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出来損ない_6

――αとΩの間には、『運命の番』が存在する。 普通の番関係よりも深く、それこそ本能で惹かれ合う番同士の事を指す。 出逢うことは奇跡に等しいとされ、また出会えば必ず番うとされる。 運命は選べない。それは生まれながらに決まってしまっている。 そこには意思など関係ないんだ……。 「………帰れ」 「随分な接客態度。今、俺はお客様だよ?お・きゃ・く・さ・ま!」 「チッ………」 「舌打ち厳禁。……にしても、バーテンダーなんて想像より普通の仕事してんだな。αなんだし芸能人とか社長とかやってんだと思ってた」 手元のグラスを遊ばせながら七瀬はつまらなそうに俺を見上げた。 コイツを拾った日から一週間が経とうとしている。 あの日、無理矢理家から追い出したものの毎日のように家を訪ねてくるようになった。 家だけじゃない。ついにはこうして仕事場にまで押し掛けてくる始末。 「何をしようと俺の勝手だ。それにどんな仕事も簡単に出来る、なんてことはない。お前が思うより、この業界は深い」 「まあ、それは言えるか。悪かったよ。でもさ、その目元の仮面は何?」 「店の方針だ。バーテンダーは皆着ける決まりだ」 「ふーん……」 訊いてきた割には興味のなさそうな返答だ。 「でも勿体ない気がするけどな。アンタ顔だけは良いじゃん」 「……そう言うのはもう面倒なだけだ」 「モテる人は言うことが違うね。…ん、全部呑んじゃった。次、アンタのオススメ出してよ」 上げられた口角は挑発的にも捉えられた。 それならばとコーヒーリキュールへ手を伸ばし、七瀬の挑発に応えるように材料を混ぜ合わせる。 グラスに注ぐ出来上がりのカクテルは琥珀色。 差し出したグラスを受け取った七瀬は躊躇いなく口付ける。 「うん、甘くて旨い。気に入った。なんてカクテル?」 「オーガズム」 「……絶対わざとだろ」 「気に入ったのなら次からは口にして注文するんだな。ああ、注文はハッキリと言えよ」 「変態」 「勘違いするな、立派なカクテル名だ」 出された舌と“ムッツリバーテンダー”という語彙力に欠けた文句。 それでもカクテルは気に入ったようで口にした後は上機嫌に笑った。 「なあ、こんなにアンタの売り上げに貢献してるんだ、そろそろ番にしてくれてもいいだろ?」 「……くどい。番にする気はないと言ってる。それに毎日毎日家にもここにも押し掛けてくるのはお前だろ」 面白くなさそうに口を尖らせた七瀬は時計を確認すると、グラスの中を一気に空にした。 「今日そろそろ上がりだろ?外で待ってるな」 カウンターへ代金を置いて七瀬は店から出ていく。 その背中を見て、思わず溜め息を吐いた。 曜日固定のシフトをしっかり把握されてしまったようだ。 ……店長に言って変えてもらうか。 グラスを拭き終えて今日の分の仕事は終わりだ。 交代のバーテンダーに声を掛け、更衣室で着替えを済ませてから裏口に向かう。 外では待ってましたと言わんばかりに、七瀬が待ち構えていた。

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