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第9話

「あぁ、でも違うか。お前が好きなのはこっちだな」 そう言ってスッと表情を一度リセットする。 目を閉じて、次に開けたときには全く違う表情に変わっていた。 少し控えめの儚そうな笑顔が浮かんでいる。目を細めて恥ずかしそうにしながらも服の裾を握った。 そのあとそっと身体は密着させつつ、するりと小指だけを握る。 「……う、ぐ……っ」 自分でも分かるくらい首筋までじわじわと熱くなった。絶対今真っ赤になっているだろうなと頭の片隅で冷静な自分が分析する。 「あたりだな。ホントお前こーいうの好きな」 「うるせー!」 斜めに覗き込んだユキオはニヤリとした笑みを浮かべた。 服越しに腹筋へぴとりと頬を付けると上を見上げているのでしっかりと目が合う。 「マジでやめろって言ってんじゃん……!」 「でも勃ってんじゃん」 は?と思って下を見下ろしてみれば確かに反応してた。それも、言いにくいが割とがっつりである。 マジか……と自分のことながら自分に驚愕する。 確かにユキオの顔は好きだ。 好きだが、幼馴染みだ。 なんで今更こんな反応するんだと自身の愚息に頭を抱えた。それを見てユキオはぶっ、と吹き出すと性格悪く笑う。 「なぁに?俺の顔みておっ立ててんの?」 ニヤリと笑われて頭の片隅でプツンと何かが切れた音がした。 ひょいとユキオの身体を持ち上げベッドへと放り出す。 「いって……!」 さすがに放られるとは思わなかったのか、睨まれるが怖くない。 「お前さぁ……人のことおちょくんのもいい加減にしろよ」 脚を挟み込むようにして跨ぐと顔の横に手をついた。青筋を立てて怒る俺をユキオは小馬鹿にした顔で笑う。 「んなことばっかしてっとそのうち痛い目みるからな」 「へぇ、」 鎖骨あたりから手を滑らせ、筋肉の間を辿るようにして首に腕を回される。 「どんな痛い目みるって?」 言いながら膝をグイッと密着させて俺の股間を刺激する。急なことに思わず息を詰めた。 それに気分を良くしたのか、ユキオはご機嫌な様子でこちらを見ている。完全に遊ぶ気だ。 そっちがその気ならやってやろうじゃないかと俺は口元をヒクつかせた。 片手でユキオの腕をまとめあげると、もう片方の手で腰を引っ掴み腸骨を撫で上げる。 撫でた瞬間ユキオは目を見開いた。 さっきやられたように鎖骨を食はむとビクリと体が跳ねる。ユキオの肌は柔らかくて弾力がある。 「ちょ、」 まさか反撃されるとは思わなかったらしく、戸惑った顔で止めようと手を動かすが既に腕は俺がまとめ上げている。 動けないことに気づいたユキオは悔しそうにこちらを睨みつけた。 それに気分を良くした俺は首筋を食みながら太腿に手を滑らせる。さっきのお返しである。 殴られるだろうなと思いつつ、しかしやってやったという達成感を得ながらどうだとユキオを見れば真っ赤になって固まっていた。 先程までの気の強い様子はそのままだが、目尻には涙を溜めている。 「……離せバカ」 「あー……」 顔が赤くなるのが自分でもわかる。 何だろう。 さっきまでは平気だったのにやたらユキオが可愛く見えて落ち着かない。 悔しげな様子がまたいつもと違って良い。 組み敷くような体勢にドキドキと鼓動が速くなった。 そろそろここら辺で止めて終わりにしよう。暫く不機嫌だろうが、きっと許してくれる。 そうしたら二人でゲームでもすれば良い。 頭ではそう思ったのだが、身体はつい動いてしまった。 そのまま食むのを続行する。 「……おいっ!」 焦ったユキオの声が聞こえるが止まれない。 首筋に鼻を埋めると慣れ親しんだ香りが鼻腔いっぱいに広がった。ユキオの愛用しているシャンプーの香りだ。 嫌がるように顔を逸らされたので目の前に出された耳をそのまま食んだ。 「……っ、ぁ」 自分でもそんな声が出ると思わなかったのか、ユキオはキョトンとした表情の後でぐわっと音がしそうなほど今までで1番真っ赤になる。 悔しいのか恥ずかしいのか、唇を噛む姿がいじらしい。 普段あれだけ我儘なくせに、今は抵抗も出来ず自分の下で真っ赤になっている。 その事実に物凄くクるものがある。そこからは止まろうと思っても止まれなかった。 探る手を口元へ持っていき噛んでいるのをやめさせる。 指を差し出すと案の定思いっきり噛まれたがアドレナリンが出ているからかあまり痛くない。 噛みつかれている手は真っ白になっているので多分普通に痛いはずだ。 しかしそんなのは御構いなしにユキオの唇を奪った。 口に親指を突っ込んだままというか、噛まれたままなのでユキオは口を閉じられない。 「……ァ、」 まさかそう来るとは思わなかったのか、至近距離で驚愕するユキオと目が合った。怯えて縮こまった舌を引っ張り出すと遠慮なしに絡め取る。 ビクリと震えながら目を細めるのが見えた。

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