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2章 第14話
なかなか寝付けず、俺はベッドの上でゴロリと何度目か分からない寝返りを打った。
最近、まともに眠れない日々が続いている。
原因は明らかだ。つい先日あったユキオとの一件である。
友人同士のおふざけで済ますには行き過ぎてしまった抜き合いの後から寝ても覚めてもユキオのことばかりが頭をチラつくのだ。
学校でも気を抜くとあの時のことが頭をよぎる。夜一人になれば尚更だった。
隙あらばあの時のキスシーンを思い出し、そこからどんどん妄想が広がっていく。
最近はユキオの身体を最後の最後まで暴くことを考えるようになってしまった。
どんな風に喘いで、どんな風に乱れるのか。考えれば考えるほど妄想は酷くなっていく。
勿論そうなれば淡白なんて言っていられない。妄想に合わせて自身はしっかりばっちり反応するのだが、触ってしまったら終わりな気がして筋トレする事で誤魔化している。
だいぶ滑稽な図だが、俺は必死だった。
『お前は――俺とどーなりたいの?』
そんなこと今はとっくに自覚している。
俺はユキオが好きだ。
友愛でも親愛でもなく、ただ一人の人として藤崎雪緒 という人間が好きだ。
しかしそれを口にしてしまえば今まで守ろうとしてきた何かが全て壊れてしまう気がして口に出せないでいる。
幼馴染みで、親友で、ライバルで、そして兄弟のような存在。
今の関係が変わってしまうことが怖かった。
だからといって恋心が無くなるわけでもない。
あの日から、俺の心は確実に侵食されている。
潤んだ瞳に真っ赤に火照る頬、赤い舌とその温度が今も鮮明に思い出せるのだ。
結局俺は殆ど一睡も出来ぬまま朝を迎えてしまった。
朝日がまぶし過ぎて目に痛い。
それでも何とか日課のランニングを済ませていつも通りの時間にユキオを迎えに行く。
少しでも変えてしまえばもう行けないような気がして日課も慎重にこなした。
――いつも通り、だ。
変に意識してしまえばきっと恋心にあっさりと意識を持っていかれてしまう。
なるべくいつも通りを意識してユキオの部屋へと向かう。
そもそもいつも通りを意識してる時点で最早いつも通りとは程遠いのだが。
「はぁ……」
何に対するため息なのか分からないまま、無意識にため息がこぼれ出る。
そうして何度か息を吐き呼吸を整えるとようやくドアノブへと手を掛けた。
いつも通り。
いつも通り。
念仏のようにぶつぶつと心の中で唱えながら扉を開けると、こちらもいつも通りベッドの上でユキオが寝息を立てていた。
今日は起きようともしなかったのか、顔だけ少し横を向いたままだ。
ちょうどそれが扉を開けた先だったので正面からその寝顔を見ることになった。
ついそこから視線を外すことが出来ず引き寄せられるようにベッドへと近づく。
寝ている間も整った顔に変わりはない。
白い肌も相まって、黙っていれば人形のように美しい。
本人はこの顔立ちのせいで苦労しているが、それでも美しいものは美しい。まぁ、羨ましいとは思わないのだが。
見るだけにしようと思ったはずが、ついなめらかな肌に誘われて頬へ手を添える。
――綺麗だな。
吸い付くようなきめ細やかな肌は触るとしっとり手に馴染む。触れるだけで気持ちがいい。
ユキオはというと、寝息を立てていて起きる気配はなかった。
それを見ていたら真っ赤に火照った頬と目尻、快感で潤んだ瞳を思い出してしまった。
――あー、キスしてーなぁ……。
あれだけ散々恋人になることを否定しておいて言うセリフじゃないのは分かっている。
それでも自覚した気持ちは勝手にどんどん加速して行く。
今は桜色のままの薄い唇に指を這わせる。
形を確かめるように撫でると唇がふにふにと形が変わった。
指先に食い込む柔らかな感触につい欲求が高まっていく。
――柔らけぇ……。
なんだかそれだけでドキドキして唇を尖らせてしまう。自身の頬が赤くなったのが分かった。
そのまま何度も唇を押して弾力を確かめているとつい力んでしまい、ほんの少しだけ力加減を間違えてしまう。
すると押し開いた唇から「ん……っ」と吐息のような寝息が漏れた。
――ドクンッ、
心拍に合わせてカッと全身の血が巡り、心臓が早鐘のように鳴り始めた。
この前聞いたばかりの厭らしい喘ぎ声が頭をよぎる。
顔どころか耳も首も熱い。
今きっと自分は真っ赤になっているんだろう。
しかしそんなことよりもユキオの唇から目が離せない。
艶やかな唇から半開きの白い歯と一緒にほんのりと赤い舌が見え隠れする。
キスしたら友人には戻れなくなる。
だから今すべきなのはユキオを起こすことだ。
そう自身に言い聞かせるのに身体は言うことを聞かない。
吸い寄せられるように顔を寄せ――すんでのところで思いとどまる。
それでも諦めきれずにユキオの鼻にちょんと口付けた。
タイガの体温が高いからか、キスした鼻は少しヒヤリとしている。
その直後、むずがったユキオが体勢を横向きに変えた。
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