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出来損ない_31

着替えを済ませて裏口から外へ出ると、見慣れた顔が俺を迎えた。 「お疲れ様ー」 「………………………」 残念ながら長谷の予想は外れのようだ。 息を一つ溢して俺は歩き出す。 「おーい、無視すんなよ。あ!もしかして俺が店行かなかったから拗ねてる?」 「………んなわけあるか。随分目出度い思考回路だな」 「前向きなんですーぅ」 店に来なかった理由には触れない。 コイツが言わないのなら、特別問う必要もない。 七瀬が誰と何処で何をしていようと、俺には関係ない。 少しして並んで歩く七瀬の視線を感じ、横目を流した。 「――何だ?」 「いや、アンタの笑顔を想像中」 「……は?やめろ、気持ち悪い」 「えー、だって見たこと無いから想像するしかないじゃん?」 しかめっ面が真っ直ぐに視線を向けてくる居心地の悪さに、思わず七瀬の顔を押し退けた。 「やめろって」 「別にいいじゃん。てか痛い」 押し退けた俺の手を掴んだ七瀬は、そのまま俺の掌を見つめる。 「……今度は何だ?」 「うん……俺さ、ずっとαが怖くて……特に手が苦手なんだ」 「……………………」 「でもアンタの手は平気。何でか分かんないけど。」 「……俺がお前に欲情しないからだろ」 「そうなのかな?」 「それ以外何があるって言うんだ?」 確かに、と納得した七瀬から手を振り払い、止まっていた足を動かす。 「なあなあ、アンタって人を好きになったことある?」 「何なんだ……そんな事お前に関係ないだろ」 「いや、ある!だって、だってさ!俺はアンタを落とさなきゃなんないじゃん?だからアンタが人を好きになったことあるなら、ちょっとは希望が見えて俄然やる気になる」 グッと両手を握りしめた七瀬を見てると、自然と溜め息が溢れてくる。 「藍澤って溜め息多いよな。幸せ逃げるぜ?」 「お前のせいだ、お前の」 「で、どうなんだ?」

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