10 / 152
出来損ない_10
自分の第二の性を知ったのは第二次性徴期に入る中学生の時。入学直後に全員が受ける性診断での事だった。
白い紙に書かれた無機質な文字の羅列によって、俺の将来は真っ黒に塗り潰された。
母は泣き崩れ、父は何も言わなかった。
唯一救いだったのは親友、永岡 郁弥 が同じΩ性だったこと。
「僕達劣等種なんだね」と寂しそうに笑った顔を今でも覚えている。そんな郁弥に「気にすることなんてない」と笑い掛けたことも。
あの頃の俺は何も分かってなかった。
Ωだから何なのだと周りの哀れむ視線に腹を立てていた。
「………郁弥」
Ωの悲しき本質を垣間見たのは、郁弥に訪れた発情期。
怖かった。
誘発されるαも、まるで別人のように泣きじゃくりながら喘ぐ郁弥も、それから何も出来なかった自分自身も……全てが怖かった。
楽しかった思い出もあるはずなのに、脳裏に浮かぶのはあの時のことばかりで……
ずっと、ずっと発情期なんて来なければ良いと、そう思っていたのに…。
「……所詮、Ωか」
俺もあの時の郁弥と同じ顔をして、αに抱かれることを悦ぶのか?喘ぎ泣きじゃくるんだろうか?
嫌だ。
「そんなのは、嫌だ………。αの慰めものになんてなって堪るか……」
だから絶対、アイツの番になってやるんだ。
不能アルファ、俺が唯一手に入れられる自由はアイツしかいない。
自然と手を握り締めていたことに、スマホのアラームで気が付く。掌には爪痕がくっきりと浮かんでいた。
仕事の時間だ。
着替えを済ませて、部屋を出る。
また一つ、欠伸を溢した。
ともだちにシェアしよう!