期待を寄せる眼差しが食い気味に近付く。 こうなったらもうダメだ。 コイツは絶対引き下がらない。 「………一人だけ、いた」 「へぇ………過去形ってことは今は好きじゃないの？」 「ああ……」 「何で？振られた？」 「いいや、俺には振られる資格さえない」 好きだった。 俺は確かに好きだったんだ。 誰よりも幸せになって欲しかったのに…… 俺はその幸せになるはずだった未来を奪った。 「何それ……。そう本人に言われたわけ？」 「…いや……そう言う訳じゃ……」 「ふーん、じゃあアンタの自惚れってこともあるわけだ？」 「何……？」 「相手は案外全然気にしてないかもよ？アンタって思い込み激しそうだし」 そう笑った顔に瞬間怒りがこみ上げた。 何が分かるんだと。 だが同時に冷静な自分が、何も分かりやしないと囁く。 そうだ。 コイツには何も分からない。何も知りやしない。 「ふっ、はは……」 「何だよ、その馬鹿にしたような笑い」 「お前はどうして俺が不能なんだと思う？」 「？」 「言っておくが俺は生まれながらに性交不能な訳じゃない」 淡々と告げる言葉に七瀬は目を丸くしていく。 「――Ωを抱いたことがある。誰でも良かったんだ。本能に飲み込まれて、何もかも忘れてしまえるならと手当たり次第に抱いた」 「……………………」 αであることを悔やみながら、αの本能に救いを求めた。なんて滑稽だっただろうか。 なあ、紗奈……お前は呆れて怒っていただろう？ 「でもある日を境に何も感じなくなった。すぐに思ったさ。これは運命に逆らった、運命を愛せなかった罰なんだってな」 人気の無い真夜中の道に俺の声だけが響いた。 「ちょっと待って、話が全然読め――」 「恨まれて当然なんだよ、俺は」