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出来損ない_4
side α
熱い湯を頭から被る。
“――俺の番になってよ”
苛つく言葉だ。
番だと?あんなものαがΩを縛る首輪と同じだ。
栓を回してシャワーを止め、タオルで乱暴に頭を拭う。
ある程度水滴が落ちなくなってからリビングへと戻ると、青年の姿はまだそこにあって、ソファーへと膝を抱えて腰掛けていた。
「……まだ居たのか。帰れと言っただろ」
「……お腹空いた」
「知らん」
「お腹空いた」
鳴り響いたのは腹の虫。どうやら本当に腹が減っているらしい。
……あり得ねぇ………この状況でよくも……ガキは理解不能だ。
仕方なくキッチンへ向かい、未開封のパンを手にすると青年の方へと放った。
「……なにこれ」
「見りゃ分かるだろ。食パンだ、有り難く食っとけ」
「……焼いたのがいい」
「焼かなくても食えるだろ」
「焼きたい」
「……勝手にしろ」
面倒臭ぇ……まともに相手することもない。
これ以上口を開くのも面倒で、俺は珈琲を淹れるために湯を沸かす。
その隣ではオーブントースターを使って青年がパンを焼き始める。
特に物珍しい訳でもあるまいのに、その視線は熱心にトーストへと注がれていた。
「……俺、七瀬 陽翔 って言うんだ」
「…………………」
「アンタは何ていうの?」
ドリップ式の珈琲に湯を注ぐと香ばしい薫りが鼻を擽る。
「何だよ、そのぐらい教えてくれても良いだろ。じゃあ敬意を込めてα様とでも呼べばいいか?どうなんだよ、α様?」
「チッ……口の減らないガキだな」
「名乗ったんだから名乗れよ」
「お前が勝手に名乗ったんだろ」
「じゃあやっぱりα様って呼んでやるからな。α様、α様、α様!」
「うるさい。……藍澤 だ」
あまりに煩く連呼するものだから、気が済むのならと名字だけを呟いた。
トーストに向けられていた熱心な視線が、俺の方へと移動して、どうしたものか嬉しそうに目を細めた。
「藍澤……藍澤何てーの?」
「言わない、それだけで充分だろ」
「ケチ………あ!あと俺ガキじゃないから。今年26だし、立派な成人」
26って俺と同い年じゃないか。
…………童顔だな、随分と。
そんな最中オーブントースターが焼き上がりを知らせ、七瀬はいそいそと戸棚から皿を取り出し始める。
「おい、勝手に…」
「良いじゃん、部屋汚すよりはマシだろ?」
尤もらしい理由付けをして皿にトーストを乗せると、すり抜けるようにキッチンから立ち去っていく。
何なんだ、アイツは……。
まさか本当に居座るつもりじゃないだろうな。
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