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出来損ない_44
呼吸を整えた藍澤は立ち上がり、俺を振り返る。
「いつまで笑ってんだ。ほら、さっさと行くぞ」
促されて隣に並んだけど、なかなか笑いは抑えられない。
「そんな走んなくても連絡くれれば良かったじゃん」
「………うるさい」
「あ、今気付いたって顔してる。そんなに慌ててたんだ?アンタ結構人間らしいとこあるってか、案外可愛いんだな」
「…………それ以上言うなら俺は帰るぞ」
おっと危ない。ここで機嫌を損ねる訳にはいかないな。
「ごめんって。さ、行こ!」
「どこに行くんだ?」
「まずは買い物!俺、服見たくてさ。アンタがよく行く店連れてってよ」
「俺?お前の服見るんじゃないのか?」
「そーだよ。だからアンタがよく行く店に行って、俺の服買うの」
それでも尚、どうしてだ?と首を傾げる藍澤を尻目に俺は笑う。
「言ったじゃん。アンタのこと知りたいって。今日のデートは藍澤のことを知るってのが目的だから」
「お前って物好きだよな…」
「え?そう?そんな事ないと思うけどな…。それより早く行こう!」
と足を踏み出した俺に対して、藍澤はその場から動こうとしない。
「どうした?」
「………服なんて適当に買ってるから、よく行く店なんてない」
「………あ、そういう感じ?じゃあ適当に回ってアンタが気になる店入ろう」
ファッションには興味ないのかと改めて今日の服装を盗み見る。
バンドカラーシャツは無地の紺、下はグレーを合わせたシンプルな服装だ。
特別洒落てる訳じゃないけど似合ってる。
雰囲気的にシンプルな感じが良いんだな……よし!
「な、あの店どう?」
「良いんじゃないか、別に」
「ほんと?あそこの服着ろって言われたら着れる?」
「まあ……」
それなら大丈夫だと、藍澤の手を引いた。
「じゃあ見てこう!」
「そんな引っ張らなくてもいいだろ。服は逃げない」
「服は逃げないけど時間は限りがあるもんだぜ。ほら、早く早く!」
歩みを促す手が振り払われないことを、密かに嬉しく思った。
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