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第15話

「んー……」 思わず唇を隠すように自身の口元へ手を当てる。 遅れてぶわっと汗が噴き出した。 あぁ、やってしまった。 また、幼馴染みにキスをしてしまった。 しかも寝ている相手に、だ。 それが鼻だろうが関係ない。そもそも唇にしようとしていたのだから。 ――俺は変態かよ……! 思わず途方に暮れて明後日の方向を向く。 そんなことしても意味などないのだが、そわそわして仕方がない。 でももう一度したい。 いや、だけど絶対バレる。 自身の欲望と葛藤しつつ、ふとベッドの方を向くとばっちりユキオと目があった。 「……っな、お前起きて……っ?!」 眠たげな目でタイガを見上げるとユキオはニンマリと笑う。 こう言ってはなんだが、人の悪い笑みとはこういうものを言うのか、と思う。 「寝込みを襲うとかウケるわー」 思った通り、ユキオは起きていたらしい。 一体いつから起きていたのかは分からないが、キスしたのはばっちり気づかれてしまったのだろう。 背中を伝う汗が止まらない。 自分から拒否しておいて寝込みを襲うとかそれはそれはいいネタだろう。 なによりも罪悪感がすごい。 「そ、それは………………す、すまなかった」 思わず言い訳しようと言葉を濁し――結局何も思いつかず素直にこうべを垂れた。 するとユキオはにまにまと笑みを浮かべたまま俺に腕を伸ばす。 何をするのかと固まっているとそのまま全体重を使って腕を勢いよく引かれた。 「うぉ……っ!?」 そのままの勢いでユキオに覆いかぶさるような体勢でベッドへと雪崩れ込む。 すんでのところで手をついたのでなんとか潰さずに済んだ。 ユキオも決して華奢な身体つきというわけではないが、この体格差で潰したら怪我させかねない。 「あ、あぶねーだろ……うが」 怪我させかねない体勢にも至近距離になるシチュエーションにもドキドキしながら、目の前のユキオに訴えかけ――思わず言葉が途切れた。 目をとろりと細め、唇は柔らかく弧を描いている。 心底嬉しそうな様子のユキオの顔が目の前にあって――ただただ、頬が熱くなった。 腹筋を使ってユキオがゆっくりとした動作で顔を近づける。 避けるのはきっと簡単だった。 少し顔をそらせばいい。 だというのにたったそれだけのことが俺にはどうしても出来なかった。 動けない。 動きたく、ない。 唇と唇がくっついてチュッ、と可愛らしいリップ音を立てるとすぐに離れていく。 と思ったらその途中で引き返してきてすぐに2回目のキスをされた。 ――なんて顔してんだ。 タイガとキスをしただけでいつもは真っ白な頬を桜色に染め、艶のある表情でユキオは笑う。 本人は嬉しくてただ笑っているだけなのだろうが、そこには隠し切れないほどの色気が含まれていた。 そのまま何度も何度も、短いキスを繰り返される。 ただ唇同士をくっつけるだけのバードキスがどうしようもないほど気持ちいい。 頭の中ではガンガンと警報が鳴るのにまったくもって体は言うことを聞かない。 柔らかな唇に触れたい。 思いっきり貪るようなキスがしたい。 あの時みたいに舌をねじ込めば心地よい喘ぎ声が聞けるだろうか。 一度考えてしまうともうダメだった。 我慢が効かずユキオの唇にそっと触れる。 やはり柔らかい。ふにふにと形を変えるそれに興奮する。 それどころか欲望に抗えずユキオの顎を捉えると顔を傾けて熱い舌を差し入れてしまった。 ユキオもユキオで腕をタイガの首元に回し、待ってましたとばかりに舌を絡めてくる。 したかったのは自分だけじゃないんだと思うと余計に気持ちが高ぶる。 角度を変えて何度も吸い付いて口内を滅茶苦茶に犯していく。 覆いかぶさるような体勢になるとユキオの口端から飲み込み切れなかった唾液が溢れた。当然それを気にする余裕などなく、無我夢中でユキオの唇に食いつく。 「……っん、……ふぁ……っ」 舌で上顎をなぞると気持ち良さそうな、少し息苦しそうな喘ぎ声が漏れ出る。それに余計興奮する。 もっと聞きたい。 その一心で慣れない愛撫を続ける。 そのうち息苦しくなったのか、ユキオが俺の背中を叩いた。 素直に口を離すと二人の間で銀の糸がつぅっと伝って途切れる。 真っ赤な顔ではぁはぁと荒い息を小さく吐き出す様子が堪らなく色っぽい。とろんとした表情のユキオと目が合うと彼はまた嬉しそうに笑った。 そのまま何か言おうと口を開いてきたので我に返った俺は慌てて顔をそらす。 「……が、学校遅れるぞ」 「…………っち、」 明らかに不満気な様子でユキオは舌打ちをした。 ――こいつこのままオトす気でいたな……! 思わずユキオを見やると、ユキオは見せつけるようにキスし過ぎたせいでぽってりと膨れた自身の唇を舐めた。 それを見てまんまと挑発された俺はぐわっと体温が一気に上がっていくのが自分でも分かる。 してやったりと言いたげに口の端を上げて鼻で笑うとユキオはさっさと部屋を出て行った。 多分、顔を洗いに行ったのだろう。 これからどうなるのか。 バクバクと鳴り響く心臓を持て余し、俺は自身の口を片手で覆った。

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