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出来損ない_19
意識のない身体を抱えて浴室を出る。
身体を拭くのに幾分か苦労したが、自分よりは華奢な体格で助かった。
幸いに新しい下着があったことを思い出して、七瀬へと着せた。
目に見えて大きいが、汚れているものを着せるよりはいいだろう。
ベッドへと運び込んだが、起きる気配はない。
呼吸は落ち着きを取り戻し、気の抜けきったアホ面で気持ち良さそうに寝ている。
試しに額を弾いてやったが、一瞬顔をしかめただけですぐにアホ面に戻った。
寝てりゃまだ可愛いげがあるのにな。
「……本能に飲み込まれたのは、俺も同じだ」
怒りに任せてΩの発情を誘発させた。
それがΩにとってどれだけの負担になるのかを知っていながら………。
久しく聞いた自分の名前。
Ωが呼ぶ、俺の名前。
甘く誘うΩの声が……ずっと、こびりついて離れない。
寝室を出て、キッチンに散乱した食品を片す。
カレー………子供かアイツは。
「……しかも甘口かよ」
拾い上げたカレールーの箱には甘口の文字。
材料を拾い上げて、ある事に気付いた。
「人参買い忘れか?……いや、わざとだな」
キッチンを後にして上着を羽織る。
一度寝室を確認してから玄関へと向かった。
目的はもちろん人参を買うため。
嫌がる顔が容易に想像出来て、思わず笑った。
それからひどく驚いた。
人の事を思って笑うなんて何年振りだろうか。
どこか気まずさも覚えて、振り払うようにドアノブに手を掛けた。
勢いよく開けたドアがゴンッと音を立てて何かにぶつかる。
「いっ…たぁ〜〜〜!」
足元を見れば額を押さえて踞る男の姿。
詰まる所、俺の開けたドアがクリーンヒットしたらしい。
「お前…………また来たのか」
踞る男――末松 奏輔 はビクッと肩を振るわせながら、涙目で俺を見上げた。
「うっ……まずは大丈夫?とか優しい言葉は……」
「ない。帰れ」
「酷い!俺達、親友じゃないか!」
詰め寄ってくる顔面を押し退けて、外へ出ながら後ろ手でドアを閉めた。
「俺は忙しい。用件なら手短に言え」
「えっと、元気だったかなって思ってさ」
「見ての通りだ。そんな事を言うために来たのなら、さっさと帰るんだな」
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