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出来損ない_36

次に目を覚ましたのは額に冷たい感触がしたからだ。 うっすらとボヤける視界に七瀬の覗き込む顔が見えた。 「あ、良かった……アンタ凄い熱だぞ。ずっと魘されてた」 ほっと胸を撫で下ろした七瀬がベッドの端に腰掛けるのを眺めながら、手を額へ持っていくとそこには濡れタオルが置かれていた。 「……お前がやったのか?」 「他に誰がいるんだよ?」 「……濡れすぎ」 「文句言うな」 膨れっ面を見せたかと思えば、次の瞬間には神妙な面持ちで俺を見下げた。 「具合は?」 「良いように見えたんなら眼科行け」 「もうどうしてアンタは一言余計なんだよ。素直じゃないよな、全く」 ぶつぶつと小言を言いながらサイドボードに置かれた袋を漁り始め、何かを手に取ると意気揚々とそれを差し出してくる。 「じゃーん!桃ゼリー!」 「………………………」 「風邪と言えば桃ゼリー!」 「………いや桃缶だろ」 「いやいやゼリーの方が喉ごし良いから!」 おにぎりの件と言い、コイツとはとことん合わないな……。 まあいいかと身体を起こして、受け取るために手を伸ばした。 「何?」 「……何って、それ寄越せ」 きょとんとした顔をした七瀬は首を傾げた。 「え?」 「は?」 まさかコイツ自分が食うために買ってきたのか…? 「アンタは病人なんだから大人しくしてろって」 そう言った七瀬はゼリーの封を切ると、プラスチック製のスプーンに一口分を掬って俺の口元へと運んだ。 「はい、あーん」 それは怪我人にやることだろう……。 「…………やめろ、一人で食える」 「もしかして照れてる?」 「お前はどこまで馬鹿なんだ……?」 ほとほと呆れ返れば、冗談だと口を尖らせた七瀬はスプーンとゼリーを俺に手渡した。 既に盛られたゼリーを口に含む。 喉を流れる感触が心地いい。 「美味い?」 「……まあ」 「おお……なんか素直だ」 ご満悦に笑う顔が何だか憎らしく、それなのに悪くないと思えてしまうのはきっとこの熱のせいだろう。

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