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出来損ない_22

怯えた目で俺を見るか、或いはふざけるなと怒鳴り散らされた方が良かったのかもしれない。 コイツは質が悪い。絶対悪い。 だってそうだ。 こんな風に言われたら、俺は何を言えばいい? 「……あと、俺もごめん」 「?」 「名前、そんなに呼ばれたくないなんて知らなかった」 「……いや俺も過剰に反応しすぎた」 逸らしていた目を戻して、七瀬は窺うように俺を見た。 「そんなに名前嫌いなのか?でもあの男はアンタのこと名前で呼んでた……」 「……別に好きでも嫌いでもない。ただ……」 「ただ?」 「……お前の声が別の奴と重なった」 俺は目を逸らさなかった。 「嫌な思い出?」 「良いとは言えないな」 「そっか。俺もあるよ、嫌な思い出。一緒じゃん」 気を取り直したように再び動き始めたスプーンには、大きな一口分のカレーライスが乗る。 「もう呼ばない、ごめん。だからこれでおあいこ」 頬張りながら何でもないことのように言う様子には思わず笑った。 「ふっ、変な奴だな」 「え、どこが?どの辺が?」 心外だとでも言いたげに身を乗り出す額を弾いた。 「痛っ!」 「さっさと食え。冷めるぞ」 「コブ出来たら恨んでやる」 「出来るまでやってやろうか?」 「断る!」 額を押さえて恨めしげに向けてくる目に、俺はまた一笑を溢した。 鍋いっぱいに作ったカレーは、その日半分ほどに減った。

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