29 / 152
出来損ない_29
俺の心中を察してか、ゆったりとした動きでブレンドティーを口へ流し込んでいく。
「嬉しかったんだ。司の近くにΩである君が居てくれて」
波打つブレンドティーを見つめながら、末松さんは慈しむように笑った。
頭では“彼女”を思い浮かべているんだろうな、きっと。
「……何で?」
「え?」
「アンタと藍澤の口振りからして会うのは久し振りだったんだろ?何で今更一緒に墓参りなんて言い出したの?」
「ああ、うん……。俺達はずっと同じところで立ち止まってたと思うんだ。でも俺はそろそろ前に進もうと思ってる。だから、司も………」
「ふーん……末松さんってさ、よくお節介って言われるでしょ?」
目を丸くした末松さんは、どうして分かったんだい?と首を傾げた。
「いやいや、分かるって」
「そんなに?はは、何か恥ずかしいな」
「まあ、でも俺は嫌いじゃないよ」
すっかり冷めたミルクコーヒーを飲み干して、ジーンズのポケットからスマホを取り出す。
「ね、連絡先交換しない?」
「え?うん、別に構わないけど……」
「アンタのこと気に入ったからさ、俺も協力してやるよ。って言っても出来ることなんて限られてるけどね」
「ううん、気持ちだけでも嬉しいよ!ありがとう。これ、俺の番号」
差し出されたスマホを受け取って番号交換を済ませた後、会計は任せてくれと言う末松さんに甘えて俺は先に店を出た。
外はすっかり日が落ちていて、思ったよりも時間が経っていたのだと知る。
今から帰ってシャワー浴びてってなると、藍澤のとこ行くの遅くなりそー……まあ、上がりまでに行ければいっか。
歩を進めながら昔の藍澤を想像してみた。
俺の前では仏頂面だけど、昔は笑ってたりしたのかな。
授業とかサボりそうだけど、案外真面目に受けてたりして。
末松さんとはどんな話をして、幼馴染みの“彼女”にはどんな気持ちを持っていたんだろうか。
どんな想像をしても、結局は想像で、本当のところは訊いてみないと分からない。
「分かんないと知りたくなるもんだよな、人間って」
ともだちにシェアしよう!