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出来損ない_7
「お疲れ様ー」
「………そろそろストーカーで通報するぞ?」
「失礼だな、純粋な求愛行動なんだけど?」
「言ってろ、馬鹿が」
歩き出した俺の隣を当然のように並んで歩き始める七瀬は、思いの外背は低くない。
目線は下だが旋毛までは見えないので、そこそこ身長はあるらしい。
しかし身体の線は男だと言うのに細い。
Ωは体質的に筋肉が付きにくいと聞くが、その影響なのかもしれない。
「――何、ジロジロ見て?」
「いや…」
「もしかして厭らしい目で見てた?」
「……そんな色気何処にもないだろ」
「マジで失礼な奴」
目を細めて睨まれたが生憎相手にする気はないと前を見て歩みを進める。
隣では口煩く七瀬が喋り続けていたが、その端々で欠伸をする様子が窺えた。
「……お前、いつ寝てるんだ?」
俺がコイツについて知ったことと言えば、昼間の仕事であること。
俺の仕事が終わるのは今日のように早い日でも、平気で日付は変わる。遅い日はもっとだ。
非番の日でもリズムを崩さないように昼夜逆転の生活を送る。
この七瀬はそんな俺の生活スタイルに合わせて毎日毎日会いに来ている訳だ。
「何、心配してくれんの?」
「倒れても次は拾わないぞと言う警告だ」
「とか何とか言って、いざって時は助けてくれるんだろ?この一週間、アンタのこと見てて、悪い奴じゃないんだなってことは分かった」
「何だ、剥き出しだった警戒心は何処にやった?」
野良猫並の警戒心を揶揄ってやれば、気恥ずかしそうに煩いと言葉が返ってくる。
「仕方ないだろ……初めての発情期で気が立ってたし、あのタイミングでαが現れたら警戒もするって」
尤もらしい言い分だ。
「……初めて……26年も生きてきてか?」
「そ。26年も生きてきてだよ。このまま一生来ることないと思ってたぐらい」
「安易な考えだな」
「そのぐらい何もなかったんだって」
何度目かの欠伸を横目に道中のコンビニへと立ち寄る。
毎日変わらない決まったコース。
「またコンビニ弁当?栄養偏らね?」
「俺の勝手だろ」
「何だよ、心配してやってるのに。あ、俺これが良い」
と手に押し付けてくるのはツナマヨのおにぎりだ。
「……おにぎりは梅だろう」
「え、ツナマヨ美味しいじゃん」
「……大体お前の分まで買うなんて言ってな――」
「――あ、ジュースも買いたい!」
どうやらコイツの耳は都合の悪い言葉をすり抜ける技術を持っているらしい。
結局買わされたおにぎりと炭酸のジュース。
「疫病神か、お前は…」
「失礼だな。良いじゃん、そのぐらい。ケチだな」
コンビニを後にして、不毛ながらも並んで歩く。
「なあ、今度料理してやろっか?少ーしぐらいなら出来るんだぜ。簡単なものだけだけど」
「別にいい」
「遠慮すんなって」
「作らないだけで出来ないとは言ってない」
言った直後に失敗したなと心中で舌を打つ。
「え!?料理出来んの!?すげー!」
ああ、ほらやっぱりな。
「そんな顔も良くて料理も出来んなんて、絶対モテそー!やっぱαってスペック高いよなぁ…」
「最初から出来た訳じゃない。それなりに練習した。αだからとか、そんな事は関係ない」
「……じゃあ俺も練習すれば、それなりの物作れるかな?」
「自由に動く目と手足、感じれる味覚を持っているんだから出来るに決まってる。どんな性を持っていようが同じ人間だろう?」
「……そっか。やっぱさ!」
急に速度を上げた隣の奴は俺の前に回り込むと、子供のように無邪気に笑った。
「アンタって悪い奴じゃないと思うよ」
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