
今思えば状況的にむしろ言えなかったのだろう。
笑わないし、感情という感情を表に出さない。
食も今よりずっと細く、殆ど食べないせいで馬鹿みたいに痩せていた。
子供心にそれを心配していたのを覚えている。
何か思うことがあっても眉ひとつ動かさず、全て内に抱え込んでなかったフリをする。
それが嫌で俺は良くユキオを笑わせようとしたものだった。
結局彼がどうやって笑うようになったのかは思い出せないが、気がつけばユキオはそれまでの無表情さが嘘の様に元気になった。
ついでにタガが外れたからか、俺に対して盛大に我儘を言うようにもなったのだが。
無茶振りが過ぎることもあるが、基本的に俺はユキオに甘い。無謀でない限り彼の言うことはなんでも叶えてあげたいと思っている節がある。
その自覚は何となくだがあった。
って言っても、アツシに言われてそうだっけと考えてみて……まぁそうかもしれないって程度のものだが。
よくよく考えてみれば同い年の同性の相手にそれもどうなんだと思わなくもないのだが、今更考えたところで変わらない。
他人の事を鼻で笑っていようが毒を吐こうが構わない。それが俺に対してあってもだ。
ユキオには自由にしていてほしい。
それが一番俺にとって嬉しいことなのだ。
「……さっきから何」
こちらの視線に気づいたユキオがジト目で見つめ返してくる。表情には言いたいことがあるなら言え、と書いてあった。
この幼馴染みは存外顔に出る。
単に俺がユキオの気持ちを読み取るのが上手いせいもあるだろうが。
「何でもねー。それより代わりにその唐揚げよこせ!」
弁当を掻っ攫おうとする手を避けるユキオに俺は食ってかかる。
「やだ」
「やだじゃねー!さっき俺のベーコン巻き食っただろう!」
「ぼーっとしてんのが悪いんだろ」
「何をぅ!!」
元気にしていてくれるならそれでいい。
何だか母親のような事を思いつつ、俺はその後もユキオと攻防戦を繰り広げながら楽しい食事を続けたのだった。
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