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出来損ない_34
すっぽりと胸に顔を埋められ、表情は窺えない。
「……チッ………はぁ………分かった、とりあえず離れろ」
「………む、無理」
「………?」
「ちょっと俺、めちゃくちゃ恥ずかしいこと言った気がする。無理、今無理」
コイツは……絶対に馬鹿だ…………。
「どう考えても男同士、こんな道の往来で抱き合ってる方が恥ずかしいだろ……」
「俺は顔見えないから、恥ずかしいのは藍澤だけだもん」
「お前………」
脇腹でも擽ってやろうかと落とした視線の先に、白い首筋が見えた。
無防備に晒された柔らかそうな肌。
滑らかな舌触りを想像した。堪らず唾を飲んだ。
何だ……これ…………。
今俺は、何を思った……?
――噛みつきたい、と頭を掠めた欲求。
「………七瀬、お前…発情期か?」
「え?いや違うし、まだじゃね?」
確かにこの前の発情期からまだ日は浅い。
「何で?なんか匂う?」
不信に思ったのか七瀬は身体を離して自身の匂いを嗅ぐ仕草をする。
「いや……何でもない」
身体を離しても尚抑えられない欲求に、手で口元を覆った。
「藍澤?気分でも悪いのか?」
「何でもないって言ってる。頼むから近付くな」
やけに煩い心音は、一体何なんだろうか。
「何だよ、その言い方。酷くね?」
「……うるさい」
煮え切らない気持ちを振り払うように足を動かした。
「あ、待てよ。置いてくなって」
αがΩの項 を噛むことで番関係を結ぶことが出来る。
それは所謂首輪の代わりだ。
俺が七瀬との番関係を望んでる………いや、そんなわけない。
これはαの本能だ。
俺の意思なんかじゃない。
……もう二度と、本能になんか飲み込まれたりしない。
「……藍澤?アンタ本当に顔色悪いぜ?」
「………………」
「なあ、熱でもあるんじゃ――」
と伸ばされた手を反射的に振り払った。
「――触るな!」
自分が思っていたよりも声が張り上がった。
七瀬は俺以上に驚いて、払われた手を押さえる。
「な、何だよ……俺はただ心配して……」
「余計なお世話だ」
消え入りそうな声音を置き去りに、俺は一人、自宅マンションへと帰り着いた。
ドアを閉めたとき、七瀬の表情 が脳裏を掠め少しだけ心臓が痛かった。
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