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出来損ない_24

顔の火照りを感じて、頭を振りかぶりキッチンに戻る。 これが身動きの取れないもう一つの理由。 あの日からずっと、ずっと熱が渦巻いている。 「次は焦がすなよ?」 ダイニングから飛んできた馬鹿にするような言葉に「分かってるよ」とぶっきらぼうに返した。 熱したフライパンに生地を流し込むと甘い香りが鼻を擽った。 そう言えばΩのフェロモンは甘い香りだと聞くけど、実際はどうなんだろう………。Ω同士じゃ分からないんだよなぁ……。 「なあ、Ωのフェロモンってどんな匂いなんだ?」 「何だ、急に?」 「いやどんななのかなって。よく甘いって言うじゃん?このホットケーキみたいな感じ?」 藍澤は少し思案するように俺を見て、本日何度目かの溜め息をついた。 「…人それぞれ違う」 「そういうもんなんだ。フェロモンにも個性ってあるんだな」 「まあ……」 「じゃあ俺ってどんなだった?」 今度の問いに藍澤は視線を逸らした。 「そんな事知ってどうする」 「え、いや純粋な興味。だってさ普段の自分の匂いとかも分かんないじゃん?そういうのって気になる」 「……………」 そう言うものかと言いたげに藍澤は荒々しくホットケーキを口にする。 「なあ、どんななの?」 「…しつこいな」 「良いじゃん、別に。俺のこと訊いてるんだからさ。勿体振るなよ」 それでも藍澤は言いたくないらしい。 「もしかして……俺って不快な匂いだったりする……?」 一抹の不安を覚えて口にする。 藍澤の反応は歯切れが悪い。 さっきとは打って変わって焼き色が全然ついていないうちにフライパンから皿へホットケーキを移して、慌ててダイニングへと腰掛けた。 「それ焼けてんのか?」 「んなことはどーでもいいって!なあ、俺って不快な匂いなのか?どうなんだ?」 詰め寄る俺に呆れ眼の藍澤は空になった皿にフォークを投げ出した。 「……そんなんじゃない」 「じゃあどうなんだよ?」 「…………ふ」 「ふ?」 「…フローラル」 「……へ?」 今、この男にとても似つかわしくない言葉が聞こえた気がしたんだけど。 「フローラル……?え、俺ってフローラルの香りなの?そんな風に感じて見てたの?嘘ーぉ?」

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