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第8話

その後、日野家へと帰った俺たちはそのまま真っ直ぐ俺の部屋へと直行した。 部屋に荷物を置いた途端、ベッド横に座りながらユキオが小さくため息を吐く。 「飲み物取ってくるな」 喉が渇いたのかなと思い、俺はとりあえず飲み物を取りに行く事にした。 俺だけならジュースを物色するところだが、ユキオはあまり甘いものは好きじゃないので出すものは大抵お茶だ。 そんなわけで麦茶を注いで戻ってくるとベッドを背もたれにしてユキオが何やら読んでいた。 雑誌の類は筋トレに関するものばかりなのでユキオは普段読もうとしない。 何を読んでいるんだろうと覗きこんでみるとさっき押し付けられそうになった雑誌だった。 「なん……っ!?それどっから出てきた!?」 思わずガン、っとお盆をテーブルに打ち付ける勢いで置く。中身が大分溢れたが動揺し過ぎて気にならなかった。 こちらの焦りとは裏腹にキョトンとした顔のユキオは淡々と答える。 「お前のリュック」 「あいつめ……」 いつの間に入れたんだ。 というかこいつは何故着いて早々に人のリュックを漁ったんだ。 そんな事を思っている間にユキオはというとテーブルに肘をついて本格的に読み出す。 別段喜ぶ様子もなくパラパラとページを捲っていくのでどうしたらいいのか分からず隣に胡座をかいて座った。 あまりにも淡々と捲っていくからか、アダルトものが恐ろしく似合わない。 横から見ても綺麗な顔をしている。 「お前もこーいうの読むのな」 「いやそれは俺のセリフな」 涼しい顔で見ているが内容は肉食系のお姉さん特集だった。 でかでかと書かれているので嫌でも目につく。 下着姿のお姉さんが顔も映らない男の上に跨って胸を突き出して座っている。 「こーいうの好きなのか?」 「違ぇ!!」 てか興味ないわ!と怒鳴ると首を傾げられる。 「じゃぁ何でヌくの?」 まさかそんな話を振られるとは思わず一瞬固まる。 「……いや抜くほど溜まらん」 「は?」 なんだその珍獣でも見るような目は。 思わずジト目になるがそれを更に何言ってんだという目で見られる。 「筋トレしてるとそーいうのどっかいく」 元々淡白なようで俺はあまりそういう気が起きない。起きてもうずうずする気持ちをついつい筋トレに昇華してしまうのでそれで発散した気になってしまう。 勿論全く出さないというのは構造的に不可能なのである程度は発散するのだが、機械的というか必要最低限のみだった。 それを掻い摘んで説明すると、さすがにそこまでとは思っていなかったユキオはパチパチと瞬いた。 その後で暫し考え込むと口を開く。 「それは分かったけどエロ本読む読まないは別じゃないか?」 「いや……興味ないし」 「ふーん」 雑誌を見ながら暫し考えた後、ユキオは徐に俺へとしな垂れかかる。 まさに開いていたページのグラビアと同じ仕草だ。 「んな……っ!ヤメろ!」 カァっと思わず赤くなるのが自分でも分かった。 「なんだ。結局好きじゃん」 「うるせー!」 クスクスと笑われてついムキになって叫ぶ。 それを見てユキオはニンマリと笑った。 ――あーやっべぇ、変なスイッチ入れちまった。 俺は女性が苦手だ。というか、慣れていない。 ユキオが老若男女問わずモテる為起こるイザコザに巻き込まれ過ぎて自身の恋愛感が少々歪んでいる。 まれに自分が好きだと言ってくれる変わった子もいるのだが、それをイマイチ信用出来ない。 またユキオに近づく口実かなと無意識に思ってしまうのだ。それにより結局疑心暗鬼になって恋愛どころじゃなくなるのが常だった。 そんな俺でもまぁ普通に異性を目で追う事もある。 それがまた大和撫子タイプというか、儚い系美人というか。ようは黙っていればユキオの容姿がばっちりそれに当てはまるのだ。というか、ユキオの顔が純粋に好みなのである。 色白で、滑らかな肌。色白故に少しの感情の変化ですぐに染まる頬。長い睫毛に縁取られた涼しげな目元が緩む所や普段は美人顔なのに笑うと可愛いくなる所などに思わずキュンと胸が締め付けられる。 ――俺にとって黒歴史なのであまり広めたくない事実だが、俺の初恋は当時女の子だと思い込んでいたユキオだった。 それをよく分かっているユキオはすぐ俺をおちょくってくる。 おふざけの為なら割と体を張るのも厭わないヤツだ。現に揶揄う為だけに女装まですることもあった。それがばっちり似合うのだから本当に困る。 俺はすぐ下に見えるユキオの顔を見やった。 目が合うとニンマリとさっきとは違う艶やかな笑みを浮かべる。普段は何とも思わないのに意識したからか、その笑顔がやたら目につく。 ユキオはぴとりと体を寄せたままするりと俺の腿の付け根を撫でた。 「……おい」 制止の声を掛けるが知らん顔でユキオは俺の鎖骨を食む。 ぞわぞわと不快感とは違った刺激を感じる。 「……おい!」 流石に止めようと手を動かし掛けるとユキオは思いついたようにこちらを見た。

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