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出来損ない_20
冷たくあしらい、横切ろうとしたところで奏輔が俺の腕を取る。
「司が一緒に居た男の子、Ωだよね?」
「そんなんでも一応αか、鼻が利く」
「誤魔化さないでよ」
「……そうだ」
「そっか」
良かった、と何処か安堵した様に奏輔は笑う。
「なあ、もうすぐ紗奈 の命日だ。覚えてるだろ?」
「………………忘れた」
「嘘つき。今年は一緒に墓参り行こう?」
一瞬、腕を掴む力が強まった。
「墓参り?俺が?一体どの面下げて行けってんだ?」
あまりにふざけた提案に嘲笑った。
冗談も大概にしとけと手を振り払う。
「……司、あれは司だけのせいじゃない。俺にだって責任があった」
「はっ、よく言う……お前が一番、俺のこと憎いくせにな。」
「俺はそんな事思ってな――」
「――誰が何と言おうと、あれは……紗奈が死んだのは俺のせいだ」
はっきりと釘を刺すように言葉を突き付けると、奏輔の瞳は目に見えて揺らいだ。
「俺にはアイツを愛せなかった。それが真実、それが全て。お前が一番知ってるはずだ」
「……知ってるよ、でもそれは俺のためでもあったじゃないか!」
「違うな……そんな綺麗なものじゃない」
脳裏に浮かぶ昔の記憶。
掠めたのは三人で笑いあった幸せと呼べる時間だ。
あのまま、あのままで良かったんだ。
それ以上を望んだわけじゃなかった。
「……もう俺に構わないでくれ」
「そんなの無理だよ…心配なんだ。だってあの後の司を見てたら…」
「ああ、心配しなくてもあんな無茶なこともうしない。いや、出来ないが正確か」
「え………?」
「今じゃすっかり性交不能だ」
「え、それって………」
「勃起不全。分かるだろ、勃たないんだ。だからお前のそれは余計な心配だ」
言葉に詰まる奏輔を置き去りにして、俺は外に続く階段へ足を向ける。
「あ、待って、話はまだ――」
「もう十分だ。これ以上話すことはないだろ」
「…諦めないから。また来るよ」
奏輔は無理に追いかけて来ることはせず、俺の背中にそう呟いた。
俺は聞こえない振りをして、階段を下る。
紗奈………。
彼女を想う時、俺はただ謝ることしか出来ない。
紗奈はΩだった。
Ωであり、俺の運命だった。
――俺は運命を、愛せなかった。
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