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出来損ない_23
side Ω
朝が来れば仕事をして、夜になれば藍澤の勤務先へ赴いて上がりを待つ。
時間がある時は藍澤の家に寄って、他愛ない会話をする。
迷惑そうにしながらも何だかんだと俺をはね除けない藍澤は甘い人間なのだと思う。
最近ではちょっとした料理ぐらいなら教えてくれる。
もちろん番にしてもらうと言う目的を厳かにしている訳じゃない。
ただこの前の一件以来少し気まずいのが現状。
一つは藍澤の態度が少し和らいだ為。
解け始めた警戒心を心地よく思ってる自分がいて、どう身動きを取れば良いのか分からない。
それからもう一つ………。
「……おい、焦げるぞ」
「え、あ!やば!」
隣からの声に慌ててフライパンで焼いていたホットケーキを裏返す。
少し焦げたけど、まあ大丈夫……だろ、うん。
「火使ってる時に考え事するなよ」
「はぁーい」
「ほら、皿」
「ありがと」
渡された皿を受け取りながら、視線は藍澤の指先を追う。
大きいけどスラッとした綺麗な手だよな……。
顔の良い奴って指先まで綺麗なのか……世の中理不尽……。
でもあの手で……あの手が俺のに触れて、俺は……。
「――おい、だから焦げるぞ」
「あ、わ!そうだった!」
叱咤の声に現実へ引き戻されて、さっきよりも焦げ付いたホットケーキを皿へと乗せる。
「せ、セーフ!」
「………アウトだろ、それ」
「こ、これは俺が食べるからいいんだよ。アンタのは次のやつな」
「お前と違って仕事終わりなんだ。腹減った、待てない。これでいい」
溜め息混じりの言葉と共に俺の手から皿を奪って、藍澤はキッチンを出ていく。
「……んだよ、じゃあ文句言うなっての」
「人の手元見てボーッとしてるからだ。何考えてた?」
「別に、何も。あ、メイプルシロップかける?」
「甘いものを更に甘くしてどうする……バター寄越せ」
ダイニングからの偉そうな声に渋々従ってしまうのは、焦げたホットケーキの罪悪感から。
「どーぞ」
「ん」
渡したバターを熱いホットケーキの上に乗せ、絡ませると大きく一口大に切って咀嚼を始める。
その手の動作をまた目で追った。
思い出すのは熱。
強烈な快楽に思考が溺れた。
飲まれるように意識が途絶えて、気付けばベッドの上だったけれど、身体は覚えてる。
あの、熱を………。
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