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出来損ない_11

朝刊配達に、宅配便の仕事を選んだのは長時間同じ空間に人と居ることを避けるため。 もちろん世の中には表舞台に立つ仕事をするΩもいる。数は多くないだろうが、決して無理なことでない。 ただ、俺には勇気がなかっただけ。それだけのこと。 16時、1日の仕事を終えて藍澤のマンションへと足を向ける。 そう言えば料理出来るって言ってたっけ。 そんなことを思い出して、途中の小さなスーパーへ寄る。買い込んだのはカレーの材料。 何となく、食べたくなったから。これなら俺も手伝えるしな。 袋を手提げて歩く道は、何だか楽しかった。 マンションに着いてすっかりと慣れた階段を上がると、藍澤の部屋の前に男が一人佇んでいた。 あれ………あの人、昨日の……。 記憶に新しい顔は間違いなく昨晩もここに来ていた男だ。 ドアを見つめる表情は険しい。 俺が近付いていっても男は気付く様子がない。 「…………おーい、何か用なの?」 「え………うわっ!?」 馬鹿みたいに後退り驚く様には呆気に取られた。 「そ、そんなに驚かなくてもいいだろ?」 「あ、すみません……全然気付かなくて…」 ペコペコと頭を下げながら、男は気恥ずかしそうに頬を掻いた。 「まあ、いいけど。ここに何か用なの?」 「はい、まあ………って君は確か昨晩、(つかさ)が連れてた……」 「司?」 聞き慣れない名前に首を傾げたけど、すぐに繋がる。 「もしかして藍澤 司?」 「え、うん。君だよね、一緒に居たのは?」 へえ、アイツ司って名前なのか……。 「そうだよ。そっちはお友達?顔見知りみたいだったけど?」 「………うん、まあ……そんなところかな」 随分煮え切らない言い方だな。変な間あるし。 「インターフォン、俺が押してあげようか?」 「え?」 「なんか勇気なかったっぽいし?」 「いや、いいんだ。また出直すよ」 困ったように眉尻を下げて、男は立ち去っていく。 昨晩の藍澤の態度も然り、普通のお友達って訳じゃなさそうだな。

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