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第13話

見慣れていない部類の微笑みに俺の心臓がバクバクと脈打つ。 「お前は――俺とどーなりたいの?」 コテンと首を傾げられるが俺は硬い声で返した。 「………………分からん」 「はぁ?」 先程までのとろけた表情が嘘のように一変し、眉間へ眉を寄せて険悪な表情へと変わる。ある意味顔芸とも取れるそれにやや臆しつつ、俺は小さくなって答えた。 「だってよぉー、ずーっと守ってきたのに俺がそれ言ったらダメだろう」 ずっと自分が守って行くのだと、傲慢なほどに俺は思い込んでいたのだ。 それを今更覆すには年月が経ち過ぎていた。 そんな俺の返答にユキオは努めて静かに、しかし強い口調で言い返す。 「ダメかどうかは俺が決める」 「いやそうだけど……っ!俺が!自分を!許せねーの!!」 顔を上げて叫ぶとユキオの怒声が飛んだ。 「こん……っの、ヘタレ!!」 「うるせー!」 自分の気持ちもユキオの気持ちも同じなのはいくら恋愛ごとに鈍い俺にも分かっている。 しかし長く凝り固まった信念が邪魔してそれを素直に認められなかった。 大きな身体を小さく丸め、うじうじとしながら唸る俺を見てユキオは大きく溜息を吐く。一呼吸置いた後、ユキオは静かに俺へと投げかけた。 「…………俺のこと、大事か?」 ポツリ、不安げにも聞こえる声音に顔を上げてはっきりと言い切った。 「大事だ」 それは即答出来る。 何があっても自分が守るんだと決めた大切な人なのだ。そこにどんな情欲が混ざろうと、今更それが揺らぐことはない。 まっすぐに向く俺の真剣な視線にユキオがほんのりと頬を染める。 への字に曲がった口元が可愛らしい。 釣られるようにして俺の顔にも熱が集まる。 認めてしまえば楽になるのに、心とはどうしてこうも上手く扱えないものなのか。 俺は再び視線を下に落とした。 それを見ていたユキオは小さくため息を吐く。気配で肩をすくめるのが何となく分かった。 幻滅されただろうか。自身を押し通しておいて今更そんなことが気になった。 しかしユキオの方は自身の中で一区切りついたらしく、存外明るい声が降ってきた。 「まぁ、今はそれでいいや」 「ユキ……痛て……っ!」 思わず顔を上げると鋭い痛みと生暖かい感触が鼻先を襲う。どうやらユキオが鼻先に噛み付いたらしい。ヒリヒリと主張する鼻先を無意識に抑えた。 「ばぁか」 頬を染めながらも拗ねた様に眉をひそめるその表情にまた胸がキュウっと締め付けられる。 俺はユキオから視線をそらせないまま、バクバクと主張する自身の鼓動に気づかないふりをしたのだった――。

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